東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

143 / 292

私に幸あれ

彼女に幸あれ

君に幸あれ

そう、打ち上げ花火に願った


by宇佐見蓮子


秘封倶楽部最後の夏

 

 

  月の都旅行から、1年と数ヶ月。

  俺たち秘封倶楽部は、四年生へとなっていた。

 

  ジリジリと、激しい日差しがサークル部屋に差し込む。今は8月、夏の真っ最中だ。

  手で風を扇いでいると、机に突っ伏している少女が発言した。

 

「そういえばさ、明日夏祭りでしょ? みんな予定ある?」

「俺はねえな。メリーは?」

「私もよ」

 

  俺の問いかけとともに、もう一人の少女が答えた。

  二人の名は発言順に、宇佐見蓮子と、マエリベリー・ハーン。通称メリー。

  不良サークル、秘封倶楽部のメンバーだ。

 

「それじゃ、決まりだね! あー、花火楽しみだなぁ」

 

  蓮子が、待ちきれないという表情で、夏祭りのパンフレットを眺める。

 

  このサークルは、相変わらず何も変化がない。

  新しくサークル入りしてくる人間も皆無だ。世間一般ではうちのサークルはオカルトサークルとして認定されているので、誰も近寄ろうとはしない。

  もっとも、それが心地よいのだが。

 

  「ねえねえメリー! 明日何着てこよっか?」

「え、普段の服装でいいんじゃないの? ねえ、楼夢君?」

「いや、俺も二人の着物姿は見てみたいかな」

「ほらほら。楼夢君もこう言ってるし」

「わ、わかったわよ。幸い、着物なら持ってるし、明日だけなんだからね!」

「そういえば、楼夢君は何着てくるの?」

「俺は普段着だな」

 

  人に言っておいて難だとは思うが、これも仕方ないと思う。

  なぜなら、俺の家には着物なんざ、全て女用のしかないのだ。昔だったら違和感はないんだが、今となっては無理である。

  金欠の問題で、新しいのを買う余裕もないしな……今度剣舞でもやって金稼ぐか。

 

「えー、もったいない! もう女用のでもいいから着ちゃおうよ!」

「俺が周りから白い目で見られるわ! ……なっ、メリー?」

「あら、いいんじゃないかしら? とってもよく似合いそうよ?」

 

  なん……だと……?

  仕返しが成功して、メリーは満足そうだ。隣では蓮子が笑い転げている。

 

「とにかく、俺は絶対に着ないからな!」

「うーん、残念。じゃあメリー。例の()()、明日やっちゃいなよ?」

「え、ええっ! まだ早いわよっ!」

「遅い遅い。そんなんじゃ手遅れになっちゃうよ?」

「ん? なんの話だ?」

「楼夢君はわからなくていいからっ!」

「お、おう……」

 

  ちょっと聞こうとしたら、ものすごい勢いでメリーに却下された。

  俺、怒らせるようなことしたかなぁ……?

  蓮子を見てみるが、彼女は怪しく微笑むだけだ。

 

 

  その後、明日の待ち合わせを決めて、俺たちはそれぞれ帰路を歩いていった。

 

 

 ♦︎

 

 

  そして後日、ちょうど日も落ちかけるころ、俺は祭りの近くの駅で待ちわせをしていた。

  周りも、普段より盛り上がっており、あちこちで着物姿の女性や浴衣姿の男性が見られる。

 

「ごめんなさい楼夢君。待たせちゃったかしら?」

 

  ふと、後ろから声をかけられた。

  振り向くと、そこにはメリーが、紫をベースの、赤い花が描かれた美しい着物を着ていた。

 

「……」

「えーと、やっぱり変かな?」

 

  思わず見とれてしまっていると、メリーが不安そうな顔で俺を覗き込んできた。

  いかんいかん。どうやら何も喋らなかったことを、似合ってないと捉えてしまったようだ。ここはちゃんと褒めないと。

 

「その……だな。似合ってるぞ」

「っ! あ、ありがとう……!」

 

  お互い赤くなってしまい、会話が途切れてしまった。

  気まずい……。こういう時に、なんて話せばいいんだろうか。

  とりあえず、頭に思いついたのを適当に言ってみることにした。

 

「そういえば蓮子は相変わらずだな」

「そうね。時間を見れる能力があるのに遅刻するなんて、不思議よねぇ」

「……っと、言ってるそばから、来たようだな」

 

 俺はメリーにもわかるように、人混みの中の一点を指差す。

  すると、今度は黒い着物を着た少女が、急いで駆けつけているのが見えた。

 

「ごめーん遅れた! でも、今日はいつもよりは早かったでしょ?」

「五分遅れの時点で早いとは言わねえよ」

「まあまあ。こう見えて、蓮子さんもかなり気合を入れて来たから、今回は許してよ」

「それで許されるんだったら世の中苦労しないわよ」

 

  俺とメリーの毎回似たようなツッコミが彼女に炸裂する。

  とはいえ、それでへこたれるような蓮子メンタルではない。

  いつも通りに、話題をそらそうとしてきた。

 

「楼夢君、本当に普段着で来たんだね。おまけにそんなバッグまで背負って。ちょっと羽目を外すつもりはないの?」

「刀を持ってた方が安心すんだよ。それに、いざという時に必要になるしな」

  「まあいいじゃない。それよりも、みんな揃ったことだし、そろそろ行きましょ?」

 

  俺たちは駅を出ると、祭りの開かれる公園へと歩いていった。

 

 

 ♦︎

 

 

「そういえば、祭りに来たのは久しぶりだな」

 

  屋台などで賑わう人混みの中で、ふと呟く。

  あれは、いつだったか。兄である白楼がダダをこね、仕方なく祖父が連れ出してきてくれたのだ。

  思えば、あの時は楽しかった。なので、今日も楽しくあるように、切に願う。

 

「私たちも久しぶりといえば久しぶりかしら? 前に行ったのは、大学最初の夏だし」

「そうそう。メリーがふらふらと迷子になるもんだったから、探すのに疲れたわぁ……」

「ち、違うのよ! あの時はまだ人混みに慣れてなかったというか、なんというか……っ」

 

  いや、その発言はもうボッチだったの確定じゃん。

  だが安心しろ。ボッチ歴だけなら俺も負けないからな!

 

「大丈夫よ。私も大学来るまでボッチだったし」

「ボッチボッチって。ここはボッチの集まりかよ……」

「それは違うよ。だって今はボッチじゃないでしょ?」

「れ、蓮子……」

「なんか、かっこいいお前見たの久しぶりだな」

「私はいつもかっこいいよ!」

 

  へいへい。

  適当に蓮子の自画自賛を流した後、俺たちは談笑しながら屋台を見て回る。

  すると、香ばしいジューシーな香りが俺の鼻をくすぐった。

  横を振り向くと、そこには『焼きそば』と大きく書かれた看板が。

  そしてそれにいち早く食いついた人物が一人。

 

「あ、焼きそばだ! 私一つ買ってくるね!」

「俺の分も頼むぞ。金は後で払うから」

「がってん承知! メリーは?」

「私はいいわ。あまり食べれないし」

「わかったわ。それじゃあ行ってくるから、適当に()()ぶらついといて!」

 

  やけに()()を強調しながら、蓮子は屋台に向けて走り去っていった。

  さて、残された俺たちもどっかに行きましょうか。

 

「あの、楼夢君。金魚すくいでもやらない?」

「ああ。メリーがやりたいのなら、それにしようか」

 

  そして歩き回ること数分で、金魚すくいの屋台を見つけることができた。

  看板には一人一回百円、か。

  俺は店員に二百円を手渡した。するとメリーが、あたふたと慌てる。

 

「ろ、楼夢君、お金ならあるから、私の分まで払う必要は……」

「そんなの関係ねえよ。俺がメリーに満足してもらいたかった。それだけだ」

 

  店員に渡された、二人分の和紙が張られたすくいの一つを彼女に手渡す。

  そして、遠慮するなというように、微笑んだ。

  それで彼女も罪悪感が消えたのか、嬉しそうに返事をすると、水槽に向き合った。

 

  さて、唐突だが、金魚すくいとは戦争である。

  ここの祭りの金魚すくいでは必ずどデカイ金魚が一匹おり、常に残っているのが常識。……だったと記憶している。

  さて、言わなくても、俺が何を狙っているのかわかっただろう。

 

  精神統一。

  狙うは、ギロリと大きな目玉で睨みをきかせる、この祭りのラスボス。

  メリーが隣にいる以上、下手は打てない。

 

「今だっ!」

 

  気合一閃。

  俺の振るったすくいは、常人に見えない速度でボス金魚に接近していきーーその風圧で、和紙がバリバリと破れ落ちた。

 

「……」

「……ぷふっ」

 

  思わず笑いを零した店員を睨むと、横でメリーが、

 

「やったぁ! 見て見て楼夢君! いっぱい取れたよ!」

 

  数十匹の金魚を袋に閉じ込め、ジャンプしている姿が映った。

  しかも、何気に俺が狙ってたボス金魚がもう一つの袋に入れられている。

 

  ……なんかもう、泣きたい。

 

「あれ? 楼夢君は取れなかったの?」

「あ、ああ。俺にはどうやら向いてなかったようだな」

「そっかぁ。じゃあ、次に行きましょ?」

 

  それから先は、上機嫌になったメリーに引き連れられて、色々な屋台を回ることになった。

 

  射的ーー俺は飴玉を二つ、メリーはぬいぐるみがそれぞれ賞品としてもらえた。

  結果は……うん、飴玉の時点で察してくれ。それをごまかすために、メリーに飴玉を渡しておいた。

 

  千本引きーー普通なら絶対に当たらないやつだ。俺もその例に漏れず、紐を引いたが残念賞をもらう結果になった。

  だがメリーは、四等の図書カード何千円分をもらっていた。

 

  その後もいろいろなものに挑戦したが、俺はいい結果が得られず、逆にメリーは大戦果を上げることになった。

 

「ふふっ」

 

  ふと、メリーが俺の顔を見て笑い出した。

  お願い、メリー! 俺の傷を抉らないで!

 

「ん、どうした?」

「ふふっ、ごめんなさい。いつもは完璧に見える楼夢君にも、苦手なものがあると知れて嬉しいの」

「……俺が完璧に見えるって……。俺は逆に欠点だらけだよ」

「それでも、私にとって楼夢君は強いよ。いつも怖がらず、巨大なものに立ち向かって、私たちを……私を、守ってくれてる……」

「……」

 

  それからしばらく、俺たちの間に言葉はなかった。

  やがて、公園の坂を登った先にある、展望台の外れにたどり着く。

  ここは偶然見つけたのだが、周りに人もいないので、この後に打ち上げられる花火を見るには絶好のスポットだろう。

 

「ねえ、楼夢君。大学を卒業した後、貴方はどうするの?」

 

  夜空を見上げていると、ふとメリーにそう尋ねられた。

  卒業後か……そんなの決まってる。

 

「どうもしねえさ。あの神社を今まで通り管理して、滅びを待つ。それが俺の……宿命だ」

 

  メリーはどうなんだ。と、言葉の後に付け足す。

  彼女は少し悩んだ後、

 

「私は……父の後を継ぐのかもね。前にも言ったけど、私は外国の大企業の社長の一人娘なの。まあ、別にそれが嫌ってわけじゃないから、いいんだけどね」

「そうか……蓮子はどうなんだ?」

「彼女は物理学者になりそうね。この世の神秘を追い続けてそうだわ」

「ははっ、それはメリーにも当てはまりそうだな。表面上は仕事してても、裏でこの世を追い求めてる光景が目に見えるぜ」

 

  それに、幻想から逃げることもできないからなーーとは、言わなかった。

  彼女たちの能力上、どうしてもこの世の神秘を見てしまう。その度に、彼女たちはそれを探求するのだろう。

 

「滅び、か……」

「……楼夢君は、寂しくないの?」

「……正直言うと、寂しい。できればこのまま永遠に、なんて何度思ったことか」

「だったら……だったら……っ」

「メリー……?」

 

  突如、彼女の様子がおかしくなった。

  小刻みに震え、顔を下にうつむかせている。

  その状態で何かを口に出そうと、必死になっていた。

 

  花火が、空で煌めいた。

  それに合わせて、彼女はあらん限りの声でーー

 

 

「私と、付き合ってくださいっ!!」

 

  ーー告白の言葉を、叫んだ。

  一瞬、思考が放棄される。呆然としてしまう。

 

「……え?」

「神社の件も私がなんとかするから、私についてきてください!」

 

  彼女の顔を見る。

  泣きそうになりながら、必死に俺へと声を届けている。

 

  ああ、本気なんだなぁ。

  思考が戻ってきたころ、俺はそう悟った。

  ならば俺がすべきことは一つだろう。

 

「あのな、メリー……すまんが、言わせてくれ」

「……っ」

 

「愛してる、メリー」

「……うんっ!」

 

  メリーは俺に体を預け、俺は彼女を包み込む。

  そして、俺たちはしばらくの間、抱き合った。

 

  ああ、暖かい。

  これが、幸せなんだな。

 

 

  っと、そこに声がかけられた。

 

「ヒューヒュー! おめでとう、メリー、楼夢君!」

「……」

「……」

 

  ヒュルルルルー。

  冷たい風が、俺たちの間を通り過ぎた。

  この場の温度も、心なしか下がってきている。

 

  さて、俺たちから言うことは一つ。

 

「「空気読めよこの馬鹿蓮子ぉぉぉぉぉ!!!」」

「ひぃぃぃ! しまった、逃げろぉ!」

 

  この後、しばらくの間、俺たちの鬼ごっこは続いた。

 

 

 

 ♦︎

 

 

  その悪意は、祭りの中に潜んでいた。

  人間たちの、妖怪への恐怖。それが消えた世界で、悪意は復讐を誓っていた。

 

  妖怪を恐れなくなった人間が憎い。

  妖怪を忘れた人間が憎い。

  そして、それを受け入れたこの世界が憎い。

 

  悪意は、眼下の光景に目をやる。

  珍しい光景だ。昔では。

  夜の道に、屋台を大量に出し、明かりを灯して、無防備に歩き回る。

 

  今こそ、真の夜の支配者が誰なのか、教えてやろう。

 

  悪意は、姿を変え、人間たちの中に紛れ込んだ。

  そしてそれが、後に起こる大量殺人の引き金となる。

 

 






あとがきコーナーはしばらく休業します。

理由:下記二人の欠席


白咲狂夢:こたつから出れなくなった。

作者:寝込んでます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。