とある代表候補生の奮闘記   作:ジト民逆脚屋

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うわあああああ!
一年ぶりの夏休み!


RE:三十六冊目

「つー訳でだ。各自買い出しの後、クマの家集合な」

 

鷹山がそう言ってから、早数十分が経ち、熊谷宅は本来三人家族の家とは思えない賑わいを見せていた。

 

「あ! お前、それは反則じゃん!」

「スーパーアーマー持ちが言ってら」

「おらぁ!」

「ああ! なんでその距離から吸えんのよ?!」

 

鼬川と燕谷の喧騒を後ろに、鷹山は熊谷宅の縁側でコーヒーのボトルを傾けていた。

安いコーヒー飲料だが、一番ましな味だ。これ以上の安物は、コーヒー味の砂糖水。

 

「……タカ」

「箒、面倒な話はいいぞ。ラウラはラウラ、そういう結論だろ?」

「ああ、そうだ」

「なら、それでいいよ。お前とクマが面倒見てんだし、あたしゃそれでいい」

「すまんな」

 

騒ぎを他所に、隣に座った箒に鷹山はそう言った。

箒は肝が太い。生半可な事では動じないし、大抵の事は受け入れる。たまに器がでかいのではなく、頭が悪いだけかとも思うが、真琴はそうではない。

だから、二人が受け入れているなら、鷹山達は何も言わない。

 

「んで、どうなんだ?」

「なにがだ?」

「IS学園だよ。なかなか賑やかな話じゃねえか」

「退屈せんぞ。毎日新しい価値観だ」

「そりゃ良かった」

 

ペットボトルを一息に空にし、もしかしたらの可能性を考えたが、一瞬でやめた。

全員揃ってIS学園に行った可能性は無い。鷹山は家計、鼬川は家業、燕谷は適性。それぞれに理由があって、今の立場を選んだ。

それでいい。

もしもの可能性など、考えても意味は無いのだ。

 

「箒…ちゃ……、タカちゃん……」

「む、風呂が空いたか。タカ、どうだ?」

 

湯上がりの真琴が涎を垂らして眠るラウラを抱えて、鷹山と箒の元へ来た。

どうやら、風呂の順番が回ってきたようだ。

 

「チビ助は電池切れか。箒、先に入りな。あたしは後でいい」

「そうか。では、先にいただこう」

 

箒が腰を上げ、柔らかな笑みを真琴とラウラの二人に向ける。

この顔が出来るなら、まあ大丈夫だろう。

箒の背を見送り、鷹山は新しい蚊取り線香に火を点けながら真琴に問うた。

 

「クマ、毎日楽しいか」

「楽し…いよ……」

「そうか」

 

この中で真琴と一番付き合いが長いのは鷹山だ。

家が近所で、何かと目立っていた真琴はすぐに良からぬ標的になった。

まあ、やられたらやり返すタイプだったので、大抵は返り討ちにしていたが。

それでも見かねた鷹山がつるむ様になり、鼬川や燕谷が加わり、最終的に箒が加わった。

それからが大変だった。

中学に上がり、真琴が身体の成長と共に攻撃性が薄くなっていくと、調子に乗った連中がちょっかいを掛けてくる。

真琴は真琴で、自身の力を理解していたので、下手にやり返す事はしなかった。

だから鷹山達が常に一緒に居た。

進学しても変わらないだろうと、そう思っていたが、現実は違った。

 

「まあ、IS学園はインテリだからバカは居ねえか」

「でも…いつも……何処か…で爆発……してるよ…」

「……テロリストでも居んのかよ」

 

はて、IS学園とはテロリスト養成学校だったか。

 

「この前…は整備……課の小屋…が飛ん…だよ」

「いいか、クマ。小屋は飛ばねえ、住むもんだ」

「でも……飛んだ…よ……?」

 

さて、どうするべきか。

毎日、小屋が爆発して空を飛ぶ学園に大事な友人を預けて良いものか。

やはり、無理にでも奨学金を受けて自分も行くべきだったか。

鷹山がそんな事を考えていると、ラウラがもぞもぞと動き出した。

 

「むー……」

「ああ、寝かして来い」

「うん」

「クマ、明日はどうする?」

「明日は…箒ちゃん……と川に行…くよ」

「なら、早く寝ねえとな。イタチとツバメもそろそろか」

 

見れば鼬川と燕谷もゲームが一段落ついたのか。適当に菓子を摘まみながら雑談をしていた。

 

「先に寝とけ。あたし達は片付けてから寝る」

「うん…また明日……」

「ああ、また明日だ」

 

何時か毎日交わした挨拶、それをまた出来る日がこんなに早くに来るとは思わなかった。

毎日が毎日続くとは限らない。

だがそれでも、望む事は間違いではない。

 

「お? クマ。寝るの?」

「うん…明日は……川に…遊びに…行くから」

「あら、なら早く寝ないとダメね」

「なら、さっさと片付けろ。ったく、あっという間に散らかしやがって」

「タカも一緒じゃん」

「だからさっさと片付けて風呂入れ。明日は騒がしくなるぜ」

 

毎日が毎日変わらず続くとは限らない。

だが、帰ってきた毎日を終わるまで続けたいというのは、決して間違いではない筈だ。

空になった菓子袋を集めながら、鷹山はそう思った。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

「う? 母様……」

「……どう…したの? ラウラ……」

「むー……」

 

皆が寝静まった夜更け。むずがり、顔を胸に押し付けてくるラウラの動きに目を覚ました真琴がラウラに問い掛けるが、寝惚けているのか、どうにもはっきりしない。

 

「……へんな夢見た」

「……変な…夢…?」

「皆、バラバラになってどっか行く夢。母様と私と箒は最後まで一緒だけど、皆どっか行くんだ」

「…そう……」

 

多分、ラウラが見た夢はこれから先の事だ。

これから先、学園を卒業すれば皆それぞれの道に進む。

どうやってもそれだけは避けられない。

ラウラと真琴、箒がこうして一緒に居られる時間は、きっとそう長くはない。

その事をどう伝えるべきか。真琴は箒と時々話し合っていたが、やはり答えは一つだけ。

真琴か箒、どちらかがラウラに伝える。

それしかなかった。

 

「……ラウラ…あの…ね……」

「だから約束したんだ。また皆集まるって」

「……ラウラ……」

「そしたら…また皆、一緒……」

 

それだけ言って、ラウラはまた眠ってしまった。

ラウラの静かな寝息を聞きながら、真琴がふと目線を上げると、同じく目を覚ましていた箒と目が合った。

 

「大丈夫だ、きっと皆バラバラにはならない。一度は離れるだろう。だがそれでも、きっと皆一緒だ」

「そう…だね……」

 

きっと何時かは皆離れる。それだけは避けられない。

だけど、この毎日が少しでも長く続く事を願う事は間違いではない筈だ。

夏の夜、虫の音を聞きながら左手でラウラを抱き寄せ、空いた右手を箒の手と繋ぎ、真琴はゆっくりと眠りに落ちていった。

 

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