炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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4:遭遇

 エヴァンジェリンによるリュウの実戦能力テストが終了し、ディースも爆発アフロ状態から復活した別荘の中。現在は休憩と称して二度目のティータイムの真っ最中である。エヴァンジェリンは久々に全力で暴れる事が出来て楽しかったらしく、大分角が取れて態度が軟化している。ディースは自分が何をやったのかについて二人に頑なに言おうとしなかったが、ほぼ想像通りだろうなと思ったリュウとエヴァンジェリンは、生温い目でそれ以上追及していない。

 

「ほう、中国の山奥か」

「ええ。そこに龍の民の隠れ里があったんですよ」

「そうだ。良かったら、キティもあたし達と一緒に行く? どうせ暇でしょ?」

「……」

 

 他愛ない会話の流れから、ディースがエヴァンジェリンに同行しないかと勧誘している。まぁ別に見られて困るモノもないので、どっちでも構わないかとリュウは何も言わない。暇でしょ、と決めつけるディースの言葉に若干ピクリと不機嫌になったように見えたが、ストレス発散していたのが幸いしてか、エヴァンジェリンはそれをスルー。そして提案の内容について、決断は早かった。

 

「そうだな。私がこの極東の島国に滞在している事も世間に知られているようだ。移動するのも悪くは無い」

「じゃー同行決定ね。よかったわねぇリュウちゃん。あたしとキティで道中両手に華じゃない」

「……」

 

 エヴァンジェリンが日本を離れるという話はわかる。そしてディースの言う事も。まぁ確かに華といえば華なんだけれども……と、リュウはラフレシアとか魔界のオジギソウとかを想像し、どう表現して良いかわからない本当に微妙な表情をしていた。

 

「………………。そ、そうですね」

「貴様、随分と長い間だったな?」

「ねぇリュウちゃん、あたし素直な子の方が好きだナ?」

「……」

 

 沈黙は時に雄弁に勝る物である。ズオオオと無言の喜べよゴルァオーラを放つ女性二人。気のせいか非常に息苦しい気がする……というか、実感としてリュウは息苦しかった。先程戦っていた時よりも三割増しの凄まじいプレッシャーが四方から責め立てているのだ。何故か二人が大きく見える錯覚まで見え始めたので、リュウはもう諦めた。

 

「……はい。とっても嬉しいデス」

「相棒、声裏返ってるぜ」

 

 そんな訳で、大魔道士に加えて闇の福音をも同行者に招き入れたリュウ一行は、早速中国の山奥にあるリュウの生まれた地、“ドラグニール”を目指す事にした。

 

 ……筈だったのだが。

 

「へー、ここがジャパァンの首都なのね」

「東京って言うんですよ」

「ふふん、それくらいこのガイドブックで知ってるわ。凍るに狂うと書いて凍狂(トーキョー)でしょ。さぞや危険で一杯な都なのでしょうねココは」

「……」

 

 出所不明の冊子を片手に、自信満々で受け売りの知識を披露するディース。彼女の願いという名の駄々により、リュウ達は中国に旅立つ前に、日本国首都東京をぶらぶらと観光する事になったのだった。

 

 一見すると見るからに怪しい三人ではあったが、エヴァンジェリンによる一流の認識疎外魔法により、周囲には普通の少年・少女と引率のお姉さんとしか見られていない。どちらかと言えば子供二人にそのお母さんぽくね? という言葉を、リュウは命が惜しかったので言わなかった。喉までは出掛かったが。

 

「うーん何ていうか……思ってたよりすごーく普通ね」

「そりゃそうですよ」

「何を期待したんだ貴様は……」

 

 刺の付いた革ジャンを着たモヒカンの男が、バイクに跨って火炎放射器を片手にヒャッハーする。そんな街の姿を想像というより妄想していたらしいディースは、むしろ何事にも安全過ぎる東京の真の姿にがっかりしていた。そんな彼女を差し置いて、密かにテンションが高いのは他ならぬリュウだ。初めて麻帆良に訪れた時には気にもしていなかったのだが、こうして改めて周りを見てみると中々興味深いものがある。

 

「それにしても何か空気が浮ついているというか……何だろうこの変な感じ……」

「ま、この国は今景気がいいからな。花が咲いているような頭の人間も多かろう」

「好景気……。そうなんですか……」

 

 そう。エヴァンジェリンの言うとおりこの時代……1978〜9年辺りは、高度経済成長期こそ終わっていたが、それでも安定成長期であり、詰まる所信じられないくらい景気が良いのである。リュウ自身、以前の記憶には生まれた時からの不景気が染み付いているので、景気の良い日本というのがそれこそ幻想の中の話ではないかという位に信じられなかった。

 

「……」

「どした相棒」

「いや……なんつーかこう……無性にムカつく」

「あん?」

 

 リュウとしては、そんなこのご時勢そのものに腹立たしさを覚えてしまうのは仕方がない。お門違いではあるが、その恩恵を少しは自分も味わいたかったという妬みのようなものだ。

 

「あとなぁ……コレがどうも慣れない……」

「五百円がどうしたってぇんだよ」

「いやさ……」

 

 他にも、リュウの中で以前から感じていた未だに慣れない事として、お金に関する事がある。なんと五百円が“お札”なのだ。一万円札の絵柄が聖徳太子だったり、千円の絵柄が伊藤博文だったりと、まるで偽札を使っているようで実に違和感だらけ。

 

 そうしてだらだら東京の街を歩いていると、嫌でも目に入るのが通行人。もっと言えばその服装。そして音楽系の規制がまだまだ緩いからか、至る所から聞こえてくる流行歌の調べ。当然CD等の光学系媒体はまだ開発途中なので、音楽を提供するのは主にラジオかレコードだ。

 

「……うわぁ」

「へー、トーキョーではこういう歌と服が流行ってるのねぇ」

「フン、馬鹿そうな女が騒でいるだけだ。聴くに耐えんな」

 

 町行く人々の流行のファッションがタンクトップだったり、ピンクレディーとか言うユニットや、山口百恵というアイドルが大人気であったりと、リュウの感覚からするともう本当に「うわぁ」としか言えないような物が現在の日本の最先端なのであった。

 

 まさしくナウなヤングにバカウケの時代なのである。リュウが全てにおいて古臭さを感じてしまうのは、これはもうしょうがないことなのだ。テレビ一つを例に取っても、無駄にでかくてリモコンのないガチャガチャ回すダイヤル式だったりするのだから。余談だが、この時代から既に暴れん○将軍をやっていた事にリュウは内心驚いていた。

 

「はぁー、大体満喫したわ凍狂。まぁこれはこれでいい土産話になるわね」

「あ、じゃああの……俺ちょっと電車乗って行ってみたい所があるんですが」

「えぇ!? やだリュウちゃんが行きたい所ってまさか……このヨシワラとか言ういかがわしい場所なんじゃ……そんな駄目よ! リュウちゃんにはまだ早すぎるから!」

「変な想像で何勝手な事言ってんですか! 全然違いますよ!」

 

 ガイドブック(仮)に何故かついてた袋とじの中を指して、そんな事をのたまうディース。律儀にリアクションを取るリュウに、まともに相手をすると疲れるだけだぞと溜め息混じりに経験上のアドバイスを送るエヴァンジェリン。

 

 以前ヨギの村に居た頃は多少変な所こそあったものの、喋り方や態度、仕草にどことなく賢者の如き重厚さを漂わせていたというのに、今のディースはそれらを木端微塵に打ち砕いてくれている。あの頃のディースさんはどこへ行ってしまったのだろうと、リュウは彼女の豹変ぶりに涙を禁じえない。

 

 そんな色々と絶好調なディースに振り回されつつ、リュウが行きたかった場所とは伝説の電気街、“秋葉原”。地方出身者が憧れる永遠の桃源郷である。リュウは電車を降りるまでは、遠足前で眠れない子供のように楽しみにしていたのだが……着いて早々、目の前の光景にがっかりするリュウの姿がそこにあった。秋葉原は、まだ電気街そのものが出来るかどうかという開発途上だったからである。

 

「……」

「機械など見て何が楽しいんだ? 扇風機ですら私はよくわからんぞ」

 

 ちょっと考えれば分かる事だった。何しろパソコンなど8bitのモノすら危ういような始末で、当然販売されてもいない。ゲーム機と言えばファミコンすらもまだ発売されておらず、ようやくインベーダーゲームが世に出たくらいなのだ。リュウの心中の落胆ぶりはフリーフォールも真っ青なくらいであった。

 

「こうなったら……あそこ行きましょう」

「何アレ……不良の溜まり場?」

「ゲーセンです」

「ゲーセン?」

「……」

 

 そしてリュウは腹いせにゲームセンター(現在ではインベーダーハウスと言う)に突撃し、そこで溜まっていた時代錯誤(最先端)な不良どもをうがーと理不尽に追っ払い、ピコピコ電子音がする単純な平面ゲームに女性二人を誘った。もしもこれがデートだったら、間違いなく大失敗であろう。

 

「えっ……この……あ、なにこれなにこれ……え、あー死んじゃった!」

「む……く……ぬ……むがああああ! 何だこれは! イライラする! もう一度だ!」

 

 文句を言いつつインベーダーゲームに熱中するディースにエヴァンジェリン。是非この機会にゲームの楽しさを知り、そしてこれからのゲームの進歩に驚きと喜びを感じてくれるといいな。と、リュウはニヤニヤしながらさりげない布教活動を成功させて留飲を下げていたりする。

 

「ていうか、そろそろ日本円が尽きそう……」

「そりゃ、あのボケジジイの家から拝借してきた分しかねぇからなぁ」

「何かぱぱっと稼ぐ方法ないかな……」

 

 ここでリュウはせっかくこの先どうなるかを朧げにでも知っているのだから、その知識を利用して、合法的に大金をせしめる方法が無いか考えてみた。真っ先に思いついたのは、未来を知っている事が即お金として返ってくる方法。即ち、ギャンブルだ。例えば競馬ならば、どの馬が勝つかを思い出してそれに賭けるだけ。何のリスクもない安全な金稼ぎとなる。

 

「……」

「どした相棒」

「いや、そういや俺賭け事全般には全然興味無かったなーって」

「意味がわからねぇが……」

「こっちの話」

 

 方法を思いついたは良いが、リュウはそもそも競馬などやる人間ではない。馬の名前などたまに新聞に載るような有名所くらいしか知らないのだ。これでは競馬で当てろというのは無茶である。なのでさっさとこの考えを捨て、もっと大きな視点から何か無いか考えてみた。

 

 他に未来の情報を元に金を稼ぐ事が出来そうなギャンブルと言えば、“株”がある。これから成長して後々有名になる会社の名前ならば、流石のリュウでもわかる。その会社の株を今のうちに買い漁っておけば、後は放っておいても大金が舞い込むという寸法だ。即効性は薄いが、上手くすれば莫大な利益になるだろう。

 

「エヴァンジェリンさん」

「ん?」

「株ってどこ行けば買えるんですかね?」

「……八百屋にでも行けばいいだろう」

「ああいや、そっちのカブじゃなくて……」

 

 頭大丈夫か? と言わんばかりのエヴァンジェリンに、リュウは株のことを上手く説明出来ない。所詮リュウの中の株の知識なんてのはそんなもんである。そして、残念ながらリュウの考えた作戦は、既に破綻しているのだった。そもそもリュウには戸籍も身元保証も銀行口座もない。正式な株式の売買などを行うための土台が最初から無いのである。元手となる金を借りる事すらも不可能なのだ。

 

「……てぇ訳でな、信用と実弾がなきゃぁ、株式なんざ普通買えねぇよ相棒」

「そうなんだ。お前意外とそういうの知ってんだね」

「まぁなぁ」

 

 何故かその辺の事に詳しいボッシュに助言され、株式の購入という有力な金策手段も断念せざるを得なくなる。じゃあ他に何か楽して儲けられる金稼ぎないかなと頭をひねるリュウ。しかしいい案は全然浮かんで来ない。発想自体が乏しいせいで、未来の知識があると言うのにそれを全く活かせない残念なリュウである。

 

「ねぇリュウちゃん、そろそろ他の場所行きましょうよー」

「いや、俺もそう思ったんですけどね……うーん思ったよりも娯楽少ないなー東京……」

 

 街を見渡してもあんまり遊べる所がないせいで、ポロリとそんな感想が出てくる。それもまぁ、仕方のない事なのだ。前述のようにゲームはない。当たり前のようにインターネットもない。そしてこの時代まだカラオケすらもないのだ。リュウにとってはたった一つを除き、己の趣味が全否定されている事を認識する事になってしまう。まさに凍狂観光なのであった。

 

「ボッシュ。こうなったら俺、釣りを極めるよ。俺にはもうそれしか残ってないんだ」

「一体どこをどうなってそんな話になったのか、詳しく聞きてぇ所だなぁ」

 

 

 

 

 何だかんだ数日ちょこちょこと関東の見どころを観光し、ディースが満足だと言った所でようやくリュウ達はドラグニールを目指す事にした。その辺りの移動に関しては特筆すべき問題はなく、中国に到着してからも多少の物見遊山を交えつつ、記憶を頼りに人里離れた山奥へと進んでいった。

 

「確かこの山の向こうですよ」

「あそこは変わってねぇんだろうなぁ……」

 

 そして今、リュウ達一行はようやくかつて飛び越えた山脈の麓の辺りに来ていた。上を見上げるリュウとボッシュの前には、険しく切り立った崖に、岩肌が剥き出しの山々が悠然と聳え立っている。

 

「じゃあ早速行きましょ」

「ふん」

 

 そんな大自然を前に何ら感慨が湧く訳でもない女性二人。魔力で身体を覆い、ふわりと浮かんで飛んで行く。浮遊魔法。魔法使いとして、杖などの補助媒体なしで使える事そのものが一種のステータスとさえ言われる術である。

 

「あのー! 俺飛べないんですけどー!」

「あ、そうだったわね」

「……ふん、軟弱な」

 

 うっかりリュウが飛べないことを忘れて、先に行こうとしてしまったディースとエヴァンジェリン。魔法のエキスパートである彼女らは当然のように使えるので、何だか足手纏いっぽくてちょっと恐縮するリュウである。

 

「良かったら、後で俺にも飛ぶ魔法教えて貰えませんかねー?」

「……」

「……」

 

 ディースに浮遊魔法を掛けて貰い、ぎこちなく飛んでいくリュウは、そんな事を二人に言ってみた。単純な魔法の射手などと違い、この手の魔法は“見て”も簡単には覚えられないので、ごく普通に魔法の修行をして覚えるしかないのだ。

 

 エヴァンジェリンは明らかに面倒臭そうな顔をしたが、ディースの方は割と好感触なようだ。浮遊魔法を覚えられれば、戦力的にもかなり自由度が増す。強くなるという修行の面から見ても、極めて有用だろう。

 

 そうしてしばらく進むと、動物も住まないような山奥の一角に、妙に開けた個所が見えてきた。ポツポツと、人の手が加えられた人工物が建っている事が確認できる。既に時刻は夕暮れ。影が大きく東へと伸びていく。

 

「やっぱ変わってないな」

「そりゃなぁ」

 

 それは小さな集落だった。いや、どちらかと言えば廃村と言った方が相応しい。大して広くもない空間に、人が住む事を放棄した建築物の成れの果てが犇めいている。

 

「あれが……龍の民の隠れ里……」

 

 複雑な表情のまま、そうポツリとディースが呟いた。ドラグニール。リュウがこの身体になった始まりの場所である。あれから数か月程度しか経っていない筈だが、リュウにはそれが何年も前の事のように感じられた。

 

「……」

 

 あの時は色々と必死だったせいかそこまで疑問を感じなかったが、なぜ自分はこの身体になってしまったのか。改めてその出来事を思い返し、リュウは首を傾げた。なぜ、そうなったのか。とにかくその一点を自分が知らない事に気付いたのだ。今までその事について考えなかった訳ではないが、“そういうもの”だと思い込んでいて気にしていなかった。ここに来て気にした事で、ようやくその事に不自然さを感じる事が出来たくらいだ。

 

「よっと……さて、ここが俺が生まれた場所……らしいです。まぁ見ての通りなんで、あんまり見る物とかはないと思いますが」

「……」

 

 村の入り口に到着し、浮遊魔法を解いて地に足を着ける三人。リュウはスタスタと前に歩いていき、他二人と一緒に見て回る。少し前まで人が大勢居て活気に溢れる街を見物していたせいか、この無人の廃村との激しい落差に、ディースもエヴァンジェリンも極端に口数が減っていた。

 

「ここに逃げ延びていた龍の民も、結局はお前を残して全滅したというわけか」

「……らしいです」

 

 諸行無常、生者必滅。そんな四字熟語が頭をよぎってしまう。一つの種族が終わりを迎えた最後の地を前に、エヴァンジェリンはどこか憐れむような表情をし、ディースは誰も居ない村を見渡して、相変わらず複雑そうな表情をしていた。

 

「それでボッシュ、調べ物ってどこで?」

「あのボケジジイの研究施設でだな。まぁもう暗ぇし、急ぎじゃねぇから明日でもいいぜ」

「そう?」

 

 ここまでそれなりの長旅で疲れもあり、既に日は沈んで暗くなってきている。なのでリュウ達はボッシュの調べ物とやらを翌日に回し、休みを取る事にした。廃村とは言え数か月前までは人が生活していた唯一まともな建物である、かつてのユンナの家にお邪魔し、一晩泊まることにしたのだ。

 

「お前、料理が出来たのか。人は見かけに寄らんな」

「ええまぁ、お口に合うかわかりませんが……」

 

 ディースの手料理を食うくらいなら、その辺の雑草を食んでいた方がはるかにマシだと断言するエヴァンジェリン。しかしその事は杞憂に終わった。リュウがディースに付け入る隙を与えぬ手際の良さで、簡単な料理を手早く作ったからである。日本で調達した食材を使用し、それなりに上達している料理の腕は、女性二人にも悪くない評価を貰ったのだった。

 

 そして、流石のディースもここでは夜更しする気にならないらしく、早々にリュウ達は眠る事にした。ベッドは埃まみれだったので素早く掃除し、リュウが持ってるキャンプ用の簡易シーツを使う。もちろんそれらは二人に譲り、自分はソファで雑魚寝のリュウである。

 

 二人が寝静まり、窓から細い月明かりのみが差し込む深夜。なかなか寝付けなかったリュウもようやく意識が闇に落ちていこうかという、ちょうどその時だった。

 

 ……リュウ……

「……?」

 

 何か、妙な声の様なものがリュウの耳に届いた。この場所を知っていて、尚且つ自分の名前を知ってる人間なんて居ただろうか。きっと空耳だと思い、開けた目を閉じようとして。

 

 ……リュウ……

「……」

 

 二度目。どうやら空耳ではなさそうだ。そしてリュウは、どこか声自体に聞き覚えがあるような気がした。傍らで寝ているボッシュを起さないように起き上がり、隣の部屋をこっそり覗く。ディースもエヴァンジェリンも、グッスリ寝ている。どうやら自分にしかこの声は聞えていないらしい。

 

「外……?」

 

 ディースは寝相が悪く、肌蹴た部分が実に目の保養になるが今はどうでもいい。リュウは最低限動けるように服を整え、念の為に魔法発動体である呪いの指輪(仮)も身につけて、静かに外へ出た。外は半月の明りが周囲を照らし、物音一つない静かな状況と相まって、ある種幻想的な空間のようである。

 

 ……こっちだよリュウ……

 

 声に導かれるままに、リュウは歩いた。幽霊の類かとも思ったが、ここまでハッキリ聞こえるのなら恐らく違う。声は村の外から聞えてきており、月明かりを頼りにリュウはそちらへと向かった。そして以前、試しに変身してボッシュを吹っ飛ばした辺りの広場に差し掛かり、とある岩の上に居るモノの姿を確認して……戦慄した。

 

「やぁ、リュウ」

「!!」

 

 月の光に照らされて、その白髪は輝いて見える。岩に腰掛け、膝を立てた状態で月を見ているその顔はとても穏やかで、男のリュウでさえ思わず見入ってしまうような色気と芸術性を孕んでいる。

 

「こっちの世界に現れたと聞いてね。ここに来れば会えると思ったよ」

「お、お前……!」

「久しぶりだね」

 

 そこに居たのは、このドラグニールでリュウを一度殺した男。麻帆良で、ナギと共に居たリュウに悪魔の大軍をけしかけてきた男。リュウにとって思い出したくもない白髪の少年……バルバロイは立ち上がり、リュウへと向き直った。

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