#01 始まりを告げる邂逅
ごく普通の中学校に通い周りに流されやすいが、どこのコミュニティにも馴染め友人が多いごく普通の中学2年生。それが現時点において立花響に対する適切な表現だろう。とりわけ運動が出来るわけでもなく、かといって特筆して勉強が出来るわけでもなかった。寧ろ勉強に関しては平均よりもやや下に位置するくらいなのだから、学力は全体的に見れば悪いと言えるだろう。今は6月3日の昼休みであり、響は2年3組の教室で友人でありクラスメイトにして幼馴染の小日向未来と向かいあうように机を並べ昼食を取ろうとしていた。
「はぁ~、お腹が空いたよ未来ぅ~。早くお昼ご飯食べようよ~、私もうお腹ペコペコだよぉ~。」
「もう、響ったら....もう少し我慢しなさい。」
「でもぉー・・・・・・。」
これ以上は我慢の限界と言わんばかりの視線を未来に向ける響。そんな視線に気づかないふりをしつつ、未来は鞄からお弁当が入っている小包を取り出し結び目を解く。誰もが一度は見たことがあるであろう二段重ねのお弁当箱を2つに分けると、
「じゃあ、食べようか響。」
と、机に頭をつけている響に声をかける。すると、ガバッと物凄い勢いで顔を上げてまるで今が一番幸せと言っているような満面の笑みを浮かべる響の姿があった。
「よーし、じゃあ食べよう!今すぐ!速やかに!」
「そんなに急がなくてもご飯は逃げないよ。」
いつも通りの会話をしながら、2人は声を揃えて「「いただきます!」」と唱和しお昼ご飯を食べ始めた。
お昼ご飯を食べ始めて2、3分が経とうとした時、未来はお弁当が入っていると思しき包みを持って教室の外に出ようとする1人の女の子が目に入った、いや、見つけたというべきだろう。未来が見た限りでは、その女の子は紫がかった髪をしていて横顔だけでも十分美少女と形容することが出来る。この教室にいたということは彼女がクラスメイトであることには違いないが、さて、彼女の名前は何だったか。僅かばかり逡巡したあと、程なくして未来は答えを思い出す。
「間桐桜ちゃんだ。」
「?どうしたの未来?」
未来の前にいる響は不思議そうな顔を浮かべている。未来は響に視線で゙向こう見てみて゛と教室の出入り口の方を見ながらアイコンタクトをする。響もそれで理解したのか、視線を教室のドアを見やるがそれでも何故未来が彼女のことを見たのかまでは掴めなかったようだ。
「あの子がどうかしたの、未来?」
「ううん、ただ教室からお弁当を持って出ようとしてたから誰なのかなあと思っただけ。」
「そうなんだ、でもあの子綺麗だよねぇ~。あれ?でもあんな綺麗な子なら覚えてると思うんだけど・・・・・・?」
「そこなんだよねぇ・・・・・・。」
間桐桜の姿は印象に残りやすい。紫がかった髪もそうだが、あどけない顔立ち、女性らしくそれでいてまだ少女らしい胸の膨らみが同性である未来にも目に残った。少なくともこれだけの出で立ちで目立たないはずはないし、寧ろクラスの注目の的になっていてもおかしい話ではない。ではなぜ、すぐに彼女の名前を思い出せなかったのだろうか?深く考えようとしたが、響が「あ、そうだ!」と何かを思いついたようなのでその話を聞くために、一旦考えるのを止めた。
「どうしたの、響?」
「直接本人に聞けばいいんだよ!そうしたらその疑問も解決するよ!」
「うーん、まあそうかもしれないね。でもいつ聞くの?」
「今日の放課後!」
思い立ったが吉日とは言うけれど、まあ実際その通りなのかもしれない。未来はそう思い、響の提案に乗ることにした。
「いいけど、でもお昼ご飯食べ終わったら私部長のところに「今日は部活遅れます」って伝えてくるから。」
「うん!じゃあ早くお昼食べちゃわないとね!」
「響、あんまり急いで食べると喉につっかかるよ?」
「ふぉのくふぁい、ふぇいきふぇっちゃふぁ!」
恐らく、「そのくらい、へいきへっちゃら!」と本人は答えたのだろうと小学校の頃からの付き合いである未来は理解してお昼ご飯を再開した。
そして放課後、響と未来は帰りの身支度をしている桜に話しかける。
「えーっと、間桐桜さん・・・・・・でいいんだよね?」
「・・・・・・?うん、そうだけど・・・・・・。」
答えてはくれたが、桜はそんなことを聞いてきた響を訝しげな目で見ている。それはそうだろう、今日まで関わりがなく名前すら知らないクラスメイトなのだから突然話しかけてくれば多少なりとも警戒はするものだ。そんな事を響は知ってか知らずか、話を続ける。
「とりあえず自己紹介するね!私、立花響っていうんだ!好きなものはご飯&ご飯!誕生日は9月13日!彼氏いない歴は・・・・・・」
「いえ、あの、そこまで聞いてないんだけど・・・・・・」
いきなり自己紹介を始めた響を見て、桜は困惑している。恐らくはあまり会話をしたことがないのだろう、こういう時どうすればいいのか分からないように見えたので見かねた未来が割って2人の会話に入る。
「もう、響。間桐さんが困ってるでしょ?」
「ふぇ?」
「間桐さん、響がいきなり自己紹介するからすごい困った顔してたよ?」
「ああっ、ごめんなさい間桐さん!仲良くなるならまずは自己紹介かなあなんて思って勝手に......。」
「あ、いえ、大丈夫です。ただ、私に何か用があるんですか?私、部活があるので早く行きたいんですけど・・・・・・。」
「え?間桐さんって部活に入ってるの?」
「はい、弓道部に所属しているんです。」
響は不思議そうに桜を見た。改めて彼女を見ては見たが、とても運動部に所属しているような出で立ちではないし所属していてもマネージャーか文化系の部活なのだろうと思っていたからだ。
「弓道って確か弓を使う武道だよね?大変じゃないの?」
「大変なことは大変だけど、先輩がいるから頑張ろうって気持ちになれるの。それに、先輩に私は助けられたから・・・・・・。」
未来はその表情の一瞬の変化を見逃さなかった。桜自身は気づいてはいないのだろうが未来にはその弓道部の先輩について話している彼女の表情は恋する乙女のそれであったからだ。そして、同時に未来は自分達が何のために間桐桜に話しかけたのかを思い出してその事を口にする。
「そうだよ!すっかり忘れてたよ、響!」
「ど、どうしたの未来?そんなに慌てて?」
「私達、昼休みのことを直接間桐さんに聞くんじゃなかったっけ!?」
「ああ!?そういえばそうだった!すっかり忘れてたよ未来!」
「え、えーと・・・・・・?私の昼休みがどうかしたんですか?」
「間桐さん!昼休みにお弁当持ってどこ行ってたの!?」
「ああ・・・・・・えーっとそれはですね・・・・・・。」
響と未来は息を呑んで次に出てくる桜の言葉を待つ。そして、
「先輩のところに行って、うちの武道館にある弓道場でお昼を食べていたんです。」
と、実にありふれた答えであった。
「「なんだ、そうだったんだ・・・・・・。」」
響と未来はその平凡な答えに少しの安堵と少しの残念感を滲ませた。正直な話を言えば、少女漫画の様にではないがそれに近いラブロマンス的な話を期待していたのだ。返ってきたのは期待とは裏腹に実によくある青春の1ページの様な平凡な答えだった。
しかし、未来がここであることに気づく。
「そういえば、その先輩って男の人なの?それとも女の人?」
そう、性別聞いていなかったのだ。未来がその先輩はどっちの性別なのか聞くと、答えはあっさりと帰ってきた。
「先輩は男の人ですよ?」
桜は何故そんな事を聞いてくるのか不思議だという風な顔をしているが、響と未来も恋をしたい年頃である。故に、その答えは2人が食いつくには十分だった。
「男の人なの!?ねえ、どんな感じの人!?カッコいいの!?」
「ちょっと、響!少しは落ち着きなさい!」
「未来は気にならないの!?」
「そりゃ、気にならないわけじゃないけど......」
その事実に響が真っ先に食いつき、未来も窘めてはいるが興味津々といったところだ。彼女達もまだ花の中学生、故に彼女達はその゙先輩゙がどの様な人物なのか、大いに興味があったのだ。インテリ系の人なのかスポーツマン系の人なのか、2人が騒いでいると桜がこんな事を提案してきた。
「あの、だったら一緒に弓道場に行きますか?きっと先輩がいると思いますけど・・・・・・。」
「「行く!」」
一も二もなく、2人はその提案に乗った。
響と未来、そして桜の3人は東昇降口にある下駄箱で上履きをローファーに履き替えて、そこから左手に進み校門に続く道のすぐ右横にある武道館におよそ10分ほどでついた。少しばかり時間がかかったのは、2年生の教室は3階にあり、2年3組の教室は1組から5組まであるこの学校においては真ん中の位置である。そのため、どこの教室に行くにも他の組と比べて移動にかかる時間が長いため、クラス発表の際には誰もが3組にはなりませんように願うとか願わないとか、そんな眉唾物な都市伝説がまことしやかに囁かれている。
それはさておき、3人は武道館の入り口でローファーを脱ぎ入り口にある下駄箱にしまう。武道館には柔道部と剣道部、そして桜とその先輩が所属する弓道部の3つの部活があり、左手には剣道場が、まっすぐ行くと柔道場が、そして右手に行くと弓道場がある。3人は廊下を右に曲がり進んで行く。進んで行くと昔の風情を感じるような引き戸があり、ここが弓道場の入り口なのだと分かる。桜がガラガラと音を鳴らしながら引き戸を開け中に入ると、響と未来もそれに続く形で入り一番最後に入った未来が後ろ手に引き戸を閉めた。弓道場の中では十数人の部員が二人一組か三人一組の形で1人または2人が正座で座り、残りの1人が五つある的に向かって弓を射ている最中だった。
「皆、すごい集中してるね・・・・・・。」
「うん・・・・・・。でも少しピリピリしてるような
・・・・・・。」
「それは多分、大会が近いからだと思うな。特にうちの部は3年生が6人もいるからね、皆レギュラーに入りたいんだと思うよ。」
桜のそんな説明を聞いて、響と未来は得心がいったようだった。そんな2人をよそに、桜は少し弓道場の中をキョロキョロと見渡してみるが肝心の゙彼゛が見当たらなかった。桜は少し首を傾げる。
「うーん・・・・・・。おかしいなあ、いつもならもういるはずなんだけど・・・・・・。」
「おー、なんだ桜来てたのか!いつもはあたしがくる頃にはいるのに、今日は珍しくいないからちょっとびっくりしちゃったよー。」
「あ、部長・・・・・・゙先輩゙を知りませんか?」
桜に部長と呼ばれたその女生徒は「うーん」と少し唸ったところで。
「確か衛宮なら、生徒会長さんに昼休みに終わらなかった備品の整備の手伝いに行くって言ってたよ。それで部活の方は30分くらい遅れて行くって。」
その先輩の名は衛宮というらしかった。響は興味深そうに呟いた。
「ほほー、その先輩の名前は衛宮っていうんだー。」
「ん?桜、その子達は?」
「えーと、初めまして。私は間桐さんのクラスメイトの小日向未来と言います。こっちは友達の立花響です。」
「立花響です!好きなものはご飯&ご飯です!」
「ははっ!随分元気がいいんだね、立花は!気に入ったよ!あたしは美綴綾子だ、弓道部の部長をしてる。」
美綴は朗らかに笑いながら自分の自己紹介をした。同時に彼女は響のその明るさをいたく気に入ったようだった。響はその衛宮という先輩について美綴に聞いてみることにした。
「美綴先輩、衛宮先輩ってどんな人なんですか?」
「衛宮かい?あいつはそうだねえ......一言で言うなら゙ブラウニー゙かな?」
「ブラウニーですか?」
「うん。あとは強いて言うなら、あたしより弓道が上手いって事とやたら料理が上手って所かな。」
「料理ってどのくらい上手なんですか?」
「桜が習うくらいだし相当じゃないかな。この前、ゴールデンウィークの合宿あったんだけど「どこの店の料理だよ!」ってくらい料理が豪勢だったしなあ......五千円であれはすごいよ。その時の料理の写真があるんだけど見る?」
「是非見たいです!」
「もう、響!そこまで食いつかないの。」
「でも、未来は衛宮先輩がどれくらい料理上手なきに気にならないの?」
「それでも!今日の目的はあくまで衛宮先輩の顔を見ることだけでしょ!」
「俺がどうかしたのか?」
「「!?」」
不意に後ろから男の声が聞こえたので、響と未来は後ろを振り返る。そこには燃え盛る炎の様な赤茶けた髪色で平凡な顔立ちをした少年が立っていた。恐る恐る響がその少年に訪ねる。
「えーと・・・・・・。もしかして、あなたが衛宮先輩ですか......?」
「?確かに俺は衛宮だけど・・・・・・君達は?」
自分が衛宮だと名乗った少年は、不思議そうな顔で響と未来を見つめる。
「わ、私、桜ちゃんのクラスメイトの立花響って言います!」
「お、同じく小日向未来と言います!」
「えっと、俺は衛宮士郎だ。よろしくな、立花、小日向。」
こうして、本来決して交わる事のない
ひとまずはここまでです。響と士郎の出会いなんですがどうするか少し考えました。響と士郎は1歳差で士郎の方が年上なのですが、故に年の違う2人をどう絡ませるか少し悩み、考えた結果、間桐桜を仲介役にすることにしました。Fate/staynightの中では唯一年下であり、また響と同い年というのも手伝ってクラスメイトとという形で響と絡ませました。士郎との出会いなんかはゲームと大差ありません。
次回でツヴァイウィングのライブまで行ければいいなあ......。それと学校における3組(もしくはC組)って中途半端な位置にあると思うの。テストの点が一番平均に近かったりとか、体育祭の時は半分に分けられるとか、どっちの昇降口から入ってもどの道遅刻になるとか(偏見)。ということで、また次回お会いしましょう。