東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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Can you feel my heart?

Can you feel my beat?

さあ、聞こえてくるはずよ?


byマエリベリー・ハーン


『ヒロシゲ』53分の旅

 

  ヒロシゲは三人を乗せて走る。音もなく、揺れもなく、ただひたすら東に走る。

 

  四人まで座れるボックス型の席には空席も多く見られ、三人で座っていても相席を求められることはなかった。

  朝の反対方向は芋洗いのように通勤の人でごった返すが、東京行きは空いている。三人にとっては好都合だった。

 

  車窓から春の陽気が入ってくる。

  最新型のこの新幹線は全車両、半パノラマビューなのが売りの一つである。

  半パノラマビューとは上下を除いた全てが窓、つまり新幹線の壁のほとんどが窓で、まるで大きな試験管が線路の上を走っているようだ。

 

  進路方向と反対に座っている金髪の少女の左手には、見渡す限りの美しい青の海岸、右手には建物一つない美しい平原と松林が広がっていた。

 

  だが、この卯酉新幹線『ヒロシゲ』から見えている極めて日本的な美しい情景も、金髪の少女、メリーにとっては退屈なものでしかなかった。

 

「ヒロシゲは席は広いし、早く着くし便利なんだけど……カレイドスクリーンの『偽物の』景色しか見れないのは退屈ねぇ……」

「むむむ……っ」

「これでもトンネルに映像が流れるようになって、昔の鉄道よりは明るくなったのよ。まるで地下みたいでしょ?」

 

  そう言い、メリーの呟きに返事を返したのは蓮子だ。その斜めに座っている黒髪紫眼の青年は、何やら札を見つめて唸りをあげている。

 

「地上の富士はここまで綺麗じゃないかも知れないけど、それでも本物の方が見たかったわ。これなら旧東海道新幹線の方が良かったなぁ」

「うーむむむ……っ」

「何を言ってるのよ。旧東海道なんて、もう東北人とインド人とセレブくらいしか利用していないわよ。ま、メリーは東北人にのんびりしているかも知れないけどね」

「セレブですわ」

 

  普段言わないような口調で、そう主張するメリー。

  会話が一旦止まる。

  そこで、メリーは隣で唸っている青年、俺こと楼夢に問いかけてきた。

 

「ねえ、楼夢君。さっきから唸っているようなんだけど、さっきから何をしているの?」

「……んあ? メリーか。ちょうどいい、これを見てくれ」

 

  そう言って、壁に付いてるボタンを押す。すると、シュッと平面的な台が飛び出してきた。

  その上に、数十枚のお手製の札と、大きな鉢を数本並べる。

 

「……これは?」

「こいつは俺の新しい武器だ。前回の戦闘で学んだんだが、俺には近接で敵を倒せても、遠距離の敵を攻撃する手段が全くないということに気がついた」

「それで、このごっつい針ならともかく……なんでお札なの? どう見ても威力は無さそうなんだけど?」

「普通に投げればな。だが俺には霊力操作という戦闘手段がある」

「うーん、物理学以外はよく分からないなぁ。メリーは理解できた?」

「ちょっとだけなら。でも、じゃあなんでさっきから唸ってたの?」

「霊力操作の修行だよ。この札に霊力を込めて、手を使わずに動かすってもんだ。ほらよっ」

 

  そう言って札に触れると、淡い光を纏い、ふわふわと複数の紙切れが宙を舞った。

  その光景に唖然として口を開く二人。

  しかし、いち早く戻った蓮子が次の質問に移った。

 

「でも、いくら飛んでも紙切れは紙切れだよ。大した殺傷能力にはならないんじゃーーーー」

「ああ、言い忘れてたんだけど硬化させることもできるんだ。それを指に挟んで振るとーーーー」

 

  野球バッグから取り出したダンボールを宙に投げ、落ちてきたところに手を振るう。

  すると、ズパンッという気持ちのいい音とともに、ダンボールが二枚に分かれて落ちてきた。

 

「……ぁっ」

 

  その威力に、蓮子は意識を一瞬手放してしまった。

  おーい蓮子、戻ってこーい。

  その思いが通じたのか、何か丸い物が落ちてきた後、蓮子は息を吹き返してくれた。

  よかった。これで死んでたらシャレにならんしな。

 

「でも楼夢君。それって銃刀法違反にならない?」

 

  あ、確かに……。

  で、でも確か法律には……。

 

「で、でも6センチを超えなければ銃刀法にはならなかったはずだよな?」

「はい、物差しだよメリー」

「ありがとう蓮子。……うん、オーバーしてるね♪」

「待ってメリー! お願い、それ徹夜で作ったの!」

 

  その後、泣きついて返してもらいました。

 

 

 ♦︎

 

 

  ーー卯酉新幹線ができたのは、俺たちが生まれる前の話だ。

 

  神亀の遷都が行われてから、大量の人間が東京と京都を行き来する必要が生まれた。

  旧東海道だけではすぐに交通インフラに限界が来て、政府は急ピッチに新しい新幹線の開発に取りかかったのだ。

 

  そして完成したのが、東京と京都の間を53分で繋ぐ卯酉新幹線『ヒロシゲ』である。

  この新幹線は、京都―東京を通勤圏内にし、あっという間に日本の大動脈となった。

 

  驚くべき事に、卯酉新幹線の全てが地下に、そして直線的に作られている。始点から終点まで、空も海も、山も森も、太陽も月も、何も見ることは出来ないのだ。

 

  「あっという間に着くのは良いけど、こんな偽物の景色を見てるだけじゃ二人は退屈じゃないの? 夜は夜で空に浮かぶのは偽物の満月、ってのもなんかねぇ。東海道も昔は53も宿場町があったというのに、今は53分で着いちゃうのよ? 昔よりも道のりも長いのに。こうなっちゃうと、もう旅とは呼べないわよね」

「道中が短くなっただけで、旅行は旅行よ。東京観光巡りは面白いわよ?京都と違って新宿とか渋谷とかには歴史を感じる建物も多いしね。そういう観光の時間が増えたと思えば良いじゃない」

 

  それに……、と蓮子は付け足す。

 

「一人、その偽物の景色に喜んでいる人もいるみたいだし」

「なんだよ、こっちは今まで外出すらロクにしてこなかったんだぞ? 偽物でも、珍しいものは珍しいんだよ」

 

  蓮子がそう言って俺の方を向いた。

  むむ、なんだか田舎者扱いされているようで納得できない……。一応俺は首都である京都出身なんだぞ。むしろ、田舎者はどっちかと言うと、東京育ちの蓮子の方だ。

 

  すぐにそう反論したくなったが、誰も得する話じゃ無いのでやめておいた。

  口を尖らせ、そっぽを向く。

 

「そうそう、こんな話してる? 実は、ヒロシゲは最高速を出せば53分も掛からないらしいんだけど、わざわざ53分になる様に調整したらしいよ?」

「一分一泊ね。その調子なら三週間で老衰だわ。短い旅ねぇ」

「三週間で終わる人生って……虚しすぎるだろ」

 

  メリーのブラックな冗談に、ついついツッコミを入れてしまった。

 

  話は脱線するけど、俺たちが今目指しているのは、蓮子の実家がある東京だ。

  昔は栄えたところでも、今の世では田舎扱い。

  俺たちはそこに、大学の休みを利用して旅行に行くことにしたのだ。

 

  まあ旅行と言っても、蓮子の彼岸参りに便乗するだけだが。ここでもエセオカルトサークルである秘封倶楽部は活動中である。

  まだ東京に行ったことの無い俺とメリーは、今回の東京旅行を非常に楽しみにしていた。

 

「道中の景色も楽しみだったんだけど……卯酉東海道は全線完全地下の新幹線だしな。まあ、偽物でも暇つぶしになるから面白いんだけど」

「それが、卯酉東海道最大の売りと予算を使った装置『カレイドスクリーン』よ」

 

  そう言って、文明の発達を強調する蓮子。

  俺たちが京都を旅立ってから、すでに36分が過ぎていた。

 

 

「あ、今……」

「……大気中の霊力の密度が増えたな」

「どうしたの二人共、そんな怖い顔して……」

 

  雑談していると、急に辺りの空気が重くなったのを俺は感じ取る。メリーも同じようだ。

 

「急に顔が重くなった気がしたの。蓮子は感じない? ここら辺の空間は少し他と感じが違うわよ。それに結界の裂け目も見える……スクリーン制御プログラムのバグかしら」

「ああ、それはきっとここが霊峰の下だからよ」

「霊峰っていうと……富士山か!?」

 

  おいおい、そんなの聞いてねえぞ……。

  それに、なんて恐ろしいことを。八百万の神々が知ったら崩壊じゃすまねえぞ。

 

「まあ、過敏なメリーにはちょっと緊張が走るかもしれないわね」

「いや、それよりも大丈夫か? 富士山は冥界とも繋がってるっていうし、そのうち災害が起きそうなんだが」

「心配性ね。そういう時はお酒でも飲んで考えるのをやめようよ。無駄に緊張しても良いことないよ」

 

  蓮子がこう言っているが、少し心配だ。しかし、それとは別に、もし事故が起きてもさほど酷くはならないという確信が、俺の中にはあった。

 

  とにかく東京と京都を結ぶ事だけを考えて設計した卯酉東海道だったが、正確には富士山の下を通っているのではない。

  政府は霊峰富士の真下に穴を開けるという、恐れ多き事態だけは避けたのだ。

 

  それは正解だったと思う。

  霊峰のような聖域は、人工物の侵食を極端に嫌う。もし真下を掘ろうものなら、死火山とされている富士山はかつての姿を取り戻し、憤怒の業火で全てを焼き尽くしていただろう。

 

「……ったく、欲をかいた人間が今度こそ真下を掘らないことを祈るぜ」

 

  一人そう呟く。

  卯酉東海道は、富士を避け、樹海の地下を走っている。

 

  ただ、樹海には古くから良くない言い伝えが多く、樹海の真下を走るというだけで新幹線の運行や乗客数に影響が出てしまうかも知れない。

 

  そう考え、樹海の真下を走っているという事は一般には明かされていなかった。

 

 

 

 ♦︎

 

 

「ねえ蓮子、トンネルスクリーンに映ってる富士山ってちょっとダイナミック過ぎないかしら?」

「うーん。余りまじまじと実物を見た事がないから何とも言えないけど、こんな感じだと思うわよ? きっと、周りに人工物が殆ど映っていないと、こんな感じに見えるんじゃないかな」

 

  うんちく好きな蓮子にしては珍しく、根拠がしっかりしない説明だ。

  彼女はスクリーンに映る富士山を眺める。

 

「この富士は、広重と言うよりは北斎かなぁ。スケールだって、オートマチックビデオリターゲッティングの処理された様な感じがするよ。リアリティよりインパクトを重視した様な気がする」

 

  さっぱり意味が分からなかったが、ここで俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。

 

「なあ蓮子、なんでこの新幹線の名前はヒロシゲなんだ? ホクサイでも変わらないと思うんだが」

「お、良いとこ聞いてくるねー楼夢君。よろしい、この蓮子さんが君に教授してあげよう」

 

  急にうざい態度とうざいドヤ顔で眼鏡をクイッとする仕草を見せる蓮子。

  うげっ、教授という言葉に、間違えて岡崎を連想しちまったじゃないか……。どう責任とってくれるんだ。

 

「なんか酷く失礼なことを言われた気がする……」

「気のせいだ」

 

  蓮子が、若干不満げな表情で、語り出す。

  彼女の説明はこうだ。

 

  まず、富士と言えば北斎の『富嶽三十六景』が有名であるが、北斎は富士を幾ら描こうとも満足することはなかった。

  それは、富嶽三十六景は実際には四十六枚ある事からも判る。

 

  しかし、自分の半分くらいの年齢しか無い、若い広重が『東海道五十三次』を出版し、それが人気を博すと、過去に三十六景を出したというのに、負けじと北斎は『富嶽百景』を出版した。

  その位、彼は富士に魅入られていたのだ。

 

  しかし、広重もまた、富士に魅入られた者の一人だった。

 

「楼夢君、広重も北斎に対抗して、富士の三十六景を描いていたってのは知っている?」

「……いや、知らねえ」

「あら、パクリ? それともインスパイア?」

 

  隣のメリーが、口を挟んできた。

 

「その名も、『富士(不二)三十六景』というの。しかも北斎の没後に出版したのよ」

「あらあら」

「それで、結局なんで広重が選ばれたんだ?」

「日本が北斎の奇才を認めることができなかったからだよ。この国は彼の絵に対する狂気を受け入らなかったのさ」

 

  蓮子はそう言うと、少し悲しげにスクリーンの富士山を見つめた。

 

  いつだって、狂気は理解してもらえない。

  俺たちだって同じだ。

  この世界の謎をあばくため、日夜危険をかえりみず、ひたすら狂気の世界を彷徨っている。

  しかしそれは、法で禁じられていることだ。理由はただ一つ、未知という名の狂気が恐ろしいから。

 

「だけどよ、もし北斎が選ばれていたらどうなってたんだ?」

「きっとカレイドスクリーンに映る、高速の36分の狂気の幻想が楽しめただろうね」

 

  そう言って蓮子はくすくすと笑った。

  それにつられて俺やメリーも、思わず笑ってしまった。

 

  他人が聞けば冗談じゃないと言うようなもしも話。それを笑って受け入れられる俺たちは、やっぱり異常なんだろう。

 

 

 ♦︎

 

 

「もうすぐ東京かしら。やっぱり物足りないわね」

「確かにね。でも着く前に疲れなくて良いじゃない」

 

  富士が小さくなっていく景色を眺めながら、蓮子はそうメリーに返した。

 

「ま、東京見学できる時間が増えたから良いか。今日はどんなところを案内してくれるの?」

「まあそう焦らないの。まずは実家に着いて、荷物を置いてから色々案内してあげる。彼岸参りは明日でいっか」

「田舎は都会と違って妖怪がさらに出やすくなる。そこを気をつけて行けよ?」

「分かってるよ。……って、そのピアスは何?」

 

  蓮子は返事をしながら俺の方に振り返った。

  そして、今俺がつけようとしている青い宝石のピアスを見て、訝しげに覗き込んでくる。

 

「これはうちの神社の初代巫女が使っていたと言われるピアスだ。つけると霊術の操作をスマートにさせる能力がある」

「どうしてそんな便利なもの今まで使わなかったの?」

「……数十年放ったらかしにされてた倉庫を掃除してる時、偶然見つけたんだよ。霊術の方も、そこに置いてあった秘伝書を読んで修業したんだ」

「……楼夢君、巫女さんやめても似合ってるね」

「メリー……俺は元から男なんだが?」

 

  妙に目をキラキラさせたメリーが、若干赤くなった顔で俺を見つめてきた。

  ……なんか、貞操の危機が迫ってきてる気がする……!

 何か、何か彼女の気をそらせる物は……!?

 

  俺が必死になって探していると、窓のカレイドスクリーンの景色に、黒い文字が混ざってきた。

 

「メリー、スタッフロールが流れてきたぞっ」

「あら、本当だわ。こんな風景まで作者の権利を主張するなんてねぇ……」

 

  オッケー! ナイスタイミング、スタッフロールさん!

 

  忌々しげに文字列を睨みつけているメリーとは逆に、俺は密かに感謝の祈りを捧げていた。

 

 

  窓の外の景色に次々と文字が浮かび上がっている。

  53分のカレイドスクリーンの映像が、終わりを迎えようとしていた。

 

  本来、景色には誰の著作物である、という考え方は無い。

  さらに言うと、この映像は広重が見たであろう東海道を基にしているのだ。

 

  それでも、人間は自分の物だと主張する。

  乗客が皆、本物の景色ではないかと思って見ていた立体画に、映像の制作者の名前が浮かんでは消え、消えては浮かんでいる。

 

  風景の真ん中に「Designed by Utagawa Hiroshige」と言う文章が浮かんだのを最後に、

 

 

 世界は闇に閉ざされた。

 

 

 

 ♦︎

 

 

「やっと着いた……」

「いいえ、実家はまだまだよ。ここからはバスも通らないし、歩いていくしかないの」

「頑張って、楼夢君!」

 

  男性が見たらドキッとさせられてしまうほど、眩しい笑顔で俺に声をかける二人。

  普段だったらこれほど嬉しいことはないだろう。けど、今は別だ。

  なぜなら、

 

「なんで、俺がお前らの荷物全てを持つことになってんだーーーーッ!!」

 

「だって重いじゃん」

「この後色々観光するだろうし、できるだけ体力を温存したいかな……なんて?」

「メリーはともかく、蓮子は元気で溢れてるだろうが!」

「あら、何を言ってるのかなー? 私はか弱い乙女ですよ? おほほほほ」

「うちの神社の階段をダッシュで登ってくる奴を『か弱い』だなんて言わねえんだよ!」

 

  全く……なんで毎回毎回俺がこんな目に合うんだ……。

  前回は竹林で森羅万象斬ぶっ放して、最終的に怒られたし。

 

「まあまあ、あそこのコンビニ寄っていくから、そこで休もうよ」

「そうね。バスが長かったから、腰が痛いわ」

「ってことで楼夢君、私コーラね?」

「私はアイスコーヒーかな?」

「やっぱり使いパシリじゃねえか!」

 

 

  そんなこんなでコンビニにイン。

  とはいえ、品揃えは最新の物はないし、雑誌も昔ながらのものばかりだ。エアコンも古っぽく、秋のこの季節では少し肌寒い。

 

  当然といえば当然だが、やっぱりここは田舎ということを認識させてくれる。

 

  アスファルトで固められた地面は、寿命を迎え、道のあちこちにヒビが入っている。

  環状線も一部が草原と化し、葉っぱもなく、茎と赤い花弁だけの奇妙な花が道を覆いつつある。

  人口の減少と共に、自動車という前時代的な乗り物も減っていた。道がどうなろうと不便な事は無かったのだ。

 

  窓を覗けば、メリー達が、派手な格好の若者に絡まれているのが見える。

  町奴や旗本奴、火消しが暴れる町の様に、東京は本来の姿を取り戻しつつあるのだった。

 

「……うん? 若者に絡まれている? ちょっと待てよ……」

 

  一度は外した視線を、再び窓に戻す。

  そこには、明らかに困った顔をしているメリーと、怒鳴り声らしきものをあげている蓮子の姿があった。

 

「だから! 私たちはこれから用事があるの! 分かった!?」

「まあまあ、いいじゃねえかとそんなことより俺たちと遊ぼうぜ〜。見たところ、あんたら京都あたりからの旅行者だろ? 俺たちが案内してやっからよ〜」

「お断りするわ。センスのない男たちは帰ってちょうだい」

 

  俺が駆けつけた頃には、五人の若者と蓮子が対立していた。

  あれが噂の田舎のヤンキーって奴か。威勢だけで、以前出会った奴らのように凶器や麻薬は持っていないようだ。

 

「おいお前ら、俺の連れに何かようか?」

「なんだテメェ? ナヨナヨしたガキは黙ってろ!」

「……はぁ、年上に対する接し方って奴を覚えた方がいいぜ」

「なんだと? ふざけるな!」

 

  俺が挑発した若者に合わせて、後ろの奴らも「ふざけるな」と連呼してくる。

  だがまあ、羽虫程度にしか感じられない。後ろの蓮子たちも迷惑そうなので、黙らせるか。

 

  近くの木が生えてあるところまで歩くと、幹を素手で掴む。

  若者たちはその仕草に、大笑いをする。

  しかし、彼らはその幹が苦しそうな音を立ててるのに気がつかなかった。

 

「おいおい!? なんだそりゃ? 格好つけのつもりか? そんなおままごとはお家でーーーー」

 

 

  メギャッ

 

 

「……へっ?」

「おままごとが、なんだっけ?」

 

  幹が砕け散り、支えを失った木が重力に従って地面に落下した。

  見れば若者たちもメリーたちも、目を見開いて驚いている。

  好都合なので、指を鳴らしながら笑顔で語りかける。

 

「さて、次はお前らの番……と言いたいんだが、誠意ってやつを払うんだったら特別に見逃してやるよ」

「「「「「是非受け取ってください!!」」」」」

「蓮子、私にはどっちが悪党なのかわからないよ……」

「安心してメリー、私もよ」

 

  失礼すぎるだろ!?

  土下座をしながら財布を差し出す若者たちを見て、メリーと蓮子は若干引いていた。

 

  その後、大量の荷物を持ちながら、誤解を解こうと必死になる青年の姿と、それを聞き流す二人の女性の姿があったとか。

  まあ、最終的にはなんとかなったんだが。

 

  ちなみに、財布はこっそり回収しておいた。

  俺だって生活費が苦しいんだよ。許せ、若者たち。





「どーも、最近クラスの女子に自分が異常に嫌われていることを知って落ち込んだ作者です」

「当たり前だろ。容姿は豚似で髪は長い、おまけに授業中に昼寝しまくるブサイクを、誰が好きになるってんだ。狂夢だ」


「さて、今回は卯酉東海道編ですね」

「本来ならメリーと蓮子がヒロシゲを降りた時点で終わるんだが、今回はちょっとオリジナル差が結構増すぜ」

「それにしても、36分の狂気の幻想ですか……ちょっと試してみたいですね」

「なんだ、それなら楼夢に頼めよ」

「え?」

「マッハ88万悪夢の世界一周旅行が楽しめるぜ?」

「全力でお断りいたします」

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