とある代表候補生の奮闘記   作:ジト民逆脚屋

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RE:三十五冊目

しかし、今年は賑わっている。

鷹山はいか焼きを頬張りながら、祭りの通りを眺め、離れた屋台から、こちらへ戻ってくる長身に手を振り、通知を報せる携帯端末を開く。

 

「あたしらは夏休みでも、世間様は忙しいな」

 

 

『加賀美インダストリアル、世界初の飛行可能Eosを開発。代表取締役加賀美ハヤト氏「これよくないですか!?」』

『東京奥多摩でバランの妖精が目撃される』

『世界的富豪オーフィリア家当主来日、来日理由は最愛の人を迎えに来た?』

『オーフィリア家当主グレイ・オーフィリア氏来日の影に、謎の人物? 〝リンドウ〟とは何者なのか』

『人気コンビ舞元力一、チャリでベトナム縦断?』

『桃鉄ソロプレイ、ヘルエスタ王国第二皇女陰キャ確定か?』

 

 

「最後のは、放っといてやれよ」

「え…何が……?」

「ああ、気にすんな」

 

ニュースと届いたメールを確認し、携帯端末を閉じた鷹山が顔を上げると、真琴が数本のペットボトルを入れた、やけに張った袋を提げて、こちらを覗き込んでいた。

長身で長髪の真琴が、膝を曲げずに、背を丸める様に腰を曲げると、中々にホラーテイストになるのだが、鷹山はもう馴れている。

黒い髪のカーテンを気にする事無く、真琴が提げているビニル袋から、透明な炭酸飲料のペットボトルを引き抜くと、水と氷の混ざった音がした。

 

「サービス良いじゃねえか」

「イタチ…の……おばさんが…くれたの……」

「イタチの? つー事は……」

「おーい、タカー。って、クマ帰ってんじゃんか。箒とツバメは?」

「話が早えよ、イタチ」

 

半袖のツナギに、歯車の模様の入ったシャツ。そして、腰には中身の張ったウエストポーチ、頭にはこれまた歯車の模様のバンダナを巻いている。

夏だから、全体的な布地は薄めなのだが、シンプルなシャツとズボンの二人に比べ、重装備感が強い。

 

「イタチ…久し…振り……」

「やっほやっほ、ひっさしぶりー。どうよ、あっちでの箒との生活はさ?」

「えっ…とね……?」

 

鼬川・理穂(いたちがわ・りほ)、通称イタチ。

真琴と箒、鷹山とつるんでいた残りの二人の内の一人であり、いつも人好きのする笑みを浮かべている。

 

「いやー、オヤジの奴が安請け合いするから、あっちこっち走り回った。んで、クマー、箒との生活とか、ISはどうなのさ?」

「はっはっはっ、それに関しては私から話そう」

「あ、箒、おひさー。金魚に綿飴持って、焼きそばたこ焼きは祭り満喫し過ぎじゃない? ……つか、その銀髪ロリ誰よ?」

「ぴゃっ!」

 

真琴に次ぐ長身の鼬川が、その長い体を曲げて、箒の上着の裾を掴んでいたラウラを怪訝な顔で覗き込む。すると、さっと箒の後ろに隠れてしまい、頭に着けたヒーロー物のお面が揺れた。

 

「ふむり、ラウラだ」

「オッケー、ラウラね。IS学園の?」

「如何にも、IS学園のラウラだ」

「オケオケ、IS学園のラウラね」

「そうだ。ほら、ラウラ。イタチだ」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

それだけ言うと、ラウラは真琴へ目掛けて走り去ってしまう。

そして、

 

「母様ー」

「そっかー、クマが母さ……、はあっ?!」

 

ここで鷹山が吹き出し、真琴は不思議そうな顔で、ラウラを抱き上げた。

 

「く、くく、クマ?」

「イタチ…どうした……の…?」

「は、はは、母様って?」

「母様は母様だぞ?」

「な、お? え、うん? ……タカー!!」

 

すると、鼬川は息を吐いて、腹を抱えながら、声を殺して笑っていた鷹山の首を、額を擦り合わせる距離までしがみつく様に引き寄せる。

 

「いや、どういう事よ?」

「さあて、どういう事だろうなぁ?」

「待って待って、本当にクマの子供? そしたら、相手は箒? いやいやでも、あの箒が手ぇ出すか? というか、ヤバイよタカ。ツバメがこれ知ったら……!」

「まあ、落ち着け。あれはだな……」

「誰が、何を知ったら、ヤバイのかしら? イタチ、タカ?」

 

その突然の声に、イタチの頭が壊れた人形の様に、ゆっくりと動く。

振り向いたその先には、柔らかな笑みを浮かべる友が、はし巻きの乗ったトレイを手にしていた。

蜜色の、少しだけ色の濃い肌と、鷹山とは違い、冷たさを感じさせる鋭利な瞳。

長く艶のある髪を靡かせ、はし巻きのトレイを鷹山に渡して、確かな足取りで箒の前へと歩む。

 

「お久し振り、箒」

「はっはっはっ、久し振りなだな。ツバメ」

 

ツバメ、燕谷(つばめたに)・カリーナ。

シンプルなシャツと、タイトジーンズに長い足を包み、快活に笑う箒の前に立つ彼女だが、その表情は久々の友との再会を喜ぶというよりは、何か仇敵との再会した様な、いややはり友と再会した様な、そんな何とも言い難い表情だった。

 

「箒、まずはお帰りなさい。そして、箒。今の話はどういう意味かしら?」

「ふむり、ツバメよ。今の話とは?」

「箒、私は自分のIS適性の低さを、これ程までに恨んだ時は無いわ」

 

深い溜め息を吐いて、腕を組んで額を押さえる。

やれやれと、また息を吐くと、鷹山がはし巻きを齧りながら、声をかけてくる。

 

「おーい、これ食ってもいいのか?」

「タカ、食べてもいいけど、事の重大さを理解してるの?」

「あー……、理解してるしてる。クマと箒がチビスケ連れて帰ってきたって話だろ」

「そう、それよ! ほら、クマ。貴女もこっちに来なさい」

「え…うん……」

 

両手にはし巻きを握ったラウラを抱えて、真琴が燕谷に近寄る。

 

「箒、私は私の無能を憎むわ」

「はっはっはっ、中々に大それた話になってきたな?」

「ええ、本当にね」

 

そう言うと燕谷は、両手に持ったはし巻きを齧るラウラに向き直る。

 

「…ツバメ……?」

「まったく……」

 

燕谷の手が、ゆっくりとラウラに向けて伸び、両頬を軽く摘まみ上げた。

 

「こんな愛らしい子と、クマのセットの日々が見られないなんて……!」

「おぶぶ」

「やだ、もち肌とかそんなレベルじゃないわね。どういうスキンケアしたら、こうなるの?」

「はっはっはっ、ツバメ。とりあえず、そこまでだ。ラウラが伸びる」

「あら、ごめんなさいね」

 

そう言って、ラウラから手を離すと、燕谷はポケットからウェットティッシュを取り出し、ラウラの口の周りに着いたソースを拭う。

 

「んむむ?」

「うふふ、あー、本当に恨むわー。IS適性Eを恨むわー」

「え…と……ツバメ…?」

「ああ、そうね。じゃ、改めまして、ラウラちゃん? 燕谷・カリーナ、クマとは中学からの付き合いよ」

 

宜しくね、とまだ混乱の最中にあるラウラと握手し、空いた手でラウラの頭を撫でる。

 

「あらあら、サラサラじゃないの。本当に羨ましいわー」

「ツバメ、お前この後は?」

「空いてるわよ。というより、暫くは空いてるわ」

「よし、そんじゃ各々買い出しをしてから、クマの家集合な」

「え…?」

 

鷹山がそう言うと、真琴は聞いてないと、きょとんとした表情を浮かべる。

 

「実はさっき、真琴のカーちゃんからメールがあってな。オヤジさんが出先で忘れ物して、それを届けついでに、夫婦で小旅行に行くらしい」

「真琴カーちゃん自由過ぎない?」

「イタチ、何時ものよ」

「……聞いて…ない……」

「ま、色々聞きたい話もあるし、いいじゃねえか」

 

鷹山がそう言って、真琴の背中を軽く叩くと、真琴はがくりと肩を落とした。

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