東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

102 / 292

眠らせてくれと叫ぶ声が

鎖のように、彼女を呪いに縫い付ける


by白咲楼夢


悪寒の正体

「んで、昨日のあれはなんなんだ?」

 

  次の日の朝、楼夢は例の桜の大樹の下で妖忌に問い詰めていた。

  どうやら朝は大樹の方も何も起きないようで、現在ここは人に聞かれたくない話をするなら絶好の場所になっている。昨日のことについて話すならうってつけの場所だ。

  妖忌は、重々しく頭を上げると、ゆっくりと、静かに答えた。

 

「……まず、この桜の木の名は『西行妖(さいぎょうあやかし)』と言います」

「西行妖……か」

 

  楼夢は無意識にその名をつぶやく。

  妖忌が続けた。

 

「幽々子様のお父様は、かつて偉大な歌人でした。知っての通り、『西行法師』として名が広まり、慕う者も次々と現れました」

 

  それは現代でも同じだ。だが歴史上では西行法師に娘がいたなどという話は聞いたことがない。そして、西行妖などという桜についても、何も書かれていなかった。

 

「だが、そんな方でも寿命には勝てぬ。だんだんと年をとってゆき、ついには死ぬ一歩間際までいってしまった。そんなときじゃった。あの方がこんなことを言ったのは」

 

『桜の木の下で、死にたい』

 

  彼は、最後にそう言い残し、この世を去った。そして使用人や、彼を慕う者たちは、西行法師の遺体を、屋敷の近くの一番大きな桜の大樹ーー『西行妖』の下に埋めたそうだ。

  それからというもの、彼を慕う者は自分の最後を悟ると、彼と同じように西行妖の下で自ら自害し、眠っていったようだ。

  だが、そこで悲劇が起こった。

 

「ある日、数十、数百という魂を吸収してしまった『西行妖』が突如妖怪化したのです。そして手当たり次第に近くの魂を狙い、食い漁り、力を増しながら凶暴化していきました。そして、今では誰も制御できなくなったのです」

 

  ありえる話だ。桜は地面に埋めてある死体の血を吸い、花に色をつけると言われている。おそらく、大量の死体の血を吸っている最中に、魂も一緒に流れ込んでしまったのだろう。

  意思のないものが妖怪化するには、それが妖力をまとっていることと、その妖力にあった器があることが条件である。あれほど巨大な大樹だ。器としては最高レベルだったのだろう。吸収した血と魂は膨大な妖力に変換され、結果、妖怪『西行妖』が生まれたというわけだ。

 

  そしてそんな妖怪が暴れ回り、無差別に人間を食い散らかしたのだ。おそらくその時は地獄絵図が映っていたことだろう。

  こうして使用人は妖忌を覗いて全員食われ、進化したこの木だけが残った、ということだ。

 

「だが悲劇はまだ続いた。周りに食べる魂がなくなった西行妖は、『死霊を操る程度の能力』を持つ幽々子様に目をつけたのじゃ」

 

  それは、幽々子が屋敷の周りを散歩していたときだった。彼女が歩いていると、どこからともなく黒く光る禍々しい光球が現れたそうだ。

  当時、妖忌はすぐにその光体が危険なものだと気づいたが、時すでに遅し。

  幽々子は、突撃してきた光球に触れると、全身を黒い光に覆われ、気を失ってしまったらしい。

  それからだった。幽々子の能力が『死に誘う程度の能力』に変化してしまったのは。

  突如進化した凶悪な能力を、ただの少女が制御できるわけもなく、能力は次々と人を西行妖の元に誘った。そしてさらなる犠牲者を呼び、西行妖が満足する頃には、千人以上の人間が犠牲になったそうだ。

  それから、西行妖は毎年の春に開花すると、人間の魂を吸収し、再び眠りにつくようになる。

  今は二月。あと二ヶ月もすれば、再び西行妖が開花する季節だ。

 

「そして幽々子様の体ももう限界に近い。毎年暴走する能力を無理やり使用させられればさせられるほど、代償は幽々子様の身に降りかかり、体を蝕んでいく。……おそらくタイムリミットは……次の春じゃろう」

「なるほど……。だから紫は俺を呼んだのか。……だけど、黒い光……か。それについての情報はないのか?」

「わかっていることは……紫の蝶は触れた生物を直接死に誘うということと、黒い光は触れたもの全てを()()させるということだけじゃ」

「……そうかわかった。まだ時間はあるんだ。俺の方でも情報を探そう」

「うむ、かたじけない」

「これも老人の仕事だ。未来ある者が老体より先に死ぬことは許さねえ」

 

  そうと決まれば早速情報収集だ。まず黒といえば、思い当たるのは……アイツだろう。

 

  楼夢は、紫に白咲神社に一旦送ってもらうと、目的の人物を探すため、空を飛んだ。

 

 

 ♦︎

 

 

「……てことで、ここに来ました」

「……あんたねぇ、意外に暇なの? てかいきなり言われても分からないわよ。説明をサボるな」

「ま、楼夢も今じゃ年中暇人だからな。あとかくかくしかじかで話通じると思うなよ? 地味に古いなお前」

 

  出会って早々、楼夢をディスる二人。片方は燃え尽きたような白髪が特徴の男、火神矢陽。もう片方は今回話を聞きに来た目的のルーミアだ。

 

  ここは平安京。そこの中にある、とある団子屋の外席に、楼夢たちは座っている。もちろん片手には全員団子を、火神に至っては酒をもう片方の手に握っていた。

 

「まあまあ、そう言うなよ。ていうかお前ら探すのに地味に二週間かかったんだが? どうでもいい時はいるくせに、肝心な時に消えるんじゃねえよ。使えねー奴らだ」

「うっせ、暇人。俺はここで金を集めるのに忙しいんだ。勝手に信者が集まって勝手に金を置いていくお前の神社とは違うんだよ」

「おまけにお前らの食費は高そうだからな」

「う、うっさいわねっ! 人喰い妖怪はただでさえ食べる量が多いんだから仕方ないでしょ!? 」

「いや、俺は火神がどうせ高級酒を買いまくってるから食費が高いのかと思ったんだが……んん?」

 

  ニヤニヤしながら、意地悪に楼夢はルーミアに問いかける。「あっ!?」とルーミアが失言をしたのに気づいて弁解しようとするが、それよりも早く火神が口を開いた。

 

「ほんとどうにかしてくれよこいつ……一食食うごとに一円を軽く超えるんだぞ? いくら稼ぎがいいからって、ここまで使われると泣けてくるぜ」

「〜〜ッ!」

 

  きっぱりとそう火神に言われてしまい、ルーミアは顔を真っ赤にして抗議しようとするが、返すところもなく悔しそうに口を閉じて黙ってしまった。

  そして少し揉めること数分、楼夢は脱線しかけた話を再び戻し、事情を説明する。そして闇の専門家であるルーミアに、今回の黒い光体について聞いた。

 

「……うーん、長いこと闇の妖怪として生きてるけど、触れた敵を一瞬で消滅させる闇なんて私を除いて見たことも聞いたこともないわね。触れても気絶しただけって人間もいたことから……それは多分『呪い』ね」

「……呪い?」

「そう、呪い。正しくは呪力っていう力を使って発動させる術式のことよ。用途は主に人の体調を悪くしたり、幻覚を見せたり、人を不幸にさせたり……まあ条件さえ揃えばいくらでもあるわね」

「つまり、そこに敵を消滅させる呪いもあると?」

「あるって言えばあるわね。最も、そんな呪いを発動させるには大きな代償が必要だわ。ただの呪術師が使えば体が吹き飛ぶぐらいのね」

 

  だが、それは逆に言えばそれほど効果のある術ということだ。そして『普通の呪術師』とルーミアは言っていた。つまり、普通じゃなければ使えるということだ。

 

「ま、そうなるわね。何らかの能力によって、無条件で呪いが使えたり、生まれつきそういった呪いへの耐性が高かったり……。いずれにせよ、そのレベルの呪いを無条件で使える人間なんて、この大陸に一人いるかどうかの確率よ? そんなのがいるなら、今頃一躍有名人でしょうね」

 

  ルーミアの言う通りだ。そんな人間がいたら、有名になってないわけがない。だがそんな情報は聞いたことがない。つまり、この広い平安京の中でもそんな人間は存在しない、ということだ。

  だがおかげで有意義に情報を得られた。

  呪い、か……。そこが何か引っかかる。だが結局何もわからず、楼夢はその思考を打ち切った。

 

「ありがとな、ルーミア。とりあえず俺はこれから妖怪の山でも行って、情報を集めてくるよ」

「別にいらないわ。そんなことより、火神。お客さんよ」

 

  と、そこへ、こちらに近づいてくる人影があった。

 

「おお、火神矢殿! こんなところで会うとは奇遇ですな」

「清明か。仕事でもないのにお前に会うなんて、今日は槍でも降るのかねぇ」

「はは、火神矢殿はご冗談が上手い」

 

  男はこちらに近づいてくると、火神と話し始めた。

  会話の内容は少なかったが、火神の同業者ということと、清明という名で、楼夢はこの男がかの有名な安倍晴明であると推測する。果たしてその推測は合っていたようだ。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くぜ。またどこかで会おうぜ」

「あばよ、ちょうどこっちもいい仕事ができた。行くぞルーミア」

「ちょっと、まだ私団子食べてるんだけど!」

 

  ルーミアの抵抗も虚しく、清明とともに火神は人混みの中に消えていった。

  それを確認すると、楼夢は次の目的地へ向かった。

 

「ま、あそこで頼りになりそうなのは文か天魔か……剛くらいかね?アイツ無駄に俺より長生きだし、なんか知ってるだろ」

 

  微塵も期待の込もっていない声でそう呟く。

  そして平安京を出ると、楼夢は空を飛び、妖怪の山へ向かった。

 

 

 ♦︎

 

 

「知らん」

「知らないわ」

 

  結論から言おう。ダメでした。

  妖怪の山に来て早々、天魔の屋敷へと向かった楼夢は、天魔と文にそう言われてしまう。

 

「ちょ、おいお前ら! 会って聞いて最初の言葉がそれって短すぎるだろ!」

「じゃあどう言えばいいのよ? 知らないものをいくら言おうが結果は変わらないでしょうが」

「冷たすぎるだろお前ら! 俺になんか恨みでもあるのかよ!?」

「仕事中にいきなり押しかけてきた」

「屋敷の扉を思いっきり吹き飛ばされた。というか後で弁償してくれよ。地味にあれ結構高いんじゃからな」

「マジすんませんでした」

 

  それぞれが楼夢に冷たく当たる理由を述べる。それに対して楼夢はすぐに謝ったが、おそらく扉は直すことは永遠にないだろう。

  立派な扉は蹴破って壊す。それが諏訪大戦の時、出雲神社で決めた楼夢のルールの一つであった。(突撃! 諏訪大戦編を参照)

 

「ふーむ、やっぱり知らないか……。あまり気乗りしないが最後に剛の所に行くか」

「そうそう、とっとと帰りなさい。こっちは幻想郷のことで忙しいのよ」

「……ありがとな、紫の夢に付き合ってくれて」

 

  楼夢はそう言い文と天魔に感謝を述べる。彼女の夢は、遠く遠くどこまでも果てしないものだ。だがそれに付き合ってくれて、理解してくれる人たちがいることに、楼夢は本心で感謝していた。

  と、そこへ、頭を下げた楼夢に天魔が言う。

 

「礼はいらん。確かに人間と共存することを反対する者も少なくはないが、人間は文明の成長速度が異常なほど早い。未来のことを考えると、こうしておくのが一番良さそうじゃからな」

「そうか、じゃあまた今度。次に会ったらお土産でも持ってくるぜ」

「楽しみにしているぞ?」

 

  期待しておけ、と最後に言い、楼夢は屋敷を出て行った。

 

  ……屋敷の窓を破壊しながら。

 

「「ちゃんと扉から出て行けぇぇぇぇッ!!」」

「ハッハハハハッ! 今の俺は誰にも止められん! さらばだ!」

 

  高笑いしながら、外へ飛び出し全力疾走を開始する。

  後ろから二人が追ってきたが気にしない。そしてある程度距離を離すと、悔しそうに引き返していった彼女たちの顔をスカーレット・テレスコープでしっかり覗いた後、しばらくして鬼の領地内に入っていった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。