東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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夢敗れ、恋敗れ、虚しさ残る

色恋悲しき、この世の定め


by作者


先祖が残した大きな爆弾

 

 

「うぅ……口の中がまだしょっぱい……っ」

「まさか吐いちゃうとはね。とはいえ、そろそろ午後の予定を決めないと」

「うん、そうだね。さてと、まずはいつ鬼来山に潜入するか、だね」

 

  昼飯のハンバーガーセットをつまみながら、俺たちは今後のことについて話し合う。

  うむ、やっぱコッカコーラは美味い! 口の中の不純物が全て洗い流された気分だ。

 

「まず、鬼来山の潜入は夜、婆さんたちが寝静まったころにしたいと思う」

「待って、楼夢君。なんでわざわざ夜に行くの? 明るいうちに行った方がいいんじゃないかしら?」

「俺たちは鬼来山に行くのは初めてだ。加えて、そこには鬼がいることから他にも妖怪がたくさんいると見ていいだろう。そこでいざという時に役立つのが、蓮子だ」

「ふぇっ? 私?」

「お前の能力があれば、たとえ幻術を使われも現在地を特定することができる。だが、明るいうちは星が出ないから能力が使えない。そういう意味で、夜行くのが得策だと思う。だが、問題はもう一つある」

「もう一つの問題?」

 

  メリーが小首を可愛らしく傾けた。

  俺はポテトとハンバーガーを口に含み、飲み込む。

  そして一拍置いて二人を見つめた。

 

「鬼との戦いはおそらく激戦になる。もちろん俺も手加減しないが、あっちは問答無用で山を荒らしまくると思う。その時の騒ぎで村人が起きないか、てことだ」

「それなら、なんとかできるかも」

「うん? どうやってだ?」

「私最近、境界をほんのちょっと弄れるようになったの。それを使えば、その戦いの認識を薄めることができるかも……」

「メリーったら、いつの間にそんなことができるようになったの? なんかパワーインフレに置いてかれたキャラの気分がよくわかったわ」

 

  そんなことないと思うんだが……。

  第一、俺は遠距離攻撃が可能になっただけだし、メリーもちょっと能力に応用性が増しただけだ。

  蓮子の能力だってちゃんと成長して……成長して……すまん、成長してるところが思い浮かばなかったわ。

 

「なんか失礼なこと言われた気が……私だって一応成長してるんだからね」

「へぇ、例えば」

「そ、それは……」

「ええ、確かに成長してるわ。前回博麗神社に行った時は五分遅れだったのに、今回の駅での待ち合わせなんて十五分も遅れたからね」

「それは成長って言わないよメリー!」

 

  その後、俺たちは街で夜の探索に必要な物を買い揃え、村に戻っていった。

 

 

 ♦︎

 

 

  時間は夕刻。空が赤く染まったころ。

  村のとある箇所で、何やら人だかりがあるのを俺たちは発見した。

  何か起きたのかもしれないし、ちょっと寄ってみるか。

 

  二人とも文句は言わず、人だかりに向かって歩く。

  そして、その騒ぎの中心には、泣きながら村人たちに何かをお願いする、女性の姿があった。

 

「お願いします! 娘が鬼に攫われてしまったんです! どうか皆さんで救助をお願いします!」

 

  そう叫ぶように懇願するが、村人たちは戸惑い、辺りを見渡して視線をそらす者ばかり。

  まあ、そりゃそうなるわ。鬼なんてものと戦える人間が、そもそもここにはいないんだから。

  それにしても、あんな女性は俺が昨日の夜見た限りいなかったはずだ。服装も違うし、おそらくは観光客だろう。

 

「これはなんの騒ぎですか?」

「ああ、これはなーーって、巫女様!?」

「続けてください」

「え、ええ。どうやらあの女性、子供連れで他の地域から観光に来たんですが、どうやら鬼来山の近くを歩いてる途中、子供が大男、つまり鬼に攫われたらしいんですよ。でもうちの村は今が重要な時だし……仕方ありませんよ」

「……そうですか、情報ありがとうございます」

 

  俺がお礼を言うと同じタイミングで、村人たちが散っていった。

  どうやら、彼らはこの女性を見捨てる判断をしたようだ。

  俺も特に助ける理由もないが……後ろから突き刺さる二人の視線に追われ、仕方なく彼女に声をかける。

 

「あの……すいません」

「ああ、もうお終いだわ……っ! ごめんなさい、私がしっかりしていれば……!」

「……諦めるなら勝手に諦めてくれ。まだ決まったわけでもねえのに、結論を急ぐんじゃねえよ」

 

  自棄になっている女性を見て、思わず素の喋り方で喋ってしまった。

  しかし、そのおかげであちらもこっちに気がついたようだ。

 

「あの……あなた方は……?」

「そんなことはどうでもいい。助けて欲しいのか? 違うのか?」

「たっ……助けてください! お願いします!」

「……明日までに結果を出す。その時帰ってこなかったら諦めろ」

 

  そう言い捨て、女性を取り残して足早にその場を離脱した。

  そして家に帰る途中の道で、蓮子が明るい声を出す。

 

「さすが楼夢君! こういうのは無視するタイプだと思ったから、見直したよ」

「俺だってそうしたかったよ……だけどさ、あれが悲しむ顔を見る方がよっぽど辛いわ」

「あれ? って、ああ……なるほど」

 

  俺と蓮子が向けた視線の先。

  そこには、嬉しそうな顔して少し後ろを歩く、メリーの姿があった。

 

「さてと、でもこれですぐに行かなくちゃいけなくなったね。レッツゴー、だよ」

「いや、予定は変えない。夜に行くぞ」

「えっ、なんで? このままじゃ子供が食べられちゃうよ!」

 

  その案を聞いたのか、メリーが後ろから俺に抗議してきた。

  だが俺はメリーの頭を撫でると、理由を説明する。

 

「大丈夫だ。そもそも、鬼は食べるために人間を攫うわけじゃないんだ」

「どういうこと? 鬼が人を食べるって話は有名だよ」

「鬼は基本的に強者を好む。人攫いは、その強者をおびき寄せるためのものだ。だが誰も挑まなくなると、鬼は不必要になった人間を処分するために食べるってわけだ」

「結局食べられちゃうじゃん、それならなおさら早くしないと」

「落ち着きなさいなメリーさん。今日攫われたってことは、強者を待つための時間も存在するはずだよ。つまり、今日や明日じゃ殺される可能性は低いと思うんだ」

「そうだ。相手は未知の強敵だ。しっかり準備してから行くぞ」

 

  そうやって、俺たちは帰路に着き、普段通りに夕飯を食べ、風呂に入り、それぞれの時間を過ごしてその時を待った。

 

 

  そして、夜のとばりが降りてくる……。

 

 

 ♦︎

 

 

  ……前方に気配4。左右合わせて3。合計7。

  思いっきり地を蹴り、縮地して前の妖怪と距離を詰める。

  そして鮮やかな剣技で、目の前の全ての敵を切り裂いた。

 

「楼夢君!」

 

  だが、まだ終わりではない。左右の3匹の獣型の妖怪が、後ろの二人を獲物に飛びかかってきていた。

  だが、妖怪たちに投げつけられた御札が当たると、爆発を起こし、標的を葬り去った。

 

「これで終わりか……」

「楼夢君、それ火薬でも詰まってるの? 明らかにおかしい威力だよ」

「さあな。そんなことより、やっぱり妖怪がうじゃうじゃいるな」

「うん。軽く20匹はもう来たと思うわよ」

「ああ、御札は千枚以上作ってあるから弾切れはないと思うが、さすがの俺でもこの数を一日で相手したのは初めてだ」

 

  刀に付いた血脂を振り払うと、納刀する。

  まだまだ体力は有り余っているが、後3時間ほどでキツくなるだろう。二人の体力のこともあるし、それまでになんとか鬼を倒さないといけない。

 

  俺たちは休憩を終了すると、再び山を登り始めた。

  ここも、前の竹林と同じように方向感覚が分かりにくくなるため、途中途中で蓮子の能力を使って位置を確認しないといけない。

 

  やはり、夜にここに来たのは正解だったようだ。

  コンパスなどを使う手もあるが、蓮子の能力ほど詳しく表示されないし、そもそも壊れたらお終いなので、やはりこういう時に彼女は便利だ。

 

  そして進むこと数十分。

  俺たちの視界に、黒髪の女性が倒れているのが映った。

 

「あの子よ。早く救出しなくちゃーー」

「いや、待て」

 

  飛び出そうとするメリーを手で制し、少女をよく睨む。

  すると、ぼんやりとだが、妖力が感じられた。

 

「それで騙せると思うなよ!」

 

  能力が発動し、俺の紫眼が光り輝き、少女を照らす。

  次の瞬間、彼女の姿は粘土のようにドロドロに溶け、中から鋭い牙を持った狸型の妖怪が姿を現した。

 

  すぐさま霊力のこもった針を投擲し、串刺しにして始末する。

  妖怪は汚い断末魔をあげると、痛みのあまり絶命した。

 

「あ、ありがとう、楼夢君……」

「今目が光ってたけど、もしかして能力?」

「ああ。前は適当に『怪奇を視覚する程度の能力』なんて言ったが、これの本質は非常識を見破ることにある。こういった幻術には相性の良い能力ってことだ」

「むしろそれ以外に相性良いのってあるの?」

「……あるかもしれない」

 

  くそう! どうせ俺の能力はたまにしか役に立たないダメ能力ですよ!

  ああ、日常でポンポン使えるこいつらが羨ましくなってきた。

 

「でも結構登ってきたけど、いったいどこにいるのかしら?」

「ああ、それならもうすぐだ。この先はバカみたいな妖力で溢れているからな」

「情報だと、炎も使うんだよね? 鬼って脳筋なイメージがあったんだけどなぁ……」

「いや、脳筋であってる。妖術を使えるのは一部の連中だけみたいだ」

「その一部の連中の一人に、運悪く巡り合っちゃったってわけか」

 

  確かにその通りだ。だが、妙でもある。

  鬼という種族は、基本的に術式は苦手だ。使える奴もいるが、畑を丸々干からびらせるほど強力なものを打てるとは考えにくい。

  もし、相手がただの鬼ではなかったら……その時は逃げるしかない。

  俺にとっては子供より、こいつらの方が大事なんだ。

 

「……行くぞ」

 

  ザッザッザッという草を踏みしめる音が、重く辺りに響く。

  はっきり言って、俺は緊張していた。

  俺は『ただの』ではないが、人間だ。先祖ならともかく、俺一人だけで鬼に本当に勝てるのか?

  そんな疑問が頭をよぎる。

 

  しかし、その考えは自分以上に不安を感じている二人の顔を見て、一気に吹き飛んだ。

  ーーそうだ。俺がこいつらを守るんだ。俺がやらなきゃ誰がやる。

 

  覚悟を決めて、俺はまっすぐに標的に向かって突き進んでいく。

  そして、

 

 

「……よく来たな。この時代の人間にしては珍しい。だが愚かだったな。人間ごときが俺に勝てるわけないのによ」

 

  俺たちの正面に、それは堂々と佇んでいた。

  二メートル越えの背丈に、まっすぐ伸びる鋭い二つの角。

  一目見ただけで分かる。圧倒的な威圧感。

  かつての世の支配者。『鬼』が、そのにいた。

 

「へぇ、言ってくれんじゃねえか鬼さんよ。決めつけるのは勝手だが、後で負けて難癖つけんじゃねえぞ?」

「その顔……貴様ーーーー」

 

  恐怖で震える二人を離れさせ、鋭い目付きで鬼を睨む。

  だが奴は俺の顔を見るや、抑えていた妖力を全開にして、

 

「ーー白咲楼夢かァァアアァアァァアアアア!!!」

 

  ハンマーのような拳を振り下ろしてきた。

  ……速い! いつの間にか間合いを詰められ、俺の顔は驚愕に染まる。

 

  ドッゴォォォォオオンッ!!!

 

  地が震えるような轟音。

  間一髪脱出した俺が元いた場所に、小隕石でも降ってきたかのようなクレーターが出来上がっていた。

 

「……なんちゅう威力だよ。バトル漫画かっ。いや、俺が言えた義理じゃねえけど」

「白咲楼夢ゥゥ! よく姿を現したな!殺す! 俺が受けた屈辱、今晴らさせてもらうぞ!」

「楼夢君、いったい何したらこんなに憎まれるのよ……」

「いやいや!? 誤解だって! 第一、俺らは初対面だ!」

「そうだろうなァ! 貴様が覚えてるはずもないが、俺は千年前のあの時のことを今でも覚えているぞ!」

 

  馬鹿な、俺らは完全の初対面だ。それに相手も千年前と言ってるし、彼が言ってるのは十中八九過去の『白咲楼夢』なんだと思う。

  しかし、ここまで恨まれる理由が分からない。うちの神社は昔は鬼とも交友を深めてたはずなのに……。

  奴の瞳を見れば、それが本気の怒りであることが分かる。

 

  とりあえず、二人の身を守らねば。

  束になった御札を空へと投げすてる。すると、散ったそれらが光り輝き、鬼を牽制するように空中に止まった。

  これらは鬼が二人に向かうと自動で追撃し、爆発する仕組みになっている。三百枚ほど投げたので、防衛には十分だろう。

 

  ふと、辺りの空が微妙に赤く染まる。

  これはおそらくメリーの境界操作だろう。凄い規模だ。これなら自由に戦っても問題ない。

 

「ねえ。貴方はなんでそんなに貴方が言っている『白咲楼夢』を恨むのかしら?」

 

  木陰に隠れながらのメリーはそう問いかける。

  そして意外にも、鬼はそれに正面から答えてきた。

 

「……俺は昔、惚れた女がいた。そいつは俺ら鬼の頭領で、何億年も生きている伝説と呼ばれた鬼だった。容姿もそれは美しく、当時百年ちょっとしか生きていない俺は一目惚れしたよ」

 

  鬼はその頃の記憶を思い出し、懐かしげにポツポツと続ける。

 

「その時から俺は、千年ほど修行の旅に出た。あの人に認めてもらうことだけを目標に、ただただ必死になって鍛錬に打ち込んだ。だが、帰ってきた時だった。あいつが現れたのはっ!」

 

  そこまで言うと、奴は感情を爆発させ、俺をその名の通り鬼の形相で睨んだ。

 

「俺が帰ってきた時、あの人は既に決闘で負けてしまっていたんだ。女のような顔、髪、をしたあの男に! もちろん認めらず、挑んだが姿すら追えなかった。そんな時、お前はこう言ったんだっ!」

 

 

『あ、終わった? 俺そろそろ剛との酒盛りがあるからもう帰りたいんだが』

 

 

「貴様には分からないだろうな! 惚れた女が他の男と腕を組んで去っていくところを、呆然とただ見つめるだけしかできなかった俺の気持ちなどっ!」

 

  息を切らせながら、鬼はそう今まで溜め込んだ魂の叫びを、思いっきり吐き出した。

  その大音量に、空気が震え、ビリビリと肌を刺激してくる。

 

  千年以上修行して、得たものが虚しさだけか……。女のために強くなったのに、全く役に立たなかった悔しさ。悲しみ。その他の全て。

  だから、俺は正直に言おう。

 

「すまん、分からないわ」

「……はっ?」

 

  俺の答えに、鬼だけでなく、メリーや蓮子も口を開いて戸惑った。

 

「第一、そこで諦めんのが理解できねえよ。忘れられないんだったら、お前も文字通り何億年でもかけて奪ったらいいんじゃねえか。何悲劇の主人公アピールしてんだ、ああ? テメェのその腹いせのせいで子供を奪われ、そのチャンスさえ与えられなかった子の母親の方が、よっぽど悲劇だわっ!」

「きっ、貴様ァ……っ!」

「来いよ鬼、いやクソ野郎! テメェのその甘ったれた根性を今叩き直してやるっ!」

 

  もう恐怖なんざ微塵も湧かない。臆病者なんざ怖かねえよ!

  久しぶりに吹き上がった怒りを手に込め、俺は鬼へと勝負を仕掛けていった。

 

 






「祝SAO三期決定! 最近寒くなってきて早朝腹を壊すのが日常化した作者です」

「祝とある三期決定! バブル時代、子供達はお年玉を一万円の枚数で競ったらしいが、今じゃ千円札の数で競ってる現代を見て涙が出てきた狂夢だ」


「今回の前書きは私が担当させてもらいました」

「ああ。非リアなお前らしい歌だ。気に入ったぜ」

「まあ、作者は告白したこともされたこともないので、この歌が似合ってるとは言いがたいですが」

「ヘタレだな。まだ今回の鬼の方がよっぽどかっこいいぜ」

「狂夢さんはもし私が告白したとして、女性が付き合ってくれると思いますか?」

「いや、それはありえない」

「オブラートに包んでくださいよ……っ。うっ、涙が……っ!」

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