さて、前回から引き続きこの手の話は苦手だと思う人はブラウザバックを。前回ほどではないにせよ、苦手な人はやっぱりいると思いますので。
では、本編をお楽しみ下さい。
桜side
今、目の前で起こっている事は、間違いなく現実なんだろう。垣橋さんの悲鳴にも似た、悲痛な叫びが木霊する。そこから連鎖するように、クラスの皆から罵倒を受ける響ちゃん。あの惨劇において響ちゃんが何かをしたというなら理解出来ないことはない。それでも、あの惨劇においては、誰が悪いなんて関係無い。いや、それを言い出してしまえば、きっと水掛け論になるだけで、最後には誰が悪いとかどうでもよくなって、ただ、生き残ったからという理由だけで責められるだけになる。言ってしまえば痴漢の冤罪と同じで、例え自分はやっていないと言ったところで、周りの人間や被害者の人が「この人です!」と言ってしまえば、それが事実になってしまう、事実に書き換えられてしまう。今の状況は、まさしくそれだと思う。少なくとも、早く先生でも上級生でも連れてこないと、きっと、今よりもヒドい事にーーーーーーーー
「逃げようとしてんじゃ、ねーよ!」
「ーーーーーーーーっ!」
悲鳴が出そうになって、寸でのところで留める。けれど、事態はより、深刻になろうとしている。床に倒れた響ちゃんと、それを取り囲むグループ。明らかに響ちゃんの方が危ない状況なのに、誰一人として助けようとしないるまるで、「人殺しはやられて当然」とでも思っているかのように。私は、未来ちゃんの側に駆け寄る。
「桜ちゃん!どうしよう、響が!響が!」
「落ち着いて!未来ちゃんがしっかりしなくちゃ、響ちゃんの事を助けられないよ!」
未来ちゃんは、パニックに陥りかけていた。それはそうだろう。クラスメイトが、親友が目の前で殴られているんだ。どんな人でも、平静を保てるはずがない。だけどそれでも、私達が何も出来ないわけじゃない。
「未来ちゃん、先輩を呼んできてくれる?」
「どうして、衛宮先輩を............?」
「上級生を呼べば、多少なりとも落ち着くはずだと思うの。だから、先輩を呼んできて!」
「でも、桜ちゃんはどうするの............?」
「私は、職員室に行って、松崎先生を呼んでくる!」
「分かった!じゃあ、私、衛宮先輩を呼んでくる!」
「先輩は多分、弓道場にいると思う!」
「ありがとう!桜ちゃん!」
未来ちゃんは、弓道場に向かって走っていった。私も、野次馬の波をかきわけて、職員室に向かって走りだす。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
士郎side
「立花達、遅いな............。」
今日から立花が学校に復帰するという事だったから、いつもより早めに起きて、いつもより少しだけ手間のかかった弁当を作って来たんだが............。それにしたって遅いと思う。今まで、1~2分くらい遅れてくる事はあったが、10分経っても来ないなんて事は無かった。
ーーーーーーーーもしかしたら、何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない。
............様子を見に行ってみるか。そう思って、立ち上がろうとしたところで、弓道場に向かって走ってくる足音が聞こえる。立花達が来たのかと一瞬思った。だけど、足音は1つしか聞こえてこない。そして、弓道場の引き戸が、勢いよく開けられる。そこに立っていたのは、息を荒げている小日向だけだった。
「小日向、一体どうしたんだ?立花と桜は一緒じゃーーーーーーーー」
「衛宮先輩!響を、響を助けて下さいっ!」
立花を助けてほしいと、小日向は言ってきた。しかし、助けてほしいと言われたって、どんな状況か分からないんじゃ意味がない。まずは、小日向を落ち着かせよう。
「落ち着け、一体何があったんだ?」
「響が、ライブの事で責められていて............。それだけなら良かったんですけど、10人くらいのグループに取り囲まれてて............。このままじゃ、響が............っ!」
状況は思っていた以上に深刻だった。いや、深刻なんてものじゃない。これは、歴としたいじめだ。それに、10人のグループに取り囲まれているなんて、何が起こっても不思議じゃない。ましてやライブ会場での一件絡みとなれば暴力だけで済むはずがない。何事も起きなければいいが、きっとそうはいかないはずだ。
急いで俺と小日向は、弓道場から立花のいる教室に向かって走る。その中で俺は想う。願わくば、何も起きていないでくれと............。
ーーーーーーーーだが、そんな願いはすぐに崩れ去る事になる。
「何だ!?この人集りは!?」
立花達の教室がある3階にたどり着いたはいいが、恐らく騒ぎを聞きつけたであろう野次馬が、廊下を埋め尽くしている。
「悪い!退いてくれ!」
「通してください!」
俺と小日向は、野次馬によって出来た人垣をかきわけながら、教室に向かおうとする。が、人が多すぎて、中々前に進む事が出来ない。それでも、後少しで立花のいる教室にたどり着けーーーーーーーー
「何、勝手に逃げようとしてんだよっ)」
ーーーーーーーーバキッ。
鈍い音が、廊下に響く。
「ーーーーーーーーッ!!」
何が起きたか、見えていなくても分かる。分かるからこそ、俺は怒りを覚える。何故、立花がこんな目に遭う必要がある?ライブ会場にいた事が罪だというのなら、それは、俺も桜も同じのはずだ。だが、何故、何もしないのか?簡単だ、俺と桜は外に逃げる事で生き残り、立花はライブ会場の中で生き残ったからだ。一見、何の差も無いように思うだろう。だが、どちらに悪印象を抱くかと言えば、それは後者だろう。中にはノイズがいた。その中で生き残ったとするならば、何かをしたと疑われても仕方ない。だが、それが不当な罵倒を、暴力を受けていい理由にはならないし、受ける理由にもならない。だが、奴らが放った言葉に、俺は耳を疑った。
「ーーーーーーーーそのグループによ、裸で放り込むってのはどうだ?人殺しは、そこまでやられないと気が済まないらしいからなあ?」
「いいねー、それ!やっちゃおうよ!」
ーーーーーーーー今、奴らは何と言った?人殺し?立花の事を人殺しだと、そう、言ったのか?
ーーーーーーーーその時、俺の中の
それが、何なのかは、はっきりと言う事は出来ない。自分でも分からないものの正体を語れ、だなんて言われても、それは不可能だろう。それでも確かに、奴らの言葉が俺の中の何かを壊したと、そう確信を持って答える事が出来るのは、俺自身が何よりも分かっている事だからだ。きっと、それは例えるなら怒りの炎が相応しいだろう。何者にも決して消せない、煌々と燃え盛る不滅の炎。だから、俺は前へ進む。今、目の前で起きている理不尽を見過ごす理由など、『正義の味方』には存在しない。自然と、道は空いていた。何故か廊下の脇に固まっている誰もが、何かに怯えるかの様に、俺を見ている。けれど、そんな事は今はどうでもいい事だ。道が空いているのなら、結末がどうであれその道を進もう。どう見られたって構わない。だけど、たった1人の女の子すら救えない様なヤツが、『正義の味方』になど成れるものか。教室に近づくにつれ奴らの下卑た会話が、既に開けられている扉から聞こえてくる。一度大きく息を吸いーーーーーーーー
「何やってるんだ!お前ら!」
「............あん?」
立花を取り囲んでいる奴らを怒鳴りつける。如何にもな雰囲気と髪型もしくは髪色をした連中は、一斉に振り向くと、俺を睨むような目で見ている。
「........................ぁ、ああっ!」
俺の声を聞いた立花が、か細く涙混じりの声を上げる。本当に怖かったんだろう、今にも泣き出しそうな表情で、俺の顔を見ていた。それが、俺はたまらなく許せなかった。取り囲んでいる奴らも、そして..................、他の誰でもない自分自身が。俺がもっと早く来ていれば、なんてのは所詮たらればでしかない。だから俺は、奴らを睨みつけて言い放つ。
「お前ら............、女の子に、立花に何をし た!」
その中にあったのは、純粋な怒り。それと同じくらい、何故こんな事をするのかという疑問だった。そのグループのリーダー格だろうか、前に出て来たのは立花と同い年くらいの少年だった。髪は金髪に染められていて、耳にはピアスを付けているリーダー格の少年は、耳を疑う様な事を言ってきた。
「何をしたって、見て分からねえの?人殺しのこいつを皆でボコッて、「人殺しなんてしてごめんなさい」って、学校の全員の前で、裸で土下座させて後悔させようとしてんの!」
「ーーーーーーーー」
絶句した。正気なのか?だとしたら、大問題なんてレベルじゃない。そんな事をすれば立花だけじゃなく、学校側も監督責任を問われかねない。それだけじゃない、自分達にどれほどの非難が降り注ぐのか、それすらも理解していないのか!?
「それ、本気で言ってるのかっ............!?」
「本気も何も、人殺しに人権なんてあるわけないじゃん!あんた、そんな事聞くなんてバカなの?」
少年は笑いながら、それが当然とばかりに言い放つ。断言しよう、コイツはクズだ。それも、人を害する事に何の気持ちも持たず、人が苦しんでいる姿を見て悦ぶクズだ。
「ふざけるなッ!どんな奴にだって守られるべき尊厳がある!ましてや、立花は女の子なんだぞ!?お前は一生消えないかもしれない傷を負わせてやろうって言うのか!?」
「こいつがいけないんだろ?ライブ会場でたった1人だけ、ノイズの大群がいた中で生き残ってさ............。他の奴らを盾にでもして、人を殺したって事実を事故にでも装う事にしたんだろうよ!」
「お前は何も知らないのか!?」
「知らないって、何をだよ?」
「ライブ会場でノイズの襲撃で死んだのは、全体の半分にも満たない!大半の死因は、逃走中の圧死や避難経路の確保を争った喧嘩がほとんどなんだぞ!?」
「だから何だって言うんだよ?結局の所、それがそいつが人を殺したって証拠に他ならないじゃねえか。そうじゃなくても、見殺しにした時点でこいつは人殺しなんだよ!」
「そんなーーーーーーーー」
そんな暴論がまかり通るわけがない。そう言おうとして、思いとどまる。思いとどまったのは、この1週間のライブ会場での惨劇を巡る出来事を思い出したからだ。ライブ会場での惨劇での死者や行方不明者の総数は、12874人。これは、ライブ会場にいた10万人以上の観客や関係者のおよそ10分の1にあたり、近年のノイズ関係の事件において最大の大惨事だという。先週の木曜日に発売された週刊誌はその事を取り上げ、記事の内容は被害にあった人達に対して行った独自の取材によるものと体裁上書かれてはいるが、第三者の気持ちを煽る様な表現が多く使われ、記事の内容もかなり脚色されたものとなっていた。
その週刊誌が発売されてから、事態は大きく変わっていく。世間は、死者の大半が人の手によるものだった事から、生存者に対して強い非難の声を上げ始めた。これとほぼ同時期に、政府は今回の惨劇の被災者と遺族に対して補償金を支払う事を発表した。これが火に油を注ぐ形となり、ネット上では様々な議論がなされていく。それは、苛烈な自己責任論から始まり、様々な持論が持ち出され展開されていった。中には憂さ晴らしとも思える内容のものもあり、さらには「周りがこう言ってるんだから」と中身の無い主張も見受けられた。
被災者や遺族に対して向けられた中傷も、大多数の人間が支持してしまえばそれが正論となり、中世に起きた魔女狩りや、かのドイツのナチスの蛮行にも等しい゙正義゙となっていった。ただ「生き残ったから」、たったそれだけの理由で被災者や遺族は心身ともに追い詰められていった。もちろん一連の流れに異を唱える人達もいた。だが、誰もが持ちうる付和雷同の性質により、そんな異論も次第に封じ込められてしまった。これだけの動きが僅か4日で起きているのだ、ニュースに取り上げられないわけがない。恐らくは、そこから「被災者や遺族に何をしてもいい」という発想になったのだろう。
ああ、全く以て反吐が出る。どうして、そんなおぞましい事をいとも簡単に出来るのだろうか?自分達が同じ目に遭えば、そんな考えなんてすぐに消し飛び、今の立花と同じ状況になりうるかもしれないのに。正直に言ってしまえば、今すぐにでも立ち去りたいという気持ちが強い。だが、だからといって立花を見捨てる事なんて来ない。なら、俺が取るべき行動はーーーーーーーー
「............。」
「何だよ、すっかり黙り込んじまってさぁ?あ、もしかしてビビっちまったとか?だったら、さっさとーーーーーーーー」
「お前のさっきの言葉ーーーーーーーー」
「は?」
「「見殺しにした時点で人殺し」だっけか?それ本気で思ってんのか?」
「はっ、それがどうかしたんだよ?本当の事だろ?」
「それを聞いて安心したよ。でなきゃ、意味がないからな。」
「それ、どういう事だよ?」
「いやなに、その考えでいくなら俺は殺人鬼って事になるんだからな。」
「.............は?」
「何この人、頭イッちゃってるんじゃないの?」
「いやいや、はったりに決まってるって。女の前だからカッコつけたいだけっしょ。」
「でも、何かヤバくね............?」
奴らは十人十色の反応をしている。そりゃそうだ。普通に考えれば、俺の昔の事なんて知らないのが当たり前だ。けど、だから意味がある。
「8年前の火災を覚えてるか?」
「新都で起きたアレだろ?それがどうかしたのかよ?」
「確か、アレって生存者が1人もいないって話だったようなーーーーーーーー」
「ああ、それは間違いだ。」
「え............?」
その声は奴らの誰かなのか、それとも立花か小日向のどちらかか、あるいはそれら全てなのかは分からない。驚きというよりは、まさかのニュアンスの方が強いだろう。だが、それが事実である以上隠す理由が無い。だから、事も無げに言ってみせる。
「だって、俺が生きてるんだから。だから、生存者は俺1人って方が正しい情報だ。」
「おいおい冗談だろ............?」
「だとしたら笑えねえ冗談だぜ。あんた、嘘つくの下手すぎ。」
「?嘘も何も、本当の事を言っただけだ。それに、俺がお前らに嘘をついて何の得があるって言うんだ?それとも、その時の事を言えば満足するのか?」
「なあ、マジでヤバいってこいつ............。」
周りが動揺しているのが分かる。それはきっと、あの大火災を生き残ったっていう事実以上にある種の恐怖を覚えているからに違いない。実際、そういった災害が原因でストレス障害や心的外傷を抱える人もいないわけではない。そうでなくても、ちょっとした事でその時の事を思い出したりするのが普通だろう。それは、俺も例外ではない。強く覚えているのは、体中が熱かった事と息が出来なかった事。たくさんの救いを求める声を見捨てて、生き残ろうとした事。そして生き残ろうとして、その半ばで力尽きた事。それで、゙ああ、死ぬんだな゙と漠然に思った事。それ以外は思い出せない、思い出したくない。それでも確かに、あの時、俺は切嗣に救われた。死を覚悟したのに救われてしまった。だから振り返る事はしない。振り返るという事は、あの大火災を乗り越えられていないという事であり、あの大火災で亡くなった人達への侮辱に他ならない。それでも、あの大火災を一度たりとも忘れた事はない。忘れるわけにはいかない。それが、大勢の人々を見殺しにして生き残った俺が背負い続けるべき罪なのだから。
リーダー格の少年が俺の前に出てくる。
「はっ、だから何だってんだよバカバカしい。ようは、あんたも纏めてボコればいいだけの話だ!」
「随分と威勢がいいんだな。」
「どうせあんたもライブ会場にいて生き残った奴の1人なんだろ!?」
「ああ、そうだ。もっとも外に出た後、立花を助けるために中に戻ったけどな。」
小柄な少年がリーダー格の肩を掴んで話しかける。
「おい、やめとけって。コイツ気味悪ィって。」
「何だよ、ビビってんのか?」
「そうじゃなくて、相手にするだけ無駄って事でしょ。さっさとこの子やった方が早いって。」
そう言って、やたらとキラキラした装飾を身に付ける少女が立花の方を見る。立花は「ひっ......」と小さな悲鳴を漏らし、震え始めた。
「............それもそうだな。じゃあ、さっさとーーーーーーーー」
「なんだよ、怖じ気づいたのか?」
「は?」
「目の前にお前の言う人殺しがいるっていうのに、それを見逃すのか?尻尾を撒いて、みっともない姿を晒して?」
「テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「さて、な。もっとも、ここでお前が逃げれば「人殺しを見逃した」って理由でボコボコにされるかもしれないけどな?」
わざとらしくおどけて言ってみせる。それは効果てきめんだったようで、リーダー格の少年はたちまち怒りを露わにして、荒々しい口調で言う。
「上等だ!そんなにボコられたいなら、まずはテメェからやってやるッ!」
「やれるものならやってみろ。俺はお前みたいな奴には負けない。」
「ちょっ、落ち着けよ桐山!こんな奴、相手にマジになることーーーーーーーー」
「ああ!?大人しく逃げろってのか!?」
「そうじゃなくて、相手にするだけ無駄って事だろ?こんな頭イカれてる奴、無視でいいんだよ。無視、無視。」
「無視するってことは、負けを認めるって事でいいんだよな?」
「誰が負けなんか認めるかよッ!テメェが音を上げるまでボコボコにしてやるッ!!」
そう言って、桐山というらしいリーダー格の少年は俺に向かって殴りかかってきた。
「ーーーー
誰にも聞こえないくらいの小さな声で、1つの
「ちっ............!」
「ぐあッ!?」
互いの拳が交差する。俺が放った拳は桐山の左頬を直撃し、その一方で桐山の放った拳は完璧に避けたと思っていたが、読みが甘く僅かに耳を掠めていった。
「お、おい!?大丈夫か桐山!?」
「あんた、よくも桐山を............!!」
「絶対にただじゃ帰さねえからなっ!!
桐山がぶっ飛ばされた事が予想外だったのだろう、桐山のグループのメンバーは桐山に駆け寄り、俺を憎悪の目で睨みつける。だが、そんなものは意に介すことなく、立花の方に歩み寄る。
「立花、怪我はないか?」
「え............?」
「いや、だから、怪我はないか聞いてるんだ。」
「あっ、はい............。これといった怪我は無いです。まだ、ちょっとだけ殴られたお腹が痛いですけど............。」
「なら、後で一応保健室に行っておくか。痣とかになってないとも限らないしな。」
「そうですねーーーーーーーー」
ひとまず立花に怪我は無いようだ。それだけでも安心出来る。だからといって、奴らを許す気なんて既に無いが。立花の手を取って立ち上がろうとしてーーーーーーーー
「衛宮先輩っ、後ろーーーーーーーー!!」
「えっーーーーーーーー?」
立花が突然叫び、何事かと後ろを振り向こうとした瞬間ーーーーーーーー
「死ねッ............!!」
「なッーーーーーーーー!?」
右側頭部にめがけて放たれた蹴りをまともに食らう。突然の事に驚き迎撃する余裕も無く、まるでサッカーボールの様に蹴り飛ばされ、背中からロッカーに激突する。
「ぐ、はっーーーーーーーー」
その衝撃で肺にあった空気が全て吐き出され、息が苦しくなる。
「はーーーーーーーーはぁっ、はっーーーーーーーー」
吐き出された空気を再び戻すように、荒くではあるが呼吸をして息を整えようとする。
「おらッ!!」
ーーーーーーーーが、そんな事はさせないとばかりに腹に向かって放たれた蹴りが当たる。
「ぐ、あっ............!!」
集めた空気を、また、吐き出してしまう。そして、周りを見れば桐山のグループ全員が俺を取り囲んでいた。
「はっ、いい気味だな。」
「さっさとやるぞ、先公が来たら面倒だしな。」
「でも、この人って上級生なんでしょう?だったら、何も言われないんじゃないの?」
「それもそうだな。じゃあ、思いっきりやりますかーーーーーーーー!!」
その一言を皮切りに、一方的なまでに殴る蹴るの暴力が振るわれた。1人や2人ならどうという事はないが、10人ともなれば洒落にならない。気が付けば、口の中に鉄の味が広がっている。どうやら、どこかのタイミングで口を切ったようだ。
「............テメェら、何やってやがる?」
「おー!桐山、もう大丈夫みたいだな。」
「さっさとやっちまおうぜー。そろそろ折れる頃合いだろうしよ。」
「............そうだな。さっきの仕返しもしなきゃいけねえしなあ?」
桐山が起き上がったのを確認した1人が、桐山に声をかける。それと同時に、俺を取り囲んでいた連中も桐山に意識を向けたようだった。その間に俺は立ち上がると、立花と小日向の方を見る。彼女達の表情は悲しみに満ちていた。れはし仕方のない事だと思う。しかしそれは、俺が普通ならの話だ。幸いにも、奴らの意識は桐山に向いている。それならーーーーーーーー
「!お前ら後ろだ!!」
「後ろーーーーーーーー?」
桐山は気付いたようだが、時既に遅い。俺は、目の前にいる少年が振り返るよりも早く、拳を打ち出す。その拳は、少年の顔面に直撃し桐山のいる方向に吹っ飛ぶ。桐山は咄嗟に避けたが、後ろの机と椅子にまでは気が回らなかったようで、その机と椅子に頭から突っ込んでいく。ドガッと鈍い音が、辺りに響き渡る。あまりに突然の事に理解が追いついていないのか、桐山のグループの1人である長い黒髪の少女が、腰が抜けた様にその場でへたり込む。口元を軽く手の甲で拭うと、そこには少しばかり血が付いていた。
あ、今はどうでもいい事だ。俺は桐山達グループに向かって軽く挑発する。
「どうした?もう終わりか?」
「ーーーーーーーーッ!テメェ、よくも!」
「もう絶対にただじゃおかねえからな!」
「その台詞、さっきも聞いたよ。同じ事しか言えないのか?」
「うるせえッ!テメェが泣いて謝るまで殴り続けてやるッ!」
「やれるものならやってみろよ。もっとも、その前にお前らの方が先に泣いて謝ると思うけどな。」
「減らず口をーーーーーーーー!」
そう言って、角刈りの少年が殴りかかってくる。が、先ほどの゙強化゙の効力はまだ消えてはいない。俺は殴りかかってくる角刈りの男子の懐に体を縮めて潜り込み、鳩尾に拳で一撃入れる。
「ごはっーーーーーーーー!?」
一撃を入れられた角刈りの少年は、先ほどの少年と同じ方向に吹き飛ぶ。「ぐえっ」と呻き声が聞こえたが、今はどうだっていい。右側に立っている痩せ気味の少年に標的に変え、右足で蹴りを叩き込む。流石に読まれていたのか、左腕で蹴りは防がれている。その体勢から俺を狙い、右の拳が振り抜かれる。
「くッーーーーーーーー」
その拳をギリギリでかわす。いくら魔術で゙強化゙しているからと言ったって、当然、限度はある。限度というよりも、この場合は力量不足の方が正しいだろう。俺の゙強化゙は今現在において遠い先の物を見るだけなら3時間、逆に動体視力の様に1つの機能に集中する場合は5分から10分程度が限界だ。どうやら今回は今までの記録の中で最低記録である5分を切ったらしい。もちろん、今まで何もしてこなかった訳じゃない。切嗣から魔術を教えてもらい、切嗣が亡くなってからも鍛錬は毎日欠かさずやっている。ただ゙強化゙の魔術しか知らず、それすらマトモに出来ない半人前との魔術師というだけの話だ。
かわされたのが悔しかったのか、その気持ちが顔に出ている。俺は蹴り上げた右足を引き、乱れかけた呼吸を整える。そのまま左の拳を一呼吸で振り抜き放つ。
「はっーーーーーーーー」
「なっーーーーーーーー!?」
ほぼ死角となっている左からの一撃に、痩せ気味の少年は驚いている。咄嗟に右腕で防ごうとするが、防ぐよりも先に俺の左拳が腹に直撃し、そのまま床に倒れ伏す。後ろを向き、残りの人数を確認しようとしてーーーーーーーー
「その辺にしときやがれっ!」
ガタイのいい少年から放たれた拳の一撃を、顔面にまともに食らう。
「「衛宮先輩っ!!」」
立花と小日向から悲鳴にも似た声が上がる。その声を聞いて、どうにか倒れずに踏みとどまる。そのまま桐山達の残っている人数を確認する。ざっと見て8人、その内女子が3人なのでそれを差し引いて5人というところ。なら、あと3人倒せばいいだけだ。なら、まずは目の前の奴から片付ければいい。
「何だ?その目は?」
「ああ、あと3人倒せば終わるって考えただけだ。」
「何............?」
「女の子を殴る趣味は無いからな。お前らを後3人倒せば、ひとまず終わるだろ?」
「舐めたこと抜かしやがって............!!」
よほど気にくわなかったのか、怒りを露わにしながら殴りかかってくる。それを紙一重で避ける。今までの連中とは違って、動きが速い。恐らくは空手か何かを習っていたのだろうと思える動きに、これといった無駄や隙は無かった。だが、動きをよく見ればかわせないものではない。そこそこの速さで放たれるものの、目が慣れてくれば徐々にかわせる様になっていく。
「この野郎ッーーーーーーーー!!」
明らかに大振りな動作。それは、この時において致命的な隙となる。そして、それを見逃さない俺ではない。一呼吸、間を置いてーーーーーーーー
「はっーーーーーーーー」
その一撃よりも速く、顎に向かって一撃を放つ。その一撃は狙い通り顎に入り、ガタイのいい少年は背中から倒れる。そこからピクリとも動かなくなったが、ピクピクと手が動いているので気絶しているだけだと判断する。桐山の方を見やると先ほどの威勢はどこへやら、一転して怯えた表情になっている。残っている5人も同様の表情う浮かべている。震えた声で桐山が聞いてくる。
「何だよ............、何なんだよお前っ!?」
「何なんだよって、それを今更聞くのか?」
「俺達はあんたに何もしてないだろうがっ!なのに、何でこんな事するんだよっ!?」
「............そうだな、俺はお前らから何もされてない。」
「それならーーーーーーーー」
「だけど、お前らは立花に手を上げた。こんな事をする理由なんて、それだけで十分だろう?」
「なっーーーーーーーー、何だよそれ............。『正義の味方』にでもなったつもりか!?」
「別に、このぐらいの事は誰もが出来て当たり前の事だ。このくらいの事で『正義の味方』を名乗れるのなら、世の中は今頃゙正義の味方゙だらけなんじゃないか?本当の『正義の味方』っていうのは誰も彼も救う奴の事を言うんだ。」
「ーーーーーーーーーーーーーーーー」
何故か桐山達は硬直していた。その顔からは、覇気どころか生気すら無くなっているのでないかと思えた。残りの連中に至っては、揃いも揃って俺に土下座をしていた。
「............何で俺に土下座なんかしてるんだ?」
「本当にすいませんでした!もう二度と手を上げたりなんかしませんから!」
「それを謝るのは俺じゃないだろう。それについて謝るべきは立花の方だ。俺じゃなく立花の方を向いて謝るんだ。」
「............!!」
その瞬間、奴らは打ち合わせでもしたんじゃないかってくらい綺麗な動きで立花に向き直り、俺に言った事と同じ事を言った。言われた当の立花は何が何やらいいった具合に困惑している。
それから程なくして、桜がこのクラスの担任を連れて戻ってきた。ひとまず事情を説明して俺と立花は、念のため保健室に行く事になった。保健室の先生曰く「1週間くらい痣になるかもしれない」との事だった。その日はそれだけで念の為、部活が終わるまで待ってもらい立花を家まで送っていって、後はどうという事はなく今日は終わった。
ーーーーーーーーそう、今日、この時だけは。
あれから2週間が経った。7月になり、立花へのいじめとも取れる行為は、桐山達を俺が撃退した日より酷くなっていった。足を引っかけられる、上履きに画鋲を入れられるなんてのは序の口で、教科書やノートを破かれたり、鞄の中の物を隠されたり、挙げ句の果てにはトイレや体育の着替えの時など教師の目が届かない様な場所で殴る蹴るの暴力行為を受ける様になっていった。俺が一緒にいる事が出来るのは登下校と昼休みの時だけ。なので、小日向と桜には出来るだけ一緒にいるように言ってはいるのだが、2人とも大人しい性格故にあまり荒事が出来るタイプではない。学校側も出来る限り、休み時間の間に巡回するなど対策はしているのだが、それでも無くならないのは巧妙にそれを避けるようにしているからだろう。今日は7月初めの金曜日の昼下がり、唯一と言っていいくらい立花が安らげる時間なのだがーーーーーーーー
「立花、大丈夫か?何かいつもにも増してやつれてる気がするけど............」
「え?そう、見えます?」
「ああ、いつも異常に無理矢理笑ってるって感じがする。」
「そう、ですか............。」
立花は黙ってしまった。日に日にやつれている様な気がしてはいたが、今日はそれに輪をかけてやつれている気がする。もしかして、家で何かあったのか?............まさか、な。立花のご両親とは病院で会ったきりだが、どちらも優しい雰囲気がして立花と一緒にいると、仲が良さそうな家族に見えた。よりにもよって、そんな事はないだろう。
「別に話したくない事があるなら、話さなくてもいい。流石にいじめに関しては別だけどな。」
「........................」
「親御さんには言いにくい事は俺達に、俺達に言いにくい事は親御さんに話せよ?」
「親に、ですか?」
「親御さんだって、きっと立花の事を心配してる。それか藤ねえだっていい。藤ねえはあれでも教師だからな。立花の話を聞いてくれるはずだ。」
何より藤ねえの家はヤの付く仕事をしている家系だ。冗談抜きで、いじめが無くならない場合の最終手段として使うべきだと思う。立花は少し考えて、
「............あの、衛宮先輩?」
「何だ?」
「その、今日、家まで送っていってもらってもいいですか?」
「?別にいいけど、今日は部活で遅くなるぞ?」
「はい、分かってます。終わるまで待ってます。」
「なら、弓道場で待ってるといい。美綴も話せば納得してくれるだろうし。」
「そうですね。じゃあ、そうします。」
美綴は立花の事をいたく気に入っていた。だから、立花の事を話せば、きっと納得して協力してくれるだろう。慎二が気がかりではあるが、あいつもそこまで悪い奴じゃないし大丈夫だろう。
昼休みが終わり、放課後になった。俺は荷物を手早く纏めると、立花のいる教室に向かった。あの日以来、俺が立花のいる教室に行った途端に静かになるのは、やはり怒らせたらヤバいという認識があるからだろう。
「立花ーーーーーーーー」
「あ、衛宮先輩。今、行きます。」
立花は、自分の荷物を持って足早に俺の所に来る。
「そんなに慌てなくてもいいのに。」
「仕方ないじゃないですか............。」
「あ............。悪い、今のは迂闊だった。」
「別にいいですよ、気にしてませんから。」
そう言って立花は笑顔を浮かべる。けど、俺はその笑顔から、現実逃避に近い何かを感じた。何よりも、その笑顔はとても痛々しくて無理をしているようにしか、俺には見えなかった。
「あ、そうだ!また今度衛宮先輩の作ったご飯が食べたいです!」
「そうだな............。なら明日、俺の家に来い。小日向も一緒にな。」
「あれ?でも明日って、部活はあるんじゃないんですか?」
「いや、明日は午前中だけだ。午後は空いてるよ。正午には帰ってくると思うから、その時間に来てくれ。」
「分かりました!」
軽い雑談を交わしながら、弓道場に到着する。弓道部の部員達は美綴の指導のおかげか、はたまた部員2人が巻き込まれたせいなのか、少なくとも生き残ったというだけで罵倒するような奴はいない。それはどこか捻くれてる慎二も例外ではなく、詳しい事は分からないが俺なんかの為に色々と尽力してくれたらしい。完全下校時刻の18時には弓道場に残っていたのは鍵を返しに行っていた俺と立花しか残っていない。桜には立花を送っていく事を説明して、先に夕飯の支度をしてもらう事にした。
立花の家までは俺の家からなら歩いて1時間、中学からはおおよそ20分くらいで行ける距離にある。立花の家は冬木市を跨いでいるが、距離的に冬木市の中学に通うが近いらしいと立花は言っていた。立花の家の距離が近くなる。普通は喜ぶというのは言い過ぎだが、それでも多少なりとも嬉しそうな顔をするはずだ。しかし立花の表情は近付くにつれ、暗く淀んだ感じになっていく。よく見なければ気付けないが、体も小刻みに震えている。どうした、と聞こうとして躊躇ってしまう。いや、躊躇ってしまうというよりは躊躇わざるを得ないという方が正しいだろう。無闇に立花の心を傷つけたくなかった、というのも1つ本音だと思う。そして、立花の家に着いた時、俺は唖然とした。
「何だよ、これ............!?」
以前、立花を送った時に見た時は普通の一軒家という印象だった。何処にでも建っていそうな、至って普通の家。それが今はどうだ?郵便受けを含め、「人殺し!」だの「金泥棒!」だのが書いてある紙があらゆる所に貼り付けられている。窓ガラスは、目に見える範囲で確認しただけでも全て割れていた。立花が震えていた理由はこれなのかーーーーーーーー?
「なあ、立花ーーーーーーーー」
「じゃあ、ここまでですね。」
「え............」
「送ってくれてありがとうございました。」
ぺこりと頭を下げ、そのまま家の中に入っていこうとする立花を、思わず呼び止める。
「ちょっと待てよ!立花!」
「何ですか、衛宮先輩?」
「何があったのか教えてくれ。俺に何か隠してる事があるんじゃないのか?」
「何もありませんし、隠してませんよ。」
立花は本当に何も無いと思わせるようなトーンで俺に言った。けど、俺は見逃さなかった。その表情がそれ以上は追及しないでほしいと懇願するように見えた。そんな表情をしたという事は、つまり何かを隠している証拠だ。
「本当に何も無いのか?こんな状態になっているのにか?」
「だから何もありませんってば!」
「なら、どうして俺の目を見て話さないんだ?何か隠したいーーーーーーーー」
「衛宮先輩には関係ない事です!!」
立花が俺にそう言い放った時、玄関が開き
「何してるんだ?響?」
「お、お父さん............。」
立花の親父さんが顔を出した。途端に立花の顔が青ざめていく。よく見れば、立花の親父さんの顔が赤く染まっている。もしかしたら、酒にでも酔っているのかもしれない。
「ん?君は、衛宮君だっけ?」
「そうですけど............。」
「やっぱりそうかー!いやー、病院以来だねぇ!」
「あの、もしかして酔ってます?」
「酔ってない、酔ってない。そんな事より衛宮君?ちょっといいかな?」
「何ですか?」
まあ、どうせそこまで変な話じゃーーーーーーーー
「君に響の事、任せてもいいかな?」
とんでもない爆弾を落とされた。いや、爆弾じゃなくてダイナマイトだなこれ!酔った勢いで済む話じゃねえぞ!
「いきなり何を言ってるんですか!?」
「お父さん、何言ってるの!?」
「いやいや軽い冗談だよ、冗談。」
「冗談になりませんよそれ............。」
「それよりも娘を送ってきてありがとね。ほら、響、ちゃんとお礼しなきゃ。」
「もうしたから!いいから、中に入ろう!」
「はいはい。」
2人とも家の中に入っていく。途中で立花の親父さんが俺の方を向き、
「娘の事をよろしくね。」
ぼそりとそんな事を呟いていた。そして、それが俺が聞いた立花の親父さんの言葉になった。
次の日の朝以降、立花の親父さんは姿を眩ませた。立花の話では「仕事に行ってくる。」と言い残して帰ってこなかったそうだ。
そして、2年の月日が経過し運命は再び動き始める。
如何だったでしょうか?
さて、今回で2年前のお話は全て終了となりました(今後出す回想や後付けはカウントしない)。次からはシンフォギアの本筋になるかと思います。しかし、シンフォギア一期1話の内容すら終わってないのに、シンフォギアの二期と三期の話を思いつくのは良い事なのか否か............。あと、早く翼さんとクリスちゃん書きたい。特にクリスちゃんは士郎との絡みをもう思いついているのに............!やはり遅筆なのが私の難点ですね、最新話を投稿する度にアクセス数が伸びているのを見ると「もっと早く書かなきゃ!」と使命感に駆られるだけで、まるで全然成長していない............。
ネガティブになるのはこのくらいにして、ようやく本筋ですよ!本筋!次のお話は響の視点からスタートする予定ですので楽しみにして頂ければ幸いです。では、また次回お会いしましょう。