東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
響き渡る怒号 鳴り響く鐘の音
反逆の笛は鳴らされた
さあ、ハンティングゲームを始めようか
by火神矢陽
私の名は玉藻前。またの名を白面金毛九尾という。かつて中国、インドで人間と交流しようとしたが、いずれも正体を見破られ、この国に追いやられた。
自分で言うのもアレだが、私はかなりの美形だ。かつての国にいた時も私はこの美貌のおかげで人間のお偉いの夫人として、高い地位を得ることができた。
今回もそれだ。ウロウロと彷徨い歩いていたところで鳥羽天皇に出会い、その妻として宮殿に迎えられることになった。
そして、私は今その宮殿内の自室にいる。
最近、鳥羽天皇が原因不明の病に侵されたそうだ。
だが、私はその原因を知っている。十中八九、私から漏れ出る微量の妖力が原因だろう。
私は白面金毛九尾などと言われているが、化けたり妖術を扱うのが得意でも、妖力を完全に消し切ることは得意ではない。最大限努力しているのだが、どうしても僅かな量が漏れてしまう。
おそらく、後数ヶ月で私の正体はバレてしまうだろう。安倍清明、私と同等の力を持つ彼がいる限り、どこかで必ず私の正体は明かされてしまう。
だが、それは逆に言うと、後数ヶ月は時間があるということだ。
その間に逃げる準備を整え、いざという時に脱出してやる。
だが、そうやって余裕があると思っていたせいか。その時の私はもう手遅れだったということに微塵も気づいていなかった。
ドンドン! と扉が叩かれる。
何か用だろうか? と無警戒にも私は扉を開けてしまった。
よく考えればわかることだ。仮にも天皇の妻の自室の戸を、こうも乱暴に叩いたのはなぜか?
やがて、大きな扉が開いた。
そこから現れたのは、大量の武装した兵たちだった。
「玉藻前! ……いや、妖怪『白面金毛九尾』! 貴様を天皇様を害した疑いとして、連行する!」
「なっ!?」
先頭の兵から放たれたその言葉に、私は絶句する。
馬鹿な、早すぎる。私は妖狐の大妖怪だぞ! その私の術式を数日で暴くなど、大妖怪最上位でも不可能だ!
だが現実は非情にも、そんな私の言葉は無意味だった。動かない私を見てか、先頭の兵が手に持った槍を突き出してきたのだ。
とっさに避けるも、かすってしまい、肩から血が流れる。
……もはや、和解は不可能のようだ。
先頭の兵が槍を掲げながら叫ぶ。
「なるほど、その行為は我々への敵対とみなす。よって、命令通り、我々は妖怪玉藻前の抹殺を行う!」
その言葉を聞いて、後ろの数十の兵士が雄叫びをあげながら突進してきた。
だが、その程度で大妖怪上位の私は倒せない。妖狐が最も得意とする妖術『狐火』を広範囲に広がるように放った。
それは波のようにうねり、兵士たちに襲いかかる。
直後、爆発。大勢の兵士が吹き飛ばされ、動きを止める。
その間に術式を展開。妖術で姿を消し、部屋に狐火で穴を空けると、その場から脱出した。
後ろから兵士たちの怒号が聞こえる。
だが止まらない。止められない。
ひたすら前を突き進む。目的地も、宛もないのに。
♦︎
玉藻前の自室内。そこには数十の武装した兵士たちがいた。
だが、中には倒れ伏している者や、気を失っている者も少数いる。幸い玉藻前の攻撃が一撃しか来なかったのもあって、死者は出ていなかった。
その中心にいる一際目立つ鎧を着ている人物。この部隊の隊長である彼は、先の狐火を弾くために消費した槍を捨てると、懐から西洋のコンパスのような物体を取り出した。
その物体につけられている針は、とある方角を差していた。
「急げ! 早く討伐軍に白面金毛九尾が逃げたことを伝えろ。編成が出来次第、位置は私が伝える!」
コンパスが差す方角は、玉藻前が逃げた方角と同じところを差していた。
そう、このコンパスは現在進行で玉藻前の位置情報を伝えていた。
このコンパスは、火神が暇つぶしで作ったマジックアイテムだ。魔力で標的を設定すると、対象の方角を本体が伝えることができる。
この男は、先ほど槍に魔力のヘドロのようなものを少量塗っていたのだ。それが玉藻前の体に付着し、今も情報を伝えているというわけだ。
ちなみに普段の火神なら、こんな物は貸さない。だが今回はさっさとこの国をおさらばしたいので、特別にと火神がこの男に独断で貸していたのだ。
つまり、玉藻前はもうどこにも隠れることはできないということだ。妖力と魔力は性質などが全然違うので、なぜ位置を特定できるのか彼女にはわからない。
玉藻前の悔しむ姿が目に浮かぶ。
この後玉藻前は一ヶ月もせずに捕まるだろう。戦死していない場合は、最悪で死刑、良くて上級貴族の恵み者として一生を終えるだろう。
男はこの後自分が昇格する姿を思い浮かべると、ニヤつきながらギラリと歯を輝かせた。
♦︎
果たして、あれからどれほどの敵を倒したのだろうか。
正体が明かされてから、私は三日に一回のペースで討伐軍と戦闘を繰り広げていた。
最初は1500ほどだった軍が、今ではその倍以上の人数になっている。
どこかに隠れようにも、なぜだか位置を特定され、攻められてしまった。
おかげでもうボロボロだ。妖力は三日で回復するが、精神面での疲労は積もり続ける。おまけに小さな傷もいくつかできてしまっていて、このままではとても生き残れそうじゃない。
そうこうしている内に、現在私が潜んでいる森の外から笛の音が轟いた。
ついに来たか。そう思い、視力を強化して相手の本陣を覗こうとする。
そこで見た光景に、私は絶句した。
森の外。決して小さくない森の周りを、無数の兵の大群が埋め尽くしていたのだ。
あとで聞いた話だが、その数は約8万であったという。
そんな大軍を相手にして、私が無事でいられる確率は何パーセントだろうか。おそらく0が複数ついてくるだろう。
かつて妖狐の先祖と呼ばれる産霊桃神美様は、一人一人が都の兵士よりも強力な神兵10万人と数十数百の神々を同時に相手にしたという。
私にはそんなこと到底出来やしない。
だが、やらねばやられる。やるやらないかの問題ではなく、やらねば死ぬのだ。
幸いここは森の中だ。ここで相手の軍を引っ掻き回して、この森から脱出してやる。
「先行隊、突撃!」
おそらく将軍であろう豪華な鎧をまとった人物は、馬に乗ったままそう叫ぶ。直後、数百の兵士が、森の中に殺到した。
♦︎
「ハァァァァッ!」
爆風が起こる。あたりの兵士が飛び散る。
着弾地を中心に、青い狐火の炎が兵士たちを飲み込んだ。
これで……十回目だ。
「十一番隊、突撃!」
……まだいるのか。
いくら倒しても倒してもキリがない。アリの大軍のように、巣から這い出てくる。
奴らは、大軍を4千で一つの部隊に分けていた。それが数十個。
十回目とは、私がその部隊を全滅させた回数だ。そして、また十一回目の猛攻撃が始まる。
奴らが軍を部隊に分けた理由は二つ。一つは、この森の大きさでは8万の兵士の力を活かせないからだ。そんな数を入れれば、刀を振るのも困難になるほど、隙間がなくなる。
私としてはこの方法の方が都合が良かった。身動きが取れない大軍に向けて、広範囲の妖術を放つ。そのシナリオ通りになれば、私の生存率ははるかに高まっていた。
だが、相手の将軍は馬鹿ではなかった。いや、不幸なことに、むしろ優秀だった。
軍を部隊に分けた二つ目の理由。それは、単に私を消耗させるにはその方が良かっただけだ。
現に、私の妖力はもう残り1割を切っている。いくら温存しようが、それは変わらない。
対して相手はまだ半分の兵士が残っている。突撃してくる兵士たちが、まるで何度も何度も蘇ったゾンビのように見えた。
燃える木の幹に身を隠しながら、暗殺者のごとく気配を消し、ただチャンスをじっと待つ。
森の方も限界だ。7割の木に私の狐火の炎が燃え移っており、このままでは隠れる木すらなくなってしまう。
そうなる前にこの森を脱出しなければならない。
焦る気持ちを抑え、息をひそめる。
やがて、そのチャンスが来た。
部隊の人間たちが、私がいる木に背を向けたのだ。
不意打ちにはまたとないチャンス。最大威力の狐火を静かに術式を描く。そして1分後、それを部隊の真ん中に落とした。
絶叫をあげながら、全力で極大の炎球を放った。それは部隊の中心で爆発すると、半分の命を蒸発させた。
残るもう半分も無傷ではない。ほぼ全員がかなりのダメージを受けていた。
「やァァァァ!」
木の陰から飛び出すと、鋭い爪で重傷の人間たちにとどめを刺した。それにより兵士たちが刀を向けるが、遅い。
いきなり現れて動揺している兵士に速度だけを重視して急所を貫いていく。
目、喉、心臓。貫いては切り裂き貫いては切り裂いていく。
やがて、一人の人間が札をこちらに構えて詠唱を唱えていた。
陰陽師。人間特有の力、霊力を操り、妖術のような現象を起こす奇術師。
その陰陽師の持っていた札が、複数の雷となって私を襲った。
だが、私は加速を止めない。雷の下をギリギリですり抜け、陰陽師の懐に潜った。
深く腰を落とした状態から、それを右腕とともに引き上げる。
アッパーカット。もしくはその類の攻撃。陰陽師の顎は、頭ごと鋭い爪で貫かれ、吹き飛んだ。
相手の最後を確認せずに振り返り、次の標的に移ろうとした。
だが、そのせいで私は気づかなかった。
「死ね」
誰かの低い声が、辺りに響いた。
直後、陰陽師の体は、私を巻き込んで大爆発を起こした。
「ア、ガァァァァァアッ!!!」
突然の陰陽師の自爆によって、私の体は宙に吹き飛ばされた。
バランスを崩しながらも着地した私が見たのは、自分の体に迫る曲がった刃。
それはバランスを失った私の腹を斜めに叩き斬り、近くの木の幹まで吹き飛ばした。
「ガハッ! うぐっ……痛ッ」
やられた。
私の体に、深く赤いラインが刻まれていた。
日本刀本来の力を活かすように
日本刀本来の使い方ではないので速度は落ちるが、体重を乗せて力任せに振る分、刃が腹に食い込んで、深い傷を私に負わせたのだ。
憎々しげに、私を切った兵士を睨む。
……思い出した。この男、私が自室で戦った部隊の隊長だ。
そいつはニヤニヤとゲスな笑いを浮かべながら、血が滴る刀を構える。
「久しぶりだなぁ、玉藻前。貴様には感謝しているよ。貴様のおかげで私はこの後昇格が決定されたのだから、なァッ!」
左足で地面を蹴り上げると、男は一気に加速して私に急接近してきた。
その速度を利用して、刀が振るわれる。。それを間一髪で避けると、大きく後ろにバックステップした。
この男……強い。
霊力で強化された身体能力。それを活かして、先ほどのように大振りに振るのではなく、すぐ次の攻撃に移れるように細かく攻撃してくる。
そのせいで隙がない。いつもの私なら妖力量の差のゴリ押しでなんとかなるが、今の私は消耗してしまっている。おまけに腹を切られたせいで、動きが鈍い。
刃を避けつつ、爪で応戦する。しかしリーチの差が酷く、接近戦は相手の方が上手だった。
手のひらに狐火を発生させると、それを爪にまとわせて横に薙ぎ払った。
急に現れた炎に危険を感じ、今度は相手が後ろに大きくバックステップした。だが、そのおかげで私との間に距離ができた。
その距離約10メートル。遠距離攻撃を放たれるこの距離は……私の距離だ。
『狐狸妖怪レーザー』。赤と青の長いレーザーが兵士の周囲から放たれ、動きを制限する。運悪くレーザーの間にいたものは、その身を焼き尽くされて、息絶えた。
そして私は大量の弾幕をばらまいた。動きが制限されたその場ではまともに避けることができず、大半が弾幕に吹き飛ばされ、その身をレーザーで焦がされていった。
だが隊長格の男は、臨機応変に刀から衝撃波を飛ばして対応した。
だが、そんなのは予想していた。だから、そこにもう一つ追加させてもらう。
『仙狐思念』。ばらまかれた大量の鱗型弾幕が、規則的に全て同じ方向に進んでいく。それが間を置いて、何発も放たれた。
普通なら少し横に動き続けることで避けることができるこの技。だが、『狐狸妖怪レーザー』で動きを制限された状態では、この弾幕は悪夢と化す。
そして、三回目。360度見渡しても1メートルもない空間でそれらを避けようとしたため、ついにその一つが彼の体にクリーンヒットした。
一つが当たればそれで決まり。間髪入れずに、ばらまかれた大量の弾幕が全て男の体中に被弾し、大きく吹き飛ばされる。
そこで待っていたのは、赤と青に光るレーザー。吹き飛ばされた先で、両腕を横から串刺しにされ焼き尽くされた。
「い、痛"ァァァァァァァァァッ!!!」
そのあまりの激痛に、男はたまらず絶叫をあげた。
……終わりだ。
弾幕とレーザーが消滅する。そして串刺しで宙に固定されていた男が、地面に崩れ落ちた。
男は地に落ちた魚のように痙攣すると、涙飛ばして鼻水が混じった顔で逃げようとする。だが、させない。
「終わりだ。大人しく往ね」
人間一人を即死させるに十分な大きさの狐火を、男の背に放つ。
男は爆風で消し飛び、跡形もなく消え去った。
ふと、男がいた場所に何か落ちているのが分かった。
私の狐火にも耐えたのを妙に思い、それを拾う。
それと似たような形のものを、私は一度見たことがあった。
確か、これはコンパスだったはずだ。東西南北を示す機械だったはずだ。だが、南北を示すはずの針は、不自然に私を差していた。
不自然に思い、コンパスの後ろに回りこむ。だがやはり、コンパスの針は私を差していた。
なるほどな。ようやく辻褄があった。
つまり奴らは、この機械で私の位置を特定していたのだ。
どうやってこんなものを作ったのかは知らない。だが、これがなければ私の位置を特定できないのは確かなはずだ。
コンパスを投げ捨てると、強化した脚力でそれを踏みつぶした。
これで、この森から脱出しても追いかけられることはなさそうだ。これが一つだけという保証はないが、こんな見たこともない技術で作られたものがそう何個もあるとは思えない。
後ろを振り返れば、残った兵士が森から脱出しようとしていた。十一部隊が壊滅したのを知られるのも面倒だ。人数分のレーザーを作ると、それを正確に飛ばして、兵士たちを始末した。
さて、視力を強化して敵の様子を探ろうか。
見たところ、相手の数は半分以上にまで減っていた。そのせいで森全体を囲むことができず、幾つか兵士たちの間に穴が空いていた。
それを確認すると、私はそのポイントまで駆け出した。
やがて、森の出口付近にたどり着く。そこには数十の兵士が、退屈そうな顔で燃え盛る森を眺めていた。
千載一遇のチャンスだ。
近くにあった、巨木に高密度の狐火を放ち、全体を真っ赤に染める。それを妖術を駆使して、兵士たちの方に投げ飛ばした。
赤い柱がグルグルと回転しながら落ちていく。
それは兵士たちを潰して吹き飛ばすと、着弾と同時に爆散して、炎の粉を振りまいた。
兵士たちがいきなりの攻撃に混乱し、散り始めた。
その間に妖術を発動。姿を消す術を発動して、逃げ惑う兵士たちの間を一気に突破した。
こうして私は、八万の大軍から、森からの脱出を成功させた。
♦︎
「ふーん、八万も人間がいたのに逃げられたの? 情け無い奴らね。おまけに火神のマジックアイテムも壊されたそうじゃない。……よし殺そう。いや殺す」
「落ち着きやがれルーミア。所詮子供のお小遣いサイズの金から作った
「いや、そのことで我々に討伐の依頼が来た。報酬もここに書かれている」
「見せろ。……へェ、なかなかいい小遣いが稼げそうじゃねェか。おい晴明、うどんの準備をしておけ」
火神は、依頼の内容が書かれた紙を地面に叩きつける。
「キツネ狩りだ。一度でもいいから、うどんにモノホンの狐肉をぶち込んでみたかったんだよ」
紅く光る瞳をギラつかせ、立ち上がった。
狐が一時の平和を得られる時間は少ない。
余談だが、のちに彼が狐肉をうどんに入れたのが元で、赤いキツネのうどんができたのだが、この時の彼はこのことを知らない。
「どーも皆さん久しぶりです。成績が悪かった場合、財布から野口が3人旅立ってしまうことになる作者です」
「普通に3千円って言えよ。二週間ぶりの投稿で読者が離れてないか心配な狂夢だ」
「そういえば作者、明日カラオケに行くんだっけ?」
「この小説を投稿した時間帯を考えると、今日になりますけどね。それがどうしたんですか?」
「……一人か?」
「んなわけあるか!? 誰が寂しく一人で行くんだよ!? 私にも少なくとも友達くらいいるわ!」
「なんだ、俺はてっきり点数が悪かったから寂しく泣きに行くのかと」
「一人カラオケの方が最近じゃ料金高いんですよ!?」
「じゃあ安かったら一人で行くのか?」
「……返答を拒否します」