東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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テメェのことなど知ったこっちゃない

必要なのは、覚悟と意志だ


by白咲楼夢(神楽)


爆炎の屋上戦

 

 

  ドッゴォンッ!!!

 

  という、屋上への扉が吹き飛ぶ音が響いた。

  それは速度を落とさないまま、屋上の中央に立つ()()()()に向かい、一直線に突き進んでいく。

  だがーーーー

 

  鋭い音が扉から発せられたかと思えば、それは()()()()に両断され、地面にコロコロと転がっていく。

 

「残念だな。今ので死んでくれた方がこの先苦しまずに済むのに」

「ふっ、聖職者とは思えないセリフだな。お前のこれまでの戦いは覗かせてもらったぞ」

「えっ、ストーカーなのか、お前? うわっ気持ち悪い、俺にこれ以上近寄るなよ」

「……なんだか酷い誤解をされたようだが、あえて名乗らせてもらおう。私は……ッ!?」

 

  とっさに、怨霊は体を仰け反らせた。

  そこに、霊力を纏った針が、彼の眉間があった場所を通り過ぎていった。

 

  なんだか気難しそうな話が続きそうだったので、なんとなく邪魔したくなった。後悔はしていない。

 

「……君は人の話は最後まで聞けと親に言われなかったのかね?」

「悪いが、死んだ祖父は『あえて名乗らせてもらおう。私はーー』とか言った奴は大抵ロクでもないから切ってよしと言ってたんでな」

「お前の祖父は何者なんだ!?」

 

  声を荒げ、怨霊は息切れをしながらこちらを睨みつけてきた。

  まあまあ、そうカッカと熱くなるなよ。カルシウムが足りないぜ。

 

「さて、と。お遊びはここまでで、そろそろ始めてもいいか? いい加減飽きたんだが」

「……この後に及んで、貴様が言い出したことだろ、とか、そういうのは止めにしよう」

「いや言ってんじゃねえか」

「それにしても、一緒にいた女たちはどこ行ったんだ?」

 

  一瞬、怨霊の瞳がキラリと光った。

  おそらくはああやって、この廃病院内の生者を感じているのだろう。

  だが、あの様子からすると、見つけ出せなかったようだ。

 

「まあ、当然見つけられるわけねえよな? なんせあいつらには既にここから脱出してもらったからな」

「なるほど。一対一というわけか。望むところだ!」

 

  怨霊が月の光に照らされ、姿を現した。

  白衣を纏っており、外見上は人間だ。

  不自然なところもない。

 

  ーーただ一つ、彼が両手に握っている二本のメス以外は。

 

  白衣の怨霊は、まるで暗殺者のように素早く俺に接近すると、そのメスで突き刺してきた。

 

  だが、あいにくとこちらは戦闘のスペシャリスト。

  片方を刀で、もう片方を左手で叩き落とし、空いた顔面にバク宙しながらの蹴りをぶち込んだ。

 

  「ぐぷっ!?」

 

  医者である以上、()()()()()の限界を把握できていたせいで、()()()()()を予測できなかったのだろう。

  俺の足の先が見事に顎を蹴り上げた。

 

  とりあえず、相手が下がったのでチャンスだ。

  思いっきり駆け出しながらの突きが、白衣にめり込む。

  だが、間一髪白衣だけで済ませたようで、本体は無事だったようだ。

  本当にめんどくさい。

 

  だが、追撃に放った針までは避けれなかったようだ。

  ドスドスッ! という音とともに、怨霊の体から血が飛び散る。

 

「……くっ、やはり正面からでは勝てないか……! だが、私にもやるべきことがある! 邪魔は、させないぞ……っ!」

 

  白衣の怨霊が、その懐からキラキラと輝く何かを掲げる。

 

  あれは、俺たちの青い宝石……!

 

「それをどうするつもりだ?」

「見てれば分かる! くらえ!」

 

  怨霊の声に応えるように、青い宝石が空へと上がる。

  そしてひときわ大きく輝くとーー

 

  「……なんだ、これは……?」

 

  辺りを照らしていた星々の光は消え去り、代わりに屋上全てが、黒いドームのようなものに包まれていた。

 

  だが、他に何か変わった様子はない。

  ならこの空間は、なんのための……?

 

  っと、思考していると、前から速い足音が聞こえてきた。

  何考えてやがんだ、あいつ? まあいい、返り討ちにして……!?

 

「……ぐッ!?」

 

  メスの刃が体に突き刺さり、今度は俺が血を撒き散らした。

 

  馬鹿な。

  応戦しようと刀を振るった瞬間、俺は気づいた。

 

「平衡感覚が……効かねえだと!?」

「ほう? 一発でもう見破るとは……だが、なんの役にも立たないがね!」

 

  バランスをとるのに必死で隙だらけな俺の体に、小さな刃が次々と襲いかかってくる。

  針を投げようにも、動くことすら難しい。

 

「【森羅万象斬】!!」

 

  なんとか大振りに振るい、相手を下がらせたが、肝心の青白い刃は奥の闇に消えていった。

  このままじゃ、体力消耗が増えるだけで、なんの解決にもならない。

 

  見たところ、あれは青い宝石ーー【時狭間の水晶】が原動力となっている。

  なら、あれを奪い取ればこのフィールドも無効化できるのだが、用心深いことに宝石は結界の外にあるらしい。

  なら、今度はこのフィールドをぶち壊すということになるが、【森羅万象斬】でもビクともしないということは、中からの攻撃にはめっぽう強いのかもしれない。

 

「……はぁっ」

 

  ……お手上げだ。

  俺の考えでは何もできることはない。

 

  刀を床に突き刺し、構えを解く。

  怨霊はそんな俺を見て、同じように構えを解き、一言。

 

「もう終わりか?」

「……もう、お手上げだ」

「そうか……なら、チェックメイトと行こうか!」

「……ああ、チェックメイトだなーーーーお前と、お前の病院が」

 

  俺がそう言うと、突き刺した刀から電流のような霊力が発生し、床の下ーーすなわち病院内に流れ込んだ。

 

  さて、みんなは小学生や中学生のころに習った豆電球の実験を覚えているだろうか?

  乾電池から電流が流れ、導線を通って豆電球へとたどり着き、光らせる。

  今回俺がやったのは、この実験とほぼ同じだ。

 

  乾電池は刀から流れた霊力、導線は病院内全体、そして肝心の豆電球はーー病院内に張り巡らされた、数百枚の御札に例えることができる。

 

  もっと分かりやすく説明するなら、御札はこの場合ーー爆弾へと、意味を変えることができる。

  その結果、

 

 

  ドッゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!

 

 

  ーー廃病院で数百の爆弾が作動し、屋上ごと廃病院をバラバラに吹き飛ばした。

 

  俺たちは空中に投げ飛ばされ、怨霊が消し飛んだ病院を見て叫んだ。

 

「なんだ、なんなんだこれはぁぁぁぁぁ!?」

「教えてやろうか? あれは病院全体に貼っておいた御札だよ」

「馬鹿な、この短時間でそんな量を貼れるわけがない! 一体何をした!?」

「別に、俺が貼ったとは言ってないだろ?」

「ッ!? なるほど、あの女どもかぁぁぁぁぁ!」

 

  さて、ネタバラシすると、これがメリーの秘策で、廃病院を丸ごと御札で吹き飛ばすというものだ。

  果たしてそんな物を大量に貼り付けて、バレないのかと言われたら、結論はバレない。

 

  あの怨霊は廃病院内の生者を感じれても、廃病院全体を見渡せるわけではない。

  それは今までのトラップの配置から分かったことだ。

  よって、御札は命を持たないので、簡単に張り巡らせることに成功した。

 

  あとはご想像の通り、霊力で起動させてバンッ!である。

  不満を言うなら、俺がとっさに結界を張っていなかったら、俺も命を落としていたということぐらいか。

 

  さて、外側からの強烈な爆風によって、平衡感覚を奪うフィールドは消滅し、時狭間の水晶が剥き出しになった。

  さて、サーカス団員も真っ青な俺の曲芸、ご覧あれ!

 

  空中に浮かぶガレキを足場に、アクロバティックな動きで上へと跳び、最後にはムーンサルトを決めながら宝石を回収した。

 

  さて、残るはこいつだけだ。

 

「クソクソクソクソ!! あと一歩だったのに、あと一歩だったのにィィ!! ふざけるなぁぁぁぁ!!!」

「いや、知らねえし。だから言っただろ? 『今ので死んでくれたら、この先苦しまずに済むのに』って」

「殺す! 刺し違えても殺してやる!」

 

  血走った目で俺を睨み、ものすごい声量で叫ぶが、奴のメスが俺に刺さることはなかった。

 

  いくら怨霊だとはいえ、所詮は医者だっただけの人間だ。

  不安定なガレキの上を跳び回る技術も、メスを正確に投げる投擲術もない。

 

  さて、じゃあ止めと行こうか。

 

  普段は片手で持つ刀を両手で握り、霊力を流し込んだ。

  すると刀は激しい青白い光に包まれ、身の丈を超える大剣へと姿を変えた。

 

  俺はガレキを利用して怨霊の頭上へと移動し、空中で逆さになるほどの勢いで光の大剣を振り下ろした。

 

「神霊刃ーー【超森羅万象斬ッ】!!」

「クソッ、こんなーーこんなところでぇぇぇぇぁぁぁアアアアア!!!」

 

  その一撃は相手を殺す(正確には生きてないが)にはオーバーキル気味で、周りのガレキを怨霊ごと消し飛ばしながら、地面に大きな爪跡を刻んだ。

 

  体制を立て直し、受け身をとって地面に着地する。

  わかっていたが、廃病院のあった場所には何も建っておらず、ただ大量のガレキで埋もれているだけであった。

 

  その変わり果てた姿を前に、俺はしばしの間、黙とうする。

  そして、それを終えるとすぐに踵を返して廃病院跡地に背を向けた。

 

「一応弔ってやったんだ。せいぜい成仏しろよ」

 

  それ以上は何も言わず、跡地を出て行く。

  その進む先には、メリーと蓮子が手を振る姿が、俺の瞳に映った。

 

 

  ♦︎

 

 

「ふぅ、それにしても今回は疲れたわ」

「全くだよ。今度岡崎から報酬をたんまりともらわなきゃね」

「やめとけ、あの野郎のことだ。これ以上欲張ったら全部持ってかれる可能性がある。10万円と今月のレポート提出を無しにしてくれただけマシだろう」

 

  いつも通りのサークル部屋で、そうグチる蓮子。

  とはいえ、彼女の言い分も正しく、命がけで戦った報酬がこれだけだと文句が出るのも無理はない。

  とはいえ、そんなことを言って殴られでもしたら怖いので、俺にはとてもそう口にする勇気はないのだが。

 

  ちなみに、今日は廃病院に行って次の日だ。

  あの後、無事に【時狭間の水晶】を取り戻して、岡崎に返しておいた。

  だが、岡崎が言うに、あれは解析不能で、アテができるまでは持っておいてくれと、強引に手渡されたのだ。

 

  しかもご丁寧にメリーと蓮子のは穴が空いて、紐で首から下げることができるようになっている。

  それを若干不機嫌な二人に渡すと、すぐに機嫌を直したようだ。

 

「まあ、いっか。それよりも、こんだけあるんだし、いっちょ今日飲みに行く?」

「あら、それは名案ね。私もちょうど飲みたかった気分なのよね」

「俺もだ。早く日本酒でも飲みてぇ」

「決まりだね。じゃあ、行こっか!」

 

  そう言って、勢いよく立ち上がる蓮子。

  だが、一言言わせてくれ。

 

「今から飲みに行くつもりなのかよ」

「あ、そういえば、まだ予定立ててなかったっけ?」

「もう、本当に蓮子はぬけてるんだから……」

 

  その蓮子の間抜け面が面白くて、思わず俺とメリーは笑ってしまった。

 

  こうして、今夜は飲みに行くことになった。

  だが、後で蓮子が待ち合わせに遅刻したり、自分の分を払い忘れたのを、俺は今だに忘れてない。

 

 

 

 

 





※今回はメタい回です。ネタバレはありませんが、とりあえずメタい話しなので、嫌いな方は飛ばしてください。




「どーも、今回で秘封倶楽部のオリジナルストーリーは終了ですね。そろそろ過去編も終わりが近づいてきた気がします。作者です」

「そういえば、これって過去編だったな。もうこの小説の主人公覚えてるやついないんじゃねェの? 狂夢だ」

「失礼すぎるだろそれ!? 名前も一応同じなんだし、みんなも覚えてくれてる……はず。本編永遠の主役、楼夢です」


「そういえばさ作者。これって今メリーたちは大学何年生なんだ?」

「ストーリーの展開上、この作品では廃病院編で2年生になったばかりにしています。前回の東京編が秋の終わり頃だったので、数ヶ月飛ばしてしまいましたね」

「おーい作者。今さらなんだが、今俺の代わりに主人公してる神楽君って万能化しすぎじゃないか? 最初は霊術すらも操れなかったはずだろ?」

「それもストーリーの展開上、仕方ありませんね。考えた当初は霊力による身体能力強化だけでいこうとしたんですが、それだと鬼なんかには絶対勝てないので、強化しました」

「実際、楼夢が全ての力封印して剛に勝つぐらい、難易度高いからな」

「それはさすがに高すぎませんか!? あんなのと刀一本だけなんて、自殺行為に等しいだろ!」

「まあ、盛りすぎたかもしれませんが、大体あってるので良しとします。まあこれが、神楽さん万能化の秘密です。とは言っても、強化しすぎないようにバランスを整えているので大丈夫だと思いますが」

「まあ、納得したわ。みんなも小説を書く時はパワーバランスをしっかり調整しておけよ? じゃないとこの作品みたいにゴチャゴチャになるからな?」

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