東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
平穏な日々、入る温泉
昔は間違えて彼女たちの風呂に入ったなと
一人寂しく、笑うのであった
by白咲楼夢
「ハアッ!」
「オラァッ!」
二つの刃が互いに衝突し、火花を散らす。
そのままつばぜり合いになったが、すぐに片方の剣士ーー楼夢は後ろに弾かれしまい、ふわりと地に着地する。
「いやー、やっぱり力じゃかなわないか」
「刀は叩き切るのではなく切り裂くもの。腕力が上であっても、技術は雲泥の差がありますわい」
「ま、それしか取り柄がないんだけどね。でも、それだけで十分なんだよ」
それだけ言うと、左右にジグザグに移動しながら、もう片方の剣士ーー妖忌に突っ込んだ。
それを、どっしりとした構えで待ち構える。そして、接近してきたら細かく刀を振るった。だが
「ぬぅっ」
楼夢は止まらない。走って距離を詰めながら、カミソリのような斬撃を避け、受け流しながら、前進する。
そして自分の射程圏内に入ると、腰を落としながら、まっすぐ構える相手の右へ左へと、死角に超高速で移動しながら、斬撃を放った。
もちろん、その振り子運動を読めない妖忌ではない。右から左へ移動する時に、反対方向からカウンターで刃を振るう。
だが、当たらない。
こちらがカウンターを打つたびに、それに合わせて受け流され、カウンターに合わせてカウンターを放つ
そしてとうとう斬撃の速度に耐えきれなくなり、妖忌の刀は宙に弾かれてしまった。
「……やはりお強いですのう。リズムを読んで放った斬撃を、逆にカウンターで返されるとは……」
「こんなの戦ってるうちに身につけたに過ぎない。慣れればできることだ」
「いや、実際やろうと思って簡単にできることではない。少なくとも儂は断言しますぞ」
妖忌の言う通りだ。カウンターというのは普通、相手の攻撃に合わせて打つものだ。攻撃を放つと同時に相手のカウンターを見切り、それに合わせて打つなど、とても人間技ではない。
しかも、相手は妖忌なのだ。彼の刀の速度は音速と限りなく近い。いえば、常人どころか、一流の剣士ですらも、視界に収めることすら難しいのだ。それをあっさり見切り、合わせる楼夢の獣の動体視力と神業の技術がなければ、この技は完成しない。
二人が刀を収めると、同時に縁側から声がかかった。
「あら〜、すごいわね楼夢。妖忌と渡り合うどころか、勝っちゃうなんて」
「だから言ったでしょ。楼夢の剣術は凄いって」
楼夢を褒める声は二つ。一人はその速さに目を丸くしている少女、幽々子。もう一人はその友人に、なぜか楼夢を自分のことのように誇っている少女、紫だ。
「なんでお前が威張るんだよ」
「い、いいじゃない別にっ! そんなことより、この後空いているかしら?」
呆れた顔で紫に楼夢は突っ込んだ。それに恥ずかしさを感じ、顔を赤くする紫。
もう妖怪の賢者の面影もなにもないな、と密かに思う。
(出会った当初の紫はどこに行ったのやら……)
「う、うるさいわねっ! あの時のことは忘れてよねっ!」
おっと、どうやら声に出てしまっていたようだ。
そんな妖怪の賢者(笑)な紫をして見ていると、なんだかいじめたくなる衝動に駆られてしまう。
そして明らかに様子がおかしい紫に、幽々子は悪い笑みを浮かべながら近づいた。
「あら〜、紫と楼夢が初めて出会った時になにがあったのかしら〜。気になるわね〜」
「ああ、当時の紫はーー」
「待って待って! 言わないで!」
「ーー俺に『私の式にならない?』とか言って襲いかかってきたんだぜ」
「へぇ。で、結果は?」
「もちろんボコボコにしたよ。本当にあの時の胡散臭い紫が懐かしいなぁ」
「仕事中と休暇中は人格を切り替えているだけよ! 悪い!?」
「いや、その方が可愛いからいいな、って思った」
「……なっ!?」
その言葉を聞いて、紫の顔はゆでだこのようにプシューと赤くなった。しまいには、「可愛い……可愛いって……今可愛いって」とつぶやき続けている。正直怖い。
その後、妖忌が入れてくれたお茶を飲んでひとまず解散になった。
ちなみに帰る時も紫の顔は真っ赤であった。
「……なにか変なこと言ったかなぁ……?」
そう一人呟く楼夢。その鈍感差だけは、六億年経っても直らない彼の唯一の弱点であった。
♦︎
「っで、話ってなんだ?」
白玉楼の紫の部屋の中、楼夢はそう紫に問う。
縁側にいる時、この後予定がないか聞いてきたあたり、なにか用事があるのかと聞いてみたところ、後で自室に来いと言われたのだ。
そして今に至る。
紫はまだ少し顔を赤くしながら、おどおどもじもじと、たまに楼夢の顔を見つめるだけで黙ってばかりだ。
だがその後、ようやく彼女の口が開いた。
「そ、その……あなた、温泉好きでしょ?」
「ああ好きだぞ。少なくとも一か月に一回は天然のところに行くな」
なぜその質問を今するのだろうかと、楼夢は疑問に思う。
だが次の一言で、その考えは吹っ飛んだ。
「そ、それで、ついこの前温泉を見つけたのよ」
「へぇ……それがどうしたんだ?」
「だから……私と……私と一緒に……行かないかしらっ?」
最後は小さい声だったが、楼夢の耳にはしっかりと聞こえていた。
それは今どうでもいい。だが、今聞こえてきたことは無視できなかった。
「新しい温泉!? 行く行く、絶対行く!」
「へっ? あ、ああ、うん」
がっしりと紫の両手を掴むと、ブンブンと振りながら答える。その普段あまり見ない楼夢のテンションに若干驚きながらも、紫はこの後の予定を決めていった。
「で、いつ行くんだ?」
「今でしょ!」
「……紫、さすがにそれはないぞ」
どっかで聞いたことがあるフレーズに、若干引く楼夢。
だがなにも聞いていないとばかりに、紫はスキマを二人の足元に開いた。
「結局、毎回これで行くのか……」
ため息をつきながら、諦めて落下していく。ちなみにその時紫がしてやったり、という顔をしていたのは忘れない。
今度西行妖の枝に三時間逆さで吊るしておこう。
♦︎
落下した先は、岩肌がむき出しの地面だった。
遠くの景色を見れば、これまた美しい自然の山々が見えた。そしてどうやら、ここもその山の一つのようだ。
ちなみに今の時刻は夕方である。そのせいか、空は少し赤がかかっていた。
「んで、温泉なんてどこにもないじゃねえか」
「それはそうよ。ここはまだ山の麓よ。温泉は頂上にあるわ」
「じゃあなんで麓で落としたんだよ?」
「わ、悪かったわね。ちょっと散歩を楽しみたかっただけよ」
ふん、とそっぽを向く紫。だが幸いにも、楼夢は彼女の頬が微妙に赤に染まっているの気づいていなかった。
「じゃあ行くか」
荒々しい地面に杖を突き刺しながら、楼夢は紫とともに登っていく。
そして数十分後。
楼夢は紫の最もというべき弱点を思い出すことになる。
「ハァッハァッ! し、死んじゃう……ゆかりんこのままじゃ死んじゃうよぉ……っ!」
そう、紫は圧倒的に体力がなかったのだ。それはもう、杖をついて歩いているはずの楼夢にあっさり抜かれるほどに。
そもそも、なぜ紫は体力が圧倒的にないのかといえば、移動の7割をスキマで補っているからだ。さらに、紫の戦闘スタイルは楼夢や火神のように、接近戦を主としておらず、スキマで距離を稼ぎながら弾幕を放つ、いわば、中、遠距離専門のスタイルなのだ。
そんな彼女に体力がないのは、当たり前だろう。
「大丈夫か、紫? スキマ使った方がいいんじゃねえか?」
「そ、そうね……そうさせてもらうわ……」
空中にスキマを開くと、その
そして大きく息を吐くと、残った気力で回復したかのように装った。
「もう大丈夫よ。行きましょう」
「もう回復したのか。じゃあ行くか」
こうして二人は再び山を登りだした。
なお、頂上に登上するころには、もう日がくれて夜になっていたという。
紫は、今度からは無理をしないようにしよう、と固く誓うのであった。
♦︎
「いい景色だねぇ」
遠くを眺めながら、ポツリと、呟く。
その周りには湯気が立ち込めている。
そう、楼夢は今、温泉に浸かっていた。
体にはタオルが巻かれていた。もちろん、腰から下まで、である。断じて、胸から下などではない。
酒を口にしながら、上を見上げる。そこには、満天の星空があった。
闇のように暗い世界を、小さな小さな無数の光が、貫いているかのようだった。
ここは山の頂上であるため、空の景色がよく見える。そして、彼方の山の下にも、光が集っていた。
あの方角からして、あそこは都だろうか。
本当にいい眺めだ。ここに連れてきてくれた紫には感謝しなければ。
そんなことを考えていると、ふと、後ろで誰かが近づいてくる音がした。
誰なんだろうか、と振り返ると、そこにはーー
「……なっ、なによっ、そ、そんな、じ、ジロジロ見て……」
羞恥で顔を真っ赤に染めた、紫がそこにいた。
真っ白なタオルを胸から下にまで巻いているが、その真っ白い素肌と全然隠れていない巨乳がとても扇情的だ。
ふと、紫とよく似た少女ーーメリーがタオルを巻いている姿を思い浮かべてしまう。
(ブゴフォッ!! 駄目だ、俺には刺激が強すぎる! ……まずい、このままじゃ下が)
そのあまりにも刺激が強すぎる妄想に、思わず鼻血を吹き出しそうになる。
だがそれをこらえ、楼夢は紫になにをしにきたのか問う。
「あ、あのぉ紫さん……いったいここでなにを……」
「お、温泉に入るだけよ」
「それなら向こうにもう一つあるじゃねえか! 」
「う、……駄目、かしら?」
「ぐ、ぬぅ……畜生、好きにしやがれ!」
そんな泣きそうな顔をされたら、いくら楼夢でも断れるわけないじゃないか。
後々楼夢はこの選択肢を後悔することになる。
許可を得て、嬉ししさ半分恥ずかしさ半分の顔で、温泉に入る。
--やめてくれぇ、俺を殺す気か……!
その色っぽさはエロいことエロいこと。少なくとも、楼夢の息子を成長させるには十分だった。
「って、なんで腰から下までしかタオル巻いてないのよ」
「俺は男だっつーの!わざと言ってんだろ!」
「いや、だって……女性よりも綺麗な肌をしてるんだもん」
「紫さん、もしかして俺に喧嘩売ってます?」
「それに髪の毛だってそんなにサラサラでいい匂いがするんだもん。なによ、どうしたら一日中そんなほんのり甘い匂いが出るのよ」
「知るかいな! 文句なら俺の切っても伸びる髪と、頭に咲いている桜に言ってくれ!」
紫からの理不尽な愚痴に、次々と素早く突っ込む楼夢。
だが紫からしたら、その体の素材で男なのが異常なのだ。
とはいえ、楼夢が本当に女になってしまうのは、それはそれで困るのだが。
それに、普段は別として、戦っている時の楼夢は刃物のように鋭い目付きをしていてとても格好いい、と紫は思っている。楼夢のことを好いている妖怪の山の鬼子母神も、こういう時の彼に惚れたのだろう。
だが負けるわけにはいかない。
別に、妻は一人だけと決まったわけじゃない。だが、正妻の座を渡すわけにはいかないのだ。
それに楼夢のことだろう。もしかしたら自覚していないだけで、まだまだライバルが増えるかもしれない。
「……そうね、私も頑張らなきゃ」
「なにをだ?」
「ふふふ、秘密よ」
「けっ、なんだよそれ」
両拳をギュッと握る。
ーーこれからも頑張ろう。
星空の下、紫はそう胸に誓うのであった。
♦︎
深夜、草木も眠る丑三つ時のころ。
白玉楼のとある個室の中、楼夢は布団に横たわっていた。
もちろん演算装置は邪魔なので外してある。ではなぜまだ寝てないのかというとーー
(西行妖を消して幽々子を助けるには……やはり、封印するのが一番だろう)
西行妖や幽々子のことで、楼夢は対策を練っていた。演算装置がなければ思考もまともにできないと思われがちだが、言葉に出さずに脳内にとどめておくだけなら負担はないのである。
だが、やはりその封印の方法が思い浮かばない。否、正確にはいくつかは思い浮かぶのだが、それらは全て何かの犠牲を出さなければならないものだ。
(直接戦闘……てのは無理があるか)
今の楼夢では、正直なところ、西行妖に勝てない。
神解が使えれば勝てるだろう。それも圧倒的に。数十秒であれを消せる自信が、楼夢にはある。
だが、今の楼夢は神解どころの話ではない。限界まで出せて、妖魔刀『舞姫』を解放するのに精一杯だ。果たして『八岐大蛇状態』になったところで、あれに勝てるかと言われれば首を横に振りざるをえない。
ではどうすればいいのか。その答えを探してはいるが、いっこうに見つかりはしなかった。
その思考に沈んで何分経ったのだろうか。
気づけば、扉が開いていることに気づく。演算装置をつけ、その方向を向くとーー
「……紫?」
寝巻き姿の紫が、とびらの前で立っていた。
腕には自分の枕を抱きかかえている。
いったいどうしたのか、と楼夢は思い、紫に問いかけた。
「どうした紫? ここは俺の部屋だぞ」
「眠れなくて……その……今日は私と寝てくれないかしら?」
「ああいいぞ」
あっさりと許可がもらえたことに目を丸くする紫。
そもそも、このまま放っておくとずっとここにいそうな気がするので、それはそれで面倒くさそうだ。なにより、楼夢は女の子を立たせる趣味はないので、特別に入れただけである。
紫は恐る恐る布団の中に入る。
「……なんか悩みでもあるのか?」
「……ええ、幽々子のことでね」
紫の様子がおかしかったので聞いてみたら、当たっていたようだ。
彼女は語りだす。
「私、本当は不安で仕方ないのよ。一年前、私は春の西行妖を見たことがあるけど、八分咲きでさえ私じゃとてもかなわなかった。それがもうすぐ、満開になるのかと思うと……っ」
「大丈夫だ」
今にも泣きそうな紫の頭を撫でながら、そう楼夢は言った。
そして安心させると、今度は楼夢が口を開いた。
「安心しろ。西行妖は倒すし、幽々子も必ず救い出す。絶対にだ」
「絶対に……?」
「ああ、だから任せておけ。お前は正直に俺の力を借りてろ」
力強く、楼夢は紫の瞳を見つめながら、そう宣言する。
紫はその言葉に安心すると、目をつむり眠りだしてしまった。
よほど疲れていたのだろう。思えば今回の温泉も、俺を気遣ってのことなのかもしれない。
全く、若いくせにそういうことには優しい。本当なら楼夢をほったらかしにしてもいいのに、出来すぎた子だ。
(老いぼれは必要ない、か……。まだ犠牲にしていいものが一つあったな)
演算装置を床に置いて、ふと、そんなことを考えてしまった。
だが何故だろう。彼女たちを守って死ねるなら、それはそれでいいのかもしれない。
そんなことを思ってしまう、自分がいた。
「体力テストの点がメッチャバラつきがある! ゲームでもリアルでも、全体よりも一つや二つのことしか伸ばさないアンバランスな作者です」
「最近だるい。メッチャだるい。多分俺が学生だったらこの時期絶対サボるか眠っていると思う。狂夢だ」
「作者ァァァァァッ!!! 俺をストレスで殺す気か!?」
「お、抑えて抑えて! だから前回言ったじゃないですか!」
「知っててもイライラするのに違いはないんだよ。ったく、今度インターネットで彼女募集しよ」
「その顔で集まるとはわからないですがね」
「死ね」チュドーン
ピチューん
#この後、作者は星になりました。