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それではゆったりと
さて、千冬が入室してから授業が始まったが、あのあと問題が一つ発生した。
クラス代表を決めなければならないらしいが、なんとクラス対抗の試合にもでなければならないという。なんと面倒なことか。
自薦他薦問わないと千冬が言った途端、クラス内は俺か一夏を推す声で二分した。恐らく中には恥をかかせたい、何て思惑を持っている輩もいるのだろう。
だが何とここでオルコットが反論を始めた。
人を性別で判断するとは愚かしいこと、ISの実力だけでは代表候補生たる自分がクラストップ3には入ること。
現状男子の他薦しか名が挙がっていないので、彼らのうちでより弱い方を代表とし、より大きな成長を促す、といった演説を繰り広げた。
そんなこんなで週末(作中現在月曜日)にアリーナで、総当たりのISの試合が行われることになった。
で、流石に量産機で代表候補生に挑むのもあれなので、国が手配したサンプリングのための専用機を使用することになった。
だがまぁISの試合とはいえ、いくらなんでも生身の戦闘力が皆無では話にならんから、俺はいつも通り鍛練をしていた。
していたのだが……
「ちょっとお姉さんとお話しない?」
水色の髪の先輩に絡まれてしまった。
しかも周りに誰もいない状況で。
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「……何のようだ」
「そんな警戒しないの。少しお話したかっただけだから」
「ストーカーよろしく尾行していてよく言う」
「あら、気がついていたの?」
この女、身のこなしからして実力はあるな。加えて何処と無く暗殺者に似た雰囲気を漂わせている。
「お姉さんちょっとあなたのことが知りたくてね」
「それで姿を表し、接触してきたと?」
「ええ。あなたの経歴について疑問が出てきてね」
手に持っていた扇子を開き、『質問』という文字を見せてきた。
……経歴をも簡単に調べられる立場か。
「……あんたは何者だ」
「私? 私は更識楯無、このIS学園の生徒会長よ」
また扇子を開き、『学園最強』という文字を見せてきた。いつ変えたのだ?
「その生徒会長さんが、俺に何か?」
「単刀直入に聞くけど、あなたの7歳以前の経歴が知りたくてね」
「……それを話す義務でもあると?」
「一応ね。織斑先生はあなたを信頼してるみたいだけど、生徒会長としては不穏分子はできるだけ排除したいのよ」
「……そんなはっきりと言うか、普通?」
まぁ生徒の長としてそう行動するのは間違ってはいないが。些か無計画が過ぎるのでは?
仮に自分の実力に自信があったとしても、このやり方では仮令対象が味方であったとしても、争いが避けられなくなるぞ?
「……証拠を提示しろと言われたら答えに窮してしまうが、誓って言おう。俺や俺の大切な者達に危害を加えなければ、俺は決して敵にはまわらんと」
「……そう」
「経歴に関しては事情が込み入っていてな、おいそれと話すことはできん。今はそれで納得してもらえないだろうか」
「……いずれは話すと?」
「俺が心から君を信頼できた暁には、必ず」
「……わかったわ。一先ず今回はそれで納得してあげる」
会長殿はそう言うと、警戒する雰囲気を消した。どうやら尋問は終わりのようだ。さっさと帰って汗を流したいものだ。
「……ところで週末に試合をするそうね」
「……耳が早いことで」
「あなたIS初心者でしょう? 良ければお姉さんがレクチャーしようか?」
ふむ、学園最強が直々に指導してくれるのは、ものすごく有り難いものなのだろう。中々に魅力的な話である。
だが、だ。
「気持ちは嬉しいが、まずは自分が現時点でどれ程のものか、試してみたいのでな。今回は辞退させてもらおう」
「あら残念、振られちゃった」
「誤解を招く発言は控えたほうが良いぞ? まぁそういうわけだ、試合後ならば見返り有で指導を頼むかもしれん。そのときは頼んでもいいか?」
「そうね、見返り有ならこちらも変に断る理由もないし」
「交渉成立だな。なら今日はこのへんで」
俺は踵を返し、住居となっている教会へと帰った。
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時間はあっという間に経過し、試合本番となった。
が、俺も一夏も専用機が届かないというアクシデントに見舞われていた。
「流石、幸運Eは伊達ではありませんね」
「あの男と一緒にしないでくれ」
「事実じゃありませんか?」
「いやまぁ、確かに俺とあの男は同一人物だが」
カタパルト脇でカレンと話していると、奥から山田先生が走ってきた。
「え、衛宮君!! 届きました!!」
「……やっとか」
「業者さんもトロいですね」
山田先生の案内のもと、俺達はアリーナコントロールルームに置いてある専用機の元に行った。
部屋に入ると目の前には、兎と人参のマークがデカデカと貼られた大きな箱が置いてあった。もしかしなくても、あの娘が作ったのだろう。
「あいつが直接届けにきた。お前用とな」
「あの娘がか」
「今は一夏の元に行っている。お前は早くフィッティングをしろ」
「了解した」
俺は千冬に言われるがままに荷を解き、そしてゴテゴテとした己のISを纏った。
途端に頭に流れ込む、膨大な情報量。それによって補われるISの知識。何をどう動かすのか、直接理解させられている。
やがて情報の流入は止まり、俺の目の前にはたった一つだけウィンドウが出てきていた。
『
一次移行とは確か、乗り手の最適と感じる状態への進化、だったか? 本来ならばしばらく搭乗しないといけないはずだが、今は考えないようにしよう。
俺は迷わず『Yes』の表示を押すと、一瞬だけ光に包まれ、そして気がつけばいつもの視線の高さだった。
身に纏うは従来型のISとは異なる軽装備。背部スラスターは白いマントの形状をしており、脚部スラスターは無し。鎧は袖無しで脚はまるで黒のチノパンのようなもの。
記憶で見た、守護者エミヤと非常にそっくりな外見になっていた。
「……士郎。お前のそれ、まさか一次移行か?」
「らしいです。機体名は……クックククッ」
「? ど、どうしましたか衛宮君?」
「士郎? なにを笑っている?」
これはまた、因果と言うべきか。
世界はそれほどにまで、俺にこの名を名乗らせたいか。俺は何処へ行っても、世界の意思から逃げることはできないと?
上等だ、ならばせいぜい見ておくがいい阿頼耶よ。俺は貴様の思い通りにはならんぞ。
突如笑いだした俺に皆は怪訝そうな目を向けるが、俺は無視をしてカタパルトに向かった。
「いつ出てもいいのだな?」
『ああ、タイミングはお前に任せる』
「了解した。カレン」
「はい」
「行ってくる」
「負けたら承知しませんよ?」
「わかった。衛宮士郎、『
声と共にスラスターを吹かし、俺はアリーナへと出た。そしてしばらく空中浮遊したのちに、地面へと降り立った。
ISの試合は空中戦が主だが、俺のは本当に地上戦向きみたいだからな、初めから自分に有利な場所に立つのは悪くないだろう?
遥か上空にはセシリアが滞空しており、俺にオープンチャネルを開いてきた。周りの観客席からは俺への批難とセシリアへの応援が殆どだったが、あえて無視を決め込んだ。
「……それがあなたの専用機ですの?」
「ああ。どうも一次移行してこれみたいでな。まぁ、俺向きではあるのだが、幻滅したか?」
「いいえ? どんな相手でも、私とこのブルーティアーズで全力でお相手します。それが私なりの礼節です」
「いい心掛けだ。世の中見た目が全て、というわけではないからな」
カウントが始まり、互いに武器を構えて無言になる。
彼女の『
なんともまぁ機動戦士に出てきそうな装備だ。
そして隠れて見えにくくなってはいるが、腰の辺りに左右に砲身、恐らくミサイルを撃つもの。要するに彼女は遠距離型の戦士、ということだな。
そうだな、手始めにこちらの武装は双剣でいこう。
幸い束は俺の鍛練を見ていたこともあり、俺に合った武装を多数用意してくれている。今俺が握る双剣も、干将莫耶を元にされたものだ。他には弓も黒鍵も搭載されていた。
「双剣、ですの?」
「俺は銃よりもこちらが得意でな。成る程、このコアは俺のことをよく理解している」
「中・遠距離戦士の私に近接で挑むなんて、あなたはだだの脳筋ですの? それともISは兎も角として、近接にそれほどの自信がお有りですの?」
「さて、そこら辺は試合中に見極めてもらおう」
「……わかりましたわ。では」
会話の途中でブザーが鳴った。試合開始だ。
「いくぞっ!!」
「踊りなさい!! 私とブルーティアーズが奏でる
◆
私は今隠れて彼の試合をみているが、我が目を疑っていた。
まず目を引いたのが、ISとは言えないほどの軽装備。脚部スラスターは存在せず、端から見ればちょっとした鎧とマントを羽織っているだけ。
でも何故か私にはそれが自然に思えた。
私の専用機『
衛宮士郎君が駈る『抑止の守護者』は、必殺たりうる武装を搭載していない。武装を見たけど、白黒の剣と十字架の様な剣、黒く大きな弓があるだけで、あとはそこらにあるような剣や槍が大量にあるだけだった。
こんな武装で代表候補に挑むつもりなのか?
彼の鍛練はこの一週間見てきた。
確かに生身の戦闘力は目を見張るものがあり、初めて接触したときも彼の殺気に飲まれないように必死だった。
でもそれだけではISの試合は成り立たない。ISは皆が思うほど簡単には動かない。それが初めて乗るものなら尚更である。
そう思いながら、私は試合観戦を始めた。
結果は見事に裏切られた。
ブザーが鳴った途端、彼はその場から消えた。
大袈裟な表現ではなく、本当に消えた。立っていた場所に蜘蛛の巣の様な亀裂を残して。
そして気がつけばセシリアちゃんの前におり、双剣で斬りかかるところだった。
「なっ!?」
「いつの間にあんな!?」
『ふんっ!!』
『くぅッ!!』
だけど流石は候補生、手に持つライフルで受け流し、更に空中に舞い上がった。対する衛宮君は一度地面に降りると今度は壁を走り始めた。弓を携え、矢をセシリアちゃんに向けて射ながら。
驚くなんてものじゃない。
普通は空中戦をするISの試合で壁を走り、あまつさえ動きながら正確無比に矢を射るなんて芸当、余程の熟練者でも難しい。
「衛宮士郎って、初心者じゃあ……」
「嘘よ、男のくせにこんな……」
「エミヤんがんばれ~」
更に目を疑うのが、その連射速度と使用している矢。
瞬き一つの間に確実に五射はしている。そして使用している矢は全て西洋剣。
セシリアちゃんは複雑な機動で飛びながら剣を避け、隙あらばライフルで応戦しているけど、手数が圧倒的に違いすぎる。彼女が一発撃つのに対し、衛宮君はその何倍もの弾幕で応戦する。
『くっ、ちょろちょろと!!』
『喋る余裕があるのか?』
『なにを、ッ!? ティアーズ!!』
ここで衛宮君は武装を弓から剣に持ち替え、セシリアちゃん向かって猛スピードで特攻を始めた。
対するセシリアちゃんはこれまた複雑な機動で飛び、ついにビット兵器を使用した。
衛宮君の四方を囲み、一斉に放たれるレーザー砲。
加えて上空けらは、腰の砲身から放たれたミサイルが迫っていた。要するに衛宮君の逃げ道は、殆ど塞がれたも同然だった。
ここまでか。いくらなんでもこれは流石に防げまい。
私も含め、観客席の空気もそんな雰囲気を漂わせた。
だがまたその予想を裏切られた。
彼はいつの間にか剣を持ち替え、両手には三本ずつ別の剣が握られていた。それは刀身が異様に長く、まるで十字架のようなアンバランスな剣だった。
指に挟まれたそれを、衛宮君は切りもみ回転をしながら投擲し、真っ直ぐにビットとミサイル目掛けて翔ばし、レーザーを打ち消しながらそれぞれを破壊した。
『ティアーズが!?』
『はぁっ!!』
『ッ!! インターセプター!!』
スラスターを吹かした衛宮君は、再び双剣を構えてセシリアちゃんに向かっていった。オルコットさんは距離が近づき過ぎたためか、短刀を取り出して応戦しようとした。
━━ 試合終了、衛宮士郎エネルギー零、勝者セシリア・オルコット
……は?
え、なんで?
見ている限り、彼がS.Eを消費する場面なんて数えるほどしかなかったはずでしょう? それがなんで……
とりあえずセシリアちゃんは助かったと言えるだろう。衛宮君の近接戦闘における実力は、私を軽く上回っている。そんな人間に挑むなど、自殺行為に等しい。
今回の試合は収穫が確かにあったけど、それ以上に疑問が次々に浮上するものだった。
衛宮士郎、あなたは何者なの?
◆
「まったく、負けたら承知しないと言ったのですが?」
「はっきり言って原因がわからん。だからせめて判明するまで聖骸布は解いてくれると助かるのだが」
「聞けない相談です」
「理不尽な……」
現在俺はカレンによって簀巻きにされている、皆が見ている前でな。そして何故俺のS.Eが切れたのかを、まだ学園にいた束に原因究明を依頼したところだ。
他の皆もそれは疑問に思っていたのか、一夏も含めてコントロールルームにて待機していた。
「わかったよー!!」
「そうか、早速説明を頼んでもいいか?」
「まっかせてよちーちゃん!! あっ、でもその前にマイク借りるね~」
束はそう言うと、千冬の返事を聞かずにマイクを手に取った。
『あーテステス、本日は晴天なり。皆聞こえてる~? ハロハロ~みんなのアイドル、篠ノ之束さんだよ~!!』
束の奇行に山田先生は絶句し、一夏は目を丸くし、千冬と箒と俺はやれやれとため息をつき、カレンはニヤニヤしていた。
アリーナの観客席では、突然束が出てきたことに動揺が走っていた。
『一回しか言わないからよく聞いとけよー? 質問は受け付けないからわかっといてねー。
さてさて士郎のISだけど、今までのと随分と形が違うのはわかるよね? それは士郎の力を最大限に引き出すにはそれ以外に方法がなかったからなんだよね~。
んでんで、今までと同じようなISだったら、ISが細かい動きに耐えきれなくて壊れちゃうのさ~。だから士郎のISはあんな超軽装になってるんだよね~!!』
成る程、軽装備なのはそのためか。
束の説明は更に続く。
『じゃあ軽装備にすれば良かったか、と言われたら実はそうでもなかったんだよ。いくらS.Eとかで障壁が作られていても、パーツに負担がかからない訳じゃあないのさ~!!
で、その磨り減りをどうするか考えたところ、常に修復が働くようにすればいいじゃん!! ってことに気がついて~、でもその結果士郎は動けば動くほどS.Eを消費しちゃうのさ~!! ビックリでしょー?』
いや、驚くもなにもどんな欠陥機だよ。まぁ確かに自然に動くことはできたのだが。
『まぁ初めてにしてはいいデータを取ることが出来たし、士郎も問題はないみたいだから束さん的にはもーまんたいなのだ~!!』
束はそう言うとマイクを切り、こちらに向き直った。
「まぁそういうことなのさちーちゃん、乳デカちゃん。これでわかってくれたかな?」
「は、はい。……乳デカは酷いです……」
「あ、ああわかった。というかお前が作ったのなら、究明を頼む必要性がなかったな」
「考えてはいたんだけど、この機能をつけたのはコアの意思だよ~。だから私は今知ったんだよね。それにしてもあの金髪凄いね~初見で士郎にあそこまで粘るなんてね~」
俺に待機状態の専用機を渡しながら、束は上機嫌に言っていた。
まぁ確かに、セシリアは凄い。彼女はある意味俺が苦手とするタイプだな。自分の持ちうる物を最大限に生かそうとするタイプ。
ある意味俺と同じであり、俺とは異なる人種だ。
俺は待機状態の専用機、凛のペンダントの形をしたそれを首にかけた。
これからも頼むという意味も籠めてそれをひと撫ですると、一瞬だけ仄かな光を放った。
はい、ここまでです。
まずは謝罪を。
戦闘描写は本当に苦手としております。ですので今回は非常に読み辛く、退屈なものだったと思います。
これから精進していくので、何卒よろしくお願いします。
さて、次回は一夏vs士郎を書く予定です。
それではこのへんで