白髪の少年が跪き、頭を垂れたまま言葉を紡ぐ。
先日遭遇した出来事の一切を、ありのままに伝えるために。
今、彼は自らの主の前にいるのだ。
「……報告は、以上です」
「ごくろうでしたバルバロイ。下がって結構ですよ」
答えたのは、透き通った声だった。
聴く者全てに安らぎを与えるような、美しい女性の声。
声をかけて頂く事自体が、少年にとって何よりの褒美。
その意思に沿うことは、全てに勝る至情の喜び。
しかし、少年は今この時始めて、下がって良いという女性の言葉に抗った。
「……」
「……どうしました?」
「恐れながら、お伺いしたい事があります」
「構いませんよ。私にわかることでしたら」
言葉から僅かに伺い知れる主の表情は、恐らくは微笑み。
一目見るだけで、何人も心奪われてしまうような極上の微笑みであろう。
しかし少年は、決して顔を上げない。
「ありがとうございます。……アレは、本当に“龍の民”なのでしょうか」
「……なぜ、そう思うのですか?」
「アレは……あの“力”は尋常じゃない。いかに“龍の民”が大きな力を持っているとしても……話に聞いたレベルの物とは、違い過ぎる……」
あの時を思いだし、無意識に少年の拳に力が入る。
恐怖という屈辱。無表情の下に激しい負の感情を滾らせる。そして、だからこそ顔を下に向けたままの少年は気付いた。
微かに、主の纏う空気が変わった。それは注意していなければ決して気づかないような、ほんの些細な変化。
主から漏れ出たほんの一瞬の綻び。微かに感じられたそれは、自分と同じ……。
「なるほど。確かに、過去に居た者達とは違うようです。ですが私にはわかります。多少異質な力も混じっているようですが、それは私が滅ぼしたはずの“龍の力”。“私には”わかるのです」
「……」
「そして、“龍の力”は必ず、世界を滅ぼす力になる。その子供が一人でそれほどの力を持つのなら、確実にこの世から消し去らねばなりません」
「……お願いがあります」
少年は跪いたまま、その言葉を口にした。
今まで一度たりとも自分は主に意見したことはない。
そのような事が出来る立ち場に自分が居るとも思っていない。
不敬を買ってこの場で処刑されるかもしれない。
だが、それでも願わずにはいられない。
「僕に……戦力をお与え下さい。必ず……討ち取って見せます」
「……いいでしょう。かわいいバルバロイ……あなたの好きなようになさい」
我が子がする初めてのおねだりを、優しく許す慈愛に満ちた母。
少年は跪いたまま、さらに頭を下げた。これ以上ないほどの忠誠の証に。
「ありがとうございます。必ずや、あなたのご期待に添う結果を……」
何処とも知れぬ静かな空間。
そこには美しい女性と、白髪の少年の姿があった。
*
「いやー、メシ奢ってもらってなんか悪ぃな」
「いえとんでもないです。危ないところを助けてもらったんですから」
後をつけていたという妙なおっさんを道端に放置し、リュウは赤い髪をした武道大会の覇者を連れて、取り合えず目に付いた適当な飯屋に入っていた。あの場で立ち話というのもなんだし、一応助けてもらったらしいのでそのお礼みたいなものである。
「でもあのオッサン何で俺なんかを付けてたんだろ?」
「さぁな。まぁそっちの趣味のおっさんだったんだろ。なんかハァハァ言ってたし」
「マジすか……」
確かに今現在自分の見た目はせいぜい10歳程度の子供であるからして、そういう歪んだ思考を持った人間の的になりやすいというのはわかるんだけど……。リュウはどの世界もいつの時代も居るとこには居るんだなぁと、大して変わらない変態発生率にゲンナリした。
「まーオマエ自身もそこそこ見れるツラだしなぁ。ま、この俺には負けるけどな!」
(うーわ凄い自信……)
流石はナギ・スプリングフィールド。見た目はリュウと同じくらいの年代なのに、自分のイケメンっぷりを自覚しており、しかも事実なのでそれを否定しようがないというのが、またなんとも小憎たらしい。だがこれくらいの年齢ならば、まだある意味微笑ましいと言えなくもない。
「お、そういや挨拶がまだだったな。俺はナギ・スプリングフィールドってんだ。よろしくな!」
「あ、これはどうも。俺はリュウって言います」
今更になっての自己紹介タイム。初対面なので敬語を使うのは紳士の嗜みである。ちなみにボッシュは人前で喋ってはマズイことを知ってるので、リュウの足元に丸まりじっくりと聞き耳を立てている。
「ところで、何で俺の所へ? あーとナギ……さんなら今や時の人だし色々引っ張りだこでしょう?」
「俺の事はナギでいいぜ。あと敬語もなしな。……いや実はさ、舞台の上からリュウを見かけてさ、ちょっと興味が湧いたんだよな。俺と同じくらいの年っぽかったし、その青髪スッゲェ目立ってたし」
「あ……」
日本に来たせいでリュウとしてはすっかり忘れてたが、今の姿は子供サイズなだけでなく、青い髪でもあるのだ。黒髪が主流である日本でこれは確かに目立つだろう。尤も、本当にここは日本なのか? と空港に着いた当初リュウが困惑するほどに、結構色んな髪の色の人が居たりしてはいたが。
「あ、じゃあ順序逆になったけど、優勝おめでとう。マジで凄かった。……何やってんのか全然わかんなかったけど」
「なぁに、あんな程度の連中じゃあ俺の相手にはならないね。朝飯前ってやつよ」
「あーまぁそりゃ……確かに」
ふふん、と胸を張って自慢げに答えるナギ少年。普通の人間の目に映らない速度で動ける程の強さなら、よっぽどのことがない限り敵無しだろう。そこにはきっと越えられない壁みたいなものが聳え立っているんだろうなぁと、自分の常識の範囲内に何とか当て嵌めるリュウである。
「まぁ、そんなこたどうでもいいんだ。こっからが本題なんだがよ……」
「? ……何?」
そう切り出したナギの顔はそれまでの不敵な表情とあまり変った様には見えなかったが、何か周囲の空気が切り替わったような、ズシンと肩にのしかかるような重圧を、リュウは感じ取った。
「……お前、さ。人間じゃないだろ?」
「…………。ははっ、何を仰いますやら……」
くるりとリュウは顔を背け、目を逸らした。
「目ぇ逸らすな。あと、今の行動だけで状況証拠は十分だけどな」
「……えー、っと……」
まさかの一撃。いきなり本題中の本題である。確かにリュウはあの変身能力など、生物学的にみて“人間”だ、とは言えない。それをズバリと指摘したナギ。リュウは今更のように警戒した。彼は一体何を目論んでいるのだろうか。まさかこの場でいきなり殺されたりはしないだろうが、このまま何事もなく食事だけで済ますとも思えない。そんな感じで一気に背中に嫌な汗を書き出したリュウを見て、ナギは大きく息を吐き出してみせた。
「まぁ別に、退治しようとかってわけじゃねーから安心しろよ」
「…………はぁ」
「俺が気になったのは、お前に妙な力を感じたからだ」
妙な力、とはまず確実に「龍の力」のことだろう。流石にナギは鋭いらしい。自分じゃまだ全然わかっていないのに、他人には即効でばれているとかどうしろと言うんだろうか。リュウはちょっとヤケ気味に思った。
「どーもな、魔力や気とは違う感じなんだよな。小さすぎてわかり辛ぇけど。んで明らかに人間のものじゃないときた」
リュウはナギの観察眼に感心していた。もう逆に開き直りである。この感性はもう流石だとしか言いようが無い。恐らくはドラゴンズ・ティアのおかげで薄まってるはずなのだが、それでもわかる人にはわかってしまうのか。
「そんで? お前は結局なんなんだ?」
ズズイッと不敵な笑み二割増しで訪ねてくるナギ。仮に席を立ちここから逃げようとしても、あの瞬間移動ばりの動作で回りこまれるだろう。戦うなどという選択肢は最初からない。つまりは逃げられないらしい。理解したリュウはならばと思考を切り替えることにした。
「……」
相手はあのナギ・スプリングフィールドである。わざわざ事を荒立てて敵対する必要は無い。何とかして味方……少なくとも悪い感情は持たれない様にした方が良い。かと言ってあんまり関わり過ぎても、妙な争いとかに巻き込まれる可能性が高くなるので御免被りたい。という訳で、リュウの戦略としてはなんとか疑いを晴らしつつ誤魔化す方向に決定した。
「実は俺、自分でも自分がよくわからなくて……」
「なんだそりゃ?」
自分で言って非常になんだが、セリフだけを取ってみれば最高に痛いアレな人である。しかしリュウは挫けない。この際ある程度の痛さには目を瞑るしかないと納得の上だ。
「気が付いたらこの身体になってて……何か変な力があるのは確かなんだけど」
「ふむふむ」
「ナギなら色々知ってそうだし、もし良かったらどこかでこの力について調べて貰えないかな?」
かろうじて嘘を言わず、しかしどこかヤバげなアレな人。客観的に自分を見て、リュウは自分がナギの立場なら絶対に距離を起きたくなるだろうな、と思えるこの言い回しに内心で鳥肌が立っていた。ナギはリュウの言葉を吟味しているのか顎に手を当ててうむうむと悩んでいたが、すぐにリュウの目を見て口を開いた。
「なるほど、よくわかったぜ。俺で良ければその変な力とやらの解明手伝ってもいい」
「え? ……あー、ホント?」
「何だよその意外そうなツラは」
あっさりと承諾。まさかの方向に思考が進んだらしい。しかしまぁ信じたならそれはそれで。思ったよりあっけないと思ったリュウだが、これはきっと俺の日頃の行いがいいからだろう、と無理やり解釈する事にした。
「でもそうだなー、その変な力ってヤツを実際に見てみないことにはどうにもできないからなぁ……」
ニヤニヤと、何かイヤな笑みを浮かべて、ナギはリュウの反応をちらちらと伺うように見ている。リュウの脳裏に警報が鳴り響き、とてもデンジャラスな予感がヒタヒタとやってきていた。
「よし、大体その手の力は命の危機に反応するってのがパターンだからな、仕方ねぇから俺が軽く揉んでやるよ!」
力強い握り拳を作り、ムカツクほどの満面の笑みで、ナギはそう言った。
「はい!? いやいやいや待って待って何でそうなんの!? ナギに攻撃されたら俺死ぬよ!? メッチャ死ぬよ!?」
何を血迷ったか、ボコボコにしてやんよと言われて狼狽えるリュウ。どこをどうしたらそんな結論に達するというのか。もうとにかく逃げ出したい。
「だーから、死ぬ直前まで行きゃその変な力ってやつも表に出て来やすいだろ? 勘だけどな」
(勘かよ!)
リュウの中でナギの評価をむっちゃ強いお子様から単なるバトルマニアへと変更。自慢じゃないが、ドラグニールでの出来事を除きリュウはこれまでの人生で喧嘩どころか、人を殴った事すら無い。極めて平和に世の中を過ごしてきた一般人である。精々がゲームセンターのパンチングマシーンを殴った事がある程度だ。正直、冗談ではない。
「いやいやホントマジ無理だから。俺の負けでいいから。何なら宿代とかも持つから勘弁して」
「お、じゃーこうしよう。負けた方が勝った方の飯代と宿賃を払う。簡単だろ?」
ナギは人懐こさを感じさせる、キラリと輝くいい笑顔を浮かべていた。どれだけ食い下がっても決して引き下がろうとはしない事くらいは、僅かな間しか接していないリュウでもわかる。
(……こりゃダメだ……)
もうこのバトルマニアの中ではリュウと戦うことが決定事項であるらしい。目を付けられた時点でアウトだったのだ。判定は覆らず、逃げられない。じゃあもうとるべき手段は一つしかない。どうしてこうなるんだ。何たる理不尽か。
「……わかった。わかりましたよ。やればいいんだろコンチクショー!」
必殺、ヤケっぱちである。
「そうそう、初めからそう言やいいんだよ。んじゃ、広いとこ行こうぜ! いい場所知ってんだ」
そう言ってガタンと席を立ち、楽しそうに店を出て行くナギと、哀愁を背負い仕方なく着いていくリュウ。メシを食いに来たのに水飲んで騒いだだけである事を、心の中でゴメンなさいと店の人に告げ、リュウは意気揚々と歩くナギの背をとぼとぼ追いかけるのだった。
*
連れて来られた場所は地理的に言えばまほらの隅っこらしく、ちょうどうっすら周りの明りが届く程度でそこへ月明かりがいい感じに指している。広場としてはかなりの広さを誇り、ナギに言わせるとここまではギリギリで結界や監視の目も来ないそうだ。ちなみにボッシュは巻き込むと悪いので、さっきの店のとこで待機することになった。不死身だから居てもらってもいいのだが、リュウ的には何となく気が散るのだ。
「さて。それじゃあお前が必死になって隠そうとしてる、その“変な力”ってのを見せて貰おうじゃねーか」
「……あのさ、ひょっとしてバレバレだった?」
「ったりめーだろ。あんなしょぼい言い訳に騙されるやつなんているかってーの」
(んぬぅ……)
失礼だがナギは思ったよりも頭がいいのだろうか。それとも自分の演技が下手過ぎたのだろうか。とにかく色々悩んで捻り出した言い訳を、しょぼいと一言で切って捨てられりゃ腹も立つってなもんである。
「いいからホラ、早く見せろって!」
言われ、リュウは意識を自分の中へと集中させる。それと共に足元から火柱のようなオーラが噴出。足が大地から離れ、自分の中にあるスイッチを入れる!
「でぇぇぇぇやあぁぁぁぁぁぁ!!!」
火柱は激しい閃光と暴風に変わり、オーラがはじけ飛んで、ナギ待望の、人外の姿へとリュウは変わった。
「……どうなっても……知らねーぞ……!」
それまでとは一線を画す威圧感。ただじっと見られているだけの、殺気が篭ってないはずの視線ですら、強烈なプレッシャーとなってナギを襲う。つう、とナギの額から一筋の汗が流れ落ちた。
(こいつぁ……想像以上だな……!)
ナギはリュウの変身を見ながら、徐々に自分から余裕が消えているのがわかった。リュウが発する魔力でも気でもない力が、立ってるだけで嵐のように襲って来る。自分の目に狂いがなかったことを確信し、目の前の化け物と戦う事ができるという事に純粋に喜び、そして戸惑っていた。今まで全力を出して戦う事が出来た相手など数えるほどしかいない。目の前の相手は間違い無く、それまでの連中よりはるかに格上。倒せるのかどうか全くわからない。
(……いや、何を弱気になってやがるんだ)
わからなくても勝つ! 弱気になったら勝てるもんも勝てない!
ナギは自信と実績、そして自分の矜持とこれだけの強敵と戦える喜びを纏めて不敵な笑みへと変え、リュウを見据える。
(これで変身は4度目……。一応安定してる……かな)
今までの変身と比較し、リュウは自分の調子を確かめていた。暴走はする気配がなく、無理をしなければ恐らくは大丈夫だろう。飛行機の中でボッシュに聞いた今の自分の姿を、記憶の中にあるものと照合する。恐らく今のこの“龍の力”を引き出した姿の名は……“ドラゴナイズドフォーム”。
生半可な攻撃は効かない反則的な防御力に、圧倒的なパワーを誇る。加えてあの魔族たちと戦った時の経験から、魔法も使えるはずである。少し意外ではあったが、この場合はメリットのみなので問題はなさそうだ。
記憶のおかげで、この姿で自分が最低限“何が出来るのか”が把握できることは大きい。そんな風に自分の恐らくは持っているであろう手札を考えて、真剣な表情となったナギに同じく視線を返すリュウ。
(取り敢えず、こいつの鼻っ柱をへし折ってやる!)
そして両者は、自然と戦う姿勢を取った。
「行くぜ!」
先に動いたのはナギ。無詠唱の魔法の射手を数十本放ち、続いて右手に魔力を溜め、一足飛びでリュウへと正面から突っ込んでいく。武道会での動きよりも数段早い。あれでも手加減をしていたのだ。そして、リュウはしっかりとその動きを見ることができていた。
「効くかっ!」
ナギの突撃を見てリュウも背中の突起物……バーニアらしきものから光を全開にしての突撃で迎え撃つ。先行して襲ってくる魔法の射手に対して、リュウは真っ向から突っ込み何もしない。全弾、直撃。そしてその全てが弾かれ、全くの無傷だった。
「おらぁっ!」
「このぉっ!」
勢いのままに繰り出した、お互いの右拳同士がぶつかり合う。魔力と龍の力が音を立てて火花を散らし、だがパワーはリュウが上だ。そのままリュウは拳を押し切り、ナギに先制の一撃を当て————
「っく……ならっ!」
「!?」
だが一撃が入る寸前、ナギは慣性の法則を無視するように勢いを急停止させ、自ら力を抜き後ろに倒れこんだ。抵抗がいきなり無くなりバランスを崩したリュウヘ、下からかち上げるようなドロップキックを見舞って上空へと吹き飛ばす。咄嗟の判断力は流石に戦いの年季の違いか。そしてナギは吹っ飛んだリュウを見上げながら、懐からあんちょこを取り出そうとする。
しかし、
「くらえ、『レイギル!』」
吹き飛ばされたリュウが下方に向けて初めての魔法攻撃を発動。ナギの周囲の地面から無数のつららが生え、その小さな体を串刺しにするべく襲い掛かる。
「うおおっ!?」
しかし魔法は狙いが甘く、ナギに避ける隙を与えていた。即座にそこを見極めて瞬間移動ばりの移動術で避けるナギ。リュウとの距離が離れたところで改めて懐からあんちょこを取り出す。上空に漂うリュウに向けて不敵な笑みを浮かべながら、すかさず呪文の詠唱に入る。
「素人の割にゃ、まぁまぁやるじゃねぇか……!!」
リュウの一連の動きを見たナギには、どこか余裕のようなものが生まれていた。パワー、スピードは確かに凄いが、リュウにはほとんど戦いの経験がないという事に気付いたのだ。その事に気付かないリュウも両手をナギの方に向け、力の赴くまま、流れるままに龍の力をその掌に溜めていく。次に来るのは恐らく大魔法、ならばこちらもそれ相応の技を使って迎え撃つ。リュウが力を溜め終わるのと、ナギが詠唱を終えるのはほとんど同時だった。
「これならどうだ!【雷の暴風】!!」
ナギの杖を握り突き出した拳から、強大な雷のビームがリュウへと迫る。
「うおおおお!」
リュウが構えた両手から、龍の力を凝縮させた青白い熱線が溢れ出る。これぞドラゴナイズドフォームの必殺技、“D-ブレス”! 両者の中央で激しくぶつかり合う光線と光線。互いに色の違う力同士がせめぎあい、強烈な閃光が辺りを埋め尽くす。
「く……くっ……!!!」
「お……おおおっ!」
拮抗……ではない。ナギの放つ魔法のほうがリュウの放つ膨大な龍の力に抗いきれていない。徐々に上からの圧力に負け、雷が押されていく。
「くっくそっ……おわぁっ!?」
押し負けると悟ったナギは咄嗟に身を翻す。リュウの熱線D-ブレスは、容赦なく不抜けた雷の暴風を貫き地面へと着弾、激しく爆発。まるで戦闘機による爆撃でも起きたかのような炎上網の中、リュウは思ったよりも大きな疲労感にふうと一息つき、地面へと降り立った。
「……どうだろ、この辺で終わりにし……」
「……はっ、ふざけんな! これからだろーが。こんな程度じゃ俺は納得しねーぞ!」
爆風の余波を受け、ゴロゴロと転がっていたナギは即座に飛び起き、乱暴に言葉を投げ返す。まだまだ余裕はあるようだ。むしろ顔は一段と生き生きとしていきている。爆発の影響で服が所々焦げ付いてはいるものの、目の光は全く失われていない。早く戦いの続きを、と全身で表現している。
「よぅし、ちょっと不覚取っちまったが、こっから第2ラウンドだ」
「……」
リュウは溜息を、ナギは楽しそうな言葉を、二人とも吐くと同時に再び戦いの構えをとる。
「行くぜぇ!!」
「っ!!」
そして両者が再び大地を蹴ろうとした瞬間————
————二人目掛けて、突如何もない筈の虚空から、大量の魔力弾が打ち込まれた。
「なんだ!?」
「!?」
リュウは咄嗟に両手を前に組んでガードし、ナギも魔法障壁を張って防ぐ。不意打ちではあるが、それほどのダメージは両者共に受けていない。
「く……誰だ! いいとこで邪魔しやがって! 出てきやがれ!」
「何だよ今のは……っ」
ナギが何もない空間へ向かって叫び、リュウも辺りを警戒する。心当たりはない。だが数瞬前とは違う明らかに異質な空気が辺りに漂っている。自然と背中を合わせて警戒する二人の前で、先程リュウが作ったつららが爆発の余波で解けた水溜りから、ぬるりと……静かに白髪の少年が現れた。
「やぁ、また会ったね」
「!!」
リュウは覚えている。あの村で村長を殺し、石にしたユンナを砕き、自分も殺されかけた「フェイト」そっくりの少年だ。
「何だてめぇ! 今邪魔したのはてめぇか! どういうつもりだ!!」
叫ぶナギ。しかし相手の実力を感じ取っているのか杖を握る手に力が入り、先程より警戒度が増している。
「……そうだね。一応自己紹介しておこうか」
何かを考える素振りを一瞬だけ見せた白髪の少年はそう言うと、二人に向けてうやうやしく頭を下げてみせた。
「初めまして。僕はバルバロイ……以後、お見知り置きを」
「へっ、随分と礼儀正しいじゃねぇか。俺はナギ・スプリングフィールドってんだ。冥土の土産に覚えときな!」
つられて盛大に名乗るナギ。白髪の少年はさして興味のない風にその名乗りを聞き流し、リュウの方をじっと見つめていた。
「……」
「こっちは名乗ったんだ。そっちの君も、名前くらい教えてくれてもいいんじゃないのかい?」
正論と言えば正論だ。リュウとしてはこいつにあまり関わりたくないが、このままでは話も進まない。仕方なく、名乗る事にする。
「俺は……リュウ、だ」
「ふぅん。リュウ、ね。ま、早速で悪いけど、君達にはここで死んでもらうから」
「あんだとっ!?」
いきなりの宣言に二人の緊張が高まる。次の瞬間バルバロイがパチンと指を鳴らすと、それを合図に薪が弾けるような渇いた音が周囲に響く。リュウとナギの居る周りの“空間”に、まるでガラスのような無数のヒビが入った。
「な……!」
「!?」
何もないはずの空間そのものが砕け散ると、地上と上空……
ありとあらゆる地点から二人を取り囲むように、夥しい数の魔族の軍団が、二人を見つめていた。