正しさの追求は、つまり間違いの追及で。

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正しい世界へと。

 「へーい、イエーイ! 地球の資源を無駄に食い潰しやがる人類の皆様にボーナスチャレンジだぜぃ! フォーゥ!」

 無駄にハイテンションなその声は、うるさく、やかましく、けたたましく、全人類に聞こえた。

「あららのらー、っと。あっはっはっはっ、今ので交通事故が全世界で一万件、その他諸々の事故が五万件。死者は一億超えたな、コレ。まぁ、いいや、その内丁度半分の五千人は大体の人に嫌われてる悪人だったし。その代償に善人が同じだけ死んだけど、仕方ないよね。どんな物事にも代償って必要だもんね。ねぇ、戦争ばっかしで、代償ばっかしで、利益を得ない愚か者どもちゃん?」

 と、悪意の口調で笑い声を漏らしたその声は、耳ではなく脳が直接認識しているらしかった。

 怪奇現象。集団催眠、集団幻覚。その他諸々、誰も彼もが一体何なのだろうかと、男性は目的脳に準じて理由と原因を解明しようと、女性は共感脳に従い群れの仲間或いはボス或いは下っ端と「怖いね、何コレ」と肩を寄せあって抱き合っていた。抱き合わせのような百合に興奮する馬鹿も何名かいたが、しかし、全世界で起きていた異常なのだから、あり得なくはない。

「はいはいへいへいへい~、いい加減に頭のいい、というか現実をしっかりと見ている、あー、いや、違うな、非現実を受け止めきれる人間が何人かいて、はっきりと理解した奴が、四十五万四千五百四十五人いたよ。あっはっはエローい」

 その声は続ける。

「そう、僕は神だ。神。神様。この世界を作った創造神であり、唯一神だ。君達があれこれ無意味に戦争の原因としている神なんて、この世界にいない。分かるかい? 大体考えてもみなよ、どうして過去より今の方が不幸せな事態が増えているのに、その救いを齎す神は降臨しない? 同じ神を信じるくせに宗派が分かれてしまうような宗教を「実際はこうなんだぜ」って教えてくれない? そうすれば一挙にこの世界は平和になるのに。全知全能の、君みたいな穢れた知性を持った人間よりも賢い存在が、そんなことを分からないはずがないでしょ? だから考えられるのは二つだ。この世界に、君達馬鹿共が信じるような神はいないか、君達を見捨てたか、だ。まぁ、どっちにせよ君達はゆっくりと破滅の運命に向かうよねぇ。あはははっ、そんな集団ヒステリーみたいに、次々と自殺しないでよ。手間が省けちゃうじゃない。人間をぶっ殺す手間がさぁ~」

 更に続ける。自称神は続ける。数百万人もの死を、手間が省けたと宣いながら。

「おっと、口が滑った。為す術なしだし、神様っぽく、認識の記憶を消しちゃうねっと。はいはい消した。それじゃあ、仕切り直しのやり直しっと、さて、君達の信じる神様はいないことが分かったけれど、僕という神がいることも分かった。さて、じゃあ、早速僕の神様としての御役目を致しましょう。この世界の全ての人類の最大の願望をまとめて、一気に、統合して、一つの願いにして叶えちゃいましょう。――はいはい、集め終わって、集計して、完了したよんっよ」

 あははははは、と神は笑う。

 耳が痛くなるほど、不愉快な程、神は大袈裟に笑っていた。愉快愉悦狂喜乱舞の大笑い。人間の愚かさを嘲笑する、実に人間臭い笑い方だった。神のくせして、神だからこそ、人間性が極まっていた。

 無慈悲で残酷で我儘で無自覚で好奇心旺盛で無邪気で弱く愚かで権力に溺れ誰かの死を望む。

  その神は確かにこの世界を作った創造神だ。唯一絶対の全知全能の神だ。

 しかし、その神が生まれたのは人間が生まれてから更に数百年後のことだ。

 神という認識を持ち、信仰した。

 卵が先か鶏が先かという言葉がある。同じように神が先か人が先か、である。

 神が世界を作り人を作ったのか、それとも人が「世界を作り人を作った神」を作ったのか。答えは後者だった。

 つまり、世界は奇跡の大バーゲンセールで、自然発生的に生まれたが、「世界を作り人を作った神」はその後人工的に創られた。人の無意識に存在する神のイメージ。神の信仰。伝承として神話を伝える詩人達の神の定義、宗教としての神を信じる人間の神の定義、神を信じないと言う人間のその神事ない神の定義、それら全てはつまり神という存在の認識だ。そしてその認識の重なり合いによって神が生まれた。

 一枚の薄い紙も重ねれば分厚く強く硬くなる。弾丸を防ぎきる程の存在を持つ。それと同じように、全人類の持つ神の認識も重なり合えば、それこそ人間のイメージする神が生まれる。

 そうして生まれたのが、神だった。

 だからこそ、人間臭い。

 人間の無意識、つまりは人間の本質的な部分が重なり合い、連なり合い。それが神の源だった。

 ギリシャ神話には女神の嫉妬や、男神の女神の取り合いや性欲独占欲、それによって戦争すら起こった、そんな話だ。そんな神が世界を支配しているというのが、ギリシャ神話だ。

 ならば本当にそんな人間臭い神がこの世界の創造神となり唯一神となって現界したとしても、全く以て不思議じゃない。

 人間の願望欲望本能の寄せ集め。

 ならば世界はどうなるだろうか。

 人間の望む綺麗な世界になるのだろうか。

 正しい世界になるのだろうか。

「はい、ドーン、と。まぁ、こんなことしたら、僕の存在も消えちゃうんだけどね、あはははははははははははははははははははははは!」

 笑い声は続く。

 次々と()()()なっていく人間と共に、続き、そして最後の人間が()()()()()()後、神は死んだ。

 

 人間にとっての正しさは、時と場合によって変わる。ならばつまり、何もかもが正しくなる。逆説的に何もかも正しくなくなる。

 どうあっても正しくないものは消え行くしかない。

 さて、世界は()()()なった。

 ――さて、世界は一体どうなったのだろう。




何が言いたいのかと言えば、別に、正しさを声を大にして言うことよりも、毎日トイレで大をしてスッキリする方が大事だったりするのです。なんちゃって。水に流しましょう。大だけに。

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