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ド葛本社が好きです
「しっかし、IS学園ってのはどうなんだ?」
真琴の着替えを待つ間、鷹山がたこ焼きを片手に、箒に問う。
また、いきなりだなと箒は、鷹山の持つたこ焼きを一つ取り、口に運ぶ。
「あ、おい」
鷹山が抗議するが、一つくらいで目くじら立てるなと、牛串の屋台を指差す。
「一本七百円を奢ってくれよう」
「なんで、上から目線だよ」
「はっはっはっ、なに気にするな」
箒は焼き上がったばかり牛串を、纏めて買い上げると、串が束となってはみ出たプラトレイの、串が飛び出ている側を鷹山へ向ける。
角切りにされた牛肉が、醤油味の甘辛いタレに漬けられ、黒い焼き色を照り返している。
「また随分と張り込んだな」
「ふむり、どうせイタチとツバメも来ているのだろう」
「当たり前だろ」
串の肉を食めば、硬く筋っぽいが食べ応えのある食感と、牛肉特有の血肉の味に甘辛い醤油ダレが混ざり、口に広がる。
「一味、いや七味が欲しいな」
「飲んべえのオヤジか、お前は」
「いやな、学園ではこう、シンプルに直接的というか、まあ単純にジャンクなメニューが無くてな」
「ハンバーガーとか、あるんじゃねえのか?」
「あるにはあるぞ。某ファーストフードではなく、専門店で出てきそうな豪勢なやつがな」
「あ~、それはなんか変化球だな」
噛み応えのある肉を噛みながら、神社の境内にある石垣の端に腰掛ける。
箒の言う、シンプルなジャンクフードというのは、世間一般のチェーン店が提供する大量生産品で、専門店が提供するこだわりの一品ではない。
「こう、薄いパテにやけに黄色いチーズ、どことなく消毒液の気配を感じる気がする野菜に、やたら味の濃いケチャップとソース」
「あと、パサパサのバンズな」
「ははは、美味しさの気配を感じない表現なのに、何故かな。たまに食べたくなる」
更に贅沢を言えば、厚切りではなく細切りのポテトが欲しい。と、箒が言うと、本当に鶏肉使ってるかたまに疑いたくなるナゲットはどうよ。と、鷹山が言う。
「それも欲しいが、それなら氷まみれのコーラも要るな」
「ああ、それだ」
時刻は昼間から夕方へ移り、屋台や街灯にも、ちらほらと灯りが灯り始める。日が陰り、人工の光に照らされながら、その様に話していると、不意に二人をぬぅっと影が被った。
「…箒ちゃん……タカちゃん…」
普段通りのシャツに、ロングスカート姿の真琴が、ぼんやりと二人を見下ろしていた。
周囲からは少し異様とも見える光景だが、箒と鷹山からすれば当たり前の光景だ。
口が少し開いているから、牛串を寄越せという事だろう。箒の手にあるトレイから、牛串を一本取り、手を伸ばして真琴の口に入れる。
空腹だったのか。あっという間に串の肉が無くなる。
見れば、箒が次の串を渡している。
ここに鼬川と燕谷が揃えば、中学の頃から続くお馴染みの光景となる。
だが今は違う。そうではない。
「クマ、その小せえのはなんだ?」
「え……? ……ラウラ…」
よし、名前は分かった。名前はラウラ、銀髪と黒い眼帯の目立つ外国人の子供。問題は何故、そのラウラが真琴の足にしがみついて、こちらを威嚇する様に見ているかだ。
さて、どうしたものか。真琴に子供がくっついているのは、なにもこれが初めてではない。
以前にも、何度か似た様な事があった。しかし、それは全員が地元の顔が知れた子供だけで、ラウラの様な、外国人の子供は初めてだ。
「よーしよしよし、クマ。どっから連れて来たか知らんが、大人しく元の場所に返してこい」
「え……ドイツに……?」
「んー?」
ラウラはドイツ人の様だ。だが、何故にドイツ人が極東の島国、そのド田舎の夏祭りに居るのか。
箒が顔を明後日の方角に向けて、笑いを堪えているのが気になるが、今は友人を誘拐犯にしない事が優先だ。
「…タカちゃん……」
「動くな、動くなよー、クマ」
垂らしていた前髪の房を、指でかき上げて、鷹山が真琴にじわじわと迫る。
大丈夫だ。肉体のスペックとしての瞬発力や速度は、真琴の方が上だが、小回りや柔軟性に関してはこちらが有利。
タックルからテイクダウンを取るのは不可能、打撃や投げで勝てる訳も無い。ならば一息に絡んで極めるしかない。
真琴のリーチは広く、掻い潜るのは至難の技だが、自分ならやれる。
鷹山が腰を落とし、真琴が動きを見せる前に、一気に極めようとした時、小さな姿が二人の間に割って入った。
「やめろー! 母様をいじめるなヤンキー!」
「ヤン……?! ははさ……、はあ!!?」
「ぶっは……!」
構えた鷹山の前にラウラが、若干涙目で立ち塞がり、ラウラの発言に鷹山が混乱して、真琴と箒を交互に見た。そこで、限界が来た箒が堪らず吹き出し、腹を抱えて笑い出し、真琴は涙目のラウラを抱えて狼狽えた。
数人、通行人がこちらを見てくるが、そんなものを気にしている場合ではない。
「いや、待て。母、母つったか? チビスケ」
「は、母様は母様だぞヤンキー!」
「あたしゃヤンキーじゃねえんだが、まあいいや。箒……!」
「はっはっはっ、まあ色々あったのだ。気にするな」
「いや、気にするなってお前な」
昔から、何かと騒動が起きては、中心に居たりするのが箒と、大概巻き込まれる真琴だが、今回のこれは一体どういう事か。
真琴は日本人、ラウラはドイツ人だ。正確な年齢は分からないが、体格的には自分達より下なのは確かだ。
科学技術の発展した昨今、同性同士で子を為す事も、難しいが不可能ではない。だが、箒と真琴の貞操観念は、乱れたものではないと、鷹山は記憶している。しかし、世界中から人材の集まるIS学園、何らかの影響を受けて、過ちを犯してしまった可能性もある。
もし、仮にそうだとしても年齢が合わず、人種も合わない。というか、ラウラはドイツ人だ。
「タカちゃん……?」
真琴にしがみつくラウラと、笑いの止まらない箒、この状況に狼狽えたままの真琴。この三人の関係性に、頭の中で長考を重ねた鷹山は、一つ答えを出した。
「……箒、イタチとツバメにはまだ会ってねえよな?」
「ふふ、ああ、まだだとも」
「よっしゃ、あの二人で遊ぶぞ」
この現在を知らない友人二人をからかって遊ぶ、だ。
「ははは、どうからかうかによるが、……しかし、タカ」
「あ?」
「……なんでもない。後で話そう」
「おう、また面倒くさそうな事考えてんだろ? お前らがそれでいいなら、あたしは何も言わね」
「すまんな」
気にするなと、鷹山は少し冷めた牛串を二本取り、一本を己に、もう一本をラウラに差し出す。
「ほれ、あたしは鷹山・美那。箒とクマとは中学からの付き合いだ」
「……ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「そっか」
牛串を齧りながら、ラウラがむすっとした表情で返事をする。
さて、このチビスケをどうしてくれよう。鷹山は考える。
真琴と箒が連れているという事は、ラウラには問題は無いという事だ。
何やら難しい事情を抱えていそうだが、そんなものは知った事ではない。
久々に帰ってきた友人二人が、少し変わった仲間を増やしていた。ただそれだけの事だ。
この後、屋台を巡回しているもう二人と合流して、久々に夜通し騒ぐのも悪くないかもしれない。
「食ったか」
「食べた」
「よし、真琴、箒。射的やろうぜ射的。負けた奴は、焼きもろこし奢りな」
「……え…いいの?」
「ははは、真琴のリーチだと、圧勝されるがな」
「あ? クマは代わりにチビスケがやるんだよ」
「ふぇ?」
「さーて、チビスケ。お前が負けたら、クマはあたしら全員に焼きもろこし奢る事になるぞお?」
「ひ、卑怯だぞヤンキー!」
「はははは、聞こえねー」
難しい話はその時に、聞けたら聞けばいい。そうでなくても、態々掘り返す話でもなかろう。
抗議に暴れるラウラの頭を片手で押さえて、鷹山は射的の屋台がある参道へと足を向けた。