東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ふらふらと、広い世を回る

旅人の、飽きなき心のように


by安倍晴明


陰陽師の旅の記録

 

 

  道無き道を歩く。

  険しい山道であった。

  目的地の手がかりは一つ、手に持つ『白咲』と刻まれたお守りだけ。

  私こと安倍晴明は、幻の社『白咲神社』を目指して、今日も旅を続けていた。

 

 

 ♦︎

 

 

  現在、私の目の前に映っている山。そこを、お守りは差していた。

  ということは、この山のどこかに白咲神社があるということだ。

  思えば、ここまでたどり着くのに二年以上もかかった。

  火神殿なら、ここまで一週間、いや三日ほどで来れるだろうが、私は陰陽師であるだけの人間。身体能力を強化して速く走れても、風のように空を飛ぶ方法など知らない。

  いや、厳密に言えば飛ぶことはできる。だが、飛翔時間は全霊力を注いで一時間というところであり、速度もさほど出ない。しかも飛翔後はしばらくの休憩がいる。

  戦闘でちょこっと使うぐらいしか使い道がなかった。それなら、一日中歩いた方が速い。

 

  そうやって苦労してたどり着いた山を、懸命に登り始める。

  この山に来たのは、私がさらに強くなるためだ。

  私の力では、大妖怪上位の相手までしか倒すことができない。その上の最上位の存在には、どうしても勝てないのだ。

  いや、火神殿は圧勝していたが、私は玉藻前でさえ倒せなかったかもしれない。いや、あそこで私が出ていたら、確実に死んでいた。

  そこまで、玉藻前という存在は大妖怪上位の中では最強格だった。あそこに火神殿がいたのは、幸運としか言いようがない。

 

  別にこの力で世界中の人間を助けるだとかは思っていない。ただ、誰かに守られるのが嫌いなだけだ。

  ならどうすれば守られなくなるのか? それより上の、力を手にすればいいだけだ。

 

 しばらく山道を歩いていると、青い炎で形作られた狐が五匹、現れた。

  これは、誰かの手によって作られた妖怪だ。いわゆる、式のようなものである。

  青い炎ーー狐火から作られているので、これは妖狐の仕業と見て間違いはないだろう。

  狐型の狐火のうちの一人が、私に飛びかかった。

  だが、それよりも速く私は術式を構築していた。

  球状の大きな水の塊が、一匹に向かっていっせいに放たれた。

  水の塊は見事に命中し、狐火は風前の灯火のように弱々しい炎を放ちながら後ろに下がった。

  すると、近くにいたもう一匹の狐火が、自分の炎を分けて、先ほどの狐火を回復させてしまったのだ。

 

「厄介な……っ」

 

  ギリッ、と歯を噛み締める。

  だが、狐火たちは待ってくれない。二匹の狐火が、左右から私に向かって再び飛びかかる。

  左右同時では先ほどの水の術式は間に合わない。ならば、もっと速い術式を使えばいいだけだ。

 

  私が地面を足で叩くと、二つの土の塊が地面から射出された。

  だが、狐火たちは土の塊に当たっても、炎が飛び散るだけで再び再生してしまった。

 

「くそっ!」

 

  左右から迫り来る牙を、後ろに大きく飛び退くことで回避する。

  失念していた。あれは獣の形をしているが、実際は炎の集合体なのだ。よって物理攻撃が全然効かなかった。

  一匹の狐火が口を大きく開ける。そこに青い光が溜まっていくのを、私は感じた。

 

「ガァァァァア!!」

 

  青い炎のブレスが、私に向かって放たれた。

  私は再び土属性の術式を構築。そして地面に手をつけ、霊力を込めた。

  作られたのは土の塊ーーではなく、私の目の前を覆う巨大な壁であった。

  それはブレスを見事に防ぐと、泥のように溶けてしまった。

  だが、それでいい。

  右手をブレスを吐いた狐火に向けてかざす。すると、泥のように溶けた土が、狐火を覆い、まとわりついた。

  やがて、狐火は力なく消え去り、その姿を光の粒子に変えた。

  炎を消すには水。それは常識だが、何もそれだけが火を消す手段ではない。

  今回のもその例外の一つだ。小さな火を消す時、水ではなくてよく砂をかけて消すことがある。私がやったのは、その巨大バージョンだ。

  狐火を密度の大きい土で、球状に覆うことによって、酸素を取り入れなくなるようにする。そのまま球状の土を圧縮することで、炎ごと消すという寸法だ。

 

  もう一匹の狐火が襲いかかってきたが、再び土の壁を作ることによってそれを防いだ。

  そして巨大な水の球を作り出す。そしてその中に狐火を閉じ込めると、狐型の炎は叫び声を上げてあっけなく消え去った。

 

  さて、と視線を残りに戻す。

  残敵は三匹。周囲を警戒した結果、援軍の可能性もゼロだった。

  ここは、一気に片付ける!

 

  大規模な術式を展開する。これは脳内で構築するにはあまりにも大きすぎるので、こうして空中に描く必要があった。

  それに合わせて、詠唱を唱え始める。そしてそれに応じるかのように、術式の陣が青色に輝き始めた。

  狐火たちも、本能的にこれが危険だというのに気づいたのだろう。血相を変えて、いっせいに飛びかかってきた。

  だが、遅い。

 

  術式発動! 直後、私の手前に巨大な広範囲の水の壁が噴き出した。それは一瞬揺れると、大波のように私の前に倒れ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……終わったか」

 

  新たな狐火が現れる気配はなかった。とはいえ、広範囲の術はやはり負担が大きい。

  私は少しここで休むと、その後に山登りを再開しようと思った。

 

 

 ♦︎

 

 

  山の途中から見えてきた長い階段を登っていると、赤く大きな鳥居が視界に映った。視力を強化すると、鳥居には『白咲』と書かれている。

  間違いない。ここは、私が目指していた目的地、白咲神社であった。

  心臓の鼓動が高まるのを感じながら、鳥居を抜ける。すると、ある光景が目に映った。

 

  何者かが、刀で素振りをしていた。

  黒髪の、黒い巫女服を着た女性。

  そんな彼女から繰り出される剣線は、速く、鋭く、そして優雅だった。

  美しい。私は人生で初めて、人のことをそう思った。

  神々しい姿で、舞うかのように空を切っている。だが、そんな彼女は急に刀を収めると、ゆっくり私の方を振り向いた。

  そして、凛とした瞳を向けて、話しかけてきた。

 

「ようこそ来た。ここは白咲神社。縁結びの神である産霊桃神美様を祭る神社だ」

「こ、こちらこそ。私は安倍晴明と申す。今日ここに来たのは、実は頼みがあってですな」

 

  私はなぜ自分がここに来たのかを説明した。

  しばらく大人しく聞いていた彼女であったが、ここで修行をしたいと言うと、目を細め真剣な顔になった。

 

「なるほど。だが、それは私の独断では許可できない」

「そうなのか? では、ここでは修行はできないのか?」

「いえ、とりあえず私と模擬戦をしてみないか? それ相応の資格があると私が思えば、私からあの方たちに頼み込んでみよう」

「……わかった。それでいこう」

 

  私としては、女性と戦うのは苦手だ。だが、あの剣技を思い出し、改めて彼女がこの白咲神社で修行してきた猛者と認識を改めた。

 

  境内で、一定の距離を保って私と彼女は立っていた。

  そういえば彼女の名を知らないなと思っていると、いいタイミングで彼女は自己紹介をしてきた。

 

「そういえば申し遅れたな。私は()()()()。ここ白咲神社で巫女をしている」

 

  そう言うと、彼女は腰につけていた鞘から、刀身が漆黒に染まっている刀を抜いた。

  私の方も、服の裏に大量のお札を貼り付け、戦闘準備を整えた。

 

「いざ、尋常にっ!」

 

  試合開始の合図は、彼女のかけ声だった。

  その時、突如、私の目の前から彼女が凄まじい速度で迫ってきた。

  そして、そのまま高速で刀を振るう。

  それを間一髪で避けると、私はギョッと目を見開いた。

  なんと、先ほど避けたはずの刀が再びこちらに向かってきていたのだ。私は一撃目を回避した状態のままなので、避けることはできない。

  凄まじい刀の返しだ。

  私は避けることはできないと悟り、あらかじめ服に仕込んでいた札の一つを使い、術を一瞬で放った。

  私と彼女の間で、突如炎の壁が現れた。だが、それで彼女が怯んだのは一瞬だけ。すぐに炎を切り裂くと、すぐに次の攻撃に移ろうとしていた。

  だが、その一瞬で私は彼女から距離をとると、時間稼ぎと目くらましのために土の槍を複数放った。

  もちろん、土槍は彼女によって一瞬で切り裂かれた。しかしその時、土槍は自ら自壊して飛び散り、砂けむりを巻き上げた。

  そして時間稼ぎが成功し、術式の構築が完了する。

  砂けむりが現れた彼女が見たものは、自らに向かってくる数十の雷の刃であった。

  いくら彼女が強くても、種族は人間だ。刀一つで、数十の雷を防ぐことはできまい。

  そう思っていた私は、次の瞬間、ありえないものを見た。

 

「『夢想斬舞』」

 

  突如、彼女の刀が虹色に包まれる。そして、私に向かって突撃しながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  これを避けられると思っていなかった私は、当然彼女の接近に対応が遅れる。そして、その一瞬が命取りだった。

 

「『氷結乱舞』」

 

  彼女の刀が氷に包まれる。そこから放たれた、七つの斬撃。

  とっさに服の裏の札を大量に使って結界を張ったが、三発目で破壊されてしまった。

  刃が体に食い込むごとに、その箇所が凍らされていく。

  だんだん意識が朦朧としてきた。

  そして、七発目。最後の斬撃を食らって、私の意識は闇に沈んだ。

 

 

 ♦︎

 

 

  ハッと目を開け、布団から飛び起きた。

  そして、周りの物を確認する。

  現在、私がいる部屋には、布団が一枚と、旅の荷物。それ以上には何もない部屋だった。

  一瞬あれは夢での出来事だったのかと思ったが、その次に襲いかかった激痛が、あれは現実での出来事ということを証明してくれた。

 

  ふと、自分の姿を確認する。

  服はいつもの陰陽師用の和服から、白い寝間着に変わっていた。その下にあるのは、四つの大きな刀傷。ただ、包帯がそこに巻かれていたため、直接見ることはできなかった。

 

  体を痛めつけないようにゆっくり立ち上がると、戸の前に行き、開けようとする。

  だがそれと同時に、外から同時に黒髪の女性が戸を開けてきた。

  その女性は、楼夢であった。彼女は一礼すると、部屋の中に入る。

 

「どうやら気がついたようだな。怪我の具合は?」

「ああ。治療してくれたおかげで、大丈夫だ」

「それは良かった。では本題に入ろう」

 

  本題とは、私の願いが叶うかどうかの話だろう。だが、正直言って断られる未来しか見えない。

  自分では善戦した方だと思うが、自分の思いと結果は違う。

  数にして、約五分。それが、試合が始まってから私が見た景色の時間だ。

  こっちは確実に斬撃を当てられ、対してあちらは全くの無傷だ。レベルの違いがありすぎる。

  だが、返ってきた言葉は、私の考えの間逆だった。

 

「結果として、貴方にはここで修行する資格があると私は判断した。そして、頼んでみたところ、ここで貴方が暮らせる許可が下りた。おめでとう、私にできることがあったらなんでも言ってくれ」

「へっ? ご、合格したのか? 貴方には惨敗して何もできなかったのだぞ?」

「少なくとも、あの戦いで貴方は大妖怪上位を倒せるレベルであると感じた。それに、私はここで修行して長いのだ。まだまだ負けて入られない」

 

  とりあえず、私は晴れてここで修行することが決まった。

  とはいえ、さすがに今日は修行をするつもりはない。傷口がふさがって、完治してからだ。

  そのことを伝えると思ったがあっさり了承された。

  だが、それまでの間、何もしないのは暇だ。なので、彼女には私の話し相手になってもらった。

 

 

 それから、傷がふさぐまで彼女と様々なことを話した。おかげで、色々なことを知ることができた。

  例えば、彼女の名字は別のがあって、ここで白咲という名をもらったこと。ここの神である産霊桃神美様がすでに死亡していたことなど。

  他にも、色々な情報が彼女からは聞けた。

 

  そして今日、私の傷は完治していた。

  いつも通りの陰陽師用の和服に着替えると、境内に出る。そして、霊力を操作すると、私は修行を始めるのであった。

 





おまけ

安倍晴明

総合戦闘能力値:1万

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