炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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6:本戦(後)

 準決勝第二試合は、バリオとサントの馬兄弟が順当に勝ち残った。相手チームも頑張ってはいたが、単純に地力の差がそのまま出た形だ。リュウはその試合を観戦しながら馬兄弟と自分達との力量を比較し、自分やガトウは油断さえしなければ、恐らく負けないだろうと分析していた。

 

 しかし不安要素がない訳ではない。馬兄弟はリュウとガトウを明らかに目の敵にしている。その為今までの試合で見せなかった隠し球を用意してくる事も十分に有り得るのだ。まぁそんな事を言ったらキリが無いので、あとはもう出たとこ勝負だ。

 

「おやリュウ君、それは何をやっているんだい?」

「さっきちょっと新しい技を思いついたんで、念のため練習を少し……」

「ほう」

 

 控え室にて。頑張ろうと気合を入れつつ、先程手に入れたスキルを組み込んで何やら実験を行うリュウ。小指程度の長さの妙な光が五つ、リュウの手の上に浮かんでいる。何とか出来そうだな、とリュウが小さく手応えを感じていると。さして興味もない三位決定戦がいつの間にか終わり、場面は決勝の舞台へと移っていく。

 

『さぁ! 熱戦が繰り広げられてきた漢羅狂烈大武会もいよいよ大詰め! 並居る強敵を打ち倒してきた二つのチーム! 頂上対決の果てに栄光を掴み取るのは! 優勝候補のバリオ・サントチームか! はたまた驚異の快進撃を続けてきたアナベル・ケリィチームなのか! 勝利の女神は、一体どちらに微笑むのでしょうか!』

(女神、ねぇ……)

 

 実況から聞えてきた単語にあまりいい感情を抱かないままで、リュウはガトウと共に最後の舞台へと上がった。それと同時に反対側から馬兄弟が姿を現す。会場の観客達の盛り上がりは最高潮に達しており、リュウがちょっと周りを見た所では、座りきれない立ち見の客も大勢居る様だ。観客の中に鉢巻をした女子高生ストリートファイターが居た気がしたが、目の錯覚だろうと考えてスルー。そしてリュウ達は静かに歩みを進め、舞台の上で馬兄弟と対峙する。

 

「兄者、わしはムカつくおっさんの方をやる」

「いいだろう。俺はガキの方だな」

 

 馬兄弟の方は兄バリオがリュウに、弟サントがガトウに狙いを定めている。彼らも一対一を得意とするらしく、わざわざタイマン状態にしてくれるらしい。リュウ達からすれば好都合だ。

 

「やれやれ。血気盛んなのは結構だが、相手は選んだ方がいいぞ?」

 

 そう言って相変わらず煙草をふかしているガトウ。しかし相手を見る目が今までよりは鋭くなっているようにリュウには思えた。やはり余裕を見せてはいるが、最低限の警戒はしているらしい。対するサントは殺気剥き出し。今まで散々コケにされたガトウへの怒りで、ハラワタが煮えくりかえっているようだ。

 

「小僧。俺達に生意気な態度を取った事……この場で後悔させてやる」

「……」

 

 そして兄バリオもサントと同じく、腹に据えかねた表情でリュウを睨みつけている。一般人なら完璧に縮こまるであろうヤクザ者の迫力。しかし勿論それくらいでビビるリュウではない。

 

『それでは! 漢羅狂烈大武会、決勝戦……はじめ!』

「くたばれぇぁっ!!」

「死ね! 小僧!」

 

 合図と同時にサントは猛然とガトウへダッシュ。バリオは逆に少し距離を取り、呪文を唱えだした。

 

「魔法の射手・連弾・雷の79矢!」

 

 バリオの魔法の射手は、全てがリュウ狙いだ。即座にリュウも相殺用の魔法の射手を唱え、周囲に展開させる。

 

「魔法の射手・連弾・氷の79矢!」

 

 同数の魔法の射手を放ち、飛んできた矢を悉く撃ち落とす。リュウは魔法同士の爆発の隙に、ガトウの方をチラリと窺った。ガトウは上手くサントの攻撃を捌きながら、リュウとバリオから距離を離そうとしている。お互い邪魔にならないようにと言う配慮だろう。とにかくこれで、二つの一対一という状況が出来上がった。

 

「ちっ……生意気な……! ……魔法の射手・収束・雷の97矢!」

「魔法の射手・収束・氷の97矢!」

 

 空中で激突し、互いに魔力の火花を散らす二人の魔法の射手。まるでハリウッドのCG映画さながらの魔法戦を繰り広げるリュウとバリオ。方や手に汗握る接近戦を展開するガトウとサント。いきなりの目まぐるしい戦いぶりに、観客は大興奮だ。

 

『す、凄まじい攻防です! まさに決勝の名に相応しい、凄絶なバトルです!』

「【白き雷!】」

「【紅き焔!】」

 

 爆音に次ぐ爆音。リュウはバリオの放つ魔法を悉く相殺していた。闇の福音の修行により、リュウは相手の魔法に対する洞察力と対応力を鍛え上げられているのだ。そして、それはバリオのプライドを著しく傷付けていた。どれだけ魔法攻撃を繰り返しても、リュウに届かない。苛立つバリオから発せられる殺気はさらに膨れ上がり、形相も鬼のようになってきている。

 

「おおあっ!」

「!」

 

 何度目かの相殺劇の直後、バリオはいきなりリズムを変えて近接攻撃に転換した。馬の亜人だけありその脚力は強く、瞬動を使いこなして一瞬でリュウとの距離をなくす。だがリュウも負けていない。慌てず焦らず。手が届く位置にまで来たバリオに対し、強烈な拳撃を、堅そうな腹筋目掛けて見舞う。

 

「フンッ!」

 

 だがバリオはリュウの拳を掲げた膝でガード。それを見たリュウはならばと体勢を低くし、上げていない軸足を狙って水面蹴りを放つ。

 

「食らうか!」

 

 バリオはまたもや俊敏な動作でリュウの地を這う蹴りを跳ねてかわす。そして浮いた体勢から、屈んでいるリュウの頭目掛けてソバットを放った。防御から攻撃へのスムーズな移行は、流石に手慣れている。

 

「んっ!!」

 

 リュウは迫るソバットを片腕でガード。と同時に浮いてるバリオへリュウも上段蹴りを狙う。

 

「接近戦で貴様に分があると思うな!」

 

 しかしバリオはそれをも肘で受け、その威力によって弾けるように互いの距離が離れた。一連の攻防を経て、リュウはバリオの実力に対する認識を修正した。思っていたよりはるかに体術の熟練度は高い。そして息つく暇もなく、再びバリオが瞬動で突っ込んで来る。リュウの眼前に立った瞬間、まるで散弾のような無数の蹴りを放つ。

 

「ハァァッ!」

「!」

『おーっと、これは凄い! バリオ選手の足が何本にも見えているー!!』

 

 まさに百烈脚と言った所か。かなりのキレと鋭さを誇る足技は、相当鍛え込まれている事がリュウにもわかる。だが、当たってはやれない。修業におけるナギ達や闇の福音の猛攻に比べたら、この程度に当たるようでは生き残る事など出来ないのだから。

 

「っ!」

「クッ…!?」

 

 バリオの放つ蹴りは一発一発が急所を狙い、無防備な所に当たればそれだけで悶絶しそうな威力が伺える。だが……当たらなかった。まるで柳を相手にしているかのように、リュウは回避し続けている。プライドがある為かそれでも止めないバリオ。徐々にリュウの目には、散弾蹴りの微かな隙も見えてくる。

 

「そこぉっ!」

「ッ!?」

 

 僅かに速度が緩んだ瞬間をリュウは狙った。蹴りをかわし様バリオの真横へと超短距離の瞬動で移動し、がら空きの腹に一発拳を放り込んだのだ。

 

「ぐぅぁっ!?」

 

 蹴りが止んで動きが鈍り、馬面が苦痛で歪む。それを切っ掛けに一気に畳み掛けようとするリュウ。だがバリオの判断は早い。リュウの拳を喰らった瞬間には既に、後方へと跳ねる所だったのだ。距離を取られ、追撃の機を失う。

 

「ぐっ……ガキの割に……」

「……」

 

 リュウの攻撃力の予想外の高さに、バリオは忌々しさを感じずにはいられない。だからかはわからないが、バリオはそこで次のカードを切った。

 

「【戦いの旋律!】」

 

 ダメージを堪えるように歯を食いしばっているバリオの周囲を、魔力のオーラが包み込んだ。“戦いの旋律”は、リュウが使う“戦いの歌”よりも上位の効果を持つ身体強化魔法だ。つまり、これからが本気という事だ。

 

「……準備運動は終わりだ……みたいな?」

「ほざけ!」

 

 激昂し、身体強化の影響でリュウと遜色ないレベルの瞬動を使い跳びかかってくるバリオ。そしてそのまま先程よりもはるかに早い、乱舞と言っていい程の蹴りの嵐を繰り出した。

 

「うぉ……く……っ!」

 

 今度はリュウも、全段避けきるのは難しい。直撃しそうな蹴りを打ち払い受け流しつつ、反撃の機会を伺う。先程見た蹴りの乱舞と速度こそ違うが、癖自体は変わっていない。高速の蹴りの内、何発かに一発来る隙の大きいヤツ。それをリュウは“ねらいうち”した。受け流しではなく、放たれた蹴りに対して拳を合わせ、強引な正面衝突をやらかしたのだ。

 

「いっつ……!」

「ぐぁあっ! き、貴様……っ!!」

 

 リュウは拳の皮が抉れて血を吹き出し、バリオは片足に看過出来ないダメージ。どちらが深刻かは一目瞭然だ。羽をもがれた鳥のごとく、スピードの要であった足を止められたバリオの方が、はるかにダメージは大きい。

 

「お、おのれ…………魔法の射手・収束・雷の83矢!」

「!」

 

 苦し紛れの魔法の射手が、至近距離からリュウに向けて放たれる。それは悪あがきだ。足を痛めた事で、バリオはリュウとの近距離戦を嫌がったのだ。そんな不抜けた矢を、リュウがかわせない訳がない。

 

「んっ……!」

 

 見事な体重移動からのサイドステップ。ジッ、とリュウの衣服の一部を掠めた魔法の射手は、そのまま後方へ飛んでいく。既にバリオが息を切らせているのがわかる。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 するとバリオは、まだ何かを狙っているかのように眼を鋭く光らせた。バリオの周囲に、又もや魔法の射手が浮かび上がる。

 

「魔法の射手・雷の7矢!」

 

 たったの七本。それをバリオはリュウと、そして何故かガトウの方へと分散して放った。

 

「!!」

 

 ガトウとサントの間に割って入るような軌道の魔法の射手を、件の二人は互いに離れるようにして避けた。

 

「何のつもり?」

「……。くっくっく……さぁな」

「……」

 

 ガトウとサントの間で繰り広げられていた格闘戦は、ガトウが圧倒的に優位だった。流石に無音拳の一発や二発で沈むほど柔ではなかったが、しかしサントは誰の目にもわかるくらいに殴られまくった痕が見える。バリオは、それを援護したという事なのか。だがそれにしてはあまりにお粗末だ。たったの三本の矢程度では、仮にガトウに直撃した所で大した効果が望めるとも思えない。では一体今のは、何を狙っての魔法の射手なのか。

 

「ククククク……」

「……」

 

 リュウの拳とぶつかった足を僅かに庇いながら、それでも怪しく笑うバリオ。その態度に疑問を感じ、リュウは動かずに周囲を伺った。特に、何かが起きたという事もない。ガトウの方も一時戦いを中断して様子を伺っているが、別段変化は見られない。

 

「……。何だかわかんないけど……」

 

 バリオに対し、自分が優位に立っているのは間違いないのだ。妙な小細工をされる前に、さっさと勝負を決めに行った方が良い。そう判断したリュウが、瞬動の体制に入ろうとしたその時だった。バリオは、グッと床を強く踏み込んだ。

 

「……?」

 

 今何か、その足元のタイルの一部がへこんだ様にリュウには見えた。今のは何だと声に出そうとした瞬間…………何かが、リュウの脹脛の部分に刺さった。

 

「いっ……!?」

「クク……ククククク……」

 

 ちくりとした小さな痛み。即座にリュウはその出処に目をやって、ハッとした。針のようなものが自分の足に刺さっている。そう、それはあの地下施設で、リンプーの足に刺さっていた小さな針と全く同じものだった。

 

(これは……まさか……!!)

『あーっと、アナベル選手突然ダウン! 一体どうしたのかーー!!』

「! “アナベル”さん!?」

 

 聞こえてきた実況の声に反応し、慌ててガトウの方を見るリュウ。ガトウは、がくりと片膝を付いていた。顔は見えないが震えを起こし、尋常でない汗を垂らして荒い息を吐いているのが見て取れる。

 

「がははは! 油断大敵じゃのぉオッサン!!」

 

 サントの勝ち誇ったような嘶きが耳に付く。その態度とバリオの所作から、先程の魔法の射手が何だったのかリュウは察した。あれは自分とガトウを、毒針の射程範囲に収めるための微調整だったのだ。

 

「お前……さっきのは……」

「フン、今更遅い。それに、この大会はトラップも許可されている。嵌った貴様らが悪いのだ」

「……」

 

 確かにルール上はアリだ。要綱にもきちんとそう書いてあった。だがこの石の舞台そのものに毒針を仕込んでおく等という手の込んだ仕掛けをするのは、普通の出場者では絶対に無理だ。中々汚い手を使ってくるものだとリュウは明らかな舌打ちをする。まんまと隙を付かれ、術中に落ちたリュウ達。間もなく意識が朦朧としだし、一転して二人は危機に陥いり————は、しなかった。

 

「……で、この小さな針が……何か?」

「!?」

 

 リュウは足に刺さった毒針を何事もなく引っこ抜くと、ピンと指で弾き飛ばした。どこにも毒の影響なんてなさそうに、コキコキと首を回している。既に刺さってから毒が全身に回るだけの時間はとっくに経過している。驚愕するバリオ。

 

「な……ば、馬鹿な貴様……!?」

「何が“馬鹿な”なんです?」

 

 まさか、いくら何でも“毒”が効かないとまでは思わなかったのだろう。そして丁度同じ頃。散々殴ってくれたお返しじゃあ! とサントが息巻いてガトウの頭を踏み付けようとしたその直前。膝を付いていたガトウから、突如激しい光とオーラが立ち上った。

 

「な、ななな、なんじゃぁ!?」

 

 眩しさに目が眩み、思わず後ずさるサント。光り輝くオーラを纏ったガトウは何事もなかったように立ち上がり、スーツの汚れを払い、サングラスの位置を直した。

 

「全く俺とした事が……こんな事でコレを使う事になるとは、まだまだ功夫が足らんなぁ」

 

 そう言うガトウから感じるオーラは、尋常ではなかった。リュウは思う。あれは本気のエヴァンジェリンに匹敵するかも知れない程の凄まじい威圧感であると。サントが動揺するのも、わからない話ではない。

 

「“アナベル”さん……それって……」

「ん? ああ、言ってなかったか。これは俺の切り札。究極技法と呼ばれる……まぁあれだ。ただの身体強化さ」

 

 説明を面倒そうに端折るガトウ。身体強化、というカテゴリーとして見ても、それはあまりに突出し過ぎていた。だから逆に、リュウはその強化技の名がなんであるのか、記憶から割とすんなりと思い出せた。

 

(そうか。あれがきっと……)

 

 “咸卦法”。本来なら相反する筈の気と魔力の合一を持って身体能力を一気に飛躍させ、しかも暑さ寒さや毒なんかも無効にするという究極技法(アルテマ・アート)と呼ばれる幻の術である。これこそが、ガトウの真の力であった。

 

「リュウ君は……大丈夫なようだな」

「ええ。俺にはこれがあるんで」

 

 リュウの持つ魔法発動体の指輪“竜のなみだ”は、その強力な加護で持って装着者の状態変化を防ぐ働きをする。毒だろうと石化だろうと、“竜のなみだ”を身に付けている限りリュウには無意味なのだ。そして折角の罠もリュウとガトウに全く効果が無い事を知り、ようやくバリオは焦りだしていた。サントはと言えば、得意なはずの近接格闘でボコボコにされたガトウが、さらにパワーアップした事を悟って愕然としている。

 

「さて、こうなったからにはもう遠慮はいらんな」

 

 二人を見据えるガトウの咸卦の気が、ゴウと膨れ上がる。どうやら、馬兄弟の卑怯なトラップに対して珍しく怒りを覚えたらしい。サングラスから漏れ出る鋭い眼差しは、鉄板すらも貫通しそうな勢いだ。

 

「罠などという姑息な手に頼るとは哀れにも思えるが……覚悟はいいな?」

 

 するとガトウの姿が突然消えた……ようにバリオとサント、そして観客達からは見えただろう。追いつけているのはリュウだけだ。ガトウはまず、圧倒的なスピードでサントへと向かった。サントはまるで瞬間移動したように見えたガトウに驚き、思わず兄の名を叫ぼうとして……

 

「あ、兄じ」

 

 ……バリオへと手を伸ばした所に、ガトウの強烈なボディブローが炸裂した。凄まじい速度で闘技場の端まで吹き飛ばされ、観客席との境にある魔法障壁に激しく激突する。

 

「ば……!?」

 

 たったの一撃。あまりの威力に言葉を失うバリオ。そして彼にも、ガトウの拳は容赦なく襲いかかる。

 

「がぁっ!?」

 

 バリオが踏み出し、タイルに足を付けるよりもそれは早かった。咸卦法発動状態のガトウによる超高速の無音拳が、容赦なくその顔面に突き刺さったのだ。やはり一撃で吹き飛ばされるバリオ。奇しくも兄弟二人、ほぼ同じ位置に固まった所へ、さらにガトウは追い打ちする。

 

「ふっ……!」

 

 今度はそれぞれに、遠距離からの無音拳で蜂の巣にしていくガトウ。見えない何かに連打され、ピンボールのように弾けるバリオとサント。傍目には何が起こって二人が打撃を食らっているのか、全くわからないだろう。

 

「……」

 

 まさにガトウ無双。リュウは棒立ちで全くの出番無し。そんなリュウの隣に、オーラを纏ったガトウはふっと瞬間移動したかのように現れる。散々無音拳を食らった馬兄弟は、すでにボロボロの状態だ。しかしそれでも立ち上がってくるのは、やはりプライドの一言なのか。

 

「あ、兄者ぁ……」

「弟よ、情けない声を出すな。俺達が……今までこの大会で負けた事があったか!」

「! ……ない!」

「そうだ。俺達は負けない。負ける訳がないんだ!」

「そうじゃ! わしら兄弟は! 負けんのじゃぁ!」

 

 ググッと二人は気力を振り絞り、やる気を見せている。手段はどうあれ、勝負に対する意気込みだけは馬鹿には出来ない。それを見て、リュウとガトウはしっかりと決着を付けようという気になった。大会で優勝する事は、二人にとってはただの通過点。この先にこそ、目的がある。だからここで足止めされるわけには行かないのだ。

 

「リュウ君、最後は同時にとどめと行こうか」

「了解です。じゃあ、俺があいつ等の動き止めますよ」

「ほう……?」

 

 あんまり目立たなかったしここくらいは俺が。そう思わないでもないリュウは、奮発してポケットからカードを一枚取り出し、頭上に掲げた。契約したまま一度も使ってなかった竜召喚を使うのは、今しかない。

 

「ザムディン!!」

 

 宣言と同時に、カードから眩い光が会場を満た……さなかった。というか、何にも起きなかった。声は虚しく木霊しただけだ。

 

「……あれ? ……ザムディーン?」

 

 カードを確かめる。間違いなく以前契約した地龍ザムディンのカードだ。何もおかしい所はない。召喚方法が他のと違って何か特殊だったりするのかと思い、リュウはカードを額に近づけた。

 

「ザムディン? あいつらの動き止めて欲しいんだけど……?」

≪……≫

「ザムディン? おーい?」

≪……zzz≫

 

 ガクッとリュウは盛大に脱力した。この大舞台の大一番でかっこよく召喚しようとしたら寝てるとか。今回はどこまでも格好のつかないリュウである。

 

「起きろやこのボケ龍!」

 

 イライラしながらぶんぶんとカードを振る。何だかかなり空気ぶち壊しのシュールな光景だ。

 

≪…………ん…………ああ?≫

「あ、起きた!? いいからさっさとあいつらの動きを止めて! いいね!?」

≪あんだよ……人の寝起きにうるせーなぁ……≫

「いいからさっさとする!」

≪わかったよ……ったく……≫

 

 なんともやる気のない地龍である。ぶつぶつ聞こえる抗議の声をスルーし、リュウは気を取り直してもう一度カードを頭上に掲げた。

 

「ザムディィィン!!」

 

 若干投げ遣りな叫びに反応し、ようやくカードから眩い光が放たれる。そして光が収まると、リュウとガトウの頭上には黄色い鱗を持つ巨大な東洋の龍が顕現していた。

 

「んなんじゃとぉ!?」

「こ、小僧……っ!?」

「これは……」

『ああーっと! ここに来てとんでもない切り札を隠し持っていた! 何とお子様ケリィ選手! 巨大なドラゴンを召喚して見せるという大技だーー!!』

 

 ざわつく観客。驚愕する馬兄弟。冷静にそれを見るガトウ。微妙に満足気なリュウ。そして若干眠そうだった地龍ザムディンの目から、石の闘技舞台に向けて閃光が放たれた。

 

「こ……これは……舞台がっ!?」

「な、なんじゃぁ!? わしらに絡みついてくる!?」

 

 馬兄弟の周囲。闘技場を形作る足元の石がまるで粘土細工のように膨れ上がり、幾重にも伸びる石のツタとなって馬兄弟を取り囲んでいく。イバラの如く折り重なり、あっという間に形成されるそれは、まさに石で出来た半円状の“檻”であった。

 

≪約束は果たしたぜ。じゃあおやすみ≫

 

 そして役目を全うしたと見て速攻でカードに戻っていくザムディン。仕事が早いのは良いがどんだけ眠いんだコイツ、とリュウは呆れ顔だ。

 

「あ、兄者ぁ、どうするんじゃ!?」

「く……硬すぎる! これはただの石ではないぞ!」

 

 馬兄弟が二人揃って、散弾のような蹴りを石でできた半円状の檻に炸裂させる。しかし全く壊れる気配はない。地龍ザムディンの力で編まれた石は、強固さも激的に上昇しているのだ。

 

「そうか。確か“紅き翼”には龍を使役する術者がいるという噂があったが……あれはリュウ君の事だったのか」

「みたいですよ」

「よし……じゃあ祭りの最後だ。派手に行くとしよう!」

「ういっす!」

 

 ガトウは両手をポケットに入れ、ふわりと上空へ飛んだ。リュウも馬兄弟へと手を向け、決勝前に試した技をここぞとばかりに実践に投入する。ディースから教わった技の一つ、精神力を剣の形に変えて敵へと放つ“マインドソード”。そして元々覚えていた“三連撃”と、ついさっき覚えた“ダブルヒット”。これらを合わせ、瞬時に作り上げるのは五本の精神剣。

 

「はぁぁぁぁ……!」

「さて、少々強めに行くぞ」

 

 ヴオンと石の檻の周囲に浮かび上がる大きな剣。精神力に比例して巨大化する剣の、一つ一つの破壊力はマジックボール以上。気合いを込めて操作し、全ての切っ先を檻の中の馬兄弟へと向ける。そして上空から満を持して放たれるのは、巨大なオーラを纏ったガトウの必殺技。

 

「豪殺っ!!」

「獣剣舞! 伍獣葬!」

「———ッッ!!」

 

 リュウとっておきの必殺技と、ガトウ渾身の光の大砲――空を貫く“豪殺居合拳”とが同時に着弾。この日一番の激しい轟音と大爆風を巻き起こし、そこにあった全てを叩き潰した。

 

『も……もの凄い攻撃が炸裂ーーー!! バリオ選手とサント選手の命運は! 果たして無事なのでしょうかーーー!』

 

 砂埃が舞い上がる中、リュウとオーラを解いたガトウは勝利を確信して無事な部分の闘技場に並び立つ。次第に砂埃が晴れていくと、そこにはバリオとサントが完全に気を失って倒れていた。

 

『ああーーー! バリオ選手とサント選手共に戦闘不能! よって大武会優勝はまさかの親子チーム! アナベル・ケリィコンビだーーーーーー!!』

 

「やれやれ、俺も少し大人気なかったかな?」

「まぁいいんじゃないですか?」

 

 一際凄まじい大歓声が巻き起こる。勝ち名乗りを受けてリュウは大きく深呼吸し、ガトウは一仕事終えたとばかりにシュボッと煙草に火を付ける。こうして、漢羅狂烈大武会は圧倒的な強さで親子コンビが制して幕を閉じるのだった。

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