炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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2:武道会

 変身したリュウとボッシュは崖を飛び越えた勢いのまま一気に進んだ。人どころか動物の気配すら感じられない山をいくつか越え、ようやく平坦な開けた場所へと出た所で変身を解き、一休みしてから歩いて進んでいった。ちなみに変身自体が3度目であったせいか、前2回よりも自分の意思で制御できているという実感があったのは収穫と言えた。

 

 恐らくは中国のどこかだろうと適当に考えつつ歩いていると、ポツポツと家らしき建物が目に入るようになり、チラホラ人も見かける事が出来た。ようやく普通の人間に出会えて、リュウは何となく安堵というか安心感の様なものを覚えていたりする。

 

「そんでさ、ボッシュの故郷って一体どこなんだよ?」

「ああ、日本だよ日本。わかるか日本ってーのは……」

「いやいやいやちょっと待って待って」

 

 リュウは思わず待ったをかけた。まさかこのフェレットの出身地が自分の出身地と同じ土地とは予想外だった。話の腰を根元から折られたボッシュはいささか不機嫌そうだ。

 

「自分で振った話を遮んのは関心しねーぞ相棒」

「あーごめん。いや実はさ、俺も故郷は日本なんだよね」

「おぉ? そうなのかよ? 何だよ教えてくれりゃぁ良かったのによ」

「いやまぁでも……よく考えるとそうとも言い切れない……という諸々の事情がありまして……」

「?」

 

 リュウのイマイチ煮え切らない態度にボッシュはハテナ顔だ。恐らくではあるが、その日本はリュウの故郷である日本と同じ日本で在り、かつ違う日本でもあるのだ。そんなこんなで世間話をしつつテクテク歩くリュウとボッシュ。だが流石に今進んでいるのは広大な畑らしき土地である。地平線さえ見えてきそうな場所を子供の足では進んでいる気がしない。

 

「なぁ相棒よぉ、とりあえずどっかでタクシー拾うかヒッチハイクでもしようぜ、俺っち疲れちまったよ」

「……うーん、そうだね。まぁこの道行けばきっと車の走ってる道に出るでしょ。もう少し頑張れ」

「……」

 

 それにしてもフェレットがタクシーとか平然と言うのはスッゴイ違和感だな、と、まだ己の常識を捨てきれないリュウは心の中で呟いていた。

 

 

 村長宅にあったお金のおかげで難なくタクシーを捕まえ、到着したそれなりに大きな街で一泊しようとしたリュウとボッシュ。道中何度か身の危険を感じるような出来事もあったが、ボッシュと協力しあい、なんとか事なきを得ていた。

 

 そして、ここで幸運がリュウとボッシュの元に舞い込んだ。なんと駄目元で探した飛行機の予約に運良く空きがあったのだ。疲れたから休もう派のボッシュと早く日本に行きたい派のリュウとの間でジャンケンデスマッチが行われ、結果そのまま金に物を言わせて飛行機に飛び乗り、一路日本を目指す事になったのである。

 

 ちなみに、リュウのパスポートは用意の良い事にユンナの家を物色した際に発見されている。どこかに連れて行く気だったのか? ていうかいつ申請したんだ? 等々色々疑問はあったが、答えてくれる人が居ないので仕方なくリュウはスルーした。

 

 ボッシュに関しては飛行機にペットはダメだったが、リュウは自分が子供の姿であることを利用しての泣き落としを決行し、おまけに警備員への賄賂で目を瞑ってもらう事になった。人間、意外と追い詰められると何でも出来るもんである。手続きをちゃくちゃくとこなす姿に「何この子気味悪い」という目で見られた事は、例によって我慢&スルーであった。

 

(さすが中国、チェック甘いなぁ)

 

 早速、見た目は子供・頭脳は大人のズルさを全力でフル活用しつつ、リュウとボッシュは思ったより早く故郷への道に着く事が出来ていた。

 

 

「……」

「なんでぇ外見て黄昏やがってよ」

「いいだろ別に。ていうか喋んなバレる」

 

 機内でボーっと外を見ていたリュウは、あのドラグニールの村での出来事から感じたある種の予感めいた物について考えていた。どうも今自分が居るこの世界は、あのゲームの要素に加えて“あの漫画”の要素もあるのではないだろうか。そんな予感である。根拠は二つ。

 

「……」

 

 自分の元居た現実と全く同じ(であろう)中国や日本という国が存在する。それが一つ。そしてもう一つは、あのユンナや村長を殺害した白髪の少年である。今冷静になって思い出すと、あの白髪の少年の顔には見覚えがある。確か名を“フェイト・アーウェルンクス”と言った筈だ。その“漫画”の登場人物に瓜二つなのだ。

 

 見た目がああだったからこそ、リュウはユンナが“石化”させられたという事も素直に受け入れていた。勿論、まだ自分の主観でそうかもしれない、というだけであって、確実にそうだと断定するには説得力が不足している。

 

「日本か……」

 

 自分のこの仮説を立証するに当たって、例えば呪文の詠唱を聞くなどの機会がなかったのであと一つ何か欲しい。そういう意味で、日本に行くのは一石二鳥であった。もしも日本に「麻帆良」という地名が存在しているなら確定だからだ。他にも「関西呪術協会」や「神鳴流」等の名称が出てくればわかるだろう。

 

 本当ならばわざわざ自分の目で確かめに行かなくても、インターネットでちょちょいと調べて一発……と行きたかったが、そうも行かない事情がある。……「今」がリュウの住んでた時代よりかなり前である事が、空港の文字列を見てわかったのだ。

 

「俺、まだ生まれてもいねーなぁ……」

 

 1978年。

 

 仮に元の現実であったとしても、まだリュウの存在は影も形もない時代である。ちなみにリュウは歴史に関してはあまり詳しくないので、どこでどんなことがあったのかはさっぱりだ。ある意味タイムスリップでもあるので尚更現実感がない。さらにはリュウの記憶に薄らとある漫画の項目に検索を掛けても、「確か主人公の父親とか、真祖の吸血鬼がブイブイ言わせてるんだっけ?」といったレベルでしか覚えていない。ノープランもいいトコである。

 

「……」

 

 何にせよ、リュウはボッシュの実家とやらに訪ねたら、ちょっと日本をぶらぶら放浪してみるつもりだった。この年でホームレスかよとか思わないでもなかったが、幸いな事にお金はある。残念ながらネットがまだ存在しないというのが中身現代っ子のリュウにはちょっと物足りなかったりもするが。

 

 そんなことを考えていると、ボッシュが小声で話し掛けてきた。

 

「ところで相棒はどこ地方出身なんでぇ」

 

 ボッシュはなるべく目立たないようリュウの膝の上で丸まっている。こうして口さえ開かなければちょっとはかわいいのに、と心の中で思うリュウである。

 

「俺はxx県だよ。そこの神社で暮らしてた」

「へぇーxx県ねぇ。特に印象がねぇなぁ。俺っちは京都よ。いいぜ京都は」

「……」

 

 京都。リュウの記憶からそういえば関西呪術協会とか神鳴流って京都だったな、という情報が引き出される。ボッシュの実家を訪ねるついでに、ひょっとしたら色々わかるかも知れない。

 

「じゃああっち着いたら京都へ向かうか」

「いや折角だしxx県に先に行こうぜ。そっちの方が空港から近いだろうよ」

「……」

 

 ボッシュはそう言うが、リュウはあまり気が乗らなかった。自分の故郷の町に行った所で、そこに居るのは自分の親族ではない別の家族だ。何となく、そんな今の現実を見たくは無かった。

 

「ならさ、埼玉県に行かない? ちょっと行ってみたい所があるんだけど」

 

 リュウは唐突にそんな提案を出した。この飛行機は羽田行きである。なので京都へ行くよりも先に“麻帆良”の確認をしようと思ったのだ。

 

「あぁ? 埼玉? それこそ何もねぇじゃねぇか。何でそんな所行くんだよ?」

「いやちょっと見たいもんがあってね」

「まぁ相棒が行くってんならいいけどよ」

「じゃあ決まりね」

 

 リュウとボッシュのひそひそ話しが途切れた所で偶然スチュワーデスに話しかけられ、まさかボッシュとの会話を聞かれた!? とテンパるリュウ。そんなこんなで飛行機は無事に日本へと到着。時刻はとっくに深夜である。リュウは眠い目を擦りつつ気合を入れて、まずは寝床を探すために微妙に違う故郷の地を踏みしめるのだった。

 

*

 

 歓声に次ぐ歓声。

 観客席には大勢の人が犇きあい、熱狂し、盛り上がっている。そんなアツ苦しい空気の真っ只中に、リュウとボッシュはポツンと座っていた。

 

「なぁ相棒、見たかったのってなぁこれかい?」

「いや……うん……まぁ、一応……」

 

 ここは日本国埼玉県麻帆良市。

 結論から言うと「麻帆良学園都市」は存在していた。つまりリュウの推測通り、ここはどうやらあの漫画の世界でもあるということで決着と相成ったのだった。ついでにその舞台となった学園を見て周ってみようと欲を出してみたら、ちょうどこの日は一年に一度のお祭り“まほら祭”の開催初日日だったらしい。

 

 リュウはうっかり年号ばかりに気を取られて、今日が何月何日か全く気にしていなかったから予想外ではあった。まぁ日付を見た所でまほら祭の日付なぞ覚えていない訳であり、それがどーしたってなもんである。

 

(ん〜確か……主人公の父親の「ナギ・スプリングフィールド」がこのいつかの武道会で優勝してるんだったけなぁ。1978年ってどうだっけ?)

 

 頭の隅からそんな記憶を引っ張り出し、ひょっとしたらナギ見れるんじゃね? という期待を胸にリュウはこの武道会の会場へと詰め掛けてみたのだった。

 

(しっかし……)

 

 そして(見物は途中からだが)始まった武道会。

 肉体を駆使して互いの技を競い合う男達。

 息もつかせぬ攻防。手に汗握る逆転劇。

 そして決着。

 

(……)

 

 正直、圧巻であった。格闘技の試合などテレビのしょっぱいK-1やクリンチばかりのボクシングくらいしか見たことなかったからか、生で見る拳と拳のぶつかり合いはリュウの胸になかなか来るものがあったのだった。

 

「おお! いいねぇ火事と喧嘩は江戸の花ってねぇ!」

 

 首に巻きついてるフェレットも、そんな試合を覗んで先程から興奮しっぱなし。普段なら耳元でうるせーと吐き捨てるところだが、今はその気持ちもわからんでもないリュウである。

 

(うーん……)

 

 しかしリュウはそれとは別に少しガックリきている事もあった。どうも控え室から出てくるのは筋骨隆々の巨漢やプロ選手っぽい人物ばかりで、自分と同じくらいの子供サイズの人間が居ないのだ。要するにお目当てにしていたナギ・スプリングフィールドの姿が見当たらないのである。

 

(やっぱそう都合良くは行かないかぁ)

 

 溜め息混じりに肩を落としつつ、聞こえてきたアナウンスに耳を傾ける。見始めたのはつい先程からだったので1回戦の事は知らないが、なにやら次が準々決勝の最後の試合らしい。という事は次の試合で一応勝ち残っている全選手の姿を拝めるという事になる。

 

(今まで出てこなかったし、これに居ないようだったら別のとこ見に行こうかな)

 

 と、そう思っていたリュウであったが、一際大きな歓声が周りの見物客達から上がり、何だと思って舞台へと目をやる。……どうやら、待っていた甲斐はあったらしい。

 

(あれは……)

 

「なんでぇあのちっこいのは? あんなのが良くここまで残ったもんだなぁ?」

 

 遠目からもわかる赤い髪に、どことなく魔法使いっぽいローブ、そして明らかに今までの人物と比べて低い身長。ボッシュはそのあまりに不釣合いな姿の選手を胡散臭げな眼差しで見ている。そしてリュウは、確信した。間違いない。ナギ・スプリングフィールドだと。

 

(おおお!? キタキタ本物だよ! スゲェ! ていうか何あのイケメンっぷり反則だろ!?)

 

 気分は超有名芸能人を見た一般人。オノボリさんが都会で目をキラキラさせるような感じで舞台の上を見つめるリュウである。アナウンスでもハッキリとナギ・スプリングフィールドと紹介されたのでもはや疑いようも無い。

 

(ちょっとサイン欲しいなー。自慢する相手居ないけど)

 

「なぁ相棒よぉ、あんなガキンチョに何かあるってのか? さっきから変だぜぇ?」

 

 リュウの様子がそれまでと大分変わったのが気になったのか、ボッシュが疑問を投げかけてきた。

 

「……喋るイタチに変とか言われたかねー」

「だぁから俺っちはフェレットだって何度も……」

 

 と、売り言葉に買い言葉がヒートアップしそうなところで、アナウンスが試合の開始の合図へと入った。

 

「しっ、始まるから静かに!」

「〜〜〜〜」

 

 ぶすくれているボッシュを尻目にリュウは試合会場を見つめる。ナギの相手はまるで北○の拳から出てきたような濃ゆい顔をしたスーパーマッスル大男だ。おまけに手加減などするつもりはないらしく、手をポキポキ鳴らしながら勝利を確信した表情でナギを見下ろしている。是非ヒャッハーと叫んで欲しい。

 

(いやいや明らかに生まれる世界間違ってるだろ)

 

 とかリュウは心の中で突っ込みつつ呆れていた。他の人がどう見てるのかは知らないが、リュウの目にはそのマッスル男が可愛そうなくらいに良い所無くやられる未来しか見えなかったからだ。一言で言えば単なる雑魚キャラとしか映っていない。

 

『始め!』

 

 試合開始の合図。

 と同時に大男は大きく右腕を振りかぶりながらナギへと突っ込んでいく。

 そして次の瞬間には、大男は逆側に凄いスピードで吹っ飛ばされていた。2バウンドくらいしてそのまま気を失ったのか起き上がる気配が無い。ナギはちょうど大男が最初に立っていた位置に、涼しい顔して立っていた。審判が大男の様子を見に行く。

 

「……勝者! ナギ選手!!」

 

 そして周囲から一斉に沸き起こる歓声。

 

「……え?」

 

 リュウは呆然としていた。今までの試合とは全く持ってレベルが違っていた。文字通りの瞬殺だ。かろうじてナギが拳を突き出す動作が見えた気がしたが、本当にそうかと聞かれると答えられない。

 

「……おい相棒、あいつ何だってんだ? ありゃ人間か? 相棒の同類じゃねぇのか?」

「いや俺は素じゃ弱いし、あれはレッキとした人間だよ。……多分」

 

 ボッシュも口をあんぐりと開けてその様子を見ていた。変身すれば自分もあれくらいの戦闘力は発揮できると思うが、改めて他人がそういう動きをするのを見ていると何というか桁が5個くらい違く見えてしまう。そんな感じで呆気に取られたリュウが観客に手を振るナギを見ていると……

 

 次の瞬間、ナギと目があった!

 

「ヤベッ!」

 

 咄嗟にリュウは目を逸らす。

 

「おいおい相棒、明後日の方向見て何やってんだぁ?」

 

(……って、よく考えたら別に目を逸らす必要なくね?)

 

 悲しいかな、一般人の習性か。どうにも喧嘩を売られそうな気がしてつい目を逸らしてしまうのだ。無用なトラブルを避けようとする本能であろうか。恐る恐る視線を戻すと、もうナギは裏に引っ込んでいたようだ。ほっと一息つくリュウである。

 

「ふぅー。あー今の試合一瞬だった癖に、これまでのより疲れた気がするのは何でだ?」

「そりゃおめぇ食い入るように見つめてたからだろーが。……いや待てよまさか相棒はそっちの趣味なのか? おいおい悪いこた言わねーからやめとけ。非生産的だぜ? 」

「……」

 

 いらぬ疑いを掛けられたリュウは、無言でその首巻きイタチの減らず口と鼻を塞いだ。

 

「〜〜〜〜」

 

 もがくボッシュ。しかしリュウの手はそこから離れない! そのままたっぷり五分が経過し……リュウはようやく手を離した。

 

「ぶっはぁーっ! はぁ、はぁ……てめぇ! マジで死んだらどーする!」

 

 猛烈な勢いで呼吸を繰り返すボッシュ。顔は青くなっていたが、たちどころに元に戻っていくのが逆再生でもしているかのようだ。

 

「いやお前死なないじゃん」

「〜〜〜! もう勘弁なんねぇ! 表へ出ろや! このスットコドッコイがぁ!!」

「おっとそうだ。準決勝が始まる前にトイレに行っとかねば」

「聞いてんのかゴラァッ!!」

 

 プリプリ怒るボッシュの扱いにも慣れてきたのか、見事なスルー力であしらうリュウの図。しっかりとトイレ休憩を済ませ、再び元の席へと戻るのだった。その後、準決勝もナギは難なく勝ち残り、決勝はナギvs鉢巻を巻いた八極拳の使い手の青年(バーチャファ○ターのアキラにソックリ)との戦いとなったのだった。

 

『決勝戦! 始め!』

 

 アナウンスと同時にそのアキラ(偽)は隙なく構えた。流石にここまで勝ち進んできただけあって、リュウの素人目にも只者でない事ぐらいはわかる。

 

(スゲェ! なんかどっかで見たような構えそっくり! これなら少しくらいはナギも苦戦するんじゃ……)

 

 対するナギはそれまで自然体だった物の、初めてグッと構えらしき体勢を作っていた。試合会場の空気が緊張に包まれていく。

 

「おい相棒、あいつマジでやる気みたいだぜ!」

「だね」

 

 つまり、構えを取らなかった準決勝までは本気ではなかったという事である。リュウは「ですよねー」とある意味その手抜きっぷりを察していた。手を抜いていてもあの動きかよ、と呆れてもいた。

 

 そして舞台の上、張り詰めた空気の中……ナギが動いた!

 

「え……!?」

 

 と思ったのも束の間、舞台上どこを見渡してもその姿がない!

 

『こ! これはぁーーー!? ナギ選手! 忽然と姿を消してしまいましたー!!』

 

 半ば絶叫のような実況が入る。会場もそのあり得ない現象にざわついている。

 しかし、アキラ(仮)は微動だにしていない。

 

「見えているぞ!」

 

 突如、アキラ(仮)は何もない空間へ拳を繰り出した!

 一瞬そこに影が重なったようにも見えたが、しかし拳は空を切る。驚愕するアキラ(仮)!

 

「何!?」

「惜しいねオッサン!」

 

 突如アキラ(仮)の後ろにナギが出現! その顔には不適な笑みを浮かべたまま、アキラ(仮)の背中に強烈な掌低を打ち込んだ!

 

「ぐあぁっ!?」

 

 アキラ(笑)は大きく吹っ飛んで顔面からズシャァーッと着地、ピクピクしているがそれ以上動かない。審判がそっと近付き、その様子を伺う。……彼はすでに気を失っていた。

 

『そ、そこまで!! 優勝はナギ・スプリングフィールド選手に決定ーーー!!』

 

 その日一番の歓声が轟き、リュウは思わず耳を塞いだ。そんなリュウの耳の傍にボッシュが口を近づける。

 

「相棒……あの動き、見えたか?」

「いや……全っ然」

 

 さすがと言うかなんというか。リュウはその明らかな力量差に最早開いた口が塞がらなかった。もう仕方ないのでああいうのは子供時代からああなのか、と納得するしかないのであった。そして大会は円満の内に終了し……、気付けば既に日は傾いていた。リュウとボッシュは会場を後にし、長く伸びる影が寂しさを感じさせる夕暮れの道をポツポツと歩いていく。

 

「なぁボッシュ、何か食いたいもんとかある?」

「あぁん? そうだなぁ、俺っちは栄養バランスのいいメシならなんでもいいぜ」

「……」

 

 思ったより意外な答えにリュウは少し驚いた。てっきり肉とか言われるかと思ったら、何やら健康を気にしてそうな注文である。不死身の癖に……とリュウは思ったとか何とか。

 

「じゃあ、適当にその辺の旅館とか当たってみようか」

「おう」

 

 もう遅いし今晩泊まる場所も欲しいので、リュウは取り合えず学園都市の中をそれっぽい建物探して歩く事に決めた。そんな感じでしばらくふらふら歩いていると……不意にリュウは、背後から声を掛けられた。

 

「よお!」

「え?」

 

 振り向くとそこには……

 

 

 なんか目がイっちゃってるオッサンが立っている!

 オッサンはリュウへ向けて思いっきり倒れこんできた!

 

「おわっとぉ!?」

 

 見知らぬオッサンからのアツーイ抱擁をそのまま受ける趣味はリュウにはない。素早く後ろに飛び退いてそのオッサンハグを避けるリュウ。おっさんは受身すら取らないまま、顔面から地面にドシャリと突っ伏した。

 

「な、何この人……?」

「いやーわりぃわりぃ。なんかそいつが後を付けてたからよ。とりあえず殴っといた」

「え……?」

 

 リュウがその声の発信源へと視線を上げると……そこには夕日を背にして爽やかに笑う、ナギ・スプリングフィールドの姿があるのだった。

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