東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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人は瞬きのような時間で出会い、語り、そして愛を紡ぐ

なればこそ、その命の散り際は、桜のように美しい

by白咲楼夢(神楽)


メモリー・オブ・フラグメンツ編
全ての始まり


 

「メリー早く早く! ハリーアップ!」

「もう……分かってるわよ蓮子。そう急かさないで」

 

  西暦20XX年の秋。肌寒くなり、衣替えをし始めるころ。

  私ことマエリベリー・ハーンは、親友の宇佐見蓮子ととある場所へ向かっていた。

 

「はぁ、この後も活動するんでしょ? なんで一日で二箇所も回らなきゃならないのよ」

「即断即決が私のモットーよ。さあ、第一の神霊スポットへレッツらゴー!」

 

  ……いつものことだが、私の相棒はテンションが高い。『メリー』という呼び方も、蓮子がいつものテンションで言いにくいと言ったのが原因よ。

  そして、唐突だけど私たちは大学生。そのサークル活動で、私たちは日夜いろんな神霊スポットを回りまくっているわ。

 

  『秘封倶楽部』、それが私たちのサークル名よ。意味は、秘密を封じるというそのままのもの。表向きは不良オカルトサークルで知られたところだけど、その本当の目的は、この世に貼り巡られた結界の謎を暴く、というもの。世界の均衡を崩す恐れがあるから、法律では禁止されているのだけれど。

  でも、私の目にはその見えない結界が見えてしまうの。『結界の境界が見える程度の能力』と私たちは読んでいるわ。同じく蓮子も『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力』という、センスの欠片もない名前の能力の持ち主よ。

  そして、私は何もしなくてもその結界が見えてしまう。見えてしまうから不可抗力なのよね。

 

「それで、今回最初の目的地はどんな場所なの?」

「ふふん、任せないメリー。まず、最初に行く場所はとある廃神社よ。なんでも、その誰もいないはずの神社の境内から、夜な夜な謎の風切り音が聞こえてくるらしいの」

「誰かが棒でも振り回してるんじゃないの?」

「分からないわ。この情報が出たのも昨日今日の話だし、それを流した本人もあまりの気味の悪さに逃げたらしいわ」

 

  そもそも、昨日今日の話なら『夜な夜な』など言わない。だが、そこらへんはお調子者の彼女の演出みたいね。今度注意しようかしら。

 

  そうやって山の階段を歩いていると、色が落ちたボロボロの鳥居が見えてきた。夜の暗さと相まって、余計に恐怖心を煽ってきている。

 

「やっとついたわ。さあ、突撃よ」

 

  だが、その恐怖も、彼女には通用しないみたい。目をキラキラさせて、ズンズン歩いて行ってる。

 

  と、その時、ヒュン、ヒュン……と言う謎の風切り音が聞こえた。

  あまりの突然に、私も蓮子も目を丸くしてしまう。

 

「……へっ?」

「……今の……風切り音よね? まさか、今回は本物っていうの?」

「……くっ、くくくく、とうとう現れたか幽霊め。 今日こそモノホンの写真撮ってやるんだから!」

「れ、蓮子、少しは警戒しましょう……」

 

  幽霊がいると認識すると、蓮子は一気にハイテンションになってしまった。その突然の変化に若干引いてしまった。

  全く、これだから私の相棒は困る。興奮する蓮子の肩を叩き、落ち着かせると、忍び足で鳥居に近づいていった。

  とはいえ、私も胸の高まりを抑えることができなかった。当然でしょう。今まで蓮子と一緒に色々なところを行ったけど、結界はあっても心霊現象に出会うことは一度もなかったのだから。そりゃ、秘封倶楽部の一員として興奮するってものよ。

 

  そのまま、慎重に、ゆっくりと鳥居の影に身を潜める。そして、恐る恐る、境内の中を覗いた瞬間、私たちは言葉を失った。

 

  そこにいたのは、神々しい雰囲気を放つ、美しい女性。神が作り上げたかのような顔立ちに、宝石のような紫眼。そして、流れるように、地面に届きそうなほど伸びた、アメジストの輝きを放つ長髪。それら全てが統合され、黒の巫女服を纏ったその姿は、まさに神秘という言葉しか出なかった。

 

  女性は、これまた神秘的な黒い刀を振るい、舞っていた。

  夜の下の元、月明かりだけが彼女を照らす様は、まるで天然のスポットライトを思い浮かばせた。

  それに歓声を送るように、周りの木々が風で揺れる。そして、何枚もの紅葉が、宙を舞った。その刹那、

 

  キィィィイン、という音が、辺りに響いた。

  そして、次の瞬間、宙を舞う紅葉が全て真っ二つに切り裂かれた。

  その斬撃を、私は視認することができなかった。おそらく蓮子もだろう。彼女の姿が消えたと思えば、次にはこの光景が広がっていたのだ。

 

  そして、アメジストの瞳が、ゆっくりとこちらに向けられた。どうやら気づかれてしまったようだ。

  だが、私の思考はそんな考えを一瞬で消し去った。吸い込まれるように、彼女の瞳に魅了されていく。そうやって、私が言葉を発せないままでいると、突如肩に小さな衝撃がはしった。

 

  そこで、ようやく私は正気に戻った。横を見れば、呆れた顔で蓮子が肩を叩いていた。

  私は、彼女に魅了されていたことを自覚し、顔を赤くしてしまう。だって、仕方ないでしょ。あんなに綺麗な人を見たら、見惚れない方がおかしいに決まってる。

 

  私は、緊張しながらも、なんとか第一声を出した。

 

「あ、あのぉ……すいません」

「こんなところに人が来るなんて珍しいですね。どうしましたか?」

 

  桃色の唇から発せられたのは、心地よい美しい音色のような声だった。また魅了されそうになっちゃったけど、今度は耐えてみせた。

 

「いえ、素振りの邪魔をしてしまったと思って……。私の名前はマエリベリー・ハーン。メリーと呼んでください。で、となりにいるのが……」

「宇佐見蓮子よ。よろしく。えーと、あなたの名前は?」

「おっと、申し遅れましたね。私の名は白咲楼夢、只の剣のみが生きがいの者です」

 

  こんな綺麗な人の前でも平常運転な蓮子はさすがだ。おかげで助かったわ。

  彼女の名前は楼夢さんと言うらしい。綺麗な名前だ。やはり美人がこういう名前だと光るものなのね。

 

  さて、冷静になってきた私の頭の中では、現在一つの疑問が浮かんでいる。そう、彼女はここで何をしていたのか、だ。

  だけど、私にそれを聞き出す勇気はない。こういう時に頼りになるのは蓮子なんだけど……。

 

「そういえばさ、楼夢さん。あなたはここで何をしていたの?」

 

  さすが、私の相棒だ。私にできないことを平然とやってみせる。そこに痺れる、憧れる。と、ボケてる場合じゃなかったわ。

  私は、彼女の答えを聞いた。

 

「何をしていたと言われても、そもそもここは私の家ですよ」

「「……へっ?」」

 

 

 ♦︎

 

 

「どうぞ、お茶です」

「ありがとう、ちょうど喉が渇いていたから助かったわ」

「ありがとうございます。……あっ、美味しい……」

 

 

  神社の縁側で腰掛ける私たちに、楼夢さんが手に持っている木製トレイに乗せたお茶を差し出してきた。意外にも神社の中は綺麗に掃除されており、楼夢さんが住んでいると言ったことに現実味が増してきた。

 

  渡されたお茶を受け取り、ズズッ、と飲む。途端に広がる味に、私は目を見開いた。

 

「お気に召したようでよかったです」

 

  そう言い、僅かながら動いた楼夢さんの表情が笑みに変わる。まじまじと観察していたおかげで分かったのだけれど、どうやら楼夢さんは表情を変えるのが苦手みたい。今も、精一杯努力して笑みを浮かべているが、蓮子がそれに気づくことはなかった。

 

  そんな蓮子が、お茶を飲み干すと、楼夢さんへ問いかけた。

 

「それで? ここがあなたの神社ってどういうこと? ここはとっくに廃神社になってるって噂だけど」

「ここは紛れもなく私の、いえ白咲家の神社ですよ。土地の所有権もありますし」

「ふーん、人が来ないから人々に忘れられたってことかしら? それなら鳥居や神社のボロさにも納得がいくけど」

「ちょっと蓮子、言い過ぎよ!」

「いえ、いいんですよ。どうせこの神社は私の代で潰れるでしょうし」

「……それってどういうこと?」

 

  楼夢さんは何の表情も変えず、ただそれが事実ということを告げた。

  蓮子もこの返しは予想できなかったのか、戸惑いながらそのわけを聞いた。

 

  曰く、楼夢さんには何のメリットもなくこの山で暮らしてくれる結婚相手がいないせいで、次の世代に自分の役職を譲ることができないらしい。

  この時、私が心の中で突っ込んだのが、いやいや、それだけ綺麗なら男の一人や二人見つかりますよ、という言葉だった。

  だが、楼夢さんは意外にも誇りが高く、政略的結婚はしたくないというのだ。

  まあ、それはそうでしょう。恋愛すらしていないどこぞの男に体を譲るなんて、どの女性も嫌なはずよ。

 

「せめて、最後に面白いことが起きればいいんですが……例えば巨大隕石落下とか」

「いやいやシャレになりませんよそれ!? ていうかさりげなくフラグが立ちそうだからやめてください!」

「冗談ですよ。でももし降ってくるなら、うちの神社に被害が及ばず、なおかつ見晴らしのいい場所に落ちてほしいですね」

 

  この人、意外にも天然ボケだったわ……。

  でも、楼夢さんの言うことも分からなくはない。私も何度かそんな風に非日常を願ったことがあるからだ。

  何とかしてこの人を楽しませたい。でも、どうすれば……?

 

  私がそんな風に悩んでいると、同じように蓮子も帽子を深くかぶって思考しているようだ。しかし、それにしては様子がおかしい。

  私は、蓮子の顔を見る。表情は帽子と闇に隠れて分からなかったが、一人ぶつぶつと呟いていた。

 

「ちょっと、蓮子……?」

「……くっふふふふ、ふはははは!!」

 

  突如、私が声をかけると、蓮子は大声で気持ち悪く笑った。そして、帽子をガバッと一気に取ると、人差し指をビシッと楼夢さんに突き刺した。

 

「よかろう! それほど面白いことを望むならば、ついてくるがいい!」

 

 

 ♦︎

 

 

「……ねえ蓮子、やっぱ帰りましょ? 墓地なんて気味悪いじゃない」

「メリー、オカルトサークルが幽霊を怖がってどうする!?」

「私たちはオカルトサークルじゃないわよ。まったく……」

「で、その墓地っていうのが、ここですか」

 

  私、蓮子、楼夢さんの三人は、今夜の目的の一つである蓮台野と呼ばれる墓地に来ていた。

  楼夢さんがここにいるのは、あの蓮子の誘いを二つ返事で受けたからだ。何でも、私たちと一緒にいると退屈しなさそう、と言っていた。

 

「それで、もう一度例の写真見せてくれるかしら?」

「アイアイサー。ほれ」

「私も見てもいいですか?」

 

  蓮子は、持っていたノートから、挟んでいたとある写真を取り出した。

  そこには、見たことない古い寺院が写っていた。蓮子曰く、ここが冥界らしい。彼女は裏ルートで手に入れたとか言ってたけど、どうせ死体相手の念写かなんかでしょうね。

 

「で、こっちの写真。これを見て……」

 

  蓮子はノートからもう一枚の写真を取り出す。そこには、山門が中心に写っていた。しかし、その奥の景色。そこからが明らかにおかしい。

 

「ほら、門のここ。向こう側。明らかに現世でしょ?」

 

  指定された場所には、夜の平野、そして一つの墓石が写っていた。しかし、私には分かる。空気が違うのだ。確かに、そこは私たちの世界の色……。

 

「メリーが言うには、彼岸花が多く咲いている墓が入り口らしいけど。楼夢さんはこの写真を見て何か感じた?」

「……確かにこれはおかしいです。それに、幽霊がこんなに大量にいるなんて……。蓮子の言う通り、ここが冥界である可能性はかなり高いです」

「へっ、幽霊? 私には何も見えないけど」

「私にも、あなた達のような目があるってことですよ。蓮子風に言うなら……『怪奇を視覚する程度の能力』ですね」

 

  まさか、私たち意外に能力者がいたなんて……。

  突然の事実に驚いてしまったけど、すぐに元の表情へ戻す。

 

「そういえば蓮子。なんであなたはこの写真の場所が蓮台野って分かったのよ?」

「簡単よ。ここに月と星が写っているのが見えるじゃない」

「なるほど、それなら信用性があるわ」

「てことで、この蓮台野の中で、彼岸花が多く咲いているところを見つけたら報告。異論はない?」

「ああ、特に問題ない」

「ええ、それじゃあ探しましょうか」

 

  そうやって、墓石の辺りを見回ること十分。私は、彼岸花が多く咲いている墓石を見つけた。

  その墓石は、何やら独特の雰囲気を放っていた。何かがあるということは分かるのだが、それが何なのかは分からない。それは楼夢さんの能力でも同じことのようで、墓石を探るように、まじまじと観察していた。

 

「早く早く! 何が見えた?」

「……ダメね。結界は見えないわ。でも、何かを感じるのよね……」

「ええ、大きな力をここから感じます。何かがトリガーで、発動するみたいですが……」

「まあ、考えても仕方ないか。この際色々試してみようよ」

 

  蓮子のその言葉で、私は思いつく限りの方法で墓石を探った。例えば、墓石を弄ったりとか、卒塔婆を引っこ抜いたりとか……。

  蓮子は空を見ながら「2時27分41秒」と、呟いている。楼夢さんはチョークで和風の魔方陣のようなものを辺りに描いていた。

 

  結局、墓荒らしまがいのことをしているのは私だけか……。

  今度は、墓石自体を回してみることにした。しかし、墓石は重く、非力な私一人の力では到底動かせない。そこに、ちょうど魔方陣もどきを描き終えた楼夢さんが加わり、やっと墓石が回りだした。

  聖職者がこんなことをやっていいのと尋ねてみたが、

 

「まあ、実際私は神に信仰心を持っていないですから、大丈夫です。巫女としては失格ですが」

 

  と、笑って返されてしまった。本当に、この人は楽しみに飢えていたんだな、と今さらながら思う。

 

「2分30分ジャスト!」

 

  蓮子の声とともに、墓石を4分の1回転させたその時。

  秋だというのに、私たちの視界に一面の桜が広がった。

 

「なっ!? ここは……?」

 

  さすがにこれは予想していなかったのか、蓮子が声をあげて驚く。実際、私も驚いていた。唯一冷静だったのは楼夢さんだけだが、その視線は周りを飛ぶ謎の球体を捉えていた。

 

  視界全体を埋め尽くすほどの桜。その周りを、赤、青、緑など、さまざま色をした球体が大量に飛んでいた。

 

「あれが……幽霊なの?」

 

  私が、そう言葉を発したその時。

  周りの幽霊たちが、一斉に私たちの方向へ振り向いた。そして、

 

  ーー大量の幽霊たちが、一斉に私たちへ襲いかかってきた。

 

「へっ? きゃああああああ!!」

 

  幽霊たちが私の視界を埋め尽くしていく。もはや、唯一それ以外で目に入るのは、相棒の右手だけだった。それは蓮子も同じようで、終わりを覚悟して最後に手を繋いだ。

 

  そして、幽霊たちは私たちを呑み込みーーーーされる前に、手前でバチィッという音とともに弾かれた。

 

  ふと、足元を見つめる。そこには、楼夢さんがチョークで描いた魔方陣が、光り輝いて私たちを守っていたのだ。

 

「森羅万象斬ッ!!」

 

  そして、その声の後、どこからか青白い巨大な斬撃が放たれた。それは私たちの周りにいた幽霊を一瞬で消し飛ばし、そのまま奥の幽霊ごと、地面に当たった時の爆発で吹き飛ばした。

 

「ふう、退魔の陣を念のため描いていたのが正解でした。たまには役に立つものなんですね、これも」

「楼夢さん、大丈夫なんですか!?」

「はい、私の方は無事です。それよりもメリーは蓮子とその結界の中にいてください。2分で片付けますので」

 

  喋りながら、黒い長刀が横に払われる。それだけで、数匹の幽霊が四散し、消滅する。

  それに見向きもせず、楼夢さんは舞うように刀を振り続けた。その途中、蓮子が援護射撃のために近くの小石を投擲するが、それらは幽霊の体をすり抜けるだけに終わる。きっと、楼夢さんの刀が特殊なのだろうと、私は考察した。

 

  綺麗だ。

  黒光りする刀が振るわれると、それぞれカラフルな色の球体が、光と化して弾けていくその様は、まるで虹色の光に包まれた舞踏会を見ているようだった。

 

  それからジャスト2分。幽霊たちは、一人の剣士の手によって、全滅を果たした。

 

  と、同時に、目の前が眩しい光に覆われる。あまりの眩しさに目を閉じてしまった。そして、次に目を開けたら、眼前には蓮台野の墓地が広がっていた。

 

「……今のは……現実なの?」

「ええ、現実ですよ」

 

  私の問いに答えたのは、やはり楼夢さんだった。彼は後ろを振り向くと、その視線を私たちが回した墓石に向ける。なぜだか、咲いていたはずの彼岸花はどこにも見えなかった。

 

「おそらく、この墓石の下に眠る人は最近死んだのでしょうね。生への気持ちが強く、その思いが冥界の入り口を開いたのでしょう」

「……そうなんですか。私たちも死ぬとあんな風になるんですかね?」

「……おそらくは。ああやって地獄に行き、審判を受け、その後冥界に昇っていくのでしょう。全ては、次の人生を歩むために……」

 

  楼夢さんはそう言うと、目を閉じ、口を閉ざした。

  次の、人生……。楼夢さんの言うことが本当なら、私たちは何度かあの姿になったことがあることになる。ああやって、死んで、生まれて、死んで生まれて……。そうやって、人類は進化していくのだろう。記憶がなくても、魂は今までのことを忘れない。最後に、楼夢さんはそう呟いた。

 

「ほら、小難しい顔しない。そんなに心配だったら、いっそ祈ってあげたらどうなの?」

「そう、ですね。では、目を閉じて。この方の来世を祈りましょう」

 

  長い、沈黙が訪れた。

  何秒経っただろうか。目を開けると、すでに帰宅の準備を始めている蓮子の姿があった。

 

「ほら、メリー、帰るわよ」

「え、ええ、そうしましょう。さすがに今日は疲れたわ」

「では、ここで私はお別れですね。今日は珍しい体験ができました。ありがとう、メリー、蓮子」

 

  楼夢さんはそう言って、一人で蓮台野の出口へ歩いていく。私は、その遠ざかっていく背中に、

 

「楼夢さん! 今日は、ありがとうございました!」

 

  精一杯声を張り上げて、お礼の言葉を言うのであった。

 

  やがて、楼夢さんの背中が見えなくなったころ。ふと、隣の蓮子が呟いた。

 

「……いい人だったね」

「……ええ。とても綺麗で、かっこよかった……」

「あら、もしかしてメリー惚れちゃった?」

「な、な、違うわよ! ちょっと見とれちゃっただけよ!」

「あはは、冗談冗談! さ、帰りましょ、メリー!」

「全く……分かったわよ、蓮子」

 

  西暦20XX年の秋。私たちは一つ、貴重な体験をした。同時に、素敵な出会いをした。

  それが、のちの私たちの運命を揺るがすことになるとは、この時の私は知らない。

 






「とうとう過去編スタート! なお、相変わらず主人公の出番はないようです。あとがきでいつも出番がもらえる皆のアイドル、狂夢だ」

「投稿遅れてすみません。夏休みが終わったので、これからは通常の投稿ペースに戻ります。財布がいつも金欠な作者です」

「だーれが出番なしだ! 俺はそんなの認めねえぞ! 無理やり登場の楼夢だ」


「げっ、楼夢、なんでここにいんだよ」

「ったく、久々の登場でそのリアクションか。もうちょっと今まで活躍してきた俺を労われや」

「まあまあ二人とも。ここは平和でいきましょうよ」

「ち、まあいい。それよりも作者、過去編は秘封倶楽部のストーリーをどうやって絡めるんだ?」

「基本的には原作の秘封倶楽部の流れでいきますが、ちょくちょくオリジナルストーリーが混ざる予定です」

「てことは、また長くなるのか……?」

「そうなりますね」

「またかよ! しばらく俺の出番はねえのか!?」

「まあでも落ち着いてくださいよ。それが終われば好きなだけ登場できますから」

「……納得いかねえ」

「まあまあ、結局君の知名度はそこまでなのだよ」

「うるせえぞ、この白髪野郎! テメエだって前章で一話しか出てねえじゃねえか!?」

「ああん!? やんのかこのピンクファンキー頭!」

「今すぐその名前を撤回させてやる! 死ねェェェェェエ!!!」

「もうやだこの人たち……」

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