東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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泣かないで、前を向いて

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by白咲楼夢(神楽)


秘封への扉

  とある山奥にポツリとそびえる白咲神社。その境内に、一人の青年が立っていた。

 

  青年の顔立ちは中性的。男にも女にも化けれそうな顔をしている。だが、今は鋭い目付きと、男性用の服を着ているため、どこからどう見ても男にしか見えなかった。

 

  一言で表すと、その男は若かった。おそらく20代になったばかりで、服も黒いシャツに紺色のフード付きパーカーの真ん中を空けて羽織っているという、いかにも若者な雰囲気の物だった。

  髪は、男にしては長く、女にしては少し短い。後ろ髪は肩にかかるほどで、色は日本人によくある黒。だが、生まれつきではなく、後で染めたような色合いだ。

 

  男は、しばらく空を見つめていたが、やがて口を開いた。

 

「……いい天気だな。まさに、この私……いや俺の第二の人生を祝福しているかのようだぜ」

 

  男は、地面に置いてあったバッグを持ち上げると、とある知り合いの言葉を思い出し、ふと呟く。

 

「『あまり難しく考えないでいい。思うがままに自分がしたいと思ったことをする。それさえできれば、お主は自分を失わずに生きていけるだろう』、か……。妖忌さん、あんたのその言葉、信じてみるぜ」

 

  それを言い終えると、男は一気に駆け出し、鳥居をくぐり抜けーー思いっきり、跳躍した。

  直後、男は人間とは思えないほどの身体能力で、空高く舞い上がったのだ。

  限界まで高度が達すると、男の体は斜め下、山のふもと目指して超加速しながら降下していく。それはまるで、スキージャンプの降下中のようだった。

 

「待ってろよメリー、蓮子。俺もこの世界の謎を解き明かさせてもらうぜ」

 

  鳥より速く。獣より獰猛に。

  笑みを浮かべながら、男の体は落下していくのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

「……ってことで、レポート提出が間に合いそうにないから、メリーも手伝ってくれない?」

「そもそも、蓮台野に行った後蓮子がレポート作成をサボったのが原因でしょ? あれからそろそろ一ヶ月経つんだから、どう考えても蓮子が悪いわよ」

「でもこのままじゃ、また岡崎の研究手伝わされるよ! メリーはそれでいいの?」

「どうせ手伝うのはあなただけなんだから、問題ないわ」

「そんなぁ〜、助けてよ、メリえも〜ん!」

「……その愉快な頭を叩き潰されたいのかしら?」

 

  あの蓮台野の事件から約一ヶ月。私たちーー主に蓮子は、レポートという名の最大の敵と対峙していた。

  白い服に黒のスカート、そして白いリボン付きの黒い帽子をかぶりながら、目を回して必死にキーボードを叩いている。

 

「毎回ながら思うんだけど、あなたの服の色合いっていつも変わらないわよね?」

「メリー、自分の服を見直してからその発言をしてみよう。むしろ、私からしたら紫色の服の方が珍しいわよ」

 

  そう言われて、私は自分の服装を見つめ直す。紫中心のフリルがついた服に、白のナイトキャップ。私のいた国ではよく見る色合いなのだけど、やっぱり日本人にとっては珍しいものみたいね。とはいえ、今さらこのカラーをやめるつもりはないけど。

 

  そうやって、蓮子がレポートを作成し始めて数時間。結局、私もあの後手伝うようになってしまった。

  とはいえ、仕方ないか。私たちの秘封倶楽部は有名な不良サークルである。レポート提出までサボり続けたら、いつ潰されるか分かったものじゃない。

 

  そんなことを考えながら作業をしていると、ふと、外の廊下から私たちのサークル部屋に向かってくる足音が二つ。一つは、私たちの顧問的立場にある岡崎夢美のだろう。もう一つは……分からない。そもそも、岡崎が誰かを引き連れている事自体珍しいのだ。一番高い可能性としては、彼女の助手に当たる北白河ちゆりだろう。

  だが、私のその予想は見事に外れていた。

 

「やあやあ、蓮子ちゃ〜ん、レポート終わったかなぁ〜?」

「お、岡崎!? 馬鹿な、滅多にそっちから来ないくせに、なんで今日に限って……ッ!」

「まずは蓮子、その岡崎って呼ぶのを止めようか。岡崎教授と呼べ!」

「へいへい、すみませんでしたオカザキ教授」

「レポート二倍にしてもいいんだぞ?」

「マジスンマセンでした岡崎教授!」

 

  目の前で、もはや定番となっている蓮子と岡崎の言い争いが始まる。

  岡崎の容姿は、三つ編みの赤い髪、赤い瞳、赤いブレザー、赤いリボン、赤い靴、赤いケープのマントと赤尽くしになっている。私も蓮子もちょっと互いにその服装はおかしいと言い合うのだが、それ以上に岡崎の服装は変態だ、という話には二人で納得していたりする。

 

  そもそも、彼女はこの大学で、服装の面でも、思考の面でも浮いている。なんでも、『非統一魔法世界論』と言う、統一原理に収まらない魔力というものが存在するということを学会に発表したこともあるとか。

  そんな彼女の目的は、その魔力というものが本当にあるということを証明することである。簡単にいえば、オカルトの一つを証明しようとしているのだ。そんな彼女にとって、結界をあばく秘封倶楽部はとても興味深いものらしい。

  要するに、彼女がうちの顧問をやる理由は、単純に自分の研究を進めさせるためだけだろう。この人がいなければ秘封倶楽部は成立しなかったとはいえ、あまり気分のいいものではない。

 

「……ん?」

 

  よく見れば、扉のとなりに一人の青年が立っているのが分かった。

  青年は、こちらの視線に気づくと、ニヤリと笑みを浮かべる。

  黒いシャツの上に紺色のフード付きパーカーを羽織っており、背中には野球のバッドを入れる用のバッグを背負っている。逆立った髪は男にしてはかなり長く、色は黒。だが、日本人ではありえない紫の瞳を持っているので、どこの国の人種なのかは分からない。

  ……そう言えば、最近あんな瞳を見たような気が……。

  そして、顔立ち。鋭い目付きと組み合わさり、荒々しい雰囲気でかなりのイケメンだ。無造作にギザギザに伸びている黒髪が、不良っぽさを表している。

  いかにも、普通とはかなり異なる青年だった。

 

「あの……岡崎教授。彼は……?」

「ん? ああ、こいつはこの不良オカルトサークルに入りたいって言った変人だ」

「誰が変人だ岡崎。窓から投げ捨てんぞ?」

「その場合は訴えさせてもらうわ」

「安心しろ、証拠は残さねえからな」

「「アッハッハッハッ」」

 

  などと、不穏な会話が流れてくる。

  いや、そんなことより問題なのが……

 

「新しいメンバー? この人が?」

 

  訝しんだ目でそう言ったのは蓮子だ。まあ、やはりこうなるだろう。

  私たちのサークルは意外にも男性の入会希望は多い。だけど、入った後すぐにやめてしまう。

  理由は簡単だ。そもそも、このサークルに入る理由の大半は、私や蓮子を目的にしているからだ。だけど、入って数日後に、全員が私たちのガチな雰囲気についていけず、去っていくのだ。

  この青年も、そんなところだろう。さて、何日持つかしら?

 

「ま、メンバー同士で話し合って交流を深めてみるといいわ。じゃあ、これで私は失礼するわね」

 

  そう言い、扉を閉めて退出していく岡崎。そして、部屋が数秒間静寂に包まれた。

 

「あの……まずは自己紹介でもしませんか?」

「いや、必要ない。それより一つ、俺とゲームをしねえか?」

「ゲーム、ですか?」

 

  私と青年のやり取りに、蓮子が眉を潜める。

 

「簡単なことだ。俺の名を当てるだけでいい」

「そんなのできるわけないじゃない。私たちは初対面なのよ?」

「しょ、初対面……っ。……いや、できるはずだ。ヒントを一つやると、俺とお前たちは互いに自己紹介したことがある」

「ち、ちなみに負けた方には……?」

「んー、特にねえな。ヒントは何度でも与えてやろう。ちなみにこれで答えてくれなきゃ俺が傷つくから頑張ってくれ」

 

  蓮子の『初対面』という言葉にえらく傷ついた様子の青年。

  ……やっぱり、私にはこの人と会った記憶がない。これほどのイケメンなら少しは覚えているはずなのに、何も浮かばないのだ。

  そこで私は、青年に第一のヒントを頼んだ。

 

「あのー、私たちっていつ出会いましたっけ?」

「約一ヶ月前だ。それ以降は会っていない」

 

  約一ヶ月前。そのあたりの時系列だと、蓮台野の件で忙しかったころだ。私と蓮子の両方に会っているということは、サークル活動中に会っている可能性が高い。だけど、蓮台野に行く前も行った後もこの部屋には誰も来ていない。ということは、蓮台野で会った可能性が高い。

 

「もしかして私たち、蓮台野で会いました?」

「いや、初対面は蓮台野じゃないな。だが、その時俺は近くにいたとでも言っておこう」

 

  初対面は蓮台野じゃない……じゃあ、どこ?

  ……分らない。これ以上はお手上げだ。

  ふと蓮子を見ると、こいつ何やってんだ? 的な顔で見られた。

 

「メリー、これ馬鹿正直に解く必要はないと思うよ。始めて会った場所を聞けば、ほぼ確実に思い出せるんじゃないかな?」

「……その手があった」

「やっぱそう来るかー。これ言っちまうと答えがほぼ分かるから言いたくはないんだが」

「でも、やっぱり分からないのでお願いします」

 

  これ以上思考を働かせても時間の無駄なので、青年に答えをお願いする。

  青年はしばらく悩むと、やがて観念したかのようにボソッと呟いた。

 

「……白咲神社の境内。それが、俺たちの初対面になった場だ」

「白咲神社……? てことは、まさか……ッ!?」

 

  初の出会いの場は白咲神社と言われ、私は無意識に目を蓮子と合わせた。

  蓮子の表情にも、驚きが浮かんでいた。どうやら私と同じ結論に至ったようだ。

  境内で出会った人物は一人しかいない。その人物の名はーーーー

 

「もしかして……楼夢さん?」

「正解! 覚えててくれて嬉しいぜ」

 

  その返答を聞いた時、私は目眩がして地面に倒れそうになった。

  美少女が、この国の宝だと言われてもおかしくないほどの美少女が、一ヶ月で消滅するなんて。

  もはや驚きすぎて言葉が出ない私の代わりに、蓮子が口を開いた。

 

「いやいや、ありえないでしょ! あの世界三大美女に加わりそうな人が、一ヶ月でここまで変わるなんて! 第一、どこからどう見ても男じゃない!」

「俺は元々男なんだが……。俺の代では女が産まれなかったから、俺が巫女まがいのことをしていたわけだ。これが、俺が跡継ぎを作れない理由だよ」

 

  あの時私は、楼夢さんは山で暮らしているせいで結婚できないのかと思っていた。だけど、本当は性別が違っていたなんて。

  世の中の神は理不尽だと、つくづく思う。もし彼が女なら、引く手数多の有名人に間違いなくなれただろうに。

 

  あれ、と私は今思い浮かんだ疑問について考える。なぜ、彼はイメチェンしてまで私たちの前に現れたのか?

  それが気になったので、私は直接聞いてみることにした。

 

「あの、楼夢さん、なんで私たちのところに来たんですか?」

「神社は退屈だったからな。それに言っただろ? お前たちといると退屈しなさそうだと」

「それなら、わざわざ髪を切る必要なかったんじゃ……」

「気分の問題だ。どうせ神社を出るんだったら、思い切って男性の服を着てみたかったからな。こう見えてメンズファッション? を理解したり、この口調を覚えるのに苦労したんだからな」

「じゃあ、どうやってこの大学に入ったんですか? ついでに私たちがここにいるってことも、どうやって知ったんですか?」

「……あのなぁ、お前らは自分たちがある意味有名人ってことに理解した方がいいぞ。このあたりの大学生に聞いたら、すぐに分かったわ。それと、ここには普通に入試受けて入った」

「でも、ここって京都じゃ一、二を争う有名大学だよ?」

「記憶力だけは良かったからな。入試に出そうな問題全部暗記してきたぜ」

 

  わーお、驚きすぎて声が出ないわ。

  蓮子なんて「この大学に入るための私の努力が……」と、呟いている。

  私も蓮子も頭はキレるので、ここに入るのには困らなかったけど、ゼロから一ヶ月もない勉強でここに入ることはほぼ不可能だ。

  そんなの、もう記憶力がいいっていう話じゃないよ……。私はもう突っ込むことを放棄した。

 

「はぁ……なんかもう疲れたわ。で、本当にこのサークルに入るのね?」

「ああ、元からそれだけが目的だからな」

「分かったわ。ようこそ、秘封倶楽部へ! 私たちは楼夢さんを歓迎するわ!」

「さん付けはやめてくれ。呼び捨てでいい」

「じゃあ、楼夢君だね。知らない男ならあんま歓迎しないけど、楼夢君なら信用できるし、ちょうどボディガードが欲しかったから助かるわ。ね、メリー?」

「うん! よろしくね、楼夢君!」

 

  蓮子と楼夢さん……じゃなくて君が、歓迎の握手をする。

  こうして、私たち秘封倶楽部に、新たな仲間が加わった。

 

 

 ♦︎

 

 

「————で、なんでいきなり活動なんだよ? レポートはどうした?」

「今日は楼夢君が入ってきた記念だよ。博麗神社探索、このサークル活動初日にはぴったりじゃない?」

「いや、博麗神社って最近治安悪いだろ? いくらボディガードができたからって、入って数十分後に俺を使うなよ」

「そうだよ蓮子、まずはレポートを終わらせなきゃ」

「とは言ってもね……目的地に着いた後に言われても困るんだけど」

 

  そう言って、蓮子が指差す先には『博麗』と書かれたボロボロな鳥居が一つ。その周りは木々で囲まれており、ここがうちのような山奥であることを表している。

  そう、ここが心霊スポットの一つ、『博麗神社』であった。

 

「とはいえ、本当にボロボロだな。年季が近い分、俺の神社の有り様に似ているぜ」

「え、楼夢君どうしてここの年季なんか分かるの?」

 

  そう言って疑問を投げかけてきたのは、金髪で紫の服を着た美少女、メリーだ。

 

「ほれ、この鳥居に使われている木を観察すれば、白咲神社と同じくらいの年齢ってことが分かる」

「いやいや、ここまで加工されたら普通分からないから!」

「イメチェンしても、無茶苦茶なところは変わらないんだね……」

 

  そんな俺の答えに、盛大なツッコミを入れたのは蓮子だ。そんな蓮子の言葉に頷くように、メリーがそう呟く。

  失敬な、人を超人みたいに言って。俺をなんだと思っているんだ。

 

「まあいい。それで、ここには何があるんだ?」

「そりゃ、でっかい境界とかじゃない?」

「おいおい、発案者なんだからちゃんと調べておけよ」

「仕方ないじゃん。岡崎の野郎のせいで調べる時間が足りなかったんだから」

「蓮子、今の言葉決して岡崎に言うんじゃねえぞ。本当に男みたいなストレートが来そうだからな」

「そうなったらその背負っている野球バッドで打ち返してよ」

「おい、こいつの中にはそんな物騒なものは入ってねえぞ。……それで、なんか見えたか、メリー?」

 

  俺たちが雑談して時間を潰している間、メリーはじっと神社のあちこちを見つめていた。しかし、俺の問いに、短く首を横に振る。

 

「……ダメみたい。境界はあるんだけど、それが閉じちゃってるせいでよく見えないの。こんなの白咲神社の時以来だよ」

「ん、白咲神社にも境界ってあったのか?」

「あれ、言ってなかったっけ? 白咲神社も、ここも鳥居の間に大きな境界があるんだけど、何度も言う通り閉じちゃってるのよ。これじゃあ、いくら私の能力でも調査することは不可能ね」

「そうなのか。ちなみに、境界が開いていたら何ができるんだ?」

「その先につながっている光景を見たりできるわ。ちなみに、つながっている場所は大抵異世界であることが多いわ」

「異世界?」

「うん、異世界。この時代ではありえないはずの大自然に、昔の日本の家が建てられていたりするの。あれは異世界と言うしかないわ」

 

  異世界か……。まだまだこの世は広いようだ。そんな世界なら、俺を超える剣術の使い手に会うことができるのだろうか?

  とはいえ、今はこの世界の謎を解き明かすこと。それが済むまでは、先ほどの話もお預けだな。

 

「うーん、今回は成果なしかぁ……。まあ、しょうがない! さあ、帰ろっか」

 

  蓮子のその言葉で、今回の探索は終わりを迎えた。

  成果はゼロだったが、中々面白かったので、良しとしよう。

  俺たちは、博麗神社を出て、山を下っていった。

 

「ふぅ、やっと終わったな。いくら大学もこの神社も俺の神社も全部京都にあるからといって、こんなに歩き回ると疲れが溜まるぞ?」

「まあ、そうかもしれないね。しばらくは活動は情報収集に努めるかなぁ」

「その前に、レポートを終わらせないとね?」

「嫌なことを思い出させないでよ、メリー」

 

  蓮子がそう口にしたその時、

  ガサガサ、と周りの草木が揺れる。その奥から複数の気配を、俺は感じ取った。

 

「メリー、蓮子、気をつけろ。誰かいる」

 

  その言葉に続いて、十人ほどのチンピラたちが、俺たちの周りを囲んで姿を現した。

 

「よぉ〜彼女〜。こんなところに男一人女二人なんて、デートかい?」

「なんなら俺たちも混ぜてくれよ〜。俺たち最近遊んでくれる女がいなくて寂しかったんだよな」

「な、なにこいつら! ちょっと、近寄らないでよ!」

「ろ、楼夢君……っ」

「へぇ、あれがリアルチンピラか……。随分と新鮮なものなんだな」

 

  男たちは、ギヒャヒャヒャと奇妙に笑い、ゆらゆらと近ずいてくる。

  蓮子が、気丈に振る舞い、男たちに抵抗しようとする。メリーは、俺の服を掴んで震えていた。

  そして俺は———余裕にあくびをかまし、珍生物を見るような目で奴らを観察していた。

 

  いつの時代にも、こういったものはあるようだ。ここは監視カメラもないので、襲って連れて行ってもバレないのだろう。

  本当に、運が悪い……彼らが。

 

「なに見てんだぁあん? 見せ物じゃねェんだよ!!」

 

  チンピラの一人が、俺に向かって拳を振るってくる。

  だが、遅いし威力もない。

  俺は、雪のように真っ白な手で拳を掴むと、()()()()()()()()

 

「ぎゃああぁぁぁああああぁぁあああぁああッ!!!」

 

  鈍い音とともに、チンピラその1が絶叫する。そんな彼の横顔に、見事なフックが命中。ボーリングのピンのように、吹き飛んでいった。

 

「さぁて、テメエら全員夢の国に送ってやるぜ」

「テメェ、よくもヤスオを! 行くぞ、ハルオ!」

「死ねェェェ!!」

「ドラ●もんの脇役みてぇな名前してんじゃねえよ! 大人しく野球でもしていやがれ!」

 

  続いて飛び出してきたチンピラ2号と3号の二人に、野球バッグをフルスイングで薙ぎはらう。彼らは同時に腹を強打し、呻きながら木と激突し気絶した。

 

  その間に俺の動きが一瞬止まる。そこを狙い、チンピラ4号と5号、そして6号が三方向から殴りかかってくる。

  だが、上に一気に跳躍し、それら全てを回避する。そして空中で身を翻し、踵落としを頭上に叩き込んでその反動でまた跳躍し、再び踵落としを落としていく。

  それだけで、3人は泡を吹いて気絶した。

 

「さて、残り4人だが、何か辞世の句でも読みたいか?」

「ちっ、チョーシにのんじゃねェぞ!!」

 

  そう言い、彼らが懐から取り出したのは、計2本のポケットナイフに、2本の何か液体が入っている注射器。そのうちの注射器を持っている方は俺へ、ポケットナイフの方は蓮子たちの方へ向かっていった。

 

「さっさと眠っちまえ!」

「お前らがな!」

 

  突き出すように放たれた二つの注射器。だが、そんなものが今さら当たるわけもなく、俺のマーシャルアーツキックが二人に炸裂し、夢の国に旅立っていった。

  だが、まだ終わりではない。残りの二人が、メリーと蓮子に襲いかかろうとしていたのだ。

  とっさに地面に落ちていた注射器を拾い上げ、投擲する。それらは彼らの首元と体にそれぞれ突き刺さり、崩れ落ちた。

 

「……やっぱりあれは睡眠薬かなんかだったのか。調子に乗って受け止めなくてよかった」

「楼夢君、怪我はない?」

「あれ見てどこに怪我したと思わせる要素があったんだ? まあ、心配してくれたのは礼を言っておく」

 

  純粋に心配してくれたメリーに気恥ずかしくなり、頭をかきながら礼を言う。

  その時、地面からガサゴソという物音が聞こえた。

 

「……なんだ、まだやるのかよ?」

「うるっセェッ! こいつがありゃ……お前らなんか……お前らなんかッ!」

 

  なんと、物音の正体は先ほど睡眠薬を刺され眠っていたはずの男であった。どうやら傷が浅かったらしい。だが、それでも薬の影響で足腰を震えさせながら、ポケットナイフを突き出した。

 

  正直言おう、馬鹿じゃねこいつ?

  今の戦いで自分の現状よく分かってないのかよ。まさか本当に奇跡でも信じているのか?

  俺がそう思考していると、大量の汗を浮かばせた男が吠える。

 

「へ、へへへ、刃物にビビってんのかぁ〜? だったら、そのまま死ーーーー」

 

  男がナイフを構えようとしたその時、銀色に光る刃が宙を舞った。

 

「刃物、ねぇ……。いいか、よく覚えておけ。刃物ってのはなぁ……こういうのを言うんだよ」

「ひっ、ヒィィィィッ!!」

 

  男は、俺が手に握る刀に震えていた。

  それを、俺を真横にーーーー

 

「ま、待って! 反省するからァッ!!」

 

  ーーーー薙ぎはらった。

  だが、男の体が真っ二つになることはなかった。

  代わりに、後ろにあった木が、彼の体に落ちてきた。

 

  ぐしゃり、という音とともに下敷きになるチンピラ。

  見渡せば、他にも死んだようにしている奴らがいるが、一応手加減してあるので全員死んではいないだろう。

 

「あ、あの……ここまでやって、後で警察とか来ないのかな?」

「そこは大丈夫よ、メリー。睡眠薬を手際よく用意していたということは、彼らは同じ手段を数多く使っているはずだわ。つまり、彼らは犯罪者ってわけ。この時代の警察のことだから、もう身分はバレバレだと思うよ。そんな彼らが警察に訴えても、逆に捕まるだけってことよ」

 

  名探偵みたいなポーズをとり、自分の推理を語っていく蓮子。

  しかし、今言った内容は全て真実だ。まさか蓮子もそう考えていたとは……。

  秘封倶楽部、俺以外にも常人を超えた奴らがいるじゃねえか。

 

「さてと、メリーの心配も消え去ったことだし、帰るか」

「うん! 帰ったら私の家でパーティーしようよ! 歓迎会だよ!」

「お、メリー太っ腹じゃん。それなら遠慮なく食べさせてもらおっかなぁ」

 

  こうして、俺の秘封倶楽部としての初活動は幕を閉じた。

  ちなみに、メリーの家の大きさに驚いて腰を抜かしたのは、別の話だ。

 




「どーも、もうすぐ体育祭です。皆さんは作者のようにサボらないで頑張ってください」

「正直体育祭必要あるか? と誰もが思うことを先生に言ってみたい。狂夢だ」


「さて、作者は今週体育祭があります」

「へぇ、どんなのがあるんだ?」

「リレーはもちろん、二人三脚なんかもやりますよ」

「そう言えば、お前やけに傷だらけじゃねぇか? まさか転びまくったのか?」

「ええ、作者は運動音痴なので、二人三脚するとよく転びます。パートナーに申し訳ない」

「今見たがリレーの順番も二番目だったしな。なんで先っぽにお前がいるんだよ」

「リーダーの作戦ですよ。名付けて『雑魚を囮に作戦』だそうです」

「……作者、今回ばかりは同情するわ……」

「……ええ、ありがとうございます……」
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