とある代表候補生の奮闘記   作:ジト民逆脚屋

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ド葛本社が好きです


RE:三十四冊目

「しっかし、IS学園ってのはどうなんだ?」

 

真琴の着替えを待つ間、鷹山がたこ焼きを片手に、箒に問う。

また、いきなりだなと箒は、鷹山の持つたこ焼きを一つ取り、口に運ぶ。

 

「あ、おい」

 

鷹山が抗議するが、一つくらいで目くじら立てるなと、牛串の屋台を指差す。

 

「一本七百円を奢ってくれよう」

「なんで、上から目線だよ」

「はっはっはっ、なに気にするな」

 

箒は焼き上がったばかり牛串を、纏めて買い上げると、串が束となってはみ出たプラトレイの、串が飛び出ている側を鷹山へ向ける。

角切りにされた牛肉が、醤油味の甘辛いタレに漬けられ、黒い焼き色を照り返している。

 

「また随分と張り込んだな」

「ふむり、どうせイタチとツバメも来ているのだろう」

「当たり前だろ」

 

串の肉を食めば、硬く筋っぽいが食べ応えのある食感と、牛肉特有の血肉の味に甘辛い醤油ダレが混ざり、口に広がる。

 

「一味、いや七味が欲しいな」

「飲んべえのオヤジか、お前は」

「いやな、学園ではこう、シンプルに直接的というか、まあ単純にジャンクなメニューが無くてな」

「ハンバーガーとか、あるんじゃねえのか?」

「あるにはあるぞ。某ファーストフードではなく、専門店で出てきそうな豪勢なやつがな」

「あ~、それはなんか変化球だな」

 

噛み応えのある肉を噛みながら、神社の境内にある石垣の端に腰掛ける。

箒の言う、シンプルなジャンクフードというのは、世間一般のチェーン店が提供する大量生産品で、専門店が提供するこだわりの一品ではない。

 

「こう、薄いパテにやけに黄色いチーズ、どことなく消毒液の気配を感じる気がする野菜に、やたら味の濃いケチャップとソース」

「あと、パサパサのバンズな」

「ははは、美味しさの気配を感じない表現なのに、何故かな。たまに食べたくなる」

 

更に贅沢を言えば、厚切りではなく細切りのポテトが欲しい。と、箒が言うと、本当に鶏肉使ってるかたまに疑いたくなるナゲットはどうよ。と、鷹山が言う。

 

「それも欲しいが、それなら氷まみれのコーラも要るな」

「ああ、それだ」

 

時刻は昼間から夕方へ移り、屋台や街灯にも、ちらほらと灯りが灯り始める。日が陰り、人工の光に照らされながら、その様に話していると、不意に二人をぬぅっと影が被った。

 

「…箒ちゃん……タカちゃん…」

 

普段通りのシャツに、ロングスカート姿の真琴が、ぼんやりと二人を見下ろしていた。

周囲からは少し異様とも見える光景だが、箒と鷹山からすれば当たり前の光景だ。

口が少し開いているから、牛串を寄越せという事だろう。箒の手にあるトレイから、牛串を一本取り、手を伸ばして真琴の口に入れる。

空腹だったのか。あっという間に串の肉が無くなる。

見れば、箒が次の串を渡している。

ここに鼬川と燕谷が揃えば、中学の頃から続くお馴染みの光景となる。

だが今は違う。そうではない。

 

「クマ、その小せえのはなんだ?」

「え……? ……ラウラ…」

 

よし、名前は分かった。名前はラウラ、銀髪と黒い眼帯の目立つ外国人の子供。問題は何故、そのラウラが真琴の足にしがみついて、こちらを威嚇する様に見ているかだ。

さて、どうしたものか。真琴に子供がくっついているのは、なにもこれが初めてではない。

以前にも、何度か似た様な事があった。しかし、それは全員が地元の顔が知れた子供だけで、ラウラの様な、外国人の子供は初めてだ。

 

「よーしよしよし、クマ。どっから連れて来たか知らんが、大人しく元の場所に返してこい」

「え……ドイツに……?」

「んー?」

 

ラウラはドイツ人の様だ。だが、何故にドイツ人が極東の島国、そのド田舎の夏祭りに居るのか。

箒が顔を明後日の方角に向けて、笑いを堪えているのが気になるが、今は友人を誘拐犯にしない事が優先だ。

 

「…タカちゃん……」

「動くな、動くなよー、クマ」

 

垂らしていた前髪の房を、指でかき上げて、鷹山が真琴にじわじわと迫る。

大丈夫だ。肉体のスペックとしての瞬発力や速度は、真琴の方が上だが、小回りや柔軟性に関してはこちらが有利。

タックルからテイクダウンを取るのは不可能、打撃や投げで勝てる訳も無い。ならば一息に絡んで極めるしかない。

真琴のリーチは広く、掻い潜るのは至難の技だが、自分ならやれる。

鷹山が腰を落とし、真琴が動きを見せる前に、一気に極めようとした時、小さな姿が二人の間に割って入った。

 

「やめろー! 母様をいじめるなヤンキー!」

「ヤン……?! ははさ……、はあ!!?」

「ぶっは……!」

 

構えた鷹山の前にラウラが、若干涙目で立ち塞がり、ラウラの発言に鷹山が混乱して、真琴と箒を交互に見た。そこで、限界が来た箒が堪らず吹き出し、腹を抱えて笑い出し、真琴は涙目のラウラを抱えて狼狽えた。

数人、通行人がこちらを見てくるが、そんなものを気にしている場合ではない。

 

「いや、待て。母、母つったか? チビスケ」

「は、母様は母様だぞヤンキー!」

「あたしゃヤンキーじゃねえんだが、まあいいや。箒……!」

「はっはっはっ、まあ色々あったのだ。気にするな」

「いや、気にするなってお前な」

 

昔から、何かと騒動が起きては、中心に居たりするのが箒と、大概巻き込まれる真琴だが、今回のこれは一体どういう事か。

真琴は日本人、ラウラはドイツ人だ。正確な年齢は分からないが、体格的には自分達より下なのは確かだ。

科学技術の発展した昨今、同性同士で子を為す事も、難しいが不可能ではない。だが、箒と真琴の貞操観念は、乱れたものではないと、鷹山は記憶している。しかし、世界中から人材の集まるIS学園、何らかの影響を受けて、過ちを犯してしまった可能性もある。

もし、仮にそうだとしても年齢が合わず、人種も合わない。というか、ラウラはドイツ人だ。

 

「タカちゃん……?」

 

真琴にしがみつくラウラと、笑いの止まらない箒、この状況に狼狽えたままの真琴。この三人の関係性に、頭の中で長考を重ねた鷹山は、一つ答えを出した。

 

「……箒、イタチとツバメにはまだ会ってねえよな?」

「ふふ、ああ、まだだとも」

「よっしゃ、あの二人で遊ぶぞ」

 

この現在を知らない友人二人をからかって遊ぶ、だ。

 

「ははは、どうからかうかによるが、……しかし、タカ」

「あ?」

「……なんでもない。後で話そう」

「おう、また面倒くさそうな事考えてんだろ? お前らがそれでいいなら、あたしは何も言わね」

「すまんな」

 

気にするなと、鷹山は少し冷めた牛串を二本取り、一本を己に、もう一本をラウラに差し出す。

 

「ほれ、あたしは鷹山・美那。箒とクマとは中学からの付き合いだ」

「……ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「そっか」

 

牛串を齧りながら、ラウラがむすっとした表情で返事をする。

さて、このチビスケをどうしてくれよう。鷹山は考える。

真琴と箒が連れているという事は、ラウラには問題は無いという事だ。

何やら難しい事情を抱えていそうだが、そんなものは知った事ではない。

久々に帰ってきた友人二人が、少し変わった仲間を増やしていた。ただそれだけの事だ。

この後、屋台を巡回しているもう二人と合流して、久々に夜通し騒ぐのも悪くないかもしれない。

 

「食ったか」

「食べた」

「よし、真琴、箒。射的やろうぜ射的。負けた奴は、焼きもろこし奢りな」

「……え…いいの?」

「ははは、真琴のリーチだと、圧勝されるがな」

「あ? クマは代わりにチビスケがやるんだよ」

「ふぇ?」

「さーて、チビスケ。お前が負けたら、クマはあたしら全員に焼きもろこし奢る事になるぞお?」

「ひ、卑怯だぞヤンキー!」

「はははは、聞こえねー」

 

難しい話はその時に、聞けたら聞けばいい。そうでなくても、態々掘り返す話でもなかろう。

抗議に暴れるラウラの頭を片手で押さえて、鷹山は射的の屋台がある参道へと足を向けた。

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