THE BLUE DESTINY AFTER ユウ・カジマ戦記   作:ラナ・テスタメント

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第二話「ガンダムNT-1/アレックス」

 

「バニング大尉、それは本当ですか?」

 

 パワードジムのコクピットで、ディック・アレン中尉は目を見開いた。それは、あまりに突拍子も無い事を告げられたから。

 モニターの向こうで、テストパイロット部隊隊長のサウス・バニング大尉が頷く。

 

『そうだ、アレン中尉。この模擬戦に参加したいと先方が言って来てな』

「キースの馬鹿野郎が埋まったままですが……こちらは三機ですよ? いいんですか?」

 

 先程の模擬戦の最中、新人テストパイロットのチャック・キースが搭乗機の鹵獲ザクⅡをコロニーの残骸に埋もれさせてしまったのである。奴はあとで説教とペナルティーだなと確信しつつも、アレンは機体のチェックを行う。

 自分が搭乗しているパワードジムは追加ブースターを搭載しており、このテストを行っていた所なのだ。何でも新型ガンダム用試作ブースターとの事だが、結果は上々。新人三人のザクでは相手にならず、まだ限界推力を出し切るまで至っていない状態である。

 

 推進剤はまだ余裕があるか……後はひよっこ共のザクだが。

 

 模擬戦を中断し、隣で待機する二機のザクを横目で見る。ラバン・カークス、そしてコウ・ウラキのザクだ。こちらのパワードジムと相手取っただけあり、推進剤もかなり消耗している筈だった。

 唐突な中断に怪訝そうに戸惑いの動きを見せる二機に、アレンは通信を繋げる。

 

「カークス、ウラキ、推進剤はまだあるか?」

『こちらカークス。推進剤はもう三分の一しか残ってません』

『ウラキです。推進剤の残量、残り半分です』

 

 カークスの野郎、ぶん回し過ぎだと舌打ちしつつ、アレンはウラキの推進剤残量に称賛の笑みを浮かべた。自分に追い付こうと結構飛ばさせた筈なのだが……中々やりやがると頷く。

 

「いいか。今からこの模擬戦にお客様がご到着との事だ。三対一で構わんから盛大にお出迎えしてやれ」

『ど、どう言う事でありますか! アレン中尉!?』

「さぁな。バニング大尉からの命令だ。まぁ、こいつの限界推力も試して無い事だし、ちょうどいいっちゃちょうどいい。お前ら相手じゃそこまで持っていくのも一苦労だしな」

 

 アレンの軽口に、カークス、ウラキ共にむっとした表情となる。だがそれも無理はあるまい。先程は三対一にも関わらず、アレンのパワードジムに手も足も出なかったのだから。

 そんな新人二人にニヤリと笑ってやりながら頭上を見る。二百m程向こうにあるコロニーの残骸から一機のMSが飛び上がったのを確認したからだ。

 意外に離れてやがるな……と思ったのも束の間、アレンは愕然とする。その加速と推力があまりに常識外れだったからだ。まさか、一回のジャンプでここに来る気か。

 

「おいおい、どんな化け物だ!」

『来ます!』

 

 ウラキが叫んだ瞬間、ソレは自分達の前に降り立った。砂埃を上げ、衝撃を撒き散らしながら着地する。ツインアイの光が埃を貫いてこちらを見据えていた。

 そして砂埃が収まった先に一つのMSが轟然と立ち塞がる。青と白のカラーに特徴的なV字アンテナ。ツインアイに、一目見たら忘れもしないだろうマスク。これは……!

 

『が、ガンダム!?』

『嘘だろ……本物!?』

 

 新人二名が声を上げる中、アレンは口の中の唾を飲んだ。騒ぎたいのはアレンとて一緒だ。何せ、あのガンダムである。一年戦争を終結に導いた、伝説のMS。それが目の前に居るのだから。

 

 何でこんな所にガンダムが……!?

 

 テストパイロット三人は奇しくも全く同じ感想を抱く。そんな彼等へと通信を知らせるアラームが鳴った。慌てて繋げる。

 

『本日トリントン基地へ配属となったユウ・カジマ大尉だ。急な申し出に応えて貰い、感謝する』

「ハッ! ディック・アレン中尉であります! 大尉殿……であられますか?」

『ああ。このMSのテストパイロットを任せられた。ついては模擬戦に加わらせて貰いたい。良いかな?』

「もちろんであります大尉殿!」

『助かる。遠慮は無用だ。君達も、その積もりで頼む』

『『は、りょ、了解であります!』』

 

 新人二人が綺麗にハモる。それに果てしない頭痛を覚えながら、アレンは無理も無いと苦笑する。まさかガンダムと戦えようとは。もし、この模擬戦で結果を出せれば、新型ガンダムのパイロット候補に王手だ。この機会を逃す訳にはいかない。それに、この無礼な新任大尉に目にもの見せてやりたいと言うのもある。

 落ち着けと自分に言い聞かせ、新人二人へと通信で怒鳴る。

 

「いいか、お前達! 大尉殿もああおっしゃられている! 一発食らわせてやれ!」

『了解!』

 

 二機のザクからの通信に頷くと、開始の合図も待たずにアレンはパワードジムのフットペダルを大きく踏み込んだのだった。

 

 

 

 

 いきなりか。だが、そうでなくてはな。

 

 突っ込んで来たパワードジムに、ユウはコントロールスティックを滑らかに操作し、フットペダルを軽快に踏む。

 すると、アレックスの脚部アポジモーター、肩部スラスターに火が灯り、機体が滑るように動き出した。直後にパワードジムがブルパップマシンガンの銃口を向けて、射撃して来る。ペイント弾だ。

 しかし飛来して来るカラーの弾丸を危なげ無くアレックスは回避する。相変わらず反応が恐ろしく鋭い。少しの挙動にもこの機体は追従して来る。

 フルオートで連射されるペイント弾をユウのアレックスは回避しながら機体データに目を通した。

 

 まだまだ限界推力には余裕があるか。

 

 つまりまだ速く動けると言う事だ。向こうのパワードジムも、ジムとは思え無い程の機動性で追い掛けて来るがこちらは倍以上の推力があるのだから。

 

『く、当たらない……!』

「今度はこちらからだ」

『うぉっ!?』

 

 アレックスの手にある――こちらもブルパップマシンガン――をユウは構えさせ、単射。機動を見切った鼻先に置くようにペイント弾を放つ。何とか回避するもパワードジムはもろに体勢を崩した。

 しかしユウはあえて追撃を掛けず、アレックスのスラスターを吹かせ、横っ飛びに跳ね上がらせる。そこをペイント弾が通過した。

 ザクからの援護射撃である。二機のザクは教科書通りに射撃し、こちらをパワードジムから引き離そうとする。だが。

 

 射撃の途中に止まるな。MS戦だぞ。

 

 内心でそう忠告し、回避運動をアレックスに取らせながら射撃する。それは正確にザクの肩部シールドと頭部に命中した。

 たじろぐザク二機に、一気にアレックスが襲い掛かる。スラスターを全開にして飛び上がらせ、頭上から雨霰とペイント弾を浴びせる。そこでようやくザク二機はスラスターを吹かせ、飛びのいた。いくつか被弾しているが、あえて撃墜扱いはしない。

 全天周囲モニターは期待通りの視界をユウに与える。背後でパワードジムがようやく起き上がり、スラスターを吹かせていたのだ。

 

『この……スカし野郎が!』

 

 アレンは悪態をつくなり、ペイント弾を浴びせて来る。それを回避しながら一気にスラスターを吹かせ、飛び上がった。パワードジムもそれに続く。

 

 限界推力まで……行けるか?

 

 ぐんっとGが掛かり、アレックスが加速する。パワードジムを容赦無く置き去りにしながらだ。推力の差は、そのまま滞空時間に繋がる。パワードジムのスラスターが力尽き、地面へと落着して行く。そして着地を狙って射撃。ペイント弾がパワードジムのバックパックへと着弾する。

 

『く……!』

「撃破だ。中尉――」

 

 と、こちらも着地しようとした所で背後に気配を感じた。振り返ると、そこにはザクがこちらへと飛びつきながらマシンガンを構えている。まさか、追い付いて来たのか。

 限界推力を出していないとは言え、大したものである。恐らく低空飛行を重ねたのだろうか。

 

『これで、ダウンだ!』

 

 だが、まだ甘い。

 

 叫ぶザクのパイロットに内心で告げながら、ユウは脚部アポジモーターと全身のスラスターを吹かせ、さらに手足を大きく振って機体を回した。するとぐるりとアレックスが反転する。天地逆さの状態で、ザクと対面した。

 

『そんな……重力下でAMBAC!? くっ!』

「遅い」

 

 驚愕したザクのパイロットが慌ててペイント弾を撃とうとするが、ユウがそれを許す筈が無い。ゆっくりと狙いを定め、射撃する。ペイント弾は、ザクの胸部コクピットへと正確に着弾した。

 それを見届けながら、落着直前に再びAMBACとスラスターを併用し、機体をぐるりと回転させ着地した。残るは、後一機。

 最後のザクはこちらを呆然と眺め、しばらくして突撃して来た。破れかぶれか、ユウは嘆息すると回避するまでも無く脇を抜けていくペイント弾を無視し、コクピット部へと容赦無く弾丸を放ったのだった。

 

 

 

 

「ばかも――ん! 諦める奴があるか! 最後のは何だカークス!」

「も、申し訳ありません!」

 

 模擬戦終了後、テストパイロット部隊と合流したユウはアレックスのコクピットを開き、地面に降り立っていた。見る先では新人三人(一人は埋まっていた)がこっぴどくバニングに叱責されている。

 それをぼーと眺めていると、横から水筒が差し出された。アレン中尉である。彼から差し出された水を有り難くユウは頂戴する。

 

「長くなりますよ、大尉殿」

「どうやらそのようだ。彼等は新人か」

「はい。後で自己紹介させましょう。いや、それにしても見事でした大尉殿」

「半ば、ガンダムの性能のおかげだ。スペックが段違いだから、俺の腕とは言い難いな」

 

 そう告げたユウにアレンが羨望と嫉妬の眼差しを向けて来る。連邦のMSパイロットともなれば、一度は乗ってみたいのがガンダムと言うものだ。その視線も仕方ないとユウは小さく息を吐き、アレックスを見上げる。

 今の模擬戦では性能の半分も引き出せ無かった。クリスは褒めていたが、ユウは納得出来るものでは無い。完全に機体に振り回されたと自覚していた。

 

 俺も、まだまだか。

 

 そう自嘲すると一旦説教を切り上げたのか、バニングがこちらへと向き直る。改めてユウは彼に敬礼すると手を差し出した。

 

「不躾なこちらの申し出を受けてもらい、感謝しますバニング大尉」

「いや、結果としてこちらも試作ブースターの良いデータが取れた。今度から気をつけてくれたら、それでいい」

 

 差し出された手に手を重ね、バニングが告げる。それにユウは頷き、手を解くと頭上のアレックスを二人して見上げた。

 

「ガンダム。司令から聞かされてはいたが、まさかもう組み上げ終わっているとはな」

「自分もここに来てから知りました。とんだじゃじゃ馬です」

「だろうな実動データをこちらでも観測したが、化け物としか言いようが無い」

 

 本当に三年前の機体なのか、甚だ疑問としか思えないスペックなのだ。バニングがそう思うのも無理は無い。苦笑すると、バニングがこちらへと向き直る。

 

「これからよろしく頼む、大尉。こいつの世話で忙しいだろうが、良かったら新人達も可愛がってやってくれ。何せ、まだよちよち歩きのひよっこ共でな」

「自分に出来る範囲でなら了解です。素質ありますよ、彼等は」

「あまりおだてんでやってくれ。図に乗られると迷惑だからな」

「了解です」

 

 答えながらユウは新人テストパイロット三名の前に立つ。彼等は一様に緊張した顔となっていた。

 まぁ階級も上なら操縦も上、ガンダムのパイロットとなれば硬くならない方がおかしいが。

 

「ユウ・カジマ大尉だ。あのガンダムNT-1のテストパイロットとしてトリントン基地に配属となった。以後、よろしく頼む」

「ハッ。自分はラバン・カークス小尉であります!」

「チャック・キース小尉です!」

「コウ・ウラキ小尉であります!」

 

 びしっと一糸乱れず敬礼する三人に苦笑を押し殺してユウも敬礼を返す。そして、その場から離れようとしてぴたりと止まった。

 

「ところで……先の模擬戦で自分に追い付いたザクのパイロットは誰だ?」

「え、あ、じ、自分であります!」

 

 唐突なユウの問いに、一瞬三人は顔を見合わせ、しかし一人の青年が前に進み出た。確か、コウ・ウラキと言ったか。実直そうな青年である。彼は何を言われるかと緊張に顔を強張らせていたが、ユウは構わず肩をポンと叩いた。

 

「先程は見事だった」

「へ? あ、いや。ありがとうございます!」

「いいパイロットになれる。今後も精進するように。他の二人もだ」

「「は、はい!」」

「ではな」

 

 新人テストパイロット達三人の初々しい反応に笑みを見せて、ユウはアレックスのコクピットに戻る。これから帰投し、実動データの検分とレポートを作成だ。明朝0600まで仕上げれば良いだろう。そこから調整し、またテストだ。

 まだ初日。これから毎日、それを続ける事となるだろう。それまでにこのアレックスを使い熟せるようになりたいものだ。

 そう一人ごち、ユウは帰路へと着いたのだった。

 

 だが、彼は知らない。トリントン基地に彼が滞在するのは、ごく僅かだと。

 そして新たな戦いがもうすぐそこまで迫っているのだと。

 彼がそれを知るまで、後、ほんの僅かであった。

 

 

(第三話に続く)

 

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