蒼の彼方のフォーリズムー朱い空ー   作:科戸@ただいま

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タイトルはご愛敬
※真藤はドラマCDでもこんなキャラです


第三話 真藤「ああっ、日向くぅん!」

 26ー1。スコアボードに映る点数は、通常ではあり得ないモノだった。試合時間はまだ1分残っている。逆転のチャンスなど、どこにもない。相手の戦意は完全に喪失していた。

 

『お前の……やっているのは、FCじゃないっ!』

 

 それは最後の悪あがき。醜い暴言だった。

 

 自分が好きだったFCで僕にだけ勝てなかった。たったそれだけの理由。今まで格下だと威張ってきた者に負ける。そんな屈辱を受け入れられなかった子供の戯れ言だった。

 

 その屈辱を忘れるため、周りを巻き込んで僕を屈服させようとした。

 

 埃で汚れたフライングスーツ。無くなっていく文房具や靴。鞄に入った煙草。編入してから新しくできた友人も、いなくなっていった。そして、僕の翼であるグラシュを壊した。

 

 こいつはその様子を見ていて、取り巻きと共に笑っていた。いつ僕がFCをやめるのだろう、と。

 

 ならこの引退試合で、今までもらった気持ちを返してあげないといけない。それこそ、彼が【FCをやめたい】と思うまで。

 

『人の宝物(グラシュ)壊しといて、FCを語るなよ』

 

 27、28、29、と点数は増える。

 

 どうせ、こいつのFCはこれで最後だ。次空を飛ぶようなことがあれば、また落としてやる。

 

『————』

 

 下の方で観客たちの声が聞こえる。

 

 酷い。やめてしまえ。こんなのFCじゃない、と。

 

 全ての言葉が僕に向けられていた。

 

(なんで、僕が責められているんだ)

 

 理解ができない。

 

『これで、わかったろう。お前のFCは見ていて気持ち悪いくらいFCじゃないんだよ! ブゥッ!』

 

 うるさいな。

 

『じゃあ、みんなのいうFCっていうのをしよう』

 

 スイシーダ。相手を水面に叩きつける技だ。海上で体勢を崩し、這いずるように飛ぶ彼を見ながら僕は思う。

 

 今度は僕が見下ろしてやる。這い上がろうとしても何度でもたたき落としてやる。空を見ればこの屈辱を思い出してしまうくらい刷り込んであげる。

 

 周りの声が聞こえなくなった。きっと、みんなの知ってるFCをしたから文句が無くなったのだろう。いや、そんな都合のいい解釈あり得るわけない。

 

 この沈黙は僕にここでFCをするな。おまえがいると楽しくないと言う、拒絶だ。

 

 グラシュから変な音が聞こえる。それは心なしか鳴いているようにも聞こえた。

 

 

 

『県内の学校には進みたくないですって!?』

 

『一人暮らしをする気なのか? 大変だからやめなさい』

 

 両親は県外の学校に行くのに反対だった。でも、彼らのいる場所には居たくなかった。

 

『だいたいFCはどうするの? せっかく才能があるんだから、続けるべきよ』

 

『ああ、そうだ。大体あそこは昔一回行っただけで、知り合いもいないだろう』

 

 知り合いがいようがいまいが、どんなに大変だろうがここよりはいい。説得するには材料が必要だった。

 

 だから、高藤学園からの電話はまさに天命だった。

 

 私立高藤学園。本校では6000人近い生徒を抱える名門。進学、就職率も高く、その分校ではフライングサーカス部が全国に名を轟かせていた。

 

 名門校からの誘い。両親は渋々と首を縦に振った。

 

 その一連の様子に、僕が強く感じたのは情けないチームメイトたちへの憎悪でも、僕の気持ちを理解しようとしない両親への失望でもなかった。

 

 

 FCを手段として使い、遠くへ逃げる背徳感だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

-入学式-

 

 

「それでは、経済特待生の生徒はこの後第4視聴覚室に集合。部活見学者は配った冊子の場所に集合すること。以上解散!」

 

 教師の言葉で緊張の糸が切れたのか、全員が私語を始めていく。

 

「また、会えましたわね、秋月さん」

 

「佐藤院さんっ」

 

 席に訪れた生徒に僕は声を上げる。島に着いた最初の日。案内をしてくれた佐藤院さんとは同じクラスになれた。知り合った人と同じクラスというのは何となく心強い。

 

「二人は同じ学校だったの?」

 

 後ろの席の五十嵐さんが輪に入ってくる。

 

「いえ、以前グラシュショップで見かけて知り合ったんです」

 

「へぇー、グラシュ屋いくってことはFCするの? 私高藤にはFCをするために入ったんだ」

 

「あなたもFCを? 私たちもなんです」

 

 この共通の話題を境に話は盛り上がっていく。

 

「二人は部活の見学いく?」

 

「はい、わたくしはもちろん、この後練習場へ」

 

「僕も、見学というか……着替えて練習に」

 

 二人の視線が僕に集まる。

 

「なんで?」

 

 理由はできれば言いたくなかった。でも、後になってからバレるのも怖い。仲良くなる前なら傷つくことも少ない。言うなら、このタイミングだ。

 

「…………実は、僕ここにはスカウトで来たんだ。それで、今日からすぐ練習入ってて」

 

 二人が少しだけ驚いた顔をしている。

 

「なるほど」

 

 佐藤院さんが納得したように、頷いた。次の言葉が怖い。

 

「スカウトされるほどの実力……あなたがあれだけ強かったのも納得できます」

 

「すごいんだね! 私なんか高藤に入ってようやくFCデビューなのに」

 

 暖かい前向きな言葉。その言葉を聞いて方や安堵し、もう一方で不安が募る。

 

「高藤は強豪校ですし、さらなる高みを目指すためとはいえ、遠い地方から一人で海を渡るなんてすごい意欲です」

 

「ホント、FC大好きなんだ」

 

「そんな、二人に比べたら僕なんて……」

 

 続きそうになる口を押さえる。この先は絶対に言ってはいけない。そう感じた。

 

「秋月さん?」

 

「そろそろ行こうよ。ほら、練習の様子も見たいし」

 

 沈黙を不審に感じられる前に僕は席を立つ。

 

 二人に背中を向けながら、罪悪感に似た感情が僕の中で渦巻く。

 

 違うんだ。僕は高みを臨むためにこの島に来たんじゃない。僕はこの島に—----逃げてきたんだ。

 

「いやー、みつけたよ」

 

 教室から出る寸前のことだった。男子生徒が僕の行き手を塞ぐ。

 

 他の一年生とは違う、学校に慣れた落ち着いた雰囲気。その人が先輩だと考えるまでそう時間はかからなかった。

 

「だ、誰?」

 

「後ろのクラスから探して正解だった。一学年20クラス以上というのはこういう時困るね」

 

「あ、あなたは真藤一成先輩!」

 

 五十嵐さんが叫ぶ。

 

「一年にして、去年のフライングサーカスの大会を征した空の王者。当代最強と目されているスカイウォーカーが何故?」

 

 佐藤院さんわざわざ説明ありがとう。

 

 真藤先輩と目が合う。

 

「少しいいかな? 秋月朱君」

 

 その目には有無を言わせない迫力があった。

 

「自分は構いません」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 新入生が入ってくる。

 

 2年になってようやく僕は先輩となる。だけど、僕の憧れた『彼』はこの学校には入学してこなかった。

 

 いつか、戦ってみたいと、初めて君を見たときからそれを実現するために日々練習を積み重ねてきた。

 

 去年の大会で頂点に立ち、他のFC選手とは一線を画すほどの実力を付けたとは思う。でも、まだ足りない。

 

 君に追いつき、追い越したい。

 

 君が復活する日が待ち遠しい。君と共にFCに着いて語らいたい。君と共に空を飛べる日を夢見ている。

 

 だからだろう。『日向晶也と最も近い場所にいた選手』の入学を知ったとき、僕の心は躍った。

 

 今、僕はどの位置にいるのだろう。そんな時、今の自分の立ち位置を知る機会が訪れた。

 

 

 

 場所を変えて広場の一角で話を始める。

 

「まずは、入学おめでとう。僕は真藤一成。FC部だよ。秋月朱君」

 

「以前どこかでお会いしましたか?」

 

「いや、初対面だ。でも、共通の話題になる人は知ってるよ、ほら」

 

 初対面で、FCをしていて、共通の人っていったら彼しかいない。秋月君ならすぐ察してくれるだろう。

 

「「日向晶也」」

 

 同時に言って、ハイタッチをかます。

 

「おっと、失礼」

 

「いえ、自分も馴れ馴れしくて、すみません」

 

 線の細い、おとなしそうな子だと思ったが、中身は結構明るい性格なのかもしれない。ノリがいい。

 

「君と同じ部になるとは思っても見なかったよ。これからよろしく」

 

「はい、それでお話って言うのは」

 

 単純に挨拶だけで終わるわけではないと彼も察していたようだ。

 

「ああ、突然呼び出してすまなかったね。それで、その用事なんだけど……僕と是非試合をしてもらいたい」

 

「……一応理由を聞いてもいいですか?」

 

 理由。彼の話を他人にするのはいつぶりだろうか。

 

「僕は今自分がどのあたりにいるのか、知りたいんだ。大会に優勝して、自信もついたけど、まだ彼には届かないと思っている」

 

「彼っていうのはやっぱり……?」

 

 僕としたことが彼、という言葉だけで話を進めるところだった。

 

「ああ、日向君だ。僕は幼い頃から彼に憧れていた。日向君に追いつくためにFCを続けてきたといっても過言ではない。あの日、初めて彼を見たとき、僕は彼のフライングサーカスに魅せられた。君もきっとそうだろう。彼のすぐ近くを飛んでいたのは君なんだから。それに彼の後継者は君ではなく、僕でありたい。しかし、これは君のことを決して軽んじている訳じゃなく僕たちの世代にとって日向君がそれほどまでに至高の存在であり、世界大会を決めた直後に消えた伝説を追いかける僕らは……」

 

「分かりましたからっ、もういいです」

 

 これから本格的に説明しようと思っていたのに、止められる。残念だが、彼の事を語るのはまた今度にしようか。

 

「じゃあ、試合を受けてくれるのかい?」

 

「え、ええ」

 

 どうしてだろう。何故、彼は怯んでいるのだろう。僕たちは同じ者を目指す同志だというのに。

 

 

 

 

 

「というわけで、僕と彼とで試合をさせてもらいます」

 

 先輩たちに話を通し、許可を得る。高藤学園は実力主義の学校だ。一年生でも実力があればレギュラーになれるし、その試合に価値があると判断されればある程度の融通は利く。

 

「あ、ああ」

 

 先輩は【僕たち】の日向君への思いを汲んでくれた様だ。日向君の話をするとすぐに許可をくれた。

 

「30分も話を聞かされて……三年生の部長さん、お疲れさまです」

 

 後ろで秋月君が部長に何か言っていたが聞こえない。

 

「せ、せっかくだ。入部希望者! セコンドをしてやれ。経験者はいるか?」

 

 見学していた一年生の面々がざわつく。しばらくして、一人の女子と男子が立ち上がった。

 

「ではわたくし佐藤院がセコンド役をさせていただきます!」

 

「林田です! セコンドは初めてですが頑張ります!」

 

 僕には林田君がセコンドとしてついた。

 

「じゃあ、よろしく頼むよ。林田君」

 

「はい! 入部早々真藤さんのセコンドをできるなんて感激です! 俺頑張ります!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「じゃあ、始めようか」

 

「その前に先輩……いいですか?」

 

「なんだい?」

 

「もし、先輩が自分に勝てなかったら、ドリンクおごってください」

 

「ふっ、いいだろう!!」

 

 軽口をたたく秋月に笑みを返し、スタート位置に着く。

 

「セット!!」

 

 ホイッスルが鳴る。

 

 両者が同時にファーストラインを駆ける。

 

「速いね! 君はファイターじゃなかったかい?」

 

「少し前にオールラウンダーに転向しまして、でもスピードでは負けそうだ。また後で」

 

 真藤はスピーダー寄りのオールラウンダーだ。スピード勝負に分が悪いと感じたのだろう。ファーストラインの真ん中あたりで差が開き始め、秋月がセカンドラインにショートカットする。そのまま、秋月は旋回を始めた。待ちかまえの姿勢だ。

 

「僕は、日向晶也を超えたいんだ。だから……通過点の君には、駆け引きだけじゃなくあらゆる面で勝利する!!」

 

 真藤の戦闘スタイルはこうだ。スピードで相手を翻弄し、ドッグファイトに持ち込まれても全て捌き、カウンターや反動で流れを掴み直す。それは長年の経験と冷静な判断力があるからこそなせる技だ。

 

 1ー0。定石通り1点を先取した真藤がセカンドラインを駆ける。

 

 まずは、スピードに乗った状態で相手を抜ける。それで、こちらの優位を証明する。はずだった。

 

「……っ!」

 

 2度のフェイントをかけて抜けようとした動きは、あっさりと止められたのだ。いや、むしろ利用されたといってもいい。真藤はたたき落とすように弾かれた。逆に上へと弾かれた秋月は背面飛行から体勢を立て直す。重力による加速を得た秋月はビリヤードで弾かれた球のようにそのままサードブイを目指す。

 

 純粋なスピード勝負では勝っているとは言え、加速の差でかなわず真藤はサードブイを諦め、サードラインにショートカットした。

 

 1ー1。試合が振り出しに戻る。今度は真藤が待ちかまえる番となった。最初の動きを意図も簡単に止められたことで真藤の心が少しだけかき乱される。

 

 真藤は考える。彼は元ファイター。日向君は彼と対戦するときはドッグファイトを避けて、ブイでの得点に集中していた。それほどまでの格闘技術を持ちながら彼はあえてドッグファイトに持ち込まず、ブイでの得点に持ち込んだのだ。FCの戦術としては少し異様だ。

 

(違和感を感じるが、今は集中しないといけないな)

 

 上昇した秋月が一気に下降し、真藤を抜きにかかる。すかさず進路を読み阻むも、減速することなく一瞬で脇を抜けられる。

 

 秋月のした動きに真藤は驚いた。

 

 その驚きは抜かれた事への、焦りやショックからくるもの—--ではなかった。

 

 それは歓喜。真藤の顔に笑みが宿る。

 

(そうか。そういうことか)

 

 今の動きは—--日向晶也が相手を抜くときに使う軌道だった。

 

(やっぱり、君も彼を追いかけてきんだね。秋月朱君)

 

 当時彼が得意としていた動き。他の誰もが真似することができなかった動きを目の前の人物がしている。実現するまでにどれだけ練習したのだろうか。

 

「でも、彼に追いつくために努力を重ねてきたのは僕も一緒だ!」

 

 1ー2。試合はまだ始まったばかりだ。真藤はサードラインへショートカットした。

 

 

 

 

 点数盤に5ー4と表示されていた。

 

(まさかブイタッチだけの得点争いになるとはね)

 

 何故だ。真藤は相手の不気味な行動に疑問を思った。相手は十八番であるはずのドッグファイトを仕掛ける気配がない。

 

 並行して飛ぶ秋月に真藤は尋ねる。

 

「どうしてドッグファイトを仕掛けてこないんだい?」

 

「準備不足でして、まだ手数が少ないんです」

 

 準備不足、その言葉が妙に引っかかった。

 

「それはどういう事かな?」

 

「言葉通りです。それでもいいならしますか? ドッグファイト」

 

(誘いこみか?)

 

 そう、勘ぐる真藤だったが、そんなことはどうでもいいと投げ捨てた。この試合の目的は、彼を上回ることだ。そこに罠があろうと、挑発だろうと受けてたつ。

 

「じゃあ、そうさせてもらおうッ!」

 

 フォースラインの中央を切ったとき、真藤が動いた。高度を上げ、秋月の背中を狙う。そのまま急降下する。

 

「な……どこに!?」

 

『先輩っ、後方です!』

 

 背中に手が届きそうな距離に入った途端、彼の姿を見失う。飛んできた声を聞いて、すぐさま振り返る。

 

 視界の前に何かが入り、一面が黒くなる。気づいたときには真藤は衝撃を受け、バランスを崩していた。

 

(何が起こっているんだ)

 

 間合いに入った途端に消えた。

 

「一点、もらいます」

 

 背中に衝撃が走るのを感じてから、真藤はなんとかバランスを取り戻す。5ー5。今の出来事をすぐに分析。体をひねらせ、真藤の後方に一瞬で移動。その後フライングスーツの袖で相手の視界を奪い、空いた方の手でこちらのバランスを崩した。さらにそこから追撃で、得点となる背中タッチ。

 

「なるほど、難しいことを平然とやってのける。今まででこんなFCは見たことがない」

 

 真藤が笑う。こんなFCは初めてだと。上空に構えた秋月の表情が曇る。

 

「やっぱり、これもFCじゃないのか」

 

「?」

 

 真藤にはその声が聞こえなかった。

 

「では今度は自分から」

 

 秋月がシザースで真藤を行いながら接近する。体を左右に揺らし、相手を翻弄する動きだ。

 

「いい動きだ。でも、先は読める!」

 

 真藤が軸を合わせ、弾こうとする。

 

 しかし、秋月は体を捻り、横に一回転させる。秋月の体が空間を叩くように、横軸の方向を変える。タイミングを外され両者がすれ違う。

 

「手のメンブレンを利用した横軸のエアキックターンか」

 

 エアキックターン。体のメンブレンを急速に移動させることで最小限のスピードロスで方向転換を行う高等テクニックだ。その名称と性質上、手のメンブレンを足へと移動させて行われることが多いが、秋月は左手のメンブレンを右手に移動させることで横方向へ方向転換したのである。

 

 真藤は落ち着いていた。横軸のエアキックターンなど、回避以外の使い道がないからだ。FCは格闘戦であり、レースでもある。一時的な横移動より、重力の力がある縦軸の動きこそ要となる。

 

 だから、秋月が直後に、【二度目のエアキックターン】で真藤の真上を取ったとき、ようやく真藤は気づく。

 

(最初の横軸のエアキックターンはこのためか!)

 

「っ!」

 

 横から手刀の一撃が迫る。受け流す姿勢をとった真藤はまたも驚愕することになる。

 

 来ると思った一撃を入れず、秋月は脇を通り抜ける。そして、そのまま真藤の視界から消えてしまったのだ。

 

「また、消えた!?」

 

『先輩また上です!』

 

 セコンドの声が聞こえる。すかさず上を向く。手が迫っていた。寸前まで、真藤のいた空間に手刀の一撃が通り過ぎる。

 

「あら?」

 

 空振りをしてぽかんとした秋月の顔が映る。

 

 すかさず、バランスが崩れるように、腕をはじき返す。上に飛ばされた秋月だったが、真藤が追撃する暇はなかった。

 

 試合終了の笛が鳴る。

 

『試合終了! ドロウ!』

 

 こうして、試合は引き分けという形で終わった。

 

 真藤は彼と対峙して思った。

 

 掴もうとしても、すり抜けられ、また避けようとしても背後を取られる。ゆらめくように。空域に存在しない者と戦っているようだと。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「はい、ドリンク」

 

 試合終了後、真藤先輩がドリンクを渡してきた。

 

「これは?」

 

「約束だったじゃないか。君に勝てなかったら奢るって」

 

「でも、引き分けですよ?」

 

「いいや、ドッグファイトではペースを完全に取られていた。その点に関して言えば、僕の負けだ」

 

 自虐気味に真藤先輩は笑う。

 

 嘘付け。お互い全力出してなかったじゃないですか。

 

「先輩は……大人ですね」

 

「君より一つお兄さんだからね。そして君の戦い方は面白い。今までとは違った新鮮味があったよ」

 

 そう言われて、じんと胸に痛みが走る感覚がした。認められた。その嬉しさだった。

 

「ありがとう、ございます」

 

「あと一つ謝っておきたい。日向君を越えるためと、君を使うようなことをして。僕は日向君のことになると少し熱くなってしまうようなんだ。ああ日向君ヒナタクンヒナタクン……」

 

 本当に日向晶也が大好きなんだろうなぁ。

 

「秋月さん!」

 

 佐藤院さんが笑みを浮かべて、こっちを見ていた。となりには先輩のセコンドをした林田君もいる。部長が集合をかけていると分かった。

 

「さて、一年生諸君。入部希望者は明日からでも練習を始めていく。全国の頂点を目指すぞ。ようこそ、高藤学園福留分校フライングサーカス部へ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 新しい故郷での学生生活の始まりはこうして終わった。

 

 

 




<裏話および補足>
真藤先輩の性格…ドラマCD誕生日サプライズ回。あのカオスっぷりが好きで原作やこちらを遵守してます。

五十嵐と林田…莉佳√のあの時出てた二人


手でするエアキックターン…理屈だけで考えれば効果は薄くてもできると思い考えました。メンブレンは足よりも手の方が敏感に反応するように設定されているため難易度はエアキックターンと同じくらい。そのため真藤さんも誰もそこまで驚かない。(それでもプロ級選手と同じくらいの技術なんだけど…)

 

消えるような戦い方…誰との対比で作ったキャラかは原作プレイの方なら気づかれたかもしれません。分からないアニメ派の人は7話をチェックですっ(7話放送後タグにヒロイン名追加予定)


真藤「一つお兄さんだから」…元ネタは製作元の処女作恋チョコのみいちゃん(木場美冬)。中の人はイリーナさんです。というのも経済特待生だとか、高藤の設定を確認するため、もう一回恋チョコプレイしてたら使いたくなったので



以下今後の予定
 構成上、原作知っている人でないと話がついてこれなくなるという事に気づき、一年生編は回想で行っていくことに決めました。他キャラたちとの出会い回(あとは誤字脱字修正だけ)を経て2年生編を開始します。
 ようやく、最後の長期休みに入ったので更新速度は少しだけ上がるはずです。





 
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