暗い地の中暖かく、然れどもそとは秋風吹き草木枯れ行く。
そんな言葉が頭を行きかった。言葉は眼前に現れた嘗ては自分と同じ名を冠した獲物の前にあてどもなく消え去り、ただそれを狩り食らう。
先の見えぬ坑道のような通路を、数えで十になる男は大地に住む多くの者たちと違い、獣の毛をまとっている。
その姿は、多くの土地を支配する数多の種族の中で異彩を放っていた。
三週間ぶりに降った雨のせいでできた池を泳いでわたり、また獲物を探していく。
生まれてからこういった生活を送っているため、何の違和感もなくこなしているが、最近ではさすがに体にがたが来ているように思えてくる。
そう彼の名は多くの人は『もぐら』と呼んでいる。
彼の一族には伝説がある、千里穴を掘りきれれば立派な竜に成れるという伝説だ。
彼がまだ小さかったころ母親から教えられた、一族なら誰もが耳に聞く有名な物語。
はるか昔、竜がこの世界を統べていた時代、祖先のそのまた祖先一族は誇り高い竜であったという。
そんな馬鹿げた話があるのかと思ってしまったこともないわけではない。
実際に老いた自分の手を見てみると、そこには鱗が確かに存在している。
「ならばもう少しだけがんばってみるか……」
そしてまた土を掘り、獲物を探す作業に戻る。
この通路は代々受け継がれてきたものであり、その広さは縦横幅一里にも及ぶ。
しかしこの冬を越せるかどうか分からない、いつも蓄えている食糧が今年はすくないのだ。
「いや、いいか」
もはや気にするほどの寿命もあるまい。ぼやぼやとあたりをつけながらもぐらは急ぐともなく、小さな石の転がる音に耳を傾けながら歩を進めた。
やがて本格的な冬が訪れる。一時間15mもの速度で掘り進めることのできる彼の体も衰え、もうそんなに早く掘ることもできない。
「どの道、掘るしかないのだろう?」
もう幾ばくもない命の炎を燃やし掘り続ける。
幼いころからやってきたことだ、自分には他にはない。竜になることが夢だった。
それも叶いそうにない。先ほど食べた食料が保存してあった最後のものだった。
竜に似ているのは結局手足のうろこ、鋭い歯のみである。
「夢は叶わないからこそ夢か」
いつになく饒舌な口調で独り語る。もうとうに彼は疲れてしまったのだろう。
翌々日彼は最後まで掘り続け、やがて動かなくなった。
「なあ、おい見てみろって」
「ああ、すげええな」
そんな声が当たりに広がる。彼らは造成に携わる人たちだろうか。
「いや―こんなの始めて見たぜ」
彼らが造成している最中興味本位で通路を広げてみたようだ。
「それにしてもすごいな、いったい何がすんでいたんだろうな?」
そこに広がるは一面曲がりくねり、ある程度均一なひたすら長い穴の開いた通路だった。
「もしかして竜が昔すんでたんじゃねえの?」
「あれか?土に住んでる竜か、どりゅう……土竜か……」
そう彼は生きている間は決して、文字通り日の目を見ることはなかった。
しかし、彼がこつこつと積み上げてきたものは確かにそこにあとを残していたのだ。
生きている間は決して成れなかった、伝説の竜になることができたのだ。
そう私もたとえ地味でも日々の積み重ねをすることで、後から見たら大きな竜となる。
そんな人生を送りたい。
大体全部嘘だけど一個だけ本とのことがあるつもり