THE BLUE DESTINY AFTER ユウ・カジマ戦記   作:ラナ・テスタメント

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第一話「ユウ・カジマ」

 

 一年戦争。またはジオン独立戦争と呼ばれた戦争。

 長い歴史を持つ人類史の中で、最も人が人を殺した戦争である。地球連邦軍とジオン公国。その戦いは熾烈を極め、かのア・バオアクー戦にて終結した。

 その中で多大な戦果を上げた部隊として真っ先に挙げられるのは第13独立機動部隊ホワイトベース隊だろう。RX78-2ガンダム、そしてアムロ・レイは激戦の中を駆け抜け、生き残った。

 その戦いぶりは後に地球連邦軍自身が恐怖を覚え、彼等を軟禁、冷遇するまでになる。人々の間で恐らく最も知られた英雄と言えよう。

 だが……一年戦争は彼等だけの物語では無かった。この世界大戦は様々なドラマを各地でまた生んだのである。

 その一つに蒼の物語があった。正史から抹殺された、EXAMと言うシステムを巡る戦い。対ニュータイプ用”抹殺”システムであるEXAMとそれに囚われた一人の少女、そして二人のパイロットの戦いだ。

 マリオン・ウェルチ、ニムバス・シュターゼン、そして……ユウ・カジマ。

 EXAMを搭載したMS、ブルーディスティニー同士の決戦の末、ニムバスは倒れ、マリオンは解放され、ユウは生き残った。そして間もなく一年戦争は終戦を迎える。

 蒼の物語は終わったのだ――だが、彼等が終わった訳では無い。そう、彼等はまだ生きているのだから。

 一年戦争終結から三年、宇宙世紀0083。蒼の物語では無い、しかし確かに彼等の物語は正しき歴史から外れ、ここに始まる。

 

 

 

 

 ――地球連邦軍、オーストラリア、トリントン基地――。

 

「ようこそ、トリントン基地へ。私はホーキンズ・マーネリ、この基地の司令だ。……君の話しは聞いている。災難だったようだな。ユウ・カジマ”大尉”」

「いえ、あれは自分の責任です」

 

 トリントン基地司令、ホーキンズ・マーネリは、緊張もせずこちらに背を伸ばし、後ろ手に回したユウ・カジマの言葉にフムと頷く。

 話しには聞いていたが、成る程、寡黙な青年である。確か26歳だったか。

 パイロットとしても兵士としても、最も脂が乗った最高の状態だろう。話しに聞くキャリフォルニアベースの戦いも、目を剥く戦果だったと聞く。最も……殆どの記録は抹消されていたが。

 そんな彼だからこそ、アレのテストパイロットに選ばれたとも言えた。

 

「君は今日からこのトリントン基地に配属となる。しかるに……ある機体を任せる事になるだろう」

「テストパイロットの件は聞いています」

「ウム……曰くの機体でな。ガンダム、と言えば分かるか?」

「はい」

 

 即座に頷くユウにマーネリーは苦笑する。それはそうだろう。連邦においてガンダムを知らない者はいない。もっと言えば、ジオンにも。

 

「知らぬ訳が無いか。先の一年戦争で、我が連邦の象徴ともなった機体だ。この度、新型ガンダム二機がトリントン基地に運び込まれる事になる」

「では、自分がそれに?」

「いや」

 

 首を横に振り、マーネリーは資料をユウに差し出す。機密故に事前の情報を彼に渡していなかったのだ。今、初めて彼は自分が乗る機体の情報を見る事になる。

 

「……これは」

「なんでも君は、かのNTパイロット、アムロ・レイをシミュレーター上とは言え撃破した事があるそうだな」

「シミュレーターでの話しです」

「そうだ。だが、だからこそ彼以外では君にしかそれは使いこなせんだろう。実を言うとな……一年戦争末に、それは完成しておったのだ。だが、ジオンの抵抗にあい、中破されてしまった」

 

 マーネリーの言葉を聞きながら、ユウは資料を流し目で読む。そこには信じがたいスペックが記載されていた。これを自分が扱うのか、と。

 そんなユウの反応を見計らってマーネリーは立ち上がると、肩に手を置いた。

 

「君に任せたい。修復されたガンダムNT-1……アレックスを」

 

 

 

 

 着任挨拶を済ませ、司令室を出るとユウ・カジマは一つ息を吐いた。あの戦いから三年……もう三年なのか、まだ三年なのか。ユウには分からない。

 あの戦いで全てが終わったと思っていた。だが、まだ軍に居ると言う事はきっと違うと自分でも分かっていると言う事なのだろう。

 

 ガンダム……。

 

 無表情にユウは資料に目を落とし、首を振る。まさかまたこの名を関する機体に乗る事になるとは。

 ガンダム・ブルーディスティニー三号機。EXAM搭載機であった機体だ。だが三号機はニムバスに奪われた二号機との激戦の末、大破している。名実共に、もうこの世に存在しない筈の機体だ。

 ユウ自身二度もガンダムに乗る事は無いと思っていたが……神様は余程気まぐれらしい。またガンダムと巡り会う事になるとは。

 

 しかし、これが一年戦争中に? アルフ・カムラでもあるまいに……。

 

 資料に記載されたアレックスのスペックにユウは頭痛を覚えそうになる。

 ガンダムNT-1/アレックス。

 型式番号RX-78NT-1。

 頭頂高18.0m。

 本体重量40.0t。

 全備重量72.5t。

 装甲材質ルナ・チタニウム合金。

 出力1,420kW。

 推力計174,000kg。

 35,000kg×2。

 7,000kg×2。

 8,000kg×6。

 センサー有効半径5,900m。

 武装60mmバルカン砲×2。

 90mmガトリング砲×2。 ビームサーベル×2。

 ビームライフル。

 ハイパーバズーカ。

 

 並ぶ数字に目眩を覚えそうになる。ブルーディスティニー一号機のスペックをアルフから聞かされた時も唖然としたが、これはその比では無い。しかもブルー同様にマグネットコーティングを施されているとの事であった。もし、アムロ・レイにこれが届いていればガンダム伝説は更に揺るぎないものになったであろう事は想像に難くない。

 しかし、完成直後にジオン工作員のMSにより中破、とある。具体的な事は何も書いていないが、それを成したジオンパイロットはどのような恐ろしい乗り手であったのか。

 

 ジオンパイロットは連邦に比べ技量がまだまだ上と言う事か……。

 

 一人頷き、ユウは指定された格納庫に向かう。このトリントン基地は核貯蔵庫も存在しており、最精鋭の基地だ。今や試作機の見本市だとも聞く。

 ちらりと見たが、先程鹵獲したであろうザク三機と試作機と思しきジムの改良型が出ていっていた。

 演習も兼ねてデータ収集を行うつもりなのだろう。もうじきガンダム二機も重力下機動テストの為届くと聞く。アレックスと自分も明日からそれに加わるのだ――。

 

 ……いや、明日まで待つ事も無いか。

 

 そう思いながら歩いていくと、いつの間にか目的な場所についていた。トリントン基地、格納庫。機密の為か、通常のMS格納庫とは別の場所らしい。MSハンガーも一つしかなく、そこに青と白のMSがあった。

 

 ガンダム……。

 

 見上げる先にあるのは間違い無くガンダムだった。ガンダムNT-1/アレックス。ユウの胸中に苦いものが込み上げる。それは蒼の記憶だった。

 

「あら?」

 

 声が聞こえ、ユウは振り向く。そこには赤茶の髪の女性が居た。一目で分かる美人である。おっとりとした印象を受けるが、目には強い意思を感じた。

 彼女はタラップを降りてこちらに歩み寄って来ると訝し気に見て来た。

 

「あの、もしかして」

「ユウ・カジマ。本日、テストパイロットとしてこの基地に配属となりました」

「ああ、やっぱり! 申し訳ありません。今日、着任と聞いてはいたのですが」

「いえ。それより君は?」

「あ、やだ私ったら……クリスチーナ・マッケンジー中尉です。ユウ・カジマ……大尉、ですよね」

「ええ」

 

 手を差し出すクリスチーナに、ユウは握手して頷く。すぐに離し、再びアレックスを見上げる。それに倣って彼女も機体に目を移した。

 

「この機体は、君が?」

「いえ。私はこの機体の修復に関わっています……その、元テストパイロットでして」

「元?」

「はい。三年前はこれのシューフィッターをしていました」

 

 シューフィッター。個々の機体調整を行うパイロットの事である。つまり三年前にアレックスを中破させてしまったのは彼女と言う事か。ユウはそれに関しては何も聞かず、渡された資料を彼女へ差し出す。

 

「とんでもない機体ですね。スペックを見ただけでも化け物ぶりが良く分かる」

「実機はもっととんでも無いですよ。私は、振り回されっぱなしでした」

「マッケンジー中尉は、今もこの機体に?」

「クリスでいいですよ。敬語も結構です。それで……今は乗ってません。その、怖くて」

「ユウ」

「え?」

 

 一瞬表情を暗くしたクリスが、びっくりした顔をする。それに構わず、ユウは告げた。

 

「俺の事もユウで構わない。元同じ部隊の中尉の奴らもそう呼ぶし、敬語も使わないから」

「え、でも」

「もちろん職務中以外ではだ。それ以外で敬語はいらない」

 

 ぽかんとしたクリスはしばらくそうして、やがてくすっと微笑んだ。そして頷く。

 

「では普段はユウと呼ばせて貰います」

「ああ。敬語もいらないが?」

「いえ、年上の方に敬語抜きはちょっと」

「……年上?」

 

 一瞬何の事を言っるか分からないといった表情のユウにクリスはムっとする。それに彼は少したじろいだ。

 

「……私、23歳なんですが」

「そうだったのか。すまない、てっきり年上かと」

 

 クリスが老けていると言う訳では無い。ただ、雰囲気がお姉さんと呼ぶべきものであったと思っただけである。しかし、歯に絹を着せないユウをクリスはジト目で睨んだ。

 

「ユウ大尉? 私は23歳ですからね。大尉の3歳年下です! 間違え無いようにお願いします!」

「ああ、注意する」

 

 全く反省した様子はその無愛想な顔からは分からない。クリスははぁとため息を吐くと、諦めたようにアレックスへ再び目を向けた。

 

「気をつけて下さい。この機体はコクピットの仕様から何から何まで今までの機体とは違います」

「そのようだ。心しておこう」

「不安、ですか?」

 

 ちらりとこちらを見て聞いてくるクリスに、ユウは首を横に振る。そして珍しく苦笑を見せた。それは様々な想いをないまぜにしたものだった。

 

「いや……こういった機体には慣れている」

「慣れて?」

「ああ。さて、マッケンジー中尉。早速この機体を試してみたいのだが」

「ええ!? 今から、ですか?」

「ああ。今からだ」

 

 本日何度目かになるクリスの驚きには全く構わず、ユウは頷いたのであった。

 

 

 

 

 これは、想像以上の難物だな……。

 

 アレックスのコクピットでユウはぐっと息を飲む。総推力174,000kgは伊達では無く、ブルーの時以上のGに身体が軋む。

 現在、トリントン基地から離れ、試作ジムと鹵獲ザクの演習を行っている現場にテスト機動を兼ねて向かっている最中なのだが、スラスターの凄まじい加速に意識が持っていかれそうになるのをユウは耐えた。

 コロニー落としの残骸がそこらに散らばる中(残骸と言ってもそれ一つだけでとんでもない大きさなのだが)、それを足場に更に跳躍する。

 全天周囲モニターと、その中に浮かぶリニアシートは、思った以上にユウに戸惑いを与えた。だが、このミノフスキー全盛の時代、この全周囲を見渡せるコクピットは革新的である。実際、MS戦で最も恐ろしいのは背後を取られた時だ。レーダーが効かないのだから、後ろが分かる訳が無い。

 最も、それを物ともしないパイロットがいるのもまた事実だが。

 

 しかも、この機体……反応が鋭過ぎる。流石NT専用として作られた事はある、か。

 

 ジムの感覚で乗ろうとすると操縦感覚が段違い過ぎて逆に恐ろしい程だ。クリスが怖いと表現したのもむべなるかな。これは並どころかエース級のパイロットでも扱い切れるか怪しいものである。ユウもブルーの経験が無ければ、どうなっていたか分かったものでは無かった。

 高層ビルにも匹敵するコロニーの残骸を蹴って、ユウはフットペダルを押し込む。すると余りある推力任せにアレックスは空高くに飛び上がった。そのまま一気に上昇し、放物線を描いて着地する。

 凄まじいGと衝撃で息を詰まらせながらも、ユウは危なげなくアレックスを直立させた。と、そこで通信が入る。クリスだ。

 現在、急にではあるがテスト機動も兼ねている為、彼女がデータ収集と管制を任されていた。

 

『ユウ大尉、凄いです! 初めてアレックスに乗って、こんなに!』

「慣れていると言ったろう。それにまだリミッターが掛かっている」

 

 褒められるような事じゃないと苦笑して、ユウは機体の端末を弄り、調整を行う。現場で調整を施すのはテストパイロットとして珍しくは無い。最も自分の場合、どうしてもピーキーな調整をしてしまうのだが。

 

 これもブルーの毒かもしれないな……。

 

 ぽつりと一人ごち、ユウは機動データを見ると眉を潜める。クリスは褒めたが、やはり振り回されている。アレックスにはまだ余裕がある証拠だ。

 

「限界機動まで試したいが……もう演習場所か」

『はい。どうするんですか?』

「現場指揮官がいる筈だ、繋いでくれ」

 

 クリスに頼み、やがて通信が繋がる。ユウはパイロットスーツのヘルメットを外し、敬礼した。

 

『む……君は?』

「ハッ。本日トリントン基地に配属となりました。ユウ・カジマ大尉です」

『ああ、例のか。サウス・バニング大尉だ。早速だが、何用だ。こっちは演習中なのだが』

 

 金髪の壮年の男性がモニターの向こうで厳しい目を向けて来る。サウス・バニング。いかにも歴戦の士官だ。ユウは頷き、敬礼を解いた。

 

「その演習にアレックスで加わりたいのです」

『……何だと? その機体は機密の筈だが?』

「基地司令に許可は取ってあります」

『む……』

 

 すぐに確認したのかバニングは目を巡らせる。恐らく通信管制からだ。ため息を吐いて、ユウを睨めつける。

 

『大尉。こう言うのは先に、こちらに連絡が欲しいところだ。正直な所、迷惑な話しなのだ』

「申し訳ありません」

『……ともあれ了解だ。今から、アレックスの演習を許可する。現在、試作機パワード・ジムの挙動データを収集しつつ新人テストパイロット達のザクと模擬戦中だ。演習用ペイント弾は持っているか?』

「用意してあります」

『準備は万全と言う事か。推進剤の補給はしてやれんぞ。切れたら歩いて帰ってもらう』

「了解です。では」

 

 バニングに再び敬礼し、通信を切る。そして全天周囲モニターに映るMSに目を向けた。ジムの試作機が一機、ザクが三機。それを確認し、スラスターを吹かせた。

 

「クリス中尉、データ収集は任せる」

『はい!』

「では……仕掛ける!」

 

 言うなり、アレックスはその推力に物言わせ、演習場へと飛翔したのだった。

 

 

(第二話に続く)

 

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