このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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平成が終わる前に、さらにもう一回投稿できました。

今回は、カズマとダストが大活躍します。
果たして、彼らは○○○を守ることができるのか?


第29訓 ゴミの中にも宝はある

 冬将軍を討伐してから数日後。銀時のパーティは相も変わらず貧乏な暮らしをしていた。この間の功績によって2億エリスという高額の賞金をゲットしたのだが、そのほとんどが借金返済のために天引きされて、懐に入った金額は生活費で消える程度の端金だったからだ。

 そんなこんなで、今日もまた不景気な顔をしながらギルドに集結しているのだが、カズマは何故かご機嫌だった。

 

「フッフッフッ! いよいよ、この刀を使う機会が来たな!」

 

 白い鞘に入った刀を掲げて、カズマはニヤリと笑う。

 それは冬の精霊がドロップしたお宝で、当初は銀時とアクアによって売っぱらわれるところだったのだが、あまりに貴重なレアアイテムなのでカズマやめぐみんが反対した。そこで不毛なケンカが起こり、見兼ねた茂茂が仲裁に入った結果、公正なジャンケンによって所有者を決めることになり、最終的に幸運の高いカズマがゲットすることになった。

 鞘が付いていなかったので、手に入れたその日の内に鍛冶屋で注文を済ませてしまい、今日ここへ来る前に受け取って今に至るという訳だ。

 

「きぃー悔しい! カズマが持ってるチートスキル【約束された勝利のジャン拳】さえなければ、私の物になっていたのにぃーっ!」

「そんなスキルは持ってねぇよ!? ジャンケンの勝利を約束されても、あんま嬉しくないわ!」

 

 仕事探しをする前に、カズマの新しい武器になった刀の話題で盛り上がる。

 換金する気満々だったアクアは言うに及ばずだが、意外なことにめぐみんも食い付きが良かった。

 

「おお、これは素晴らしい。鞘の色も刀身と合わせて真っ白にしたのですか。クズなキャラとは正反対にオサレなデザインですね」

「余計なお世話だ、コンチクショウ!?」

 

 さりげなくディスられてカズマは憤慨する。色に関して他意などは無く、ただ単に白い刀身に合わせて白一色にデザインしたら、この反応である。

 

「はんっ! ロリっ子のクセに黒いぱんつをはいてやがる中二病にナニが分かる!? お前になんと思われようと、俺は白が好きなんだ! 純白のパンティーこそ男のロマンなんだぁーっ!」

「なんでいきなり、ぱんつの話になってんですか!?」

「おっと、いけねぇ。アダルト気取りなロリっ子につい釣られてしまったが、今はぱんつの話よりも、コイツの名前を決めないとな」

 

 浮かれた様子のカズマさんは、一枚の札を取り出す。それは鍛冶屋で貰ったもので、魔法が掛かったこの札に名前を書いて柄に張れば、簡単に銘を刻める仕組みになっている。

 後はどのような名前にするかだが、ゲーマーであるカズマとしては大いに悩むところである。もしかすれば伝説の武器になるかもしれない刀の名前なのだから、変なものは付けられない。

 

「やっぱり氷雪系だから、袖白雪か氷輪丸ってところかな……」

「どっちもブリーチのパクりじゃねぇーか!? ジャンプを代表する名作を勝手に悪用しやがって、著作権を守ろうって意識がテメェには無ぇのかぁーっ!?」

「散々パクりまくってるお前にだけは言われたかねぇーっ!?」

 

 銀時のブーメラン発言にカズマは怒りをぶつける。

 とは言っても、パクりであるという指摘は否定できない。

 やはり、ここはオリジナルの名前を考えるべきだろうか。頭を悩ませるカズマに、銀時と長谷川がアドバイスしてくる。

 

「ゲームでもよくあるけど、名前を決めなきゃいけない時って良いアイデアが出ないんだよなぁー」

「そういう時は既存の名前をちょいと弄ればいいんだよ。たとえば、氷輪丸の一文字を変えて【乳輪丸】って感じにすれば気兼ねなく使えんじゃね?」

「そんなもん使えるかぁーっ!? 乳輪丸って、もはや単なる下ネタじゃねぇーか!?」

「だったら、【絶倫丸】ってのはどうだ?」

「それも結局下ネタですけど!? 反り返った棒状のモノに絶倫なんて文字を付けたら、アレしか思い浮かばねぇよ!?」

「だからこそ、私としては良いアイデアだと思うのだが!?」

「ドMが良いと思うからこそ、ダメなんだって理解しろや!?」

 

 仲間の意見は、まるで参考にならなかった。

 こうなりゃやっぱり、自分自身で真っ当な名前を考えるしかない。そう思って再び作業に戻ろうとしたら、テーブルに置いてあった刀と札が見当たらない。

 一体どこにやったのか。探そうとした途端に、何故か刀を抱いているめぐみんが声を発した。

 

「【ツンツン丸】」

「……は? いきなり何を言ってんだ?」

「何をって、この刀の名前ですよ。あなたがあまりに優柔不断で、もどかしいったらありゃしないので、この私が誠意を込めてツンツン丸と名付けました」

 

 聞き直してみたら、クソダサい名前を堂々と宣言された。センスがおかしいことで定評のある紅魔族ならではのネーミングであり、当然カズマは却下しようとする。

 だが、その判断はすでに遅く、アクアのセリフで失敗を悟る。

 

「ちょっと、カズマ。刀の柄を見てみなさいよ。何かもう、ツンツン丸って文字が刻まれているんですけど」

「えっ、まさかぁー? 頭の良いカズマさんが頭を悩ませてる間に、頭のおかしいめぐみんが頭の悪いネーミングを勝手に付けちゃってたとか、そんなギャグマンガみたいな展開、あるわけあったああああああああああっ!?」

 

 一般的な常識など紅魔族の少女には通用しなかった。銀時達と揉めている間に、彼女は自分の好きな名前を付けてしまっていたのである。

 変な感性を持ったダクネスなどは良いじゃないかと評価するが、被害者であるカズマにとっては冗談ではないと言いたいところだ。

 

「おお、なるほどそういうことか。氷属性の武器だから、ツンツンという冷たい態度を示す言葉を使ったという訳だな。中々、ウィットなジョークが効いているではないか」

「って、感心してる場合じゃねぇーだろ!? ツンツン丸なんてダセェ名前を伝説の武器に付けやがって!? 遠い未来の人達が博物館でこれを見たら、『魔王のウンコでもツンツンしてこんな名前になったんですか?』って勘違いするでしょーがっ!?」

「そんな間抜けな勘違いなどするわけないじゃありませんか。それよりも、爆裂魔法が撃てるような討伐クエストを探しましょう。最近は大物ばかり爆裂しまくっているので、私のテンションも爆上げですよ!」

 

 一人だけレベルアップしまくりで調子に乗ってるめぐみんは、怒るカズマを気にすることなく話を進めようとする。

 ゲーマーである長谷川だけは不憫に感じて同情するが、銀時やアクアにとってはツンツン丸でも構いやしない。ドヤ顔のめぐみんにサムズアップを送りながら、さっさと掲示板へ行ってしまう。

 

「(なぁ、ノルン。俺は泣いてもいいよな?)」

《おーよしよし。バブみに溢れたこのボクが慰めてあげるから。この悔しさをバネにして、魔王のウンコをツンツンしたエンガチョ勇者になってね!(笑)》

「(お前もバカにしてんじゃねぇーか!?)」

 

 憐れな少年は、無慈悲な運命を嘆いた。

 それでもまぁ、やり直しの効かないものにギャーギャー言っても仕方がない。ため息をついたカズマは、ツンツン丸という名を与えられた刀を腰にさして仲間の後を追うのであった。

 

 

 

 場所はギルドの掲示板に変わり、浮かない顔を浮かべたカズマが遅れてそこに到着すると、何やら長谷川が熱弁していた。

 

「やっぱここは、俺でも何とか参加できるゴブリン討伐をやるべきだぜ。だってほら、この世界の経験値って止めを刺したヤツにしか入ってこないからさぁ。ボスを倒しまくったのに、めぐみんちゃんしかレベルアップしてないから、そろそろ俺達もレベル上げした方がいいんじゃねぇかと思うんだ」

 

 長谷川の言い分は意外にまともだった。めぐみん以外は雑魚しか倒していないので、あまりレベルアップしていないのだ。攻撃手段の乏しいアクアは特に上がっていないのだが、何故か彼女が上から目線で賛同してくる。

 

「確かにそれは一理あるわね。魔王の討伐を進めるためにも、カズマと長谷川には強くなってもらわなきゃならないし、ゴブリン程度の雑魚モンスターなら丁度良い相手になるわ」

「おいおいアクア、何言ってんだ。お前はゴブリンの恐ろしさ何も分かっちゃいねぇな。年中盛ったアイツらは、人間の女を捕まえては地上波でお見せできないようなハードプレイをヤリまくる鬼畜のような存在だって、ゴブリ○スレイヤーでもしっかりと描写されてただろうが!」

「ちょっ!? こっちにアレの設定を持ち込まないでよ、お願いだからっ!? ダクネスなんて速攻でくっ殺状態になっちゃうわよぉーっ!?」

「なっ、なんとっ!? アクア達の出身地では、人間の女を性的に襲うような変態的なゴブリンが生息しているのかっ!?」

「そんな生物、二次元の中でしか生息してねぇよ!?」

 

 ガセネタを吹聴する銀時とそれにあっさり騙されるダクネスに呆れつつ、カズマさんが訂正する。

 あの世界観を持ち込まれたらマジで洒落にならないが、もちろんそんなことはない。この世界のゴブリンは、普通のファンタジーと大差ない雑魚モンスターである。

 ただ、ごくまれに例外が存在したりするのだが、滅多に遭遇することはないので、めぐみん達も知識は無かった。

 何にしても、この時期にしては美味しい仕事なので、銀時としても受けない手はない。

 

「まぁ、俺も、前の戦いで出まくった血がまだ完全に戻りきってねぇし、病み上がりの身体には丁度良い仕事かもな」

「よっしゃ、話は決まったな。それじゃあ、この依頼書を受付に持って行く……」

 

 銀時が乗り気になったので、長谷川が掲示板の紙を取ろうとする。

 しかし、それを遮るように別の手が延びてきた。

 一体、コイツは何者なのか。顔を向けて確認すると、くすんだ金髪のチンピラみたいな冒険者がいやらしい笑みを浮かべて立っている。

 

「おっと、コイツは俺のモンだぜ、貧乏臭ぇ無職のオッサン」

「誰が無職だコノヤロー!? っていうか、お前は一体何モンだ!?」

「はっ! テメェらみたいなオッサンに名乗る意味があんのかよ。そんなことより、邪魔だからそこをどき……」

「おっと、ゴミが邪魔だなぁーっ!」

「ごぶふぁっ!?」

 

 憐れなチンピラは、カッコつけてる途中でイラついた銀時にぶっ飛ばされた。この天パ野郎が、自分よりも最低なチンピラだということを理解しきっていなかったのだ。

 

「ちょっ!? 人が話してる途中なのに、いきなり何をするんだよっ!?」

「ああ? 何をするって、ゴミ掃除をしただけですが?」

「この俺を速攻でゴミ扱いしてんじゃねぇーよっ!? こう見えても、アクセルでは有名な『ちょい悪系のナイスガイ』だぞ!? ここに住んでいるんなら、ダストって名ぐらいは聞いたことがあんだろう!?」

「いや、テメェの名を聞くも何も、ダストの和訳はゴミなんだから間違っちゃいねぇじゃねぇーか?」

「確かにそうなんだけれども!? それは、このすば原作者が勝手につけたあだ名だから!? マジでゴミを見るような目で見ないでくれよ、頼むからっ!?」

 

 正式に初登場を果たしたダストだったが、いきなりドSな洗礼を受ける羽目になった。

 

「ええい、チクショウ! まさかここまでドSだとは思っても見なかったが、今日こそは、これまでの恨みを絶対に返してやる!」

「はぁ? 恨みって何のことだよ? こっちには、お前に恨まれるような覚えなんてこれっぽっちも無ぇぞ?」

「ああっ!? 何すっとぼけてやがんだゴルァッ!? クソなお前が暴れたせいで俺が何度ぶっ飛ばされたか、忘れたとは言わせねぇーぞっ!?」

 

 突然、怒りを爆発させたダストに怪訝な表情を浮かべる銀時だったが、記憶力の良いめぐみんが一連の事情を覚えていた。

 

「そう言えば、桂とケンカした時やキャベツの収穫イベントなどで、背景に紛れてぶっ飛ばされていましたね」

「背景って言うんじゃねぇーよ!? 俺達みたいなチンピラだって、自分の人生の中では主役なんだからなっ!?」

 

 残念な覚え方にダストが抗議する。

 それでも、証人が出てきたことにより勢いを取り戻した。

 

「とっ、とにかく、そういうことだから! 俺のプライドをかけてでも、このクエストは譲らないぜ!」

「はぁ? 何言ってんだゴミ野郎! テメェのモンは俺のモンだ! さっさとソイツをよこせやクソがっ!」

 

 これぞまさしく売り言葉に買い言葉。しょーもないきっかけによってチンピラ同士の不毛なケンカが始まった。

 呆れ顔のカズマ達は元より、周囲にいる冒険者達も当然ながら騒ぎに気付いて、ギルド内がざわつき始める。そんな中、ダストのパーティとおぼしき奴らがこちらに近づいて来た。

 青年二人に少女一人という構成で、紅一点となっているポニーテールの少女がダストに向かって話しかける。

 

「もう、こんなところで何やってんのよ。これから仕事をするっていうのに、またその人にぶっ飛ばされるつもりなの?」

「なんで俺がぶっ飛ばされる前提になってんだよ!? 今度はこっちがこのドSぶっ飛ばす番だぐるふぉっ!?」

「おっといけね。頭をかこうと思ったら、腕にゴミが当たっちまった」

「言ってるそばからアゴパン食らってぶっ飛ばされたァァァァァッ!?」

「くっ、チクショウ! そう来るなら俺だってゴミ掃除をしてやらァァァァァッ!?」

「フルーツバスケットッ!?」

「って、今度はこっちのゴミ野郎が腹パン食らってぶっ飛ばされたァァァァァッ!?」

 

 少女が仲裁しようとしたらあっという間に悪化した。同族嫌悪というよりは、仲が良いほどケンカすると言った感じだが、被害を受ける周りにとっては迷惑以外の何者でもない。

 そんなわけで、困った様子の少女に代わり、カズマが仲裁を始める。

 

「ちょっと待てよお二人さん。こんなところでケンカしても金になったりしないんだから、ここは相手をゴブリンに変えて競いあってみないか?」

「はぁ? 相手をゴブリンに変えるだぁ?」

「一体どういうことだよそりゃ?」

「ようするに、ゴブリンを一番倒したパーティがこのクエストの報酬をゲットするって話だよ。そうすりゃあ、このケンカの勝敗も付くだろうし、どっちにもゴブリンを倒した分だけの収入が入るだろ?」

「「おお、なるほど、そういうことか! お前、頭良いな!」」

 

 口の上手いカズマの提案にバカなチンピラが乗ってきた。

 とはいうものの、この話には問題がある。ダストの仲間のクルセイダーが、そこに気づいて反論してきた。

 

「ちょっと待ってくれないか。勝負するのはともかくとして、人数が多いそっちの方がどう考えても有利だろ?」

「あー、それならまったく問題ないぞ。アッチの赤いのは乱戦で役に立たない爆裂魔法しか使えねぇし、ソッチの黄色いのはひたすら硬いだけで攻撃が当たらねぇし、コッチの青いのに至っては全てにおいて使えねぇから、実質俺らは三人で戦うようなもんだぜ」

「なっ!? 女神であるこの私が全てにおいて使えないって、一体どーいうことよっ!?」

「私だって、乱戦だろうと何だろうと爆裂魔法を使えますよ!? みんなも一緒にぶっ飛びますけど!」

「はぁっ、はぁっ! こんなに大勢の前で攻撃が当たらないことを貶されてしまうだなんて! 使えない女騎士を思う存分蔑むがいいっ!」

「……あーうん、分かった。人数的には問題ないな」

 

 アクア達の反応を見て、逆に向こうは大いなるハンデを背負っていると悟った。

 どちらにしろ、ダストが引き下がろうとしないので、彼らも話に乗るしかない。

 状況を理解したポニーテールの少女は、ヤレヤレといった様子でカズマに返答する。

 

「ああもう、分かったわよ。こうなったら、あなたの提案に乗るしかないわね。このバカは、軽薄そうなチンピラに見えても意地だけはあるんだから」

「こっちもそんな感じだけど、お互い苦労するな」

「ふふ、そうね」

 

 奇妙なところでお互いにシンパシーを感じた二人は、友好的な握手を交わした。

 こうして、急遽勃発したチンピラ同士の抗争は、ゴブリン討伐競争に変わって第二ラウンドが開始される。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 アクセルから出発した二組のパーティは、ゴブリンが出るという山へと向かっていた。

 目的地へ続く草原地帯を進みながら、カズマはクエストの内容を思い返した。何でも、普段は森にいるゴブリンの群れが、隣街に繋がる山道に住み着いてしまい、通りかかる人々を襲っているという。

 相手となるゴブリンは弱めのモンスターなのだが、今回のイベントを提案したカズマとしては、何事もなく終わるかどうか不安が募るばかりである。先頭で言い争っている銀時とダストを見ると、その思いは強くなる一方だ。

 

「おいこらテメェ!? ここは主人公であるこの俺が先頭を歩くべきところだろうが!?」

「はっ! 主人公なんざ関係ねぇよ!? 強くてイケメンな奴が先頭を歩くっつーのがパーティの基本だろうが!?」

「だから、俺が先頭だァァァァァッ!!」

「いいや、俺が先頭だァァァァァッ!!」

 

 仲良くケンカしているアイツらが非常に恨めしい。

 

「はぁ~、ダスト以外の三人が比較的まともなのが唯一の救いだな……」

 

 出発する前にギルドで行った自己紹介を思い出しながら、知り合ったばかりの対戦相手を見る。

 パーティのリーダーであるクルセイダーのテイラー。紅一点でマスコット的なウィザードのリーン。狙撃には自信があるアーチャーのキース。そして最後に、どこから見たってチンピラ以外の何者でもない戦士のダスト。回復役がいない点を除けば、比較的バランスの取れたパーティ編成であり、常識レベルが普通な点が何よりも最高だ。

 平穏を求めるカズマにとっては羨ましい環境であり、何となく物欲しそうに彼らのことを眺めてしまう。

 すると、リーンがこちらの方に近づいてきて、カズマの隣を歩くめぐみんに話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、あなた。確か、めぐみんって言ったっけ」

「はいそうですが、私の名前に文句でもあるのですか?」

「いや、そんなつもりは一切ないから、いきなり杖を向けないでよ!?」

 

 リーンは普通に話しかけても、めぐみんは普通じゃない対応をしやがる。これだから、コイツらは……。

 

「名前に文句がないのなら、私に何の用ですか?」

「あー、用と言う程でもないんだけど……実はあたし、爆裂魔法を見たことがなくってさ。あなたと同じウィザードとして少しだけ興味があったから、ちょっと話を聞こうかなって……」

「おお、なんと!? そういうことはもっと早く言ってください! 爆裂魔法に興味があるなら、今すぐここで実際に体験させてあげましょう!」

「って、体験させてあげるんじゃねェェェェェッ!?」

 

 やはりと言うか、頭のおかしい爆裂娘がいつものようなアクシデントを起こそうとしやがった。

 しかも、お約束のようにダクネスやアクアまで加わってくる。

 

「おいカズマ。知り合ったばかりの友人が見たいと言っているのだから、ここは友好を深めるためにも期待に応えてやるべきだろう? 何なら、私が標的になってイベントを盛り上げてみせるぞ!」

「そんなイベントやるんじゃねぇーよ!? 戦う前に死にかけるとか、仙豆を持ったサイヤ人しか、やってる奴を見たことねぇから!?」

「だったら私が、仙豆の代わりに回復魔法をかけてあげるわ! もしかすると、サイヤ人みたいにパワーアップするかもしれないから、試してみる価値はあると思うの!」

「そんな価値は微塵も無ぇよ!? ドMがスーパードM人に変態しちまうだけじゃねぇーかっ!?」

 

 こっちの二人も、普段通りにトラブルメーカーの役割を遺憾なく発揮させる。

 テイラーやキースは、彼女達のことを上級職のエリート冒険者だと思い込んでいたため、残念過ぎる現実とのギャップに強い衝撃を受けてしまう。

 

「なぁカズマ。何て言うかその……今までずっと誤解してて済まなかったな」

「これからはお前のことを、強い奴等に尻尾を振ってる【荷物持ち】だなんて思わねぇよ。だって、逆にお荷物の面倒を見てるんだもんな……(涙)」

「同情するくらいなら、コイツらまとめて引き取ってくれ!?」

 

 変な誤解が解けたのは良いけど、それはそれでやるせない気持ちになる。

 

「始まる前からこんな調子で、この先、大丈夫なんでしょうか?」

《だいじょーぶだよ、カズマ君。ボクの予想によると、今回のお話で酷い目に遭うのはダストって奴だと思うから》

「(結局、大丈夫じゃねぇーだろソレ!? これからナニが起こるんだ!?)」

《それが、ぶっちゃけサッパリでさぁー。アクアやカグヤちゃんの影響だと思うけど、見通す力にかかるノイズがさっきから結構酷くて、今回も行き当たりばったりでやっていくしかないねー》

「(ええいチクショウ! ソイツらはミノフスキー粒子かGN粒子でも撒き散らしてんのかぁーっ!?)」

 

 ノルンの説明を聞いたカズマは、厄介な運命に巻き込まれてしまったことを嘆いてしまう。

 冬将軍戦までの情報を詳しく分析して分かったのだが、銀時という特異点に、アクアやカグヤというカオス要素が密接に関わったことで、ノルンですら見通しきれないほどおかしな現象が起きているのだ。

 こうなると、力が弱まっている分霊の状態では思うように対応仕切れず、見通す力の信頼性も分単位の近い未来しか当てにできない状況だった。

 

《まぁ、カズマの高い幸運が良い感じに効いてるし、駄女神や破壊神の干渉を受けても負けないと思うよ!》

「(俺の幸運は、理不尽な神様に対抗できる程の効果があんのぉーっ!?)」

 

 とんでもない事実がさらっと判明してビックリする。カズマがいるからこそ、銀時達から漏れまくってるマイナス要素が相殺されているのだが、運命の女神に導かれた彼もまた、銀時と対をなす特異点なのだ。

 

「と、とりあえず、俺の幸運で何とかなるとしても、油断は禁物だよな……」

《うん、そうだね。ボクが見通せる未来なんて、所詮は可能性の話だから。結局は、君達人間自身の力で未来を切り開いていくしかないんだ》

 

 たとえノルンが未来を変えるチャンスを与えたとしても、カズマの意志が強くなければ失敗してしまうこともある。

 だからこそ、油断せずに警戒心を増していく。ここは【敵感知】スキルを使って、不安要素を出来る限り潰していくしかないだろう。どうせ何かが起こるとしても、襲われる前に感知できれば対応策も少しは練れる。

 

「長谷川さん。アンタも敵感知を使ってくれよ」

「おう! 分かったぜ、カズマ君……って、アレ何かおかしいな? 何故か俺の敵感知に、銀さんとアクアちゃんまで反応しちゃってるんだけど。いっつも俺のことをバカにするから、無意識の内に敵として認識していたのかなぁー(笑)!」

「(笑)してる場合か!? 敵と味方の識別が、まともにできてねぇーじゃねぇーかっ!?」

 

 何となく分かっていたけど、このマダオも当てにはできない。やはり、自分が頑張らねば……。

 半ば強迫観念に駆られながら警戒するカズマであったが、山道の入り口まで到着しても特に問題は起こらなかった。

 何故かと言えば、ムキになった銀時とダストが競って先を急いだせいで、いつもトラブルを起こしているアクア達もやらかしている時間が無かったからだ。

 

「意外に呆気なく到着したわね。いつもだったら、何回かトラブルが起きて退屈しないんだけどなー」

「ええ、そう言えばそうですね。こんなことなら、あそこで爆裂魔法を撃っておけば良かったですよ」

「まったくもってその通りだな」

「マジで何も分かっちゃいねぇ!? お前らの存在自体がトラブルの原因だって、いい加減に理解しろやぁーっ!?」

 

 緊張感の欠片もない仲間達にストレスが溜まっていく。

 ここから先は確実に敵が待ち構えているのに、暢気に騒いでいる場合ではない。まともなリーダーとして気を配っていたテイラーが、憐れなツッコミ役に代わって注意を促す。

 

「おい、みんな。はしゃぐのはここまでにしておけ。ゴブリンが相手と言っても、油断すれば死ぬこともあるんだから、ここから先は気を引き締めてくれないか」

「はぁ? テメェなんかに言われなくても、こっちは油断するどころか、めっちゃ殺る気満々ですけど!? 早くアイツら殺してぇから、つべこべ言わずについて来いやぁーっ!?」

「あぁ? なんでテメェがウチの奴らに命令出してくれてんだよ!? こんなドSは放っておいて、この俺について来いやぁーっ!?」

「いいや、俺について来いやァァァァァッ!?」

「いやいや、俺について来いやァァァァァッ!?」

「って、ちょっと待てよ二人共!? 色々準備があるんだから、勝手に突っ込まないでくれよっ!?」

 

 止めるキースの言葉も聞かず、頭に血が上ったチンピラ共は早歩きで進んでいく。

 面倒な奴らだが、このまま放置するわけにもいかないので、結局、彼らのペースに合わせて後を追うしかない。

 オッサンの長谷川には辛いペースで、過酷な周囲の環境も彼の気力を奪っていく。

 

「はぁっ、はぁっ! マダオの俺に山ダッシュはキツすぎるっ! 景色を見てもおっかねぇし、癒しなんざ微塵も無ぇよ!?」

 

 長谷川が言うように、この山道には癒しなど無い。道幅は5~6人で横歩きできるほどしかなく、右側は登れそうもないほどの絶壁となっており、左側には落ちたら助からないような崖が広がる危険な場所だ。

 草木も無い殺風景な景色を見てカズマや長谷川が不安を募らせる中、彼らよりも場馴れしているテイラー達は落ち着いて話を進める。

 

「ねぇテイラー、目的地はもうすぐかな?」

「ああ。ゴブリンが目撃されているのは、ここから少し下った所らしい。恐らくは、その辺りにゴブリンが住みやすそうな洞窟でもあるんだろう」

「ふぅ~ん、こんな所が住みやすいもんかしらね。餌になるような動物もいないのに……」

「まぁ、俺達にとっちゃ美味しい相手なんだから、アイツらの事情なんてどうだっていいだろ」

 

 楽観的なキースは、リーンの疑問を気にしなかった。

 実際にはこの場所を選んだ理由があったのだが、彼らがそれを知る前にゴブリンと接触してしまうことになる。

 カズマの【敵感知】が多数の反応を捉えるのとほぼ同時に、先頭を進んでいた銀時とダストが、待ち構えていたゴブリンの群れを発見する。

 

「おいおいおいおい、何なんだよこの数は!? どう見ても50匹以上はいるぞぉーっ!?」

「へっ! なんだよお前、ビビってんの? それなら俺が全部倒して報酬を貰っちまうぜぇーっ?」

「はぁっ!? 貴族にだってケンカを売れる命知らずなこの俺が、ゴブリンごときにビビってなんかいるわけねぇーだろうが!? あの程度の雑魚なんざ100匹いたって蹴散らしてやらぁーっ!?」

 

 銀時に挑発されて熱くなったダストが、腰に下げた剣を装備しながら一人で飛び出していく。

 その直後に非常事態が発生した。

 カズマの敵感知に新たな反応が出たのだ。

 

「待ってくれ、銀さん! 俺達の後ろから高速で何か来る!?」

「あぁん? 後ろからだと?」

 

 切羽詰まった様子で呼び止められた銀時は、急停止してふり返る。すると確かに、カズマ達の後方から大きい何かが走って来るのが確認できた。

 見ると、それは猫科の猛獣みたいな大型モンスターだった。暗闇のように黒い体毛とサーベルのように伸びた2本の牙が特徴的な、虎やライオンよりも遥かに大きい正真正銘の化け物だ。

 

「グオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 カズマ達の数メートル手前で立ち止まったソイツは、身の毛もよだつ雄叫びを上げて存在感をアピールする。

 思いもよらない強敵の出現にみんなが戦慄する中、ソイツの姿を見たリーンがブルブルと震えながらつぶやいた。

 

「あああああ、あれは【初心者殺し】だ……」

「おいおい何だよ、こんなのウソだろっ!?」

「チッ、チクショウッ! ゴブリンと挟み撃ちに遭うなんて最悪だっ!?」

 

 彼女の言葉で事実を把握したテイラー達はパニックになる。

 初心者殺しとは、ゴブリンのような弱いモンスターをエサにして、それを討伐しに来た新米冒険者を狙うという狡猾なモンスターであり、初心者を卒業したテイラー達であっても敵わないほどの強敵なのだ。

 当然ながら、初心者殺しを知っているめぐみん達も慌てるが、空気を読まないアクアさんが、さらに恐怖を掻き立てる。

 

「ちょっと待ってくださいよ! あのデカイのが本当に初心者殺しなんですか!? どう見ても、通常の3倍は大きいですよぉーっ!?」

「それはアイツが進化した個体だからよ」

「な、なにっ、進化だと!?」

「ええそうよ、ダクネス。1000人以上の冒険者を食い殺した初心者殺しは、ベテランの冒険者ですら裸足で逃げ出す【熟練者殺し】に進化するのよ!」

「なにそのバイオレンスな進化の仕方!? ゲームみたいな世界のクセに、ポ○モンみたいに出来なかったの!?」

 

 メタな発言で突っ込んでみても、現実という残酷なシステムは決して変わらない。

 しかも、彼らに襲いかかる脅威はそれだけではなかった。

 ゴブリンの群れがいる後方、彼らが住みかとしている大きな洞窟の中から、人間の2倍以上はある巨体が姿を現した。

 

「グハハハハッ! 滅多に吠えない相棒がそこまで興奮するとはナ。それほどの強敵が引っ掛かったということカ?」

 

 その巨大なモンスターは人の言葉を話した。種族はゴブリンで間違いないのだが、異様なまでに発達した筋肉と人語を理解するほどの知力は、普通の個体とは比べ物にならない。

 めぐみんやリーン達も知らないような変異種であり、唯一知っているアクアさんが、またしても余計な知識をひけらかす。

 

「なんということなの!? ゴブリン界の異端児と言われる【ゴブリンガーディアン】まで出てくるなんてっ!?」

「いや、ガーディアンって何なんだよ!? そんなヤツ、ゴブリ○スレイヤーでも聞いたことないんだけど!?」

「そんなの当たり前じゃない。コイツは、この世界限定のご当地ゴブリンなんだから」

「ご当地ゴブリンって何だぁーっ!? ゆるキャラみたいな言い方なのに、これっぽっちもユルくねぇーっ!?」

「ユルくないのも当たり前よ。ゴブリンガーディアンっていうのはね、大切な家を守るために、自室でひたすら身体を鍛えて強靭な肉体を手に入れた、頑張り屋さんなんだから!」

「そんなもん、引きこもって筋トレしてる自宅警備員じゃねぇーか!?」

「しかも、それだけじゃないわ。30年という長い時間を誰とも接触することなく己の鍛練だけに注いだ結果、魔法使いと呼ばれるほどの知力までゲットしたのよ!」

「もうそれ只の童貞じゃね!? 女と無縁な暮らしをしていた自宅警備員の男性が、30年も童貞を貫いちゃっただけじゃね!?」

 

 アクアの説明を聞いてみたら、予想に反してふざけた内容だった。

 それでも、戦闘力に関しては見た目通りに強力であり、相棒と呼んでいた熟練者殺しにも引けを取らない実力がある。だからこそ、この2匹は、対等な関係を結んで協力しあっていたのである。

 

「ほう。相棒が興奮するだけあって、中々良い面構えの冒険者がいるではないカ。これなら互いの欲望を満たすことができるナ……」

 

 ゴブリンガーディアンはそう言うと、一番近くにいるダストに向けていやらしい笑みを浮かべる。

 明らかに嘲りの意味が込められており、怒ったダストが突っかかる。

 

「この木偶の坊が、調子こきやがって! テメェらの欲望なんざ、満たされてたまるかよ!」

「グハハハッ! だったら、直に確かめてみるカ? 相棒の食欲と、この俺の性欲を、貴様らごとき冒険者に止められるかどうかナァァァァァッ!!」

「ちょっと待てェェェェェッ!? 食欲は分かるけど、性欲って何だァァァァァッ!?」

 

 いきなりヤバいことを言い出したゴブリンガーディアンに驚愕する。

 まさか、ゴブリ○スレイヤーに出てくるようなヤバい奴がいたなんて。アクアやめぐみんは顔を青ざめ、リーンも身体をすくませる。

 その反対に、ダクネスのテンションは一気に爆上げしていくが……。

 

「おいカズマ、どうしよう!? あの鬼畜なゴブリンは、私のいやらしい肉体で性欲を満たすつもりだぞ!?」

「それはお前の願望だし、喜んでる場合じゃねぇーっ!?」

 

 カズマの言うように、今はマジでピンチである。このままでは、ゴブリ○スレイヤーのような○○○シーンがあるダークファンタジーになってしまうかもしれないのだ。

 こういう時に頼りになる銀時は、R-18にされてはたまらないと、誰よりも早く動いた。一番厄介な相手を熟練者殺しと判断して、真っ先に倒そうと立ち向かっていく。

 

「おいカズマ! 俺があの黒猫をぶっ倒してくるまでは、サブリーダーであるお前にこの場を任せたぞ! 絶対に女共の貞操を守りやがれっ!」

「えっ!? 俺がサブリーダー!? そんなもんになった覚えは微塵も無ぇと言いたいけど、こうなったらやるしかねぇ! めぐみん達の貞操はこの俺が守る!」

「カズマにそんなことを言われても、逆にキモいですね……」

「何でお前が引いてんだよ!? ここは普通、男らしいカズマさんにときめいちゃう所でしょーがっ!!」

 

 意外に冷静なめぐみんに突っ込みつつも、内心では焦っている。あまりに不利なこの状況を、銀時抜きのメンバーで耐えきることができるだろうか。50匹以上のゴブリンだけでも十分に厄介なのに、あのデカブツまで同時に攻めてきたら、とてもではないが勝ち目はない。

 

《だいじょーぶだよ、カズマ君。先行してるチンピラが、一人でアレの足止めをやってくれるから。しばらくの間はそれで行けるよ》

「(えっ!? やってくれるのはありがたいけど、チンピラ一人で大丈夫か!?)」

 

 どう考えても不安要素しかないが、この状況ではそれがもっとも効果的な作戦だった。

 彼の実力を見たことがある銀時は、即座にできると判断したから、危険性が増す逃走よりも戦う道を選んだ。

 皮肉なことにダスト自身も同じ答えを出しており、進撃を始めたゴブリンを前に獰猛な笑みを浮かべる。

 

「こうなりゃ何でもやってやるぜっ! リーンの初めては俺のもんだっ! テメェなんかにやらせはしねぇーっ!!」

「って、いつからあたしの初めてはアンタのものになったのよぉーっ!?」

 

 顔を真っ赤にして文句を言うリーンの怒声を聞きながら武器を変更する。平均レベルの腕前しかない片手剣から、達人レベルの実力があった槍へと。

 長い間怠けていたので最盛期ほどの力は戻っていないが、やはりこちらの方がしっくり来る。

 

「オラオラ、どけやゴブリン共! ダスト様に道を開けろォォォォォッ!」

 

 槍を巧みに振り回し、ゴブリンの群れを突破していく。雑魚は後ろの仲間に任せて、自分はあのデカブツだけに集中すればいい。

 傷を負うのもお構いなしに全速力で駆け抜けて、標的のゴブリンガーディアンめがけて突貫していく。

 

「ほう。たった一人でこの俺に戦いを挑むとは、気に入ったぞ小僧!」

「だったら、コイツを礼の代わりに食らわせてやるぜっ!」

 

 坂を駆け下りた勢いを乗せて強烈な突きを繰り出す。

 それに対して、ゴブリンガーディアンは、腕に装備した鋼鉄製の籠手を使って軽くいなした。この籠手は、武闘家のような戦闘スタイルに合わせて自作した攻防一体の装備品だ。

 

「くっ、コイツ!? 見た目に反して動きが速ぇ!?」

「グハハハッ! どうしタ? これで終わりカ?」

「そんなわきゃねぇーだろっ!」

 

 意外な速度に驚きつつも、攻撃を続行する。

 速度なら自分だって結構自信がある。後は、向こうの攻撃が当たる前に致命傷を入れられるかどうかだが……今はとにかくやるしかない。

 誰が見ても分が悪い戦いがとうとう始まってしまい、離れた場所からから見ていたリーンが泣きそうな顔を見せる。

 

「は、早くダストを援護しないと!?」

「待つんだリーン! ここはひとまず、目の前の敵を倒すことに集中してくれ! そうしないと、俺達の方が先に死ぬぞ!」

 

 鬼気迫る状況の中、ギャグ作品とは思えないような緊迫したやり取りが行われる。

 ダストを無視したゴブリン達が坂道を駆け上って来ているのだ。弓を装備した奴らはすでに攻撃を始めており、ダクネスが壁となって、飛んでくる矢を防いでいる。

 

「いいぞ、いいぞ、どんどん来いっ! お前達の攻撃は、この私が全部防ぐっ!」

「うん、こっちは平気だから、俺も弓で応戦しよう」

 

 はぁはぁ言ってるドMを無視してこちらも反撃に出る。

 遠距離攻撃ができるカズマは、白兵戦が始まる前に狙撃で敵を減らしていき、キースやリーンもそれに続いた。

 

《右から来る矢がキースに当たるよ!》

「ええい、分かった! 【ウィンドブレス】ッ!」

「す、すまねぇ! 助かったぜ、カズマ!」

 

 臨時リーダーを任されたカズマは、ノルンの助言や初級魔法を駆使して被害を食い止めていく。

 そんな彼に触発されて、リーン達も奮戦する。

 ダクネスの背後で声援だけを送って来るこっちの面子はクソの役にも立っていないが、この時カズマは妙に充実した気分を感じていた。

 

「これだよこれ! こういうのがファンタジー世界の冒険ってヤツだよな! やくそう程度の駄女神とか、一発屋の中二病とか、ドMでエロい女騎士とか、そんな奴らと一緒にいたら絶対に味わえない素敵体験だぜ!」

「あー!? カズマのクセに私のことをやくそうって言ったーっ!? せっかく、華麗な宴会芸で応援してあげてるのに、あんまりじゃないかしら!?」

「そんなことより、この私を一発屋と言いましたね!? いいでしょう! 私の一発をバカにするなら、その誤った認識をここで変えてみせましょう!」

「ああ、いいぞやってくれ! ドMでエロい女騎士も一緒に爆裂すりゅがいい!」

「ほーら見てみろ!? コイツら絶対普通じゃねぇーだろ!? セリフを聞いても、まともな知性がまるで感じられねぇもん!!」

「えっ、あーうん。それはよーく分かったから、とりあえず戦ってくれ」

 

 同意を求められたテイラー達は、返答に困りながらも応戦を続ける。

 もうすぐ白兵戦のラインに迫ってきているのだ。

 テイラーは盾を構えてゴブリンの襲来を待ち構えるが、その前に試したい秘策をカズマは思い付いていた。

 

「ゲームやマンガで鍛えた知識を存分に味わうがいい! 【クリエイト・ウォーター】ッッ!!」

 

 アホな言葉を叫んだ途端に初級の水魔法を使い、前方の坂道に向かって大量の水を撒き散らした。結構な魔力を消費して広範囲が水浸しになったのだが、リーン達にはまったく意図が分からなかった。

 

「ちょっ、カズマ!? 突然、何をやってんの!?」

「何をって、こういうことだよ! 【フリーズ】ッ!」

 

 戸惑う彼女にそう言うと、初級の凍結魔法を全力で使った。

 そうすると、先に撒いておいた水が一瞬で凍りつき、アクションゲームでよくあるような【ツルツル滑る床】が出来上がった。

 突入してきたゴブリン達は、氷で足が滑ってしまい、まともに立つこともできなくなる。そこで再び弓を使って危なげなく倒していく。やっとのことで進んで来ても足場が悪くて武器が使えず、今まで霊圧が消えていた長谷川ですら簡単に斬り倒すことができた。

 

「ようやく出番が来たってのに、チャドみたいに扱うんじゃねぇーっ!?」

 

 存在感の薄いマダオの主張など、この際どうでもいい。

 初級魔法だけで戦況を変えてしまったカズマさんの活躍に、テイラー達は驚いた。

 

「おお、すげぇーっ!? 本当にお前って最弱職の冒険者かよ!?」

「初級魔法にこんな使い方があるなんて!? どうやったら思い付くのよ!?」

「フッ、そんなに俺を誉めるなよ。調子に乗ると、失敗フラグが立っちまうかもしれないじゃないか」

 

 まんざらでもない顔で謙遜するが、その予感は当たってしまう。ゴブリンの数が多すぎて、彼らの死体が氷の床をふさいでしまったのだ。

 こうなったら、白兵戦というヤツをやるしかない。

 ツンツン丸を装備して気合いを入れたカズマは、テイラーや長谷川と共にゴブリン達を迎え撃つ。

 

「クックックッ。我が愛刀の試し切りには丁度良い……」

「ちょっ、ツンツン丸を持ったカズマが怖い顔で笑ってますよ!?」

「シーッ! ああいう輩は見ちゃダメよ! 知らんぷりしてやり過ごすの!」

 

 外野が何やらほざいているが、構うことなく先へと進む。

 

《回避予測はボクに任せて、思いっきりやっちゃえーっ!》

「頼りにしてるぜ相棒!」

 

 頭に乗ったノルンから応援を受けながら、向かってきたゴブリンにツンツン丸の刃を振るう。

 

「凍りつけっ!」

「グギャアアアアアアッ!?」

 

 斬りつけた直後にツンツン丸の冷気が伝わり、一瞬の内にゴブリンを凍らせてしまった。この刀に魔力を送ると、エンチャントされた氷属性の魔法が強化されるのだ。

 刀身の材質が冬の精霊の魔力を物質化したものなので、特殊な魔法効果が付与されているだけでなく、非力なカズマでも扱いやすい重量となっている。だからこそ、彼でも自在に使えるのだが、ぶっちゃけるとこの刀は、カグヤ達の影響を相殺するために、彼の幸運が引き寄せた救済アイテムだった。

 幸運がマイナスな長谷川にとっては嫉妬するほどに羨ましいお宝であり、大人気ない態度で八つ当たりしてしまう。

 

「やっぱ良いなー、ツンツン丸。ツンツン丸の先っちょでツンツンした美女の胸をツンツンしてみてーなー」

「ツンツンツンツンうるせーっ!? つーか、嫌がらせついでに、気持ち悪い願望ぶっちゃけてんじゃねぇーっ!?」

 

 ウザいマダオに怒りつつも、ゴブリンの討伐数を伸ばしていく。嫌々ながらも、桂から受けてきた戦闘訓練の成果が出ているのだ。

 それに加えて、銀時の戦い方を間近で経験していることもプラスに働いている。良くも悪くも、飛び抜けて常識離れした教師がいたからこそ、今の活躍があるわけだ。

 しかも、銀八先生からおかしな教育を受けていたのはカズマだけではない。アクアやめぐみん達もまた、いろんな意味で成長していた。

 

「ああもう、何だか悔しいわっ! カズマのクセに、私よりも目立つなんて許せないんだから!」

「私だって、爆裂魔法を愚弄するカズマごときに負けてなんかいられません!」

「何で俺が、お前らごときにディスられなきゃならねぇーの!?」

 

 だらしないと思っていたカズマの活躍に刺激を受けて、何故か後衛の彼女達まで前線に躍り出る。

 アクアの方は、某Gガンダムのような必殺技を使って暴れ、めぐみんの方は、近くに転がっていた石を使ってゴブリンを撲殺し始めた。

 

「私の右手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! ぶあああああくねつぅぅぅぅぅっ! ゴッドォッ! フィンガァァァァァッッ!!」

「お前実は武闘家だろ!? 僧侶に転職した武闘家だろ!?」

「これでも食らえいっ! エクスプロージョンッ!!」

「お前もお前でなにやってんの!? ゴブリンの頭を物理的に爆裂してるだけじゃねぇーか!?」

 

 本当に僧侶と魔法使いかよと突っ込みたくなるほどのワイルドな戦いっぷりである。

 それでも、これは好都合だ。見た目のがっかり感はともかくとして、少しでも戦力になってくれるのは正直言ってありがたい。

 こんなことが出来るのも、ダクネスがヘイトを集めてフクロにされてるおかげなので、カズマは彼女の活躍を誉めてあげることにした。

 

「攻撃が当たらないダクネスにはお似合いの姿だな。ペッ!」

「くふぅんっ!? ただやられているだけの無様な私をさらに地味に貶してくるとは!? 容赦ない言葉責めが心地よくてたまらにゃいっ!」

 

 本人も喜んでいるようで何よりである。

 何にしても、ゴブリンの討伐が終わるなら、見た目がアレでも構わない。常識的なテイラー達にとってはドン引きする光景だったが、早くダストを助けるためにあえて見ないことにした。

 

「よっ、よっしゃーっ! これでゴブリンは倒したぞ!」

「うっ、うん、そうだね! 後はゴブリンガーディアンと熟練者殺しだけど……」

「ああ、でっけぇ黒猫の方はもう片付けて来たぜ」

「……え?」

 

 突然声をかけられて後ろに振り返ってみると、そこには銀時が立っていた。彼の後方に目を向けると、地面に横たわっている熟練者殺しが見えるので、本当に倒して来たのだということが分かった。

 

「すっ、すごいっ!? あんなに強いモンスターを無傷で倒しちゃうなんてっ!?」

「ああ? この俺が野良猫ごときに負けるわけねぇーだろう? 俺が勝てない猫なんざ、ドラ○もんかニャ○スかキテ○ちゃんぐらいなモンだぜ」

「生々しい理由で勝てないヤツばっかりだなぁオイ!?」

 

 確かに、知名度や経済規模において勝ち目など微塵もないが、この世界にいない奴らに構ってなどいられないので、話はダストの方へと進む。

 果たして、彼はどのような状況になっているのか。リーンが急いで視線を向けると、そこには信じたくない光景が広がっていた。

 

「そ、そんな……ダストがやられてるっ……」

「ああ、なんてこったっ!」

「ダッ、ダストォォォォォッ!?」

 

 リーンの反応に驚いて銀時達も慌てて見ると、確かにダストがやられている。

 痛めつけられて動けないらしいダストが、お尻を天に突き出すような格好で倒れており、何故か下半身を剥き出しにされてブルブルと震えていた。そして、その背後から、股間をモッコリとさせたゴブリンガーディアンが迫って来ている様子が見える。

 

「やられてるっていうか、ケツの穴をヤられそうになってるんですけどォォォォォッ!?」

 

 まさか、ダストのアレが狙われていただなんて。予想外な危機に陥っている仲間を助けるために、みんなで急いで坂を下る。

 

「おいおいおいおい、ちょっと待てええええいっ!? 性欲を満たすって、男とヤるって意味だったのぉーっ!?」

「アア? そんなの当たり前じゃないカ。30年もの長い間、女には目もくれず、肉体を鍛え続けて俺は気づいたのダ。美しい筋肉を持った勇ましい男こそ、愛するべき対象だということをナ! フォーゥッ!」

「筋トレ厨を拗らせてハードゲイになってたァァァァァッ!?」

 

 衝撃的な事実に全員がビックリする。女性の○○○を狙っていたのかと思ったら、男のケツを狙ってました!

 勘違いしていた女性陣は複雑な気分になったが、その代わりと言うべきか、ゴブリンガーディアンの方にも大いなる誤算が起きた。

 

「ところで、なんで貴様らが全員ここに揃っていル? 雑魚共はともかく、相棒はどうしたのダ?」

「へっ! あのでっけぇ黒猫なら、お前がダストのケツ穴に一発やろうとしてる間に俺が殺っちまったぜ?」

「なっ、なんだトォォォォォッ!? まさか相棒を倒せるような冒険者がいるなんテ!? そんな奴ッ……そんな奴ッ……男らしくて素敵じゃないカッ!!」

「何でそこで喜んでんだよ!? 反応がキモいっつーか、そんな目でこっち見んな!? おい、マジで止めてくれよ!? 金持ちに色目を使うキャバ嬢みたいに飢えた視線で、俺のことを舐めるように見つめるんじゃねェェェェェッ!?」

 

 ハードゲイにロックオンされそうになった銀時は、反射的に身体が動いて逃げ出そうとした。

 しかし、直後に異常が起きて何故かぶっ倒れてしまう。

 

「銀さんんんんんっ!?」

「どうしたのですか、ギントキーッ!? もしかして、熟練者殺しにやられていたのですかーっ!?」

「い、いいや、違う……これはたぶん貧血の症状だろう。冬将軍との戦いで大量の血を失ったから、糖分を取りまくって増やそうとしたんだが、まだまだ足りなかったみてぇだぜ!」

「何でそこで糖分取んだよ!? んなもん取っても、血糖値しか増えねぇよ!?」

 

 バカなリーダーは、この大事な場面で戦力外になってしまった。

 それを好機と見たゴブリンガーディアンは、撤退することを止めて一発逆転を狙ってきた。

 

「グハハハハッ! その男が動けないなら、俺にもまだ勝機はあル!」

「くっ、なんてこった!? こいつぁかなりヤバイんじゃないか!?」

 

 エースを欠いた状態で、ゴブリンガーディアンを相手にするのは無理があると言わざるを得ない。

 だからと言って、相手は止まってくれやしない。

 覚悟を決めたテイラー達は、戸惑うカズマ達よりも先に動いて強敵へと向かっていく。

 

「うおおおおおっ! ケツの穴をやられたダストの仇を討ってやる!」

「そっ、そうだ! ケツの穴をやられたダストのためにも、俺達の手でコイツを倒す!」

「わっ、私だってやってやるわ! お尻の穴をやられちゃったダストの無念は晴らしてみせる!」

「お、お前ら……俺のケツ穴はやられてねぇよ……」

 

 勝手に勘違いして盛り上がった三人は、ダストの反論を聞くことなく戦闘を始めた。

 しかし、ゴブリン戦で体力を消耗していた彼らなどゴブリンガーディアンの敵ではない。

 テイラーの剣も、キースの矢も、リーンの魔法も、ことごとく防がれてしまう。

 

「グハハハハッ! 貴様らごときに、この俺が倒せるものカ!」

「ぐああああああっ!」

「テイラーッ!?」

「何なのよコイツは!? 私達の攻撃がまったく効かないなんてっ!?」

 

 予想を上回るゴブリンガーディアンの実力に、リーン達は絶望する。

 もちろん、それはカズマ達も同様で、アクアやめぐみんはパニックになる。

 

「カカカカ、カズマさぁーん!? これってめっちゃヤバいんですけど!? ゴブリンにやられる女神なんて、絶対にイヤだああああああっ!?」

「そそそそ、そうですよ!? 私だってあんなのにやられたくありませんし、カズマ達に至ってはお尻の穴までやられてしまうんですからね!?」

「私としてはそれも有りだが!?」

「俺としては有りじゃねぇーよっ!? ケツの穴の貞操は絶対に守ってみせる!」

「だけど、実際、どうすりゃいいんだ!? 俺達だけで勝てんのかよ!?」

 

 テンパった長谷川が言うように、この窮地を脱するアイデアを何とか出さないといけない。

 満足に動けないダストや銀時を連れて逃げるのは論外だし、こんな狭い場所でめぐみんの爆裂魔法を使うのも自滅行為になってしまう。

 こうなると、危険を冒してでもアレを使うしかないが……白兵戦主体の相手に果たして上手くいくかどうか。

 

《だいじょーぶだよ、カズマ君。キミが考えてる方法でアイツを倒せるよ》

「(それは本当か、ノルン!?)」

《うん、イケルイケルー。ダクネスと長谷川に協力して貰えばね》

 

 ノルンのお墨付きを貰えたのなら、やってみるしかないだろう。

 意を決したカズマは、ダクネスと長谷川を集めて作戦を説明した。

 

「おお、なるほど! それなら私も存分に被虐行為を堪能できるし、一石二鳥だな!」

「いや、こんな時までお前の性癖を堪能されても困るんだけど!? とにかく、この作戦はお前にかかってるんだから、マジで頼んだぜ!」

「ああ、もちろん分かっているさ! それでは早速行ってくりゅ!」

 

 イマイチ信用できないものの、作戦は開始された。 

 

「それじゃあ、こっちも行くとするか」

「お、おうよ! ゾンビゲーで鍛えまくった腕前を見せてやるぜ!」

 

 若干ビビりながらも長谷川は頷き、カズマと一緒に【潜伏】スキルを発動する。気配を殺したステルスアクションで相手の背後を取ろうとしているのだ。

 それを成功させるために、ダクネスが相手の気を十分に引きつけておく必要がある。

 

「おい、お前! 今度は私が相手だ!」

「グハハハッ! 何人こようと結果は同じダ!」

 

 余裕があるゴブリンガーディアンは、ダクネスの方に向かって攻撃をしてくる。

 その際に生まれた死角を突いてカズマ達は移動していき、相手に気づかれないように背後から接近していく。

 

「(とにかく硬いダクネスなら、アイツの攻撃を受け続けても十分に耐えられる)」

 

 こういう時こそ、彼女の存在が光り輝く。現に、自慢の拳が効かないダクネスに向かってゴブリンガーディアンの意識が集中していた。

 

「ほウ、貴様も中々良い筋肉を持っているではないカ! 女にしておくのは勿体無いナ!」

「お前は絶対に殺してやるっ!!」

 

 聞き捨てならない発言を受けて怒りを爆発させたダクネスは、猛攻に耐えながら体当たりを決めた。それによってゴブリンガーディアンの動きが止まり、絶好のチャンスが訪れる。

 よし、今だ。好機を得たカズマは、長谷川と共に走り出した。

 何も知らないゴブリンガーディアンは、無警戒に背中を向けている。これなら弱い自分達でも容易に近づくことができる。狙い通りに接近を果たした二人は、背中側から心臓に近い場所に手を触れると、ウィズから学んだスキル使った。

 

「「必殺! 【ダブル・ドレインタッチ】ッ!!」」

「うひゃああああああああああああっ!?」

 

 おかしな叫び声を上げながらゴブリンガーディアンが膝を突いた。

 カズマによってヒットポイントとマジックポイントを吸収されて体に力が入らなくなり、長谷川によってハードゲイポイントとマッスルポイントを吸収されて特殊な性癖と自慢の筋力を弱められた。

 ドレインタッチには吸い取る量や速度などに限界があり、もし一人でやっていたら効果が足らずに反撃を受けていたが、使い手が二人いたおかげで瞬間的に無力化することができたのだ。

 まぁ、長谷川の方は相変わらず変なものを吸っているけど、結果オーライである。

 

「フォーゥッ!? 見てくれよカズマ君! 何だかよく分かんねぇけど、筋肉が美しくビルドアップしたぜぇーっ!」

「うわっ、気持ち悪っ!?」

 

 いきなりマッチョなハードゲイになった長谷川に思いっきり引いてしまうが、そのおかげでゴブリンガーディアンの方はすっかり賢者モードになっていた。

 

「あれ、何で俺は筋肉なんかに興奮してたんだっケ?」

「何かもう記憶まで失った感じになってるけど、とにかく、今がチャンスだ!」

 

 すっかり気が抜けてしまったゴブリンガーディアンは隙だらけになっており、今ならカズマの腕前でも確実に心臓を狙える。いきなり攻撃せずにドレインタッチを使ったのは、自身の未熟さをカバーする苦肉の策でもあったのだ。

 その作戦が上手くいった後は、止めを刺すだけである。ツンツン丸を水平に構えたカズマは、無防備な背中から心臓めがけて突きを入れた。

 

「お前から奪った魔力を返してやるぜェェェェェッ!!」

「ウギャアアアアアアアアアッ!?」

 

 ツンツン丸を刺した状態で大量の魔力を送り、身体の中から凍結させる。心臓の血液を凍らせてしまえば、強靭な肉体を持ったコイツでも耐えることはできまい。

 カズマの目論見通り、胸を凍らされたゴブリンガーディアンはそのまま地面に倒れた。

 一連の出来事を呆然と見ていたリーン達は、しばらく思考が追い付かなかったが、アクア達がバカ騒ぎしだしたことで我を取り戻した。

 

「や、やった……私達が勝ったんだ! ほんと、信じられないよ!」

「うひゃひゃひゃっ! すごいぜチクショウッ! 最弱職のクセに、あんな化けモンまでやっちまいやがった!」

「ははは……。あんなすごいメンバーの中に何で冒険者がいるんだって不思議に思ってたけど、これで納得したよ」

 

 テイラー達の中でカズマさんの評価が爆上げしていく。そう思うのも納得できるほどの活躍っぷりなので、彼らに反論するのは、負けず嫌いなアクアとめぐみんぐらいだけだ。

 しかし、それで終わらないのがこのSSのお約束。

 勝利を確信したカズマの後ろで、倒したと思ったゴブリンガーディアンが起き上がってきたのである。死の間際に、鍛え上げた闘争本能が一瞬だけ燃え上がって、死にかけた身体を突き動かしたのだ。

 

「俺を殺したコイツだけでも殺してやル……」

 

 浮かれたカズマは、その殺意に気づくことなく隙だらけになっている。

 正面にいたアクア達が異常に気づき、『カズマ、後ろ後ろー』と言おうとしたが、タイミング的に間に合いそうもない。

 これは万事休すか。そう思われた時に、彼を助けるべく動いた者が二人いた。

 

「俺の仲間は殺らせねぇ!」

「これで借りは返したぜ!」

「あっ!? ギントキとダストがゴブリンガーディアンに止めを刺して、オイシイところをかっさらっていきましたよぉーっ!?」

 

 説明口調なめぐみんが言うように、ギリギリのタイミングで復活した二人が決着つけた。

 

「ったく、テメェは脇が甘ぇんだよ。ハードゲイに背中を見せたら、コイツみてぇにケツの穴を掘られちまうぜ?」

「いやだから、俺はまだ掘られてなんかいねぇっつーのっ!?」

「は、はははは……ケツの穴を守ってくれてありがとう、二人とも……」

 

 危ういところで助かったカズマは、冷や汗を流しながら礼を言う。

 その裏では相棒とやりあっていたが……。

 

「(おい、ノルン。こうなることも分かってただろ!?)」

《ちょっ、勘違いしないでよ!? ゴブリンガーディアンが起き上がってきたのはイレギュラーなんだから! ボクだって、フルチンのダストに無茶させようだなんて思わないもん……》

 

 そう言って彼女が顔を向けた先には、下半身が丸出しになっていることを忘れて近づき、リーンから殴られているダストの姿があった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 クエストを終えた一行は、怪我の治療を済ませてから帰路についていた。

 山を降りて草原地帯を歩く彼らの表情はとても明るい。特にテイラー達は、九死に一生を得たことでおかしなテンションになっていた。

 

「ぶははははっ! 俺達が生きてるなんて、未だに信じられねぇよ! これもダストが、フルチンになるまで頑張ってくれたおかげだな!」

「うっせーぞ、キース!? フルチンの件はもう二度と口にするんじゃねぇーっ!?」

「はははははっ! あんな面白いことを忘れるなんてできねぇよなぁ、リーン?」

「あんた達と一緒にしないで!? あんな汚物、一刻も早く忘れたいわ!」

 

 リーンだけはセクハラ被害に憤慨していたものの、内心では彼の活躍を称賛していたりする。乙女心は色々と複雑なものなのだ。

 もちろん、銀時パーティの女子達もいろんな意味で複雑である。

 その中でも特に物騒なめぐみんは、勝利したのにもかかわらず不満を覚えていた。

 

「すでに理由は分かっています。それは私が爆裂魔法をぶっぱなしていないからです! そういう訳で、お祝いの花火代わりに爆裂魔法を撃ち上げましょう!」

 

 よせばいいのに、余計なフラグ立てやがった。

 嫌な予感がした銀時が慌てて止めに入るが、こっそり詠唱をしていためぐみんの暴走を食い止めることができなかった。

 

「それでは、討伐クエストの成功を祝して……」

「えっ、オイ、ちょまっ!?」

「【エクスプロージョン】ッ!!」

 

 空気を読まないめぐみんは、超迷惑な花火をぶっぱなしてしまった。

 眼前に出現する巨大な火球に照らされながら、他の面子は呆気にとられる。

 いや、アクアだけはめぐみんと一緒にはしゃいでいやがった。

 

「きゃははははっ! たーまやぁーっ!」

「アレを花火と一緒にすんなよ!? どう見ても大量破壊兵器にしか見えねぇだろ、あんなモン!?」

 

 派手に昇っていく爆煙の下で、こちらの気も知らずに盛り上がっている駄女神に当たり散らす。

 そんな彼らにフラグ立って、更なるアクシデントが襲いかかる。爆裂魔法のせいで、たまたま近くにいたホワイトウルフの群れがこちらに向かって逃げてきたのだ。

 そこからはいつもの流れで、案の定、ソイツらにこちらの居場所がバレてしまい、またしても大ピンチに陥ってしまった。

 

「オィィィィィッ!? だから止めろって言ったのに、やっぱりこんなんなったじゃねぇーかっ!?」

「フッ、過酷な運命を背負いし勇者パーティには、安らぎの時間など無いということですね」

「安らがねぇのはお前のせいだろ!? あーもうお前を爆裂してぇーっ!?」

 

 一難去ってまた一難。ホワイトウルフから逃げ出した愚か者達の受難は、まだまだ終わらなかった。

 

 

 

 ちなみに、ゴブリン討伐競争の件はダスト達に軍配が上がったものの、勝負に汚い銀時が『ダストのフルチンネタ』で脅しをかけて、結局最後は山分けすることになったとさ。


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