~ルール~
・フィールドはブイで囲まれた250m四方の円周内(※FCのフィールドは300m四方、つまりフィールド自体はFCより少し小さい)
・3対3のチーム戦
・スタートは各チームが対角線上に配置される位置から始める
・チームはフラッグプレイヤーと呼ばれる得点源となる選手1名と、ノーマルプレイヤー2人によって構成される。
・得点はフラッグプレイヤーの背中をタッチすることのみ
・各選手は相手チームのフラッグプレイヤーか誰か分からない状態でゲームを開始する。
FC同様時間制限を設ける。
フラッグプレイヤーの特性
・フラッグプレイヤーがノーマルプレイヤーの背中をタッチした場合、タッチされた選手は一定時間行動不能となる。但し行動不能中の追撃で背中タッチをしても行動不能時間は伸びない。
・ポイントフィールドが浮かび上がるのは、フラッグプレイヤーが背中をタッチされた時とフラッグプレイヤーが相手選手の背中にタッチしたときの2つ。ノーマルプレイヤー同士の干渉ではポイントフィールドは出ない。
・ポイントフィールドは行動不能時間が過ぎるまで浮かび続ける。
準備体操の裏、私の隣に日向さんの彼女さんが座った時のこと。
「あの市ノ瀬さん。この前はありがとうございました」
「はい? 前……あっ、あの時」
先日、日向さんが彼女さんに飛び方を手取り足取り教えていたとき、偶然会ったのを思い出しました。
「あの時、凄く慌てちゃって、ホントどうなっちゃうのかなって」
「いえいえ、初めての時は仕方ないですよ。私も最初はあんな感じでしたし」
「そうなんですか?」
きょとんとする彼女さん。そういえば、グラシュを使ったのはほんの少し前って言ってたっけ。
「はい。最初は姿勢を真っ直ぐにすることから始めるんです。安定しようとすることばかり意識しちゃうと変な姿勢になっちゃいますので」
「ほえー、そういえばコーチが市ノ瀬さんは空を飛ぶときの姿勢が綺麗だって言ってました」
「日向さんが?」
「はいっ」
さっきも真藤部長が日向さんは凄腕の選手だったって言っていた事を思い出す。当代最強と謡われる部長が尊敬する日向さんとはどういう人なんだろう。
引っ越してからただのお隣さんだと思っていた。でも私の知らない日向さんは一体どういう人なんだろう。
この時から私は日向さんへ微かな思いを寄せていることに気が付いていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フラッグコントレイルの説明をするため、俺はみんなを一旦集めていた。
「フラッグコントレイルは3on3で行われるゲームだ。さっき真藤さんが言ったようにFCみたいに円周をぐるぐる回るものじゃなくて、内周を自由に飛ぶ。得点方法はフラッグプレイヤーという決められた選手への背中タッチのみ」
昔は葵さんの知り合いと行っていた競技だ。個人の力量だけでなく、チームワークも必要なため俺にはあまり縁のない競技だったが。
「はいっ、日向先輩質問です」
「何だ有坂?」
「ドックファイトでしか得点を取れないってスピーダーはかなり不利じゃないですか?」
「ああそれは……」
俺が説明しようとしたところで横から部長の大きな体が割ってきた。
「よく言った有坂! ここは俺が説明しよう! フラッグコントレイルはフラッグプレイヤーを捉えなければ得点できない。縦横無尽、電光石火のごとくフィールドを駆け抜けるスピーダーはフラッグプレイヤーにうってつけだ! FCみたいに先回りして確実に待ち伏せるということができないからな。そしてその最速を極めるために鍛え上げられた俺の筋に――――」
「つまり、ショートカットによる待ち伏せができない分ファイターやオールラウンダーは他の選手と協力しないとスピーダーを捉えられないんだ。それにスピーダーもドックファイト能力が必要ないって訳じゃない。必要なときはドックファイトをしなくちゃいけないからだ。このゲームだと相手の動きを読んで進路を塞いで味方のサポートをしたり、いかに速く加速して相手を振りきるか」
そういう点を踏まえると、やはり真白はファイターよりスピーダーの方が向いていると思う。小柄で加速しやすい体はスピーダーにとても向いている。
「もちろん、小回りが利くファイターがフラッグプレイヤーをすることも珍しくない。フラッグプレイヤーが相手のノーマルプレイヤーの背中をタッチするとその選手は60秒行動不能になるんだ。つまりフラッグプレイヤーが相手を返り討ちすると、1対3の状況にできるときもある」
このゲームの肝であり特徴というのがフラッグプレイヤー固有のルールだ。この特性を活かして攻めの武器にするか、守りの盾にするかがフラッグプレイヤーに求められる能力である。目印となるコントレイルは得点となる獲物の印であると共に、こちらを狙うハンターの印でもあるのだ。
「フラッグコントレイルではポイントフィールドが表示されるのはフラッグプレイヤーがタッチされたときか、逆にフラッグプレイヤーにタッチされた時だけだ。ノーマルプレイヤー同士で背中をタッチしてもポイントフィールドは出ないようになっている」
「ポイントフィールド……ドックファイトで得点したときに出る光のことですね」
「ああ、そして大切なことなんだけど。試合開始直後は相手のフラッグプレイヤーが誰か分からない状態で始める。知っているのは審判だけだ」
「じゃあ、まずはじめは相手のフラッグプレイヤーを見破る事から始めないといけないのね」
みさきが声を上げる。
「そうだ。見分け方は例えば今言ったポイントフィールドがあるかないか。フラッグコントレイルで一番大事なのはチームとセコンド両方が情報を共有することだ。誰がフラッグプレイヤーか分かったらインカムを通して伝えるんだ」
フラッグコントレイルで特に重要な事。それはチームメイト同士の情報共有だ。フラッグプレイヤーが分かってもそれからどう動くか決めるのにコミュニケーションは大きな要となる。両校の仲を深める練習をしようとは言ったが、ここまで実戦的なゲームを選んでくるとは思わなかった。
「そろそろいいかな?」
あらかたのルールを説明し終えた頃、真藤さんがこちらの輪に加わってきた。
「はい。今ちょうど説明が終わったところです。チームはどうしましょう」
「日向君の方では何か考えていたりするのかな?」
「久奈浜チームと高藤チームで一度対戦して実力を見てから両校で混合して対戦をしようと思っています」
「そうか、じゃあ始めていこうか」
真藤さんが高藤の部員に声をかけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方その頃
「失礼しまーす!」
晶也たちを高藤に置いた後、私は学院まで戻っていた。職員室で残りの仕事を片づけようと席に着く。直後職員室の出入り口が開き、生徒の1人が押し掛けてきた。
「突然押し掛けて、何の用だ? 保坂」
「いやー、自分以前各務先生関連の情報で興味深いモノを聞きましてその真相をしりたかったので」
「ほう、それはどういったものだ?」
「先生昔はFCの選手だったんですよね? 超が付くほど強かったって」
「……それがどうした?」
「選手時代の先生には唯一無二の愛弟子がいたと」
「…………ほう」
お互い地元で活躍していた選手だ。いつかこういったことが起こると思っていた。新聞やネットの記事に取り上げられるくらいの知名度だ。今の学生ならすでにバレているだろう。だが私から晶也の名前は絶対に言わないでおこう。変に晶也の気持ちを揺らがせることはしたくない。
「それで、その愛弟子というのはいったい誰なんですか!?」
「は?」
マスコミ志望、報道部兼放送部、取材中毒の生徒から信じられない言葉が出ていた。気づけば思わず声を上げていた。何故情報通であるはずのこいつが知らないのだ。
「え? どうしたんですか?」
「保坂。お前情報収集するときだが、いつもはどうやって調べているんだ?」
「基本は直に人と会う取材ですねー。後は最新の新聞を読み漁ってー新鮮な情報やこれから人気になりそうな記事をチェックします。でもガセネタを掴むのは嫌なんでネットは使わないんですよ。現場第一主義なんで」
図書館に昔の新聞記事があるのに見ないのか。こいつが情報収集で詳しいことにたどり着けないのは、これからの事ばかりに目が向いているからだと思う。もちろん悪いことではないのだが。
「じゃあ、お前さっきの話一体誰から聞いた?」
「その辺りのことは守秘義務なんでお答えしかねます」
一応記者として最低限の事はわきまえているようだな。だが、保坂お前は甘いぞ。
お前が取材をするのは決まって話題になりそうな特ダネ記事ばかりだ。次の学内新聞の目玉はゴールデンウィーク中の各部活の様子。その中でも大きな規模のモノは高藤と合同合宿をすることになった新生FC部のことだ。廃部寸前だったFC部がゴールデンウィーク前に突然の復活。その後すぐに強豪校と合宿するという美談付きならこいつは確実に載せる。
高確率で今回の合宿に参加した奴からの情報である。その中で真っ先に浮かんだのは真藤の顔だった。だが、あいつなら言う前に本人か私に一度聞きにくるはずだ。それ以外で晶也のことを詳しく知る人物となると――――ん?
そこで、私が気づいたのは保坂の首に掛けたカメラだ。確かこいつは撮った画像をすぐに別の端末へバックアップをとるモノだ。何故か私の中で何かがあると直感めいたモノが働いた。
「そういや保坂、前に部活紹介で撮った写真があったな。今それを見せてくれないか?」
「ほえ? いいッスよ。でも、どうしたんスか突然?」
「なに、ちょっと気になるだけだ。ほらタブレットを渡してくれ」
「?」
渡されたタブレットから画像を開いて、並び替えで新しい順にする。一番上に後ろ姿の男子生徒写真が映る。しかも男子は半裸体だ。保坂が声を上げた。
「あっ!?」
「保坂、お前」
「いや、違うッスよ!? これは間違えてシャッターを押してしまって……確かにこの後この人と相談してオリジナルの方は消したんスよ。そっちは消し忘れていただけで……」
「ほほう。だが、その相談が本当にあったか……一体誰が証明するんだ?」
「はわわわわわわわわ」
「これは活動停止もありえるな。さて、保坂。どうする?」
ガタガタと震える保坂を私は教師として黙って見つめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃあ、次のチーム編成なんだけど日向君、一つ提案はいいかな?」
皆がフラッグコントレイルに慣れた頃、真藤さんが申し出てきた。
「はい、何でしょう?」
「倉科くんを市ノ瀬くんと同じチームで試合をさせてみないかい?」
その提案に俺はなるほどと頷いた。明日香はまだ、お世辞にも飛び方の基礎が固まっているとはいえない。逆に市ノ瀬の方は普段から綺麗と思えるほど、しっかりした飛行姿勢をしている。市ノ瀬の性格からしても相性は悪くない
「ええ、いいですよ」
快諾したが、一つ問題がある。それは――――
俺と市ノ瀬の間に気まずい空気が流れていることだ。
どうも、合宿が始まってからの一件が未だに尾を引いているのだ。
「あっ、日向君。私がセコンドしてもいいかな?」
「窓果か。どうした、急に」
「高藤のマネージャーの人たちが有能すぎて私のヒロイン力がこのままじゃ埋もれちゃう。ここはビシッとセコンドができる所を見せて個性をアピールしたいの!」
「ああ、そう」
「すっごくどうでもよさそうに返された!?」
「窓果もセコンドの練習はしておいた方がいいか」
まぁ、いい機会だ。俺も高藤同士でしている試合を見て参考にしたいし。この試合は窓果に任せよう。
つけていたインカムを窓果に渡す。
「日向くんはどうするの?」
「向こうの試合見てくる」
隣で行われている高藤同士の試合を見に行くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の試合、ペアを組むことになった倉科さんと鳶沢さんが集まります。
「よろしくお願いしますっ!」
「はい、倉科さん、よろしくお願いします」
「よろしくー。やるからには思いっきり行くよー!」
対する相手チームはオールラウンダーの佐藤院先輩とスピーダーの林田先輩、ファイターの五十嵐先輩の高藤本気チーム。綺麗に各スタイルが1人ずつ入る形となりました。この試合のチーム分けを見ると、どうしても私の頭に秋月先輩の意地悪な顔が思い浮かびます。きっと気のせい……だよね。
「はーい。みんな集まったね。じゃあフラッグプレイヤー決めよっか」
久奈浜のマネージャーさんこと青柳窓果さん。部長さんの妹さんらしいです。
「なんで、晶也じゃなくて窓果?」
「みさき、何その反応ー? 私だってマネージャーなんだからね。いつセコンドするか分からないんだし」
そういって、胸を張ります。
「コーチはどうしたんですか?」
「別の試合見にいってるよ。ということで、よろしくね。市ノ瀬さん!」
「はい!」
「それじゃ、フラッグプレイヤーはみさきという事で」
相談の結果鳶沢さんがフラッグプレイヤーを務めることになりました。細かい動きと攻めの姿勢が今回の相手チームと相性がいいと思ったからです。
「鳶沢さん、お願いしますね」
「まっかせなさーい」
「それでは、行きましょう。『FLY!』」
「はいっ、『飛びますっ』」
「それじゃあ、『飛ぶにゃん』」
鳶沢さんの起動キーに思わず、力が抜けてしまいます。
「か、変わった起動キーですね……」
「え、そう? 普通だと思うけど」
日常生活で語尾ににゃんをつける人を始めてみました。
「でも、市ノ瀬ちゃんの起動キーは律儀だねー。やっぱり、こういう自分で決めるものって性格出るんだろうなー。ゲームの主人公の名前を自分の名前とかボタン連打で『ああああ』にしちゃったり」
「あ、あはは」
倉科さんが堅く笑います。多分自分だけ初期設定の『FLY』のままだったのを気にしてのことだと思うのですが。
(そういえば……秋月先輩の起動キー聞いたことないかな)
ピィーーーーッ!
力強いホイッスルが試合の開始を伝えます。
「それでは、倉科さん。私の後についてくるように飛んでください」
「はいっ!」
まず最初にファーストブイに接触して上昇し、広い視界を獲得します。そうすれば相手の動きを読みやすいからです。四方に囲まれることになるこの競技では、いかに相手を見つけられるかが勝負のポイントになります。広いフィールドのおかげで相手のコントレイルを見落としそうになってしまうこともありますから。
「それじゃあ、私はスピーダーの人攻めてくるから」
フラッグプレイヤーだと思えないくらいさり気なく鳶沢さんは、駆けだしてしまいます。鳶沢さん、凄い演技力です。
五十嵐先輩を先陣に、佐藤院先輩、林田先輩と陣形を組んでいます。流れ的にやっぱり林田先輩がフラッグプレイヤーだと考えるのが自然です。すでに先頭の鳶沢さんが五十嵐先輩と交差してドッグファイトを始めていました。互いに出方を窺い何度かの交差した後、併走を始めます。
「明日香っ、市ノ瀬ちゃん、そっち行ったよ!」
「来ました、佐藤院さんです!」
後ろに構えていた佐藤院先輩がこちらに真っ直ぐ向かって来ているのが見えました。
「リベンジ相手と可愛い後輩のタッグ。この【佐藤院】麗子……相手に不足はありませんわ!」
「名字を強調しなくても……」
「佐藤院さん、40mくらい離れているのに名字だけはっきり届きましたね……」
「聞こえていますわよっ!!」
「「すっ、すみませんっ!!」」
気迫に少し押された感じで、私と倉科さんは二手に分かれて、佐藤院先輩と対峙を始めました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『くっ!!』
インカムを通してみさきの息づかいが聞こえる。相手は五十嵐さんという同じファイターの人。みさきが真っ先に五十嵐さんに張り付かれて振り切れない。五十嵐さんが上手というのもあると思うけど、みさきはまだ新しいグラシュに慣れきっていない。まだ動きが不安定だ。
動きにブレが入ったところから、後ろに回られる。さっきから何度もそれで得点を入れられかけている。でも、得点には至っていない。みさきがタッチされる寸前で体を翻して五十嵐さんから逃げているからだ。
「みさき! とにかく振り切るか、背中を狙って!」
『分かってる!』
みさきの履くレーヴァテインはファイター向けのモデルだ。スピード特化の兄ちゃんのバルムンクとは正反対で、少しの動きでメンブレンが反応する上級者用のグラシュ。普通なら真っ直ぐに飛ぶのも難しいそのグラシュを1週間足らずでみさきは普通に飛べるまで履きこなしている。
でも、普通に飛ぶのと実戦で飛ぶのは感覚が違う。小刻みな動きを連続して行う動きにみさきはまだ慣れきっていないんだ。
「明日香ちゃんっ、市ノ瀬さんっ、みさきのサポートに行ってあげて!」
『むっ、無理です~!』
『佐藤院先輩の守りが堅くて……』
見ると上空を取った佐藤院さんが明日香ちゃんを弾いていた。明日香ちゃんは大の字で静止しようとするけど、勢いを止めきれずブーメランのように回転しながら落ちていく。市ノ瀬さんがその間に脇を抜けようとする。でも、加速しきる前に佐藤院さんが市ノ瀬さんの進路を塞ぐ。
『今のでこの佐藤院を抜けられると思ったのかしら? 市ノ瀬さん、まだまだ動きがアマアマですわよ!』
『はっ、はい!』
インカム越しなのにこっちまで、佐藤院さんの声が聞こえたよ。
「佐藤院さん、本当に強いんだね。視野が広い」
「ああ、さすが俺から10連勝しただけのことはあるな」
「いや、それは兄ちゃんが弱すぎただけだと思う」
「んなっ!?」
落ち込んだ兄ちゃんは気にせず、目の前で繰り広げられている佐藤院さんの力に私は思わず生唾をのんだ。
「窓果先輩、佐藤院さん以外の二人は高藤の中でもファイター、スピーダーに特化した二人らしいです。特にファイターの五十嵐さんは始めてから1年なのに高藤の中でも相当な実力者みたいです」
「あれで1年目!?」
「はい。あっ、みさき先輩!?」
じわじわとみさきは追いつめられてる。コントレイルの軌道がブレる。それを見計らったように五十嵐さんが間合いを詰めて、プレッシャーをかける。みさきが五十嵐さんを見据える。
私は上空から降ってくる光を見逃さなかった。
「みさき、真上っ!」
私の声に反応するとほぼ同時にみさきが、天を仰ぐように背を海に向ける。降ってきた林田君の一撃がみさきを海面との距離を縮める。
ファイターによるプレッシャーで視野を狭め、スピーダーの一撃離脱でバランスを崩しにかかってくる。いい連携だね。
『2対1って……きついなー、もう』
「みさき、海面に追いつめられたら逃げ場が減っちゃう。追いつめられる前に明日香ちゃんたちと合流して」
『やっぱり、そう考えるよね』
「みさき?」
私の指示通り、みさきが明日香ちゃんたちの方向にルートを変える。でも、睨みを利かせた林田君と五十嵐さんのペアが追う。林田君は上空から、五十嵐さんはローヨーヨーで加速して、あっという間にみさきは追いつかれる。
「さすが、高藤学園の人だね……」
「はい、でも……」
真白っちが何かを言おうとした直後、みさきが力の加減を間違えたのかバランスを崩す。みさきの体がきりもみするように回る。
「みさきまだグラシュに慣れてないっ!」
安定したバランスがないと、グラシュは本当の性能を活かせない。今のも、加速がしっかりできなくて詰められた。海面との距離は近くて、逃げ場は少ない。
五十嵐さんがみさきとの距離を一気に詰める。
「私のみさき先輩は、このくらいじゃビクともしませんよ!」
確実に捉えられた。私はそう思った。自分の判断が間違ったんじゃないかと思わず目を伏せる。直後、電撃が走るような音が響き、審判のコールが響いた。
『A.D(行動阻害)! 五十嵐!』
「え?」
フラッグプレイヤーが相手の背中をタッチした際のコールだった。五十嵐さんはこれから60秒動けない。
「やったー! さすがみさき先輩!」
「見事なリバーサルからの攻めだったぞ鳶沢ー!」
リバーサル。降下してきた相手と交差して上のポジションをとる技術だっけ。みさき、さっきまでバランスを崩しそうになってたのに。あの状態から、立て直したの?
インカムからみさきの笑い声が聞こえる。
『ふふ。ちょっと癖があるグラシュだったけど……もう大丈夫!』
反撃開始。そう言わんばかりにみさきの目つきが変わった。
遅れて申し訳ありません。
大変お待たせしました。
スランプ脱却です。
<裏話および補足>
今話のテーマ…レーヴァテインはかなりピーキーなグラシュで、みさきも始めはまっすぐ飛べませんでした。原作ではそのまま一気に真藤さんと戦うことになっており、展開早いなぁと思っていました。そのため、みさきがグラシュを使いこなすシーンを書きたかったというのが今話の理由です。
フラッグコントレイル…私の表現能力が追い付かなかったため、描写に悩みました。初心にかえってなんとか書いています。
主人公不在…今回の話で彼は現れません。理由は本格的に原作の裏話を書きたかったのと、スランプで主人公がいない方が上手く書けそうだったからです。
みさきと五十嵐…原作にて、対戦したという記述があったので回収いたしました。
あまり期待しない方がいい余談…スランプ時、書けない書けないと嘆きながら練習で番外編を書いてました。近いうち投稿するかもしれません