このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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大変長らくお待たせしました!

今回はベルディアが大活躍(笑)するお話です。
そして、次回はいよいよアレが……。


第22訓 最大の敵は己の中にいる

 ようやく戦う気になった銀時は、アクアを追いかけ回しているアンデッドナイトの大群に飛び込むと定番の雑魚無双を始めた。

 

「フハハハハハッ! こいつぁ【銀魂乱舞】のステマに持って来いだぜぇーっ!」

「ステマっつーか、モロに宣伝してますけど!?」

 

 さりげなく自分のゲームをアピールしつつアンデッドナイトを狩りまくる。その混乱に乗じて他の連中も参戦し、銀時をアシストする。地味に強い茂茂は普通に戦い、ドMなダクネスは自らサンドバッグになり、ビビりな長谷川とカズマはダクネスをフクロにしている敵を背後から攻撃する。

 

「はぁ、はぁ! 敵を倒しやすくするために私を囮にするだなんて、やはりカズマにはクズ人間の素質があるな!」

「気持ち良さげな顔しながら、人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇーよ!? ドMな仲間が自爆してボコられまくってるから助けてやってんだろーがっ!」

 

 軽いケンカをしつつも、見事なチームプレイ(笑)で敵の数を減らしていく。ただし、単なる見物客と化している僧侶と魔法使いはクソの役にも立っていないが。

 

「いいわよみんな! 水の女神である私のために汗水垂らして働きなさい! ご褒美に私の華麗な宴会芸を披露してあげるから!」

「そんなもんより、スカラとかバイキルトを使ってくんない!?」

「そうですよアクア! こんな時こそ魔法の支援が必要なんじゃないですか!」

「メガンテしか使えない奴に文句を言う資格は無ぇよ!」

 

 残念ながら後方支援はまったく当てにできなかった。

 それでも、この程度の相手なら銀時の敵ではない。あれだけの大群を相手にしたにもかかわらず、わざと攻撃を受けていたダクネス以外はノーダメージで勝利した。

 

「ったく、やたらとわんさか湧き出やがって。リアルで【銀魂乱舞】すんのはやっぱ楽じゃねぇな。もちろん、ゲームの方は楽しいけどな!」

「まだステマ続けてるよ!? どんだけ売り込み必死なの!?」

 

 激闘を繰り広げたばかりなのに、我らが主人公は余裕のある発言をする。だが、それも長谷川の言葉でひっくり返る。とにかく、これで城の中に入れるようになったけど……。

 

「ごくり……改めて見るとやっぱ怖ぇな……。ゾンビが住んでるくらいだし、幽霊とかも出るかもしれねぇ」

「よぉーし、分かった! 俺はここで留守番するから、後のことはヨロシク頼む!」

「潔いほどの即決で主人公の役目を投げ捨てたぁーっ!?」

 

 恐怖心に負けた銀時は城に入ることを拒絶した。肉体があるアンデッドはともかく、物理攻撃の効かない幽霊は流石に相手が悪過ぎる。わざわざ無敵状態のマリオに立ち向かうほど無謀ではないのだ。

 

「つーわけで、お前等だけでさっさと用事を済ませて来いや!」

「ちょ!? リーダーのクセになに無責任なこと言ってんだよ銀さん!?」

「うっせーマダオ! 正社員じゃないからって、なんでもかんでもリーダーに責任背負わせてんじゃねぇーっ! リーダーだって人間なんだよ! 心の弱い人間なんだよ! だから、時には逃げ出して、過度のストレスから命と髪を守らなきゃならねぇーんだよっ!」

「なに勝手に中間管理職の悲哀を代弁しちゃってんの!? お前はただ幽霊が苦手なだけじゃねぇーか!?」

 

 バカなマダオ達は互いに精神的ダメージを与えつつ罵り合う。そこへウィズがおずおずと言葉を挟んだ。

 

「あ、あの~。この城にいた幽霊達は以前私が供養しましたから、今はなにもいませんよ?」

「流石はウィズだ、口ばっかでクソの役にも立たねぇ駄女神とはウンコとカレー以上に出来が違うぜ」

「うわああああああんっ!? 腐れリッチーより格下に見られた上にウンコ扱いされたあああああああーっ!?」

 

 あんまりな物言いに災難続きなアクアが泣き叫ぶ。その姿に少しだけ同情するものの、誰一人として銀時の言葉を否定する者はいなかった。

 

 

 

 いろいろなアクシデントを乗り越えた一行は、いよいよ城内へ乗り込んだ。内部は意外ともぬけの空で、警戒していた敵はいない。アクアのおかげ(?)でほとんどのアンデッドナイトが城外に出てしまったのだ。

 

「ええい、なんたることだ! 魔王軍の拠点だというのに敵が出ないばかりか罠の一つも仕掛けてないとは! 常識外れにもほどがあるぞ!」

「お前の方こそ非常識だろ! マリオの城じゃあるめぇし、こんな汚ぇ廃城に『クッパの方が苦痛なんじゃね?』って思うほどのふざけた罠があるわきゃねぇーだろ!」

 

 欲求不満なドM騎士が変なところに突っかかる。とりあえずつっこんだものの、ここまで静かだと確かに拍子抜けしてしまう。

 

「つーか、なに? やたらと掃除道具が置いてあるんだけど、あいつらここでナニやってんの?」

「それは当然、大掃除に決まっているじゃありませんか。長らく人が住んでいない中古物件に引っ越すなら常識的なことですよ」

「魔王の幹部が越してくること自体、常識的じゃないんだけど!? 心も体も腐った奴等が侵略そっちのけでハウスクリーニングとか、明らかにおかしくね!?」

 

 めぐみんの説明で、奴等が暢気に引っ越し作業をしていることが判明した。ここに来ている魔王の幹部はかなり人間臭い性格をしているようで、そいつと面識があるウィズはなるほどと納得する。

 

「生前のベルディアさんは大国に仕える立派な騎士だったらしいですから、自分のお城が持てて嬉しかったのではないでしょうか? たぶん、前から一国一城の主に憧れていたのかもしれませんね」

「一国一城の主どころか、空き屋を勝手に使ってる住所不定のマダオそのものなんだけど!? つーか、ベルディアって誰なんだよ!? もしかして幹部の名前!?」

「はい、そうです。アンデッドの軍勢を率いているのは、デュラハンのベルディアさんです」

 

 ここに来てようやくウィズから事情を聞く。どうやら、彼女は幹部の素性を知っているらしいとカズマが気づいて質問する。

 

「そういやぁ、さっきもベルディアとか言ってたけど、もしかしてウィズはそいつと仲良いのか? 一応、幹部同士だし……」

 

 思ったことを何気なくつぶやいてみたら、目を光らせたアクアが予想外に食いついて来た。ちゃらんぽらんな彼女の脳内で良からぬ妄想が爆発したのだ。

 

「あ~っ! もしかして、そのベルディアって奴、アンタの元カレなんじゃないの~?」

「なっ、それは誠かウィズ殿!?」

「ちちち、違いますよシゲシゲさん!? ベルディアさんはただの知り合いであって、むしろ私は苦手なんです! だって彼は、私と会う度に自分の首をわざと転がしてスカートの中を覗こうとしてましたから……」

「な、なんと破廉恥な! ウィズ殿のぱんつを卑猥な角度から覗こうとするとは、許すまじベルディア!」

「つーか、その人ナニやってんの!? 頭が取れるみたいだけど、利用の仕方が頭悪いよ! 盗撮に使ってる隠しカメラと代わんねぇーよ!」

 

 ポロリと明かされた真実に全員が呆れてしまう。よもや、世界中の人々に恐れられている魔王軍の幹部が別の意味で恐ろしい変態野郎だったなんて、いろんな意味で切な過ぎる。ただ一人、ノルンだけはやたらと楽しそうだが。

 

《きゃはははは! ベルディアって奴は面白いねー! ウィズは気づいてなかったみたいだけど、彼女が魔王城にいた頃に、ソイツははぁはぁ言いながら後を付け回してたみたいだよ?》

「(もうそれただのストーカーじゃね!?)」

 

 ウィズの過去を見たノルンからさらに嫌な情報を聞いてしまった。どうやら、ベルディアという幹部はウィズに好意を抱いているらしい。

 

《ぷぷーっ! ウィズは茂茂に惚れちゃってるから、すでにムリゲーなんですけど! 知らぬ間にヤムチャのような負け犬となっていた事実を知った時にベルディアちゃんがどれほど間抜けな顔を見せるか、とっても楽しみだなぁー!》

「(お前、女神のクセにすっげぇエグいな……)」

 

 悪魔や魔族に容赦ない女神の危険な一面を見て、流石のクズマもドン引きする。こうまで酷いとベルディアって奴に同情してしまいそうになるものの、相手は倒すべき魔王軍の幹部だ。人類の生存を脅かす敵に情けなど無用だし、今は他にやることがある。

 雑談している間に地下の宝物庫へ到着し、ウィズはすぐに結界の無事を確認する。

 

「どうだウィズ殿」

「はい、まったく問題ありません。解除しようとした痕跡はありますけど、結局断念したようです」

 

 笑顔で茂茂に答えながらウィズは魔法的な作業を進める。すると、宝物庫の周辺が一瞬だけ光った。

 

「お待たせしました。結界を解除したので部屋に入れますよ」

「よっしゃ、お宝ご開帳じゃーっ!」

「待ちなさいよ銀時! 最初に入るのは高貴な私の役目でしょーっ!」

 

 ウィズの許可が出た途端に遊び人と駄女神が部屋の中へと駆け込んでいく。その様子を呆れ顔で見ていためぐみんは、どうせ自分の物にならないのにと冷めた気持ちで後に続く。しかし、実際に財宝を見たら、クールぶっていた彼女もテンションを上げてしまう。

 

「うお!? なんですかこの眩しさは!? まるで絵に描いたようなお宝じゃないですか!」

「眩しくて当然だ。ここにある財宝は、この領地の人々が賢明に働いて稼いだ尊い資産なのだからな……」

 

 驚くめぐみんに対して、申し訳なさそうな顔をしたダクネスが言葉をかける。ここにある財宝は、悪徳領主のアルダープが不正を働いて領民から巻き上げたものを茂茂達が取り戻した大切な成果なのだ。そして、今度は魔王軍の略奪からも守ることが出来た。込み入った事情があるダクネスとしても喜ばしい勝利である。

 

「しかしまぁ、随分と貯め込んだもんだなぁ……。中には変な物体もあるみたいだけど」

 

 最後に入って来たカズマが辺りを見回しながらつぶやく。お金、宝石、貴金属といった普通のお宝に紛れて、アルダープが集めたらしい珍品がいくつか目についた。

 すると、財宝を物色していためぐみんが、その中の一つを手に取って紅い瞳を輝かす。それは、どこかで見たことがあるような【ゴスロリ風の折りたたみ傘】だった。

 

「こ、これはっ!? なんと素晴らしい魔道具でしょうか! なぜだか理由はわかりませんが、紅魔族として見逃せない極上の一品ですよっ!」

「異世界の中二病が、小鳥○六花のシュバルツゼクス・プロトタイプMk-2と奇跡のコラボを実現したぁーっ!?」

 

 時空を越えた中二病の共鳴にカズマは思わず感動してしまう。あいつらは世界を隔てていたとしても分かりあえるんだな……どっちも頭がおかしいから。なんの説明も無くシュバルツゼクス・プロトタイプMk-2(折りたたみ傘)を使いこなしているめぐみんを眺めながらそんなことを思った。

 すると、今度は別のベクトルで頭がおかしいダクネスが騒ぎ出した。

 

「見てくれカズマ! こんなところに素晴らしいデザインのアクセサリーがいっぱいあるぞ! これを装備すると身も心も引き締まって、なんだか気持ち良くなってくりゅ!」

「どう見てもSMプレイ用の拘束具なんだけど!? つーか、普通に使ってんじゃねぇーっ!?」

 

 ドM騎士がSMグッズを発掘してきて興奮している。どうやら地球で作られた質の良い物らしく、こんな変態アイテムでもこの異世界ではお宝になるようだ。

 

「それ以前に誰が持ち込んだんだよこんなモン!? 転生者だとは思うけど、死んだ時に持ってたの!?」

 

 もしかして、SMプレイ中にお亡くなりになったのかと悲惨な絵面が脳裏に浮かんでげんなりとしてしまう。すると、それに追い打ちをかけるようなタイミングで長谷川がナニかを持って来た。

 

「おい、すげぇぞカズマ君! 地球産のエロ本がこんなところにあったぜぇーっ!」

「なに!? 俺にも見せてくれ!」

「お前も使う気満々じゃないか!」

 

 スケベ心に負けたカズマはダクネスにつっこまれた。結局は、どいつもこいつも自分好みのお宝に引き付けられてしまいました。

 こうなると、気になるのは最初に飛び込んだバカ兄妹の反応だが……。

 

「ったく、貧乏人共はこれだから嫌だねぇ。しがない冒険者が宝の山を前にしてバカみてぇにテンション上げちまうのは無理もねぇが、この埋蔵金はお前らのモンじゃあねぇ! 街のみんなのモンなんだ!」

「ええ、そうよ! ここにある財宝は、この地の民に返すもの! そのような浄財に手をつけるなど、水の女神の名において許すわけにはいかないわ!」

「とか言いながら、財宝で作った服を華麗に着こなしてるぅーっ!?」

 

 珍しく真面目なことを言っていると思ったら、あからさまにお宝をパクろうとしてました。これまで静かにしていたのは財宝を繋ぎ合わせた金ピカの服を作っていたからであり、あわよくば着たまま持ち帰ろうとしていたのではないかと疑っためぐみんが直接確かめてみた。

 

「もちろん、そのまま持っていこうだなんて思っていませんよね?」

「えっ!? ああ、そうよ!? そんなのモチのロンじゃない!」

「バ、バカだなお前ら! 仮にも魔王を倒そうって勇者がそんなマネをするわきゃねぇだろ!? これはアレだよ、財宝でワンピースを作って『ひとつつなぎの大秘宝』を再現しようという、ちょっと小洒落たお遊びだよ!」

「ジャンプを代表する名作をアホな言い訳に使うんじゃねぇーっ!?」

 

 本気か冗談か微妙な感じのバカ共に冷たい視線を向ける。まったく、どいつもこいつも好き勝手に暴れやがって……。クレイジーな仲間のせいで新八並につっこみをやらされたカズマは、ボスと戦う前に疲弊した。

 

「おいウィズ。俺はもう疲れたから、さっさとコレを片づけてくれ」

「あっ、はい、そうですね!」

 

 これまでのやり取りを苦笑しながら見ていたウィズは、やつれた様子のカズマに言われてようやく仕事を開始した。そう言えば、いつ敵が来てもおかしくない状況なので、ふざけてばかりはいられなかった。

 めぐみん達がしぶしぶ宝を返したのを確認すると、ウィズはすぐさま魔法を使う。

 

「それでは行きます! 【テレポート】ッ!」

 

 凛とした声でウィズが叫ぶと、光輝いた財宝が一瞬のうちに転移していく。それを数回繰り返して、あっと言う間にすべての宝を事前に登録した隠し場所へと移し終わった。魔力消費の大きいテレポートの連発が可能なリッチーならではの仕事っぷりである。

 

「ああ、私の埋蔵金がぁーっ!」

「行かないでください、シュバルツゼクス・プロトタイプMk-2ぅーっ!」

「未練がましい奴等だなぁ、オイ!? 俺もエロ本欲しかったけど!」

 

 欲深いバカ達はお宝との別れを惜しむ。最後まで間抜けな状況になってしまったものの、とにかくこれで茂茂達の目的は達成できた。

 

「皆の衆。此度の働き、誠に大義であった。敵地より脱出する仕事が残っているが、ひとまず礼を言わせてもらおう」

「ふっ、なに水臭ぇこと言ってやがんだ。俺らはただ、困ってるダチのために手を貸してやっただけだぜ。ところで話は変わりますけど、今回の報酬は、魔王軍の幹部に襲われるかもしれないという危険手当も含めて、たんまりとお願いします」

「前半の友情が最後のセリフで台無しじゃね!?」

 

 カズマの意見はもっともだったが、それはそれ、これはこれである。しかも、がめつい遊び人はさらなる戦利品を狙う。

 

「とまぁ、将軍の用事も済んだことだし、次はこっちの番だな」

「えっ!? まさか、本気でベルディアって奴と戦う気なの!?」

「ああ? さっきも言ったが、そんなこたぁしねぇよ。ウィズと将軍がいる状態でベルディアとかいう変態幹部とエンカウントしたら、一昔前の昼ドラみてぇな修羅場が起きちまいそうだからな。中ボス戦は日を改めてやることにするさ」

「だったら、これからなにすんの?」

「んなもん、決まってんじゃねぇーか。勇者が敵の城に来たら、まず最初になにをする? 宝探しでしょう!」

「そーよ、そーよ! その通りよ! デュラハン程度の小物とはいえ、腐っても幹部なんだから、きっとそれなりに金目の物を持ってるはずだわ!」

 

 おやおや、遊び人だけでなく駄女神まで碌でもないことを言い出しましたよ?

 さらに、中二病やドMまで話に乗って来た。

 

「それは面白そうですね。もしかしたら、シュバルツゼクス・プロトタイプMk-2の代わりになるほどの発見があるやもしれません」

「もちろん、私に異論はないぞ! まだ発見していない、残忍かつ卑猥な罠があるかもしれないからな!」

「俺は、お前らをまともにしてくれる医者を発見してぇよ!」

 

 どうしても厄介な方向に行きたがるバカな仲間に怒りが涌く。しかし、所詮は新人の身。彼の意見を聞く者なんて誰もおらず、結局危険な宝探しが始まった。

 

「いいかお前ら。こういう時ボスってのは玉座にドンと構えてジッと動かねぇもんだ。それゆえに、謁見の間だけ避けておけばなんも問題ねぇ!」

「お前の頭に問題アリだよ! マジで命かかってんのに、ドラクエ思考で行動すんなっ!」

 

 幼稚かつ無謀なリーダーにカズマは戦慄する。桂もかなりの変人だったが、こいつはもっとヤベェな……。心の中でバカなリーダーをディスりつつ、しぶしぶ後をついていく。木刀を振り回して辺りの物を破壊しながら家捜ししていくアブナイ遊び人を見ていれば誰でもそう思うよね。

 

「これでなんも収穫が無かったら、エロ本の代わりに女子共のぱんつをスティールしてやる!」

「最低な企みが口に出ちゃってますよ?」

 

 隣にいためぐみんにクズ過ぎるぼやきを聞かれてしまった。しかし、彼がぼやくのも仕方がないほどに収穫が無かった。所詮、相手は腐った死体。金目の物など何一つ持ってはいなかったのだ。

 期待していた成果も無く怒りに燃える銀時は、最後に残った【王の部屋】に一縷の望みを懸ける。

 

「ふざけんじゃねぇーぞ!? アイツらぜってぇーどっかにお宝隠してあんだよっ! 今度こそマジで見つけてやんよっ!」

 

 ニコチンが切れた土方のようにイライラしながらドアを蹴破る。恐らく、ベルディアが使っているだろうこの部屋ならばあるいは……。そう思って入ってみたら、予想に反してなんも無かった。

 

「チクショオオオオオオオーッ!! こんだけ探して宝箱の一つも無いとか、どう考えてもおかしいだろう!? 魔王軍の給料は、それほどまでに悪いのか!? 幹部ですら安月給のブラック企業なのかぁーっ!?」

「そういう話じゃないんじゃね!?」

 

 銀時がついにキレて、魔王軍の経済状況にケチをつけ始めた。実際には、その辺りの事情がどうなっているのか分からないけど、単身赴任先に全財産を持ってくる方が不自然な話だろう。一応社会人の長谷川はそのように納得したが、諦めの悪いアクアはしつこく食い下がる。

 

「まだよ、まだ終わらないわ! いかにも貧乏そうな感じを装ってる奴の方が意外に貯め込んでいるんだから!」

「お前、実は盗賊だろ? 僧侶に転職した盗賊だろ?」

 

 ジト目のカズマに蔑まれながらも、懲りない駄女神は探索を始める。その様子に呆れた他の連中も仕方なく付き合っていると、引き出しを調べていためぐみんが何かを見つけた。

 

「こ、これは!? とんでもないものを見つけてしまいましたよ!」

「なになにめぐみん! もしかして、デッカイ宝石でも発見したの!?」

「いいえ、違います。私が見つけたのは【ベルディアの日記】です」

「やくそうよりも使えないゴミアイテムなんですけど!?」

 

 ガッカリさせられたアクアはあからさまに脱力する。他人の日記なんて、お宝どころか使い物にならないでしょう。アクアは元より、普通の人ならそう思うところである。しかし、我らがクズマさんは違った。これで弱みを握ってしまえば、ボス攻略に使えんじゃね?

 

「おい、めぐみん。その日記を読ませてくれ」

「フッフッフ、流石はクズマ。他人の日記すら良心の呵責も無く読むことが出来るのですね」

「誰がクズマだ中二病!? つーか、お前も読む気満々じゃねーか!」

 

 ニヤリとしながら日記を広げためぐみんは、近寄って来たカズマと一緒にそれを読み出した。その光景を見てなぜかダクネスが興奮するが、銀時にとってはもはやどうでもいいことだった。

 

「くぅんっ! 魔王の幹部が書いた日記とはいえ、決して他人に見られたくない恥ずかしい秘密をあそこまで無慈悲に晒け出されてしまうなんて! もし私が同じことをされたとしたら、いろんな部分が耐えられないっ!」

「もうすでに、見るに耐えない状態ですけど!? これ以上、こんな茶番に付き合っていられるか! もう宝探しは終わりだ終わり!」

「そうだなぁ。もう宝は無さそうだし、とっとと帰ってメシでも食おうぜ」

 

 銀時の意見に長谷川や茂茂も同意して、ようやく城から脱出することになった。

 だがしかし、最強クラスのトラブルメーカーである銀時とアクアがいるというのに、このまますんなりと終わるはずがない。なんと、王の部屋から出てそのまま帰ろうとした一行を、謁見の間から飛び出してきたベルディアが呼び止めたのである。あれだけ騒いで破壊活動をしていれば、そりゃあ怒って来るよね。

 

「おい、貴様等あああああああーっ!! ちょっと待てええええええええいっ!!」

「はぁ? なにアイツ。取れた頭を手に持ってるけど、アラレちゃん的なロボットキャラ?」

「違いますよ! あれはデュラハンという高等モンスターです!」

 

 怒声を発した者の正体に気づいためぐみんが驚いた様子で説明する。もちろん、カズマも理解して、たらりと冷や汗を流す。

 

「デュラハンってことは、まさかアイツがベルディアなのか!?」

「ああ、そうだよ哀れな小僧! 俺の名はベルディア! 魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだっ!」

「まぁ、聞きましたか銀時さん! あちらのお方は、ウィズのぱんつを覗き見したって噂になってる、あのベルディアさんですって!」

「へぇ~、そうなのかいアクアさん? あいつが、ウィズのぱんつを覗き見してたっつうベルディアって変態ですかぁ!」

「ちょっ!? なんでお前らが知ってんのぉ!? まさかウィズが広めてんのか!? もしくはバニルのイタズラかぁ!? 大体、今それ関係ねぇだろ!? お願いだから忘れてくれよっ!!」

 

 女神とドSの先制口撃を食らって、ベルディアは心にダメージを受けてしまった。熊の頭でとっさに顔を隠したウィズに気づいていないだけマシだけど、この口撃は精神的にも社会的にも痛恨の一撃だ。しかし、ベルディアの方にも口撃するネタはあった。

 

「ええい、チクショウ! 雑魚だと思って優しくしてりゃあ調子に乗りおってぇーっ! 我が城に攻め込むほどの勇者が来たかと待ちかまえておればいつまで経っても来る気配がなく、気になって見に来てみれば変な熊とチンピラが部屋を荒らし回っているとか、いったいこれはどういうことだよ!? お前らはなにしに来たんだ!? なんで部屋を破壊する!? せっかく綺麗に掃除したのに、汚すどころかぶっ壊すとか、どんだけ頭がおかしいのだっ!?」

「うっせーぞ、ジオング野郎! お前の方こそおかしいだろう!? 頭の位置がおかしいだろう!? そんなテメェの頭なんざ、ぱんつを覗くぐらいしか使い道が無ぇんだよ!」

「ぐぬぬぬぬっ! この俺の身体的特徴を上手いことディスりおってぇーっ!」

 

 ドS野郎に口ゲンカで負けた瞬間、パンパンに膨らんでいた堪忍袋の緒が切れた。

 

「もう許さんぞ貴様らぁーっ! 雑魚を狩る趣味は無いが、魔王軍の幹部を侮辱した報いはきっちりと受けてもらうっ! まずは『こいつ』で精神的に追いつめてくれるわっ!」

 

 そう言ってニヤリと笑ったベルディアは、左手の人差し指を銀時へと突き出した。これはまさか……!

 

「汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

 その瞬間、デュラハン固有の特殊スキルが発動して、凶悪な死の呪いが銀時に襲いかかる。しかし、彼も只者ではない。歴戦の勘によって危険を察知し、間一髪のところで回避に成功する。ただし、外れた呪いは、たまたま後ろにいたウィズにヒットしてしまったが。

 

「きゃあああああああっ!?」

「銀さんが避けたせいで呪いがウィズに当たったぁーっ!?」

「ちょっ、待てよ!? これはいわゆる不可抗力で俺はなんも悪くねぇーっ!? つーか、ウィズは大丈夫かぁーっ!?」

「は、はい……私は元々死んでいるので、死の宣告は無意味なんです」

「だったら、私に当たっていれば良かったのに!」

「ドMは全裸で日光にでも当たってろ!」

 

 ダクネスの戯言はともかく、ウィズが無事でなによりである。それをアピールするように呪いが当たった胸元を叩いてみせるが、つがいの熊である茂茂は心配そうに彼女へ寄り添う。

 

「ふぅ、良かった……。ウィズ殿にもしものことがあったら余は……」

「シ、シゲシゲさん……(恥)」

「そんな不気味な格好でイチャイチャしないでくんない!? リアルな熊のラブシーンとかケモナーですら需要無ぇからっ!」

 

 多少のやっかみも含めて銀時がつっこむ。しかし、ウィズに気があったベルディアにとってはやっかみどころでは済まない。

 

「おい、ちょっと待て。今お前らウィズと言ったか? その熊がウィズだと?」

「ああそうですけど、それがなにか?」

 

 適当な銀時はあっさりとバラしてしまうが、死の宣告を無効化してしまってはどちらにしろごまかしきれない。ウィズはすっぱり観念して素顔を明かした。

 

「お久しぶりですベルディアさん」

「ほんとにウィズだったああああああっ!? えっ、なんで!? どうしてお前がここにいんの!? よもや、魔王様との契約を破るつもりかぁーっ!?」

「そんなことはしませんよ! 私は、契約に反しない範囲でシゲシゲさんのお手伝いをしているだけです!」

「なにっ、シゲシゲだと!? 紅魔族のようにいかれた名だが、そいつはいったいどこのどいつだ!?」

「おい、紅魔族の伝統に文句があるなら話を聞こうじゃないか!」

 

 ベルディアの言葉に怒っためぐみんがヒートアップするものの、彼女が暴走する前に茂茂が名乗り出た。

 

「ベルディアと申す者よ、お主が言っている茂茂とは余のことだ」

「な、なにぃ!? 仲良さげにウィズとペアルックをしている貴様がシゲシゲだとぉーっ!?」

「いやこれ普通ペアルックとは言わないよね? どう見てもリアルな熊だし、仲良しアピールしてないよね?」

 

 確かに、そこは勘違いしているものの、恋敵の登場にテンパっているベルディアにとっては大体同じことだ。本名の方が知られていないおかげで魔王軍に危険視されているブリーフマスターであることまでは気づかれていないものの、嫉妬を込めた激しい敵意がすでにビンビン向けられていた。

 

「おっ、おのれっ! 俺の大切な仲間を籠絡しやがってぇーっ! どうせ貴様も、巨乳なウィズのワガママボディーを狙って近づいてきたスケベ野郎なんだろう!?」

「それはお前のことじゃねぇーか、アクロバティック痴漢野郎」

 

 茂茂の代わりに銀時がつっこみ、他のみんなも同意する。

 それにしても必死ねコイツ。明らかにおかしいベルディアの様子から事情を察したアクアは、キュピーンと目を光らせる。

 

「ねぇ、あんた。もしかして、ウィズのことが好きなんじゃない?」

「ファッ!? なななななに言ってんだお前っ!? おおおお俺がこいつを好きになるとか、絶対あるわけないだろうっ!?」

「プークスクス! このデュラハン、露骨に動揺しちゃってますけど! イタイところを私に突かれて涙目になってますけど!」

「なっ、泣いてないやいっ!!(泣)」

 

 人を小バカにする時だけ輝けるアクアのせいで、ベルディアの純情ハートは大ダメージを受けてしまった。

 さらに、この状況を好機と見たカズマは、さきほどゲットした日記を使ってどぎつい追撃を加える。

 

「おい、めぐみん。アレを読んで、さっきの呪いを返してやれ」

「了解です! 封印を解かれし禁書の威力、しかと思い知るがいい!」

「あーっ、それは俺の日記!?」

 

 ベルディアの悲痛な声が響く中、カズマの指示に応えためぐみんは、ポーズをキメつつ例の日記を音読しだした。

 

「『今日俺は、占い師の言っていた【強い光】とやらを調査するためにこの地へとやって来た。その正体がなんであるかはまだ見当もつかないが、調べを進めていけばいずれ判明するだろう。そもそも、ここにはもう一つ、強い光を放っている眩しい存在がいる。そう、それは……我が愛しのウィズだ。見目麗しいその姿は、まさに俺の理想そのもの。瞼を閉じれば浮かんでくる彼女の優しい微笑みが、魔に墜ちた心すら暖かく満たしてくれる。そんな素敵な女性であるウィズのことを思うと…………ムラムラします』」

「日記を書いてる最中にムラムラしてんじゃねえええええええっ!」

「ぐぎゃああああああああっ!? それ以上は止めてくれェェェェッ!!(涙)」

 

 恥ずかしさのあまりに、ベルディアは絶叫したまま固まってしまった。ついでにウィズも真っ赤になって固まってしまったが、彼女の尊い犠牲(?)のおかげで大きなチャンスが生まれる。

 

「今だ銀さん! この隙に会心の一撃を!」

「よくやったぜ、カズマァァァ! 後は俺に任せとけ!」

 

 すぐさま以心伝心して銀時が突撃していく。いくら魔王の幹部と言えども、これではひとたまりもあるまい……。なんて思ってたんだけど、なんか様子がおかしいぞ?

 

「覚えたての遊び人スキルをテメェに味わわせてやらぁーっ!」

 

 バカなドSが唐突に変なフラグを立てやがった。素直に攻撃するかと思いきや、なぜかこのタイミングで新スキルの使用を宣言したのである。

 

「カオスより来るがいい! 愚かなる者共に苦痛という名の救いを与えし残虐なる獣よ!」

「なんだその詠唱は!? まさかそれは、悪魔や幻獣を喚び出す高度な召喚魔法かぁーっ!?」

「確かに召喚魔法だが、俺が喚ぶのはテメェの想像を遙かに超える代物だぁーっ!」

「なんだとおーっ!?」

 

 反応が遅れたベルディアは足元に現れた魔法陣に気づいたが、もはや逃げることはできない。

 

「これでも食らえぃ! 【トライアングル・ホース】ッ!!」

「ぐほおおおおおおおおおおーっ!?」

「って、ただの三角木馬じゃねぇかあああああああああっ!?」

 

 想像を遙かに超えるふざけた展開にカズマが吼える。これをみんなに見せたかった銀時は、この重要な場面で披露しちゃったのだ。

 ていうか、どこから出したのこんなもん……。ものすごい勢いでベルディアの股間を直撃した三角木馬に、ダクネス以外の全員が顔をしかめる。

 

「説明しよう! このスキルを受けた者は、アソコやケツが敏感になって歩き辛くなるのだ!」

「三角木馬でダメージ受けてるだけじゃねぇーか!? ムカつくほどにどうでもいいわ!」

 

 調子に乗ったバカリーダーのせいで、せっかくのチャンスが台無しになってしまった。このままでは、怒り狂ったベルディアの逆襲が始まってしまう。

 そんな危機的状況の中、我らが女神が立ち上がる。

 

「ふーやれやれ。ギャグキャラはこれだからバトルの時に使えないのよねぇー」

「なんだとテメェ!? 俺よりクソなギャグキャラのクセに、いったいナニができるってんだ!?」

「ふん、そんなに分からないと言うんだったら、その腐った目を見開いてよーく見てなさい! 超絶優秀な女神たる私の真価をね!」

 

 何度失敗しても懲りないアクアは、荒ぶるドSを放置して必殺の魔法を放つ。今度こそ、手加減無用の女神パワーでビシッと決めてやるんだから!

 

「ウィズの巨乳にムラムラしているいやらしいアンデッドよ、私の威厳を回復するため消えて無くなんなさい! 【セイクリッド・ターンアンデッド】ーッ!!」

「ふおおおおおおおおおおーっ!!?」

 

 三角木馬に跨がされたまま股間の痛みを堪えていたベルディアは、さらにアクアの魔法を食らった。天に向かって突き上がる神聖な光がアンデッドの肉体を浄化していき、全身を包み込む鎧の隙間から黒い煙が吐き出される。

 

「あひいいいいいいんっ!? なんだこの感覚はっ!? 神聖魔法が股間に沁みて心地良くなってイクゥゥゥゥゥゥーッ!!」

「女神の神聖魔法よりドSスキルが効いてるぅーっ!?」

 

 アクアが放った渾身の一撃はなぜかあまり効果がなく、遊び人スキルのせいでドM化していた相手を喜ばせるだけになってしまった。

 

「えっ、なんでぇ!? どうしてこんな変態に私の魔法が効かないのぉーっ!?」

「それはあいつもドMだからだ! 同じ性癖を持つこの私には分かる! あいつにとって痛みとは忌み嫌うべきものではない。自ら受け入れ、享受するべき最上級の幸せなのだ!」

「まったく違うわボケェーッ!? この俺は、魔王様の加護により神聖魔法に対して強い抵抗力を持っているのだ、はぁ~んっ!?」

「否定しながら感じてますけど!? オッサンの喘ぎ声とかキモ過ぎだから止めてくれよ!」

「ち、ちきしょうっ! あんな職にも就いてなさそうなオッサンにまでバカにされるなんてっ!」

 

 ダクネスや長谷川からおちょくられて悔し涙を浮かべたベルディアは、とある決意を固めた。もう我慢の限界だ。ウィズの知り合いなので、適当に脅したら見逃してやろうと思っていたが、ここまでコケにされては、もはや許しておけない。

 

「どいつもこいつもふざけやがって! 貴様ら全員、皆殺しだああああああああーっ!!」

 

 ベルディアの目が不気味に赤く光った瞬間、カズマが恐れていたリベンジが始まった。忌々しい三角木馬を左腕で叩き壊すと、後方に待機させていたアンデッドナイト達を呼び寄せる。

 

「雑魚だからとて、手加減などは一切せんぞ! 貴様らみたいな頭のおかしい連中なぞ、全力で叩き潰してくれるわぁーっ!」

「きゃーっ!? どうしよう銀時さん!? あいつ、めっちゃ怒ってますけど!? 股間の痛みでプルプルしながらプリプリ怒ってらっしゃいますけど!?」

「落ち着け、駄女神! こうなりゃもう殺るしかねぇだろ! 億万長者になるために!」

「はっ、そうだ! 今こそあいつを殺る時なのよね! 億万長者になるために!」

「ベルディアの言う通り、こいつら頭おかしいよ!」

 

 ベルディアの怒号と同時に襲いかかってきたアンデッドナイトに焦りながらも、覚悟を決めた銀時達は敵を迎え討つ。

 出てきた雑魚は10体ほどしかおらず、銀時と茂茂がそれぞれ数を減らしていく。

 だが、すべてを倒しきる前にベルディアが動いた。2体目のアンデッドナイトを切り倒した茂茂の前に、股間のうずきを我慢したベルディアが高速移動してきたのだ。

 

「思っていたよりはやるようだが……」

「なっ!?」

「それでも俺の敵ではないわっ!!」

「ぐはあぁーっ!!」

 

 声に気づいた瞬間にベルディアの大剣が振り下ろされていた。袈裟懸けに切られた衝撃で熊の毛皮が無惨に飛び散り、ブリーフ一丁になった茂茂が激しく床を転がっていく。

 

「きゃあああああああっ!? シゲシゲさぁーんっ!!」

 

 想い人のピンチに悲鳴を上げながらウィズが駆け寄っていく。幸い、守備力が一番高いクルセイダーをチョイスしていたおかげで切り傷の方は大したことなかったものの、強い衝撃によってかなりのダメージを受けていた。

 

「ベルディアさん……」

「は、はいっ!?」

「魔王との契約があるので、私はあなたに手を出すことはできません。でも……シゲシゲさんにもしものことが起こったら保証できませんからね?」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃーっ!?」

 

 リッチーから向けられる絶対零度の眼差しがベルディアの心を凍らせる。嫉妬の感情に負けて恋敵を狙った結果、片想いの相手に嫌われてテンションを下げてしまう。まるで、『中学生あるある』みたいなイタイ光景である。

 熱くなった空気が一気にしらける中、リッチーモードから元に戻ったウィズが泣きそうな顔でアクアを呼んだ。

 

「アクア様! シゲシゲさんに回復魔法をお願いします!」

「はっ、はいぃ!? もちろん、やらせていただきます!」

 

 おっかないウィズにビビッて銀時の背中に隠れていたアクアが、愛想笑いを浮かべながら近づいていく。やっぱり駄女神では恋するリッチーに勝てなかったよ……。

 それでも、自分に活躍の場が来たことは喜ぶべきところである。気を取り直したアクアは、ニコニコとしながら横たわっている茂茂の傍にひざをついた。

 

「お待たせ、将ちゃん! 今すぐ私が回復魔法をかけてあげるオゲェェェェェェーッ!」

「回復魔法じゃなくてゲロかけたああああああああっ!?」

 

 まさかの事態にみんなで驚く。果たして、アクアの身にいったいなにが起きたのだろうか。

 

「ど、どうしたんですか、アクア様ーっ!?」

「しょ、将ちゃんの身体から、牛乳を拭いた雑巾みたいな悪臭が……ウップ!」

「あー、それはアレだよ。熊の毛皮を着て暴れたもんだから、中で汗が蒸れまくって、ただでさえ臭い将軍の体臭がさらに濃縮されたんだよ」

「それでアクアがやられたのぉ!? 吐くほどに臭いって、どんだけ体臭きついの将軍!?」

 

 銀時の解説に、カズマ達だけでなくベルディアまで引いてしまう。つまり、熊の毛皮という封印が破壊されたせいで、恐るべき毒ガスが解き放たれてしまったのだ。愛という力に守られたウィズはまったく気にならないようだが、アクアという犠牲者を見たカズマ達は近寄ることを躊躇する。

 しかし、この手の逆境に強いダクネスだけは違った。

 

「おい、みんな! そんな態度は世話になってるシゲシゲ殿に失礼だろう! 大体、モンスターと戦う冒険者にとっては、この程度の悪臭など気にするほどではないオゲェェェェェーッ!」

「気になり過ぎてゲロ吐いたああああああああーっ!?」

 

 尊敬する茂茂をかばったダクネスは、問題無いことをアピールしようとして失敗した。ドMの欲求に負けて、おもいっきり吸い込んだことが災いしたのだ。

 

「お前までなにやってんだ!? ドMなのにドSしてるぞ!? キャラ崩壊ってレベルじゃねぇーぞ!?」

「はぁっ、はぁっ! ここまで私を狂わすとは、なんて危険なフェロモンなのだ!」

「お前は元々狂ってますけど! ドMの狂戦士なんですけど! それでも負けちまうなんて、絶対に嗅ぎたくねぇ!」

 

 とんでもない事態にカズマは驚く。まさか、あのダクネスまで茂茂の体臭に負けて、ゲロインの仲間入りを果たしてしまうだなんて……。

 あまりに酷い状況にみんながドン引きする中、その惨状を見かねた長谷川が無謀にも助けに入った。

 

「大丈夫か二人共? とりあえず、君達は離れた場所で休んでろって。将軍様の方は俺がなんとかしとくオェェェェェーッ!」

「やっぱ、お前もかいィィィィィッ!?」

 

 やはりというか、当然のように長谷川もやられてしまった。

 吐き戻した三人はぐったりと座り込み、傷を負った茂茂はゲロまみれで横たわり、状況についていけないウィズはあわあわしながらパニクっている。なんてこった。大切な仲間達をこんなに苦しめやがって……。

 

「よくも俺の仲間達を! 許さんぞ、ベルディアーッ!」

「えっ、なんでぇ!? どうして俺が怒られてんの!? 俺はそいつを倒しただけで、後は勝手に自滅してただけじゃないか!?」

「黙れや変態! 貴様のようなストーカー予備軍は、問答無用でぶっとばすっ!!」

 

 理不尽な怒りを爆発させた銀時は、残っていたアンデッドナイトを切り裂きながらベルディアに突撃する。驚いている間に強烈な連撃を浴びせられ、必死に大剣で捌きつつも防戦一方になってしまう。まさか、このような辺境でこれほどの実力者と遭遇するとは。予想外過ぎる強敵の出現にベルディアは驚愕する。

 

「くっ、まさか!? この俺が、たった一人の冒険者に圧倒されるだとぉーっ!? 貴様はいったい何者なんだ!? 王都から来た勇者なのか!?」

「違いますぅ~! 俺は勇者じゃありませぇ~ん! 陽気で愉快な遊び人です!」

 

 ふざけた返事をしながらも銀時の攻撃は止まらない。素早さに自信があったベルディアも次第に対処しきれなくなり、ついには体勢を崩されて強烈な一撃を胸元に食らってしまう。自慢の鎧に不名誉な亀裂を入れられてしまったのだ。

 

「そんなバカなぁーっ!? 木刀ごときで、魔王様の加護を受けたこの鎧に傷をつけるとはぁーっ!?」

「へっ、見た目だけで判断したテメェのミスだよバカヤロー。世の中にはなぁ、テニスかと思ったらテニヌだったーって話は良くあるもんさ」

「あるわけねぇだろ、あんなもん!? しかし、すげぇな銀さんは……。ただの願望かと思ってたけど、マジで幹部を倒せそうだぜ」

「ええ、そうですね。私の出番を奪われるのは正直言って悔しいですが、仲間としては誇らしいです」

 

 勝利の希望が見えてきたおかげで、カズマとめぐみんの口調も明るくなる。このまま行ければ勝てるかもしれない。まだ経験の浅い子供達は、思わず楽観してしまう。

 だが、命を懸けた戦いに絶対なんてものはない。それを彼らに教えるようにベルディアが笑い出した。

 

「フッフッフッ……ハァーハッハッハッハッ! 確かに、お前は愉快な奴だよ! 人の身でありながら化け物を超えた力を持つとは! 騎士として、この出会いを喜ばずにはいられない! なぜならば、この俺が全力で戦える機会を与えてくれたのだからなぁ!」

「ほう、どうやら強がりじゃねぇみてぇだな!」

 

 相手の感情を読み取った銀時は、油断することなく飛び込んでいく。すると突然、ベルディアの身体に変化が起こった。どういう仕掛けか、異常なまでに筋肉が増強されたのだ。

 

「なんの説明もなく戸愚呂弟みてぇになったあああああああーっ!?」

「フハハハハハッ! 不死の肉体を持つ俺は、限界を超えた筋力を発揮することができるのだぁーっ! こんな風になっ!!」

「ぐおっ!?」

 

 今度はこちらの速度を超されて強烈なカウンターを食らってしまう。なんとか洞爺湖の防御が間にあったものの、そのまま派手に吹き飛ばされて城の壁に激突する。

 

「銀さぁーん!?」

「大丈夫ですか、ギントキーッ!?」

「あー痛ぇ……神楽にぶっ飛ばされたぐらい痛かったぞコノヤロー」

 

 カズマ達が心配そうに見守る中、銀時は文句を言いつつ立ち上がった。額から血を流しているものの大してダメージを受けていない。それどころか、元気に悪態をつき始める。

 

「つーかテメェ、急に変身してんじゃねぇーよ。あーいうのはもっとこう、フリーザ様をリスペクトして絶望感を演出しなきゃ、良い悪役にはなれないよ?」

「そんなことを言われても、フリーザ様ってどこの誰だよ!? そもそも、こっちは貴様のように遊んでいるヒマはない! 俺が本気を出したのだから貴様も本気で戦えいっ!!」

 

 いつまでもチャランポランな銀時に苛立ちつつも、勝負を急ぐベルディアは逆に挑発する。限界突破モードは膨大な魔力を消費するため、不死者と言えども使い過ぎれば動けなくなってしまう。だから、どうしても短期決戦に持ち込む必要があるのだ。

 ただし、それは銀時の望むところでもあったが。

 

「んなもん、テメェに言われなくても自ら進んで出してやるさ。大金を前にして、ギャンブル好きな遊び人が本気を出さねぇわけがねぇだろ?」

 

 不敵な笑みを浮かべた銀時は洞爺湖を腰に戻すと、これまで温存していた切り札をついに取り出した。それは以前、クリスから貰った妖刀・星砕である。

 

「そんな古びた棒っきれで戦うことが貴様の本気か?」

「ああそうだよ、筋肉ムキムキ変態野郎。テメェはこの棒っきれでボロ切れみてぇにボコられるのさ」

「フンッ、限界突破したこの俺を前にして大層な口を叩きおって! その自信を棒っきれごと切り裂いてくれるわああああああああーっ!!」

 

 ベルディアの怒声を合図に決闘が再開される。驚異的なパワーアップを果たしたボスに対して、不利に陥った遊び人はどうなってしまうのだろうか。カズマ達が心配する中、激しく武器を打ち付けあう実力者同士の戦いは、意外にも拮抗していた。

 

「す、すげぇ! パワーアップしたベルディアについていけてるぞ!」

「それどころか、押し始めていますよぉーっ!?」

 

 カズマとめぐみんは、本気を出した白夜叉の強さを初めて目の当たりにして興奮する。この迫力は、ギルドで桂とケンカしていた時とはまるで次元が違う。この姿こそがサムライの……坂田銀時の本領か!

 

「なっ、なぜだっ!? なぜ、ただの人間にこれほどの力が出せるのだっ!?」

「それは、テメェが人ってもんを分かっちゃいねぇからだよ! 人ってヤツは生きてる限りどこまでも強くなれる! 己の中の弱さに勝てば、成長期は止まらねぇ! いくら年を取ったとしても心の中で信じていれば、俺らはずっと【永遠の17歳】でいられるんだからなぁーっ!!」

「いられねぇよ、そんなもん!?」

 

 珍しく良いこと言ってると思ったらやっぱり間抜けなオチがあった。それでも、彼が今現在も成長し続けていることは間違いない。これこそが【主人公補正】という名の最強チートスキルなのだ。

 

「つーわけで、死にぞこないの変態は、さっさと成仏しやがれええええええええーっ!!」

「ぐわああああああああーっ!?」

 

 会心の一撃がベルディアの胸部に決まり、魔王の加護を受けた鎧を粉々に打ち砕く。その衝撃によって彼の身体はぶっ飛ばされて、すさまじい勢いで城の壁を突き破り、四散した瓦礫の中にその巨体を横たえた。

 

「や、やった……マジで幹部を倒しちまった!」

「いやまだだ。手応えはあったが、そいつはまだくたばってねぇ。やっぱ、ボスレベルのモンスターはHPが高ぇようだな」

「フッ、そのボスを圧倒した貴様の方こそモンスターと呼ぶべきだがな……。しかし、俺はこの出会いに感謝しているぞ。騎士として敬うべき強者と全力で戦って逝けるのだからな……。さぁ来い、銀髪の剣士よ! このベルディアを見事に討ち取り、貴様に見合った名誉と誇りをその手に掴むがいいっ!」

 

 敗北を認めたベルディアは、良い笑顔を浮かべながらその時を待つ。魔に墜ちた身であったとしても散り際くらいは潔くありたい。

 

「あー俺、名誉とか誇りなんてどーでもよくて、お金が貰えりゃいいんだけど」

「御託はいいからさっさとやれェェェェェッ!!?」

「なんといいますか、ドS野郎がクズ過ぎてベルディアが可哀相になってきました……」

「ああ、そうだな……」

 

 めぐみんの感想を聞いてクズマさんまで同意する。そんな主人公にあるまじき言動に罰が当たったのか、銀時の身に不幸が起きた。

 

「せめてもの情けだ。心を込めた一太刀で、楽に逝かせてやるよオェェェェェェェーッ!!」

「一太刀浴びせる前に別のもん浴びせたああああああああーっ!?」

 

 どういう訳か、ベルディアに止めをさそうとしていた銀時がゲロを吐き出した。

 

「えっ、ちょっ、なにコレ!? なんで突然吐いちゃってんの!? もしかして、銀さんも将軍の体臭にやられてたのかぁーっ!?」

「いや、違う……。吐き気と腹痛が同時多発的に襲いくるこの症状は……【食中毒】だァァァァァッ! オロロロロロロロロッ!」

「こんなところで食中毒かよォォォォッ!?」

 

 すんごい重要なこのタイミングでとんでもないハプニングが発生してしまった。

 

「いったいどこで当たったの!? 俺達はなんともないけど!?」

「あっ! もしかして、アレじゃないですか? アクアが拾い食いしてた松茸が、実は毒キノコだったとか」

「そっ、ソレだあああああああーっ!!」

 

 めぐみんの指摘で間抜けな事実が判明した。まさか、あの時の伏線がこんな形で回収されるだなんて……。

 

「それじゃあ、アクアもヤバいんじゃね!?」

「あー、私なら大丈夫よ。前に起きた『毒入り焼きそばパン事件』の教訓を活かして、食事をした後には必ず魔法で解毒してるから!」

「お前はいったいどこの暗殺者に狙われてんだ!?」

 

 いつの間にか復活していたアクアが能天気に無事を伝える。でも、それがなんだと言いたい。彼女が拾ってきた毒キノコのせいでピンチになってしまったのは間違いないのだ。銀時にもキアリー的な魔法をかけさせて毒状態だけは治したが、今にも外に出ようとしているウンコの方はどうにもならない。

 さらに最悪なことに、消滅を覚悟したはずのベルディアがこのハプニングに乗じて復活してしまった。

 

「フッ……フハハハハハッ! どうやら、まだ俺の命運は尽きていなかったようだなぁーっ!」

「やっ、やべぇ!? ゲロまみれの変態幹部が蘇っちまったぁーっ!?」

 

 フラつきながらも立ち上がったベルディアにカズマ達は驚愕する。こいつぁはヤバい、このままでは下痢ピー状態で戦えない銀時がやられてしまう。出番が欲しい長谷川と快感が欲しいダクネスは、便意に耐える銀時をかばうように進み出た。

 

「ちょいと待ちな、首無し野郎! 相手がウンコ漏らしそうな時に攻撃しようなんざ、いろんな意味で汚ぇぞ! ウンコを出すまで待ってやるのが騎士道ってもんだろうっ!?」

「そんな騎士道どこにもねぇよ!? 普通の奴は戦闘中にウンコ出そうとしねぇだろっ!?」

「ならば、貴様は我が主にお漏らしプレイを強要するのか!? よもや、それほどアブノーマルな性癖をしていようとは! 見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を! そこまでして、スカ○ロプレイを堪能したいと望んでいるのか!? 男も女も見境無しに変態プレイをさせる気か!?」

「すべてが違うわ、変態女っ!? 俺は至ってノーマルだっ!! いや、ほんとマジだから、そんな目で見るんじゃねぇーっ!?」

 

 あらぬ疑いをかけられたせいか、デュラハンの人が狼狽えている。この隙に対抗策を考えるとしよう。

 

「(ウンコが漏れそうな銀さんはひとまず外に逃がすとして、ベルディアはどうする? あれだけ弱ってるなら俺達だけでも倒せるか?)」

《うんそうだね。上手くやれば銀時抜きでもギリギリ倒せるよ。まぁ、カズマの首がすぽーんとやられる確率の方が高いけど……》

「(よーし分かった、今すぐ逃げよう!)」

 

 死にたくないカズマは速攻でヘタれた。大体、自分はボスを倒す気なんて元から無いし、銀時にウンコを出してもらえばなにも問題ないじゃないか。とにかく今は、用を足す時間さえ稼げればいいのだ。

 

「おいみんな! 一端ここから逃げるぞ!」

「ふんっ! 良い判断だが、このまま黙って行かせるとでも思ったかぁーっ!?」

「そんなこたぁ思ってねぇよ! だから、こいつを食らいやがれ!」

 

 そう叫ぶと、腰の袋から細長いアイテムを取り出してベルディアの足元に叩きつけた。その道具は、いざという時のために桂が与えた【煙幕発生装置】だった。

 

「んまい棒・混捕駄呪(コーンポタージュ)っ!!」

「ぐわっ!? なんだこの煙はぁーっ!?」

 

 視界を奪われたベルディアは、初めて見た異世界の道具にビビッて必要以上に警戒した。少しだけでも時間を稼げればいいと思って使ったが、想定以上の効果が出た。

 

「よし今だ! 全力で走れぇーっ!」

「うおおおおおおおおっ! 外に出るまで耐えてくれよ、俺の肛門括約筋ッ!!」

「えっ、ちょっ、待って!? シゲシゲさんはどこかしら!?」

 

 辺りに広がる煙幕に身を隠してカズマ達は逃げ出していく。ダメージが大きいベルディアは足元がフラついていたから、たとえ追いかけてきたとしても全力で走れば追い付けまい。目敏いカズマはそう思ったが、ベルディア自身も同じ判断をしていた。

 

「逃げられたか……。いや、この場合は俺の方が助かったと言うべきだな」

 

 追撃を諦めたベルディアは、その場にドカリと座り込んだ。限界突破モードを限界まで使ったせいで予想以上に魔力を消費していたのだ。その上、身を守る鎧も手足となる軍団も失ってしまっては一時退却するしかない。

 

「こうなっては、あの男が戻ってくる前に脱出しなければならないが、もう少し回復しないと転移はできんな……。この俺としたことが、なんてザマだ……」

 

 あまりにおかしな銀髪の剣士を思い浮かべてため息をつく。死んだ魚のような目をしているクセに、その奥には得体の知れない強さを秘めている。それは、魔王の幹部から見てもあまりに異質な存在だった。

 

「もしや、あいつが占い師の言っていた強い光とやらなのか?」

 

 納得し難い想像に思わず頭を悩ませる。あんなドSのクズ野郎が魔王軍を脅かす光だなんて絶対に認めたくねぇ!

 一方、変な勘違いをされている銀時は、絶対ウンコを漏らすまいと凄まじい速度で城から出てきた。

 

「ふおおおおおおおおっ!? キテル、キテル、すっげーキテル!! スパーキング寸前だァァァァァッ!!」

 

 いろんな意味で危機的状況の中、お尻に手を当てながら森の奥へと駆け込んでいく。ボス戦の途中で野グソとか前代未聞の珍事だったが、とりあえず最悪の事態は避けられたようでなによりである。

 一方、後から遅れて外に出てきた長谷川達は、城から距離を取りつつもベルディアの追撃を警戒する。

 

「後は、ベルディアが来る前に銀さんがウンコを出せるかだな!」

「私達の運命は、ギントキのウンコにかかっているのですかぁーっ!?」

 

 真剣な顔をしながら間抜けなことを言う長谷川にめぐみんが食らいつく。他人の排泄行為に自分の運命をかけるとか、かっこわるいにも程がある。そもそも、当のベルディアは追撃をするどころか逃げ出そうとしているので、彼女達の懸念はすべて無駄でしかない。しかし、そんなことなど知らないアクアが余計なことを思いつく。

 

「ねぇ、めぐみん! 今なら爆裂魔法を使えるんじゃないかしら? 邪魔な結界はこの私の素晴らしい活躍で破壊済みだし、あのデュラハンも私の神聖魔法でかなり弱ってるはずだから、デカイの一発お見舞いすれば、お城ごとぶっ飛ばせるかもしれないわ!」

「おお、そうですよ! 今こそ爆裂魔法を放つ絶好の機会じゃありませんか! この私としたことが、これほどまでに最高の見せ場を見過ごすところでした!」

 

 駄女神と中二病が力を合わせたら常識が爆裂した。そんな方法でボスを爆殺するのは、クズマ的にオッケーだけどゲーマーとしてはどうかと思う。

 

「おい、めぐみん。本当にやるつもりか!?」

「フッ、愚問ですね。今爆裂魔法を撃たないでいつ撃つというのですか!」

「お前は、いつでも所構わずぶっぱなしてんじゃねぇーか!? 街の近所でバンバンやってクレーム来てんの知ってんだからな!?」

「ええい、うるさい! たとえ、カズマが文句を言っても爆裂愛はびくともしない! 我が栄光の爆裂道は何人たりとも止められません!」

 

 一応注意してみたけど、頭がおかしい爆裂マニアはやっぱり止められなかったよ。無力感を抱いたカズマが冷めた視線を向ける中、テンションマックスなめぐみんが爆裂魔法を放った。

 

「【エクスプロージョン】ッッッ!!」

 

 めぐみんの声が辺りに響くと視線の先で強烈な爆発が発生した。アクアの魔力によって強化されたソレは堅牢な廃城すらも瞬く間に瓦礫と化して、すべての破壊活動が終わった後には景色が変わっていた。

 魔力を使い果たして前のめりに倒れ込んだめぐみんは、情けない姿も気にせず満足そうにつぶやく。

 

「フッフッフ、我ながらナイス爆裂でした……」

「なんだろう、助かったのにスッキリしないよ。逆に切なくなってくるよ……」

 

 個性が爆裂しまくっているヒロインを見て、カズマの心は大きなガッカリ感に襲われる。

 しかも、それは彼一人だけではない。ウンコを出してスッキリしたはずの銀時が、なぜか不機嫌そうに怒鳴り込んで来た。

 

「おィィィィィッ! 俺がウンコを爆裂中に城を爆裂してんじゃねぇーよ!? 危うく身体がウンコまみれになっちまうとこだっただろぉーがっ!!」

「ああ、それはどうもすみません。爆裂魔法に気を取られて、ついうっかり忘れてました。って、なんですかその怪しい手つきは!? 私にナニをする気ですか!?」

「なぁに、お前のせいで俺の手にちょっぴりアレが付いたから、手頃な物で拭き取るだけだよ」

「手頃な物って、私のマントじゃないですかぁーっ!? お願いですから待ってください! 誠心誠意謝りますからそれだけは本当に……ヤメッ、ヤメロォォォォッ!?」

 

 汚い報復を受けためぐみんの絶叫がこだまする。バカバカしい犠牲は出たけど、魔王の幹部を相手にして全員が生還できたのだから、そのくらいは許容すべきだろう。

 後は、ベルディアがどうなったかという点だけだが、それを確かめる前にウィズが話しかけてきた。

 

「あのすみません、ギントキさん。シゲシゲさんの治療をしたいので、私は先に帰ります」

「そういやぁ、アクアのバカは、ホイミをかけずにゲロをかけてやがったな」

 

 あの惨劇を思い出した銀時は、ウィズに背負われた茂茂に哀れみの目を向けた。

 あれ、おかしいな。どう見ても腐った死体なんだけど。将軍って、あんなに不健康な面してたっけ?

 

「つーか、ソレ将軍じゃねェェェェェッ!?」

「えっ!? きゃああああああああーっ!? シゲシゲさんがアンデッドナイトに変わってるぅーっ!?」

 

 ここまで来てようやく間違いに気づき、ウィズはパニックを起こす。彼女が背負ってきたのは茂茂ではなく、銀時にやられてブリーフ一丁になったアンデッドナイトだったのだ。逃げようとしたあの時、煙幕によって視界が悪化したせいで、ゲロまみれの茂茂と近くにあった腐った死体を取り間違えていたのである。

 

「ということは……」

「シゲシゲ殿は、爆裂魔法で破壊された城の中に……なんと羨ましいっ!」

「って、そうじゃねぇだろバカヤロー!? 将軍、爆裂しちまったんだぞ!? 爆破コントじゃ済まねぇぞ、コレッ!?」

「イヤァァァァァァッ!? シゲシゲさああああああああんっ!?」

 

 まさかの事態に混乱する中、涙を流したウィズが城へ向かって駆け出していく。

 

「こっ、こうしちゃいられねぇ! 俺達も助けに行こうぜ!」

「そっ、そうだな!」

 

 罪悪感に負けた長谷川をきっかけにして他の連中も救援に向かった。動けないめぐみんはカズマが背負い、惨劇が起きてしまった現場へと急行する。

 それにしても、どうしてこうなった?

 ギャグ属性のブリーフマスターはやたらと防御力が高いので生きている可能性が高いし、たとえ死んでいたとしてもアクアの魔法で生き返らせることが可能だが、後で顔を合わす時にめっちゃ気まずいことになる。主犯にされたくない連中は必死に罪を押しつけ合う。

 

「わっ、私は悪くないんだからっ!? 爆裂魔法を使ったのはめぐみんだし、一番悪いのは毒キノコなんかに当たった銀時なんだからねっ!?」

「あっ、汚ぇぞテメェ!? 女神のクセに偏向報道やらかして罪を捏造する気かぁ!? 大体、テメェが毒キノコなんて拾ってこなけりゃ悲劇は起こらなかったんだよっ!」

「そっ、そうですよ、アクア! 私が爆裂魔法を使ってしまったのも、私のマントがウンコで汚れてしまったのも、すべてはアクアのせいですよっ!」

「うわああああああんっ! 二人がかりで責めるなんて、私があまりに不利なんですけど!? 女神であるこの私がどうして悪者扱いなのよぉーっ!?」

「はぁっ、はぁっ……エリス教徒として罪を犯すわけにはいかないが、アクアのように責められるのも楽しそうだな!」

「もう嫌だ、この人達……」

 

 あまりに見苦しいやり取りを見せられて、カズマはポロリと涙を流す。

 幸いなことに茂茂は生きており、アクアの魔法で全快するものの、罪悪感を抱いた銀時達は仕事の報酬を辞退するのだった。

 

 

 

 ウィズが城に戻り始めた頃、瓦礫の山と化した爆心地では、なんとか助かったベルディアがヨロヨロと立ち上がっていた。城の壁があった分、爆裂魔法の衝撃が和らいだおかげだが、頭の方は吹き飛ばされてどこかにいってしまった。

 

「チックショォォォォォォッ!! あいつらマジで何なんだ!? クソしに行ったと思ったら爆裂魔法を撃って来たよ!? 力んだ拍子に魔法が出んのか!? ウンコと一緒に爆裂すんのか!? もう訳が分かんねぇーよ!? 頭がおかしいってレベルじゃねぇーぞっ!?」

 

 行方不明中の首が激しく喚き散らす。

 それにしても、目の前にあるコレはなんだろうか。あまりに近くてよく分からないが、白くてモッサリとして、牛乳を拭いた雑巾のような臭いが……

 

「つーか、くっさ!? コレくっさ!? いったいなんだよ、この臭い物体は!?」

「それは余のお稲荷さんだ」

「…………へ? オイナリサン?」

 

 予期せぬ第三者の声にドキリとする。まさか、奴等が戻って来たのか?

 青ざめたベルディアは慌てて首を見つけ出し、それを急いで持ち上げた。すると、彼の視界には、茂茂の黄ばんだブリーフが映し出された。

 

「オェェェェェェッ!? ソレってブリーフだったのぉーっ!?」

 

 すべてを知ってかつてない程のショックを受けたベルディアは、涙を流しながら逃げ出した。憎き恋敵である茂茂に止めを刺すことも忘れて……。

 パニクっていたせいで崖から落下し、さらにボロボロになりながらもその場から遠ざかる。男の金○まにキスしてしまった事実を忘れるために、今は少しでもここから離れたい。

 しかし、それも短い間だけのことだ。

 

「今に見ておれ、銀髪の剣士とその仲間達よ! 俺は必ず戻ってくるぞ! 憎き貴様らに復讐を果たすためになぁーっ!!」

 

 心に深い傷を負った化け物が、怒りを力に変えてリベンジを誓う。遊び人との第二ラウンドは、さらにとんでもないことが起こりそうな不吉な予感がした。

 

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