ニセコイ Another story 俺と楽の波乱万丈な日常!? 作:覇王神 ゾディアーク
第31話です!文化祭編・・・完結‼︎
今回気がついたら1万字超えてましたww
少し長めですがご了承ください
(ここは・・・何処だろうか?)
千棘は薄暗い何処かでゆっくりと目を開けた。
この場所からは僅かな異臭がしており、鼻腔をツンと刺激する。窓ガラスは割れ、様々な物が散乱している。恐らく、倉庫の中だろう。
千棘は動こうとするも動けない。
手首は後ろに伸び、足首も椅子に縛り付けられている。しかも金属でだ。流石の千棘も鉄の鎖を引きちぎれる訳がない。
「よぉ・・・嬢ちゃん?元気か?」
千棘の前にはみすぼらしい男が1人立っていた。
そして、同様の男がもう1人。千棘の周りには
数十人の仲間と思われる輩がいた。
「あんた達・・一体何のつもり・・?」
「ほぉ〜?流石大ギャングのご令嬢といったところか。まったくビビってねぇな。」
「ふん!舐めないでくれる?アメリカじゃあんた達みたいのにしょっちゅうちょっかい出されてたからね。」
アメリカの治安は日本よりも悪い。強盗や殺人、マフィアの抗争などしょっちゅうである。
幾度か狙われた事があったが、こうして捕まったのは初めての経験である。
しかも、千棘を攫うという事は、ビーハイブへの戦線布告も意味している。それに、何か狙いがあるはずだ。ビーハイブの領地?それとも資産だろうか?
「おっと・・勘違いするな?俺たちは嬢ちゃんを傷つけるつもりは微塵もねぇぜ?俺たちは
お嬢ちゃんの組織と取引きをしてぇんだ。大事な商品を傷つけるわけにゃいかねぇしな。」
千棘を人としてでは無く、商品として扱っている時点で人間としてかなり格下である。
それに取引きとは一体何だろうか?
「オメェ・・・モンチュを知ってるか?」
「・・・・!?」
「その顔だと知ってるみてえだな・・?オメェらビーハイブにモンチュを探して、拘束した状態で俺たちに引き渡せ。それが取引きの内容だ。」
モンチュとは、正義の裏の世界の異名である。
こいつらは正義に何か恨みでもあるのだろうか?
「俺たちは元紫獅会のメンバーだ・・!モンチュにボコボコにされて拘束されたが何とか逃げ出したんだ・・・!そして、サツに追いかけ回され、飯もまともに食えやしねえ!俺たちは誓った・・!俺たちはあいつをこの手で殺す・・・!そしてその名声を裏の世界で轟かせてやる・・!伝説のヒットマン モンチュを殺した男ってな!!そして、また紫獅会を再建してやる・・・!うっへへへッ!アハハハハ!!」
こいつらはどうやら正義が壊滅させたはずの
組織の残党らしい。汚らしい笑い声に不快感を覚える。
こいつらはかなり壮大な野望を企てて
しかも正義を殺すと抜かしている。ふざけるんじゃないと心からそう思う千棘。
「あんた達如きに・・・!モンチュがやられる訳ないでしょ・・!それにきっとビーハイブが私を助けに来てくれる・・!」
「助けに来てくれるだ?あっははは!笑わせるぜ!嬢ちゃんを人質に取ってる以上ビーハイブも手え出せねえはずなのによ〜?大人しく俺たちに従うしかねぇんだよ!!」
千棘に怒鳴りつける男。どうやらそうとう恨みを持っているらしい。これは完全な逆恨みなのだが。完全に自分はとばっちりを受けたという事だ。
こんな奴ら・・すぐにでもやっつけてやりたい・・!千棘はそう思った。
そして、思い浮かべた。鶫や正義が助けに来て
奴らをボコボコにする姿を。そして、先陣を切って助けに来てくれる”楽”の姿を。
(そんな・・訳ないわよね・・・。)
今、楽とは喧嘩中だ。しかも、一度顔を引っ叩いている。嫌われて当然だ・・・。ありえないと冷めた表情で想像図をかき消す。
*ーーーーー
「鶫。作戦を考えるぞ。」
「あぁ。」
「兄貴もちょいとばかり手伝ってもらうぜ?」
正義と鶫と楽はとある無人の建物の屋上にいる。正義はそこにタブレットを置き、地図を開いている。そのタブレットには膨大な量のデータが含まれていた。
「すげぇ・・・こんなに情報が・・」
素直に感嘆する楽だが、そんな場合ではない。
千棘が危ない目に遭っていることには変わりないのだから。
「えっとだ。まず、そいつらは外部から来たマフィアの一員だと考えよう。そうなると、この街の土地勘は弱いはず。人間の心理的に近くて
人通りの少ない、廃倉庫に千棘がいると考えられる。だとすると、ここだな。」
独学で作り上げた犯罪心理を使い、勘に頼りつつ、論理的な推理を立てていく正義。そして、居るだろうと考えられる場所に指をさす。
「この倉庫の広さだと、数十人が限界か。それに大ギャングのご令嬢を攫ったんだ。それなりの覚悟があってやってるとしたら、奴らは武装をして俺たちを待ち構えてる事だろう。そこでこうしたいんだが。」
楽と鶫の耳元に作戦内容を呟く正義。今回の作戦は楽が重要になっている。
「ゲッ!?だ、大丈夫なのかよ・・?」
楽はその作戦内容にゾッとし、冷や汗を垂らす。
「安心しろ。私と一条正義がいるのだ。何かあったら助けてやる。」
「大丈夫だ。」
「本当かよ・・・。」
楽はものすごく不安そうな表情をするが、
すぐに覚悟を決める楽。
「しゃあねぇ・・!やってやるよ!」
「それでこそ兄貴だぜ!」
「一条正義。奴らを殲滅するぞ・・!お嬢に手を出した事を後悔させてやる!」
鶫はグワッと強張った表情し、獲物を狩る虎のような表情となった。まさにブラックタイガーである。
「了解・・・。さぁ・・お料理タイムだ。」
三人とも気合十分。こうして、千棘奪還作戦が幕をあけるのだった。
*ーーーー
今は一体何時なんだろうか。
自分の所持品は学校に置いてきてしまったため
今の時間を報ずるものはない。
「さぁて・・そろそろ奴らが来る頃かもな。銃を構えとけ。」
「あぁ。」
ビーハイブが自分たちここにいる事にそろそろ気付くだろうと想定した男は仲間に指示を出し、銃を構える。
「フッフッフッ!見ものだなぁ〜。ビーハイブの奴らが俺たちのなすがままにされる姿は〜!」
この男の歯は数ヶ月間磨いていないのだろうか。真っ黄色に染まった歯を見せながらゲラゲラと笑っている。
「あんた臭いからあっちいってて・・。気持ち悪い。」
「ふっ。調子に乗るなよ?このガキ。決めたぜ。お前さんの消費期限が過ぎて、ビーハイブの奴らがモンチュを探している間に俺と遊ぶか。気持ち良くさせてやるぜ?気の強い娘は
俺の好みだからなぁ・・・!」
こいつ・・・何処までも下衆な奴である。
自分を商品に置き換えて、期限が過ぎたら
すぐに廃棄してしまうように、自分の期限が過ぎたらお遊びに使うつもりだ。はなから、こいつは自分に手を出すつもりでいたのだろう。となると嘘をついていたという事だ。このままだと不味い・・・!
(お願い・・・!助けてッ‼︎)
千棘は心の中で叫ぶ。きっと助けに来てくれる!と。
「千棘〜〜〜〜〜‼︎‼︎」
何処からか聞き覚えのある声が聞こえる。
「お?どうやらお出ましの様だな?」
いや、この声はビーハイブの奴らの声でもない。楽の声だ。
すると、正面の大きなドアがガラガラッと開き、光が差し込む。
「ハァ・・!ハァ・・!」
楽は走ってきたのだろうか。息をハァハァと吐いている。それに、ビーハイブの誰かがいると思いきや誰もいない。
(ら、楽!?)
それよりも驚いたのはここに楽が来たという事だ。僅かに来る事を願っていた千棘だったが
本当に来るとは思っていなかった。
「誰だぁ?テメエ?」
リーダー格の男が楽にそう問いかける。
「俺は・・・ブラックタイガーだ!」
(・・・・!?)
何を言っているのだこの男は・・・!
ブラックタイガーは自分の親友である鶫の
裏の世界の名前である。それなのに、楽がブラックタイガーなわけ無い。しかし、この後
楽の行動に合点がいく出来事があった。
奴らは楽に注意をとられており、総員
楽の周りを取り囲んでいる状態なのだ。
今誰も千棘の事を見ているものはいない。
その時だった。
「大丈夫か?桐崎?」
「お、弟さん!?」
なんと、正義が天井から何かワイヤー的なものを吊り下げて、千棘の元へとずりずりと頭上から近づいてきているのだ。その姿は某アメコミの蜘蛛のヒーローのようである。
「シィー。静かにしろ。気づかれちまう。今この鎖外すから待ってろ・・!」
正義は丁寧に手首や足首を縛りつけていた鉄の鎖を解いていく。
「お嬢・・・!ご無事ですか!?」
「つ、鶫!」
鶫も正義同様にずりずりと近づいていた。
自分の無傷を鶫に伝えると心底安心したような表情をする鶫。
「よし。解けたぞ。」
鎖が解け、手首と足首に自由が戻る。数年ぶりに解放されたような気分である。
「桐崎は此処から窓を使って逃げろ。近くにタクシーを停めてある。そこにいろ。俺たちは彼奴らをぶっ倒してから行く。」
「で、でも・・!」
「心配入りません。お嬢。行ってください。」
正義と鶫はこちらを向かず、奴らの方を向きながらそう言う。ここは彼らに任せるべきだろう。
「わ、分かったわ。気をつけて。」
「「ええ(あぁ)」」
とは言ったものの、ここからどうするか。
千棘の救出は成功したが、今度は楽の救出をしなければならなくなった。楽は男たちに銃を向けられ、冷や汗がダラダラである。
しかし、正義には何処か余裕があり、ニヤッと笑みを浮かべる。
「貴様。何を笑ってる。貴様の兄が死にかけてるのだぞ?」
「安心しろよ。兄貴は死なねえ。それに、ちょいとばかり、奴らの銃を細工させてもらった。」
そう言って取り出したのは小さなマイクロチップだった。そう。このマイクロチップは、正義が自作した小型兵器の一部である。銃の機能を失わせる効果があるため、任務の際は愛用しているのだ。
「貴様は一体何処からそんなものを・・」
「完全自作だ。まぁ材料は任務の資金からな。」
まぁ疑問を抱くのも無理は無い。あのマイクロチップは簡単に手に入る代物ではないからだ。
「んだこいつ?弱そうじゃねぇか!あっははは!本当にあの有名なブラックタイガーなのか?」
そんな事をしている間に、幾ら銃が使えないとしても楽が危ないので、長話はここまでにしよう。
「おーい嬢ちゃん!こいつオメェのし・・・」
リーダー格の男が千棘のいた場所を振り返るがそこには誰もいなかったのだ。
「・・・!?クッソ!誰だ‼︎あのガキを逃したのは!?」
千棘が脱走した事に苛立って声をはりあげるリーダー格の男。先ほどまで絶対に逃げられないと思っていたのだ。それがより苛立ちを増させる。そして、脱走させた犯人を威嚇射撃で炙り出そうとするが、
「・・・!?銃が使えねえ!?」
トリガーを引いても、ガタガタ揺らしても
何も起きない。
「あの時と一緒か!クッソ!出てこい!」
してやられた!っと言わんばかりの表情をするリーダー格の男。正義に紫獅会を壊滅させられた時と全く同じ手口なのだ。
「俺だよ。」
「!?が、ガキ!?」
何処からとも無く真正面に突然と現れた
正義に驚くリーダー格の男。
「ドォラァアア‼︎」
「ぐぅおおおお!!!」
正義の右腕から繰り広げられる強烈な
ストレートパンチが顔面にクリーンヒットする。男は吹っ飛ばされ、置いてあったドラム缶に衝突する。
「ボス!?クソ!このガキ!」
正義の後ろをナイフで突き刺そうとする。
しかし、正義でない何者かにナイフをキックで弾き飛ばされる。
「グッ!?」
「フン‼︎」
「グァアア!」
そう。鶫だ。鶫はナイフを弾き飛ばした後、
男の胸部に強烈なキックを叩き込む。
「後ろがガラ空きだぞ?まだ訓練が足らんな」
「うるせぇ。良いからとっとと片付けるぞ。」
鶫と正義は後ろ合わせでファイティングポーズをとる。
「舐めんじゃねえぞ!このガキがぁあ!!」
鶫と正義はお互い見事なコンビネーションで
周りの男達を片付けていく。
「っぐ・・・」
周りの男達はボロボロになっていて、しばらく
マトモには動けないだろう。
「さぁてと・・後はこいつらを縛り上げて・・ん?リーダー格の男が居ねえ・・・。」
ドラム缶に吹き飛ばされた男はそこにはいなかったのだ。周りをキョロキョロ見渡していると
「おい!動けばこいつの命はねぇぞ!」
ボロボロの体で楽を人質にとっていた。
楽の頭に拳銃を押し付けていた。その拳銃には
正義のマイクロチップを仕掛けていない。いつでも発射オーライの状態なのだ。
「手を上げてこっちに来い!武器を捨てろ!」
「クッ・・・」
流石に下手に手を出せば楽が危ない。
渋々指示に従う。
「悪い・・俺が頼りねえばかりに・・!」
「今・・助けてやる。」
「ははは!この状況でどうやって助けるんだ?
このガキの頭がすっ飛ぶ姿を黙って見ておけ!」
男は完全に興奮状態になっていて、目も血走っている。自分でも暴挙に出てることに気がついていないのだろう。そこで、正義はある賭けに出たのだ。
「頭がすっ飛ぶのはテメェの方だ・・・おっさん!」
正義は服に仕込んであった日本刀を右手に構え、男へと突撃する。
男は正義の方に銃口を咄嗟に向け、発砲する。しかし、正義はその発砲した弾を、刀で弾き飛ばしている。人間業ではない。
「ば、バカなッ!?」
「チェックメイトだ・・・!」
ズガァアアアン‼︎
凄まじい音を立てて、壁が崩れていた。
鶫も一瞬何が起こったのか分からなかったがすぐに理解した。男は一瞬にして、壁の瓦礫の下敷きになっていたということと、正義が拳を男の顔面に叩き込んだという事だ。
「さぁてと。後はお巡りさん達に任せて、学校に戻るか。文化祭もあるしな。」
正義はちゃっかりと突入する前に警察に連絡していた。ちゃんと計画性がある所、流石伝説のヒットマンと言うべきか。楽が一時囚われてしまったのは想定外だったが。
「鶫。お疲れ様。帰ろうぜ。」
「あ、あぁ。」
正義は何事もなかったかのようにしれっとしている。しかし、
「兄貴?大丈夫か?」
「ガクガクガクッ!だ、大丈夫だ。」
楽は軽く倉庫の隅で震えていた。
余程怖かったのだろう。
正義達は決戦を終え、倉庫の外へと出た。
*ーーーー
外に出ると、そこにはタクシーが一台停まっていた。窓には千棘の姿が見えていた。
「ほら。兄貴。桐崎と話済ませてこい。」
「あぁ。」
正義と鶫はここは一旦2人だけにするために
席を外した。
正義は流石に疲れたのか地面に座り込む。
それを見た鶫も正義の隣に座った。
「お疲れ様。」
「あぁ。」
鶫が突然声を掛けてきたため、返事を返す正義。
「一条正義・・・!貴様に・・ちょっと・・話がある!」
鶫は顔を赤らめながらそう言う。
「何だよ?今回は助けてくれてありがとな。」
一方、正義はごく普通の表情でそう返す。
「その事ではない。」
「?」
正義は何のことかわからず、頭に疑問符が出ている。
「その・・・今まで・・態度を悪くして・・悪かった。それに・・貴様の顔を叩いてしまって・・・すまなかった。」
「んだよ。そんな事かよ。別にもう気にしてねぇよ。むしろ、俺の方に非があった。
謝るべきは俺の方だよ。悪かったな。」
正義も謝る事が恥ずかしいのか、鶫の顔を見つめ、顔を赤らめながらそう言う。
それを見た鶫は、
「そうだな。貴様の方に非があったな。さぁ、もっと謝ってもいいんだぞ?ほら、地にひれ伏せ。ウフフッ。」
「いや、なんでそんなにしてまで謝んなきゃいけねぇんだ!?なんか、謝罪のハードル上がってるし!?」
鶫は悪魔のような笑みでそう言ってくる。
まぁ、いつもの鶫に戻ってきてくれて何よりだが。
「はぁ〜この後演劇もあるな。家帰ったら飯も作んなきゃなんねぇし、スケジュールハードだぞこりゃ。」
正義にはこれからやらねばならないスケジュールがたんまりとある為、思わずため息を吐く。
「なぁ・・・一条正義。演劇というものは・・・楽しいのか?」
「ん?あれ?鶫、劇やるの断らなかったっけ?」
「う、うるさい!興味がわいたんだ!」
文化祭の準備期間に、集から騎士役のオファーが来ていたが鶫はそれを断っていた。
なんの心変わりがあったのかは知らないが。
「じゃあ、やるか?騎士役。」
「いや、だって、騎士役はもう決まって・・」
「今日、俺以外の騎士役が2人休み。
だから、代役が必要なんだよ。」
そう。騎士役に選ばれていた男子生徒2人が今日欠席していたのだ。騎士役は出番がそこまでないので、省いても問題ないのだが。鶫がやりたいというのなら、監督の集もオーケーしてくれる事だろう。
「じゃあ、俺と一緒にやる事になるんだな。よろしくな。鶫!」
「あぁ。宜しく頼む。」
鶫は何処か嬉しそうな表情をしていた。その表情はなんとも可愛らしい。
(・・・!?思わずドキッと来ちまった・・。)
しかし、ふと疑問が浮かんできた。
(俺らの文化祭の時間、過ぎてね!?)
いつの間にか予定時間の1時間をオーバーしていたのだ。本来やるはずだったロミオとジュリエットが中止だとすると、小野寺に顔を会われられない。焦った正義は携帯を開くと、一通のメールが。
『一条正義へ。
おーす。正義。大丈夫か〜?文化祭の事だけど、キョーコ先生のおかげで俺たちの劇のプログラムを後回しにしてくれたんだ。早く戻って来いよ。みんな待ってるぜ?
集より。』
このメールを見て、安心した正義はまた深いため息を吐いた。
急がねば。
「兄貴。話は済んだか?」
「あぁ。」
「えぇ。」
何やら、普段の様子の楽と千棘に戻っていた。
しかも、千棘に関しては悩みがすっ飛んだようなさっぱりとした表情だった。
「じゃあ、凡高まで戻るぞ!」
楽、千棘、正義、鶫の4人は
タクシーに乗り込み、会場へと戻るのだった。
*ーーーー
会場にて・・
「お前ら!待たせたな!」
正義がステージのドアをバタンと開いて
楽、千棘、正義、鶫の4人が次々とステージ入りする。
「遅いぞ!一条!」
「待たせすぎだぜ。」
「おう!悪りぃ!」
確かにかなり待たせてしまった。
しかも、開演まで残り10分もない。
千棘は小野寺のジュリエット役を引き受け、
全くセリフを覚えていない状態で臨む体制である。そして、鶫も案の定集からオーケーをもらった為、騎士役として出る所存だ。
しかし、騎士役とはいえ、よくレイピアが許されたものだ。キョーコ先生曰く、刃が付いていなければオーケーらしい。まず、レイピアは刃が付いていなくてもかなり危険なのだが・・・
そんな事をしている間に衣装を着終えた
千棘と鶫が更衣室から降りてきた。
2人ともとてもしっくりきている。
(よし・・・行くぞ・・本番開幕だ!)
*ーーーー
「大変お待たせしました‼︎続いての出し物は一年C組による演劇ーーー『ロミオとジュリエット』です!」
開幕の挨拶と同時に観客の拍手が響き渡る。
そして、流れる集の語り手。
「これから語られますのは悲しい恋の物語。
血で血を洗う争いを続ける二つの家、モンタギューとキャピレット。そこに生まれついたロミオとジュリエットは皮肉にも恋に落ちてしまうのでした・・・!」
こういう事は得意な集。中々雰囲気が出ていて、良いスタートだろう。ここから、千棘の出番だ。
「あぁ・・なぜ私達の両親は憎み合い争うのでしょう。本当ならきっと私達のように手を取り合い、思い合う事も出来るというのに。私のロミオ様を思う気持ちが半分でも理解して貰えたなら・・・」
ほんの数分しか読んでいない台本をあっさりと覚えている。千棘のスペックの高さが伺える。
「あれ?次のセリフなんだっけ?ロミオ様?」
(ズコーー!)
千棘の予想外の言葉に思わずすっ転んでしまう正義と観客とクラスメイト。
「おい!コラ!ジュリエット!!そこ大事な所だろーが!」
「しょうがないじゃない!最初からこんなまどろっこしいセリフ覚えられないわよ!」
(台本にケチつけんなよ桐崎・・。)
心の中でツッコむ正義。しかし、会場から爆笑
が響き渡っている。かなりウケが良い。
「「坊っちゃ〜ん!!」」
「「お嬢〜‼︎」」
楽と千棘を呼んでいるほうには、集英組の竜、
ビーハイブの部下達がいた。正義からも
来るなとあれ程釘を刺したというのに・・
これで余計失敗できなくなってしまった。
「え〜と?ジュリエット。緊張してんのは分かったから、一から頑張ろう!な?」
「も、勿論!バッチ来いってもんよ!」
(ジュリエットそんな言葉使わねえだろ・・。)
会場はまたしても爆笑。
そして、次のパートへと進み、ジュリエットに会いに行く・・はずだった。
「お待ちください!ロミオ様!」
「ん?」
楽は後ろを振り向くと、そこにはいるはずのない人物がいた。
(た、橘!?)
「おぉっと!?何とここで謎の女性が乱入!!??この女性は何者なのか〜!!⁇」
風邪を引いて休んでいたはずの万里花が乱入してきたのだ。勿論、こんなシナリオ、台本にはない。集は完全にノリで語っている。
「私の名は ジョセフィーヌ。私はロミオ様の・・・本当の恋人ですわ‼︎」
万里花の乱入に会場がざわつく。しかも、台本にはない面倒くさい設定をぶっ込んできたのだ。楽も少々戸惑っている。
「なんと!!??ここでまさかのロミオ、二股疑惑!?なんという事でしょうか!?これが事実なら純愛どころではありません‼︎まさに女の敵!ロミオ最低です‼︎」
集はナレーションでロミオの事をボロクソ言っている。観客もノリが良く、楽に「最低だぞ〜」などの手厳しい言葉をかける。
「え〜と?ジョセフィーヌ?君は何か勘違いをしているようだが?」
「まぁ!まさか忘れたとおっしゃるの!?私にあんな事までしておいて・・結婚して下さるというのもウソだったのですか?」
また、面倒くさい設定をぶっ込んできた。
観客からもブーイングの嵐が楽に降り注ぐ。
そこで楽も反撃に出た。
「やれやれ・・・ジョセフィーヌ。君はそうやって昔から僕を困らせてばかり。結婚なんてできるわけないだろ?だって僕らは血の繋がった兄弟なんだから‼︎」
楽は見事、万里花からの言葉の奇襲に一矢報いた。確かにこれなら、下手に変な設定を作らせず、結婚もできない。
万里花はやりますわねと言わんばかりの表情をしている。これで手を引いてくれれば良いのだが・・・
「でも、愛にそんなもの関係ありませんわ!!
結婚しましょう!ロミオ兄様‼︎」
ジョセフィーヌの進行は止まらなかった。
しかし、万里花は風邪を引いて無理をしているせいか、立っているのも難しい状況となっている。それを見かねた楽は
「分かってくれ!ジョセフィーヌ!僕の進む道は両家を巻き込む血塗られた道・・!か弱い僕の妹を巻き込みたくないんだ!」
ズキューン!
万里花のハートは楽のこと決めゼリフによって
撃ち抜かれた。そのまま倒れてしまう万里花。
そして、このまま退場という形に収まった。
そして、ついに正義と鶫の出番だ。
「待て!ロミオ‼︎」
「誰だ!?」
楽の前に颯爽と立ちはだかる鶫。
「私はジュリエット様の護衛件、最強の騎士!
ザラトラス!!貴様をジュリエット様の元へは行かせない!」
鶫はアート部監修の鎧を身につけ、片手にはレイピア。その先端はステージのライトにより
光り輝いている。
「そうはさせない!ロミオ様は私が守る‼︎」
そう言って颯爽とロミオの背後から現れる
鎧を身につけ、鶫と同じくレイピアを片手には持った正義。
「私の名はペンドラゴン‼︎ロミオ様に仕え、
ロミオを守る事が私の使命‼︎ザラトラス!ロミオ様には手を出させん‼︎」
このまま、本来、2人で勝負をし、ペンドラゴンがザラトラスを倒してロミオがジュリエットの元へと向かうはずなのだが、一難ある事はまた一難ある。
「その勝負・・・私も混ぜてもらおう!」
鶫の背後から現れたのは、ビーハイブの幹部であり、鶫の育ての親兼、師匠。
((く、クロード(様)!?))
まさかのクロード乱入。しかも、何処から借りてきたのか知らないがかなり本格的な衣装だ。
しかも、見るからに悪そうである。
「ロミオ・・!君をジュリエットに会わせるわけにはいかない!私はジュリエットの兄!フリードリヒと申す!」
クロードの乱入は流石に予想外だったため、
かなり動揺している正義。乱入されるだけならまだ良い。しかし、ここからはこのシーンの目玉でもある戦闘シーンがあるのだ。対するジュリエット軍は2人。ロミオ軍は楽と正義だが、正直な所、楽は戦力外だ。結果1対2である。しかも、クロードが手加減をしてくれるとは考えにくい。仮にも戦闘のエキスパート2人と相手だ。かなり骨が折れそうだ。
「話によるとロミオ・・!君は女を泣かせ、二股三股を平気でするような卑劣漢だそうじゃないか。」
ここは仕方あるまい。話を進める以上話に乗る必要がある。
「聞き捨てなりませんね。フリードリヒ!ロミオ様はそんなお方ではない‼︎デマを流すなど・・恥を知れ‼︎」
「何を・・!?おのれ・・・かかってこい!」
*ーーーー
ーーーーこの気持ちをなんというのだろうか?
いや、本当はもう知っている。ーーーーーー
「うぉおおお!!」
「ウリィいいいい‼︎」
「ハァアアア‼︎」
今このステージで激しい剣尖と剣尖の触れ合いを繰り広げて入る。観客からはレベル高いな〜なとど感嘆の声を聞く。そりゃそうだ。
クロードが本気を出しているため、正義もそれなりに戦わねばヤバイのだ。因みに鶫もクロードの部下。本気を出さざるを得ないのだ。
「どうした!どうした!そんなものか!」
「っぐ!」
正義はクロードと鶫にハリボテまで追い詰められ苦戦を強いられている。
「そりゃああ!!」
「!?」
クロードの渾身の一撃により、自分の身をレイピアで守るが、衝撃により、正義のレイピアがへし折れてしまった。これは完全に予想外だった。
「終わりだ・・。小僧。」
「覚悟するが良い。」
「ま・・ペンドラゴン‼︎」
クロードと鶫にレイピアを顔のすぐ目の前に
向けられ、絶体絶命のピンチを迎える。
楽も思わず、役名ではなく、本名を叫びそうになった。
「このまま黙ってやられてたまるか‼︎」
正義はハリボテ付近にあったレンガをクロードに何度も投げつける。ハリボテは、本物のレンガを使用している。見苦しいと思われようが関係ない。勝てば良いのだ。
ズボッ!
何度もレンガを投げつけていると、謎の音が聞こえた。何かがひっこぬけたような音だった。
確認してみると正義の手には『危険』と書かれたレンガが。それを見て理解した。そのレンガをハリボテを固定するために設置してあった重りだったのだと。
「あ、ヤバ・・」
案の定、ハリボテがクロード、及び鶫も含めた正義達に倒れ、瓦礫の下敷きになってしまった。その中に楽も入っている。もし、楽がKOされていたら、劇そのものが成り立たなくなってしまう。
「ロミオ‼︎」
ジュリエット役の千棘も思わず声を上げる。
ガシャーン‼︎
瓦礫の中から、正義及び、楽と鶫も出てきたのだ。正義が身を挺して、鶫と楽を瓦礫から守ったのだ。
「大丈夫・・・か?」
正義の体はボロボロになっていた。体から
打撲傷が目立つ。
(全く・・・貴様は本当に・・・バカだな・・いや・・・馬鹿は私だな。)
認めるのがずっと・・・怖かったのだ。
自分の組織とは敵対した組織の人間を認める事を。彼の自分よりも他人を優先してしまうほどの優しさ、何があろうと決して曲げない信念。そして、何よりもまっすぐな性格を。
「私の負けだ。ペンドラゴン。」
「あぁ。敵ながら良い勝負だった・・。さぁロミオ様。お行きください。ジュリエット様の元へと。」
「あぁ。すまない。」
そう・・・そろそろ認める時が来たのだ。
私はこいつに・・・一条正義に・・”恋をしている”と・・・。
*ーーーー
そして、いよいよ、劇はフィナーレを迎える。
「あぁロミオ・・・どうしてあなたはロミオなの?あなたがモンタギュー家のロミオで無ければ、私達の愛を邪魔するものはないというのに・・・。そのロミオという名の代わりに、私の全てを受け取ってください。」
「頂戴しましょう。その代わり私を恋人と呼んでください。そうすれば私はロミオでは無くなります・・・・愛しのジュリエット。」
「私も愛していますわ。ロミオ様。」
途中どうなるかと思ったが、完璧なラストシーンを終えた。そして、会場からは寛大な拍手が響き渡った。
こうして、波乱の凡校文化祭は幕を閉じたのだった・・・・。
*ーーーー
正義は劇を終え、外の草むらに座り込み、疲れで寝ている。
「グゥーグゥー」
「ほい。」
「フギッ!?」
目を閉じて、熟睡していると、突然何者かに肩の筋に冷たい何かを押し当てられた。
「そんな所で何故寝ている?起きろ。」
「んだよ・・鶫か。あいあい。すいやせんした。」
ぶっきらぼうにそう返答する正義。睡眠を軽く邪魔され、少しイラッとするものの、そこまで悪い気分ではなかった。
「ほら。これを飲め。」
「?お、おう。サンキューな。」
突然、缶ジュースを鶫にわたされ、少し戸惑う正義。首筋に当てられたものはコレだろう。
「文化祭・・・楽しかったか?」
「あぁ。楽しかったぞ。今も舞子集がクラスで打ち上げをしている。貴様は行かないのか?」
正義は鶫に文化祭の感想を聞くが、高評価だったようだ。
「いや、そりゃ行くに決まってんだろ?ちょっと待ってろ。なんかとってくる。」
「待ってくれ。」
正義が教室に戻ろうとするが、鶫に手を引っ張られる。
「その・・・もう一度謝っておく。今まで・・・その・・・すまなかった。その・・・こんな私を許してくれるか?」
「だから気にすんなって。もう過ぎたことだろ?別にお前のこと全然嫌いなんかじゃねぇし。お前って変なところで律儀だよな。」
正義は頭をぽりぽり掻きながらそう言う。
少しこっぱずかしいのだろう。
「う、うるさい。私にだって・・それなりに罪の意識はあるんだぞ?そうだ、何か罪滅ぼしをさせてくれ。」
「はぁ?罪滅ぼし?別しなくたって・・いや、そうだな。」
正義は一瞬別にしなくて良いと言おうとしたが、何か思いついた模様。
「じゃあ、俺からもお前に質問しよう。これでおあいこだ。どうだ?」
「別に良いが・・・貴様、まさかこの期に及んで不埒なことでも企んでるんじゃないだろうな?」
鶫はジャージから拳銃を取り出そうとする。
なぜそういう発想になるのだろうか?
「違う違う違う!被害妄想にも程があんだろ!?普通の質問だよ!ふ・つ・う・の!!」
正義は拳銃を取り出されることを焦り、
必死に否定をする。
「お前は・・俺の事・・・どう思ってんだよ?まぁ、答えはわかりきってんけどな。」
「フッ。そりゃ私は・・・大っ嫌いだ。」
鶫はこれまで見せたことのない笑顔でそう言ってきた。内容が内容だが、何故だか知らないが
不思議と悪く捉えることはできない。
「んだよそれ。意味わかんねぇ。」
「分からないのならそれで良い。先戻ってるぞ?」
「え?ちょっ、おい!?」
鶫は立ち上がって、先に教室へと戻ってしまった。
(劇前までが嘘みたいに元気になりやがって。)
こうして、本当に文化祭は幕を閉じたのだった。
おまけ
(ん?いや待てよ?鶫が怒ってたのは、俺があいつのこと嫌ってると思ってたからだよな?ん?あれ?それって・・・・どゆこと?)
正義の朴念仁は変わらなかった。
どうでしたでしょうか?
鶫はようやく気持ちに気付きました!
次回からは真面目回ではなく、
コメディー回になる予定です!
次回は7月27日(水)に投稿予定です!
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