東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
出会って、別れて、また出会う
そしてまた、世界が足されていく
それらは全て、私の宝物
だから言うんだ
「さようなら」、「また会える日まで」と
by白咲楼夢(神楽)
死んだように静まる夜の中。
一人の男が、二つの墓の前に立っていた。
「……こんな粗末なものしか作れなくてごめんな」
墓と言っても、男の言う通り、それはお粗末なものだった。
木材を使って作られた十字架を、土に突き刺しただけ。
その十字架には、帽子と、青い宝石のネックレスがそれぞれにかけられている。
土の下は、全財産叩いて買ってきた棺が埋まっていた。
そう、二人の、メリーと蓮子の棺だ。
「……っ。なんでなんだ……? なんで、こんな目に会わなくちゃならなかったんだ? ちくしょう……ちくしょぉぉぉ!!」
あまりのやるせなさに、拳を振り回す。それが、近くの木々に当たり、幹からへし折られた。
やがて、疲れたのか、息を切らしながら、木片が突き刺さった拳を収めた。
そして、一言、つぶやく。
「……帰ろう。ここにいても、俺が知りたい答えは手に入らない」
墓に背を向け、体を引きずるように歩き出す。
ここは、白咲神社が建てられている山の外れにあるところだ。本来なら遺体は彼女たちの家族に渡すべきなのだが、楼夢はどうしてもここに墓を建てたかった。
やがて、境内にたどり着く。
と、そこで、複数の気配が隠れ潜んでいるのに気がついた。
数人ではない。数十、下手したら三桁あるかもしれない。
ーー意外に早いじゃねえか……。
「総員、構え! 白咲楼夢! 貴様を大量殺人犯及び核兵器使用の疑いで逮捕する! 大人しく投降しろ!」
こうなることは、ある意味予想通りで、予想通りではなかった。
楼夢の目の前には、強力な現代兵器をいくつも装備している特殊部隊の姿があった。
楼夢はあのとき、霊力の暴走によって祭り会場の公園を欠片残さず消滅させた。彼らの言う『核兵器』とは、おそらくこのことを指しているのだろう。
だが、もう一つの方はおかしい。
大量殺人犯? 俺が? 大切なものを守ろうとしたこの俺が、殺した?
いいや、違う! 襲ってきたのは、他の人間だ!
あれ、でも彼女たちを殺したのは妖怪……?
彼女たちを殺したのは妖怪? それとも人間?
妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪? 人間? 妖怪?
……なるほど、ようやく理解した。
「……のせいか……!」
「……?」
俺がこうして傷つくのも、彼女たちを殺したのもーー
「全部、お前らのせいかァァァァ!!!」
「ひっ……ガハッ……!」
音速を超える断罪の刺突が、特殊部隊の一人をたやすく貫き殺した。
血走ったような目と狂気に特殊部隊は呑まれていく。
その中、楼夢は己の出した解を叫んだ。
「人間? 妖怪? どっちが悪い? ……くだらねえ! どっちも悪いに決まってんだろ!? 人も、妖怪も、救いの手すら差し伸べねえ神々も! 全てが全て罪! 存在そのものが罪なんだ!!」
一言喋るごとに、一人、また一人と黒刀の刃の手にかかっていく。
そこでようやく、最初に口を開いた隊長が冷静さを取り戻し、指示を出した。
「う、撃て! 撃てェェェェェ!!!」
それを合図に、凄まじい音と銃弾の嵐が、楼夢の体をえぐった。
だが、それすらも強引に突き破ると、再び手にした黒刀を横に振り、隊員たちを数名、両断した。
「ばっ、馬鹿な……!?」
「もう失うものは何もない。何もないんだ。だったらよ……いっそ派手に殺ろうぜ!?」
鉛の嵐が、楼夢の体をえぐり続ける。
いつもなら簡単に弾けるこの攻撃を、楼夢はわざと避けなかった。
まるで、断罪の雨をその身に受けるかのように。
「ひっ、ひぃぃぃ……やめっ……!」
「あ、あぁ……ぁぁぁぁぁ……!!」
そして、頑丈な防具を身につけたはずの隊員たちが紙のように一撃で真っ二つにされるのを見て、全員が恐怖に陥っていた。
その中で、楼夢は笑う。
復讐対象が恐怖で動けないのを楽しむように。
「アハッ! アハハハハッ!!」
楼夢は避けない。隊員は避けれない。
三桁に届く特殊部隊は、わずか数分でその数を半数以下に減らしていた。
「撃て!撃て!撃てェェェェェ!!!」
「あああああああ!!!」
「もうやめてくれェェェ!!!」
今まで見たことのないほどの戦友たちの呆気ない死に様に、半狂乱になりながら、銃を振り回し乱射する。
例えそれが誤射になって他の戦友たちに当たっても、彼らは止まることはできなかった。
ーー見たか、世界よ。貴様もいずれ壊してやる。俺たちを受け入れない世界なんざに、用はない!
一つ魂を断罪するごとに、快感がみなぎる。
だが、隊員の数が減るにつれて、楼夢の体も動かなくなってきていた。
当たり前だ。数百数千の弾丸をその身に受けて、長く立っていられるものなど妖怪だけだ。
そして、彼は妖怪でもない。神でもない。
それら全ての血が混ざった
「アッハハハハハ!! 死ね!!」
そしてとうとう、最後の一人、もとい特殊部隊の隊長の腹に、断罪の槍が突き刺さった。
だが、彼は遠のく意識の中、必死にスペアのハンドガンを握りしめ、その銃口を楼夢の額に当てる。
最後に隊長が見たのは、銃口を払わず、ひたすら笑い続ける悪魔の姿だった。
「死ぬのは……お前、だ……っ!」
「……キヒッ」
パァンと、銃声が短く鳴った。
頭を撃ち抜かれ、その衝撃で吹き飛び、鳥居に背中をぶつける。
もう思考すらできない。だが本能は、まだ己の未練を訴えていた。
「まだ……復讐し切れてない……まだ、終わってない……!」
地面を這いながら、衝撃で手放した刀を握り、必死に立ち上がろうとする。だが、体は限界で、立ち上がったところで崩れ落ちた。
ーー駄目、か……っ。
そこでようやく、彼は自分の死期を悟った。
そして目を閉じようとしたそのときーー
ーー突如、耳にピアスとして付けられていた【時狭間の水晶】が、輝きだした。
薄れゆく意識の中、楼夢は願った。
ーー力が欲しい。圧倒的な力で、全てを守り通せる力が……!
ーー力が欲しい。圧倒的な力で、この世の全てに復讐する力が……!
守ると壊す。
矛盾した二つの願い。
だが、水晶はそれを叶えた。
水晶が砕け散り、淡い光を放出する。
その光は鳥居に集中すると、そこに隠された巨大なスキマをこじ開ける。
体が、吸い込まれていく。
自分の体が浮き上がり、吸い込まれていくのがわかる。
そして、真っ暗闇の中に入ると、今度は落下しながら、体が分解されていく。
溶けていく。溶けていく。
腕が、足が、全てが光の粒子となって消えていくのがわかる。
ーーああ……死ぬのか……。
そして、『人間』白咲神楽は完全に消え去った。
だが、その光は二つに分かれると、再構築されていく。
そして、完全に体が生成されるとーー
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「……知らない天井だ。いや、天井なんてないか」
見知らぬ森の中、狐耳と蛇のような尻尾をつけた女性のような男性が立ち上がった。
そして、そこから、『妖怪』白咲楼夢の物語が始まった。
本日は二本同時投稿です。