蒼の彼方のフォーリズムー朱い空ー   作:科戸@ただいま

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ようやく始まり


本編
[Flight:01] また、お会いできますよ


-4月中旬-

 

 

 フィールドフライ10分から始まって、ローヨーヨーとハイヨーヨーを周回3本。その後最高速度からブイタッチした後の体勢建て直しと方向転換。これらを終えてから実践形式でのアドバイス。他にも色々な練習方法があるが基本の流れはこうだ。

 

 それを部長が中心になって、始められるのだが今日は少し違った。

 

 真藤部長が学生選抜のミーティングへ、麗子院副部長が他校へ【果たし状】を持って久名浜に話し合いに行ったためだ。麗子院さんは久名浜の部長から呼ばれたらしい。ちなみに彼女の鞄には果たし状がいつも一つ入っている。

 

 部長と副部長がいないため、今日は僕こと秋月朱が高藤学園福留島分校FC部の練習監督をしていた。

 

「そ、それでは12セット目を始めます。セット」

 

 ホイッスルが響く。僕を含めた【4人】がファーストブイから映えるスタートラインから跳ねるように加速した。初速は速いが、最高速度が遅いファイターの五十嵐さんはファーストラインから逸れセカンドラインへショートカットを始める。逆に初速は遅いが、最高速度が速いスピーダーの市ノ瀬さんと林田君が僕の後ろにつく。

 

「二人はこのままファーストブイを狙うのかな?」

 

 近くを飛んでいるとはいえ高速飛行中では相手の声を聞き取ることは難しい。あらかじめ付けていたインカムを使って問いかける。

 

『それはもちろん、私たちはスピーダーですから』

 

『オールラウンダーにスピード勝負で負けるわけにはいかないからな』

 

 なら、加速して抜く必要はない。二人の後ろについてフォームを確認しておこう。

 

 二人が上開きの放物線を描いて加速を得る。ローヨーヨーだ。一年生の市ノ瀬さんの方が先にタッチする結果となり、すぐ後で林田君がブイに触れる。林田君焦ったな。いつもなら市ノ瀬さんより速いのに。

 

「それじゃあ、セカンドラインに入ったことだし、始めようか」

 

 セカンドラインの真ん中でショートカットしていた五十嵐さんと二人が合流する。

 

「サードラインへの仕切り直しは3人で相談してくれればいいよ。模擬戦、開始」

 

『『『はいっ!』』』

 

 3人が声と共に一斉に散らばる。下手に近くにいるとメンブレン同士の干渉に巻き込まれる危険があるからだろう。隙を見つければ、いつでもアタックを仕掛けていいと言っておいた。それなら同時に突っ込んでくる可能性は十分ある。

 

「まず、最初は五十嵐さんか」

 

 ファイターの彼女がくるのは想定内だ。

 

 五十嵐さんが威圧をかけるように間合いを詰めてくる。こちらの進路を奪って選択肢を減らす気だろう。その後にスピードに乗った二人が背中を狙えば、得点のチャンスだ。

 

「でも、そのためには相手の動きに着いてこないとね」

 

『くっ!』

 

 上昇、下降からシザースと基本的な移動で五十嵐さんを振りきろうとする。しかし、しつこく彼女はこちらの後ろを飛び続ける。さすが、強豪高藤で練習しているだけのことはある。

 

「じゃあ、これは」

 

 手を大きく広げ、急制動をかける。着いてくるのに精一杯なら、このまま五十嵐さんは僕の前に背中を見せたまま飛ぶことになる。逆に反応できるなら、ぶつかるなりしてこちらのバランスを崩しにかかるはずだ。その結果は――後者だった。

 

『今!』

 

 五十嵐さんが肩に触れようとする。その動きを察した僕は、指先を少しだけ動かし、体勢を仰向けに傾け始める。結果、スピードに乗った五十嵐さんの一撃は紙一重の差で当たることはなかった。しかし、メンブレン同士の干渉は全くなかったわけではない。ほんの少しの歪みを体が感知し、体勢を完璧に戻そうとする。

 

「残念、そして」

 

 予想から相手の作戦パターンの一つを絞る。その予兆を背面飛行して確認ができた。上から狙っていた林田君の垂直降下だ。

 

「ちょうど良いところに来てくれた」

 

 仰向けの姿勢から右から回り込む市ノ瀬さんを見つける。3対1という状況に少し引け目を感じているのだろうか。少し困惑気味だ。その優しさは行動を単調にしてしまう。アタックを仕掛けるときの視線の動きを僕は見逃さなかった。

 

 迫ってきた腕を弾き、反動を利用して通常飛行に移行。予想通りの場所に五十嵐さんはいた。チャンスとばかりにシザースを仕掛けながら、こちらへ向かっていた。

 

「ごめん」

 

 暴力的な技をかけることを申し訳なく思いつつ、即座に動きを合わせて五十嵐さんにスイシーダを仕掛ける。スイシーダは相手を海面に叩き付ける技だ。今回はその反動で上昇するために利用した。メンブレンの保護で物理干渉がないとはいえ、女の子の頭を殴るみたいで罪悪感が押し寄せて来ているけど。

 

「はぁっ!? そんなんありかよ!?」

 

 反動のエネルギーによる急加速に驚いた林田君の声が直に聞こえる。

 

「スイシーダなんて使わなくても同じくらいの加速はできたんだけど、五十嵐さんにはファイターとしての怖さも知っておいて貰いたかったからね」

 

 自分の言葉が林田君に聞こえたかは分からない。林田君の手が空を過ぎた。体感スピードが変われば、タイミングを取るのはさらに難しくなる。タッチしようとしていた林田君はタイミングを逃し、そのまま海上近くまで下降していく。対して僕は、彼を避けて上のポジションを獲得するだけで良かったので特に難しいことはなかった。だが、すれ違いざまに林田君の背中にタッチを済ませておいた。

 

「一点獲得。じゃあ、次は相手が上空にいるときはどう動く?」

 

 練習はこの後もしばらく続いた。

 

 

 

 

 

「林田君、上昇するときの姿勢のタイミングをもう一息遅めにした方がいい、半秒はタイムロスしてる。五十嵐さんはドッグファイトの時踏み込みが浅い。今のタイミングなら得点していたはずだよ。市ノ瀬さんはとりあえず相手に視線読まれないようにしようか。あとそこの新入生2人、部長と副部長がいないからってスマホをいじっちゃいけないよ」

 

 地上でサボっている新入生を注意しながら、練習を指揮する。

 

「次のグループ、準備して。練習を終えたグループは今の試合を分析。その後足りない部分を練習」

 

「3対1なのに……」

 

「しかも、レギュラーと準レギュラー相手に無失点って……」

 

「これで12組目、疲れているはずなのに……」

 

 今日の練習参加者は87名。内16名の3年生には真藤部長から渡された個別のプログラムがある。ということで残りの70名は僕が面倒を見ることになっている。

 

 今やっているのは、プログラムの最後である実践形式のアドバイス。今日はドッグファイトを中心としたモノだ。

 

 ドッグファイトは相手の背中に回り込んで点を得るファイターの戦い方だ。相手とぶつかり合うため、相手の動きを予測する能力を始め、立ち直り、相手と自分の位置を把握する空間認識能力。そこからどう動くかの判断力が必要とされる。

 

 今回の練習はブイでの得点はなく、背中タッチでのみ加点されるものだった。

 

「この練習。ファイター向けの内容じゃん。スピーダーの俺たちがする必要なくね? なっ、市ノ瀬さん」

 

「え、えっと……」

 

「そんなことはないよ林田君。スピーダーでも動きを止められてドックファイトに持ち込まれることはよくある。そこから巻き返すのにこの練習は必要なんだ」

 

「げぇ……」

 

 交代間際に後輩に愚痴をこぼす同期を宥める。一年生の女の子に賛同を求めないであげて欲しい。真面目ちゃんの市ノ瀬さんは反論しようか、形だけ頷こうか困っているじゃないか。

 

「そんで、お前10連戦以上してるのに、なんで平気そうなの?」

 

「めちゃくちゃ疲れてるよ、表に出さないだけ。ポーカーフェイスはスポーツ選手の基本だよ」

 

「うっざ」

 

 それだけ言って、林田君はインターバルに入りに行った。あの正直さが林田君の良いところでもあるんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「誰だよ、部長と副部長がいないから、楽できるっていったの……」

 

「すまん、俺だ……」

 

「これじゃ、いつも通りの練習じゃない……」

 

「むしろ4人同時に相手されて捌かれる分、無力感がハンパない……」

 

「4人組16セットと3人組2セット。合計70人。はい、これで最後だね。お疲れさま」

 

 1時間半にも及ぶ練習試合を終える頃。日はほとんど海に隠れていた。さすがに体中がバッキバキだ。でも他の部員の前でロボットみたいな動きをするわけにもいかない。

 

 一同を解散させて、部室の戸締まりを終える。そのまま帰路に着こうとしたときだった。校門の前に女子生徒が一人待っていた。

 

「下校時間が迫っているよ、真面目一年生」

 

「すみません、少し気になることがあったので」

 

「あー、帰りながら聞くよ」

 

 市ノ瀬莉佳。入部して数週間の女子がそこにいた。フライングスーツを詰めた鞄と学生鞄を丁寧に抱えている。

 

「荷物、重くない?」

 

「いえ、毎日練習で鍛えていますから」

 

 FCの練習項目に筋トレはない。正確には姿勢を整えるための筋トレはあるが、筋力を上げるトレーニングはない。

 

「持つよ」

 

 真面目な性格からして断られるだろう。

 

「いっ、いえ、自分の分は自分で持ちますから」

 

「まだ、筋肉痛抜けてないでしょ、先輩の顔立たせてよ」

 

「は、はぁ、ありがとうございます」

 

 半ば強引に荷物を奪う。女子の荷物だからって軽いわけがない。中身が男子と同等以上の量が入っているのだ。荷物が倍になった気分だが、これならちょうど良い。市ノ瀬さんの歩くスピードを合わせやすいからだ。

 

 4月の夜は冷える。彼女のミニスカート姿を見て寒くないのか不安に思ったが、聞くことはなかった。

 

「それで、気になることって……?」

 

「い、いえっ、真藤部長が夏の大会をすごく楽しみにしていたことが気になって……」

 

「ああ、部長にとって最後の大会だからね。部長全力出すと怖いから気をつけないとね」

 

「部長の本気、ですか?」

 

「大会メンバー決める時、きっと見れるよ」

 

 多分、部長の前の暴走を見て心配になっていたんだろう。一年生というのにしっかり者だ。

 

「すみません、もう一つ良いですか?」

 

「いいよ」

 

「……秋月先輩はどうして副部長じゃないんですかっ?」

 

「……え?」

 

 そんなの、当然の扱いだと思うけど。

 

「あっ、いえ、佐藤院先輩に不満がある訳じゃありません。面倒見のいい、頼りになる先輩だと思っています。でも、今日の練習で統率もできてるし、4人相手に的確に動いてアドバイスしてたり、FCの技術で言えば部長と肩を張れるのではないのかな……って」

 

 それは買いかぶりすぎだ。自分にはそんな資格ない。何より、あの二人にはあって自分には足りていないものを身に染みるほど知っている。

 

「思いやりがないから」

 

「え?」

 

「僕が副部長じゃない理由。今日の練習見たら、分かるでしょ」

 

 流れ作業のように数だけこなして、目に付いた部分だけを指摘する。他の人に技術を誇示するような当てつけた練習方法だ。たまにする分にはちょうど良いかもしれないが、メンタル面が大事な場面ではめっぽう弱い。壁にぶつかっている選手や競争率が高い高藤のFC部だとさらに効率が悪い。真藤先輩が部長になる前のFC部の形態そのものだ。部内に不満が溜まるのも頷ける。

 

「部長や麗子院さんは練習の中で選手の癖とか、性格を把握して相談にも乗る。でも僕はそういうの苦手だからできない」

 

「そんなことないと思いますけど……」

 

 フォローを入れようとしてくれる市ノ瀬さんはやはりいい子だ。

 

 この市ノ瀬という後輩には出会った当初から、何かと親近感があった。入学と同時にこの島に来た所や、FCを続けている目的。壁のぶつかり方こそ正反対であったが、むしろ対照的だったのが返って印象に残った。

 

 そのせいか、最近はこうして相談に乗りつつ一緒に帰っている。

 

「この話はまたにしよう。新しい家はどう?」

 

 一昨日、ようやくホテル暮らしから解放されて新居に住めるようになったと聞いた。

 

「…………」

 

「なんでそこで黙るんだ」

 

「い、いえっ、何でもありません」

 

 家に問題があったのか。それとも家で何か問題があったのか。口を開こうとしない。

 

 僕の話題提供は地雷しか踏まないのか。

 

「じゃあ、部活は楽しい?」

 

「はいっ、先輩たちも強くて、私も頑張らないと、って練習に身が入ります」

 

「そう、なら良かった。市ノ瀬さんは練習にも積極的だし、センスもいい。本当に好きなんだねフライングサーカス」

 

「はい。先輩も好きなんですね。フライングサーカス」

 

「……まぁ、昔から続けてきたからね」

 

 それしか言えなかった。楽しいからだとか、空を飛ぶのが好きだったとか、そんな言葉をどうしても口に出せなかった。

 

「実は私、昔の友達とした約束を叶えたくてFC部に入ったって言っちゃったとき、怒られるんじゃないかって心配だったんです」

 

 それは新入生歓迎会の時の話だ。新入部員にFCを始めたきっかけやこれからの抱負を言ってもらうとき、市ノ瀬さんが最初に指名された。慌てた彼女は今言ったことを口にした後、全部員の前で目を伏せてしまったのだ。

 

「他の人は強くなりたいって真面目に入部してるのに、自分は不純な動機で部に入ってしまったって思ったんでしょ」

 

 そこらへんの学校なら、そこまで畏縮することはなかっただろう。だけど、高藤はFCの強豪校。その上部員数も100名を越える。同じ部活のメンバーは仲間であるのと同時に競争のライバルでもあるのだ。ふざけているのかと奇異の視線を送る人がいてもおかしくはない。

 

「はい…………先輩は今の話をなんでそう思ったんですか?」

 

「……なんでだろうね」

 

 分かる。真剣と遊び、その二つから生まれる歪な温度差を知っているからだ。水と油は相容れないのと同様に、人間の気持ちはこの二つを上手く両立できない。どちらか強い方が相手を潰すまで反目し続ける。あの時、市ノ瀬さんの言ったことが遊びと思われてしまえば、彼女が面白半分に部活に入ったように捉えられ、部内で快く思わない人が出たかもしれない。

 

(まるで昔の僕みたいに)

 

 それを現実にするのが嫌だった。立場が逆であってもあの風景を見るのが耐えられなかっただけだ。

 

「……先輩はやっぱり」

 

「?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 ふふっ、と小さく微笑む後輩は小走りで先を進む。もうすぐゴールデンウィークだ。今年の連休は合宿だろうか。空では多くの星たちが瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

「沙希、日程が決まりました。ニッポンの連休に併せて、シトウへ飛びます。来週には準備をしておいてください」

 

「はい、イリーナ」

 

 前から予定していた日本の学校への転校。アヴァロン社が資金提供している海稜学園への受け入れ手続きが先ほど終わりました。

 

 沙希と二人で作り上げた【本当のフライングサーカス】それをようやく実現することができる。

 

 それを見せる舞台は彼女の生まれ故郷。日本の四島列島でした。

 

「本当に奇遇ですね。あなたの生まれ故郷がフライングサーカスの激戦区になっているだなんて。革命を起こすのにこれ以上の場所はありません」

 

「あの場所には……昔から凄い人たちがいたから」

 

 各務葵。私が興味を持つFCをした選手。彼女が編み出した【アンジェリック・ヘイロー】はFC界で革命を起こすほどのものだった。相手に一切の行動を与えない圧倒的な強さ。神々しさすら感じさせる威圧感。まさしく一段階上を踏んだ者の境地そのものだった。

 

「そうですね。ですが、彼らの時代ももうすぐ終わりです」

 

 私たちは確実にFCにおける次のステップを踏んでいる。今のFCを変えると断言できる戦略。そのための技術をこの数年間磨き続けてきた。

 

「あと少しの辛抱です。証明しましょう。あの人たちにこれからのFCがどういうものなのかを」

 

「はい。イリーナ」

 

 革命には起点が必要です。各務葵か、日向晶也。そういった生け贄と表現できるほどの強さを持った選手との対決。ですが、先の二人は両方ともこの世界から引退したと聞きます。現在肩を張れるのは私の調べた限り二人しかいません。一人は真藤一成、日本のFC界で当代頂点と謡われる男ですが、私たちにとってそれほど脅威は感じません。理由は至って簡単です。彼はまだ次のステージまで到達していない。彼のFCは今までのFCの延長線上のモノに過ぎない。本当のFCの前では何の意味もないのですから。

 

 むしろ、脅威に感じているのはもう一人の方です。その人はーーーー私のかつての友人。

 

 一年にも満たない短い期間でしたが共にFCの道を歩み、その中で私に新しいFCの可能性というモノを感じさせてくれました。

 

「またお会いできますよ、朱」

 

 

 次のステップを踏んでいるあなたなら、沙希と互角の勝負ができるかもしれませんね。

 

 

 




莉佳がヒロインをしているだと……!?

今回は明日香と晶也が佐藤院さんと試合をしていた裏側を意識した話になります。

サブタイの数え方はFCが飛行機を捩ったスポーツのためフライト[Flight]で統一。

サブタイの付け方は今まで通り、その場のノリかテーマに乗っ取ったものを付けます。

アニメはみさき√と明日香√を混ぜたお話ですね。スタッフの対談からみさきと明日香を中心に描くとありましたのである程度予想できてましたが果たしてこれからどうなるのでしょうか。9話から目が離せませんね。
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