しかし、今年は賑わっている。
鷹山はいか焼きを頬張りながら、祭りの通りを眺め、離れた屋台から、こちらへ戻ってくる長身に手を振り、通知を報せる携帯端末を開く。
「あたしらは夏休みでも、世間様は忙しいな」
『加賀美インダストリアル、世界初の飛行可能Eosを開発。代表取締役加賀美ハヤト氏「これよくないですか!?」』
『東京奥多摩でバランの妖精が目撃される』
『世界的富豪オーフィリア家当主来日、来日理由は最愛の人を迎えに来た?』
『オーフィリア家当主グレイ・オーフィリア氏来日の影に、謎の人物? 〝リンドウ〟とは何者なのか』
『人気コンビ舞元力一、チャリでベトナム縦断?』
『桃鉄ソロプレイ、ヘルエスタ王国第二皇女陰キャ確定か?』
「最後のは、放っといてやれよ」
「え…何が……?」
「ああ、気にすんな」
ニュースと届いたメールを確認し、携帯端末を閉じた鷹山が顔を上げると、真琴が数本のペットボトルを入れた、やけに張った袋を提げて、こちらを覗き込んでいた。
長身で長髪の真琴が、膝を曲げずに、背を丸める様に腰を曲げると、中々にホラーテイストになるのだが、鷹山はもう馴れている。
黒い髪のカーテンを気にする事無く、真琴が提げているビニル袋から、透明な炭酸飲料のペットボトルを引き抜くと、水と氷の混ざった音がした。
「サービス良いじゃねえか」
「イタチ…の……おばさんが…くれたの……」
「イタチの? つー事は……」
「おーい、タカー。って、クマ帰ってんじゃんか。箒とツバメは?」
「話が早えよ、イタチ」
半袖のツナギに、歯車の模様の入ったシャツ。そして、腰には中身の張ったウエストポーチ、頭にはこれまた歯車の模様のバンダナを巻いている。
夏だから、全体的な布地は薄めなのだが、シンプルなシャツとズボンの二人に比べ、重装備感が強い。
「イタチ…久し…振り……」
「やっほやっほ、ひっさしぶりー。どうよ、あっちでの箒との生活はさ?」
「えっ…とね……?」
真琴と箒、鷹山とつるんでいた残りの二人の内の一人であり、いつも人好きのする笑みを浮かべている。
「いやー、オヤジの奴が安請け合いするから、あっちこっち走り回った。んで、クマー、箒との生活とか、ISはどうなのさ?」
「はっはっはっ、それに関しては私から話そう」
「あ、箒、おひさー。金魚に綿飴持って、焼きそばたこ焼きは祭り満喫し過ぎじゃない? ……つか、その銀髪ロリ誰よ?」
「ぴゃっ!」
真琴に次ぐ長身の鼬川が、その長い体を曲げて、箒の上着の裾を掴んでいたラウラを怪訝な顔で覗き込む。すると、さっと箒の後ろに隠れてしまい、頭に着けたヒーロー物のお面が揺れた。
「ふむり、ラウラだ」
「オッケー、ラウラね。IS学園の?」
「如何にも、IS学園のラウラだ」
「オケオケ、IS学園のラウラね」
「そうだ。ほら、ラウラ。イタチだ」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
それだけ言うと、ラウラは真琴へ目掛けて走り去ってしまう。
そして、
「母様ー」
「そっかー、クマが母さ……、はあっ?!」
ここで鷹山が吹き出し、真琴は不思議そうな顔で、ラウラを抱き上げた。
「く、くく、クマ?」
「イタチ…どうした……の…?」
「は、はは、母様って?」
「母様は母様だぞ?」
「な、お? え、うん? ……タカー!!」
すると、鼬川は息を吐いて、腹を抱えながら、声を殺して笑っていた鷹山の首を、額を擦り合わせる距離までしがみつく様に引き寄せる。
「いや、どういう事よ?」
「さあて、どういう事だろうなぁ?」
「待って待って、本当にクマの子供? そしたら、相手は箒? いやいやでも、あの箒が手ぇ出すか? というか、ヤバイよタカ。ツバメがこれ知ったら……!」
「まあ、落ち着け。あれはだな……」
「誰が、何を知ったら、ヤバイのかしら? イタチ、タカ?」
その突然の声に、イタチの頭が壊れた人形の様に、ゆっくりと動く。
振り向いたその先には、柔らかな笑みを浮かべる友が、はし巻きの乗ったトレイを手にしていた。
蜜色の、少しだけ色の濃い肌と、鷹山とは違い、冷たさを感じさせる鋭利な瞳。
長く艶のある髪を靡かせ、はし巻きのトレイを鷹山に渡して、確かな足取りで箒の前へと歩む。
「お久し振り、箒」
「はっはっはっ、久し振りなだな。ツバメ」
ツバメ、
シンプルなシャツと、タイトジーンズに長い足を包み、快活に笑う箒の前に立つ彼女だが、その表情は久々の友との再会を喜ぶというよりは、何か仇敵との再会した様な、いややはり友と再会した様な、そんな何とも言い難い表情だった。
「箒、まずはお帰りなさい。そして、箒。今の話はどういう意味かしら?」
「ふむり、ツバメよ。今の話とは?」
「箒、私は自分のIS適性の低さを、これ程までに恨んだ時は無いわ」
深い溜め息を吐いて、腕を組んで額を押さえる。
やれやれと、また息を吐くと、鷹山がはし巻きを齧りながら、声をかけてくる。
「おーい、これ食ってもいいのか?」
「タカ、食べてもいいけど、事の重大さを理解してるの?」
「あー……、理解してるしてる。クマと箒がチビスケ連れて帰ってきたって話だろ」
「そう、それよ! ほら、クマ。貴女もこっちに来なさい」
「え…うん……」
両手にはし巻きを握ったラウラを抱えて、真琴が燕谷に近寄る。
「箒、私は私の無能を憎むわ」
「はっはっはっ、中々に大それた話になってきたな?」
「ええ、本当にね」
そう言うと燕谷は、両手に持ったはし巻きを齧るラウラに向き直る。
「…ツバメ……?」
「まったく……」
燕谷の手が、ゆっくりとラウラに向けて伸び、両頬を軽く摘まみ上げた。
「こんな愛らしい子と、クマのセットの日々が見られないなんて……!」
「おぶぶ」
「やだ、もち肌とかそんなレベルじゃないわね。どういうスキンケアしたら、こうなるの?」
「はっはっはっ、ツバメ。とりあえず、そこまでだ。ラウラが伸びる」
「あら、ごめんなさいね」
そう言って、ラウラから手を離すと、燕谷はポケットからウェットティッシュを取り出し、ラウラの口の周りに着いたソースを拭う。
「んむむ?」
「うふふ、あー、本当に恨むわー。IS適性Eを恨むわー」
「え…と……ツバメ…?」
「ああ、そうね。じゃ、改めまして、ラウラちゃん? 燕谷・カリーナ、クマとは中学からの付き合いよ」
宜しくね、とまだ混乱の最中にあるラウラと握手し、空いた手でラウラの頭を撫でる。
「あらあら、サラサラじゃないの。本当に羨ましいわー」
「ツバメ、お前この後は?」
「空いてるわよ。というより、暫くは空いてるわ」
「よし、そんじゃ各々買い出しをしてから、クマの家集合な」
「え…?」
鷹山がそう言うと、真琴は聞いてないと、きょとんとした表情を浮かべる。
「実はさっき、真琴のカーちゃんからメールがあってな。オヤジさんが出先で忘れ物して、それを届けついでに、夫婦で小旅行に行くらしい」
「真琴カーちゃん自由過ぎない?」
「イタチ、何時ものよ」
「……聞いて…ない……」
「ま、色々聞きたい話もあるし、いいじゃねえか」
鷹山がそう言って、真琴の背中を軽く叩くと、真琴はがくりと肩を落とした。