「そう言えばさ、真琴のパワーの限界ってどこなの?」
鈴がそう言った。手にはレンゲに杏仁豆腐を掬っていた。
「ふむ、そうだな」
向かいに座る箒が、番茶を啜りながら頷いた。
そして、静かにメニュー表にある本練水羊羹を指し示す。
「無料じゃないって訳ね」
「土産も欲しいな。部屋で二人が待っている」
「呼べば? 私、今は懐にかなり余裕があるわ」
鈴は言った後、後悔の色を顔に浮かべた。箒が微笑んだからではない。彼女はよくとんでも理論で、こちらを押し込んでくるが、それ程こちらに被害を出したりはしない。そう、彼女一人ならだ。
「なら、僕はあんみつね」
「私は宇治あんみつを戴きますわ。最近、日本茶に嵌まってますの」
「私は、葛餅。あ、黒蜜ときな粉で」
「俺、俺も、冷やし白玉で」
「あんた達、どっから湧いてくるのよ?!」
この手の話をすると、大体九割の確率で、何時ものメンバーが何処からともなく湧いてくる。
そして、断りなく大量の注文と、会計を押し付けてくるのだ。
と言っても、鈴も同じ事をやっているので、お互い様と言えばお互い様であったりする。
「まあ、いいじゃない。私も真琴のパワーは気になる」
「確かにな」
簪が言うと、一夏が同意を示す。鈴もそれには同意だ。
適度によく冷えた水羊羹を、箒は切り分けながら、彼女は表示枠を開いた。
ほーき¦『真琴、今大丈夫か?』
本熊¦『どう‥した…の‥?』
ほーき¦『食堂に来れるか?』
本熊¦『…大丈…夫…、ラウラ…』
熊兎娘¦『行く!』
ほーき¦『ああ、待っている。後、今日は鈴の奢りだぞ』
すずね¦『あ、ちょっ!?』
箒が表示枠を閉じ、切り分けた水羊羹を一口。湯気の立つ番茶を啜る。
「さあ、鈴の財布は何処まで保つのか?」
「鈴さん、お金の貸し借りは避けたいのですが、もし足りなければ……」
「やめてセシリア、余計に虚しくなるわ……」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「…来た…よ」
「うむ、みつ豆を食べるか?」
「食べる!」
「はっはっはっ、いい返事だ、ラウラ」
涼やかな硝子の器に、寒天、小豆、果物が盛られ、同じ盆には黒蜜の入った器がある。
「さて、真琴。お前を呼んだのは、これだ」
みつ豆を食べる真琴とラウラの前に、一枚の金属を出す。それは硬貨ではなく、何かの絵が描かれたコインだった。
「コイン? この間の?」
「ああ、久々のゲームセンターで、久々にコインゲームを見てな。懐かしく思ってな」
「んで、そのコインを?」
「真琴、いけるか?」
「…へ? …うん…」
真琴がテーブルのコインを、人差し指と親指で摘まみ、いとも簡単に折り曲げた。
「え、マジで?」
「うむ、硬貨を変形させるのは犯罪だからな」
「あ~、真琴。まさかだが、そのコイン、もう一度曲げられる?」
「…あ、…うん‥」
シャルロットが言うと、真琴はみつ豆を口に含んだまま頷き、二つ折りになったコインを再び手に取った。
「あぁ! ゲーセンのコインが四つ折りに……!」
「フォーチュンクッキーみたいになった……」
「?」
驚愕に引く面々を、真琴はみつ豆を口に運びながら、キョトンとした顔で見ていた。
「ほら、ラウラ。口の周りに黒蜜が着いてるぞ」
「おむむ……」
「いや、なに普通にしてるのよ?」
「なにがだ?」
「真琴さんのこれですわ……!」
フォーチュンクッキーになったコインを、セシリアが摘まみ上げ、箒に突き出した。
鈍色のそれを箒は受け取り、懐かしいものを見る目で見ていた。
「うむ、やはり真琴は素晴らしいな……!」
「はい、ダメ。箒が始まった」
簪が葛餅に追加の黒蜜を回し掛けながら、表示枠を開いた。
髪飾¦『箒劇場が始まる』
白夏¦『なにそれ?』
白猫¦『ははは、一夏は馬鹿だなぁ』
白夏¦『ひどくね?』
蒼雫¦『まあ、一夏さんですから』
すずね¦『安定の扱いね』
白玉につぶ餡を乗せ、口に放り込む。
慣れた安定の扱い、特に気にする事は無い。
一夏は表示枠に打ち込んでいく。
白夏¦『吹雪、居るか?』
空腹娘¦『あ、一夏だ』
すずね¦『久し振りね、睦月は?』
にゃしぃ¦『久し振りー』
白夏¦『いきなりだけどさ、吹雪。コイン曲げれる?』
ズーやん¦『いやいや、ふぶっちを何だと思ってんの?』
邪気目¦『〆るか』
船長¦『〆るぞ』
元ヤン¦『潰すぞ』
二人¦『誠に申し訳ありませんでした……!』
ちょっとの提案のつもりが、予想外な返しというか、予想出来た人物達から強烈な返しが来た。
空腹娘¦『コイン? 曲げれますよーう』
白夏¦『マジで?』
空腹娘¦『ほい』
にゃしぃ¦『うわ、ホントに曲げた!』
空腹娘¦『お腹が空きましたよーう』
すずね¦『あれ、吹雪? おーい』
にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、冷蔵庫のタッパーは今日の晩御飯だよ』
白夏¦『あ、いつものだ』
これを最後に、表示枠内から二つの名前が消えた。
「え~、因みに、この中でコインをフォーチュンクッキーに出来る人」
「居ると思うの?」
「はい、すみません」
綺麗な謝罪をする一夏達を他所に、簪はテーブルの一画に目をやる。
「む…む……」
「母様母様、これはおいしいぞ!」
「はっはっはっ、白玉あんみつはどうだ?」
箒が真琴に次々と皿を渡し、真琴も箒から渡されるままに、甘味をラウラと共に次々と片付けていく。
食堂のテーブルに、夏用の硝子の器が塔を作っていく。
「あ、私も磯辺餅追加、焙じ茶も」
それを見た簪は、どさくさに紛れてメニューを追加、フォーチュンクッキーコインを、どうにかして戻そうと躍起になっているメンバー達を見る。
「真琴、因みにあれ、戻せる?」
「…あ…うん‥」
フォーチュンクッキーコインが、真琴の握力によって、ただの折れ目がついたコインに戻った。
それを見た箒とラウラ以外が、少し距離を取った。
「うむ、流石だ、真琴。あ、そうだな。いきなり話を変えるが、明日実家に行こう」
「へ?」
「はっはっはっ、御義母様にお呼ばれをしたのだ」
「えぇ……」
湯気の立つ番茶を一口啜り、箒は当たり前の様に言った。
次回
強制イベント発動&真琴ママン登場?