東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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桜散る

儚く、一瞬で

だが、そのどれもが色を持っている

それぞれの色を持って、桜散る


by博麗楼夢


本当の「お帰り」

 

 

  それはまさしく、重力の波だった。

  翔天は、己を中心に、能力を全方位に発動させた。

  すると、ものすごい速度で地面が凹み、木々が沈み、重力で侵食されていった。

 

「……まずい、避けきれ……ないッ」

 

  とっさに避けようと上に飛び退くが、全方位に侵食していくため、空中で再び地面に叩きつけられてしまった。

  同時に、休んでいた焔花も、重力に耐え切れず、地面に倒れ伏してしまう。

  そして、とうとう翔天の半径五百メートルの間に、重力を倍にするフィールドが展開された。

 

  翔天はそれを確認すると、重力に耐えて立っている博麗めがけて飛んでいく。そして、その勢いを利用して、力任せに刀を振るった。

 

  轟音とともに、地がえぐれる。博麗はその一撃を、両手で柄を握って、刀で防いだ。

  だが、妖怪の腕力を人間の腕力で止めようとしたため、腕の骨にヒビが入ってしまったのがわかった。

  顔をしかめ腕を抑える博麗に、翔天の容赦ない蹴りが入った。

  避けようと体を動かしても、重力で思うように動くことができず、ふらついてしまう。結果、凄まじい速度の蹴りは、博麗の腹に突き刺さった。

 

「……グゥ……ッ! ガ……ハッ!」

 

  メギャリ、という鈍い音が響く。そして、肋骨を数本折られた博麗は、地に崩れ落ちた。

  息をしようとしても、苦しくてただ痙攣するだけに終わる。そんな姿の博麗を見て、翔天は止めにと、博麗の周りの重力を五倍に書き換えた。そして、勝負あったか、と呟いた。

 

  翔天は不敵に笑うと、ようやく立ち上がった焔花の元に、歩み寄った。

 

「さて、次は貴様の番だ」

「……ッ! いいわよ、来なさい! あの子だけは絶対守ってみせるッ!」

「……くくく、これは滑稽だ。貴様はまだ自分の子が生きていると思っていたのだ?」

「……どういうことよ?」

 

  突如笑い出した翔天に、焔花は最悪の出来事を想像し、冷や汗を流す。そして、恐る恐る尋ねた。

 

「我の能力は先ほど言った通り『重力を操る程度の能力』だ。だが、その使用方法は半径五百メートル内にあるもの一つ一つを指定するのではなく、その範囲を指定することによって発動する」

 

  つまり、翔天の能力はフィールド内にあるものに干渉するのではなく、その範囲に干渉する能力ということだ。

  例えで言うと、今から一つの石ころの重力を操作しようと思う。

  この時、翔天の能力では、石ころ自体の重さを変えるのではなく、石ころの周りの重力を変えなければならない。

  このように、物質ではなく範囲を指定して発動させる能力を、『範囲干渉系能力』と言う。

 

「我は先ほど、我から半径五百メートル内の空間の重力を倍に書き換えた。それは社の中であっても変わらんということだ」

「……まさかっ」

「その通り。 我の能力は貴様の子にも及んでいるということだ。産まれたての赤ん坊が、倍の重力に耐えられるかなぁ?」

「……嘘、でしょ……?」

 

  突きつけられた現実に、焔花は崩れ落ちる。その目から光が失われていた。

  それを満足げに眺めると、翔天は刀を振り上げた。

 

「さよならだ。せめて、一思いに葬り去ってやろう」

 

  翔天の刀が、禍々しく光る。それが、焔花の首めがけて振り下ろされた。

  焔花は、とっさに目を閉じ、その後の運命に身を任せた。

  ーーーー……ごめんなさい、姉さん、紫……。

 

 

「勝手に人を殺すな」

 

  だが、思い描いた運命は、やってこなかった。

  轟音が響き渡る。突如襲いかかった紫の衝撃波によって、翔天は地面に吹き飛ばされた。

 

「……姉、さん……?」

 

  焔花を助けた人物。それは確かに博麗であった。

  だが、その姿はいつもと違っていた。

  腰まで届く長い髪は、黒ではなく、妖しくも美しい紫に変化していた。瞳も同様。体からも、同じ色の、まばゆい紫の光ーー妖力が、オーラとなって現れていた。

  そして、一番焔花を驚愕させた事実。それは、博麗から生えている、紫毛の九本の尾と、狐耳であった。

 

「姉さん、なに……それ?」

「……すまないが、説明は後だ。まずはこいつを始末する」

「……始末する、だと? 誰を? この……我を……か?」

 

  博麗は静かに開眼する。そこから放たれた、紫の視線が、翔天を射抜いた。

 

「残念だったな。焔花の子のにはあらかじめ強力な結界を張っておいた。干渉系能力は、それ以上の霊力または妖力をぶつければ、簡単に崩壊する」

「……なっ、なめるなァァァァ!! まぐれがそんなに嬉しいか!? それなら今度は、二度と笑えぬよう本気でーーーー」

「うるさい」

 

  翔天の怒り狂った叫びは、冷たい博麗の言葉と、放たれた閃光の衝撃波によってかき消された。

  翔天は再び、体を切り刻まれながら吹き飛ばされる。その威力と速度に、彼は目を見開き、驚愕した。

 

「なっ、なんだその威力は!? たかが半妖では絶対出せない……貴様、何者だッ!?」

「……そういえば、名乗り忘れてたな。白咲楼夢、偉大なる我が神、産霊桃神美様が居られる白咲神社の巫女だ」

「伝説の大妖怪の巫女だと……? 馬鹿な! なぜそんな奴がここにいる!?」

「そんなことはどうでもいい。ただ、私の妹と実家をメチャクチャにしたことは覚悟しろ」

「クソがァァッ!!!」

 

  空中で、二人の刃がぶつかり合う。だが、先ほどのように吹き飛ばされることはなく、涼しい顔で、博麗は刃を受け止めている。

  一方、翔天は全力で力を込めるが、ビクともしない。そして力の込めすぎで、顔を真っ赤に染めていた。

  翔天は、力ずくを諦め、能力発動に切り替えた。

 

「くらえ、十倍の重力を!」

 

  そして、翔天の能力が発動する。だが、博麗の周囲の重力は、変化することはなかった。

  再び、翔天の顔が驚愕で埋め尽くされる。

 

「なぜだ!? なぜ、我の能力が効かないッ!?」

「先ほど言ったはずだ。範囲干渉系能力は、そのフィールドにそれ以上の力がある場合、崩壊すると」

「我は大妖怪最上位だぞっ! その我が作り出したフィールドが、破られるわけーーーー」

「なら、試してみるか?」

 

  パンッと手のひらを鳴らす。すると、大妖怪最上位を超える妖力が、ドーム状に解き放たれ、半径五百メートル内のフィールド全ての翔天の力を打ち消した。

 

「……そんな、馬鹿なぁ……っ」

「これで、わかっただろう?」

 

  そんな翔天に、空いた左の手のひらをそっと向ける。そしてそこに、凄まじい青の霊力が集中した。

 

「破道の八十八『飛竜激賊震天雷砲』」

 

  直後、博麗の手のひらがスパークした。

  言霊とともに放たれた青雷の巨大光線は、翔天を一瞬で飲み込みながら、空高く消え去っていった。

 

「まだだ」

 

  だが、博麗の怒りはこんなものでは収まらない。巨大閃光を超える速さで回りこみ、あっという間に閃光の進路に立った。

 

  そして、博麗の元に、光線とともに翔天が向かってくる。

  刀を構えると、本気の妖力を刀身に注ぎ込んだ。すると、刀身がスパークしながら、紫電の色に姿を変えた。

 

  そして、向かってくる翔天の体に、音速で五芒星を描いた。

  血が、飛び散る。と、同時に、翔天の体を中心に、五芒星の術式陣が完成した。

 

  空中で、必死に逃げ出そうと翔天はもがく。だが、刻まれた陣に縛られ、体中を電撃で麻痺させられた。

 

「や、やめろ……」

 

  怯える翔天が見たもの。それは、激しい地獄の雷を撒き散らし、唸る刀を前に構えた、博麗の姿だった。

 

「やめろ……来るなぁ……あ、あ"あ"あ"……」

「儚く散れーーーー『紫電一文字』」

 

  その言葉の後に、博麗は音速移動しながら突きを放った。

  それは暗黒の閃光と化し、そのままーーーー

 

「あ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ァァ!!!」

 

  五芒星の中心を貫き、そこから放たれた地獄の雷によって、翔天は存在ごとこの世から消滅した。

 

 

 ♦︎

 

 

  刀を収め、そのままの姿で博麗神社に戻る。

  本当は、この姿を見せたくなかった。実の妹、しかも巫女に、そんなことを言えば拒絶されると目に見えていたからだ。

  だけど、この九本の尻尾のことも、頭から生えている狐耳のことも、そして自分の体から溢れ出る妖力のことも、全てを話さなければいけない。だから、このままの姿のまま、博麗神社に帰った。

 

  そして、呆然としている焔花と目が合った。

 

「……姉さん」

「……ああ、今からちゃんと説明しようと思う」

 

  博麗は、自分のこれまでに起きたことの全てを、焔花に語った。

  自分が伝説の大妖怪である産霊桃神美の血を飲んだこと。それによって、自分が人間ならざるものーー半人半妖へと変わってしまったことなど。

  焔花は博麗の話の全てを聞き終えると、まっすぐ博麗の瞳を見つめた。

 

「姉さんは、なんで半妖になったの?」

「剣の道を極めるためだ」

「それで後悔したことは?」

「ない……とは言い切れない。だが、それで今に不満をして覚えたことはない」

「……そう……なら、いいわ」

 

  そう言うと、焔花は先ほどまでの緊張感のある表情を解いて、笑顔を見せた。

 

「姉さんが選んだ道だもの。それで後悔してないんなら、それでいいんじゃない?」

「……こんな私を、許してくれるのか?」

「だーかーらー、許すも許さないもないって言ってるでしょ。 ったく、姉さんはそう言うところは昔と変わらないんだから。……ま、まあ要するにっ! 私にとって姉さんは姉さんだし、半妖になろうがそれは変わらないってこと! ……わざわざ言わせないでよ、恥ずかしい」

「……そうか、私はまだ、お前の姉でいていいんだな」

 

  焔花は、博麗の胸元に飛び込む。そして思いっきり、抱きしめた。

 

「これで、本当のお帰り、だね?」

「……ああ、ただいまだ、焔花」

 

  飛び込んできた焔花を、博麗もそっと優しく抱きしめる。その目から涙が流れていることは、本人すら気づいていなかった。

 

 

 ♦︎

 

 

「いやー、ほんと良い絵になったわぁ。ごちそうさま」

「……」

「……」

 

  大妖怪の群れを退けた後、博麗神社の中に、二人の人物が増えていた。

  一人は紫の中華ドレスにナイトキャップをかぶった少女。もう一人は似た中華服に、金色の狐耳と九本の尾が生えている。

  言わずもがな、紫と藍の主従コンビであった。

 

  彼女たちは無事、あの結界を超え、博麗神社に戻ってきていた。その顔は博麗たちと違って、ほぼ無傷で、肌もツルツルしている。

  紫はニヤニヤと、微笑みながらお茶を飲む。

 

「やっぱ姉妹の感動のハグは最高だわぁ。それが、二人とも美少女ならなおさら」

「紫、殺されたいのかしら……?」

「 落ち着け、焔花、大丈夫だ。今の言葉を録音の術式で録音しておいた。これをトガミ様に送れば、どんなお気持ちを抱くやら」

「ストーップ! お願いそれだけは止めて!」

 

  博麗のその言葉に、高速で土下座の体制になる紫。いつもは無駄に高い彼女のプライドも、彼の、自分への評価には勝てなかったようだ。

  しばらくそのことでじゃれ合うと、すっかり日が沈んでいた。

  博麗は、しばらくこの博麗神社で過ごすことを決めた。とはいえ、一ヶ月ほどで帰るだろうが。

 

  風呂に入ろうとすると、さほど広くもない湯船に、紫が入っていた。

  事前に誰もいないのを確認してから入ったので、おそらく待ち伏せでもしていたのだろう。ご丁寧に、バスタオルを巻いて湯に浸かっていた。混浴する気満々である。

 

「……一応聞いとくが、なぜここにいる?」

「あらあら、お風呂は体を洗う場所よ。そこに誰かがいても、不思議ではないわ」

「未使用と確認しておいたのだが?」

「さあ、知らないわね。それよりもほら、あなたもこっちに来なさい」

 

  紫に手招かれ、ため息まじりに同じ湯船に浸かる。

  しばらくの静寂が訪れる。

  すると、紫が口を開いた。

 

「あなたには、まだ礼を言ってなかったわよね? 改めて、ありがとう。焔花を救ってくれて」

「妹を助けるのは当たり前だ。礼などいらん」

「それでも、この言葉は受け取ってくれない? 私があなたに感謝しているのは事実だから」

「……わかった」

 

  頷くと、紫は満足げな表情に変わる。

  そんな、含みのない純粋な笑顔に、思わず博麗も笑ってしまった。

 

  思えば、あの方と出会ってから、真新しい体験をすることでいっぱいだ。良く言えば、非日常。悪く言えば、巻き込まれる毎日。

  だが、それを退屈に感じたことはなかった。

  楽しかった。こんな非日常の毎日がいつまでも続けば良いと思う。

  だが、それもいつかは終わるだろう。周りの人間には寿命があり、私自身にも寿命がある。

  だが、その燃え尽きる日まで、意味のある日常を過ごしていこう。

 

  ふと、湯けむりが昇る。その天井を眺めながら、一人そう思うのであった。

 






「ドラ⚫︎エ11もうすぐ発売です。PS4が欲しい。あの超グラフィックでプレイしたい。作者です」

「3DSで買うんだからいいだろ。贅沢言うなや。そんなことを言って、自分はPS4を持っている狂夢だ」


「今回で博麗さん視点は終了です。というか、博麗さんはもうこの小説には出てきません」

「マジかよ。あれでもこの小説の主人公の先祖だぞ?」

「設定の都合上、寿命ってやつがあるんですよ。でも、名前だけは今後も出てくるかもしれません。では、恒例のステータスオープン!」


総合戦闘能力値:

博麗楼夢
通常状態:4万
妖狐状態:9万

博麗焔花:1万5千

翔天:5万

八雲紫:8万

八雲藍:3万


「……と、今回は新キャラの他に、インフレ化した人たちの紹介でした」

「地味に紫よりも博麗の方が最終的に強い件について」

「まあでも紫さんは能力が最強クラスですしね。対して博麗さんはこの小説でおそらく最も珍しい無能力キャラです」

「無能力であんだけ強いって、どうなってやがんだ」

「言い忘れていましたが、後編から総合戦闘能力値は妖力量・霊力量などの総合値になりました。前編がどうだったかは忘れましたが、要するに紫さんと博麗さんのどちらかが強いとなれば、ほんのごくわずかな差で紫さんが強いということです」

「なるほどなぁ。ちなみに、次回は誰パートになるんだ?」

「今章でも登場した人です。ネタバレになりますが」

「ま、誰になるかは想像つかんだろ。なんせほぼモブキャラ扱いだった晴明のパートがあるぐらいだからな」

「一応あなたはそのモブキャラの血をわずかでも継いでいるんですよ!? その扱いはひどすぎるだろ」

「……知らんなぁ、そんな事実。他人の空似じゃないか?」

「(こいつ絶対忘れてただろ……)」






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