東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
byマエリベリー・ハーン
「うおらぁぁぁぁっ!!」
「どりゃぁぁぁぁっ!!」
新しい風が入り込む春のころ。
ドゴンッ、という二つの鈍い音が研究室内に響き渡る。
めり込んだ拳が両方の顔を吹き飛ばし、周りの物をなぎ倒しながら地面に倒れこむ。
「テッメェ……! 数ヶ月も研究して成果も出ず、挙げ句の果てには失くしただとぉ!? ふざけんなこのクソ野郎!」
「うっさいわね! 頼んできたのはそっちでしょ!? 研究素材を失くしたのも、それを解明するためだったのよ!」
赤く腫れた頬を押さえながら、怒鳴り散らすのは秘封倶楽部メンバーの白咲楼夢。
そして反論してこちらも声を荒げているのは、この大学の教授である岡崎夢美だった。
「俺が文字通り命かけて取ってきた宝石を返しやがれ!」
「そんなに返して欲しけりゃ自分で探しに行け!」
「なんだと? もういっぺん殴ってやろうか!」
「望むところよ!」
「お、落ち着くんだぜ二人共!」
「そうよ、まずは落ち着いて!」
必死になって二人を羽交い締めしたのは、同じく秘封倶楽部メンバーのメリーと岡崎の助手である北白河ちゆりであった。
二人が、こうも争っているのは、とある宝石が原因だ。
その宝石というのは、去年秘封倶楽部がメリーの夢の中で拾ってきた青い宝石のことであった。
楼夢たちはこれと同じ物を、秋が終わる頃に三つ揃えていた。
一つ目は先ほど言った通りメリーの夢の中。そして二つ目はなんと、楼夢がいつも身につけているピアスの宝石だった。最後の三つ目も、東京で鬼を倒した時に、超巨大クレーターの中心に埋まっていた物を蓮子が拾ったらしい。
これら全てを岡崎に頼んで調べたところ、三つは全く同じ宝石ということが判明したのだ。
岡崎はこのデータを見て、もっと研究させて欲しいと願った。楼夢たちも、これには許可を出したのだが……。
「あれから五ヶ月も経っているのに成果なしか」
そう、結果は著しくなかった。
分かったのは、霊力や妖力などの非科学の力に反応するくらい。あとは絶望的だった。
「はぁ、もういい。こうなった以上、探しに行くしかねえか」
「待ちなさい」
そう言って岡崎は、楼夢にとある地図と、青い宝石のピアスを投げ渡した。
「その地図辺りに、私を襲ってきた奴がいるはずよ。役に立つと思うわ」
「……感謝はしておこう」
ようやく終わった、という顔で冷や汗を拭くメリーを引き連れ、楼夢たちはサークル部屋に戻っていった。
♦︎
「……ってことで、宝石を探すことになった」
「そんなぁ……失くしたのって、私が拾ってきたやつなんだよね? 今度レポート提出の時いびってやる」
「やめとけ。仕返しが怖い」
鼻息を荒くしながら、若干起こっている蓮子を前に、俺は注いであった紅茶を飲む。
そしてカップから口を離すと、今度はメリーが問いかけてきた。
「ねえ、そういえばなんで岡崎教授はそんな大事な物を失くしたの? 持ち物には特別うるさそうな人なのに」
「それが、正確には奪われたらしいぜ」
「えぇ!?」
蓮子が、驚きの声をあげた。
「宝石が奪われたってことは、岡崎が負けたってことなの?」
その純粋にあれを化け物と言っているセリフはともかく、俺はさらに詳しく状況を説明した。
「いや、助手のちゆりに預けたところを襲われたらしい。そもそも、あんな化け物が負けるかよ」
「楼夢君、ああ見えて岡崎教授は18歳よ。乙女に対して言葉を選んであげて……」
「……それってマジ?」
無言で頷くメリー。これには情報通である蓮子も知らなかったようで、俺と一緒に驚いていた。
いやいや、鬼の腹筋を貫く俺の拳をほぼ全力でねじ込んで生きてるやつだぞ? あいつが年下なわけねえだろうが。
そもそも、岡崎があそこまで強いのは、彼女が非科学を追い求める結果となった魔力という霊力や妖力とは違った力のせいだ。
彼女はそれを研究のおかげである程度操れるようになり、体にそれを流すことで身体能力を強化してる。
だがまあ流石に、俺の御札のように目に見える不思議はまだ起こせないらしいが。
「ともかく、その全ての元凶である岡崎から、その奪われたポイントと犯人? の潜伏予想位置を書いた地図をもらった。その結果、俺たちが向かう場所は……ここだ」
机に地図を広げながら、俺はあるポイントを指差す。
そしてそれを見ながら蓮子がは口に出して目的地を追う。
「えーと、まず奪われた場所が……ここら辺は人気のない森の中のはずだよ。そしてそこから引かれた赤い線を追ってくと、目的地は……あっ!」
「蓮子、ここって……?」
「廃病院だ!」
二人は顔を合わせてアイコンタクトで考えを読み取ると、蓮子がそう口にした。
廃病院、か……。随分ベタな場所だ。二人はそこを知っているようだが、なぜだろうか?
「ああそれはね。前にメリーとここに来たことがあったからだよ」
「ここは京都内で有名な心霊スポットで、肝試しに来たグループが極たまに行方不明になるらしいから期待はしてたんだけど……」
「案の定、何も出なかったってわけか」
「でもだよ、ここに犯人、というより妖怪がいるってことは、この廃病院の謎も解けるかも! 今は心霊現象専門の楼夢君がいるんだし、大丈夫だよ!」
まあ、やっぱり蓮子はそう考えるか。いくら年若いとはいえ、ちゆりも護身術に関してはかなりの腕だ。
その彼女が反応できないということは、超一流のプロが来たと考えるよりも、妖怪の仕業と考える方が現実的だ。非科学が現実的というのは皮肉だが。
「ちなみに、お前らが得た情報源ではどんなことが起こるって書いてあるんだ?」
「ネットではポルターガイストや異界への入り口、つまり神隠しなんかが起きるみたいだね。物が動き回ってるのを見てパニックになって、走り回ると出口が閉まっていつの間にか出られなくなるってのが予想できるオチかな」
「ちなみに、ポルターガイストはともかく、神隠しはこの場合あり得るのかしら?」
「あり得るっちゃあり得るが、俺的には出られなくなるのもポルターガイストの一種だと思う。俺たちが冥界で見た雑魚幽霊なんかは無理だが、それなりの数を殺して力を得た地縛霊なら自分のテリトリー内の扉を封鎖することぐらい簡単だと思う。というか、神隠しはメリーの専門だろうが」
「それはそうなんだけど……ね?」
要するに、間違ってたら不安だ、ということだろう。
しかし、今の話のおかげで相手の戦力がだいぶ測れてきた。
まず、正面から戦えば確実に倒せるだろう。しかし、厄介なのは地縛霊のテリトリー内に行かなきゃならないってことだ。
もちろん地縛霊は、その中にトラップを大量に仕掛けているだろう。その結果によっては即死する危険性もある。
だがまあ、やるしかないか……。
「それじゃ、今日の夜、目的地に行くか」
「また夜なの……? 今からでもいいじゃないかしら?」
「岡崎の話によると、目的地周辺で一日を過ごそうとしたら奪われたらしい。幽霊の専門としても、夜の方が相手が強くなる代わりに視認しやすくなる」
「それでまずくなった場合はどうするの?」
「最大規模の力使って消し飛ばすしかねえだろ。というか中に宝石なかったら、こんな依頼受けた瞬間にぶっ放してるところだ」
「ああ、『秘封流星結界』を使うんだね」
『秘封流星結界』とは、俺と鬼の戦いに終止符を打ったあの青い流星群のことだ。
あの時咄嗟に考えた新技だったので名前は決めてなかったが、その後蓮子によってそう名付けられた。
「いやー、これで楼夢君が『悪よ滅せよ、秘封流星群!!』とか言ってくれたら面白いんだけどなー」
「面白くねえわ。むしろあまりの恥ずかしさに白けるに決まってるだろ」
とはいえ、古来から技名を叫ぶ文化は存在する。実際、俺も森羅万象斬を放つ時は思いっきり叫んでいた。
その理由は、イメージが持続しやすいからだ。暗殺ならともかく、同タイムで同じ技を出すのなら威力の高い方が必ず良い。それには、強いイメージを保つ必要がある。
日本のアニメなどで必殺技を叫ぶのは、そういった昔の陰陽師たちの影響が強いのだろう。
まあ、これを言ったら必ず蓮子は俺にあの恥ずかしいセリフを言わせようとしてくるから、黙ってておくのだが。
そして、今日の夜集合ということで、秘封倶楽部の計画決めは終わった。
そして辺りに、夜のとばりが満ち始める……。
♦︎
カァー、カァー
黒い翼が羽ばたく音とともに、カラスが鳴きながら夜の空を飛んでいく。その先に進むと、辺りを静寂に包みながら、それはあった。
「あれが、廃病院か」
「うん。でもなんか前とは雰囲気が違うような……?」
「ええ、こんな禍々しくなかったわ。むしろ、これがこの病院の本来の姿なのかも」
「どっちにしろ、この廃病院の妖怪が宝石でパワーアップしてるのは確実のようだな。まあ、鬼の時程ではないが」
あの鬼も、額に宝石を埋め込むことで、鬼の弱点である妖術を克服していた。ならば、今回も遠距離からの攻撃が来ると予想するのが妥当だろう。
「それで、どこから入るのかしら?」
「そんなもの決まってるじゃん。入り口ってあそこに書いてるなら、入り口から入るのが筋ってものでしょ?」
いやいやこの場合それは正直すぎる。
というより、入り口の下の地面に何か違和感と微量の妖力が感じられる。
あれは、まさか……!
咄嗟に御札を取り出して、声を張り上げた。
「蓮子、退け!」
「えっ?」
彼女の反応を問わず、御札を入り口の地面へと放つ。
そして地面に当たるその瞬間、巨大な口のような物が下から勢いよく飛び出し、御札を飲み込んだ。
「消えろ!」
アギャアギャギャアギャギャアアアアアアアッ!!!
すぐさま高速で螺旋回転する退魔針が、大口の妖怪へと殺到する。
そのまま弾丸のように肉を貫き、穴だらけになったところで、息が途切れ、果てた。
「危なかったな。それにしても病院の外にも罠か。くそッ、ただの地縛霊じゃこんなことできねえぞ」
「あ、ありがとう……」
「気にするな。とりあえずお前らも気をつけろ。ここは今までとは違って、俺たちの無意識を狙って襲ってくる」
仮に入り口前だからと言って、自分の領域外を操作できる地縛霊はごく僅かだ。どうやら、今回はただ術が使えるようになるだけではなく、存在の昇華というところにまで至ったようだ。
はぁ、今回も一筋縄じゃいかなそうだ。
最近こんな強敵ばっかと戦ってる気がする。その分自分が強くなってるのには感謝するのだが。
こんなことも、やはりメリーたちがいなかったらありえなかっただろう。なら、俺のすべきことは、彼女たちの望みを最大限叶えてやることだ。
「……裏口があるようだが、罠も大量にあるな。一番手薄なのはこの正面入り口だが、十中八九それも誘われてるだろうな。どうする?」
「決まってるでしょ。相手が誘ってるのなら、意表をかいて裏口から行こう」
「ふふっ、逆に私たちでここの妖怪を驚かせてあげましょう?」
俺でも怯えるような黒い笑みを浮かべて、メリーが蓮子の作戦に賛同する。これで、裏口から侵入は決定した。
裏に回り込む間も、罠が決してないわけではなかった。むしろ、メッチャひっきりなしに罠が仕掛けてあった。
先ほどのようにアリジゴクのような罠から、弾幕が飛び出してくる罠、爆発を起こす罠、さらには最下位の幽霊を召喚する罠など、実にてんこ盛りであった。人間を殺すには十分すぎるだろう。
まあ、相手が俺でなかったら、だが。
能力『怪奇を視覚する程度の能力』。今回のことは全て怪奇現象と表せられるので、俺の瞳が全ての罠が仕掛けられている場所からその内容まで一気に読み込んでくれたのだ。
おかげで、俺たちは一切罠にかからずに裏口から侵入することに成功する。
「罠仕掛けた妖怪から猛抗議を受けそうな能力よね、楼夢君のって」
「本人は普段使う機会がない能力が大活躍して興奮してるみたいだけどね」
失礼な。
確かに楽しいことは確かだが、そんなに酷い顔はしてないと思う。
とはいえ、無事に侵入できたから良しとしよう。そしてここからが本番だ。
「さて、やっこさんも本気で来たみたいだよ」
裏口から侵入してしばらく後、階段に続く廊下に大量の妖怪が待ち伏せていた。
「どーも、最近寒くて体調を良く崩す作者です」
「胃の弱い奴は朝食を取るだけでトイレ直行になるから、みんなも気をつけとけよ。じゃねェと作者みたいになるぜ。狂夢だ」
「いやー最近テスト期間が近づいてきましたねぇ」
「どうせ今回もロクな点数じゃねェんだし、考えるだけ無意味と思うんだが」
「酷くないですかそれ!? まあ、あながち間違ってもないから言い返せないんですが……」
「……みんなも作者みたいにはなるなよ。ロクな人生を送れなくなるぜ?」
「というわけで今回はここまで! お気に入り登録、高評価よろしくお願いしますします!」
「してくれた君には作者の髪の毛で出来たかつらをプレゼントだ」
「何その拷問!? 絶対しねえからな!