長期に渡り、エタるエタる詐欺を行ってまいりましたこの作品ですが、ようやく何とか復帰することができました。
完全復活というわけではありませんが、チビチビと続けようとは思っていますので、応援よろしくお願いします。
紆余曲折の末に、茂茂との再会を果たした近藤は、結成間近だった真選組の初代局長に任命された。チ○コ丸出しの変態ゴリラから、勇者を育てるマスターゴリラへと進化して、新たな異世界生活を始めることになったのである。
翌日の朝、桂達に連れられてギルドへとやって来た近藤は、仕事を始めるために必要な冒険者登録を行おうとしていた。もちろん、カズマを始めとするお馴染みの面々も揃っており、まったく興味が無かった銀時も、めぐみん達に連行されてその場にいた。
「ったく、なんで俺がこんな茶番に付き合わされなきゃならねぇんだよ。どうせ、コイツの職業なんざ、ゴリラかストーカーの二択じゃねぇーか」
「ふざけんなよ遊び人!? 就職率100%を誇りしルイーダの酒場ですら見捨てられるバカなんざ、テメェだけで十分だ!」
「何だとゴリラ!? 遊び人にすらなれず、異世界でも絶賛無職な長谷川さんの悪口を言うのはそこまでだ!」
「なんで俺が最終的にディスられる形になってんの!?」
朝っぱらからマダオ達の不毛なケンカが勃発する。ギルドの受付で応対中のルナは、彼らの様子に呆れつつも、桂との話し合いを冷静に進めていく。
「とまぁ、ゴリラにしか見えないこのゴリラは、ゴリラであってゴリラではなく、俺達と同じように働ける人間的なゴリラなのだ」
「は、はぁ……。なにがなにやらサッパリですが、シゲシゲさんやカツラさんが保証すると言うのでしたら、そちらにいるコンドウさんを普通の冒険者と同様に見なすことにします。ゴリラにしか見えませんけど」
どこか納得し難い表情を浮かべるものの、結局は桂の説明を受け入れる。どうやら近藤という人は、『悪魔に呪いをかけられたせいでゴリラに見えるようになった、ゴリラっぽい人間』らしく、その話が事実なら、外見に囚われることなく人として接するべきだろう。ぶっちゃけ、非常識なこの人達と揉めてもストレスがたまるだけだし……。
「それでは、これから冒険者の登録をさせていただきますので、コンドウさんはこちらにお越しください」
「はい、よろしくお願いします!」
面倒事からスッパリと逃げたルナは、登録の手続きを普段通りに進めていく。以前、銀時達が行ったように近藤用の冒険者カードを作り、出来上がったそれを手にとって内容を確認する。
果たして、どのような結果になっているのだろうか。当事者である近藤は言うに及ばず、興味を持っていためぐみん達も期待の眼差しをルナに送る。
「なんだか、とってもワクワクしますね。もしかすると、満月を見たら大猿に変身するという伝説のレアスキルを習得出来るかもしれませんよ!」
「なんで急にサイヤ人!? 当たり前のように言ってるけど、君は元ネタ知らないよね!?」
「ならば、ここは間を取って、満月を見たら狼という名のストーカーに変身するスキルなんてどうだろうか? 執拗に女性を狙うケダモノとか、私にとってはご褒美だぞ!」
「いや、全然間を取ってねぇし、ソレって只の犯罪者じゃね!?」
めぐみんとダクネスが抱いていた期待は、色々とおかしかった。そして、アクアに至っては、根本からしておかしかった。
「そんなことはどうでもいいから、ちゃっちゃと話を進めなさいよ! 私は今すぐクエストを請けて大金を稼ぎたいの! ええ、そうよ! もうバイトはイヤなのよ! いくら【私の聖水】が超絶オイシイからと言って、飲食店の調理場で小便小僧のようにお水を垂れ流すだけのバイトなんて、もうやりたくないのよォォォォォ!!」
「女神のクセに水道水扱いとか、悲しいってレベルじゃねーぞ!? ってか、私の聖水って何なんだよ!? どう聞いてもエロい聖水なんですけど、お前は一体どんな店でバイトをしていた!?」
哀れなバックストーリーに、流石のカズマも涙する。時給の良さに釣られたんだろうけど、仮にも女神なんだからもっと普通にバイトしろ。
そんな感じで、いつものように駄女神をディスっていると、カードの確認作業をしていたルナの表情がだんだんと曇っていく。
「はぁ、やっぱり……この人のステータスもおかしなことになってるわ」
「えっ、待って!? 公開する前から希望の無いこと言い出したけど、この俺のステータスに一体なにが起きたんだ!?」
不穏なルナの発言に近藤がビビる中、ついにその真相が明かされる。
「コンドウ・イサオさん。あなたのステータスは……少しばかり個性的で、体力はバナナ10本、その他の値は全て、560ゴリラとなっています」
「オィィィィィッ!? どう考えても、数値の単位がおかしいだろコレ!? 個性的っていうよりも野性的なんだけど、なんで俺の体力がバナナで表示されてんだ!? つーか、1ゴリラってどういう値!?」
いざ答えを聞いてみたら納得のいく内容だった。もちろん、彼の冒険者カードもバグりまくっているのだが、実に近藤らしいステータスであり、銀時達も大満足だ。
「大満足だ、じゃねーだろオイ!? なんでステータスまでゴリラまみれになってんの!? ここまで来ると、人為的な悪意を感じざるをえないんだけど!?」
「はぁ? なに言ってんだよ近藤さん。パイオツカイデーなチャンネーに悪意なんてあるわきゃねぇ! そんなことより、ポジティブに職業の方を期待しろよ。公務員だったお前なら、まともな職に就けるだろうさ」
「そ、そうだな! 職業の方には選択肢もあるだろうし、しつこいゴリラの呪縛からも抜け出すことができるだろう」
純粋なのかバカなのか、胡散臭い銀時の言葉を鵜呑みにした近藤は、職業選択の自由に一縷の望みをかける。果たして、彼の願いは運命の女神に届くだろうか……。
「で、俺が選べる職業は?」
「ゴリラ、ドンキーコング、バブルス君の3択です」
「結局、全部ゴリラじゃねぇーか!?」
残念、届きませんでした!
《ゴメンよ近藤。ゴリラの呪縛を解くことは、このボクでも出来ないんだ……。まぁぶっちゃけ、やろうと思えば出来るんだけど、こんなに面白いキャラを改変しちゃうなんて、ボク的にあり得ないでしょ☆》
「(運命ってヤツは、見た目に反して残酷だ……)」
しょっぱい真実を知ってしまったカズマは、過酷な運命を強いられている近藤に同情する。とはいえ、当事者であるゴリラにとっては、こんな展開など慣れっこなので、さっさと諦めて話を進める。
「じゃあもう、最初のゴリラでいいよ。他のはなんか、著作権的に面倒そうだし」
「わ、分かりました、ゴリラですね……。こう言っては何ですが、強く生きてください(憐)」
「そんな目をして言われても、慰めにならねぇよ!(怒)」
若干気分を害しながらも、近藤の許可を取ったルナは、ゴリラの職を選択する。こうして、世にも珍しいゴリラの冒険者が誕生した。
☆★☆★☆★☆★
必要な手続きを終えた後、バカパーティは、クエストを請けるために掲示板の前へとやって来た。早くお金を稼ぎたいアクアは当然張り切っているとして、今日が初仕事となる近藤も気合いが入っていた。
「よっしゃーっ! やるからには全力で行くぞ!」
「あらあらまあまあ、どうしたの? ゴリラがウホウホ鳴いてますけど、女神であるこの私と張り合うつもりなのかしら?」
「フン、それはこちらのセリフだよ! 仕事とゲームとストーキングで鍛えまくった俺の力を、舐めないでもらおうか!」
クエストをやる前から、別の意味でヤる気満々である。
とはいえ、ここで近藤にケンカをさせる訳にはいかない。真選組の仕事を始める前に、ゴリラだと見なされている彼が無害であることを街の人々にアピールしなければならないからだ。そのために桂が考えた計画が、クエストを行って活躍する事だった。
「たとえ見た目がゴリラでも素晴らしい成果を出せば、街の人々はこう思うだろう。『あのゴリラは、スッゲー調教を受けた末に新たなステージへと覚醒したスーパーゴリラなんじゃね?』ってね!」
「改善する気ねぇだろお前!? それだと結局ゴリラのままじゃん!」
ちょっぴり期待をしていたけれど、やっぱりコイツは只のバカだ。いつものような展開に持っていく桂に対し、怒った近藤が突っかかる。
その間にクエスト掲示板を見回していたアクアが、とある依頼を見てニヤリとする。水を司る女神である彼女が選んだクエストは、『水質の悪化した湖を浄化する』というものだった。
「ちょっと、これこれ! いいじゃない! こういうクエストを待っていたのよ!」
「ほう、どれどれ。それほどアクアが興奮するとは、一体どんなクエストですか?」
興味を抱いためぐみんが改めて確認すると、確かにこれは浄化魔法が使えるアークプリーストにピッタリの仕事である。
だがしかし、ポンコツ女神のアクアなんかにそんな芸当が可能だろうか。いや、出来まい。みんなが揃って思ったことを銀時が代表して言葉にする。
「水を浄化する前にお前の心を浄化しろよ」
「私の方がヨゴレてんの!?」
情け容赦ないドSの指摘に、アクアは衝撃を受ける。
「なによなによ! いっつも私をバカにして! 水の女神であるこの私は、どんなにばっちいお水だって、体が触れているだけであっという間に浄化できちゃう素敵仕様なんだから! 水だけに限定すれば、斉木楠雄だって目じゃないわ!」
「女神様がサイキッカーと張り合ってんじゃねぇーっ! つーか、ほぼ負けてんじゃん! 自分で認めちゃってるじゃん!」
いろんな意味で神をも超える超能力者にケンカ売ってんじゃねぇと、カズマのツッコミが決まる。
しかし、コイツの能力は使えるかもしれない。
「なぁ、銀さん。水に触れてるだけでいいんなら、このクエストは簡単にクリアできんじゃねぇかな? コイツ一人でできることだし」
「ああ、そうだな。駄女神を湖に放り込んで泳がせるだけの簡単なお仕事だ」
「あんたたちは揃って鬼なの!? とってもか弱いこの私が、モンスターのいる湖で泳げるわけがないでしょーっ!? お願いだから守ってよ!? プリティーなお尻が噛まれないように、この私を守ってよっ!?」
「あーもう、ウッゼェーッ! だったら、長谷川さんを貸してやっから。いざって時は、コイツを囮に使って逃げろや」
「俺が代わりに死ぬだろソレ!?」
「案ずるな、ハセガワ! 私も一緒に囮をやるからっ!」
「そんな申し出いらねぇーよ!? どっちにしろ俺も死ぬじゃん!? モンスターのウンコになるだけじゃん!?」
命の危険を感じたマダオが必死こいて主張する。ヘタレな彼の言う通り、確かにこれには問題がある。水の浄化をしている間、無防備になるアクアをモンスターから守らなければならないのだ。しかも、それには半日ほどかかるらしく、体力的にも精神的にも付き合っちゃいられない。
ならば、他に良い手はないか。こういう時に頭が回るずる賢いカズマさんは、悪魔的なアイデアを瞬間的に捻り出す。だがそれも、KYな桂によって邪魔される。彼もまた、カズマに劣らぬ変態的な策士だった。
「ならば、俺達が協力しよう」
「なんだよ、ヅラ。唐突に変なフラグを立てやがって、一体ナニをするつもりだ?」
「ふん、別に警戒するような話ではないさ。俺達の請けるクエストが、お前達のものと関係しているだけのことだ」
そう言って桂が見せてきた依頼書には、こう書かれていた。
――希少モンスターの捕獲――
おい、そこの愚民ども。余が直々に頼んでやるゆえ、心して聞くがよい。今回は、近隣の湖で目撃されたブルータルアリゲーターの突然変異種【ブルータルアリゲーターG】の捕獲を依頼するぞよ。恐らくコイツはめっちゃんこ強くて、ビビりなヘタレは脱糞してしまうかもしれんけど、無様に死んでしまわぬようにせいぜい頑張るがよいわ。運良く成功した暁には、報酬として100万エリスを進呈するぞよ。
by ムツ○ロー央国からやって来たラブ&ピースなイケメン皇子☆
「「ム○ゴロー央国って何だァァァァァ!?」」
やたらと聞き覚えのある単語に、銀時と長谷川が思いっきり食いつく。
「これは一体どういうことだ!? スッゲー馴染みがあるっつーか、これって絶対アイツのことだろ!? 銀魂初期から登場してる、あのバカのことだろぉーっ!?」
「そんなまさか!? あの忌まわしきバカ皇子までこの世界に来てるのかァァァァァッ!?」
予想外の展開に銀時達が騒ぎだす。それに対して、訳がわからないカズマ達はポカンとするしかなかったが、親切なノルンが相棒だけに説明する。
《だいじょーぶだよ、カズマ君。バカ皇子までこっちに来たら収集つかなくなっちゃうから、他のキャラと同様に銀魂世界で留守番してるよ》
「(いや、そもそも俺は気にしてねぇし、バカ皇子ってどこの誰!?)」
ある意味貴重なメタ情報も、カズマにとってはクソの役にも立たなかった。
それでも、彼女の言っていることは本当であり、幸いながらバカ皇子はこの世界に来ていない。
ムツ○ロー央国とは、ベルゼルグより遥か遠くにある大国で、あのバカとキャラが被っている第一皇子が、珍しいモンスターをゲットするため、魔王が出現しているこの国に滞在中なのだ。
そんなバカ皇子の依頼を請けた桂は、利害が一致するアクアに協力を申し出たわけだ。結局は、余計に難易度が上がっただけだが……。
「ちょっと待って!? バカ皇子は良いとして、ブルータルアリゲーターGってのは何なのよ!? もしかして、Gウィルスに感染したバイオ兵器じゃないでしょうね!? そんなヤツがいるなんて聞いてないんですけどぉーっ!?」
「私も初めて聞きした。ブルータルアリゲーターに突然変異種がいるなんて、大変興味深いです。ところで、Gってなんですかね? ジャイアントかグレートか……もしくはゴッドかもしれません!」
「ああ、ドラゴンボールなら有り得るな」
「って、Gの部分はどうでもいいでしょ!? ガンダムだかゴジラだか知らないけど、ソイツのせいでクエストが請けられないじゃないのよぉー!?」
打たれ弱いアクアは、始める前から失敗しそうな展開に焦る。他に良いクエストが無いので、今日の所はこの一点にかけるしかないのだ。
そんなヘボい駄女神を助けるべく、桂が前に進み出る。
「安心するがいいアクア殿。こんなこともあろうかと用意していた物がある」
「えっ、本当!? ヅラのクセにやるじゃない!」
「ヅラじゃない、ジャイアントグレートカツラGだ!」
「勇者王が別のメカになってますけど!?」
先程の話を気に入ったのか、Gのくだりを蒸し返してきた桂にイラッとする。
それでも、今は彼だけしか頼れる存在はいない。覚悟を決めたアクアは、桂と一緒にクエストを申し込み、ブルータルアリゲーターGに立ち向かうこととなる。
☆★☆★☆★☆
ギルドを出た一行は、茂茂の砦へとやって来た。桂が言うには、ブルータルアリゲーターGの攻撃を防ぐ手段がここにあるらしいのだが、それは一体どのような代物だろうか。
「心して見るがいい! これが勝利の鍵だァァァァァッ!」
「って、普通のオリなんですけど!?」
絶叫するアクアの前には、確かに鋼鉄製のオリがあった。移動用の車輪が付いていること以外は普通のオリにしか見えず、期待していた者達のテンションを下げまくる。ただ一人、カズマだけは予想がついていたのだが。
「まぁ、こうなるとは思ってたよ。俺のアイデアと同じだしな」
《流石はカズマ! 女の子をオリに閉じ込めて、ワニのいる湖に放り込むとか、クズ野郎かバカでないと思い付かない発想だよ!》
「(誉めるようにディスってくんの止めてくんない、頼むから!)」
ノルンの評価はかなり冷たいものだった。
それでも、この方法が最適な手段であると言わざるを得ない。その事実を伝えるために、桂が説明を始める。
「この無駄に頑丈なアダマンタイト製のオリに入っていれば、もう何も怖くない! 浄化作業をするアクア殿を完璧に守ることができる上に、ブルータルアリゲーターGをおびき寄せるエサ役までこなせるという、一石二鳥な作戦だ!」
「なんかさらっととんでもないこと言ってた気がするんですけど!? 女神であるこの私をエサにする気だったのぉーっ!?」
「勘違いをしてもらっては困るな。アクア殿の参加は、あくまでもイレギュラーであって、当初の予定では、近藤をエサ役にするつもりだったのだ。と言うわけで、お前も入れやクソゴリラ!」
「何で俺まで入るのぉーっ!? オイ、コラ止めろ!? どうして服を脱がそうとする!?」
「そりゃお前、下ろし立ての隊服を汚すわけにはいかんからな。ついでにパンツも脱いでおけ」
「ちょっと待ってぇ!? 服の方はちゃんと脱ぐから、せめてパンツは残してくれよ!?」
「問答無用だ、さっさと脱げェェェェェッ!」
「アァァァァァッ!?」
こうして、憐れな近藤は素っ裸にひん剥かれ、アクアや長谷川と一緒にオリの中へとブチこまれた。
「何でさらっと長谷川さんまでオリに入れられてんだァァァァァッ!?」
「なんでもなナニも、オリの中はアンタの家みてぇなもんだろう?」
「こんな家があってたまるか!? 大体、俺は関係ねぇだろ!? 俺は無実だ、ここから出せェェェェェッ!!」
「そーよ、私も出しなさいよ! ゴリラやマダオと一緒だなんて、イヤだイヤだイヤだァァァァァッ!?」
「へっ、犬どもが吠えてやがるぜ!」
オリの格子を揺さぶりながら犠牲者達が泣き叫ぶ。一応、アクアを気遣って近藤達を同行させたのだが、はっきりいって犯罪現場にしか見えない。あまりに悲惨な光景に、カズマやめぐみんでさえ顔をしかめてしまう。残念ながら、ダクネスだけは悦んでしまっていたが……。
「ひ、酷ぇ……。俺が言うのもなんだけど、クズマさんでもこれは引くわー……」
「は、はい……。確かに、これはドン引きもいいとこですね……」
「なにを言うか二人とも。私としては引くどころか、アソコに押し込んでほしいくらいだ! さあ、今からでも遅くはない! 強引に襲うように、アソコへ押し込んでくれェェェェェッ!!」
「その言い方は止めろォォォォォッ!?」
相性が良いのは分かるけど、これ以上銀魂サイドに堕ちないでください。興奮するダクネスを見て悲しくなったカズマは、わりと本気でエリスに祈った。
だがしかし、優秀なエリス様にも出来ないことはある。それを証明するように新たなネタがやって来た。この場にいなかったエリザベスが、オリを運ぶために必要な馬を連れて来たのだが、その馬には一目で分かる問題があった。
〈お待たせみんな。頼れる仲間を連れて来たゼ〉
「ご苦労だったなエリザベス。足となる馬も来たことだし、出発の準備に取りかかろう」
「え……ちょっと待って? それって馬? 馬なの? なんか頭が無いんだけど? 馬っていうか生物なの?」
目の前にいる黒毛の巨体を見て、銀時は狼狽える。なんと、その馬には頭が無いのだ。しかも、普通のサイズより2倍以上は大きくて、ラオウがライドオンするレベルだ。
もちろん、普通の馬などではなく、正体を知っているアクアが叫ぶ。
「あああああああああッ!? コイツはデュラハンの馬じゃない!? なんでノゾキ魔の片割れがこんな所にいるのよ!?」
「デュラハンの馬? もしかして、ベルディアが連れて来た愛馬ってことか!?」
事情を察したカズマが驚きながら声を上げ、それを肯定するように桂が頷く。
「その通りだよカズマ君。お前達がベルディアを撃退した後日、将ちゃんの依頼を受けた俺達は、ヤツの動向を探るために廃城跡を調べていた。その際に、付近の森をさまよっているコイツの姿を見つけてな。ベルディアに置いていかれて泣いていたようなのだが、なんかうるさかったからエリザベスと一緒にぶっ殺した」
「オィィィィィッ!? 思考パターンがクズ過ぎるだろ勇者王!? つーか、この馬泣いてたの!? 飼い主に捨てられたペットかよ!?」
「ああ、そうだ。コイツはただ寂しくて、仲間を求めていただけなのだ。だからだろう、倒したコイツが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見たのは!」
「魔物使いの能力が運良く効いただけじゃね!?」
なにが起きたのかと思えば、結局はドラクエ的なオチだった。ようするに、エリザベスの専用スキルによってベルディアの馬を仲間モンスターにしたわけだ。
「ちなみに、コイツの名前は【風雲再起】だ」
「なんでそこでGガン風!? ドラクエで統一しとけや!」
そこはかとなく納得がいかない銀時がツッコミを入れるものの、クエスト攻略の仕掛けはこれですべて揃った。湖へ向かう道中、アンデッドの存在を許せないアクアが度々文句を言ってきたが、風雲再起にスピードを出させて強引に黙らせるのであった。
☆★☆★☆★☆
目的地である湖には思った以上に早く着いた。ざっと辺りを見回すと、確かに水が汚れている。
なので早速、アクアという名の浄化装置を浅瀬に設置する。後は、ブルータルアリゲーターGが出るまでひとまず待機である。
湖から少し離れた場所に陣取った銀時達は、その時が来るのを静かに待った。しかし、2時間経っても動きが無く、モンスターの一匹も出やしないので、用意してきた食料を摘まみながら休息を取ることにした。
「おいめぐみん、弁当の主役である唐揚げばっか食うんじゃねぇよ。そんなにモリモリ食ってるとウンコに行きたくなっちまうぞ?」
「食事中になんてことを言うのですか!? そもそも、紅魔族はトイレになんて行きませんから、心配は無用です!」
「わ、私もクルセイダーだから、トイレは……(恥)」
「あーそうかい? だったら、絶対ェお前らにはトイレタイムをやらねぇからな? たとえ、アニメで出せないようなモザイク状態になったとしても、俺ぁ容赦しねぇよ?」
「あーっ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!? 誠心誠意謝りますから、それは勘弁してください!!」
「くっ、この私にスカ○ロプレイを強要するとは!? 興味はある……興味はあるが、やっぱりらめぇーっ!?」
定番のトイレネタで盛り上がる仲間達。実にのどかな光景である。
案外、この世界は俺達に優しいのかもしれないな……。バカな会話を聞きながら、カズマは思った。
「これのどこが優しいのよ!? ばっちぃ水に浸かってる私達を放置してピクニックを楽しむとか、鬼畜の所業なんですけど!? もっと私に優しくしてよ!? もっと私を敬って、その唐揚げをよこしさいよ!?」
「そーだそーだ、食いもんよこせぇーっ! 俺達弱者に愛の手をーっ!」
「我々は、横暴なリーダーに対して待遇の改善を要求するっ!」
優しさとは無縁な連中が遠くから怒鳴ってきた。
その際に発せられたアクアの神気に反応したのか、とうとう奴等が動き出した。オリの周囲に小波が走り、数十匹ものブルータルアリゲーターが出現したのである。
「ぎゃああああああっ!? なんかいっぱいワニがキターッ!?」
最初に気づいた長谷川が情けない声で叫んだ直後に奴等の攻撃が始まった。
「うおォォォォォッ!? コイツらめっちゃ回ってるーっ!? サイコクラッシャーばりにデスローリングキメテるよぉーっ!?」
「助けてください、お妙さぁーん!? キャバクラで全財産ぼられてもいいですから! ダークマターで死にかけても笑顔で旨いと言いますからぁーっ!?」
「あーん、こんなのもうイヤァァァァァッ!? これからはちゃんと働くから! お酒もちょっぴり控えるから! だから私を助けてください、神さまカグヤさまァァァァァッ!?」
「なんだよオイ。なんやかんやと言ってたけど、結構楽しそうじゃねぇか」
「いや、生き地獄にしか見えないんだけど!? こんなんで本命が来るまで耐えられんのか、精神的に!」
ワニごときにアダマンタイト製のオリを壊される心配は無いとはいえ、中の人の恐怖まで防ぐことはできない。今回ばかりはカズマでさえもアクアのことを心配する。
ただ、残念なことに、肝心のリーダー達はまったく気にすらしていなかった。
「そんなことよりお前たちぃ! 腹ごなしに俺達とキャッチボールでもやらないか?」
「ったく、しゃーねぇなぁ。大谷君も真っ青な二刀流を見せてやらぁ!」
「テメェらの血は何色だァァァァァッ!?」
こんな状況でもマイペースなサムライ達に怒りと恐怖を感じてしまう。ギャグマンガとラノベを隔てる常識の壁はこうまで高かったのか……。もう訳がわからないよ。
《おーい、どうしたカズマ君? キュウべぇみたいな顔してないで、キャッチボールをやろうYO!》
「(お前もヤツらと同じかYO!)」
残念ながら、可愛いノルンも銀魂寄りのキャラだった。
ああ、やっぱりこの世界は、ちっとも俺に優しくないや。なんとも言えない空しさを覚えてアンニュイな状態になったカズマであったが、めぐみんやダクネスが普通にキャッチボールを始めたのを見て、悩むことを止めた。
「わーい、俺も混ぜてよー!」
そうして現実逃避しながら遊んでいる内に4時間が経過し、ようやく飽きた銀時達は、オリの方へと意識を向ける。
どうやら、アクアが必死こいて浄化魔法を連発しているようだが、状況はあまり変わっていないように見える。
「使ってるエサが悪いせいか、なかなか食いついてこねぇな。やっぱここは、池の水ぜんぶ抜く~的なことやらなきゃダメか?」
「できるわけねぇだろそんなもん!? でも、そうだな。早くしないと、アクアの浄化が先に終わっちゃうよな」
ブルータルアリゲーターは綺麗な水が苦手なため、ある程度浄化が進むと逃げてしまうらしい。もしそうなると、桂の請けた捕獲クエストは失敗となってしまう。
「ここまでやって報酬ゼロは流石にアレだし、アクアを一旦陸上げするか?」
カズマ達がそう思い始めたその時、事態が急に動き出す。アクアの力を警戒して身を潜めていた標的が、浄化されていく水質に業を煮やして出て来たのだ。
湖を引き裂くように近づいてくる巨体の存在に気づいたブルータルアリゲーター達は、一斉にオリから離れていく。なぜなら彼はこの湖の王者であり、その証である肉体を銀時達に見せつける。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!!!」
「捕獲レベル8のガララワニが出たァァァァァッ!?」
ブルータルアリゲーターGを見た銀時達は、その姿に驚いた。ブルータルアリゲーターGについているGは、ガララワニのGだったのである。
いろんな意味で想像以上の化け物が来ちまった。徐々に接近してくる特大モンスターを前にして、アクア達はパニックを起こしてしまう。
「えっ、これマジでヤバいんじゃね!? だって、俺達トリコみたいにグルメ細胞持ってないもの!? 釘パンチだって打てないもの!?」
「たったったっ……助けて銀時さぁぁぁぁぁんっ!? 死んじゃう死んじゃう!? 私死ぬから、早くこのオリ引っ張ってぇーっ!?」
長谷川とアクアは、恥も外聞も気にすることなく泣き叫ぶ。基本的にヘタレな二人なら仕方がないことだった。
そんな中、近藤だけは動揺せずにじっとしている。全裸の変態とはいえ、これでも数々の修羅場を潜り抜けて来た真選組局長だ。こんな状況だからこそ、逆に冷静になれるのかもしれない。
そう思って見直した瞬間、アクアは気づいた。近藤のケツ付近に、茶色くて細長いものがぶら下がっていることに。
「ねぇちょっと、アンタのお尻でブラブラしてるそれってまさか……」
「ちっ違うっ! これは断じてアレじゃないっ! これはその……そうアレだっ! サイヤ人のケツに生えてる尻尾的なアレなんだっ!」
「ウソつけェェェェェッ!? ゴリラ人のケツに尻尾なんか生えてねぇし、テメェのケツに生えてるのは、どう見てもウンコだろ!? 恐怖のあまりに漏らしちまった一本糞じゃねぇーかソレ!?」
「キャーッ!? こっちに来ないで、お漏らしゴリラッ!? エンガチョよエンガチョーッ!?」
「ぐはっ!? 止めて!? 蹴らないで!? 尻尾がさらに伸びちゃうからっ!?」
恐ろしい敵を前にして、オリの中でも恐ろしい状況になっていく。流石にこれは洒落にならんと、焦ったカズマが主張する。
「ヤバいぜ銀さん!? 早くアイツらを助けないと大変なことになっちまう!」
「ああ、もちろん分かってる。もし、ノーパンのアクアがゴリラみてぇにウンコを漏らしやがったら、このSSがR-18になっちまうってことはな!」
「全然分かってねぇーじゃねぇーか!? いいから、早く助けろよ!?」
この期に及んでふざけまくるリーダーにイラッとするものの、当然このまま見殺しにするなんてことはない。
特に桂は、このクエストのために入念な作戦を練って来ており、気合いを入れて動き出す。
「よし、今だ! オペレーション・メテオを実行するぞ!」
「いや、オペレーション・メテオって何なんだよ!? 俺たちゃガンダム持ってねぇし、そんな話聞いてねぇーぞ!?」
当然ながら、銀時のツッコミが入るものの、それを無視して捕獲作戦が開始される。
「まずは、アイツを陸地に上げるぞ。メテオのような勢いで風雲再起を走らせて、オリを噛んだ状態の目標ごと引っ張り上げる。その役目は、めぐみん殿にお願いするとしよう」
「了解です! さぁ、行きますよマキバオー!」
「なんでお前が乗ってんのぉーっ!? さりげな~く改名してるし、マキバオーはどっから出した!? アッチもコッチもうんこたれ蔵ばかりですかコノヤロー!?」
いつの間にかライダースキルを身に付けていた(?)めぐみんが、ドヤ顔で風雲再起に騎乗する。すると、間もなくガララワニがエサの入ったオリに噛み付き、攻撃のチャンスがやって来た。
「さぁ、今ですマキバオー! 勝利の栄光を掴むため、辛苦の覇道を駆け抜けろォォォォォォッ!!」
めぐみんの号令を受けて、風雲再起(マキバオー)が走り出す。なんで会ったばかりの中二病に使役されてんだよとつっこむべき所だが、今注目すべきは、ガララワニの巨体を引きずることができる、強大なそのパワーだ。魔王の幹部が乗っていた馬だけに、馬力も半端なかったのである。
「どうだ銀時! 流派東方不敗を極めし風雲再起の力は? アイツにかかれば、ガララワニなど恐るるに足らんわ!」
「いや、そんなもん極めてねぇし、あの馬は、ついさっきうんこたれ蔵になったから」
面倒になった銀時は、付き合ってらんねぇとばかりに雑なツッコミを入れる。その間に、ガララワニが湖から引き揚げられて、いかつい巨体を陸地に晒す。
「す、すげぇ!? 元の主はアレだったけど、マキバオーの方は、マジぱねぇ!」
引っ張られた衝撃で地面に這いつくばっている巨大ワニを見て、カズマが興奮する。風雲再起にこれだけのパワーがあったからこそ、桂はこのクエストを請けたのだ。
しかし、まだ湖の王者は戦意を喪失していない。それどころか怒り狂って、カズマ達のいる方に突進して来た。
「なんかこっちキターッ!?」
「ふん、来るがいい化け物め! クルセイダーの誇りにかけて、仲間の命は守ってみせりゅ!」
泣き叫ぶカズマを守るように、嬉しそうな顔をしたダクネスが前に出る。ドM的には絶好の快楽イベントだったからだが、そんな彼女の更に前に桂とエリザベスが飛び出していく。
「心配無用だ二人とも! 天才である俺達にかかれば、こうなることも予想済みだ!」
〈なんせ、俺らはネバランの子供達より優秀だからな!〉
「ジャンプを代表するバカ二人が、さらっとウソをついてんじゃねぇーっ!?」
ムカつくセリフを後に残してバカ二人が突進していく。それに対するガララワニは、真正面から向かってくる人間どもを噛み砕こうと、巨大なアゴを開きながら重機のように突っ込んでくる。このまま普通に衝突すれば、桂達に勝ち目はないが、もちろんそのようなマネはしない。ガララワニの攻撃を受ける直前に素早く左右へ飛び退いて、すれ違いざまに前足めがけて強烈な一撃を食らわせる。その結果、バランスを崩したガララワニは、前方へつんのめるように転んでしまう。
「さぁ、出番だぞ銀時! 一番の見せ場はくれてやるから、会心の一撃をお見舞いしてやれ!!」
「へっ、こうまでお膳立てされちゃあ、ジャンプの主人公としては、やらねぇ訳にはいかねぇな!」
悪友の粋な計らいに応えるべく、いよいよドSが立ち上がる。
「行くぞダクネス! せっかくだから、お前にも活躍の場をくれてやらぁ!」
「はっ、はいぃっ!? 感謝するぞ、我が主っ!!」
「あれ、なんだろう。この展開にものすご~くデジャブを感じるのだが?」
イヤな予感がしたカズマが見つめる中、SMコンビが動き始める。果たして、彼らはナニをやろうとしているのか。
「約束された勝利の剣よ、再び我に力を与えよ! ダークネスエクスカリバー・モルガン!!」
「承ったぞマイマスター! 我が苦痛を代償に、勝利を汝に贈りましょう!」
「ダークネスエクスカリバー・モルガンって何だァァァァァァァァァッ!? モルガンとか付いてっけど、ダークネスエクスカリバーとほぼ同じ駄剣じゃねぇーかっ!?」
やっぱり、またやらかしました。ダクネスを装備した銀時は、カズマのツッコミをスルーして猛然と駆け出した。狙うは、起き上がりつつあるガララワニの頭頂部。
「これでも食らえい、ワニヤロォォォォォォッ!!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオッ!?」
無防備となっていた頭頂部に強烈な一撃が決まり、脳に衝撃を受けたガララワニは、堪らずに気絶する。一時的に無力化しているだけとはいえ、ボスクラスのモンスターを生け捕りすることに成功した。
《やったぁー! カズマは何もしてないけど、ボスキャラを倒したよ! カズマは何もしてないけど!》
「(いいえ、俺もしてましたぁー! ツッコミとキャッチボールを、全力でこなしてましたぁー!)」
《いや、それ何もしてないよね? ただ、遊んでただけだよね?》
ラッキーボーイなカズマだけ苦労せずに危機を脱した。流石は、幸運だけが取り柄のクズ野郎である。
その反対に、苦労した桂達は、最後の仕上げに取りかかる。
「後はコイツをどう運ぶかだが、ひょいざぶろー殿に作ってもらった秘密道具に丁度良いものがある」
「えっ、そんなものまであるのですか!? 流石は我が父ひょいざぶろー、良い仕事してますね!」
いつの間にか戻ってきていためぐみんが食いついてくる。彼女の父親であるひょいざぶろーは、クソアイテムを作る変人なのだが、今回も危険な匂いがプンプンしまくっている。当然、カズマ達は警戒し、桂が懐から取り出した丸い道具に注目する。
「テレレテッテレー! 【モン○ターボールGT~!】」
「モロにアウトなのキターッ!? モンス○ーボールGTってお前、モ○スターボールのパチもんだろソレっ!? 大体、GTって何なんだよ!? まさかとは思うけど、ドラゴンボールから持って来たの!? あの作品は、超のせいで公式に黒歴史となった悲しき存在なんだから、今更いじってやるんじゃねぇよ! ブルマにフラれたヤムチャのように、今はそっとしといてやれよ!」
予想以上にヤバいアイテムが登場して戦慄する。マンガやアニメで使っていたら色んな人から怒られてたぜ。
だが、幸いなことに、ここは自由なSSだ。面倒なしがらみから解放された桂は、まるで無邪気な少年のようにソレを使った。
「行け、モン○ターボールGT!」
聞き覚えのある言葉と共に投げられたボールは、ガララワニに直撃すると、本家のソレと同じようにその巨体を閉じ込めた。何故か、モン○ターボールの方がモンスターと同じサイズに巨大化していたが。
「ガララワニ、ゲットだぜ!」
「いや、ゲットできてねぇーじゃねーか!? こんなにでっけぇモ○スターボール、どうやって持ち歩くんだよ!? スーパーマサラ人だって、こんなの運べやしねぇーぞ!?」
「確かに、大猿に変身したベジータの戦闘服が巨大化した時のように無理があんじゃね?と思うだろうが、心配は無用だ。この状態なら道具扱いになるので、エリザベスのルーラで持っていくができるのだ。ただ一つ問題なのは、中のモンスターが暴れたら簡単に壊されてしまうという点だ」
桂が説明するように、耐久力の無いモン○ターボールGTは、相手が弱った状態でないと使用できない弱点がある。もちろん、ボールに閉じ込めてから爆裂魔法でぶっ飛ばすという凶悪なハメ技も不可能である。後は、転がして移動させるくらいの効果しかなく、結局はこのボールも出来損ないのクソアイテムだった。
「そんなわけで、俺達は、今すぐコイツを依頼者に届けなくてはならん。アクア殿のクエストを手伝えないのは残念だが、後のことはよろしく頼む」
そう言うと、桂とエリザベスはルーラでどこかに跳んでいった。何かと問題はあったものの、超危険な捕獲クエストは滞りなく終わった。
この後は、中断している浄化クエストを再開すればいい。そう思ったのだが……。不気味に静まるオリを見て、カズマ達は言葉を失う。
「こわいヨ。こわいヨ。全てがこわいヨ。ワニとマダオとゴリラとウンコが私におそいかかってくるヨ……」
「流石はスピル○ーグだぜ。VRとは思えないジュラ○ックパークを堪能させてもらったよ……」
「女神の前で脱糞してしまうだなんて、俺はどこまで罪深いストーカーゴリラなんだ……」
アレ、どうしたんだろう。みんなの様子がおかしいぞ。瞳のハイライトが消えてるし、目から涙も出まくってるよ。それでも、やっぱりダメだよね。途中で仕事を止めるだなんて、やっちゃいけないことだよね。
「よぉーし、お前ら覚悟はいいかぁ? オリを戻してやり直しだぁーっ!」
「「「お前一人でやって来いやァァァァァァァッ!?」」」
真のドSに容赦という概念は無く、アクア達の受難はもうしばらく続くのだった。
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水の女神が再びワニ地獄へ立ち向かってから数時間後、王都からアクセルの街へ行こうとしている一組のパーティがいた。ソードマスターの少年をリーダーに、クレメアという名の戦士の少女と、フィオという名の盗賊の少女を加えた3人である。
「はぁー……。魔王の幹部が逃げたおかげで少しはのんびりできそうたけど、キョウヤだったら倒せたのになぁ……」
「もう、それはいいじゃない。キョウヤの手柄を取られたのは確かに腹が立つけど、チャンスは必ずやって来るわ」
「もちろん、分かってるわよ。キョウヤなら、焦らなくても立派な勇者になれるってね」
リーダーの少年に淡い想いを抱いている少女達は、お互いに牽制しつつ献身的なアピールをする。
そんな乙女心を知ってか知らずか、リーダーの少年……ミツルギキョウヤが、少女達を優しくねぎらう。
「そんなに買い被らないでくれよ。君達がいるからこそ、僕も力が出せるんだ。そのお礼に、空いた時間を利用して、君達に恩返しをさせて貰おうかな。僕が二人をエスコートして楽しい時間を提供するよ」
「いやーんもうもうっ、キョウヤってば優しぃうぃーっ!」
「恥ずかしいけど、そこにシビれる憧れるぅーっ!」
銀時やカズマがいたら、無言でグーパンが飛んでくるだろう光景である。イケメンで性格も良い上に、剣士としても超一流なミツルギは女の子にモテるのだ。
そんなクソ野郎が、今からテレポートサービスを利用してアクセルに向かおうとしているのだが、それには込み入った事情がある。
当初彼らは、ギルドからの要請でベルディアの討伐を行う予定だった。しかし、準備を整えている間に茂茂のパーティがベルディアを撃退したという知らせが入り、アクセルへ行く理由が変わった。
「建設していた例の砦も完成間近だと聞いているし、今回の件も含めて将軍様にお祝いの挨拶をしなければ……」
これまで順風満帆な転生生活を満喫していたミツルギは、これからナニが起こるかも知らずに爽やかな笑みを浮かべるのだった。