「愉快だねぇ……リュウのヤツどうしたってんだ?」
「さぁ?」
「……」
リュウが血相を変えて飛んで行った後、部屋に取り残された三人は呆然と開けっぱなしの窓を見つめていた。一体何事? とそれぞれがリュウの行動にハテナマークを浮かべている。そんなリンプー達の間に横たわる微妙な空気を払拭したのは、再びドアから聞こえてきたノックの音だった。
「? リュウは……居ませんか?」
ガチャリとドアを開けて顔を見せたのは、キリリとシャープな雰囲気を漂わせた銀髪麗しいゼノだ。その後ろにはレイと同じく意識を取り戻したアースラと、リン、モモの姿もある。チーム・トリニティそろい踏みだ。
「アイツなら、ちょうど今どっかへ行っちまったぜ?」
ドアの方へ振り返ったレイは、そうゼノの問いに答えつつ肩を竦めて見せる。日頃からとり慣れているらしいそのポーズは、実に馴染んで見えた。
「……そうですか。アースラも気が付きましたし改めて礼を、と思ったのですが……居ないのでしたら仕方ありませんね。では先に用事を済ませてくるとしましょう」
部屋の主が不在ならばしょうがない。小さく溜息をついたゼノは部屋を後にしようとする。その言葉尻に反応したのはリンプーだ。
「あれ? あなた達もどこかへ行くの?」
「ええ、私達は今からアレを、依頼主の所へ届けて来ます」
「……」
さらに、そのリンプーとゼノの会話に耳をピクッとさせたのはレイである。アレ、とは間違いなく盗人の墓のお宝の事だろう。依頼相手に渡されてしまえば、それで恐らく永久にお目に掛かる機会は失われる。知らぬ間に助け出されたおかげで、自らが狙ったその獲物をチラリとさえ見ていない。流石にそれはどうにも納得がいかなかった。ついでにこの連中に頼んだという、その依頼主を見てみたい気持ちもある。
「なぁ、それ俺も付いてっていいか? 別に横からぶんどったりはしねぇからよ」
「……。付いてくるだけなら構いません。あなたにも一応借りがある事ですし……」
「そりゃどーも」
ゼノはレイの同行に若干渋り気味だ。とは言えレイにはあの落とし穴で庇われたから、そう強くは出られない。その辺の律儀さは彼女らしい所である。だがそれに良い顔をしない者も、そこには居た。
「フン、妙なマネを見せたら今度こそ蜂の巣にしてやる。覚悟しておくんだな」
レイに向けてメンチを切り、非常に物騒な発言をかますのはアースラだ。彼女の中ではレイはまだ、自分達が探しに行った宝を横取りしようとする夜盗崩れも同然なのだ。ゼノが良いと言うなら従うが、それでもその好戦的な性格はレイとの相性バッチリだった。もちろん、悪い意味で。
「おーおー怖い怖い。勇ましいこって」
今度はアースラに向けて馬鹿にしたように、再び肩を竦めるレイ。アースラはあからさまにムッとした。そもそもレイの斜に構えた性格は根っからであるため、矯正など無理だとガーランドも匙を投げる程。かたやアースラも根本からの軍人気質で、この手のからかいを受け流せるような温和な性格ではない。
「……」
「……」
よって、まるでバチバチという火花の音が聞こえてきそうな位に互いを睨み続けるレイとアースラ。両者とも病み上がりだと言うのに、短気なのは全く変わっていなかった。この場にはそんな二人を宥める緩衝材となる青い髪の少年が居ない為、場の雰囲気は険悪になる一方である。
「ふーん、じゃーあたしも付いてくね。リュウも居ないし暇だからさ」
「……」
と、ここで救世主登場。場の空気なぞどこ吹く風な、我が道を行く虎娘。元気で能天気な一言は険悪な二人の毒気を抜くのに十分だった。中和するように部屋の中に充満していた物騒な気配が霧散していく。
「…………おっさんはどうする?」
「俺は宿で待とう。大勢で行っても仕方があるまい」
成り行きに任せていたガーランドは留守番を選択。これ以上付きあってたらこっちが精神的に疲弊しそうだ、とでも思ったのかもしれない。
「……わかりました。では、二人は私達に付いてきて下さい」
「はーい」
「へいへい」
「……」
一人不機嫌なアースラを宥め、リュウの部屋から出てゾロゾロと廊下を行くゼノ達六人。余談だが何故か発言のなかったリンは、現在進行形でうつらうつらと夢と現実の狭間を行ったり来たりしているモモに肩を貸すので忙しかったりする。残念ながらこの場にその事への突っ込みスキルを持つ人材はいないのだった。
「やれやれだ……」
一人残り、気を取り直して食堂にでも向おうとするガーランドの呟きは、誰に聞える事なく廊下の壁に吸い込まれていった。
*
「……うっ………」
ゆっくりと開いた瞼の向こうには、今朝方見た覚えのある天井。体のどこにも違和感はなく、ふとすれば悪い夢を見ていたような錯覚に陥る。そんなボーっとする意識の中で、ステンは重たい縄を手元に手繰り寄せるように、少しずつ記憶を再生していく。
「ここは……? ……そうだ……おいらは……!!」
急速に意識が覚醒しだし、ステンはがばっと身を起こした。
「大丈夫ですか?」
「え、あ……リュ……ウ……?」
真っ先に目に入ったのは、先日知り合った青い髪の子供の心配そうな表情。部屋には他に誰もおらず、薬箱のような物が側に置いてあるだけだった。
「何でリュウが……? おいらは確か……トゥルボーにやられて……落ちて……?」
自分の状況が掴めて来るにつれ、逆に混乱していくステン。それを見てリュウはさてどう説明しようかと頭を悩ませながら、順を追って説明する事にした。
「実はその……」
ハイランド城に急行したリュウが遠巻きに目にしたのは、崖から転げ落ちていくステンと、それを見ているだけで助けようともしない兵士達の姿だった。よく分からないがとにかくステンがヤバイと見たリュウは、咄嗟に門からは見えない位置で急降下。ぐるりと城を囲んでいる堀の水面スレスレにまで高度を下げ、ステンが落ちた場所の真下へと急いだのだ。
そして岩肌を転がり無造作に水中へ投げ出される筈だったステンを、リュウは着水寸前で何とかキャッチに成功する。そのまま上に居る兵士達にばれない様すぐにUターンし、元来た道を辿って宿へと直行したのだった。その後ちょうどゼノ達一行と入れ違いになるように帰ってきたリュウは、ステンを彼の部屋のベッドに寝かせ、例によって治癒魔法を掛けて怪我を治していたのである。
これは余談だが全くの無防備で崖を転がったら、それこそ無事では済まないのが普通だ。それにも関わらず、ステンの全身にはトゥルボーに傷つけられた足や腹以外は、道端で転んだ程度の擦り傷や切り傷しか見当たらなかった。当然命にまでは別状なし。それはまさしくキングオブダガーの特殊効果、防御力上昇が寸での所で発動したおかげなのであった。
「――――と、いう訳でして……」
「……後を付けてたって事か」
「うっ……その……すみません」
リュウは相棒に尾行を頼んだ事を、包み隠さずステンに明かしていた。どうしてこんな都合良く間一髪の所で助けられたのか聞かれ、上手い言い訳が思いつかなかったのだ。ちなみに今、その尾行をしていた小さな相棒の姿は何故かその場にない。
「……」
「えーと……」
黙ったまま、何も言わないステン。リュウはステンが怒っているのだと思った。尾行というのはある意味彼を信用していなかったのと同義だ。だから罵声を浴びせられても仕方ないと思っていた。しかしステンはそんな事全く気にしていない様子で、バタッとベッドに横になる。
「……なぁ……何でリュウは、おいらを助けたんだい?」
「……はい?」
天井よりも遠くを見ているようなステンは、唐突にそんな疑問をリュウに投げかけた。それはリュウにとって予想だにしてなかった質問だ。てっきり頭ごなしに怒鳴られるか軽蔑の眼で見られるかと思っていたらこれである。良く分からないから、素直に答えるしか出来ない。
「何でって言われても……死んじゃいそうな人が居たら、助けるのって普通じゃないですか?」
「……でもおいらは、助けてくれだなんて頼んでないよ?」
ステンはリュウの方を一切見ずに、あまり感情の篭っていない声でそう言い放つ。それに対しリュウは言葉の内容ではなく、ぶっきらぼうなステンの“言い方”にちょっとムッとした。だから「誰かを助けるのに理由がいるかい?」なんてどこぞの主人公を気取ったセリフを言おうかとも思ったが、止めた。
「じゃあ、あのまま死にたかったんですか?」
「……」
リュウのぶっきらぼう返し。その一言にステンは黙った。黙らざるを得なかった。死んだ方が良かったと過去に思った事もあったが、今現在進んで死にたいという訳ではない。だからその質問返しに対する答えは当然否である。どうしてリュウへ向けてそんな意地の悪い言葉を口にしたのか、ステンは自分でもよくわかっていなかった。
「……」
「……」
少しの間、寝転ぶステンと椅子に座ったままのリュウとの間に妙な沈黙が漂う。険悪とまでは言い切れないが、好ましくは無い空気。そんな雰囲気に耐えかねて、先に口を開いたのはリュウだった。
「……さっきのは訂正します。俺がステンさんを助けた理由は、“俺がそうしたかったから”です」
「……」
質問に質問で返すのは良くないしな、と、よくわからない論理でリュウは先程聞かれた事への答えを修正した。内容的にはよくあるモノだが、本当にそれくらいしか動機と言える物が無いのは事実だ。
「……」
ステンは特にリアクションを見せず、再び沈黙が訪れて時間だけが過ぎていく。それから少し経ち、次にその沈黙を破ったのはステンだった。ふっと息を吐くと同時に、話し出す。
「ねぇリュウ、良かったら……とある男の、くだらない話を聞いてくれないかな?」
「……」
どういう心境の変化かはわからないが、ステンはベッドに寝転がりながらそんな事を言い出した。リュウとしてはこのまま言い合いになるかなと思っていたので、正直少々ホッとしていたりする。勿論、真面目な態度で言われては断る訳にはいかないし、そのつもりもない。
「いいですよ、俺なんかで良ければ」
「……」
まだ微妙に棘のあるリュウの言葉に苦笑いを返し、ステンは静かに語りだした。
「……昔、さ。ある男はある国の軍の隊長をやっていたんだ。その国は表側は普通の国だけど、裏では軍事国家としての顔を持っていてね。その男は来る日も来る日も戦いばかりの毎日に、次第に嫌気が刺していった」
「……」
「ある時、大きな戦があった。男はそこでも自分の部隊を率いて戦果を挙げ、敵を深い所まで追い詰めていった。……でもそれは敵の罠だった。奥まで誘い込まれた部隊は周囲を敵に囲まれ、絶体絶命のピンチに陥った」
「……」
「その時、隊長だった男はあろうことかこう思った。“これで自分は解放される”って。その男は部下を放り出し、単身で敵の大部隊に特攻を掛けた。一騎当千の活躍を見せた男のおかげで部下達は窮地を脱し、そしてそれが切っ掛けとなり、男の国は戦況をひっくり返して勝利をもぎ取った。……でも戦いが終わった後、そこに男の姿はなかった」
「……」
「男は大部隊に特攻を掛けた後、行方不明になっていた。様々な人間がその男は勝利の為に犠牲になったのだと思い、嘆き悲しんだ。……でも、男はこっそりと生き延びていたんだ。全てを放り出して戦場から遠ざかるために。不毛な戦いから逃げるために。男は自分から、その国を去ったのさ。一部の人間がそんな男の行動に気付いていたとしても、男にはもう関係なかった」
「……」
「男は世界中をふらふら彷徨い、そして数年が経った。本当は二度と戻るつもりなんてなかったけれど、ある時ふとした切っ掛けで、男は自分の国へと戻ってきた。そして国の事には決して関わらないと誓っていたのに、その中枢が乱れている事を知ってしまい…………男は、自分にそんな資格はないと思いつつどうすればいいか悩んでいる。……ねぇリュウ、その男はどうすればいいんだろう?」
話を終えたステンは天井を見ながら、最後にそうリュウに尋ねた。
「……」
リュウはそこまでの体験をした事が無いから、正直どうするのが正解かなんて事はよくわからない。ただ、ステンの言葉にどう返せば良いのかくらいは、なんとなく自分の経験からわかっていた。こういう時、大抵の事は自分の中で決着が付いているものなのだ。ただ少しだけ、背中を押して欲しい。そんな感じの空気を、リュウはステンから感じ取っていた。
「あんまり気の利いた答えは言えないですけど……多分、その男の人がやりたいようにやるのがいいと思います」
「……」
それはリュウの行動原理と同じであり、そしてステンの質問への答えとしては極めて曖昧な物だった。要するに、自分で考えろと丸投げしたも同然である。しかしそれでもステンにとっては、その答えは心地よかった。自分がそうしたいと、正しいと思ったように動けばいいじゃないか。そう聞こえたからだ。全てが救われた、と言うわけでは当然ないが、ほんの少しだけ気が楽になったのは確かだった。
「……」
「……」
ステンは自問自答する。自分はこの国が嫌いな訳ではない。ただもうその一部となって悲惨な戦いを繰り返すのは嫌だ。でも、自分の好きなその国に何か良くない事が起きていたら? 自分の大事な人達がピンチに陥っていたとしたら? やっぱりそれは助けたい。ならどうする。戦うしかないじゃないか。例え自分の大切な人達から臆病者だ卑怯者だと罵られようとも、自分がそうしたいのだから、それでもいいじゃないか。
「……」
リュウは、ステンの目に決意の光が灯っていくのを感じた。
「あ、あとその男の人に伝えてください。俺に出来る事があったら協力しますよって」
青い髪の少年は、最初から答えの決まっていた青年にそう声を掛けた。そこには打算的な意思は全くない事が容易に伺い知れる。
「……いいのかい?」
「ええ。俺その男の人別に嫌いじゃないですし。……あ、俺の尊厳のために言っておきますが、断じて“そっちの気”はないんで、変な風に取られると困ります」
それはリュウの本心だった。前者も、そして傍から見たら恥ずかしさを誤魔化しているように聞こえる後者もである。むしろ後者の方が本命かと思われる程に力が篭っていたのは、この際気にしてはいけない。
「そう……。じゃあ……悪いけどちょっと手伝って欲しい事があるんだよね」
「はい」
そう言ってベッドから起き上がったステンとリュウの顔には、微かな笑みが浮かんでいるのだった。
*
そこはハイランドシティの一角にある、多目的ホールのような広い空間。普段ならば市民の憩いの場として賑わう、大型の体育館的建物である。ゼノから目的達成の連絡を受けた依頼人、ハイランドの高官はその建物の内部一切を貸し切りにし、一般人を完全にシャットアウトして、受け渡し場所に指定していた。
「なぁ、あそこに居んのがあんたらに依頼したっていうお偉いさんか?」
「そうさ。まぁ偉くてもそうでなくても、私達には関係ないけどね」
「しっかし……中々趣味の悪いツラしてやがんな」
「おい、貴様は部外者なんだ。余計な口を挟むなよ」
「へいへい」
先頭を進むゼノの後ろで、こそこそ話すレイとアースラとリン。ゼノ達トリニティにリンプー、レイを加えた六人はその建物内部を進み、少々驚いていた。だだっ広いホールの真ん中に、ポツンと依頼主たる人物が一人だけ立っていたのである。街で自分達と接触した時でさえ側に二人の護衛付きだったと言う事を思い出し、それをゼノは聊か不思議に思う。だがまぁ人払いは済んでいるし、気にするほどの事でもないかと自分を納得させて歩みを進めていった。
「ご苦労だったな。まさか本当に取って来るとは……。いやいや、大したものだよ君達」
「……ありがとうございます」
ハイランダーにしては珍しく恰幅が良く口元に豊かな髭を蓄えた高官は、そう満足そうに話し掛けてから徐に手を差し出してきた。それを見て、ゼノは傍らの道具袋から淡く光る玉を取り出す。
「へぇ、あれが……」
「そうだよ。確か“ごーすとこー”っていう、何かスゴイ貴重な物なんだってさ」
フフン、とまるで我が事のようにしたり顔で説明するリンプー。初めて見るその強烈なエネルギーを発する玉を、レイは感心した様子で見ていた。もちろんリンプーに対しては何でコイツが自慢げなんだよ、と僅かに呆れた上で。
「これが、ご所望の“盗賊の魂”です」
「おお……これが……素晴らしい……確かにあの方の言っていた通りだ……」
輝きを失わない光の玉を受け取った高官は、満足そうにそれを手の上で転がした。そして強力なエネルギーを発するそれが、間違いなく本物だと確認すると、改めてゼノ達の方を向く。
「いや、本当に礼を言うよ。これであの方の計画がまた一歩進んだのだからね」
「……?」
「ああ、そうだった。それで君達への報酬なんだが……」
“盗賊の魂”を持って来た暁には、報酬として八十万ドラクマという大金を払うと事前に高官はゼノ達に約束をしていた。これでようやくリュウに借りを返せそうだとホッとするゼノ達。だが高官は金を渡すでもなくゼノ達の前から一歩下がり、パンパンと軽く手を二回叩いた。
「……悪いがね、コレについて知っている者を生かしておく訳にはいかんのだよ」
「!!」
高官の雰囲気が一変する。それと同時に、ゼノ達が居るホールへ通じる扉と言う扉から、武装したハイランダーの兵士達が一斉に雪崩れ込んできた。高官の周りにはざっと見積もっても数十人。さらに、ゼノ達の後ろにも十数人。一連の動作には全く無駄が無く、よく訓練されている事がわかる。
「これは……何のつもりですか?」
「いや何、君が考えている通りだよ」
「……では、あなたは最初から約束を守るつもりは無かった……という事ですか」
眼鏡の奥から鋭い視線を飛ばすゼノの前に、高官を守るように展開するハイランダーの兵士達。殺気立つその雰囲気は、明らかにゼノ達を敵と見なしている。この期に及んでまだこの兵達が自分達に害を成す者でない、等と考える者はその場に誰一人居なかった。
「は、愉快だねぇ……あんたら随分と歓迎されてんじゃねぇか」
「……どうやら我々は、まんまと躍らされたらしいな」
殺気に当てられ、レイはナイフ二本を、アースラは腰に下げていた銃を手にする。
「怪しいと思ってたのよねー」
「モモ……それならそうと、もう少し早く言ってくれれば良かったんだけどね」
レイ達に続きモモはバズーカを、リンはアースラ同様ホルスターから銃を抜き、構える。
「ねぇ、どうするの?」
「……この場は明らかに多勢に無勢、まずは逃げる事を優先するべきでしょう」
そして最後にゼノが剣を、リンプーは背負っていた棍を。ゼノ達はそれぞれが得意とする武器を一斉に取り出し、構え、戦う姿勢を見せた。兵士の大群という、圧倒的に勝る物量相手に怯むことなく。
「死人に口無し! 一人たりとも逃がすんじゃないぞ!!」
「ハッ!」
そして高官の号令で、兵士達は一斉にゼノ達へと襲い掛かった。僅か六人を相手にするには過剰とも言える人数が、大波の如くゼノ達へと押し寄せる。
「アースラ! リン! 前を!」
「了解!」
ゼノの声に共鳴し、二人の銃使いが前に出る。二つの銃口を兵士達の波へ向け、反動を吸収するべく足に力を込める。
「爆ぜろ!」
「そこっ!」
そして両者の持つ銃から兵士達の足元に向け、扇状に広がる散弾が発射された。突進してくる大波の出鼻を挫く一撃が、兵士達の勢いをいきなり削ぎ落とす。
リンの持つ銃は、かつてゼノ達がリュウに勝負を挑んだ時にアースラが使っていた銃である。それには“ランゲージ・コマンド・システム”と言うモモの考案した装置が搭載され、持ち主の音声によって発射する物体が変化するという特徴があった。当時より改良が施され、今は音声の組み合わせで様々な追加効果のある弾丸も発射する事が可能となっている。ちなみに銃本体の正式名称は“バムバルディ・セカンドインパクト”と妙に長い。
そしてアースラが持つのは“飛天雷神筒”と呼ばれる、散弾を発射する事を目的とした大型の銃だ。アースラが武器を持ち替えた理由は、単純にランゲージコマンドを使うには発声が不可欠であるため、せっかく覚えた魔法の詠唱が同時には出来なくなるからである。勿論こちらの銃には発声は全く関係無いので、アースラのそれはただの掛け声だ。
「今です! あなた達は私について! 退路を確保します!」
「わーったよ!」
「りょーかい!!」
前面に居る大量の兵士達を銃で牽制しているうちに、ゼノ、レイ、リンプーの近接組は後方に向かって突撃した。目的は一つ。このホールからの脱出口を守る兵士達を蹴散らすためだ。
「そらよっ!」
持ち前のスピードを活かし、真っ先に敵陣に切り込んだのはレイだ。以前リュウに会った頃よりも洗練された鋭い動きで、あっという間に周囲の兵を斬り伏せていく。
「おっと! ふんっ! てやっ!」
時折飛んでくる兵の斬撃や刺突を、フーレン族特有のしなやかな筋力で持ってひらりとかわすリンプー。あまり細かい事を考えない彼女は真正面からにゃんにゃん棒を振り回し、力任せに兵士達の武器や鎧を粉砕していく。
「ハッ! 甘いッ!」
そして確かな技術に裏打ちされた剣技で兵士達を手玉に取り、的確に急所を攻めて次々に無力化させていくゼノ。三人は即席の割に見事なコンビネーションで兵を蹴散らし、退路を切り開いていく。だが相手の兵は、雑兵と言えど軍事国家の兵である。ある意味奇襲により陣を崩されはしたが、圧倒的に数で勝る兵からゼノ達が逃げきれる訳が無い。高官はやられていく不甲斐ない兵を見下しつつも、最後には自分達が勝つと踏んでいた。だが……
「よし、全員こっちへ! モモ、あれを!」
「はーい。みんな目伏せてねー」
……しかし、彼女らは歴戦のチーム・トリニティである。リンとアースラの二人が引いてゼノ達に合流し、足止めが消えた為再び大波が押し寄せようとする。そこへ、モモが待ってましたとばかりにバズーカの砲口を向けて、とある弾丸を装填した。
「えぇーい!」
そしてボスッと言う音と共に敵陣の真ん中へ弾丸が炸裂した瞬間、目も眩む程の閃光がホール全域を満たした。今モモが発射した弾丸の名は“閃光弾”と言い、弾丸自体の威力もさることながら瞬間的に強烈な光を発して敵の目を晦ませる効果を持つ秘蔵の秘密兵器である。ちなみにマニーロ商会の扱う消耗品とは別物だ。
「今です!」
「ぬぁぁっ!? な、何だこの光は……!!」
激しい閃光に目の機能を奪われ、高官も兵士達もまともに動く事が出来ない。その隙にゼノ達は切り開いた退路を掛け抜け、何とか建物からの脱出に成功するのだった。
「ったく愉快だねぇ……何処の特殊部隊の装備だよこいつら……」
建物を後にし走りながら呟いたレイの一言は、慌しい足音に掻き消されていった。
「くっ!? お、おのれ! 貴様ら何をしている! 追え! 追うのだ!」
「ハッ! 直ちに!」
光が収まりだした頃、最早影も形も無くなったゼノ達の姿を探して慌てる高官。目を瞬かせる周囲の兵達に向け、号令を飛ばす。そして無事な兵士達は、こぞって街中へと溢れ出していった。
「ねぇ! 逃げるのはいいけど、どこに行くの!?」
「町外れに廃屋があったと思うから、隠れるなら取り合えずそこがいいと思うわよー?」
走りながら、リンプーの疑問にモモの間延びした声が答えている。なんだなんだという街行く人々からの好機の視線をぶっちぎり、ゼノ達は天下の往来を全速力で疾走していた。
「おい! 俺は一旦宿に戻るぜ! おっさん置いてきちまったからな!」
「それなら私達の荷を全て、ついでに取ってきてはくれませんか?」
「……構わねぇが、高くつくぜ?」
「仕方ありません」
「あっと、そうだ! あたしもそっち行く! リュウ達にこの事知らせなくちゃ!」
そうしてレイ、リンプーはトリニティと別れ、宿の方へと向いだす。ゼノ達は追ってくる多数の足音から逃れるべく、町外れを目指してひたすらに走っていった。約束を反故にされ理不尽に襲われた事に、それぞれが怒りを抱えながら。