東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
落ちていく、彼女の体
最悪な戦闘が、幕を上げた
by白咲楼夢
それは、突然のことだった。
辺りに禍々しい死の気配を感じ、楼夢は布団から飛び起きた。
それに紫も気づいたようで、同じように起きると、一瞬で着替えて、急いで外に出た。
「紫、これはいったい……!?」
「この雰囲気……間違いない……!」
走っているうちに、西行妖の近くにたどり着く。その下では妖忌が二刀流の構えをとっており、異常事態なのが目にとるようにわかった。
「妖忌殿、西行妖の開花は春じゃなかったのかよ!?」
「儂もわからない……だが、まさかここまで力をつけているとは……ッ!」
上を見上げながら、半分取り乱して叫ぶ。
今は二月の真冬。とても桜が咲ける季節ではない。だがしのごの言っている場合でもなかった。
現時点の楼夢を超える、妖力量のレーザーが、複数放たれた。
「クソがッ!」
それぞれが刀と能力を使い、レーザーを受け流す。だがこのままではジリ貧だ。
春まで開花しないと予想していたので、もちろん楼夢たちに作戦などありはしない。否、それを作る時間が圧倒的に足りなかったのだ。
策はない。ではどうすれば……!
そんな時、妙に冷静な綺麗な声が透き通った。
「一つだけ、方法があるわ」
3人とも、西行妖に夢中で幽々子の接近に気づかなかった。
一つだけ、方法がある。その言葉の意味を聞こうと、紫が問い詰めよる。
「一つだけって、なにか方法があるの?」
「ええ、あるわ。とっても簡単よ」
「幽々子、お前まさかーーーー」
楼夢の制止も聞かない。幽々子は突如、西行妖の根元まで走ると、胸元から小さな小刀を取り出す。
そしてそれを、自分の左胸に向けた。
その意味がわかった時、3人は駆け出し、彼女を取り押さえようとする。だが、遅かった。
「妖忌、あなたには病弱な私の世話ばかりさせて、悪かったわね。この後は、自由に生きてね。紫、あなたは私の初めての友達だったわ。縁側で咳き込む私には手を差し伸べてくれて、本当に嬉しかった。ありがとう。
そして、楼夢。あなたとは1ヶ月にも満たない間しか出会ってないけど、あなたは本当に面白かったわ。妖忌に打ち勝ち、紫をからかって笑う日々。あなたのおかげで、この少ない時間も笑うことができた」
「幽々子様! それだけはいけませんぞ! 戻ってきてくださいッ!」
「幽々子、ダメェェェェッ!!」
「やめろ、幽々子ォォォォォオ!!!」
「さようなら。そしてありがとう。最期に、みんなに会えてよかったわ」
血が、吹き出す。少女の胸から。
最期に美しく、それでいて儚い笑顔を浮かべたまま、幽々子は地面に倒れ伏す。まるで命という名の糸が、断ち切られたようだった。
西行妖の根元を、赤く、朱く染めていく。その量は人間が出していい限界を超えていた。
その時、全員の頭に一つの結論が浮かぶ。
そう、
「あぁァァァぁァぁぁァアッ!!!」
西行妖の枝が幽々子の体に巻きつく。
絶叫を上げながら、紫が幽々子の遺体を救うため、西行妖の根元に飛び込んだ。
「妖忌殿は紫を! 俺は幽々子を助ける!」
「承知! 『冥府斬』!」
無防備な紫に、西行妖の鋭い枝が、無数に伸びて、襲ってくる。だが、妖忌は巨大な斬撃を飛ばすことで枝を切り落とし、紫を救った。
「楼夢殿、今じゃ!」
「ウオォォォォオ!!『百花繚乱』!」
妖忌の合図とともに楼夢は駆け出し、降り注ぐ無数の枝を片っ端から切り裂いて、幽々子の元にたどり着く。そして絡みついた枝を切り落とし、幽々子を抱えた。
だが、それを待っていたかのように、先ほどの倍ほどの枝が、楼夢たちに降り注いだ。
「ッ、邪魔だァッ!『
幽々子を抱えているため、思うように刀が振るえない中、槍のように鋭い枝が楼夢たちの視界を埋め尽くす。
だがその時、楼夢は『八岐大蛇状態』になると、その八つの蛇の口から千単位の閃光を放った。
それらは埋め尽くされた視界を次々と綺麗にしていき、襲いかかる全ての植物を灰へと還した。
その一瞬の隙に、楼夢は一気に駆け抜けると、妖忌たちの元へ戻った。
「楼夢、幽々子は!?」
「……すまねえが……」
「そ、そんな……どうしてよ、幽々子ォォッ!?」
紫の悲痛な叫びが、辺りに響き渡る。
抱えた時にわかったが、幽々子はもう死んでいる。救うとか助けるとかの次元ではなく、もうどうしようもなかったのだ。
そんな幽々子の遺体を持ってきたのには、訳がある。だが、その理由は残酷だ。よって、楼夢は少し話すのに躊躇ったが、時間がないと判断し、覚悟を決めた。
「紫、西行妖を封印する方法が一つだけある」
「ッ!? それは、どんな……」
「お前も気づいているだろ? 西行妖を確実に封印する方法。それは……
「ッ!?」
そう、これが今ある策の中で最も確実に封印する方法だ。
幽々子は西行妖に呪いをかけられたことによって、能力が進化した。なら、その時に幽々子と西行妖を呪いでつなぐパスのようなものができたはずだ。
今回はこれを利用する。通常に外から封印をかけようとすると、高密度の呪いのせいで弾かれてしまう。しかし、封印術式を幽々子の体から西行妖に送り込めれば、内部から
「でも、そんな……っ。幽々子を触媒にだなんてっ」
だが、紫はその策に賛成できなかった。
当たり前だ。彼女は今まで苦しんでいた。そんな幽々子に、死後も西行妖を封じ込めるための
「紫、気持ちは分かる。だけど……」
「いやよ! 幽々子は私の親友よっ! 今までたくさん苦しい目にあって、それでも生きてきたのよ! そんな彼女に、死後も苦しめなんて、言えるわけないじゃないっ!」
「紫ッ!!」
バチンッ、と乾いた音が響く。
ヒリヒリと痛みがする頬を抑える。その突然のことで、彼女の思考は完全にフリーズした。だが、やがて何が起きたのか理解する。
「いつまで我儘言ってやがる! 紫、お前は幽々子の想いを無駄にするつもりかっ!?」
「し、知ったようなこと言わないでよっ!」
「ああ知らねえよ! 少なくとも幽々子が自殺したのは頭にきたし、ふざけるなとも思った。だがな、あいつが俺らに何かを託したのは確かなんだよ! 紫、お前は誰だ!? 幻想郷の賢者だったら、今自分が果たすことをしやがれっ!」
初めて、楼夢が怒っているところを見た。
彼のおかげで冷静になれた。同じ幽々子の死を目撃して、我を失った紫に対し、楼夢はそんな自分を叱ってくれた。
相変わらず、届かないなぁ、と紫は思う。自分もいつかこういう人になれるのだろうか。たとえ何が起きても、未来に立って、いつも強く引っ張ってくれる、この人のように。
(私は八雲紫。妖怪の賢者と言われ、幻想郷を管理する者。……そうね、私はこんなところで死んじゃダメだ。ここで死んだら、今まで積み上げてきたものが全て崩れ落ちてしまう。だから幽々子……ごめんなさい)
「……やるわ。私が、西行妖を封印する!」
「それでこそお前だ。いつか幻想郷ができるまで、死ぬんじゃねえぞ?」
涙はもう流さない。今だけは前を向いて走る続けよう。
紫は立ち上がると、そう決意を胸に刻んだ。
「響け、『舞姫』」
楼夢の刀の形が変わり、舞姫が解放された。だがそれでも西行妖には届かないだろう。だが、先ほどより強くなったのは確かだ。
「俺がまず最初にあいつの元に切り込む! その間に紫は一番強い封印の術式を頼む。妖忌殿は、紫の護衛を!……最後に、死ぬんじゃねえぞ!」
「「おうッ!!」」
それぞれがそれぞれの役割を果たすため、バラける。紫は幽々子の遺体の元に駆け寄ると、そこを中心に地面に封印術式を描き始めた。
だが、術式を描いている間は集中して動けない。そこに鞭のようにしなる枝が、襲いかかる。それらを妖忌は的確に、なるべく体力を使わないように切り落とす。
「『
楼夢は青白い電気をその身に宿す。これは本来狂夢用の技なので、楼夢の体に負担がかかるが、そう言っていられない。そして桃色のオーラを三度重ねがけで纏った。そのせいで電気の色が青から赤に近い色に変色する。
「さらに……鳴り響け、『舞姫式ノ奏』」
舞姫式ノ奏。通常の刀の舞姫と扇の形の舞姫で二刀一対の武器になる、舞姫の最終形態である。先ほどの身体能力強化と合わさって、楼夢の体は何か超越的なオーラを放っていた。
だが、届かない。
これでも西行妖を上回ることはできない。だが時間稼ぎには十分だ。
「これじゃあ長くは持たないな……まあ、短期決戦と行こうじゃねえか!」
その言葉が、合図だった。
音速を軽く超える。凄まじい速度で西行妖に突っ込む。それを邪魔するように、槍のように鋭い枝と、鞭のようにしなる枝、そして蝶形の弾幕が、降り注いだ。
弾幕の種類はそれだけではない。溜めが必要なのか、連続では撃ってこないが、時々極太のレーザーが発射される。
「『天剣乱舞』!」
もはや視界すらも埋め尽くす無数の弾幕を、森羅万象斬を7回叩き込むことで振り払う。だがそれでもまた新しい弾幕が、無数に張られる。
切り払い、埋め尽くし、切り払う。まさにイタチごっこであった。
「楼華閃六十『
風の斬撃を乱れ打ちしたかと思えば、水の斬撃を放ち、氷の斬撃で凍らせる。だがそれでも、枝は次々と再生してきた。
やはり本体を狙ってみるのがいいだろう。しかし木の幹にまで行くには、その前に張られた黒い触手の膜が邪魔だ。
試しに、楼夢は浮かぶ限りの遠距離技を触手の壁に連射した。
「『サテライトマシンガン』、『マルチプルランチャー』、『
空から、光と闇のレーザーが、地上から、色鮮やかな弾幕が無数に放たれた。そのあまりの質量で、今出現している枝は妖忌の元に行くものも合わせて、全てが焼き千切れた。そしてその数の暴力は一斉に黒い壁にぶち当たり、大爆発を起こす。……だが
「……おいおいマジかよ。あれで突破できないって」
触手の黒い壁は、未だに健在していた。否、正確にはその威力に何回も焼け落ちたのだが、その度に端から触手が再生したのだ。そのせいで西行妖の幹には傷一つついていない。対してこちらは『
そんな楼夢に、触れたら即死する蝶形弾幕が大量に放たれた。明らかに狙ってのものだ。どうやら相手は妖力だけでなく、知能も持ち合わせているようだ。おかげでどんどん追い詰められていく。
「なめ、るなァッ!『ドラゴニックサンダー』!」
体は硬直して動かないが、頭は動く。八つのジグザグに進む雷が蝶形弾幕と衝突し、それらを消し飛ばす。その間に、楼夢は硬直した体を動かし、一旦退避した。
「……あの様子じゃ、後数分で完成ってとこか……ふふ、十分だ」
ふと、紫の様子を見る。楼夢が消しきれなかった弾幕を、妖忌が担当してくれているおかげで、今も無事に紫は術式を描き続けている。術式の完成時間を計算して、だいたい五分くらいか……。いずれにせよ、残り妖力も少なくので、厳しい五分になりそうだ。
「縛道の九十九『禁』!」
地に両手をつけると、鬼道の中でも最高格の九十九番の縛道を放つ。すると、どこからか長く巨大な黒いベルトのようなものが二つ、西行妖のあらゆるところに巻きついて、拘束した。
それを千切ろうと枝を振り回し、弾幕を放つが、後数十秒は持つはずである。
そして数十秒とは、次の技を準備するには十分な時間だった。
「千手の
右の刀を前に突き出しながら、楼夢は言葉を紡ぐ。
「届かざる闇の御手、映らざる天の射手、光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指先を見よ。光弾・八身・九条・天経・
舞姫の剣先に光が集う。
すると、とうとう、西行妖が黒いベルトを引きちぎり、体の自由を取り戻した。
だが、その時にはもう、遅かった。
「破道の九十一『
次の瞬間、数え切れないほどの光の矢が、西行妖へと突き刺さった。
それは先ほどの広範囲術式を複数同時に使った時に匹敵するほどの質量だった。だが先ほどと違うところがある。そこは、複数同時使用の時は全方位にばらまいていたのに対し、光の矢は一か所に集中して突き刺さっていることだ。
徐々に、壁がきしむ音が大きくなっていく。そして、とうとう、一つの矢が壁を貫いた。
『グボギャガギャァァァァァァァッ!!!』
それを勢いに、数百、数千の矢が西行妖の幹を貫いていく。それに耐えきれなくなったのか、獣のような咆哮を西行妖はあげた。
頭に直接響くような爆音に、たまらず苦しそうな表情をする。だが、それに耐えると、両方の舞姫に力を込めた。
「舞姫神楽『朱雀の羽乱れ』、『白虎の牙』、『青龍の
その場を中心に、優雅に神楽を舞う。すると、大量の炎の羽が、氷の氷柱が、水の爪が、岩の金槌が、同時に触手の壁をすり抜け、幹に直撃した。
「おまけだァッ!『魔導撃』!」
もはや触手の壁は完璧に崩れていた。そこに追い討ちをかけるように、紫の魔力の極大レーザーが、触手を幹ごと丸めて焼き払った。
『グギャガラギャッ、ゴガナビャガラガァァアァアァァァアッ!!!』
堪らず絶叫。西行妖はその常識はずれな威力に、一瞬だが動きを止めてしまう。
その間に楼夢は、次の術式を発動させた。
「『誓いの五封剣』、『閉ざしの三縛槍』!!」
五本の炎の剣が、三本の氷の槍が、それぞれ突き刺さる。そして西行妖を怯ませながら、じわじわとダメージを与えていった。
「楼夢、術式ができたわ!」
「よし、ぶっ放せ、紫ィィッ!」
「これで終わりよ……西行妖っ!」
そしてついに、後ろで描き続けた紫の封印術式が完成する。合図によってそれが発動し、突如、幽々子の遺体が眩しい光を放ち始めた。
ーーいける。
誰もがそう思った。……一人を除いて。
楼夢はこの時、
西行妖は桜の妖怪。
幽々子の遺体が一層大きい光を放った。
『"千年風呪"』
突如として、そんな女性の声が響いた。それは、楼夢がかつて聞いたことがある声と名だった。
そして、膨大な呪力で作られた、巨大な黒い旋風が、紫を襲った。
「紫、逃げ……」
『"金縛り"』
楼夢の言葉より早く、また呪いが放たれる。直後、紫の真下の地面から複数の黒い鎖が飛び出し、紫を拘束してしまった。
「ぐっ、何これ……動けなっ、いっ!」
「『桜花八重結界』ッ!」
急いで紫の前に立つと、八重の花弁の結界を張る。この結界はぶつかったものを亜空間に受け流す効果を持つ。だが、旋風の範囲が大きすぎて、全体の一部が、楼夢に襲いかかった。
「ぐっ、が……ぁ……ッ!」
「楼夢ッ!」
旋風をまともに受けて、楼夢は後ろに吹き飛ばされてしまう。そしてそのまま近くの木の幹にぶつかると、中の空気を吐き出しながら背中から崩れ落ちる。
「ゲホッ、ガハッ……!」
「大丈夫!?……うっ、これは……?」
紫は拘束を逃れると、すぐに楼夢のそばに駆け寄る。そしてその左腕の惨状を見て、言葉を失った。
真っ白いはずのその綺麗な左腕は、何かを染めたかのように黒く、ボロボロに朽ちていた。
その怪我を見て、当たり前か、と楼夢は思う。
(消滅の呪いがかけられた風に触れたんだ。そりゃこうなる。それにしても、俺って意外に学習能力ねえな……
残った力を振り絞って、立ち上がる。
だが、先ほど言ったとおり、残り妖力はわずか。左腕が使えないせいで舞姫式ノ奏も使えない。紫の術式は失敗した。おまけに相手は攻撃パターンを変えてきた。
明らかな詰みだ。
全員の顔が絶望に染まる。
その中で、どこからか笑い声が響いた。
『く、クフフフフフッ!アッハハハハッ!無様ですねぇ、楼夢さん!』
「この声は……まさか西行妖だというのか!?」
「それよりも……今、楼夢って……?」
突如聞こえたその声にそれぞれが困惑する。妖忌は西行妖が言語を話せるほど進化していたことに、紫はその西行妖から楼夢の名が出てきたことに、驚いた。
だが、その中で、唯一困惑しなかった者もいる。
楼夢だ。
今まで見せたこともない形相で、叫んだ。
「やっぱり、お前かよ。なぁ、なぜそんなところにいるんだ? 答えろよ、『早奈』ァァァァッ!!!」
『早奈』と、確かに楼夢は言った。
東風谷早奈。種族人間、職業巫女。守谷神社と名前を変える前の神社、洩矢神社で産まれ、諏訪子の巫女として仕えていた。
『呪いを操る程度の能力』を持ち、それを知る者からは嫌われていたが、唯一それを嫌わなかった、当時居候として住み込んだ楼夢に恋をする。そして諏訪大戦終了後にその想いを抑え切れなくなり、告白するが、種族の違いで振られてしまう。
そこから乱心してしまい、守谷神社を去り失踪してしまった。これが楼夢の知っている早奈の全てだ。
ならなぜ自分たちを殺そうとするのか。いや、そもそもなぜまだ生きているのか、楼夢にはわからなかった。
『アハッ! 覚えてくてたんですねぇ……嬉しいですよぉ!』
「質問に答えろ。なぜ俺たちを襲う? そしてなぜ、お前はまだ生きているんだ?」
『誤解ですよぉ、私はただ楼夢さんの魂が食べたくて食べたくて仕方がないんですよぉ! ああ、そうすれば私と楼夢さんは永遠に繋がっていられる! アハハッ! 私の楼夢さん……あなたの味はどんなのでしょう? 甘いんですかぁ? ねえ、楼夢さん? 楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さん楼夢さんッ!!!』
狂っている。もはや早奈は楼夢が知っている彼女ではなくなっていた。
(いや、これも俺のせいか……あの時俺が突き放していなければ、こうならなかったのかもしれないな。ふふ、面目ねえ、紫、幽々子。俺一人のせいで、お前たちを苦しい目に合わせちまった。この責任は、俺がとる……ッ!)
後悔よりも、彼女たちへの謝罪の念の方が大きかった。
だが、この責任だけは自分がとる。若い奴を、これ以上死なせてたまるか。
だから、紫……ッ。
「……逃げろ、紫」
「……へっ?」
「早く逃げろって言ってんだ! さっさとしろ!」
「い、嫌よ! このままあいつを放っておけるわけないじゃない!それに、このままじゃ楼夢たちが……」
「……わかった」
ヨロヨロと動きながら、泣きそうな顔をしている紫を抱きしめた。
顔を真っ赤にしながら、すっとんきょうな声を上げる紫。
そんな彼女に、一言。
「……すまなかった」
「へっ、それってどういうッ……ぐぅ、な……んで……ッ?」
鈍い音が、鳴り響く。
紫は言いかけた言葉を飲み込み、音の発生源を見た。
楼夢の拳が、紫の腹部に突き刺さっていたのだ。
物理耐性があまりない紫は、その痛みに耐えきれず意識を失う。最後に涙が流れたのを、楼夢は見逃さなかった。
空間を切り裂き、スキマのようなものを開く。
そして紫をその中に放り込むと、空間は自然に閉じてしまった。
……間に合ったようだ。紫を送った先は白咲神社。あそこなら危険は何もない。これで、紫の安全は保障された。
閉じた空間をしばらく見つめると、ゆっくり西行妖の方に振り返った。
「待たせたな。さあ、始めようぜ」
『本当ですよぉ。目の前でイチャイチャしないでください。危うくもう少しであの女を殺しちゃうところだったんですよぉ?』
「ちなみに聞くが、俺を殺した後、どうする気だ?」
『決まってるじゃないですかぁ。あの女を殺すんですよ。楼夢さんの周りに私以外の女は必要ないですし』
「そうか……ならお前を生かしてはおけないな」
「ご一緒いたしますぞ」
ボロボロになった体で、刀を構える。
すると横から妖忌が楼夢のとなりに並んだ。
よく見れば、二人とも服も体もボロボロである。刀も欠けてしまっていて、後もう少しで折れてしまいそうだ。
「お前はそれでいいのか?」
「ええ、幽々子様亡き今、私も楼夢殿同様ただの老剣士になってしまいました。なら、最後は若い者を守って、いさぎよく死にたいですしな」
「ふふ、いいこと言うじゃねえか。もし次出会えるなら、また酒でも飲みたいなぁ」
「その時はまた、ひと勝負もいいかもしれません」
ハハハ、と二人は笑う。
両方とも生き残ることは考えていない。ただ目の前の敵を殺すことに集中していた。
「……さて、行くか」
「行きましょうかの」
勝ち目はない。
だが負けてはいけない。
俺は最強。敗北はない。
「最後はお前も道連れだ。赤目の地獄門に招待してやるよ」
「今話自己最新記録の8637文字突破! おかげで更新が遅れました! 作者です」
「なんか最近文字数多いよな。永夜抄EXのフジヤマヴォルケイノで絶望する作者を眺める狂夢だ」
「なんか今回技多くないか?」
「よく気がつきましたね。今回はなんとっ! 今までちょっとだけしか出てない技を大盤振る舞いで出させてもらいました」
「『ドラゴニックサンダー』とか初期の技じゃん。よく覚えていたな」
「今回は28個も技でていますもんね。舞姫とかも合わせるとちょうど30個です」
「今回新登場の技はその中で3個だけだろ?」
「そうです。『青龍の鉤爪』と『玄武の金槌』、縛道の九十九『禁』だけですねぇ」
「ちなみになんでこんなに使い古したんだ?」
「そりゃ、ほら。多分次回で前編が終わりますし。それだったら色々ぶっこんでみようかな〜って、思って」
「要は最後に活躍させたかったんだな?」
「はい、そうです」