裏RE:二十四冊目
という訳で、前回のワンサマーに何があったのか?
何故、屋上で寝てたのかのお話になります。
時はほんの少し遡る。
真琴の幼女化がメンバーに発覚する前、織斑一夏の部屋での事だ。
「・・・・・」
一夏は困惑していた。
今、自分に何が起きているのか。心当たりが無い訳ではないが、それでもこれは無い。
いや、確かに、〝無い〟のだが、そんな事を言っている場合ではない。
今はこの状況をどうするかが問題だ。
「・・・ふう、まさか、な」
〝無い〟と思ったら〝有った〟。何を言っているのか、自分でも解らないが、もうこれでいいんじゃないかと思い始めている自分が居る。
「いや、でもなぁ・・・」
あまりに予想外の事態、まさか自分が
「なんで、性転換しちゃってるかなぁ・・・」
男から女になっていた。
一応言っておくが、一夏はタイランドに行った記憶は無い。カレンダーで日付も確認した。
体に変な違和感も無い。有るが無い。手術は受けてない。
残る心当たりだが、これが一番有り得なくて有り得る。
昨日、簪から貰った飲むヨーグルト。
普段してない事と言えば、これしか思い付かない。
ISは関係無い筈、だって今更影響出る意味が解らないし、昨日は乗ってない。
だから、原因はあの飲むヨーグルトしか考えられない。
ヨーグルトで性転換するとか、自分の体がおかしいのか、ヨーグルトがおかしいのか判断に困るが、現実に性転換しているのだ。
呆けている場合ではない。早く、対策を取らねば。
しかし、何をどうすればいいか。まったくもって検討が付かない。
「箒に呼ばれてるけど、これじゃあなぁ」
一夏は自分の体を見下ろし、鏡で顔を見る。
男であった面影は無く、姉と妹とよく似ていた顔立ちは、性転換した事により更に似た顔立ちとなっている。
この状態で合流すれば、余計な混乱を招く事は確実だ。
「何処か、行くか?」
このまま部屋に居るよりは、事態が治まるまで何処かに隠れていた方がいいかもしれない。
時間経過でどうにかなるかは解らないが、何もせずにじっとしているよりマシだろう。
「あ、〝師匠〟の祠、掃除してない」
学園の屋上には、篠ノ之神社所縁の小さな祠が分社として奉られている。少し珍しい子供を守るお稲荷様の祠だ。
一夏は日課として、その祠にお詣りをして、週に一度は祠を掃除している。
これには、一夏が幼少の頃に出会った〝師匠〟と呼ぶ人物が関わっているのだが、それはまた別のお話。
しかし、掃除をしていないとはいえ、今の状態では少々厳しいものがある。
一夏は考えた。考えた末に、本格的な掃除は後日に、体が元に戻り次第で行う事にして、今日はお詣りと簡単な掃除だけにする事にした。
「お供えもよし。行くか」
一夏はお供えの米菓子と油揚げを準備し、屋上へと向かう事にした。
学園寮は夏休みとあって、何時もより静かだった。
いや、何時もが賑やかすぎるだけか。一夏は誰にも見付からぬ様に、屋上へと急いだ。
「誰も居ない、と」
屋上に続く扉から覗き込み、誰も居ない事を確認する。
目的の祠は屋上の端、今の時間は日陰になる位置にある。
夏の陽射しは厳しい。日陰になっている内に、簡単ではあるが掃除を終わらせてしまおう。
そう思って、一夏が祠の方角へ目を向けると、
「え?」
一夏は驚愕に目を見開いた。
そんな筈が無い。だって、あの祠は目印で、あの人はもう居ない。その筈なのに
「おやぁ? 見慣れぬ
一夏にとって、師であると同時にそれ以上の人物が、日陰の祠の側に佇んでいた。
「し、しょう?」
「うむ? 主、私が見えておるのかえ?」
「あ、はい。見えてます。じゃなくて、一夏です。師匠、俺です!」
「おかしな事を言う女子ぞえ。私の知る教え子は
少しどころではない位に混乱しながら、一夏は目の前の祠の側に佇む女に自分だと告げるも、そんな事がある訳が無いと、取り合ってもらえない。
確かに、今は男ではなくなっている。
どうしたものかと、一夏は頭を捻り、一つの手に出た。
「師匠」
「だからの、私は主の師ではないと」
「俺と師匠が初めて会ったのは、小学校の夏休みの肝試しで行った篠ノ之神社の裏山」
一夏の言葉に紅い着物の女は、狐を彷彿とさせる細目を僅かに見開き、一夏を訝しげに見る。
一夏はその反応に手応えを感じ、更に自分達しか知らない思い出を話していく。
「それで次に会ったのは、虫取りで裏山に入った時で、その時に」
「・・・独楽を教えたのだったかえ? 教え子よ」
「そうです。それで、師匠って呼ぶようになったんです」
やっと通じたと、一夏は喜び、女はしてやられたと言わんばかりに額を叩いた。
その顔には笑みが浮かんでいた。
「コココ、狐が教え子に謀られるとは、成長したものぞ」
「いや、騙す気は無かったんですけど」
「良い良い。して、教え子よ。如何にして、女子になったのだえ?」
「えっと、それは・・・」
嬉し気に女は一夏に近付き、細目を弓にして何故そうなったのかと問うてきたので、一夏は恐らくそうであろうと思われる原因を話した。
「多分ですけど、それが原因かなと」
「・・・・・」
「師匠?」
女は顔を伏せて震え、一夏は何かあったのかと、その顔を覗き込むと
「ケッ、ハッ! まさか、
喉奥の笑いを堪えきれずに、色白の顔に紅が差し、細目に涙を浮かべていた。
「師匠、笑いすぎですって」
「おや、師に意見するかえ? ちと、罰が必要かえ」
「あ、ちょっ」
女が細目を少し見開き、離れようとする一夏の袖を摘まんだ。
すると、一夏の体からストンと力が抜けて、膝から崩れ落ちた。訳も分からぬままに落ちていく視界が急に反転し、柔らかいものの上に頭が乗った。
「え? 力が入らない?」
「おうおう、まだまだ青いのぅ」
一夏の目の前に師の顔があり、手がある。柔らかな視線に見下ろされて、暖かい手に髪を梳けずられて、体から自然と力が抜けて、瞼が重くなっていく。
「あ、れ・・・」
「コココ、主は良き子よ。無理せず、眠ってしまえ」
「し、しょう・・・」
「・・・これは夢よ。現世の夢ぞ? 次に起きたら、全ては泡沫ぞ」
だからの、私の愛しい愛しい教え子よ。
「目が覚めたら、忘れてしまえ。あまり、夢にかまけるものではないぞえ?」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「おりむー、見っけ~」
男に戻った一夏が眠る屋上に、間延びした声が転がった。
声の主である布仏本音は、一夏が眠る日陰の祠へとのろのろとした動きで近付く。
「お嬢様に報告だ~」
普段お嬢様呼びをしていないのに、こんな時だけお嬢様呼びをしている。
「報告、終わり~」
最近、学園生徒全員にテスターを兼ねて配布された表示枠を閉じて、本音は一夏を背負った。
小柄な本音だが、学園生徒は見た目の割には鍛えられている。持ち上げるのは厳しいが、背負って運ぶくらいならなんとかなる。
本音は一夏を背負うと、祠へ振り向き手を振って笑った。
「またね~、お狐様~」
「コココ、バレてしもうたか」
「かくれんぼは私の勝ちだね~」
本音が手を振った祠から、九本の狐尾を伸ばした女が袖で口許を隠しながら、本音の周りに浮かび漂う。
「じゃあ、このお菓子は私の~」
「仕方ないのぅ」
「にひひ」
笑う本音の背中で眠る一夏が、少しだけ身を揺すった。
その一夏の頭を、狐はゆっくりと撫でた。
「眠れ眠れ、良き子よ。目が覚めたら、笑っておくれ」
「おりむー良い子だ~、ねんねしな~」
二人は子守唄を唄い、学園寮の中へと入っていった。
次回
チビママ乱舞