東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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夜の街と目を閉じよう

狼の鼻に惹かれぬように


by火神矢陽


常闇と炎魔と陰陽師の共闘

 

  楼夢が死んだ。

  その情報は都にいた俺の耳に、すぐ伝わってきた。

 

  現在、俺は平安京にいる。産霊桃神美の死亡の情報は、基本的に回ってないので、このことを知るのは妖怪の賢者と鬼の頭領と天狗の長ぐらいだろう。

  ではなぜ俺が知っているのだって? 職業柄こういう情報はけっこう入るんだよ。

  まあ、墓参りには行ってない。

  今ごろおそらく、紫の賢者が情け無い顔で泣いているだろう。ついでに鬼の頭領の方も、意外に涙を流してそうだ。

 

  薄情、と言われるかもしれない。だがよく考えてみろ。

  あいつは一応神だ。それに地獄の上層部を軽く超える力を持っている。

  つまり、ほっといても地獄が復活させるだろうし、そうでなくとも無理やりこっちに戻ってくるのが予想できるのだ。

  そんな奴のために墓参りに行くなんざ、時間の無駄もいいとこだ。

 

「火神〜、なんで宮殿なんかに向かってるのよ?」

「金だよ金。それ以外に俺が天皇ごときのとこに行く理由がどこにあるってんだ?」

 

  俺の腕に抱きついているルーミアが、そんな疑問をかけてきたので、答えておく。

 

  どうでもいいことだが、最近俺とルーミアは正式に付き合いを始めた。

  ことの発展はいつだったか。確か酔い潰れたルーミアが自分と付き合え付き合えうるさく言うから、思わず了承してしまったのだ。

  それ以来、ルーミアは俺とのスキンシップがかなり激しくなった。まあ、不快ではないので放ってはいるが。

 

 そんなルーミアを腕にぶら下げたまま、宮殿の門にたどり着く。

  すぐさま場違いな格好の俺たちを見て、門番が来たのだが、名前とそれを証明するものを出すと、土下座するような勢いで頭を下げて下がっていった。

  この都内では、俺の名前は陰陽道の業界で知らないものはいないほど広まっている。まあ、名前はあだ名の火神にして、本名は名乗ってないのだが。

 

  キラキラ輝く宮殿内を、ドシドシと遠慮なしに入っていく。

  妖しげな美貌を持つルーミアを連れていることもあってか、中の貴族どもの視線は全て怒りか嫉妬か下品に染まっていた。

 

「ふふ、妖しげな美貌だなんて、嬉しいわぁ。たまにはそんなセリフも行って欲しいわね」

「へぇ、じゃあ今度からベッドの上でそんなセリフ囁いてやるよ」

「な、なっ!?」

 

  途端に顔を真っ赤にするルーミア。

  俺は知っている。こいつはこう言った口調で相手をからかって喜ぶが、ストレートな言葉には弱いということを。

  一応、俺はこいつを案外気に入ってる。性格はともかく、八雲紫などと比べられるほどの美貌を持っているのは確かだからだ。

  そんなことを思っていると、大きな扉の前にたどり着く。

  その前にも見張りの兵が複数おり、見るからにここにお偉いさんがいることは確かだった。

 

「陰陽師の火神様が参られました」

「入れ」

「はっ」

 

  短い返事の後、警備の人間が大きな扉を開ける。

  俺はそいつらを無視しながら、ルーミアを引き連れて中に入った。

 

  その先は、広い空間につながっていた。

  装飾がキラキラ光っており、この空間というべき部屋をゴージャスに仕立て上げていた。

  その奥でこちら見下ろしている人物、鳥羽天皇が俺の目に映った。

  そのまま進むと、この平安京最強の陰陽師、安倍晴明が跪いていた。臣下の礼というやつだろう。

  他にも、身分が高そうな貴族が数名、晴明の後ろで跪いていた。

  しばらく進んで、晴明の横にルーミアと立つ。

 

  しばらくの静寂が部屋を支配した。

  すると、見慣れない貴族の一人が、いつまでも頭を下げない俺に対して声をかけてきた。

 

「陰陽師火神殿。さっさと臣下の礼を」

「あ? なんで俺が頭下げねェといけねェんだ?」

「なっ、貴様ッ! 天皇様の前だぞ!」

「うるせェよ新顔。俺に頭ァ下げろたァ、いつからテメエはそんなに偉くなったんだ?」

 

  当然のように、俺はそう返した。

  だが相手はそれがお気に召さなかったらしく、さらにヒートアップする。

 

「ふざけるなよ貴様! それでも貴様はこの国の陰陽師か!?」

「いつから俺はお前らの陰陽師になったんだ? 鼻から俺はァお前らを道具にしか見てねェよ」

 

「そこまでだ」

 

  そんな声が、辺りに響き渡った。

  天皇だ。

  やつは貴族を止めると、俺に頭を下げた。

 

「すまなかった火神殿。なにぶんこやつは貴殿と会うのは初めてで、このような態度を取ってしまった」

 

  そう言って謝罪する天皇。それを見て狼狽える先ほどの貴族。

  当然だ。

  俺は現在ここで陰陽師の真似ごとをして稼いでいるが、そのせいでどうやら俺は宮仕えの陰陽師という認識になっているらしい。

  だが実際は、他の大陸の技術を持ち込んだ賞金稼ぎとして、天皇とコネクションを作っていたのだ。

  やつにとって俺は他の大陸の使者。俺にとってやつは金を吐き出す道具。

  おまけに腕をちょこっと見せておいたので、危険で報酬が高い仕事は優先的に俺に回されるようになっている。おかげで大儲けだ。

 

  だが最近はやつも少しずつ報酬を減らしていっている。そろそろ潮時だろう。

  まあ、今回もその仕事の話で呼ばれて来たのだ。

  本来はこうして出向いていってやらないが、今回は特別だ。

  その理由は、今回の報酬金額があまりに異常だったからである。

  金額からして相当ヤバい仕事だろうが、これほどの金額を出されて下がるわけない。

 

「んでェ、今回の仕事の内容を聞きてェんだが?」

「わかった。今回は高名な陰陽師である安倍晴明と火神殿に、ある仕事を依頼したいのだ」

「その依頼とは?」

 

  自分の名が上がったことで、そう質問をする晴明。

  晴明と俺は、たまにこうやって同じ仕事を受けることがある。

  実際、こいつは八雲紫などの大妖怪最上位には到底及ばないが、その下の上位を倒せるだけの力がある。

  まあそのせいで一回正体がばれて、戦闘になったことはあるが。ちなみに結果は言わずもがな。とりあえず、5秒持っただけで凄いとコメントしておく。

  まあその後なんやかんやで和解して、時たまに共闘するようになった。

 

「うむ。現在、私こと鳥羽天皇は謎の病に侵されている。そして必死の調査の結果、我が妻である玉藻前(たまものまえ)が怪しいということがわかったのだ。そこで、この国最強の陰陽師である二人に、彼女の調査を頼みたいのだ」

「いいぜェ、ちなみにソイツが妖怪だった場合はァどうすんだ?」

「その場合はその時に考えておく。安倍晴明、引き受けてくれるな?」

「もちろんです。この安倍晴明、力の限りを尽くしましょう」

「そうか。では、明日からさっそく取り掛かってくれ」

 

 

 

 ♦︎

 

 

  その後、俺はルーミアと行きつけの団子屋に来ていた。……晴明を連れて。

 

「うーん、この団子甘〜い!」

 

  相変わらずルーミアは団子をばくばくと食っている。その白黒の西洋式の服を着ているのも合わさって、周りの目が集中する。

 

「さてと、晴明。俺がここに呼んだのはなんのためかわかるな?」

「今回の依頼の件だろう?」

「そうだ。もしも調査対象が黒だったら、お前はどんな妖怪が化けているのだと思う? 俺は正直この大陸の妖怪はあまり詳しくねェし、そこらへんを聞きたかった」

「うーむ、可能性として一番高いのは妖狐だ。奴らは化けるのが最も得意で、主に女性に化けるからな」

「妖狐か……」

 

  ふと、俺の脳にピンクのファンキーカラフル狐の顔が映った。

  あんにゃろう。死んだ後でも俺の思考に入ってくるとは。しかもその時の顔が妙にドヤ顔だったのがムカつく。

 

「む、どうかしたか?」

「なんでもねェ。知り合いにちょうどその種族だったやつがいただけだ」

「……もしかしてそれは、産霊桃神美ではないか?」

「……なんで知ってんだよ」

 

  晴明は俺の答えを聞くと、やっぱりか、という顔をする。

  なんで分かんだよ。お前もしかして俺のストーカーか?

 

「やっぱりか。かの有名な火神矢陽の知り合いときて、思い当たるのは産霊桃神美か鬼子母神くらいだよ」

「二人とも一応会っている。ちなみにこの前団子屋に来ていた桃髪の女が産霊桃神美だ」

「本当か!? やった、これで私の恋愛は確定した! 近い将来に結婚できそうだ!」

「……なんでそんな喜んでんだよ。お前一応陰陽師だよな?」

 

  普通妖怪が都に入っているのを危険視するだろうが、とツッコミを入れるが、それは違うと否定された。

 

「産霊桃神美だけは別だ。確かに彼女はいくつもの国を滅ぼしたり、地形を何度も壊したりしているが、その分信仰すると恋愛運が飛躍的に高まることで有名なんだ。事実この都にいる貴族の大半が彼女を信仰しているぞ」

 

  そんな様子で、ピンク頭について熱く語られた。

  なんであの天然女たらしが都じゃ恋愛の神様なんだろ? 縁結びの神だったら、まずは自分の恋愛をどうにかしやがれ。

  冗談で女と言ったが、こいつがあれの性別を知ったらどう思うんだろうか。今でも「思えば、あの時の産霊桃神美様は美しかったなぁ」とか言ってるし。

 

「まあでも、私は常時見やぶりの術式をかけているのに、気付けなかった時点で彼女がどれほど強いのか想像できるよ」

「まあ、そんなことはどうでもいい。今はどうやって調べるかだ」

「妖狐とはいえ、年中人間に化けているわけではない。妖力回復のため、数日に一回は休憩するだろう」

「つまり、一日中張り込みで調査するしかないってことかよ」

 

  なんか今回は面倒になっちまったな。

  よりにもよって、女性を一日中監視するとか変態じゃねえか。

 

「だが問題はその方法だ。一時的に身を隠すなら、私の陰陽術を使えばいい。だが一日中となると、私でも術を維持できないぞ」

「そこらへんは大丈夫だ。ルーミアの能力を使えば一日どころか三日三晩張り込めるぜ」

 

  ルーミアの能力は『闇を操る程度の能力』と言う、厨二くさい名前の能力だ。それを使って調査対象の部屋の物影に潜り込めば、一方的に覗くことができる。

  まあ、女性の部屋を覗くということでコイツが許可出してくれるか、だな。

 

「話は聞いたわ。でも火神、条件があるわ。入浴中は火神は見ちゃダメだからね」

「はいはい、わかったよ。んじゃ晴明、明日昼過ぎくらいに宮殿前で待ち合わせな」

「わかった。火神殿もお気をつけて」

 

 

 

 ♦︎

 

 

  そんなこんなで、アンジュールプリュター。つまり1日後ってことだ。

 

  暇です。

  俺こと火神矢陽は超暇です。

  暇すぎて星を一つ爆破してやろうかと思うぐらい暇です。

  いや、いっそ元凶ごと焼き払ってしまおうかな。

 

「物騒なこと言ってんじゃないわよ。まあ、その案には賛成だけど」

「やめてくれ火神殿! 後で怒られるのは私なんだぞ!?」

「あ、じゃいっか」

「やめてくれぇぇぇぇぇ!!!」

 

  さて、現在俺はルーミアの能力で玉なんとかの部屋の中を覗いています。

  ちなみに影の中は結構快適だった。真っ暗なのかと思いきや、空間の色を好きにいじれるらしく、明るい空色にしてもらっている。

  そこらへんには食料が大量に積んであり、前々からここに保存していたのがわかった。その他にも、ルーミアの闇の中に収納しておいた俺の持ち物が全てこの中にあり、晴明はそれに飛びついていった。

  しばらく飽きることはないだろう。

 

  だがちゃうねん。

  一週間も外に出ないで、飽きないわけないだろアホが!

  ちくしょう! こんなことならなんか遊具でも入れときゃよかった。

  ちなみにその間、雨の時風の時便所の時入浴中の時でも監視を続けているが、いっこうに尻尾を握らせてくれない。

  だが俺の野生の勘は、なんとなくこいつが妖怪だということを理解していた。

  さらに一応根拠もある。奴が、霊力の他に妖力を纏っていることだ。

  その比率は2対8。妖力の方が圧倒的に多い。おそらく霊力は大量の妖力を変換して極小な量のものを作っているのだろう。

  それを普通なら感知できないように、何重もの妖術をかけていたらしいが、相手が悪かった。

  さて、予想的には今日中に妖力が切れるはずだ。奴は霊力を作るのに大量の妖力を消費している。

  だったら今日ぐらいが限界だと思うんだが、後ろの二人は飽きて点で役に立たない。

 

  とその時だった。

  ボフンッ! という音とともに煙が玉藻前から舞い上がった。そして煙が晴れると、そこにはーーーー九本の尻尾を持った人型の妖狐がいた。

  俺はその姿を見た時、前に別大陸で聞いたとある情報を思い出した。

 

  金色の毛並み。それをまといながら輝く九本の尻尾。さらにはあらゆる男を惑わす美貌。

  間違いない。あいつは『白面金毛九尾』だ。

  隣の大陸から追われていたらしいが、まさかこんなところで出会えるとは。

  奴の皮を剥いで隣の大陸に行けば、今回の報酬と合わせてかなりの額が稼げる。その後は故郷に里帰りでもしようか。

 

  そんな考えに至ってると、狐は風呂に入るために部屋を出て行ってしまった。今がチャンスだ。

 

  ルーミアの能力を使用。隠れていた棚の影から、黒いゴッドハンド的な何かが飛び出した。

  それは先ほど白面金毛九尾がいた地面にたどり着くと、金色の毛をひとつまみ取って、戻ってくる。

  俺はガラス瓶を取り出すと、拾った金色の毛をその中に放り込んだ。

  任務完了だ。今回で玉藻前が妖狐であることが分かったし、信じなくても他の陰陽術師にこれを調べさせればすぐに発覚するだろう。

 

  これで今日はぐっすり眠れる。

  寝ている二人を叩き起こして、俺たちは部屋から退却した。

  ハッハッハ! あばよカカロット! これから確定で死刑になりそうだが、頑張って生きてくれたまえ!

 

 





「一難去ってまた一難! 楼夢が死んだら今度はお前かよ、火神!! 最近リア充撲滅してもまた増えてくるという恐怖に陥ってる狂夢だ」

「一難去ってまた一難! そろそろテスト期間なので、二週間ほど投稿をお休みします。後編も始まったばかりなのに、皆様大変申し訳ございません。作者です」


「おい作者。なんでリア充がまた増えてるんだ?」

「知りませんよ。気付いたらくっついていたんですよ。まあ、ルーミアちゃんはそれ以来火神さんにベッタリになっているみたいですね」

「それを受け入れている火神も火神だ……って、違う! なんでまた撲滅後に沸いたんだよ!? もう一回撲滅してやろうか!?」

「無理ですね。楼夢さんの時とは違って、今火神さんをひっぱたくとルーミアさんに殺されます」

「救いはないのかよォォォォォォッ!!!」

「まっ、これでこの小説で唯一の男キャラの内、彼女できていないのは狂夢さんだけになりましたね」

「楼夢もいないだろうが!」

「あれはハーレム作ってるからそれ以上なんですよ」

「ちくしょォォォォォッ!! 誰か俺と付き合ってくれェェェェェェッ!!!」

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