Fate/symphogear   作:彼方陽樹

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 お久しぶりです。2週間ぶりの投稿になります。


 今回は前話からおよそ2年後、つまりはシンフォギア本編の時間軸になります。相も変わらず
、視点は今回も士郎になります。


 では、第6話をお楽しみください。


#06 春の日、日常と異常

士郎side

 

 

 4月6日、今日この日は世間一般で言うところの入学式の時期である。俺が通う私立穂群原学園はその入学式が今日なのだ。

 

 

 私立穂群原学園は、元々は俗に言う普通科だけの進学校だったのだが、今からおよそ10年前に音楽科が新しく設立された。別名をリディアン音楽院、リディアンが何なのかは知らない。

 

 

 音楽科は恐らく都内を探しても、これ以上の設備がある学校は無いんじゃないかってくらい設備が充実している。また、2年生に進級すると、かなり細かく分かれたコースの中から1つを選択して、それを中心に学んでいくらしい。

 

 

 ただ、何故か音楽科は女の子しか入学出来ないという制限がある。なのに、毎年1000を超える入学希望者がいるのは、それはやはり、2年前に音楽科に入学しだアーティスド風鳴翼が目当てなのだろう。

 

 

 勿論、純粋に音楽の道に進みたいという子もいるだろうし、それ以外でも学費が私立なのにかなり安いのだ、下手をすれば公立より安いかもしれない。だから中には、家庭の都合でこの学校を選ぶ子もいるとか。また、遠く地方から来る子もいたりするらしく、それに対応するための学生寮もあったりする(ただし普通科は使えない)。学校から徒歩5分の所にあるため、寝坊や遅刻をしても走れば間に合わせる為の配慮なのかもしれない。ともかくーーーーーー

 

 

「桜が来る前に朝飯の準備をやっとくかな。」

 

 

 学生服に着替え、居間に向かう。まだ時刻は5時半を回ったところだが、そろそろ桜が来るはずだ。でも、今日くらいは遅れてくるのかもしれない。なんてたって今日は入学式だ。晴れの舞台ゆえに準備に多少は時間がかかるだろう。それにーーーーーー

 

 

「響と未来は今日から家で下宿するんだもんな。」

 

 

 そう、響と未来は桜と同じく穂群原に入学する。桜は普通科で、響と未来は音楽科に入学するのだが、それに当たってうちで下宿する事になっている。単純な登校距離の問題もあるのだが、2年前のあれを考えればどの道どこかに下宿する事になったはずだ。それなら、お金をかけて学生寮に入るよりはうちで下宿する方がいいだろうと、去年の夏休みに響に頼み込まれて、響の実家を訪ね響のお袋さんを響と一緒に説得したという経緯がある。未来に至っては、俺達が一緒に行くより前に強い意志を親御さんに見せて、無理矢理納得させたらしい。

 

 

「しかし、響や未来って呼ぶのは何か慣れないっていうか、むず痒いな。」

 

 

 以前は立花や小日向と呼んでいたのに、いつからか下の名前呼びになってしまった。確かそうなったのはーーーーーー

 

 

「そういえば私と未来は名字で呼ぶのに、桜ちゃんは名前で呼ぶなんて何かズルくないですか!?」

 

 

 ーーーーーーそう、響のそんな一言がきっかけだった。別に桜を贔屓しているわけではないのだが、響はそれが不満だったらしく、

 

 

「私達も、下の名前で呼んで下さい!」

 

 

 と、押しに押され、藤ねえと桜の援護射撃でこっちが白旗を揚げたのだ。そして、2人を名前呼びするようになった。

 

 

 まあ、うん。2人とももう家族みたいなものだし、下の名前で呼ばないと変なのかもな。

 

 

 そんな事を考えながら、あと1品か2品作れば朝食の準備は完了する。そうだな・・・・・・。レンコンと人参と油揚げで、煮物でも作るか。あとは、山芋をすり下ろしてとろろにでもしよう。よし、と調理に取りかかろうとした所で玄関のチャイムが鳴る。

 

 

「はーい!今、出ます!」

 

 

 廊下に出る前にちらっと時計を見ると、6時を回っていた。桜が来たのか、はたまた響と未来が来たのかは分からないが、出ない事には始まるまい。玄関に着き、玄関口を開けるとそこにはーーーーーー

 

 

「おはようございます、先輩。」

「士郎さん、おはようございまーすっ!」

「おはようございます、士郎さん。」

 

 

 桜と響と未来の3人が仲良く穂群原の制服で並んでいた。

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 思わず見とれてしまった。普通科と音楽科なんだから制服が違うのは当たり前なんだが、その、3人とも様になっているというか似合っているというか。うん、このまま黙っているのも変だし何か話すか。

 

 

「おはよう、桜、響、未来。桜はともかく、響と未来は何だってこんなに早く来たんだ?」

「ほら、私達って士郎さんの家で下宿する事になってるじゃないですか。それでお母さんが、早く行って荷物を置いておいた方がいいんじゃないかーって。」

「私もそんな感じです。」

 

 

 なるほどな、と納得する。だから大きなボストンバッグを手に持ってるわけだ。女の子だし、服や下着の量は男の俺なんかとは比べられないくらい多いだろう。加えて学校の教科書なんかもあるのだから、通学鞄にも詰め込んでギリギリなのは、肩にかけられた通学鞄がかなり膨れている事から見て取れる。

 

 

「そうか。でも、それならメールの1つや2つ送ってくれたら響と未来の荷物を取りに行ったのに。」

「いやー・・・・・・。そこまでお世話になるわけにはいかないかなーって思って・・・・・・。」

「そのくらいどうって事はないぞ?これから一つ屋根の下で一緒に暮らすんだから、気兼ねなく何でも言ってくれた方が楽だし、多少なりとも頼ってくれた方が俺も嬉しいしな。」

「・・・・・・やっぱり。士郎さんってお兄ちゃんみたいだな・・・・・・。」

「ん?何か言ったか、響?」

「い、いえ!何でもないですっ!」

 

 

 あははー、と笑って誤魔化す響。まあ、深く追及する事でもなし、いつまでも玄関口にいるのも何だし家に上がってもらおう。

 

 

「とりあえず家に上がれよ。3人とも朝飯はーーーーーー」

「「「まだです!」」」

「じゃあ、先に朝飯にしようか。あと少しで出来るから、適当にかけといてくれ。」

 

 

 はいっ!、と3人とも良い返事を返してくる。うむ、元気なのは良いことだ。良すぎるのも考え物だが、と藤ねえを連想する。どう考えても、アレは元気良すぎだよなあ・・・・・・。だから、ある意味で生徒達に好かれるのかもしれない、些か距離が近すぎるのは置いておこう。

 

 

 さて、改めて調理に取りかかる。煮物とはいっても10分程度で出来る物なので、ささっとし下拵えをして、醤油、みりん、調理酒、砂糖、ほんの少し塩を鍋に入れ、ひと煮立ちさせる。その間に、山芋をすり下ろしてとろろ汁を作る。5人分の皿に作っておいた料理を盛りつけていく。

 

 

 本日のメニューは、秋刀魚の塩焼き、大根の煮浸し、ジャガイモと茄子の味噌汁、それとさっき作ったとろろ汁にレンコンと人参と油揚げの煮物である。順番にお盆に乗せ、テーブルに運んでいく。ご飯を茶碗に盛りつけたところで、ドタドターと廊下を駆けてくる音が聞こえてくる。ああ、これは藤ねえだなと長年一緒にいると嫌でも分かる。

 

 

「おっはよー!桜ちゃん、響ちゃん、未来ちゃん!入学おめでとー!」

「おはようございます、藤村先生!」

「「藤村先生、おはようございます。」」

 

 

 響は元気良く、桜と未来は穏やかに対応する。ここ一年で3人とも藤ねえに慣れたみたいで良かった。

 

 

「おはよう、藤ねえ。」

「む・・・・・・。」

「お、おい。藤ねえ・・・・・・?」

「ふーんだ。」

 

 

 よく分からないが、藤ねえはかなりご機嫌斜めだ。つっても、藤ねえの機嫌を損ねる様な事はしてないと思うんだがなあ・・・・・・。まあ、いいか。今は食事にしよう。

 

 

「「「いただきます。」」」

「「いっただきまーす!」」

 

 

 カチャカチャと箸を動かしながら食べていく。うん、我ながら良く出来てると思う。

 

 

 しかし、桜もいるから毎日和食という事にはならないが、響と未来も食卓に増えたので、和食が基本になってしまうのはどうにかした方がいいのだろうか?

 

 

 響と未来の以前の食事を知らないので何とも言えないが、2人とも朝は洋食だった可能性はある。最低でも、オムレツとか簡単に作れる洋食くらいは作れる様になるべきだろう。しかし、日本人としては朝は和食でなければ落ち着かない。二律背反、というやつだろう。桜は和食も洋食も上手に作れるが、そうなると中華を得意とする人間がここにはいない。出来るだけバリエーションに富みたくはあるのだが、中華と聞くとどうしても栄養が偏ってしまったり、味付けが濃くて単調なものになりがちな気がしてならないため作った事は一度も無い。桜も麻婆豆腐や担々麺といった辛いものが苦手らしく、中華はそのイメージが強すぎるため作れないとか。

 

 

 まあ、朝から中華なんて重い物は食べる気は無いが、肉まんとか中華スープなら比較的軽いし朝には最適かもしれない、作れればの話だが。さて、そろそろとろろ汁に手を付けるか。

 

 

「桜、醤油取って。」

「あ・・・・・・先輩のお醤油ちょうど切れてますよ?」

「じゃあ、藤ねえのでいいや。取って。」

「藤村先生、よろしいですか?」

「・・・・・・」

 

 

 無言で頷く藤ねえ。やっぱり、今日の藤ねえは何か変だ。変なのだが、気にしたって仕方ない。

 

 

「はい、先輩。どうぞ。」

「さんきゅ、桜。」

「あ、士郎さん!私も下さい!」

「おう。いいよな、藤ねえ?」

「・・・・・・」

 

 

 無言を貫く藤ねえ。新聞で顔を隠しているため、その表情は伺い知ることは出来ない。まあ、別にいいだろう。藤ねえだし。醤油をまず響のとろろ汁にかけてやり、次に自分のとろろ汁にかける。少しばかりかき混ぜ、ご飯にかけ、それをかきこむ。このとろろの風味と醤油の辛さが複雑に絡み合ってーーーーーー?

 

 

「ごはっ!?」

「んぐっ!?」

「先輩!?」

「響!?」

 

 

 待て待て待て待て待て!!俺がかけたのは醤油のはずだ。だが醤油にこんな辛みは無いし、こんな刺激的な味はしない。しかし色はどうみても醤油のそれである。つまり、これはーーーーーー

 

 

「おい!これ、ソースだぞ!ソース!しかもよりにもよってオイスター!」

「けほっ!けほっ!士郎さん、す、凄く辛いです!マズいです!」

「先輩、大丈夫ですか!?」

「ちょ、ちょっと!?響、大丈夫なの!?」

 

 

 桜と未来が心配そうにしている。これはとろろへの挑戦状、もはやとろろ事変と言っても差し支えあるまい。しかし、まさかここまで合わないとは・・・・・・。そのとろろ事変を起こした当人は、「ふふん、どうだー!参ったか!」とでも言いたげな表情で俺を見ている。それで思い出した。そうだ、確か終業式前日に藤ねえの学校での渾名である゙タイガー゙を、うっかり言ってしまったのだ。それを聞いた藤ねえが、

 

 

「うわーーーん!!!士郎のばかーっ!!」

 

 

 と、涙を流しながら走り去ってしまい戻って来たのは3時間後の正午10分だった。くそ、まさかあれを根に持っていたとは盲点だった。だが、それとこのとろろ事変は別の話だ。

 

 

「藤ねえ、何してんだよ!?」

「はっはっはー!どうだ、参ったか!士郎が朝ご飯の準備をしている間に、こっそりと醤油とソースのラベルを貼り替えて置いたのだー!」

「小学生かっ!藤ねえ、いい加減にしないと誰も貰ってくれなくなるぞ。」

「うん?別に士郎が貰ってくれるから平気だよ?」

「そんなわけなーーーーーー」

 

 

 そんなわけない、とは言い切れまい。何せ藤ねえの実家はいわゆるヤの付くお家柄であり、藤ねえと付き合うという事はヤの付くお家柄の人達とも付き合うという事に他ならない。そのせいか、未だに異性と付き合った事が無いという悲惨な状況になっている。二十代半ばと言えば、最低でも2、3人くらいは異性と付き合った事があると思う。それがないというのは、いくら何でもヤバいと思う。油断してれば、30歳なんてあっという間にやってくる。

 

 

 それでも、だ。

 

 

 別に実家から出ろ、なんて言うつもりは無いし、俺の家に来るな、と言うつもりも無い。ただ、せめて食費と自炊程度はしてほしいと思う。

 

 

「それよりもーーーーーー」

「あー、小言なら帰ってきてから聞くから!今日は入学式でしょ?私、受付だから早く行かないといけないのよー!」

 

 

 そう言って、朝飯をズババババーっと食べ終えると、

 

 

「じゃあ、行ってきまーす!皆、遅れないようにねーっ!!」

 

 

 そんな台詞を残して走り去っていった。つくづく嵐か何かなんじゃないかと思う。

 

 

「全く忙しないな・・・・・・。おい、響。大丈夫か?」

「は、はい。何とか・・・・・・。」

「悪かったな。まさか、ソースとは露ほども思ってなくてな・・・・・・。」

「い、いえ!気にしてません!大丈夫です!むしろこれもアリじゃないかなーって。」

「いや、それは大丈夫じゃないだろ!?まさか、今ので味覚がおかしくなったのか!?」

「じょ、冗談ですよ!冗談!あ、あはは・・・・・・。」

「笑えない冗談だぞ、それ・・・・・・。」

 

 

 その後、どうにかソースをかけてしまったとろろ汁を完食し、食事は終わった。桜に片付けを手伝ってもらい、全部終わったところで時刻はまだ7時10分、あまり早く行っても暇を持て余すし響と未来を部屋に案内でもするか。

 

 

「響、未来。今のうちに荷物を部屋に運ぼう。帰ってきてドタバタするのもアレだしな。」

「いいですけど、部屋ってどこになるんですか?」

「ああ。この家には離れがあってな、そこの一室が2人の部屋だ。案内するよ。」

 

 

 立ち上がり、2人のボストンバッグを抱える。基本的に家の離れはお客さん専用なのだが、家に来るお客さんで泊まっていく人は少ない。なので、部屋はそこそこ余っているため、2人の部屋を用意するのはそう難しい事じゃなかった。そして、2人が下宿する部屋に着く。

 

 

「ここが2人の部屋だ。」

 

 部屋のドアを開ける。部屋の中はそこそこ広く、6人くらい友達が入ってきても不自由ないくらいには広い。

 

 

 内装は藤ねえの親父さんとそこに所属する人達に手伝ってもらい、2人分の箪笥や本人達の希望で二段ベッドがある。それ以外の家具は桜と少しだけ藤ねえが選んでくれた物で、かなり女の子らしい部屋になっている。というか、家具の8割は桜が選んだ物で、藤ねえのはぬいぐるみや置物しかない。もう少し考えたらどうなんだ、あの虎は。

 

 

 しかし多分だが、俺が選んだらこうはならなかっただろう。そう考えると桜様々だと思う。いや、本当に。もし、逆だったらこの部屋は藤ねえワールドに支配されていたに違いない。響と未来はといえば、部屋の内装に驚いているようだった。

 

 

「これ全部、士郎さんが選んだんですか!?」

「いや、俺はこんな風には出来ないよ。箪笥と二段ベッド以外は桜と藤ねえが選んでくれた物だ。と言っても桜が選んだ物がほとんどで、藤ねえのはぬいぐるみとよく分からない置物しか選んでない。」

「そうなんですか・・・・・・。ありがとう!桜ちゃん!」

 

 

 そう言って桜に抱きつく響。桜は顔を赤らめながらも嬉しそうな表情をしていた。しかし、一瞬背筋に悪寒が走る。ちらっと未来を見る。・・・・・・のは見なかった事にしよう。若干黒いオーラが出ていた気がするが、そんな事は無視しておこう。話しかけたら確実に火傷するのは俺の方だ。しかし、女の子同士でああいう事をするのは普通の事なんだろうか?身近な女の子なんて、桜と響と未来以外は関わりはないし、藤ねえは論外だし。一種のスキンシップなんだと思っておくか。

 

 

「とりあえず、荷物は二段ベッドの一段目に置いとくぞ。帰ってきたら荷解きしろよ。」

「あ、はい!分かりました!」

「すみません、士郎さん・・・・・・。荷物、ここまで運んでもらんじゃって・・・・・・。」

「気にするなよ・・・・・・。って、もうこんな時間か。」

 

 

 部屋の時計は7時半を回ろうとしていた。

 

 

「そろそろ行くか・・・・・・。」

「え、し士郎さんって今日学校はお休みなんじゃ?」

「ああ、生徒会に入ってるクラスメイトの手伝いに行くんだ。式の後片づけもするから、響達とは入れ違いになるかもな。」

「そうですか・・・・・・。」

「そう残念そうにするなよ、桜。後片付けもするって言ったろ?外にいるのは変だろうって舞台袖に待機する事になってるんだ。だから3人の晴れ姿はちゃんと見れるよ。」

「「「本当ですか!?」」」

「綺麗にハモったな3人とも・・・・・・。」

 

 

 3人の目はキラキラ輝いている。そんなに俺に見て欲しいのだろうか?というか、もう時間じゃないか!?

 

 

「じゃあ、先に行ってるな!桜!鍵は任せたからな!」

 

 

 返事を聞くよりも先に、玄関まで走る。途中、自分の部屋でスマホを回収し、学ランの右ポケットにしまう。手早く靴に履き替えて学校まで全速力で走る。

 

 

「はあっ、はあっーーーーーー」

 

 

 どうにか時間内に到着出来たみたいだ。家を出たのが7時45分だったから、15分くらいで着いたらしい。呼吸を整えながら、体育館に向かうとーーーーーー

 

 

「遅いぞ、衛宮。」

 

 

 少しご立腹のクラスメイト、柳洞一成がいた。一成は普通科の生徒会の副会長で、冬木市の深山町にある柳洞寺という寺の跡取りだったりする。本人は、「俺などまだまだ半人前の坊主に過ぎん、喝。」などと言っているが、俺から言わせれば十分立派なものだと思う。さて、とりあえず一成に謝罪と弁明をしなくては。

 

 

「一成、遅れて悪かったよ。」

「遅れるのは別に構わんが、せめて連絡の一本くらいよこさんか馬鹿者。それを忘れるほどの事があったのか?」

「ああ。ほら、今日入ってくる新入生にさ、うちに下宿する女の子達がいるってのは話したろ?」

「ああ、聞いたぞ。確か、音楽科の生徒なのだそうだな?加えて、衛宮の中学時代の後輩とも聞いた。」

「おう、それでその子達を部屋に案内して雑談してたら遅くなっちまった。」

「ふむ、まあそれならば仕方あるまい。だが、それなら俺の頼みなど受けねば良かったのではないか?」

「そういうわけにもいかないだろ。毎年、普通科と音楽科は一緒に入学式をやるから、人手はいくらあっても足りないらしいじゃないか。」

「まあな。両科の生徒会や職員を合わせても、椅子の配置は入学式の直前までやる始末だ。故にボランティアを募ってはいるのだが、如何せん雀の涙ほどの人数しか集まらん。だから、衛宮にも頼んだわけだ。衛宮なら、きっと受けてくれるだろうと思ってな。」

「俺も大変そうだなとは前々から思ってたしむしろね願ったり叶ったりだよ。あいつらの晴れ姿を近くで見れるわけだしな。」

「それは良かったな。彼女たちもさぞ喜ぶだろう。」

 

 

 さて、と一成は区切り、

 

 

「雑談に興じるのはこの辺にしておこう。我々も作業に取りかからねば、本当に間に合わなくなる。」

「そうだな。じゃ、やるか一成!」

 

 

 俺達は作業に取りかかった。一成はまだ終わっていない装飾の取り付けを、俺は残り3分の1はど残っている椅子の配置に回った。10分ほどで椅子は残り200程度に減り、その辺で装飾の取り付けが終わった一成を始めとする人達が合流し、8時半には全ての作業が終わった。

 

 

「意外と早く終わったな。これなら、俺が手伝わなくても良かったんじゃないか?」

「いや、衛宮がいたから早く終わったのだ。会長殿もお前に感謝の意を伝えてくれと言伝を賜ったしな。」

「そうか。それなら良かった。」

「さて、我々も移動するぞ衛宮。」

「分かった、一成。」

 

 

 すでに体育館の中には人が入り始めている。生徒も、その保護者た今年の入学者のほとんどはもう来ていると見ていいだろう。

 

 

 目で見てすぐに分かるのは、男女比だろう。入学した生徒の男女比を10と仮定した場合、男子3に対して女子が7くらいの割合である。普通科だけなら男女比は男子7の女子3くらいなのだが、先述した比率になるのは音楽科が女の子しか入学出来ない事が関係しているだろう。

 

 

 今年入学する普通科の人数がおよそ250人、対し音楽科はその倍の500人ほど。仮に男子が150人だとしても、女子の人数は男子の4倍となり、必然的に女子の比率が高くなる。結果として、元々が女子校などでは無い限りはありえない比率が完成している。

 

 

 まあ、もしかしたら入学した男子の中には、「女子が半分以上なんて最高じゃねえか!ここが桃源郷か!」なんて邪な考えを持って入学した奴もいるかもしれない。

 

 

 だが、基本的に普通科も音楽科も互いに関わる事があるのは体育祭や文化祭の時だけで、それ以外は知り合いがいない限りは全く以て縁は無いのである。また、音楽科は校舎が普通科より離れている上に校舎以外の部分も普通科と同じ様に揃っているため、余計に縁がないのだ。

 

 

 ちなみに音楽科に行く場合は、音楽科の生徒と一緒に入るか許可証を事務室で見せる以外の方法では校則違反扱いとなり、指導を受ける事になる。去年も恐らくそれで絶望したのか、たまに泣いている奴を見た気がするが自業自得というやつだろう、碌に調べないのが悪い。

 

 

 それからしばらくして、入学式が始まった。校長の挨拶から始まり、普通科と音楽科の生徒会会長からの新入生歓迎の祝辞、来賓の言葉といった具合に進んでいく。そして、閉会の言葉で締めくくられ、入学式は終了した。さて、後片づけに取りかかりたい所ではあるが、まずは響達の所に行ってやらなくちゃな。

 

 

「一成ーーーーーー」

「分かっている。下宿する子達に祝いの言葉をかけてやるのだろう?片付けは先にやっておるから、終わり次第手伝いに来てくれ。」

「悪いな、ちょっと行ってくる。」

 

 

 一成から許可はもらったので、響達の所へ向かう。3人とも俺が来るのを待っていたらしい。3人のブレザーの胸部分には造花のコサージュが付けられていた。桜が薔薇、響と未来がコスモスでどちらもピンク色に彩られていた。正直に可愛いと思う。とりあえずは、お祝いの言葉をかけてやるか。

 

 

「3人とも、入学おめでとう。響と未来は一緒のクラスになれたか?」

「はいっ!未来と一緒じゃなかったら、どうしようかと思いましたよ・・・・・・。」

「響、それは言い過ぎじゃない?クラスは別でも、休み時間には会えるんだし。」

「ええー!?そんなのやだよー、未来が一緒にいないと私、ライオンの檻に入れられた兎だよ!?餌になるのをビクビクと震えながら待つだけだよ!?」

「そんな事無いってば、皆優しいと思うよ?」

「そうかなあ・・・・・・?」

「響ちゃん、そんなに心配する事無いんじゃないかな?皆優しそうな子だし、響ちゃんを悪く言うような子はきっといないよ。」

「そうだぞ、響。病は気から、なんて言うんだし気にしすぎると良い事ないぞ?」

「ううー、努力します・・・・・・。」

 

 

 がっくしと肩を落とす響。全く、響の奴・・・・・・。励ましの意味を込めて軽く頭を撫でてやる。響は驚いたのか、

 

 

「ひあっ!?」

 

 

 なんて素っ頓狂な声を出した。

 

 

「し、士郎さん・・・・・・?い、一体何を・・・・・・?」

「ん?いや、励ましというか頑張れよっていう意味を込めて撫でたんだが・・・・・・。嫌だったか?」

「い、いえっ!とんでもないですっ!むしろ、その、嬉しいっていうか・・・・・・。」

 

 

 響は顔を真っ赤にしながら、ぼそぼそと何かを言っていたがかなり声が小さくて聞き取れなかった。まあ、気にするほどの事じゃないだろう。

 

 

「む?」

 

 

 スマホが鳴る。どうやら電話らしく、画面には[ネコさんと表示されていた。ネコさんは新都にある飲み屋兼酒屋゙のコペンハーゲン゙のチーフであり、俺からすればバイト先の先輩に当たる。最近まで知らなかったのだが、藤ねえとは高校時代と同級生だという。それにしても何の用だろうか?

 

 

「はい、もしもし?」

『あ、もしもしエミヤん?いきなりなんだけど今日、午後暇だったりする?』

「午後ですか?特に予定は入ってませんけど・・・・・・。」

『そう、それならちょっと頼まれてくれない?父がぎっくり腰をやっちゃってねー、おかげでこれからアタシがお得意さんに配達行かなきゃいけないんだけど、そうするとお店に人がいなくなっちゃうのよ。だからーーーーーー』

「ネコさんが配達から戻ってくる間、店番してればいいんですね?」

『そゆこと。あ、その分お給金は弾むよ?エミヤん、今日はホントは非番だからね、その埋め合わせって事で1つ。』

「分かりました。じゃあ、午後に行きますんで。」

『エミヤん、ありがとねー。あ、あんまり慌てて来なくていいからね?配達は午後1時からだし、ゆーっくり来てねー。』

 

 

 じゃねー、と言って電話を切るネコさん。バイト自体は切嗣が亡くなってからすぐに始めたのだが、とはいえまだ当時中学1年の俺を雇ってくれる所はほとんど無く、その中で唯一雇ってくれたのばコペンハーゲン゙だけだった。バイトを始めてもう5年になるが、不満は無い。ネコさんもネコさんのおやじさんも良い人ではバイトの先輩達も良い人達ばかりだ。むしろ、これで不満があろうものならとっくに辞めていると思う。

 

 

「あ、しまった、何時に終わるのか聞くの忘れちまったな・・・・・・。」

「先輩、誰からの電話だったんですか?」

「桜。ああ、バイト先のチーフだよ。ネコさんっていうんだけど、その人のおやじさんがぎっくり腰をやっちまったみたいでな・・・・・・。それでお得意さんに配達に行かないといけないから、戻ってくるまでの店番を任された。だからちょっとばかり帰ってくるのは遅くなるかもしれない。」

「分かりました。あ、でも晩ご飯どうしましょう?今日は先輩が当番ですよね?」

「ああ、それなら大丈夫だよ桜。少なくとも夜までいる、なんて事にはならないだろうし帰りに商店街で買い物してから帰るよ。それに、桜達は今日入学しただろ?だからそのお祝いとして、腕によりをかけて作りたいんだ。」

「ふふ、じゃあ響ちゃんと未来ちゃんと一緒に楽しみに待ってますね。」

「はは、こりゃ下手なもんは出せないな。」

 

 

 桜達と分かれて、一成と合流する。特に事故もなく片付けは滞りなく終わった。

 

 

「すまんな、衛宮。大いに助かった、この礼はいつかさせてもらうとしよう。」

「いいって、このくらい。むしろ、手伝える事があるなら言ってくれよ。いつでも力になるからさ。」

「うむ、その時があればよろしく頼む。時に衛宮。先ほどは誰と電話で話していたのだ?」

「ああ、バイト先のチーフだよ。配達に行ってくるから店番を任された。」

「そうか、衛宮はアルバイトをしていたのだったな。それは失敬した。では、些末事はこちらに任せて、衛宮は勤労に勤めてくれ。」

「いいのか?ここで抜けちまって?」

「別に構わん。残っている作業は配布するプリントの確認作業くらいだからな。」

「分かった。じゃ、また明日な一成。」

「うむ、また明日会おう。」

 

 

 一成と別れて体育館を出る。新入生達はすでに教室へ移動したらしく、生徒の姿は委員会や部活で来たであろう生徒以外は見受けられない。靴を履き、学校を出る。今が午前10時半、一度家に帰って響達のお昼を作ればちょうどいい時間になるだろう。

 

 

 家に着き、冷蔵庫の中を確認する。ふむ、これならおにぎりと唐揚げと豆腐とネギの味噌汁と人参とごぼうのきんぴらと漬け物にするか。

 

 

 さて、何を作るかは決まったんだから、さっさと作るか。

 

 

 今日と昨日の余ったご飯をレンジで温めて、その間に人参とごぼうの下処理を済ませる。ごぼうはささがきに切り、人参は一口大に切る。薄口醤油とみりん、塩と調理酒を鍋に入れ火にかける。下処理をした人参とごぼうを鍋に入れ煮詰める。温め終わったご飯を小分けにしてその中央に、自家製の梅干し、鮭、昆布、おかか、ネギ味噌を小分けにしたご飯の上に載せて正三角形の形にしていき、5種類の具が入ったおにぎりが各6個ずつ完成する。

 

 

 味噌汁も水を切った豆腐とネギを昆布と鰹節で取った出汁の中に入れ味噌を溶いて一煮立ちさせて完成した。漬け物は一口大に切って皿に盛りつけておいた。あとはテーブルの上にラップをかけたおにぎりが乗った皿を置き、帰ってきたら食べるように書き置きをしておく。

 

 

「さてと、作り終わったしそろそろ行くか。」

 

 

 土蔵から2号機と呼んでいるママチャリを出し、新都の゙コペンハーゲン゙に向かうためにペダルを漕ぐ。未遠川を隔てる冬木市の新都と住宅が立ち並ぶ深山町を繋ぐ冬木大橋の真ん中を越えたところで違和感を感じる。違和感、というよりは妙な感覚とでも言うべきだろうか?その感覚を確かめるため、一度自転車を停める。

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 妙な感覚がした方向を見る。その方向は、冬木大橋の下に流れる未遠川の上流に位置する所で、確かあの近辺は何も無いだだっ広い森が生い茂っているだけのはずだ。なぜ、そんな方向に違和感を感じたのだろうか?

 

 

「・・・・・・気にするだけ無駄だな。あそこには何も無いんだし、きっと気のせいだ。」

 

 

 改めて、゙コペンハーゲン゙に向けてペダルを漕ぐ。゙コペンハーゲン゙は新都の繁華街にあり、少しだけ新都駅に近い所に店を構えている。

 

 

「おー、来た来た。エミヤん、急にゴメンねー。」

「別にいいですよ。俺もちょうど暇を持て余してたところですし。」

「ははっ、ならホントにちょうどよかったワケだ。んじゃ、さっそくで悪いけど店番お願いね。夕方の6時までには帰ってくると思うから。」

 

 

 そう言ってネコさんは配達に行った。さすがに仕事中にスマホをいじるのはどうかと思うので、電源を切っておく。

 

 

 店番といったって、まだ昼間だ。こんな早くから飲みに来る人はいないだろう。というか俺が未成年なので、俺が勝手にお酒を出すとネコさんの監督義務責任が生じるためあまりよろしくないのだ。

 

 

 このお店のお得意様は5年前から働いているので、おおよそ把握している。大体は深山町に住むお年寄りが中心で、冬木市外に10件程度といったところだ。しかし、その冬木市外の10件は近くに密集している所もあれば、かなり離れた所にあったりとそれなりに時間がかかる。

 

 

 さて、やる事もあまりないので、在庫確認でもしよう。お客さんが来ればすぐに対応出来るように、出来るだけレジ付近の棚の在庫を確認する事にするか。そうして、ネコさんが出ていっておよそ5時間が経過しようとしたところで、

 

 

「エミヤん、ただいまー。ゴメンねー、遅くなっちゃって。」

 

 

 ネコさんが帰ってきた。時間はネコさんが言っていた夕方の6時ちょうどを示していた。

 

 

「ネコさん、自分で言ってた時間ちょうどに帰ってきましたけど、何かあったんですか?」

「いやー、最後のお得意様の沢村さんの所の配達で時間かかっちゃってさー。沢村さんが、日頃のお礼がしたいって言ってきたもんだから無碍に断るワケにもいかなくて、沢村さんと世間話してたらこんなに遅くなっちゃったのよ。」

「沢村さんって、確かもう80歳超えてましたよね?」

「そうそう。しかも最近、ひ孫が出来たんだってさ。すっごく嬉しそうに話してたよ。おっと、それよりエミヤんにお礼しなきゃねー。はいこれ。」

 

 

 そういってネコさんは5万円を渡してきた。

 

 

「いいんですか?こんなにもらっちゃって。」

「日頃のお礼も込みだからね。いいから貰った貰った。遠慮する事ないって。」

「まあ、貰えるなら貰いますけど・・・・・・。」

 

 

 普段から一週間バイトをしても手に入らない大金だ。貰えるのなら貰っておこう。

 

 

「今日はありがとねー、おかげで助かっちゃった。あ、そうそう。藤村の奴に、たまには顔を見せに来いって伝えといてねー。」

「分かりました。じゃあ、また明日。」

「また明日ねー。バイト、遅れないように。」

 

 

 ゙コペンハーゲン゙を出発する。商店街はまだ閉まっていないし、早めに帰って夕飯を作ってやんないと。響達はともかく、藤ねえがうるさいだろうしなあ。まあ、もとより今日は3人の入学祝いのつもりで豪華にするつもりだったんだ。空腹は料理をより美味しくする何よりの調味料とも言うんだ、藤ねえも今日くらいは大人しく待っててくれるだろうーーーーーー

 

 

「・・・・・・え。」

 

 

 昼間に感じた妙な感覚が強くなってる・・・・・・!?

 

 

「これはただ事じゃないぞ・・・・・・!!」

 

 

 急いで未遠川の上流の森を目指す。未遠川の上流の森はだだっ広くはあるが、たびたび森林浴に訪れる人もいるため、舗装はされていないが道らしい道はある。その道を突っ切ろうとしたところでーーーーーー

 

 

「 Imyuteus amenohabakiri tronーーーーーー」

「なっ・・・・・・!?」

 

 

 急ブレーキをかけて自転車を止める。今のは歌、なのか・・・・・・?だが、歌というよりはむしろ魔術の詠唱に近いような・・・・・・?いや、それよりもーーーーーー

 

 

「今の声って、まさか風鳴翼・・・・・・?」

 

 

 何故、こんなところにいるのか。今のは、一体何なのか。一体、何が起ころうとしているのか。本当に、今の声は風鳴翼なのか。様々な疑問が頭の中を飛び交う。そして、その疑問が解決する前にーーーーーー

 

 

「♪~~~~」

「これは、歌・・・・・・?」

 

 

 気が付けば自転車を停め、歌が聞こえた方向に向かって走っていた。どうしてなのかは分からない。

 

 

 ーーーーーーーーただ、何故か行かなきゃいけない気がした。助けなきゃ、と思った。走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れーーーーーーーー! 理由なんて、今はそれだけでいい。とにかく今は走れ。きっとそこに、俺が望む答えがあるはずだーーーーーーー

 

 

 ザシュッ、ザシュッと音が聞こえる。恐らく、刃が付いたもので何かを切っているのだろう。その音を頼りに、さらに進むとーーーーーー

 

 

「!?これって、戦車だよな・・・・・・?」

 

 

 走る足を止める。目の前に現れたのはカーキ色の自衛隊が使用する戦車だ。だとすれば、近くに自衛隊がいるはずなのだが、何のために自衛隊がいるんだ?少なくとも冬木市や冬木市周辺の町には自衛隊基地はない。それに、自衛隊が出動するような事は何も無いはずだ。しかしお聞こえているこの歌声はーーーーーーーー

 

 

「やっぱり、この声は風鳴翼だよな・・・・・・。」

 

 

 聞き間違える事なんてありえない。これは間違いなく風鳴翼の歌声だ。だが、いつも聞ぐアーティスドとしての歌ではない。これはむしろ、殺伐とした戦場に身を置く戦士が戦いの前に自らを鼓舞するために歌うそれに近い。息を潜めて、戦車の側面から進む。

 

 

 ーーーーーーーー思えば、この時に引き返すべきだったのだ。そうすればーーーーーーーーいや、遅かれ早かれ俺はきっと関わる運命だったのだろう。それだけははっきりと分かる。そして俺が見たのはーーーーーーーー

 

 

 不可思議なスーツと機械を身に纏い刀を振るう風鳴翼が、ノイズと戦う姿だった。

 

 

「なっ・・・・・・!?ノイズッ!?」

 

 

 気づかれない程度に小さな声を上げる。風鳴翼が身に付けている物も気になるが翼さんが戦っているのは、間違いなくノイズだろう。ノイズは、ざっと100体ほど。あのライブ会場ほどではないにせよ、これでは多勢に無勢だ。1人でどうにかなる相手じゃーーーーーーーー

 

 

「はっーーーーーーーー」

 

 

 それは、一瞬の出来事だった。翼さんが一息吐いたかと思った次の瞬間には、ノイズは《蒼ノ一閃》の元に切り刻まれていた。

 

 

「す、すごいーーーーーーーー」

 

 

 素直に漏れ出た感想。お世辞を抜きにしても、きっと同じ感想が出たと思う。それほどまでに圧倒的で、何よりもその剣を綺麗だと、美しいと思った。だが、その一言が余計だった。

 

 

「ーーーーーーーー!誰ッ!」

「っ、しまったーーーーーーーー」

 

 

 声に出してしまえば、きっと気づかれると分かっていた。ただ、あまりに突然の出来事に頭が働かない。声を上げた何者かを引きずり出そうと、翼さんは声を荒げて叫ぶ。

 

 

「隠れているのなら出て来なさいッ!」

 

 

 先ほど自衛隊のざわつく声が聞こえる。翼さんは俺が身を潜めている戦車を睨みつけている。逃げようと、後ずさるがーーーーーーーー

 

 

「出てこないのであれば、斬り伏せる事も厭いはしませんが・・・・・・。さあ、誰かいるのなら出て来なさいッ!我が(つるぎ)の錆になりたくはないでしょう?」

 

 

 先手を打たれた。恐らくこれは最後通告、出なければ問答無用でやられるという事だ。ここは素直に出ていくしかない。俺は両手を上げて、身を潜めていた戦車の側面から翼さんの前に出る。

れと同時に自衛隊からざわめきが起こる。

 

 

「あなたね・・・・・・。先ほどから私の戦いを覗き見ていたのは。」

「いや、その、別に覗き見るつもりなんてーーーーーーーー」

「言い訳は無用よ。この戦場(いくさば)にいる以上、相応の覚悟はしているのでしょう?」

「そんな、覚悟なんて何もーーーーーーーー」

 

 

 そう、覚悟なんてしていない。ここにいるのは、違和感を感じて来たから。何かがあるのだろうとは予感していたが、だがそれもいざという時は逃げればいいと思っていたからだ。そんな言い訳はもちろん通用しないだろう。

 

 

「ーーーーーーーーはあ。」

 

 

 不意に翼さんが溜め息を吐く。

 

 

「仕方ありません、あまり強引な手を取りたくはなかったけどーーーーーーーー」

 

 

 一体、何をするつもりなんだ・・・・・・?

 

 

「あなた、名前は?」

「え・・・・・・?」

「あなたの名前よ、それくらいあるでしょう?」

「・・・・・・衛宮士郎、です。」

「衛宮士郎、ね・・・・・・。」

 

 

 背筋がぞわりとする。何をされるんだ、俺は。

 

 

「では、衛宮士郎君。これからあなたには、私達と一緒に来ていただきます。」

「なーーーーーー」

「拒否権はありません。強制連行、という形になってしまうのが大変心苦しいですが・・・・・・。」

 

 

 申し訳なさそうな顔をする翼さん。そして、がしっと両腕を拘束された。

 

 

「なんでさーっ!?」

 

 

 俺の叫びは誰にも届く事無く、夕暮れの空に消えた。




 さて、如何だったでしょうか?翼さんの所を書いてる時、


「そういや一期は防人口調じゃねえ!割と女の子らしい喋り方してたんだった!」


 と気づき、台詞部分を手直ししてたり。あと割と士郎を朴念仁として書いてますけど仕方ないですよね、士郎ですし。(某赤い弓兵を見ながら)


 リアルが忙しく書く時間があまりなかったり、あってもその時間をレアルタに回したりして中々進まなかったりで大変でした。ゴールデンウィークは毎日投稿するつもりで書くぞー!無理だと思うけど。


 さて、強制連行された士郎は一体どうなるのか?気になるとは思いますが、次回をお楽しみに。では、また次回お会いしましょう。
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