東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:日差丸
私は知ってるだけで、覚えていない
本の文字だけ覚えて、物語を覚えてないようなもの
ただそれだけが、私と彼との大きな違い
by白咲楼夢
墓参り、という言葉がある。
主に先祖の墓を拝むという意味の言葉だが、先祖でなくても墓参りということもある。
白咲神社の外れ。
そう、目の前には、立派な墓標が
両サイドの墓には帽子と首飾りがかけられていたが、真ん中のものにはそれらが何もない。
三つの墓には、こう刻まれていた。
ーー宇佐美蓮子、ここに眠る。
ーーマエリベリー・ハーン、ここに眠る。
そして、ーー白咲楼夢、ここに眠る。
「全く……ご丁寧に墓なんて建ててくれちゃって。柄じゃないでしょうに。ーーねえ、岡崎」
「……楼夢」
笑いながら振り向くと、そこには白咲神楽の、そして秘封倶楽部顧問である岡崎が立っていた。
彼女はまるで信じられないものを見たかのように、私を凝視している。
ふむ、神楽が岡崎に会ったのは髪を切ったあとなので、私と彼を結びつける理由にはならないはずなんだけど……。
あっ、そういえば岡崎は東京でのレポートで神楽の巫女姿の写真を見ていたっけ。納得、納得。
「おっと、言い忘れてたけど私はあなたの知る【白咲楼夢】ではないよ。それとは別の存在だと思ってくれてもいい」
「……それでは貴方は何なのかしら?」
「白咲楼夢。六億年前より存在する大妖怪であり、白咲神社の神でもあるよ。以後よろしく」
そう言ったあと、少々キザなポーズを決めて礼をした。
相変わらず、岡崎は奇怪なものを目にしてるようにこちらを見ている。
……いや、私って妖怪だから、奇怪なもので合ってるのか?
「私の教え子の楼夢とはずいぶんと印象が違うのね?」
「いや、喋り方を戻せばーーこれでいいだろ、岡崎?」
「っ! 嫌なもの見せてくるじゃない……!」
声のトーンを低くして、蘇生前の私の声に戻してみたけれど岡崎には嫌われてしまったようだ。
まあ、そりゃそうか。自分の教え子のドッペルゲンガーらしきものが目の前にいれば、誰だって嫌な気分になる。私だったら絶対殺してるし。
だけど、今回は嫌われて恐怖を味わうために話しているのではない。
だから、彼女を刺激したことは失敗だった。
「勘違いしないでほしいよ。私はあなたに礼を言うためにここにいるんだから」
「……えっ?」
「三人の墓を建ててくれてありがとう。あの子たちが報われたなんて言わないけど、少なくとも私の子孫の場所を作ってくれたことに、私は礼を言いたい」
そう言って私は素直に頭を下げた。
私は神楽から生み出された存在だ。
同時に神楽は私の子孫でもある。
卵が先か、鶏が先か。
そんなことはどうでもいい。
私は一人の先祖として、岡崎に深く頭を下げた。
「……私は仮にも教え子たちを放っておけなかっただけよ。礼はいらないわ」
「それでいいよ。こっちからの一方的な言葉ってことで」
私はそう言うと、踵を返して元来た道に戻ろうとする。
もうここには用はないからね。
しかし、岡崎は振り返って私を呼び止めた。
「待ちなさい。せっかくなんだし、少しお茶どうかしら?」
「……そうだね。私はあくまで知識としてここを知ってるだけで、詳しくは何もわからないからね。これからのこともあるし、色々教えてくれたら助かるかな」
それに昼飯をおごってくれるなら助かるし、とはさすがに言わなかった。
いやね、ポケットマネーにはだいぶ余裕あるのよ?
でもね、これが切れると売るなり盗むなりなんなりしなくちゃならないから、さすがに面倒なのよ。
というわけで私は岡崎とともに、車が停められている場所まで移動し、早速乗り込んだ。
いざ、出発しんこー! アクセル全開だぜ!
……いや、本気で全開にしないでくださいよ?
♦︎
「おお! これが知識で見た【ハンバーグ】か! 味も香りも知ってるけど、食べたことないから楽しみだね!」
街まで下りてきたところで、私たちは近くにあったファミレスを見つけ、そこで昼食をとっていた。
ちなみに、私の服装も変わっている。
とはいえ、巫女服の上に黒のコートを着ているだけなんだけど。
ちょうど今の季節は冬だし、巫女服を隠すのにちょうどよかった。
ちなみに出費は岡崎からである。
運ばれたハンバーグを噛み締める。
くぅぅ! 肉とソースがたまらん!
美夜や私も料理できるけど、やっぱりジャンキーなものもたまには悪くないね。
「私はお茶しに誘ったのに……いつから昼食の誘いだと勘違いされたのかしら」
ため息をつきながら、岡崎も頼んだスパゲッティを口に運んでいる。
違うぞ岡崎。勘違いではなく、意図的だ!
なんとなく開き直った私は岡崎のため息を聞かぬふりをして、目の前のハンバーグを腹一杯まで食べた。
……一般的には少量と言えるほどしかないんだけどね?
いや、あのね。私は蘇生前から元々大量に食べれないのよ。
それがこの姿になったらさらに食べれなくなっただけで。
ちなみに甘いものはなぜか問題なく入る。甘いものは別腹という言葉は本当だったようだ。
一通り全て食い終わると、今度はデザートでケーキと紅茶を頼んだ。
ふと顔を上げれば、岡崎もコーヒーとケーキを頼んでいた。
……以外と女子なんだなぁ……。
「次何か言ったら首の骨折るわよ?」
「いえ、なんでもないっすすんません」
なんで私の考えてることわかるんだよぉ……。
思えば永琳も紫もそうだった気がする。
女性にはなんらかのテレパシー能力でもあるのかしら?
ちなみに私にはないと断言できる。なぜなら私は男だからだ!
まあ変な思考タイムはやめにして、ケーキを口に運ぶ。
うむ、甘い。さすがはショートケーキだ。
「そういえば、あなたは妖怪でもあり神でもあると言ってたけど、実際何ができるのかしら?」
「私は縁結びの神だから、恋愛運を上げることができるよ。岡崎の運も上げてあげよっか?」
「やめとくわ。私まだ結婚する気ないし」
「若いうちにゲットしとかなきゃ大変だと思うけどね」
ああ、この人絶対結婚できないな、なんて思ってしまったのは秘密だ。
いやだって、これ後々結婚できない人のセリフでしょう?
次会った時に研究と結婚してそうで怖い。
「その時はその時よ。それよりも、妖怪としてはどれほどの力を持ってるのかしら?」
「星単体を消し飛ばすくらいはできるよ。……以前はね」
「……よければ聞いてもいいかしら?」
「いいよ。とある事情があって、いまは以前の百分の一……あるいは千分の一ほどの力しか出せないんだよ。つまり、今の岡崎より圧倒的に弱いね」
「……あら、気づくのね?」
私が言ったことに偽りはない。
四季ちゃんには百分の一と言われたけど、神解状態を込みだとおおよそ千分の一になる。
とはいえ、私がそれらと比べたところでクソザコなことは変わらない。
ーーそう、たとえ岡崎の魔力が一年前と比べ物にならないほど跳ね上がっていなかったとしても。
「幻想郷って知ってるかしら? 私は研究の末ようやくそこにたどり着き、早速行ってみたわ。魔力が跳ね上がったのはその時の研究のおかげ」
「大妖怪クラスの魔力、ね……。それじゃあ岡崎の研究は完成したの?」
「ええ、一応ね。そしてとても発表できるものじゃないと気づいたわ。こんな力が世間に知られれば、世はたちまち戦国時代に逆戻りよ」
まあ、そりゃそうなるわ。
魔力に限らず、こういった力は才能によって一般人でも恐ろしい力をもつ可能性がある。
今の世が平和なのは、一部を除いた人々が上に逆らう力を持たないからだ。それが一般人にも備わるとなると、あちこちで下克上が巻き起こることだろう。
……まあ、それはそれで私たちにとって都合がいいのだけれど。
適当に異能力で人間が戦争を起こしたところに、私や火神、剛なんかがそれらを一方的に皆殺しにする。
その後、世界中の妖怪たちを各地の街で暴れさせる。
それだけで、妖怪の恐怖を再び呼び戻すことができる。
そうすれば、この世は再び妖怪や神々の支配する時代が訪れる。
つまり、人間たちが自滅し合うことは、私たち妖怪にとっては都合がいいのだ。
人間が減りすぎるのも問題だけど、数億程度なら問題ない。昔よりはずっと多いので、まだマシだろう。
「貴方すごく悪い顔をしてるわよ」
「ふふ、そうかな? それよりもその研究成果を発表したほうが岡崎にとってはいいんじゃないの?」
「……曲がりなりにも、貴方も妖怪ね。貴方の思惑はわかってるから、その手には乗らないわよ」
「ふふ、残念」
というか今気づいたけど、以前の力がなきゃそれもできないんだけどね。
そのためにも、早く西行妖をぶっ飛ばさなきゃ。
「さて、お腹も膨れたし、最後に質問いいかな?」
「何かしら?」
「幻想郷は楽しかった?」
「……ええ。とても綺麗で、美しかったわ」
「……ふふっ、それはよかったよ。紫の夢に協力した甲斐があるってものだね」
岡崎は他人によって態度を変える人間ではない。つまり、あれは彼女の本心だということになる。
忘れられたものが集う、【最後の楽園】か……楽しみになってきたじゃない!
「ありがとう岡崎。それと隠れてDXパフェ頼んじゃったけど、会計よろしくね!」
「え、あれってニ千円以上したわよね……?って、ちょっと待ちなさい!」
風のように店を飛び出て、全力で走り去っていく。
ハハハ! 待てと言われて待つ犯人はいない!
弱体化したとはいえ、光速の速さを誇る私に追いつけると思うなよ!
妖力を黒翼に全力で注いで巨大化させ、ジェット噴射するかのように空へと飛び立ち、私は逃走したのであった。
「明けましておめでとうございます! いよいよ後編まで来てしまいましたが、今年も【東方蛇狐録】をよろしくお願いします! 作者です」
「明けましておめでとう! なんやかんやで一年以上続くこの小説だが、最後まで読んでくれると助かるぜ! 狂夢だ」
「みんな明けましておめでとう! まだまだ後編の私に慣れない人もいると思うけど、楽しんでくれると幸いです! 楼夢です」
「いやーとうとう今年を迎えてしまいましたよ。ちょっと予想外だったなぁ」
「ああ、俺もそう思う。なんせ初期は千から二千文字しかなくて、文章力も酷かったもんな」
「うんうん。たくさんの読者様がいなかったら、今ごろこの小説は失踪してたと思うしね」
「そう思うと、色々な人たちに支えられて今筆を握ってるのだと、しみじみ感じられます」
「お前スマホだから筆なんか握ってないだろ」
「そういう意味じゃねえから! 空気読めよ!」
「ああ!? 他人の空気なんざ読んでるだけで面倒クセェだけだろうが!? ぶっ殺すぞ!」
「せめて正月の挨拶くらいきちんとしろよ!」
「……えー、皆さん今年もこの小説をよろしくお願いします。おそらくあと一年も満たないでこの小説は終わりを迎えるでしょうが、最後まで読者様と一緒にいられるよう頑張りたいと思います。では皆さん、今年もーーー」
「「「キュルッとしていってね!!!」」」