東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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俺は救えて、お前は救えなかった

俺たちの違いなど、その程度だ


by白咲楼夢


欠片の記憶

 

「ーーと、これが全ての真実だ」

 

  空に浮く巨大なビルの廃墟。それの上で、白い男ーー狂夢は語った。

 

「俺が創った【時狭間の水晶】の能力は一つ。膨大な力を代償に、時空を操作する能力だ。そしてあの神社には、メリーの言っていた通り、巨大な境界が隠れていた。……あとはどうなったか、わかるな?」

 

  なるほどな……。水晶が呼び戻したのは時代。あのでかいスキマを経由して、神楽を太古に送ったのか。

 

 じゃあ、なんで神楽は彼女たちを救わなかったんだ?

 

「あいつのプライドだよ。廃病院で、神楽が言ってただろ? 『生き返らせない。その代わり、憎む』と。言葉通り、あの瀕死の間際であいつにその考えは浮かばなかった。ただ、それだけだ」

 

  狂夢は「つまらないやつだ」と呟きながら、一歩、一歩と近づいてくる。

 

「命が散るとき、そこに一瞬膨大な力が発生する。確か、火神が昔に言っていたはずだ。それに反応して、水晶は神楽の願いを叶えた」

 

  『守ると壊す』か……。

 

「ああ、対極だ。時空を移動する反動で神楽は分解され、代わりに二つの存在が創り上げられた。一つは守る存在。白咲神楽が望んだ、守り通せる力を持つ、理想的な存在。それがお前だ」

 

  神楽の、理想。

  実感はない。自分が完璧な存在だと思ったことも、理想的な存在だと思ったことも一度もないからだ。

 

  狂夢は、続ける。

 

「対して、もう一つは壊す存在。神楽が望んだ、あらゆるものを破壊する復讐者。それが俺」

 

  ……だけど、俺にはそんな自覚ない。むしろ壊してる方が多いと思う。

 

「守ったじゃねえか。八雲紫を、西行妖から」

 

  だが、結果的に俺は死んだ。それに幽々子を……守れなかった。

 

「だが、守った。西行妖を封印していなければ、幽々子も吸収されていた。それに、あいつは今冥界の管理人だろ? 会おうと思えばいくらでも会える。失ったものなんて、ちっぽけなものだけだ」

 

  ……虚しいやつだな。

 

「ああ、虚しい。俺も、お前も、あいつも。お前は自分を貫き、命を貫かれた。俺は力を得たが、それを振るう相手は見つからない。あいつは結果的に、守護者にも、復讐者にもなれなかった」

 

  ……今俺の部分、上手いこと言ったと思っただろ。

 

「……否定はしない。だが、そんな冗談が言えるのなら、問題ねェみたいだな」

 

  当たり前だ。俺は俺。あいつはあいつ。無関係なやつのこと言われた程度で揺らぐほど、俺の六億年は脆くねえぞ。

 

「……ふっ、さすがだな。だから、あいつは憧れたんだろうな」

 

  どこか遠い目をして、再び狂夢は呟いた。

  そして、地面を足で叩く。すると、人の大きさほどのクリスタルが、下から浮かび上がってきた。

 

「そいつはお前の過去のしがらみそのもの。今なら切れるはずだ。切って、お前という存在を神楽から決別させろ」

 

  ……とても頑丈そうなクリスタルだ。

  だが、切れそうな気がする。……いや、切れる。

 

  腰に、愛刀の姿も、それ以外刀もない。

  だが無手で俺は、居合切りの構えをとった。

  そのまま、心を無にして、()()()引き抜く。

 

「やぁっ!!」

 

  手から伸びた、光の刀が、クリスタルを一閃。

  一拍置いて、両断されたクリスタルの上半分が、ズルズルと滑り、砕けた。

 

「……これは?」

 

  俺の視線は、手に持った光の刀に注がれていた。

  暖かい。

  まるで、今までずっと使ってきたかのように、手になじむ。

 

「そいつはお前自身の心の刀。強い意志によって形作られる心刀。名付けて……【神理刀】だ」

「……ずいぶん今までの刀と名前の系統が違うじゃねえか」

 

  【黒月夜】とか【舞姫】とかだったのが、いきなりどうした?

 

「名前はどうでもいいんだよ。それにそいつは刀の形をした、心の意志だからな。強度も切れ味も、持ち主の意志によって増減する」

「……いっけんただの妖力刀に見えたが、そんな違いがあるのか……」

「しばらくはそいつを使え。いや、俺の予測では、お前は嫌というほどこいつを使うことになる」

「……? 確かに【舞姫】の代わりには便利だが、別に術式があるから大丈夫じゃねえか?」

「じきにわかる。そして、一刻も早く【舞姫】を手に入れ、西行妖を今度こそ滅せ。そいつは刀でもあり、鞘でもある。二つの刀が合わされば、さらなる力が手に入るだろうよ。……ほれ、もう時間だ。そろそろ現実に戻れ」

 

  言われて、自分の体が光を発しているのがわかる。

  ……まだまだ聞きたいことが山ほどあるんだがな。

 

「最後に聞かせてくれ。お前の性格や髪は、もしかしてーー」

「ーー白楼を真似ているのか、って言いてェのか? 半分正解で、半分ハズレだ。そもそも、この口調やらは神楽が白楼を真似ていたもの。つまり、俺は『神楽が憧れた白楼』の姿と強く結びついてるだけだ」

 

  なんだ……俺とは別で、お前にも『お前自身』があったのか。

 

「当たり前だ。俺は俺。神楽も白楼も関係ねェ。俺はこの力で、やりたい放題に生きていくだけだ」

「そうかよ。せいぜい、誰かに背中を刺されないように気をつけな」

「はっ、そんなのがいたら面白そうだな」

「言ってろ」

 

  ……意識が、遠のいていく。

  視界が、光に包まれていく。

  水に沈むような感覚。

 

  そして俺は、意識を手放した。

 

 

 

 ♦︎

 

 

  そうして俺は、あぐらをかいて寝ていた状態から目覚めた。

  ……水中の中で。

 

「ブババハファ!?」

 

  驚きすぎて、水が口の中に流れ込んでくる。

  どうしてこうなった!? いや、そんなことよりもここを脱出しなければ!

 

  必死に泳ぎ、水面へと上がっていく。

  そして顔を出すと、そこには見覚えのある建物が見えた。

  ……ああ、あれは俺がいつも泊まっている宿だ。俺は【混沌と時狭間の世界】に行く前は室内で瞑想していたので、ここの鍵を持っているのは一人しかいない。

 

  俺は背中から妖力で作られた黒い翼を広げ、容疑者の元へと飛び立った。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「映姫ィ、どういうことだ!!」

 

  いつも通りのライダーキックを扉にブチかまし、白黒の部屋へと押し入る。

  そして、その奥で休憩中の少女に怒鳴った。

 

「……やっと来ましたか」

「やっと来たじゃない! 俺になんか恨みでもあんの!?」

 

  全く悪びれる様子のない四季映姫こと四季ちゃん。

  おい……お兄さん少しキレちまったよ。

 

  続いて文句を言おうと思ったが、彼女が手にしている(しゃく)が震えていることに気がつく。

  そこでようやく、俺は室内が危険な空気に変わりつつあることを感じた。

 

「『恨みがあるのか』ですって? ……ええ、ええ、恨みならいくらでもありますよ。これであなたをハエのように叩き潰せたらどんなに気持ちいいか」

 

  彼女が持つ笏の名は【悔悟棒(かいごぼう)】。あれに名前を書くと、その人物の罪に応じて重さが変わり、叩く回数が表示されるらしい。いわゆる、閻魔用のお仕置きグッズだ。

  ちなみにちょっと前、地獄の財政が厳しくなった事を理由に行われた『地獄のスリム化』から、彼女はエコに気を使っているようである。

  昔は悔悟棒も一人一個の使い捨てだったのだが、今では名前を消せる素材に切り替えたようだ。

  ……改めて思うと、夢がねえな、地獄って。こんなブラック企業に勤める気になったやつはすげえな。

 

  かわいそうに、きっと昔からこんなとこで働いたせいで身長が……。

 

「前にも同じこと言いましたよね!?」

「ゴベラッ!?」

 

  相変わらず、強力なボディブローだ……。

  君、僕と契約して日本一になってみないか?

 

「最終的に裏切られそうなセリフ吐かないでください!」

「モンブランッ!!」

 

  今度は跳び上がってからのジャンピング悔悟棒スマッシュが、俺のほおに炸裂した。

  ちなみに、わざわざ跳んだ理由は、彼女の身長が届かなかっただけである。

  それもそのはず、俺は165よりちょっと上程度。対して彼女は140程度だ。

 

「だから身長の話はするなって言ってるでしょう!?」

「モギュラッ!? あ、足が……っ! ちょっとそれシャレにならねえぞ!?」

 

  誰かの名前が書かれた数キロの悔悟棒が、足の指あたりに突き刺さった。

  やばい……本当にこれは折れただろ……。感触でわかった。

 

「いえ、幽霊は痛みを感じても、骨は折れないのでご心配なく」

「あ、そうか。俺今死んでんだっけ?」

「……数百年ここにいて、よくそんな大事なことを忘れられますね。呆れるを通り越して感心しますよ」

「えっへん」

「褒めてるんじゃない!」

 

  お、今度は叩かれなかったな。

  どうやら、さすがの四季ちゃんでも、ここまでツッコミを入れれば疲れるらしい。現に、息を切らしているのを隠そうと、心を落ち着かせようとしているのがわかった。

 

「それで、話は戻すけど四季ちゃん。なんで俺を庭の池に沈めたんだ?」

「今から数十分前、巨大な力の波が辺りを襲いました。駆けつけてみると、その中心にはのんきに畳の上で瞑想しているあなたの姿が。幸い、水に沈めると波が外に発生しなくなったので、あのまま放置したわけです」

「いや、人を水に沈める発想が怖いよ」

「ちなみに、実行犯は小町です」

「あの野郎……今度会ったら胸揉み倒してやる」

「そして、それを命令したのは私です」

「結局四季ちゃんが悪いのかよ!?」

 

  なに自分は悪くないアピールしてんのこの人!?

  場合によっちゃ、実行犯よりもタチ悪いぞ。というか、それで弾除けに使われる小町がかわいそすぎるだろ……。

  「胸揉み倒す方がよっぽど酷いのでは……?」とかいう声は聞こえない。

 

  とはいえ、俺の方にも問題があったため、両者の非を認めさせた上でお咎めなしにしてもらえた。

  彼女は白黒はっきりつけたかったようだが、そんなことで後々争っても困るしね。

 

「でも、いいところに来ました。今日が何の日かわかりますね?」

「もちろん。四季ちゃんの誕生日だろ?」

「ぶん殴りますよ?」

「マジすんませんでした」

 

  とはいえ、本当に何の日かわからないぞ。

  特に変わったイベントもないし……まあいっか。

 

「それで済ませるな! 蘇生ですよ蘇生! あなたはとうとう生き返るんです!」

「……そいつはマジだな?」

「ええ。そのための術式陣もすでに起動済みです。あとはあなたが乗れば、復活することができます」

 

  ついに来たか。

  やっと。やっとだ。俺の家に帰れる。

  ここでの暮らしも悪くなかった。だが、やはり娘たちが俺にとっては何よりも心配だ。

  それに、紫。

  夢の手助けはしたんだ。お前の理想郷、見せてもらうぞ。

 

「映姫。今すぐ俺をそこに連れてけ」

「いえ、それには及びません。なんせ陣を張ったのはーーこの部屋ですから」

 

  ダンッと映姫が床のタイルを踏みつける。

  すると、まばゆい光とともに、丸い魔法陣が床に刻まれた。

 

「おっと、もう旅立つのかい? 寂しくなるねぇ」

「小町! あなた仕事はどうしたのですか!?」

「ほれ、アレですよアレ。友人の旅立ちを放っておくわけにもいかないでしょう?」

「はぁっ、全く……今回だけですからね」

「よっしゃ!(やっぱここに逃げてきて正解だった!)」

 

  おい、心の声漏れてんぞ。

  俺でも聞き取れたんだから、当然四季ちゃんには……。

  この後、手痛くお仕置きを受けるんだろうなぁ。

 

「まっ、見送りには感謝するさ。あばよ、二人とも!」

「あ、待ちなさい! まだ復活する際の重要な問題をーー」

 

  後ろを振り向かず、陣に飛び乗る。

  すると、溢れ出した光が俺の体を包み込んでいく。

 

  四季ちゃんが何か騒いでいる気がするが、勘違いだろう。

 

  直後、光が激しさを増しーー俺は地獄から旅立った。

 

 

 

 





「というわけで、メモリー・オブ・フラグメンツ編終了しました! 作者です」

「こうしてみると……長ェな。よく過去編がここまで伸びたもんだぜ。狂夢だ」


「ふぅ、疲れました……。今章では全編で張り巡らされた全ての伏線を回収できたと思います」

「まっ、お疲れさん。よくクリスマス直前で縁起悪い話が書けたもんだぜ」

「い、いえ、決してリア充が憎いという理由ではなく、前々からこうなる予定だったんです!」

「まっ、作者はイブもクリスマスも両方カラオケだもんな? 今回ばかりは本当にボッチにならなくてよかった」

「集まる人たちは全員クリボッチですけどね……」

「……お前、悲しいな」

「お前に言われたかないわ!」

「とまあ今回はここまでにして。次回は今章のキャラまとめだ。それが終わったらいよいよ新章だぜ」

「それでは新章も、キュルッと見ていってね!」

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