東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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獅子は鼠を狩る時も本気を出すという

だがそれは必死だからではない

それで歪む、相手の表情が美味いから、全力を尽くすのだ


by火神矢陽


称号とは奪いかえすもの

  火神矢陽。それは西洋最強の妖怪でもあり、支配者でもある。

  そうあるはずなのだ。

 

「さぁて君に質問、西洋最強の妖怪と言えば誰でしょうか?」

「そ、それは……っ、あ、あなたですっ!」

「じゃあ俺の名は?」

「……っ!」

「……話にならねェ」

「あっが、がぁぁぁぁぁあ!!」

 

  首を絞めていた手が、さらに強くなる。男は断末魔の声を上げると、グシャッ、という音とともに頭部が弾け飛んだ。

 

  頭を失い、倒れた男の体を踏みつけて足場にすると、白髪の少年は男と同族の妖怪『ウルフマン』の群れに睨みを利かせた。

 

「さて、二人目行こうか?」

「ふっ、ふざけるなぁぁぁぁあ!!」

 

  少年が笑顔で問うたところ、次のウルフマンが飛びかかってきた。

  ウルフマンは狼男とも言われる種族。獣の体毛で覆われた人型の体には、鋭い爪が隠されている。

  それを妖力で強化して、大きく振りかぶった。それを少年は避けようとしない。

  もらったっ! ウルフマンは密かにそう思うと、そのまま爪を振り下ろした。

 

  直後、黒い閃光が、ウルフマンの爪を右腕ごと消し飛ばした。

 

「……ぁあ? あっ、あぁぁ、ぁぁぁぁぁああああああッ!!!」

「おっと、すまん。わたあめの集合体みたいなものが飛んできたから、思わず消しちまった」

 

  わたあめ、とは彼らの獣毛のことを表しているのだろう。彼らは湧き上がる衝動を必死に抑え続けた。だが、それももう無意味だった。

 

「どうやらこれ以上はいい結果が出そうにないな。よし、全員死刑ってことで」

「……はっ?」

「スリー……ツー……ワーン」

「まっ、待ってくださいっ! 質問に答えれば助けてくれると……」

「あくまで正解が出たら、って意味なんだがな。そしてゼロ」

「い、嫌だ、嫌だぁぁぁあああああああああ!!!」

 

  それが、彼らの最後の言葉となった。森に巨大な魔法陣が展開される。そしてそこから、爆炎の風が、辺り一帯を焼き払った。

 

 

 ♦︎

 

 

「ちくしょう! なんで俺が歴史の偉人扱いされてんだ!? まだ死んでねェよボケがァ!」

「千年以上も行方不明のやつなんて、誰にでも忘れられるでしょ?」

「だとしても、俺の代わりに西洋の支配者を語っているやつがいるのは許せねェ!」

 

  現在、俺は非常に怒っていた。理由は先ほどの会話からわかる通り、俺の名が圧倒的に廃れていた、ということについてだ。

  そして何より、俺が消えた数十年後に、とある妖怪が俺にすり替わるように西洋の支配者の座についたらしい。

  ファフニール・スカーレット。それが、今回の泥棒猫の名前だ。

  やつは吸血鬼という種族で、ここ数百年でやつが支配者の座についてから栄え始めたらしい。今じゃ種族間では西洋最強と言われている。東洋の大陸でいう、鬼のような存在だ。

 

「ねえ、なんでそんなに西洋最強の座にこだわるの? 別にたかが数百年しか歴史のない種族なんだから、あなたなら相手にならないでしょ?」

「そこらへんはどうでもいい。だが、あのピンクファンキー頭が生き返った時に、一瞬でも『あれ、火神君弱くなっちゃったの〜?www』なんざ思われたら、一生の恥だ。それだけは絶対に俺のプライドが許さねえ!」

「だからってねえ……なんでもう目標の屋敷前にいるのよ!?」

 

  俺たちの目の前には、屋根も壁も全てが真っ赤な屋敷が建っていた。

  その門の前に、俺たちは立っている。

  悪趣味な屋敷だ、と内心思う。ここの主人のセンスのなさが伺えた。

 

「でもどうやって入るの? 私の能力でも使って侵入する?」

「いや、俺たちはいわばここの主人の先輩ということで来るんだ。というわけでもちろんーーーー」

 

  テクテクと門の前に歩いていく。そして手の甲を門に向けると

 

「ーーーーノックして入るに決まってんだろ」

 

  ドゴォォォン! ドゴォォォン! ドゴォォォン! 門が三回、轟音の叫びを上げる。

  だが、中から誰も出てくる気配はない。どうやらここの主人は礼儀知らずでもあるようだ。

 

  その時、俺の後ろから、女性とわかる声がかけられた。

 

「……何者ですか? ここは紅魔館、吸血鬼の王であるファフニール・スカーレット様の屋敷であることを知っての行為ですか?」

「お、やっと起きたか。ずいぶん俺の後輩とやらは雑なんだな。というわけで通らせてもらうぞ?」

 

  俺の目に映ったのは、緑色の中華ドレスを着た、赤い髪の女性だった。どこぞの紫スキマ女と違って、服の作りは動きやすいように作られており、まさにザ・カンフー娘と言ったところだった。

 

  そんな女性は、ここの主人を馬鹿にされたことに対してか、不機嫌な面になると、中国拳法の構えをとった。

 

  「あなたは招かれざる客です。即刻、退場してもらいましょう」

「退場? 誰が? どうやって? もしお前だとしたら、くだらんジョークだ」

「言いましたね。後悔しなさい」

 

  そこから戦闘の合図がなった。

  女が左足で地面を蹴ると、凄まじい速度で俺に接近してきた。そこから挨拶代わりとばかりに右拳を突き出す。

  それを軽く左手の甲で払うと、女の攻撃は激しさを増した。

  コンビネーション技を組み合わせながら、右左の拳を連射する。時々蹴りが下から襲ってくることもあって、この女がいかに拳法に熟練しているのかがわかった。

 

  だが、当たらない。ギリギリのところで、俺は全ての攻撃を受け流していた。

  それよりも気を使える妖怪がいたとは盲点だった。こんな西洋の地でなぜそんな妖怪がいるのか気になるが、まあ、今はどうでもいいだろう。

 

  いい加減、門番も気づいてきたはずだ。俺とこの妖怪では、技術に圧倒的な差があることを。

 

「っ、それなら!」

 

  女性は少し間合いを取ると、腰を落とす。そして拳に、虹色に光る気を集中させた。

 

  ーー『大鵬拳(たいほうけん)

  溜めた右拳を、まっすぐに突き出す。それだけの動作を、気の力が数倍にまで威力を高めた。

 

  だが、突き出した拳の先の俺を見て、女性は目を見開いた。

  視線の先、映る俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()

  その右拳に宿るのは、女性のとは違う、禍々しい黒い瘴気。

 

  虹色と漆黒がぶつかり合う。だが、均衡したのは一瞬で、虹色の光は黒に飲み込まれ、女性の体は強烈な衝撃とともに吹き飛ばされ、門の壁に衝突した。

  壁は崩れ落ち、女性はそのガレキに呑まれていく。動かないところから、どうやら気絶したようだ。

 

「……あっ、壁壊しちまった。……まあ、吹っ飛んで直接壊したのは門番だし、大丈夫か」

 

  一応他人の屋敷ということで、壊れた壁に罪悪感を覚えたが、直接触れていたのは女性の方なので、俺のせいじゃない。そう、言い聞かせた。

 

  門を抜けて、庭を通る。そして、その奥にある屋敷の扉に、手をかけた。

  ふと、ここで死んだじいちゃん……ではなく、ファンキーピンク頭狐のとあるセリフが思い浮かぶ。

  『ドアは手で開けるもんじゃない。全体を使ってぶち破るものなのだ』奴はそう言っていた。

  なるほど、確かに扉をぶち破りたい衝動に駆られてきた。

  というわけで、数歩後ろに下がる。そしてそのまま、勢いをつけてーーーー

 

「おっ邪魔しまーーっす!!」

 

  思いっきり、ライダーキックをかました。

  俺の背丈よりも大きな扉は、凄まじい轟音を上げながら、奥の壁にぶつかり、粉々に砕け散った。

 

  ……ふぅ、スッとしたぜ。

  呆れたルーミアの視線を誤魔化しながら、内装を見渡す。

 

  赤い。それが、はじめに思ったことだ。

  外から見ても赤かったが、中に入った瞬間に一気にきつくなった。

  壁、床、天井……ありとあらゆるところが赤で染まっている。

  正直言うと、空の色が見えた外の方が何倍もマシだった。『紅魔館』とは、よく言ったものである。

 

  おのれ、吸血鬼め……っ! 地味に目が痛くなる精神攻撃を仕掛けてきやがったか……っ!

 

  相当悪い趣味を、相手はお持ちのようだ。

  なんだか急に会いたくなくなってきた。これで服とか顔とか肌とか、全部が真っ赤っかだったら、思わず吐いてしまいそうだ。

 

「どうする、火神? 部屋が多すぎて一々開けるのは面倒くさいわ」

「魔法を使えよ。確か『ライフサーチ』とかいうやつがあっただろ」

「はいはい、『ライフサーチ』」

 

  ルーミアが軽くそう唱えると、足元に丸い魔法陣が展開され、光を発した。

  『ライフサーチ』は、範囲内の生命の場所と人数を特定する魔法だ。

  簡単に見えるが、実際は上級の魔法使いでも覚えるのを困難とする大魔法である。

  そして、場所が特定されると、俺とルーミアはそこに向かった。

 

  そこには、一際大きな扉があった。

  そこだけ普通よりも飾り付けが激しくされており、いかにもここにいますよ、と言っているようなものだった。

  容赦なくそこを蹴り抜く、俺。

  そこには、これまた一段と広い空間に出た。

  天井は空中戦を思いっきりしても問題ないように設計されており、横の空間もかなり広かった。

  おそらく、ここはいわゆる領主の間というやつなのだろう。ここで侵入者を待ち伏せして、思いっきり叩くつもりのようだ。

 

  蹴り抜いた扉から、まっすぐ伸びていたレッドカーペット。その奥に、どこぞの王様が座っていそうな、金と赤で装飾された大きな椅子があった。

  そこに座っている、人型のシルエット。

  それはやがて立ち上がると、ゆっくりこちらに向かってきた。

 

  顔は三十代ちょっとの男性。だが身長は180を超えており、かなりの美形だ。

  金色に光る男にしては長い髪を、紐で結んである。

  いや、長いと言っても、ピンクファンキー頭には到底及ばないが。後ろ髪が尻にまで届いていてよくあそこまで動けたな、あいつ。

 

  金髪の貴族風の男性は、ぺこりと礼をすると、威圧を放って挨拶をした。

 

「ようこそ我が館へ、侵入者。すまないが、名を名乗っていただけるかね?」

「人に名前を聞くときはまず自分から、って親に習わなかったのか?」

「おっと、私としたことが失礼した。私の名はファフニール・スカーレット。この紅魔館に席を置く、夜の支配者だ」

「火神矢陽。この西洋大陸の支配者だ」

 

  互いに支配者という文字を強調させて、自己紹介した。

  一見礼儀正しく見えるが、やつと俺の目から、火花が飛び散っていた。

 

「それにしても、人の屋敷の扉を壊すとは、西洋の支配者殿は扉の開け方を知らないと見受けた」

「そういうこの屋敷は赤、赤、赤ばっかだなぁ。製作者はよほど頭も真っ赤に染まってと思われる。さすが、夜の支配者殿! センスのなさが、光りますなぁ!」

「……宣言を撤回してもらおうか。この屋敷のことを馬鹿にすることだけは許さん」

「嫌だと言ったら?」

「力でねじ伏せるまでッ!」

 

  直後、爆発音がしたかと思うと、ファフニールが凄まじい速度で接近してきた。そして両手の鋭い爪を、高い技術で繰り出す。

 

「おおっ、速い速い!」

 

  だが、それを体術で受け止め、受け流し、反撃の一撃を放った。

  しかし、それもファフニールには避けられてしまう。

 

  勝負は、乱打戦に入っていった。

  両者の拳が、凄まじい速度で飛び交う。迫り来る攻撃を、それぞれの体術でいなして、反撃に乗り移っていた。

  だが、経験値というステータスでは、俺の方が有利だった。

  西洋風の体術から、東洋の体術に、一気に切り替えた。

  直後、攻撃のリズムが急に変わった。

 

  接近中に、渾身の正拳突きを放った。

  ファフニールは両腕を交差させてガードするが、あまりの威力に後ろに飛び退いた。

  そこから、打撃の嵐がファフニールを襲った。拳だけではない。蹴りを含めた変則的な一撃が、ファフニールが一撃振るごとに二発、炸裂する。

 

  このままではジリ貧になると思い、右拳にファフニールは力を溜めた。

  直後、バランスを崩し、俺の動きは一瞬止まった。

  そこをやつは見逃さない。妖力で輝く拳を(テンプル)めがけて振り抜いた。

 

  だが、振り切ったその拳は、俺の姿を捉えていなかった。否、ファフニールの視界から、()()()()()()()

 

(どこだっ!?)

 

  その時、床がこすれる音が聞こえた。

  すぐさまやつは下を直視する。

 

  そこには、腰を限界まで深く落とした、俺の姿があった。

  そのまま足を伸ばして、体ごと回転させ、その勢いを利用して右足のかかとでファフニールの足を払った。

  『水面蹴り』。さすがのファフニールも、これを食らったことはないようで、足のバランスを大きく崩し、体を落とした。

  その一瞬。それだけの時間で、俺は次の攻撃に移っていた。

  深く落とした腰を、バネのように大きく伸びあげ、その反動で左フックを打ち込んだ。

  『ガゼルパンチ』。ボクシングで言うアッパーとフックの中間の軌道を描き、ファフニールの顎が、一回転しながら上へと打ち上げられた。

 

  赤い血しぶきを上げながら、ファフニールは受け身を取ると、後ろに下がった。

 

「……ふふふ、私はこう見えてもかなり体術に磨きをかけてきたんだが、やはり敵わぬか」

「吸血鬼ってのは再生能力が高ェんだな。首を折ったのに、もう治りかけていやがる」

「普通の吸血鬼はこれほどではないのだがね……まあ、吸血鬼の先祖として能力が少し高いだけだ」

 

  ファフニールの首の骨は、後数分もすれば完全に治りそうで、致命傷には至っていなかった。

  だが、一つの傷を治すのに数分かかるということがわかった。ならば、治す暇もなく攻撃し続ければいいだけだ。

 

「さて、そろそろ全力でいかせてもらおうか」

 

  そう言うと、ファフニールの右手に赤い妖力が集まっていくのがわかった。それは剣のような形になり始め、最終的に細剣(レイピア)のように剣幅が細い片手剣が出来上がった。

 

「『龍の閃光(レイ・オブ・ドラゴニック)』。それがこいつの名だ。こいつを私に使わせたことを……あの世で後悔しろ!」

 

  瞬間、赤い閃光が俺の頬を掠めた。

  ツゥー、と血が滴る。

  閃光の正体、それはファフニールの高速の『突き』であった。

 

  慌てて後ろへ飛び退く。

  だが、それを見越していたかのように、ファフニールは深く踏み込み、距離を詰めた。

 

  そこから放たれる、閃光の嵐。

  それらを全て、間一髪のところで避ける。だが、いくつかの突きが俺の薄皮を突き破り、その度に体から少量の血が流れるのであった。

 

  さらに俺は後ろに下がる。

  だが、ファフニールは細剣をまっすぐに構えるだけで、追撃はしてこなかった。

  だが、直後、細剣に大量の光が集まっているのが見えた。

  まずいと思い、魔法を発動しようとする。

  だが、遅かった。

 

  細剣の切っ先から、赤いレーザーが、火花を鳴らした。

  それは俺の腹に当たると、一瞬で貫いて、後ろの壁に穴を空ける。

  だが、ファフニールは舌を小さく鳴らした。

 

「まさか、あれを食らって無傷とは」

「属性の相性が良かっただけだ。俺に熱は通用しねェ。だがまあ、久々にやる気が出てきた。特別に、本気を出してやるよ」

 

  確かに、ファフニールの閃光は俺の腹を貫いていた。だが、()()()()()()()()()()()

  俺の能力は『赤熱を操る程度の能力』。熱操作系の能力の最上位に立つ能力だ。

  赤い閃光の正体、それは超高温の熱光線であった。

  だが、俺は全ての熱を吸収するため、熱光線は通じず、俺を通り抜けてしまったというわけだ。

 

  本気を出す、という言葉にファフニールは眉をひそめた。

 

(本気を出す、だと……? 馬鹿馬鹿しい。所詮ニ、三割力が増すくらいだ。その程度、どうにでもなる)

 

  ファフニールは、俺が手加減をしていることをわかっていたようだ。

  ただ、その割合がどれほどまでかは理解していないようだ。

  ファフニールの予想は七、八割。だが、その予想は裏切られることになる。

 

「……なッ! なんなんだこの力はッ!?」

 

  大地が震える、悲鳴をあげる。

  全力で解放された俺の妖力は、ファフニールを遥かに超えていた。

  だが、本当の悪夢はこれからだった。

 

「ぶっ殺せ、『憎蛭(ニヒル)』」

「りょーかい」

 

  突如、ルーミアが黒い光に変化する。そして俺の右手に集まると、黒光するバールを生み出した。

 

  見れば、ファフニールが汗で顔を歪ませている。

  当然だ。妖魔刀を解放する前でさえすでに妖力量の差が激しかったのだ。妖魔刀を持った俺と比べて、単純な妖力量で数倍ほどの差がついていた。

 

「さて、それじゃァ始めるか」

「ッ! くそッ!」

 

  床を思いっきり踏みしめる。瞬間、俺はやつの眼前に迫っていた。

  勢いを利用して、バールを横に振るった。

  すると、発生舌を黒い衝撃波に呑まれ、ファフニールは体中骨折しながら吹き飛ばされる。

 

  続けて、バールを床に叩きつけた。瞬間、ファフニールの真下の地面が巨大な針へと変化し、やつを串刺しにした。

  『ストーンニードル』。一般的な土魔法も、俺クラスになるとかなりの大きさのものを作れる。

  だが、急いでやつは土の針を破壊した。そのおかげで、なんとか生きながらえたようだ。

 

「貴様だけでもッ! 道連れにィッ!」

 

  瀕死の体に鞭打って、夢中で走り出すと、俺に向かって、刺突の嵐を叩き込んだ。

  とは言っても、当たらないのだが。本気になることで身体能力も向上しており、今では閃光と呼んでいた刺突もスローに近い状態で見切れるようになっていた。

 

「当たれ、当たれぇ! 当たれぇぇぇぇぇッ!!」

「うるせぇ、邪魔だ」

 

  振り切られた細剣の上に、バールを叩き落とした。

  それはレイ・オブ・ドラゴニックを粉々に砕くと、地面に衝突する。

  直後、黒い爆炎が、波のように前方に吹き荒れた。

  真正面からファフニールはそれに呑み込まれ、焼き切られたまま地面に吹き飛ばされた。

 

「ゴッ、ガハッ、ゲホッ!」

「……はぁ、所詮その程度かよ。よくそれで西洋の支配者を名乗れたものだなァ? ああん?」

 

  本当に、呆れたものである。

  正直言って舐められているのかと思った。

  第一、数億生きている俺に、千年ほどしか生きていない吸血鬼が勝てると思うのがおかしいのだ。

  本当に、伝説の大妖怪を舐めている。これはしばらく西洋に残ってこれみたいなやつを再教育する必要があるな。

 

  まあ、こいつはよくやった方だろう。妖魔刀なしの状態の二割とはいえ、俺に傷を与えたのだ。

 

  ーーそれに免じて、全力を出してやろう。

 

 

「神解」

 

  言霊と同時に、黒い爆炎が俺を包み、巨大な柱と化す。

  ふと、手に持っている獲物の形が変形しているのがわかった。

  やがて、変化が終わると、俺は右に握る()()を振るう。

  直後、爆音とともに、柱は黒い光となって散っていった。

 

  ファフニールは俺の圧倒的な妖力量に、動くことすらできなかった。

  俺の右手に握られているもの。それは紫を帯びた黒の片手剣であった。刃の部分は血のような真紅が塗られており、邪悪な雰囲気を放っている。

  こいつが、俺の神解。その名は

 

「侵食しろ、『漆黒の光(ニュイルミエル)』」

 

  無造作に、黒剣を振るう。

  直後、吹き荒れた暗黒の炎が、ファフニールの頭を掠め、後ろにあるものを土地ごと全て消し飛ばした。

 

  俺は、もはや動くこともできなくなったファフニールに、ゆっくり歩み寄った。

 

「さて、終わりだな」

 

  暗黒の炎剣を、やつの頭に落とそうとする。

  だがその時、何者かが扉をこじ開けた。

  それは俺の目の前に駆け寄ると、両手を広げて仁王立ちをした。

 

「やめろ! お父様をいじめるなっ!」

「れ、レミリア! 止めるんだ、逃げろぉ!!」

「……」

 

  俺は剣を振り下ろそうとした状態で止まっている。

  ……おい、なんだこの雰囲気は?

  目の前ではおそらくファフニールの娘と見られる幼女が目に涙をためて立っている。そしてそれを止めようとする父親の図。

  はい、完全にこれ俺が悪者ですね。わかります。

  とはいえ、俺に幼女をいたぶるような趣味はない。ファフニールは殺そうかと思ったが、完全に気が削がれた。

 

「……帰ろ」

「えっ?」

 

  結局、俺は帰るという選択肢を選んだ。

  よく考えてみたら、ここでこいつが死んだら、ほぼ確実にこいつの大量の部下が敵討ちにくる。

  そんくらいなら数分で終わるが、それで妖怪が大量に死ぬと、人妖のパワーバランスが崩れて面倒なことになる。

  ルーミアが文句を言ってくるが、関係ない。

 

  俺はボロボロになった屋敷を歩いて、外に出たのであった。

 

 




「どーも、現在実家で編集中の作者です」

「カラオケ行きたい。ゲーセン行きたい。でも誘う友達がいない。そんな経験、あなたはありませんか? 狂夢だ」


「今回で、今章の火神矢さんパートは終了です」

「ああ、これキャラ別でパート分けていたんだな。ちなみに何パートあるんだ?」

「火神さんを合わせて、七パートの予定です。もちろん狂夢さんのパートもありますよ(めっちゃ少ないですけど)」

「おおっ、そりゃ嬉しいな! ところで話は変わるが、火神の戦闘総合評価はないのか?」

「ありますよ。こちらです」


火神矢陽

総合戦闘能力値

通常状態:12万
憎蛭解放状態:24万
ニュイルミエル解放状態:120万


「あれっ!? これ俺よりも総合戦闘能力高いぞ! どうなってやがんだ!?」

「これは後編の戦闘総合評価表ですからね。当然全キャラがインフレしてます。もちろん、狂夢さんはこれよりもずっと高いので安心してください」

「なるほど、そりゃ安心だな。ところで作者、俺の出番が少ないという話について、どういう意味か聞いてもいいか?」

「聞こえていたのかよ!? というか、それよりも逃げなければ!」

「逃すとでも?」


この後、作者は星となりました。




おまけ


ファフニール・スカーレット

総合戦闘能力値:5万

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