東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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一つの歯車によって、彼女らは集い出す

それこそが運命


by八雲紫


奇妙な作戦会議

 

 

「では、今回の異変の具体的な作戦を教えるわ」

 

  大きなちゃぶ台を囲みながら、紫はそう言った。

  しかし、紫が仕切っているのに不満を抱えている者が二人。

 

「なに勝手に仕切ってんのよババア」

「同感ね。偉ぶらないでほしいわ。ムカつくから」

「酷い理由じゃの……」

 

「……その前に、一つ。なんでこんなに人がいるんですかっ!?」

 

  現在、ここに集まっているのは白咲三姉妹と八雲一家……そして妖怪の山の天魔、太陽の畑の風見幽香、そしてどこにも所属しないルーミアだ。

 

「おかしいでしょ!? なんでお茶入れに行って戻ってきたら、こんなにも客が増えてんですか! 宴会じゃないんですよ!」

「ね、姉さん落ち着いて……せっかく持ってきたお茶と菓子が落ちちゃう!」

「私よりもそっちかよ!?」

 

  そこから数分後、美夜はようやく落ち着きを取り戻した。

  やはり、舞花作の精神安定剤が効いたのだろう。戦闘も一通りこなせるので、もしかしたら三姉妹一有能かもしれない。

 

  客たちもお茶を飲んだところで、少し落ち着いたようだ。

  なぜ彼女たちがここにいるのかというと、そこは紫にも謎である。

  聞けば、天魔は情報収集のため、幽香は強い妖力に惹かれて、ルーミアはたまたま偶然ここに通りかかっただけのようだ。言わずもがな、ここにいる全員は今回の異変の協力者である。

 

  話を戻して、紫が再び切り出す。

 

「まず、相手の本拠地の様子ね。藍、ホワイトボードを」

「はい、紫様」

 

  ホワイトボードとペンを受け取った紫は、さっそくそこに大きな正四角形を書き込んだ。

  そして四つの辺それぞれをトントンと触れたあと、説明に入る。

 

「まず、これが奴らの本拠地の壁ね。その中に大きな屋敷があるのが確認されてるわ」

 

  再びペンを持ち、今度は正四角形の中に屋敷を書き込む。ただ、それが三角形と四角形を合わせて作られただけの家で、子供みたいな絵だったため、美夜はクスリと笑ってしまった。

 

「美夜……貴方あとで屋上ね?」

「センスのない貴方が悪い」

「黙ってなさいルーミア」

 

  コホン、と紫は微妙に顔を赤く染めながら、わざとらしく咳き込む。

  そして早く話題を変えるため、壁四つを指差した。

 

「まず、この壁には敷地全体を覆うように正四角形の結界が張られているわ。数ヶ月前から準備してたのか、生半可な攻撃は全て打ち消されるわ」

「ではどうするのだ八雲紫? 考えられるのは、戦力を集中させて一気に突破かのう」

「いいえ、それは相手も読んでると思うわ。今から言うのは、ここにいるメンバーだからこそできる、単純かつバカみたいな作戦よ」

 

  紫は含みのある言い方で作戦の特徴を伝える。

  仕事時の彼女はその天才的な頭脳を使って、相手を叩き潰すのを得意としている。つまり、彼女は超一流の策士なのだ。

  そんな彼女が作戦の内容についてそこまで言うのだから、よほど馬鹿げた策なのだろう。

 

「……その前に、ルーミア。貴方って、今どれくらいの力を使えるのかしら?」

「……中級上位程度よ。でも、一千万円あったら少しの間だけ昔の力が使えるわ」

「貴様、ふざけているのか……?」

 

  ルーミアの発言にすぐさま噛み付いたのは藍だ。

  彼女にとっては、この後に及んで金にこだわるルーミアがふざけているようにしか見えなかったのだろう。

 

「……その金で、何ができるのかしら?」

「主人との交渉よ。それくらいあれば、一時的に力を返してもらえるはずだわ」

「……わかったわ。あとで用意するから、受け取りなさい」

「紫様!?」

「仕方ないのよ藍。どっちみち、私の作戦は彼女が力を使えるのが前提よ」

「……わかり、ました」

 

  納得はできなかったが、藍の主人の決定なので、彼女は文句を押し込め了承した。

 

  もっとも、紫には彼女が嘘をついてないのがわかっていた。彼女は性格上、よく嘘をついたり真実をあやふやにしたりする。そんな彼女が、力で馬鹿正直に生きてきたルーミアの真意を見抜けないはずがない。

 

「あ、そうそう。金はちゃんと現代札にしといてよ。すぐに使えないのは必要ないって言ってたわ」

「わかってるわよ。そもそも、この世界の金もちょっと前に現代札に変えたばっかだから、一千万円程度ちゃんとあるわよ」

 

  そう、紫は幻想郷の通貨を、数十年前に現代のに対応させていた。

  理由はいちいち迷い込んでくる外の世界の人間の金を変えてやるのがめんどくさい、というだけだ。

  普通は昔の通貨の方が希少価値が高まるのだが、世界一の金持ちと言っても過言ではない火神にとっては今さらな話である。それよりも、わざわざ変えないでそのまま使える現代札の方が、彼にとっては使い勝手がいいのだ。

 

「さて、そろそろ作戦内容を伝えるわ。各自役割を用意したから、ちゃんと覚えなさいよ」

 

  かくして、歴史に残る【吸血鬼異変】の作戦内容が、各トップに語られた。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「……状況は?」

「現在、各地にここで集めた妖怪たちを進軍させております。しかし、所詮威嚇攻撃でしかないので、戦果は期待できません」

「十分よ。私たちの存在が示せれば、それでいい。ちょうど運命も、犠牲部隊の死を予告してるしね」

 

  場面は変わって、ここは【紅魔館】。現在幻想郷で異変を起こしている吸血鬼の本拠地だ。

  その屋敷の中。とある大扉を抜けた先にある玉座に、一人の吸血鬼の少女と、それよりも背の低いメイド服少女がいた。

 

  吸血鬼の名はレミリア・スカーレット。かつて西洋の支配者を名乗った偉大な吸血鬼ファフニール・スカーレットの娘であった。

 

「じゃあ、結界の様子はどうかしら?」

「そちらも問題はありません。ですが、今ほどの強度を維持できるのは、もって二週間だけです」

「それだけ時間が経ってればこの戦争は終わっているわよ。どちらに転ぼうがね。それよりもパチェが心配だわ。あいつ、数ヶ月前からずっと引きこもって結界の魔力を溜めてたから、倒れてないといいんだけど。咲夜、あとでちょっと覗いておきなさい」

「ふふっ、かしこまりました。お嬢様はお優しいのですね」

 

  咲夜と呼ばれた、この見た目小学生未満の少女は年齢にそぐわず、上品に笑った。

  パチェというのは、この館の地下にある図書館に住んでいる魔女のことだ。レミリアの数少ない友人で、いつも魔法の研究に没頭している。ただ、その分体が弱いのでレミリアが心配するのも無理ない。現に、しょっちゅう倒れては寝かされている姿が見られる。

 

「そうよ、私は身内に優しいのよ。でも、身内以外はどうでもいいの。今回の戦争は、私たちの勢力的な地位と一緒にひっついてきた()()()()()()()()()が目的よ」

「ですが、負けてしまっては後々不便にならないんですか?」

「要はどっちでもいいのよ。私たちが勝ったら幻想郷は私のものになって、自由に生活ができる。負けても、多少ペナルティが下されるだけで、特に問題なし。私たち紅魔館の力をむやみに消そうとするより、利用しようとしたほうが管理者にとっても都合がいいはずよ」

「なるほど……」

「咲夜ももっと精進なさい。私のような大人の女性になるには、これくらいはできなくちゃね」

 

  見た目小・中学生が何言ってやがる、という言葉は聞こえない。

  とはいえ、妖怪にとって数百歳というのはまだまだ若いので、彼女がこのような姿なのも無理はない。

 

  その後しばらく咲夜と雑談していると、レミリアの頭に何かの映像が流れ込んできた。

  しかしそれは、吹雪でも吹いてるのかというほど画質が悪く、鮮明には見えなかった。

 

「これは……何かしら? よく見えないわね……戦争中のことってのはわかるんだけど」

「何が見えたんですか?」

「さあ? ボヤけすぎて、さすがにわからないわ」

「そういえば、妖怪の山ほどではありませんが、かなり高い山の頂上で光の柱が発生したことをご存知ですか?」

 

  そういえばと、咲夜は掃除中に見えた出来事をレミリアに語った。

  光が発生した山は妖怪の山を抜かすと幻想郷で一、二を争うほど高いため、彼女の他にも多くの者たちがそれを見ていた。

 

「知らないわね。私はこの部屋にずっといたから、見てないわ。それがなんなのかはわからないけど、不確定要素なのは確か、か……」

 

  レミリアは数十秒思考を巡らせると、咲夜へと次なる指示をだした。

 

「咲夜、予定通りに門前に勢力を集中させなさい。とはいえ、不確定要素を考えて美鈴以外は館内に待機してなさい」

「他の吸血鬼たちへの指示はどうしますか?」

「今のままでいいわ。それと、死にそうになったら迷わず逃げなさい。私たちの勝利条件は、あくまで私たちが生き残ることなんだから」

「かしこまりました」

 

  咲夜はそう恭しく頭を下げると、部屋から退室した。

  そして一人静まった中、レミリアは

 

「……ふふっ、今夜はいい月が見れそうね」

 

  そう、口を三日月状にして笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「……以上で、作戦内容は終了よ。各自理解できたかしら?」

「……ずいぶんと雑な策ね。貴方らしくもない」

 

  ルーミアはそう、紫の作戦を評価した。他も口には出していないが、同じことを思っている。

  それほどまでに、今回の策は確実性を求める紫らしからぬものだった。

 

「ふふっ、そこの三姉妹を見てるとね、いつも無策で突っ込んでいる人の顔が浮かんでくるのよ。それに、策士策に溺れると言うじゃない?」

「お父さんは回りくどいのが嫌いな人なんです。決して頭が悪いというわけではありません」

「要するに、短気ってことじゃない」

「……そうとも言います」

 

  幽香の指摘に、誰もが頷くしかなかった。

 

「ともかく、私はこの『策士策に溺れる作戦』で相手の裏をかくつもりよ。異論はあるかしら?」

 

  反対はどこにもなかった。

  彼女たちは、久々の戦いに飢えていた。そして今回提案された策は、彼女らの性格に合うものだった。反論する理由はない。

 

「それじゃあ、決行は今日の夜よ。それまでに、各自準備をしておくように」

 

 

  こうして両者の作戦会議が終わった。

  そして、とうとう決戦の時刻がやってくる……。

 

 

 






「章のタイトルを【奇妙な共闘編】に変更しました。作者です」

「思いっきりクトゥルフ感出てんじゃねェか……狂夢だ」


「ちなみに、本作にはSAN値を削るような神話生物は出てきませんので、ご安心ください」

「その代わり、女子が神話生物だけどな」

「まあ、今章は本編で見た通り、バラバラの勢力が協力しますからね。これ以上にふさわしいタイトルはないかと……」

「ちなみに、前回出てきた雑魚はどんくらいの強さなんだ?」

「中級上位ですね。それ以上が山のようにいるので、これだけの過激勢力を集めてみました」

「紫側は各トップと、天狗だけか……確かに、その他大勢を天狗だけに任せると、必ず詰むな」

「レミリアさんはその他に色々な妖怪を支配下に置いていますからね……」

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