東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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夢か、幻か。

不思議の国の、不思議の空へご招待


byマエリベリー・ハーン


夢への誘い

 

 

  夢違え、幻の朝靄の世界の記憶を

  現し世は、崩れ行く砂の上に

  空夢の、古の幽玄の世界の歴史を

  白日は、沈みゆく街に

 

  幻か、砂上の楼閣なのか

  夜明け迄、この夢、胡蝶の夢

 

 

  まどろむ意識の中、私の意識は別の世界を飛んでいく。

 

  そこで見たものは、古めかしい建物に提灯をぶら下げ、賑わう里の人々。

  私は、その人混みの中にいた。

 

  ふと、近くにいた子供たちから声がかかる。どうやら遊んでほしいそうだ。

 

  子供たちはみんな楽しそうだった。みんな笑っていた。

  こんなに笑っている子供を最後に見たのは一体いつだろう。

 

  聞いたこともない唄に、不思議な踊り。それをBGMにして、子供たちは笑顔で追いかけっこをしている。

 

  どうやら今日は祭りらしい。どうりでここまで賑わっているわけだ。

  ……いや、私が知っている祭りはここまで楽しそうじゃないだろう。大人も子供も、本気で祭りを楽しんでいた。

 

  いつか、こんな子供たちの笑顔がある国に住みたい。

  そこまで考えたところで、世界が揺らぐ。景色が歪んでいく。

 

  夜が明ける。幻の朝霧の中で夜が明ける。

 

 

 ♦︎

 

 

「ーーそうそう、それでね。昨日はこんな夢を見たのよ」

「……って、また夢の話なの?」

「だって、今日は夢の話をするために貴方と楼夢君を呼んだんだもの」

 

  そう言って、今回集合をかけたメリーが、マイペースに紅茶を飲む。

  それを見て、メリーの正面に座っていた蓮子が、やれやれというように、同じようにコーヒーを口に含んだ。

 

  俺の名は白咲楼夢。この不良オカルトサークル『秘封倶楽部』のメンバーだ。

 

  俺たちは現在、サークル部屋の中で優雅にくつろいでいた。

 

「ねえ、他人の夢の話ほど、話されて迷惑なものはないわよ? ねえ、楼夢君?」

「まあいいじゃねえか。どうせしばらくは大人しく情報収集するだけなんだし」

「お願い、貴方たちに夢の事を話してカウンセリングしてもらわないと、どれが現の私なのか判らなくなってしまいそうなのよ」

「ふむ、それはある意味重症だな。一応聞くが、何か変な毒キノコを食べたとかじゃないんだよな?」

 

  そんなうちのサークルメンバーには、全員何かしらの不思議な能力があった。今回の話も、十中八九メリーの能力が関わっているのだろう。

 

  彼女は、この世にある結界の境目を見ることができる。このサークルは、そんな境目を探しては飛び込み、別世界の謎を解く、というものだ。

 

  ちなみに蓮子は星と月を見れば時間と位置が分かる能力、俺には見えない怪奇を見破る能力がある。

  まあ、この中で一番地味な能力は、やっぱり俺になるのだが。

 

「そんなもの食べてないよ! 食に困ってるのは蓮子だけで十分よ!」

「ちょっとメリー、私の食生活が偏ってるのはね、仕送りが少ないからなのよ! 決して料理ができないってわけじゃないわ!」

「……蓮子、お前の昼食がいつもカップ麺なのはそういう理由だったのか」

 

  なんか、同情してしまった……。

 

「違うって言ってるでしょ! 第一、そういう楼夢君はどうなのよ? 私たちと違ってあの神社に住んでるんだから、まともな料理が作れるわけ……」

「一応言っとくが、俺の昼食は全て手作りだ」

「へっ? メリーの手作りじゃなかったの? あんなに綺麗なのが?」

「……どうやら一度お前とはOHANASIをしなくちゃならねえみたいだな」

「冗談ですすみませんでした!」

 

  こいつは俺のことを本格的な野生児とでも見ているのだろうか?

  いくら何でも、あの山の食材だけで料理ができるわけないだろうが。

 

「あのー、そろそろ話の続きがしたいんだけど」

「ああ、悪かったな。じゃあ、その夢の続きとやらを話してくれ」

 

  俺がそう言うと、メリーは一昨日見た夢を語りだした。

 

 

 ♦︎

 

 

  私が二度の夢の中で目覚めた場所は、深い緑で溢れる森の中だった。

 

  どこまで行っても、緑、緑、緑。

  まるで、緑の檻に閉じ込められたかのよう。

 

  あまりにも景色が変わらなかったので、がむしゃらに走ることにする。それは正しかったようで、しばらく走ると、奥の方から眩い光が溢れていた。

 

  そこに駆け込み、光へ飛び込む。

  そこで見えたのは、美しい景色だった。

 

  深い緑の向こう側にあった物、それは真っ赤なお屋敷だった。

  お屋敷の周りには、深い緑色と白く輝く湖……なんて素敵な場所なのかしら。

  こんなに赤いのに、なぜか自然に溶け込んでいる。

  この思い切った色彩は、どこか子供っぽい感じがして……私は大好きよ。

 

  ちょっと寄ってみようかしら?

  突然訪れて失礼じゃないかしら?

  それに、目の前のお屋敷は私を受け入れてくれるかしら?

 

  って、何夢の中で怖じ気付いているのよ、私ったら。

 

  結局、私は赤いお屋敷に寄ることにした。

  そこで待ち構えていたのは、大きな門。その真ん中に、目を瞑りながら門番をしている人が……。

  いや、今思いっきりいびきが聞こえた。どうやら居眠りをしているようだ。

 

「あの……すいませーん」

 

  声をかけるも、返事はない。

  美人なんだが、口元によだれを垂らしている。

  しかし、その姿が友人に少し似ていて、私はクスリと笑ってしまった。

 

  しばらく待ってると……あら、お手伝いさんが出てきたわ。

  彼女は、スカートからナイフを数本取り出すと、門番向かって投げつける。

  うわぉ……思いっきり血を流しているわ……でも、お手伝いさんの反応からして、いつものことなのかしら?

 

  あの人に聞いてみようかしら?

  こんな素敵なお屋敷のご主人様に、挨拶がしたいって。

 

 

  ♦︎

 

 

「これが、一昨日の夢の内容よ」

「赤い屋敷、かぁ……一度見てみたいな」

「でもメリー、わざわざ一昨日って言うんだから、まだ話はあるんでしょ?」

「ええ、まだ昨日見た夢の話が残っているわ」

 

  そう言って、メリーはカップを手に取り、口に近づけようとする。しかし、中身の紅茶がないことに気づき、そっと下ろす。

 

「はいよ、メリー」

「ありがとう、楼夢君。楼夢君は紅茶の方も得意なんだね」

 

  俺が入れた紅茶を、メリーはそう絶賛する。

  紅茶ではないが、俺はよく緑茶などを好んで飲む。なので、紅茶の方も少し勉強すればあっという間に上達した。

 

「なんか、楼夢君がメリーの執事に見えてきたよ」

「そ、そんな、楼夢君が私の執事なんて恥ずかしいわよ!」

「おやっ、イケメン執事が自分の従者だと思うと、興奮しちゃった?」

「してないわよこの馬鹿蓮子!」

 

  蓮子の問いに、顔を真っ赤にして否定するメリー。

  おい、せっかく入れた紅茶がこぼれそうになってんぞ。

 

  俺は注意をすると、話を戻すため話題を持ち出した。

 

「それで、昨日の夢はどんなのだったんだ?」

「ああ、すっかり脱線しちゃってたわね。そうね……確か私はあの時竹林に……」

 

 

 ♦︎

 

 

  どこまで行っても、同じ風景だった。

  日が落ちてしまって、足元もよく見えない。

 

  夜の竹林ってこんなに迷うものだったんだ、とのんきに竹一つ一つを観察して歩く。

 

  どうしましょう? 困ったわね。

  このまま竹林で彷徨い続けたら、飢えて死んじゃいそうだわ。それか、妖怪に食べられてしまうか。

  まだやりたいこと色々あったのになぁ……。

 

  まあ、私の夢なので、現実で影響しているわけじゃない。こんなところでそんなことを考えられるのは、そこからくる安心のおかげだろう。

 

  そうやって、私は当てもなく彷徨っていた。

  お腹が空いたら筍でも食べれば良いかなー、なんて軽く思っていたし。

  でも、その時私は気がついたわ。自分が天然の筍を見たことがないのを。

  現代では、合成のものしか知らないし、そもそも味しか知らないので、現物がどんなものかわかるわけもない。

 

  そこからか、私の『安心』は崩れていった。

 

 

  途方に暮れて、空を見上げる。

  満天の星空だった。

  この時、初めて蓮子の眼が羨ましくなったわ。

  貴方だったら、ここがどこだかすぐに分かったのでしょうね。

 

  そう思った直後だった。後ろから不気味な声がしたのは。

 

  私は本気で走ったわ。夢の中なのに。

  なにがなんだか分からなかったけど、あの声は明らかに人間じゃなかった。

  本能が『逃げろ!!』って叫んでいたわ。

 

  でも、竹林は微妙に傾斜がついていて、私の平衡感覚を狂わせてくる。

  まっすぐ走っていたのだけど、本当はどうだったのかも分からない。

 

  結構走ってきたと思うけど、なんだか見たことある景色しか見えてこない。

  この竹林が無限に続いているのか、私がグルグル回っているのか。

  でも、今の状況ではどっちも同じことだった。

 

  後ろから何かが追いかけてくる。

  私はその気配を察するたびに全力で走るが、地面から突き出た何かにつまずき、転んでしまう。

 

  それは、私が欲しかった筍だった。

  ふふ、今一番欲しい物と欲しくない物が同時に来るなんて……。

  私がそう自嘲気味に笑うと、背後から寄ってきた黒い影が、大きな口を開けてーーーーー

 

 

 ♦︎

 

 

「これが、赤いお屋敷で頂いたクッキーと、竹林で見つけた筍よ」

「うん? 夢の話じゃなかったの?」

「夢の話よ。さっきからそう言っているじゃない」

「じゃあなんでその夢の中の物が現実に出てくるの?」

「だから、貴方に相談してるんじゃない」

 

  メリーはそう言って、喋り疲れたのか再び紅茶を口に含んだ。

  一応、俺もメリーが持ってきた物を触らせてもらったが、確かに本物だ。

  ただ、メリーの持ってきた筍は成長してしまったせいでもう筍とは呼べないだろう。そこを伝えるべきかどうか、俺が迷っていると、蓮子が口を開いて筍のことを打ち明けた。

 

「教えてあげるよメリー。それはすでに筍じゃないわ。そこまで成長したら、硬くて食べられやしない」

「えー、そうなの? 残念……」

「本当の筍はね、美味しい時は土の下に隠れて身を守っているのよ」

 

  さすが蓮子、俺が言いづらかったことを簡単に言ってくれた。

  とはいえ、あれは夢の中の物だということには間違いはなさそうだ。

  なぜなら、そもそもここら一帯に筍は生えてないし、そもそもシーズンじゃないからだ。

 

「それにしても、夢の物が現実に、ねぇ……楼夢君は何か分からない?」

「夢ってのは、現実との壁があるようでないような場所なんだよな。俺の推測だと、メリーの能力がそのあいまいな壁を越えさせたってことだと思う」

「能力ねぇ……そうだ、ならいっそ私たちもその夢とやらに行こうよ!」

「行くって、どうやって行くつもりだよ? 俺たちの能力じゃ、到底そんな世界に行けないぞ?」

 

  俺がそんな疑問をぶつけると、蓮子はチッチッチッと、考えが甘いと言うように舌を鳴らした。

 

「そんなの簡単よ。メリーと一緒に寝ればいいのよ」

「……へっ?」

 

「「ええぇぇええええぇぇええええ!!!」」

 

 

 

 ♦︎

 

 

「……ちょっと、本当に私の家に泊まるつもりなの?」

「あったりまえじゃん! 枕も持参してきたよ!」

「俺もだ」

「なんで枕だけ持ってくるのよ!?」

 

「「枕が変わると眠れないから!」」

「子供かっ!」

 

  息を切らしながら、「もういいわ……」と呟くメリー。

  俺は視線を、メリーの後ろにある大きな家に移す。

 

  どう見ても、一人暮らしの大学生が住むサイズではない。

  普通は蓮子のようにオンボロアパートに住むんだが、なぜ彼女はこんな家を持っているのだろう。

 

  メリーに直接聞いてみると、思いがけない答えが返ってきた。

 

「それは私のお父さんが外国の大企業の社長だからよ。ったく、親バカが過ぎて大学の話をした時にこんな家を建てられたわ」

「え、大企業の社長の娘ってことは……薄々気づいていたけど、もしかしてメリーって大金持ちか?」

「そうなるわね。とはいえ、お金は楼夢君にならともかく、蓮子には絶対に貸さないけど」

「なんでよメリー!」

「貴方が私にお金を返すビジョンが見えないからよ」

「ぁあんまりだぁ……」

 

  メリーから金の話が出た時には目を輝かせた蓮子だが、そう言われると涙目になりながらガックリと肩を落とした。

 

  すまん蓮子……俺もお前が金を返しているシーンが思い浮かべられないわ。

 

「それに、いくら大きいって言っても、山ごと神社を所有している楼夢君の家の方が圧倒的に大きいわよ」

「うちは大きさだけだよ。金がないから修理も手作業だし、広すぎて掃除するのも大変だ」

「それ分かる気がするわ。自動掃除機を数台付けてても、手作業でやらなきゃいけない部分はたくさんあるからね」

 

「「ハァー……」」

「くそう! 家が大きい人だけ分かる話しないでよ! どうせ私は貧相なオンボロアパートに住んでる貧乏な女ですよーだ!」

 

  俺たちがそう苦労話しを話していると、一人会話に入れない蓮子が拗ねてしまった。

  それをなだめつつ、俺たちはメリー宅にお邪魔した。

 

  途端に眼前に広がったのは、ピカピカに掃除された広い玄関だった。

  奥にはかなりの人数が入れそうなリビングがちらりと見えており、こちらも玄関同様よく掃除されている。

 

「あ、相変わらず広くて綺麗だな……」

「すごく……大きいです……」

「ちょっと、気持ち悪い表現しないでよ!」

 

  蓮子のいきなりの発言に、メリーが声をあげる。

  しかし蓮子は、ニヤリと笑うと、楽しそうに口を開いた。

 

「おやや〜、私はただ大きくていい家だね、って言おうと思ったんだけどな〜。何を想像したのかなぁ?」

「な、嵌めたわね蓮子!」

「あら、なんのことだかさっぱり。わたくしには分かりませんわーおっほほほ」

「はい、そこまで。蓮子は口にこれでもくわえとけ」

 

  そう言って俺は蓮子の口に、世界的に人気なチュッパチュパッチュスという飴をねじ込む。

 

「ん、ん〜ん!」

「さて、今は夕方だし、今のうちに夕飯でも作るか」

「そうだね。手伝うよ楼夢君」

「ああ、頼む」

「ん〜、んっ!」

 

  俺たちがそう話す中、一人苦しそうに唸る蓮子。

  彼女は飴を吐き出そうとしているのだが、俺が持ち手を力強く押さえているせいで、ビクともしないようだ。

  若干涙目になってきたので、そろそろ許してやろう。

 

「ハァー、ハァーッ……死ぬかと思った」

「どう見てもお前が悪い」

「それについてはごめんって言ってるじゃん。お詫びに私も料理を手伝うよ!」

「えっ、蓮子が……?」

 

  俺とメリーは互いに顔を合わせ、蓮子が料理しているシーンを浮かべる。

  しかし、どうやっても鍋を爆発させて黒焦げになっている未来しか描けなかった。

 

「すまん、蓮子……気持ちだけで十分だ……」

「そ、そうよ、料理なんてできなくても、私たちは蓮子が大好きよ」

「どんなイメージだったの!? 私だって一応料理できるんだからね!?」

「蓮子……無理すんな、素直に認めろ……それがお互いのためだ」

「そうよ、我慢はいけないわ、蓮子……貴方は今でも十分魅力的よ」

「だからできるって言ってるでしょ!?」

 

  それから約10分後、蓮子の誤解が解け、無事に料理を手伝えるのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

「まさか、本当に蓮子が料理できるなんてな……」

「ええ、この世の裏を見た気分ね……」

「だからなんでそんなに驚いてんの!? 貴方たちの私に抱くイメージはどうなってんの!?」

「ずぼら」

「馬鹿」

「突進娘」

「脳筋」

「「そして遅刻魔」」

「うわーーーーん! 絶対に訴えてやるぅ!」

 

  とうとう泣き出してしまった蓮子。

  とはいえ、俺たちの言っていることは全て合っているので、否定することはできない。

 

  現在、俺たちはリビングで布団などをちょうど三人分、床に敷いていた。

  理由はもちろん、俺たちもメリーの夢の世界に行くためだ。

 

「でもよう蓮子。本当にこんなことで夢の世界に行けるのか?」

「うーん、私も分からないんだよねぇ。より確実性が増す方法ならあるけど」

「なんだ?」

「私たちがメリーに密着しながら寝るのよ」

 

  ……何言ってんだこいつは? そんなのメリーが許すわけ……。

 

「ふぇえっ!? なっ、何言ってるのよ! 蓮子は女だけど、楼夢君は……」

「楼夢君とは、何? もしかして寝れないの?」

「そりゃあそうよ! 楼夢君は立派な男じゃない!」

「メリーよく考えてみよう……あれが立派な男『だった』過去なんてあると思う?」

「おいそりゃどういう……」

「神社で会った時を思い出して。あの時の楼夢さんを思い出していれば、大丈夫よ」

「楼夢君と……楼夢君と……寝る……」

「お、おいメリーさん?」

「しっ、仕方ないわね! ろっ、楼夢君も一緒に寝ましょう!」

 

  おい、どうしてそうなった!?

  メリーは顔を真っ赤にしながら、急いで布団を整え、電気を消す。

  そして、すぐに真ん中の布団に潜り込んだ。

 

  いつの間にか、メリーの横には蓮子が彼女に密着しながら横になっていた。

 

「……さすがメリーと蓮子だな。薄い本が書かれるだけはある」

「薄い本ってどういうこと!? 私蓮子とそんな関係じゃないわ!」

「そ、そんなメリー……私たち将来を誓い合った仲じゃない!」

「誓ったこともないし、変な設定作らないでくれる!? 楼夢君もその無駄に高性能なカメラ向けるのやめて!」

「ちぇっ、せっかくいい写真が売れそうなのに……」

「発生源はあんたか!」

「ちなみに私は全3巻まで持ってるよ?」

「買うなよ! ああもうだめだこのメンバーども!」

 

  そんな一悶着があったが、やがて今の時刻は夜の10時。

  蓮子は変わらず抱きつくように密着しているが、俺はメリーの手を握って横になっていた。

 

「ねえ、楼夢君……」

「……なんだ?」

「あっちの世界に行っても、私たちを守ってくれる?」

「……ああ、もちろん。命に代えてでも守ってやるよ」

「うふふ、ありがとう。……それじゃあ、行きましょうか」

「……ああ」

 

  次の瞬間、俺の意識は肉体と断絶され、空を舞う。

  魂は超加速しながら境界を超え、それはやがて三つの流れ星となり、最後の楽園に落ちていった。


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