東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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祈れ。さすれば救われん

そんなのはまやかしだ

祈ったところで救われない

信じたところで現れない

そんなものでも、祈るのが人間なんだろう


by白咲楼夢(神楽)


巫女もどきの祈り

「ォォォォオオオオオ!!!」

 

  雄叫びをあげながら、前へひたすら進む。

  ただし、まっすぐではなく、ジグザグにだ。

  そして依姫は予想通りーー

 

「【火雷神(ほのいかづちのかみ)】」

 

  俺に向かって、八つの炎の竜が殺到する。

  だが、その技は一度見た。そして、対処も簡単だ。

 

  俺の刀に、青白い霊力が集中していく。

  【天剣乱舞】。

  【森羅万象斬】を纏った七つの霊刃が、次々と炎竜とぶつかり合い、ねじ伏せていく。

 

  だが、もちろんこちらは無傷とはいかない。

  切られ、行き場を失った炎が爆発するたびに、俺はその余波をまともに受けていた。

  それに、この技は七連続攻撃だ。俺が動きを止めた時にはまだ一つが残っている。

  だが、これでいい。

 

「おらァァァァアア!!!」

 

  俺は飛び上がると、竜の背に足をつけ、なんとそこを登って行ったのだ。

  足が燃えるように痛い。いや、実際燃えているのだろう。

  元々履いていたブーツが、黒焦げになりながら焼き切れ、自然と消滅していく。

  それをこらえて、俺はもう一度踏み込み、足に力を込める。

  そして今度は竜の背から、依姫の頭上に天高く飛び上がった。

 

「【超森羅万象斬】!!」

 

  青白い光が刀に集い、俺の武器を巨大な大剣へと変えていく。

  そして出来上がったそれを、全体重と遠心力を使って、体が逆さになるほどの勢いで振り下ろした。

 

「っ、【須佐之男神(すさのおのかみ)】ッ! 大蛇殺しの一撃を持って、彼の者を滅せよ!」

「【黒月夜】ッ! 偽りの伝承を、塗り返せ!!」

 

  緑の神剣と、青の霊刀が衝突する。

  その衝撃で辺りの地面は吹き飛び、依姫が立っている地面の周りがえぐれていく。

 

  緑と青の光片が舞い散る。

  そしてーー青白い光が、緑を次々と侵食していった。

 

  彼女は一つ、大きなミスを犯した。

  それは、言霊の内容である。

  彼女が降ろした神ーー須佐之男はうちの先祖ーー八岐大蛇こと【産霊桃神美】との戦いで敗北している。つまり、真実は違うのだ。

  そのせいで、依姫は須佐之男の最高の力を引き出せずにいた。

  そしてそれは、俺にとってはまたとないチャンスだ。

 

  とうとう均衡が破れ、俺の大剣が依姫の体に傷を刻んだ。

  とはいえ、押し返すのに精一杯で深い傷は負っていない。

  だが、それでいい。

  俺は接近した状態で彼女の白い腕を掴み、一言、

 

「【秘封流星結界】ッ!!」

 

  滅びの言葉を、呟いた。

  直後、天がキラキラと光る。

  そこから、大量の流星群が、俺と依姫を巻き込んで、月の大地を破壊していった。

 

  地面にいくつものクレーターが出来上がる。

  そのとき発生した衝撃波に耐え切れず、俺は吹き飛び、ピンボールのように空中に吹き飛んだ。

 

  やがて、流星群が収まり、辺りが砂けむりに覆われる。

  そして、そこから姿を現したのはーー

 

 

  ーー不思議な光に覆われて、全く無傷の依姫の姿だった。

 

「ーー大御神はお隠れになった。夜の支配する世界は決して浄土になりえない。【天宇受売命(あめのうずめのみこと)】よ! 我が身に降り立ち、夜の侵食を食い止める舞を見せよ!」

「嘘……だろ……」

 

  地面に倒れていた俺の顔が絶望に染まる。

  霊力は今のでほぼ使い切った。タンクの中は残りカスだけだ。

  もはや、勝機はゼロ。これ以上は無謀だ。

  だけど、このままじゃ終われない。

  震える足腰で無理やり立ち上がり、刀を握る。

  そして、鋭い眼光で依姫を睨みつけた。

 

  彼女は、呆れた、とでも言うようにため息をつくと、冷たい声で言った。

 

「【天宇受売命】は踊りの神。あらゆるものを舞うように避けれるわ。そんな状態の私に、今の疲労した貴方の刃が届くことはない。……悪いことは言わないわ、諦めなさい」

「それでもっ……握らなきゃいけない剣がある……ッ!」

「そう。ーー残念ね」

 

  それが、終わりの言葉となった。

 

  雄叫びをあげ、自らを鼓舞しながら、俺はもがくようにに刀を振るう。

  だが、神の力を借りている依姫には当たらず、それでも、何度でも何度でも攻撃を繰り返す。

 

  やがて、依姫が突如動かした大太刀が、俺の斬撃を弾いた。

  そして、バランスを崩して無防備になった俺の腹へ、刃を一閃。

 

  ーー()()()()()()()()()()()()()()

 

「がっ、あぁ……ッ」

 

  世界が、ゆっくりに見える。

  飛び散る流血も。

  俺を切り裂いた大太刀も。

  倒れる俺の体も。

 

  そして、こちらを見つめている、少女たちの顔も。

 

  俺はせめてもと、落ちる世界の中で、精一杯微笑み、そして、倒れた。

 

(心配すんなよ……こんなの、いつものことだ。それよりも、お前らだけでも……ッ)

 

  閉じかけたまぶたを止め、血で赤く見える視界で必死に二人の姿を追う。

 

  そこには、刃の檻に閉じ込められて身動きが取れない二人へと、大太刀を向ける依姫の姿があった。

 

  (ま、ずい……ッ)

 

  何か、何かないのか?

  依姫を押し返し、二人を救うことのできる方法が。

  辺りを必死に見渡すが、見えるのは砂ばかり。手がかりなど何もない。

 

「ち、くしょう……ッ」

 

(神様だろうがなんだろうがどうでもいい、力を貸してくれ……ッ。お願いだ、二人を……ッ)

 

  そこで、何かが引っかかる。

  神……力を貸す…… 神降ろし……!?

  そういえば、ここは地上とは違って、神聖な力で溢れていたはず。なら、もしかしたら……!

 

  溢れる血を指につけ、うろ覚えの術式を地面に描いていく。

  お願いだ、間に合ってくれ……!

 

 

  そして、依姫が上に掲げた大太刀を振り下ろそうとしたそのとき、

 

 

「【産霊桃神美(ムスヒノトガミ)】よ! 我が身に降り立ち、行く手を遮る闇を斬り裂け!」

 

  突如空から落ちてきた光の柱が、辺りを眩く照らした。

 

 

 ♦︎

 

 

  光が収まると、まず見えたのは黒い巫女服だった。

  間違いなく、俺が前に着ていたものである。

 

  そして視界に、鮮やかにたなびく紫色の髪が映った。

  触れてみて、分かった。

  髪が、体が、前の容姿に戻っているのだ。

  いや、違う。

 

  頭と尻の辺りを撫でてみると、ふさふさと毛持ちのいい感触が伝わってくる。

  おいおい、冗談だろ……?

  恐る恐る、それらの正体を確認する。

  それは、紫の狐耳と、同じく紫の尻尾の感触だった。

 

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

  まあ、今日だけはこれでいいや。

  神降ろしが解ければ元に戻るだろう。それまでの間は、このままでいい。

 

  俺を見たメリーも蓮子も、依姫でさえ、唖然と口を開いている。

  いや、そんな反応されても困るんだが……。

  ショックを受けるからちょっとやめてほしい。

 

  まあ、とりあえずは、

 

「その物騒なもんを下げろやクソ野郎!」

 

  今まで出したことのないような速度で依姫に接近すると、真っ白な素足で腹を思い切り蹴飛ばした。

 

  そのあまりの威力に、依姫が10メートルほど吹き飛ぶ。

 

  ……体から力が溢れてくるようだ。

  これが、神降ろし、か。

  失った霊力は回復するどころか、通常の数倍にまで膨れ上がっている。

  いける。これなら、勝てる。

 

「っ、なぜ……? 貴方が神降ろしを……?」

「そういえば、名乗ってなかったな。白咲神社十八代目巫女、白咲楼夢だ」

「巫女、だと……? それよりも、白咲楼夢と言ったか!?」

「そうだ。俺とお前は、浅からず縁があったようだな」

 

  鞘に納められた愛刀【黒月夜】を抜刀し、楽なフォームで構える。

  それに合わせて、依姫も大太刀を上段に構えた。

 

「さあ、第二ラウンドの始まりだ!」

 

  叫んで早々、霊力を刀に込める。そしてそれは、スパークすると、辺りを照らした。

  【雷光一閃】。普段は居合切りでしか使わない技だが、納刀からだと依姫に攻撃が読まれてしまうため、抜いてから発動した。

 

  雷のような速度で、目標の体を切りつける。

  大太刀で防がれてしまったが、直後、刀から今度は激しい風が発生した。

 

 【風乱(かざみだれ)】。

  風を纏った五月雨(さみだれ)切りが、超至近距離で繰り出される。

  先ほどの一撃で少しバランスを崩していた依姫は当然、全ての斬撃を防ぐことはできず、いくつかが彼女を切り刻む。

 

「ぐっ、痛……ッ、【天津甕星(あまつみかほし)】よ、大気に遮られない本来の星の輝きを、この者に見せつけよ!」

 

  苦し紛れに彼女がそう言い放った途端、大太刀の刀身が眩しい光を発し、俺は思わず目を閉じてしまう。

  その一瞬で、どこからか拳が俺の顔を殴りつけた。が、踏ん張り、額に霊力を集中させる。

 

「倒れねえぞオラァア!!」

「ごっ、が……ッ」

 

  鈍い音が、月の大地に響き渡る。

  霊力で固められ、ハンマーと化した俺の額が、依姫の脳天に振り下ろされた。

 

  さすがの依姫も、これには堪らず、頭を抑えて半歩後退する。

  しかし、手を頭を抑えるのに使ったのは失敗だったな。

 

「【森羅万象斬】!」

 

  青白い刃が、見事依姫に直撃し、大爆発を起こして彼女を吹き飛ばした。

  しかし、俺は追い打ちをかけるために空中で依姫の背後に回ると、返す刀で背中を切りつける。

  だが、それを察した依姫は、振り返ると同時に回転を利用して、俺の斬撃を大太刀で弾き飛ばした。

  そのせいで俺の動きは一瞬止まる。

  その間は、依姫が言霊を発するには十分な時間だった。

 

「【天手力男命(あまのたぢからおのみこと)】よ! その金剛力の力を持って、我が敵を押し潰せ!」

 

  依姫の体に不思議な光が纏われる。っと、同時に大太刀が振るわれたので、冷静に刀で防御するが、

 

「っ!? なんだっ、この馬鹿力はっ!」

 

  その一撃は、まるで巨大な岩を受け止めたかのように重かった。

  いくら神を宿した身と言えど、これには耐え切れず、地面に吹き飛ばされる。

 

「カハッ!」

 

  仰向けで落ちたため、背中が衝撃を受けて、肺の中の空気が吐き出される。

  だが、俺の瞳は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

  飛び込むように地面を転がり、なんとか緊急脱出。

  一拍置いて、俺が元いた砂の地面に大太刀が突き刺さった。

 

  すぐさま立ち上がると、牽制のため弾幕と化した御札を撃ち込む。が、数回で全て薙ぎ払われたことを見ると、効果は薄そうだ。

 

  だが、その数秒で思考を安定させる。

  相手が今宿しているのは、【天手力男命】。天岩戸を引き開けた、力自慢の神だ。

  依姫の神降ろしの制約について分かったことがある。

  それは、二つ以上の神を同時に降ろすことができない、ということだ。

  つまり、今彼女は近接攻撃しかできないわけでーー。

 

  弾幕の壁を強引にうち破り、依姫の大太刀が迫り来る。

  だが、俺は防ぐどころか、逆に斬撃を繰り出した。

 

  二つの刃が衝突ーーすることはなかった。

 

  俺の斬撃が大太刀の刀身を滑るように、平行に繰り出されたからだ。

  彼女の斬撃は受け流され、俺の斬撃がカウンターで彼女を捉えた。

 

  だが、流石歴戦の剣士。

  直前に被弾覚悟で、俺に蹴りを繰り出していたのだ。

  骨が軋む、鈍い音が、今度は俺から聞こえる。

  それでも、止まることはない。

  細かく鋭い斬撃が二、三回彼女をえぐるたび、体のどこかに拳が打ち込まれ、骨折する。

 

  だが、その均衡はいずれ崩れる。

  そしてそのとき、打ち勝ったのはーー俺だった。

 

「ハァァァァアア!!」

 

  愛刀の刀身が、青ではなく、紫の霊力に包まれる。

  【森羅万象斬】を纏った俺の刺突が、彼女の腹を貫き、吹き飛ばした。

 

  彼女にとってその傷は、致命傷になったはずだ。

  現に、彼女は立ち上がるが、その体は小刻みに揺れている。

  その様子を自分でも理解したのか、周囲に時間稼ぎの結界を張ると、目を閉じ腹に手を当てると、小さく言霊を唱えた。

 

「【木花咲耶姫(このはなさくやひめ)】よ、我が身を焼き、不浄の傷を洗い流せ」

 

  ジジッと、小さく、彼女の体が一瞬燃え上がる。

  彼女は「うっ!」と小さく声を漏らすが、次には傷は焼き塞がれていた。

 

「応急手当、か……それにしてもなんだ、酒くさいな……」

「【木花咲耶姫】は火の神であると同時に酒造の神とも言われているわ。痛みがあまりにも酷いから、体を酔わして誤魔化してるだけよ」

「ふーん、いいのか? そんなこと言って。俺に『私は今弱ってます』って言っているようなもんだぞ?」

「いいわよ。これ以上は本当に負けそうだから、姉さんにしか見せたことのない切り札を使うことにしたことだけよ」

「あ? 切り札だと?」

 

  訝しげな表情で彼女を見つめる。

  だが、ありえなくはない。彼女ほどの強者なら、それぐらいは用意しててもおかしくはない。

  自然と体に力が入り、刀を強く握りしめる。そして、いつ何が起きても、阻止できるように警戒した。

 

「混沌の時が終わる」

 

  依姫が言霊を紡ぎ出す。

 

「させるかよ! ……のわっ!?」

 

  それを中止させるべく、【雷光一閃】で斬りつけようとするが、突如砂の地面が伸びてきて、硬化した柱と化し、俺の腹をぶっ叩いた。

  それに悶絶し、俺は動きを止めてしまう。

 

  そして気づいたときには遅く、もう手遅れだった。

 

「【伊邪那岐(イザナギ)】よ、【伊邪那美(イザナミ)】よ。形無き大地に、今一度天地開闢を巻き起こせ!」

 

  辺りに光が満ちていくと同時に、彼女の周りの砂が液状化していく。

  そして一瞬の嵐が巻き起こり、彼女以外の全てを吹き飛ばした。

 

「二柱を……神降ろし……だと?」

「ええ、ウロボロスに敗れた私が、死ぬ気で身につけた技よ。名付けて……【二重神降ろし(ダブル)】かしら?」

 

  神々しいオーラを纏った依姫が、初めて笑った。

  その笑みは、とても冷たく、人間味を感じさせなかった。

 

「さあ、この戦いの幕を閉じましょ?」

 

 

 




「最近スマホゲームでコラボが多くて手が回らない。そして迫り来る宿題。そして眠い。なんか夜逃げしたくなってきた……作者です」

「というか、もちっと早く寝ろよ。学生で睡眠時間がガチで四時間以内なのはヤバすぎるぞ。狂夢だ」


「とうとう神楽が神降ろししたな。てか、信仰心に欠片もないのに、なんでできるんだ?」

『そりゃ、一応の可愛い子孫のためなら人肌脱ぐのが大人だろ?』

「おわっ!? って、楼夢か……脅かすなよ」

『スマンスマン。それで、神降ろしの原理は巫女が祈って、それを神が了承するだけで成功するんだ。つまり、その気になればどこの誰も知らない奴に力を与えることもできるってわけだ』

「なるほどな……まっ、自分の力を知らない誰かに貸す奴はいないから、信仰心が必要なんだな」

『そういうこった。お前も神なんだから、ちゃんと勉強しろよ』


「……私の説明コーナーが……奪われた……」

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