バースロイルのときの話です。内容は、サムソンさんが退役の送迎会の祝宴ですね。
まあ、主役はサムソンさんなんで、ジントとラフィールの出番は控えめです。


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星界の戦旗ⅡとⅢの間の話です。
バースロイルのメンバーが揃うのは、最後なのかなという雰囲気を考えて、書きました。
どっちかというと、しみじみ系の話です。


この話は小説投稿サイト「アルカディア」様でも投稿連載しています。



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星界の風章「退役」

サムソン・ボルジュ=ティルサル・ティルースは、感慨深くバースロイルの艦橋の機器に触れていた。

 

「これで、軍人生活ともさよならか。星界軍に入ってから20年か。色々あったな。色んなやつが死んでいった……まあ、俺は生き残ったからには有意義な人生をこれからすごすか。」

 

一人、感傷に浸っていると、そこへ、少し頬をこけているが、それ以外は健康そうな茶色の瞳をした人のよさそうな青年が声をかけた。

 

「サムソンさん、ここにいたのですね。もう、祝宴会場の準備はできています。サムソンさんの退役記念の宴会ですよ。主役だから遅れないようにしてください」

 

 

「坊や。ちょっと、しんみりしていただけさ。それより、例の件は、了承してくれたかい。」

 

「ええ、僕のハイド伯爵家、初めての家臣にサムソンさんに任せます。だから、安心していいですよ。」

 

 

「そうか、わかった。まあ、ソバーシュ先任翔士やエクリュア次席翔士と会うのも、今回で最後になるかもしれないから、盛大にするか。」

 

 

サムソンとジントは、その後、宴会会場である帝都ラクファカールにある料亭<改進>に、向かった。そこには、つい最近までバースロイルの戦友として戦ったサムソン以外の4人の翔士があつまっていた。

 

 

 

エクリュア、ソバーシュ、ラフィールはすでに席に座っていて、サムソンが主賓の席をつくのを待っていた。

 

 

「では、主役もきたことですし、そろそろはじめますか。殿下、次席翔士、ハイド伯爵閣下、杯を持ってください。」

 

幹事役であるソバーシュは、乾杯の音頭をとりはじめた。

 

 

「サムソン監督の退役記念と今後の人生の幸福に乾杯!」

 

「乾杯」

 

 

バースロイルの翔士だった5人は、艦橋で過ごした日々や戦闘時での互いの様子などを一人の例外をのぞいて、楽しく語っていた。その約1名は、酒精を少しずつ飲みながら、無表情に他の翔士の様子を見ていたが、酒精の影響で頬をほんのり赤らめながら、一人の地上世界の青年に徐々に視線が集中していった。

 

 

ふいに、空色の髪と瞳を持つ少女のエクリュアは、つぶやくようにいった。

 

「リン書記、監督と一緒に仕事をするの?」

 

「まあ、そういうことだね。とりあえず、領地が安定するまで、僕のハイド伯爵家の家臣をすることにしたよ。それがどうしたの?」

 

「別に……」そういって、沈黙するエクリュア

 

「エクリュア後衛翔士、俺が坊やの家に仕事をすることは、気になるかい?」

サムソンは、杯を持ちながら楽しそうに聞いた。

 

 

「猫を料理するの?」

 

 

それを聞いた瞬間、ラフィールとジントは同時に食べ物をのどにつまらせて、咳をしていた。

 

 

「ゴホゴホ、そなた、まさか、ディアーホを食べるのか?」

その黒瑪瑙の瞳には詰問の色をこめてラフィールは言った。

 

 

「ゴホ、エクリュア次席翔士、サムソンさんは、そんなことしないよ。だから、安心してよ。」

喉を抑えながらもジントはつぶやいた。

 

 

「おやおや、次席翔士は、猫が嫌いだったのではないのかい。ソバーシュ先任翔士から、聞きましたぜ。だから、別に嫌いな猫を料理したところで、問題はないでしょう。」

わざとらしく言うサムソン

 

 

「猫は、嫌い。でも、猫を食べるのはもっと、嫌い。」

その空色の瞳には明らかに敵意を表していた。

 

 

「サムソン監督、次席翔士をからかうのは、そこまでにしたらどうだい。彼女もご機嫌をそこねているみたいだし。」

楽しそうにいうソバーシュ

 

 

「そうですか、次席翔士。大丈夫、友人であり、主君でもある坊やの猫は食べないさ。そこまで、飢えていない。でも、まあ…給料が俺を飢えさせるほど少なくなったら……急にルティモンドが食いたくなるかもな。」

 

 

「サムソンさん、大丈夫ですよ。給料はきちんと出しますから。こうみえても、諸侯なんですから。」

 

 

「それは、失礼しました。領主閣下。」慇懃に腰を低くして、深々と頭をさげるサムソン

 

 

「クス…。そうか、ジントも家臣を持つようになったのか。」

そのやりとりにラフィールは笑みをうかべた。

 

 

「ラフィール、何がおかしいのかい。僕だって好きでなったわけじゃないことは、君は知っているじゃないか。」

 

 

「いや、諸侯には、見えないからな。威厳というものがまったく、感じられぬ。」

はっきり言うラフィール

 

 

「それは、そうだけど、しかたないじゃないか。サムソンさんも何か言ってくださいよ。」

 

 

「ええ、俺が?いやあ、アブリアルに意見をするなど、恐れ多くて、何も言えませんですぜ。そうだ、ソバーシュ先任翔士、我が主君の擁護をお願いします。」

 

 

「監督、この話題を私にふるのかい?しょうがないな。殿下、ハイド伯爵閣下は、今は殿下の恋人としては、風格も威厳もないかもしれませんけど、殿下の力次第では、それも自然に身につけるでしょう。」

人生の先輩らしくもっともらしくソバーシュは言った。

 

 

それを聞いた瞬間、ラフィールは顔を赤らめながら否定した。

 

「別にジントとは・・・・・・そんな関係ではない。」

最後はラフィールらしからぬ小声でつぶやくようにいった。

 

 

ジントは思わず大きなため息をついた。

 

「まあ、その話は別にして、先任翔士飲みましょうや。今日は俺の退役の祝宴でしょう。たっぷり、のませていだきますぜ。」

そういいながら、サムソンは、話題を変えるように杯をあけて、ソバーシュの手元に置いた。

 

 

「まあ、無礼講ということで、たまには、俺の話もいましょうか。まあ、つまらないと思いますが、艦長やリン主計後衛翔士には、聞いてももらいたいですぜ。」

 

 

「そうですか、わかりました。どんな話なのです。」興味深くたずねるジント

 

 

「俺の昔の恋人の話さ。とはいっても、4年前につきあった女だから、そんな昔でもないか。」

しみじみと言うサムソン

 

 

「そう・・・・・・・・」

それまで、一同の話にまるで関心のなかったようなエクリュアまでがサムソンに注目した。

 

 

その一同の注目に気をよくしたサムソンはほろ酔い加減で語り始めた。少し瞳に憂いの影をさしながら・・・・・・

 

 

 

サムソン・ボルジュ=ティルサル・ティルース軍匠後衛翔士ではなく、サムソン・ティルース副従士長だったころ、彼は、軍匠科に所属することになっていた。

サムソンは、それまで、いくつかの星界軍の兵科に渡り歩いていたが、ようやく、彼にとって、落ち着く兵科が見つかったところだった。その中には、星界軍の情報局の地上部隊に所属していたこともあったが、それは、彼の若い頃の遍歴の一つであった。

 

その頃のサムソンは、突撃艦の軍匠科の副従士長をつとめていた。訓練や技術指導の役割ばかりで、すでに真空宇宙に飛び出して10年以上をたつ彼にとっては、その仕事もすぐに対応できるものであり、退屈な気分を持たせるものになっていた。

そして、その中で彼がもっとも、退屈を紛らわせる方法は、恋愛であった。もっとも、星界軍では恋愛に関しての禁止条項はなかったので、自由にのびのびとすることができた。そして、今回は、向こうの方から退屈を解消できるものがやってきた。

サムソンの端末腕環に一通の通信文が入っていた。突撃艦の従士区画の会議室に呼び出されていた。

 

名前を呼び上げたとき、少し意外に思った。差出人は一応、面識はあるのだが、それほど、親しい関係ではなかったからである。サムソンは、とりあえず、呼び出された場所へ向かった。

 

 

「サムソン副従士長・・・・・・・・・きてくださって、ありがとうございます・・・・・・それで・・・・・・・その・・・・・・・あの・・・・・」

金髪に紺碧色の瞳の美少女は、顔をうつむかせて、恥ずかしそうにつぶやいた。

 

その美少女の顔をやわらかい表情で見つめながら、サムソンは彼女の言葉を待った。

 

 

「あなたが好きです。私、レーシャ・メリシアとつきあってください。」

 

それが、サムソン・ティルースとレーシャ・メリシアとの出会いだった。

レーシャ・メリシアは、当時、18歳の司厨従士であり、かわった料理にこだわるという評判だった。そして、サムソンがミッドクグラット出身ということを聞いたとき、彼に興味を持ったのである。最初は、話し掛けることができなかったが、彼を目で追ううちに自然と気になり、ついには、好きになってしまったのである。

サムソンもその話を聞いたとき、驚きとともにうれしさがあった。彼の付き合ってきた女性の中で別れた原因の大半が食生活に関することであった。その問題を告白するときが、これまでの恋愛経験でもっとも、困難だと感じていたのだが、その障害自身が逆に好意的にとらえてもらえることは、彼にとってうれしいことであった。

 

5年後、サムソンは、これまでつきあった女性ともっとも長く付き合い、自分との相性もばっちりだと思い、地上世界的に言う結婚を申し込もうと考えていた。

そのとき、彼にとって、忌まわしい戦争がはじまった。

 

帝国暦952年、帝都防衛戦、サムソンは突撃艦の軍匠科の従士長をつとめていた。彼女の恋人であるメリシアは、輸送艦の司厨従士長でサムソンとは別の艦隊に所属していた。

 

 

 

「ティルース、どうやら戦争になりそうね。」

その紺碧色の瞳には憂いの色が帯びていた。

 

「そうだな。まったくだ。まさか、戦争になるとは・・・・・とりあえず、できることをやるだけさ。」通信越しの恋人をいとおしそうにサムソンは見つめた。

 

二人は、戦争という現実の深刻さを感じながら画面越しに心の中で強く想っていた。生きていてほしいと・・・・・。

 

 

「ティルース、ねえ、この戦闘が終わって、落ち着いたら私と一緒に退役しない。二人でミッドグラットの料理店というのはどう?」

 

 

「メリシアがかい?10年は早い・・・・でも、まあ、君より半人前の連中が店を構えているこのご時世だ。やってみても、面白かもな。」

 

「なら、今度会ったら、私の自信作を食べさせてあげるわ。アーヴ猫のルティモンド。いい、この料理は、他の人には秘密よ。場合によっては、怒る人もいるから。」

悪戯っ子の笑みでメリシアは答えた。

 

 

「ああ、わかったよ。楽しみにしている・・・・・それじゃあ。」

 

「うん・・・・・また・・・・・」

 

 

これが二人にとって、最後の会話であった。サムソンは、この帝都防衛戦の後、軍匠列翼翔士に昇進した。恋人の戦死を聞いた後の昇進であった。

 

 

 

その話をサムソンがしみじみと言ったとき、バースロイルのメンバーだった四人とも、ただ、彼を黙って見つめるだけしかできなかった。

そして、半分ほど硝子杯に入った蒸留酒を一気に飲み上げると、ジントとラフィールに視線を戻してつぶやいた。

 

 

「坊や、殿下、俺から一言言わせてもらいますぜ。人生って言うのは、いつ大切なものを失うかもしれない。ましてや、俺は退役したけど、二人とも死が間近にある仕事だ。想いは秘めておくのではなく、伝えるべきときに伝える。でないと、俺のように後悔しますぜ。俺は、最後の瞬間、もう一言伝えたかった・・・・・・愛している。ただ、それだけだけど・・・・。」

 

「サムソンさん・・・・・」

 

「サムソン監督・・・・」

 

サムソンが再び、自分の杯を持つと、それに黙ってソバーシュは酒をつぎこんでいった。

そして、ソバーシュはわかった。アプティック門防衛戦のときに1年に1度、彼が自分に許す贅沢といって酒をいつも以上に飲んでいた日があったが、その日は彼女の昔の恋人だった命日であったということを。

 

「どうやら、少ししんみりしたみたいだね。監督、今度は、私が交易でおきたちょっと、面白い話をしましょう。ためになるとは、思わないですけどね。」

 

その後、ソバーシュはジントやラフィール、エクリュアが興味をもつような話をユーモアを交えて話した。そのときには、サムソンもこの宴会を楽しむように再び、上機嫌で語り始めたのであった。

 

 

 

結局、サムソンは酔いつぶれるまでその日飲み続けて、最後はソバーシュが彼を抱えて、宿泊施設の方へ運んでいった。

 

「サムソン監督・・・・君は強いね・・・・・。いや、強くなければならなかったのか・・・・・。もし、生きていたら、また、会おう。今度こそ、例の酒を手に入れるよ。」

ソバーシュは、ベッドにサムソンをおろしてから小さな声でつぶやいた。それは、サムソンが下りた戦場という世界のソバーシュにとっては、真に重みのあることばであり、現実的なものであった。

 

 

 

ラフィールとジントは、クリューヴ王宮へ向かう交通艇の中でサムソンの言葉を意識していた。

 

 

「ジント」

 

「なんだい、ラフィール。」

 

「そなた、私の目の前以外で死ぬのはやめるがよい。」

 

「・・・・・わかったよ。約束はできないけど、努力はするよ。」

 

「そうか・・・・・そなたに感謝を(生きていてくれたことに)」

真剣にジントを見つめるラフィール。

 

 

「ラフィール・・・・・?」

 

「いや、なんでもない。それより、もうすぐ私の王宮だ。ジント、しっかりとつかまっているがよい。」

 

 

二人をのせた交通艇は恒星アブリアルの光を受けながらクリューヴ王宮へバースロイルを卒業した後の二人の居場所として向かっていたのであった。

 

 

 

 

 




星界の戦旗のバースロイル時代の雰囲気を少しは出せたかなと思います。
個人的思ったことですけど、サムソンさんは本当にいいキャラです。
今後もジントとラフィールの間をうまくつないでくれるに違いありません。
これからも彼が出番が増えるように書いていきたいです。

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