東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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パッと触れればすぐ消えて

タタンと叩けば現れる

そんな素敵な魔法、ご存知かしら?


by八雲紫


エントランスでのイリュージョン

 

 

  美夜が門を破壊したころ、館内のエントランスでは二人の少女による戦闘が繰り広げられていた。

 

  ランチャーを構えた舞花は妖力を圧縮させ、巨大弾幕を敵めがけて放つ。だが、メイド服の少女が指を鳴らすと彼女の姿は一瞬で消え去り、後ろの壁が削れるだけで終わった。

  そしてお返しのように、舞花の目の前に数十本のナイフが突如出現し、襲いかかってきた。

 

「……それはさっき見た」

 

  しかし、舞花は冷静に懐から水銀の入った瓶を地面にぶちまけ、その中身をシールド状に固めることで防いだ。

  だがメイドの攻撃はまだ終わらない。再び姿を消すと、今度は全方位からナイフが飛んできた。

 

  さすがに瓶一本分の水銀では全方位を守れない。そう判断した舞花は真上にランチャーを放ち、その爆風で空いた隙間から脱出した。

 

(……テレポート系の能力かと思ったけど、違うみたい。ただ、それに近いことができるのは間違いない。なら、ランチャーは相性悪いか……)

 

  そう考え、舞花はランチャーに力を込める。すると光が発生し、ランチャーは拳銃へと姿を変えていた。これならばスピード戦に対応できるので、先ほどよりマシに動けるだろう。

 

「……なら、少しずつ分析していってやる」

「あなたに私のイリュージョンが見破れるかしら?」

 

  舞花は天井すれすれにジャンプすると、少女に急接近しながら弾丸を数十発放った。

  当然のように少女は姿を消し、代わりに着地地点にはいくつものナイフが迫ってきていた。

  それら全てを撃ち落とした後、再び照準を少女に合わせ、引き金を引く。再び少女の姿は消えるが、今度は何も見ずに後ろ向きに弾丸を数発放った。

 

  遅れて、金属と金属がぶつかり合う音が連続で聞こえてきた。

  振り向けば、そこにはナイフで弾丸を弾いた状態の少女の姿が。

 

「……なぜわかった?」

「……あなたは姿を消した後、相手の死角に入る癖があるみたい。何度もされれば、勘が良い人なら誰でも気づく」

「そう……ご教授ありがとう、ね!」

 

  感謝の言葉とともに、数十本のナイフが投げられた。

  氷の結界を張ったが、しかしナイフはどれもバラバラで見当違いの方向へ飛んでいくだけ。と思ったが、壁に当たった瞬間に跳ね返って舞花に向かってきた。

 

「……ほんとうに手品みたいなことが得意みたいだね」

「お褒めに預かり光栄です」

 

  撃ち落とした後、ふいに真横から声がした。振り向いてみれば、そこにはナイフを構えた彼女がちょうど切り掛かってくるところだった。

  今度は接近戦か! などと内心驚きながらとっさに左手で持ち手を叩き、軌道をずらす。

 

  こんなときのために美夜姉さんから徒手空拳をかじっておいてよかった……。

 

  眉間めがけて発砲するが、少女は横に頭を傾けて避けてしまった。どころか、距離をとろうとしたらジグザグに走って追ってくるのだ。

  おそらく、今ので舞花が接近戦が苦手なことがバレたのであろう。先ほどの受け流しも、本能が行った偶然に過ぎない。

 

「……ッ!」

 

  流れるように振るわれた連続のナイフが、舞花のほおをかする。

  今のは危なかった。このままこの距離でやっていてはいつか被弾してしまう。

  少々手荒で好みではないが、この際仕方ない。少し強引に距離を取らせてもらおうか。

 

「【ニブルヘイム】……!」

「なっ、ぐっ……!」

 

  手を地面に当て、一言。

  それだけで、舞花と少女がいた場所は一瞬で氷の世界へと変化した。

  ゼロ距離で範囲魔法を使ったせいで、舞花もこれに巻き込まれてしまっていた。幸いなのが、自分に当たっても大丈夫なように威力を抑えていたことと、彼女自身の氷耐性が高かったことか。それらのおかげで、舞花は手のひらが薄く凍りつくだけで済んだ。

 

  しかし、その至近距離に少女の姿はない。

  急に冷やされたことで白い煙が発生する中、よくよく目を凝らせば彼女が階段を上った二階部分にいるのがわかった。

 

(メイド服の端が凍ってる……? なるほど、そういうことだったのか……)

 

 例のテレポート……いや、それはもうよそうか。

  今観察したのと今までの戦い方から、彼女の能力はもう予想がついた。なるほど、確かに強力な能力だ。だけど弱点がわかればいくらでも対処できる。

  もう勝利のルートは頭に入っている。チェックメイトだ。

 

  舞花はわざわざ相手に見えるようにエントランスの中心に立つと、少女が聞いてるかも確認せずに語り始めた。

 

「……あなたの能力、わかった。……時間操作系」

 

  それを聞いた瞬間、観念したのか少女はナイフ片手に階段を下りてきた。顔には冷たい笑みが張り付いている。

 

「……ええそうよ。よくわかったわね。でもそれがどうしたのかしら? でもそれって私はあなたの心臓を知らない間にえぐることもできるってことにならないかしら?」

「ダウト。できるんだったらとっくにしてる。おそらく、時止め中の制約の中に『自分が触れているもの以外に干渉することができない』とかがあるのだと思う」

「……」

 

  少女は何も言わなかった。

  舞花は続ける。謎を解明してか、いつもより饒舌だ。

 

「あなたは私の目の前から姿を消した直後の銃撃を、能力を使わずに処理した。このことから、その能力には一秒以上のタイムラグがあるものだと思われる。続いてさっきの範囲攻撃のあと、あなたのドレスの端が凍ってることから、時間操作系能力という結論が出てきた。テレポートだったら、あんな一撃簡単に避けれただろうしね」

「……だったらどうしたのかしら?」

 

  そのえらく長ったらしい説明は、ただ単に彼女の失敗を突きつけるだけにしか少女には感じられなかった。そのためか苛立っており、冷たい言葉が鋭さを増している。

  そんな彼女に対して舞花は

 

「……あなた、名前は?」

「……十六夜咲夜よ」

「白咲舞花。……咲夜、あなたはもうチェックメイトってこと」

 

  言うがいなや、舞花は地面を叩くように手を当て錬金術を発動。このエントランスエリア全ての廊下に巨大な石の壁が飛び出て、脱出経路を塞いだ。

 

「……これでここから出ることはできない。あなたが時を止めるなら、私はこのエントランス全てを凍らせる。防げるものなら防いでみろ」

「ッ!? させるかッ!」

 

  咲夜は自分に危機が迫っているのを本能的に感じ取った。そして、今の舞花の言葉を聞いて、全力で地を蹴り()()()止めようとナイフを突き出した。時を止めて接近してきたことから、彼女がどれだけ急いだのかがわかる。

  だが、地に手をつけたままの状態では、いくら急ごうが無意味だ。

 

「遅いーー【ニブルヘイム】」

 

  そして、舞花は手加減なしの絶対零度の世界の扉を開け放った。

  瞬間、世界は氷によって閉ざされた。

  床も壁も天井も、全てが凍りついており、幻想的なオブジェと化している。その中に一つ、ポツリと少女の氷像が立っていた。

  体どころか、表情すら動かない。否、動けない。

  その様子を見て舞花は、

 

「……やりすぎたかも」

 

  と小さく呟き、急いで救出活動を行った。

  忘れてはいけないのが、今回の戦争の目的。咲夜は明らかに敵の幹部だし、万が一殺してしまっては交渉の障害になるかもしれない。

  そうなると、全員から冷たい目で見られる。美夜から力の扱い方をやり直せと神社を追い出されるかもしれない。

  それだけはダメだ。引き篭れなくなってしまう。

 

  白咲舞花。目先の楽不楽よりも、先の自分のことを考えるのは得意であった。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「【メラストーム】」

「水符【ベリーインレイク】」

 

  火球の嵐と、水流がぶつかり合う。それらは互いに均衡した後、消滅した。

 

「へえ、やるねー。これなら、どう? 【メラミ×5】」

 

  金色の髪を持つ女性がそう言って腰に差してある刀を抜いて、杖のように振るうと、先ほどよりも大きな火球が五つ出現した。

 

「くだらないわ。金符【シルバードラゴン】」

 

  それを相手するネグリジェのような服を着た紫髪の少女はそう一言言うと、金属を竜の姿に変えて突撃させ、火球を弾きながら突き進んでいった。

  これに対して金髪の少女ーー清音はヒョイッと身軽な動きで竜の背に乗ると、二刀一対の愛刀たちで強引に竜を引き裂いた。それだけで竜の内部に魔力が侵入し、しばらくすると大爆発を起こし大破した。

 

「あなた、剣士かしら? ずいぶん良さげな刀を持ってるじゃない」

「違うよー。そもそも、これは私にとって杖みたいなものだから剣は専門じゃないんだよー」

「……剣を扱えないとは言わないのね」

 

  双刀【金沙羅木】。邪神が作り出した、最高クラスの短刀。その効果は術のサポートなどであり、確かに杖としての役割を持っている。しかしながら単純な切れ味も妖魔刀クラスであり、鉄程度ならどれだけ非力でも切り裂けるとは、その邪神の弁だ。

 

「まあいいわ。殺して死体共々回収すればいい話ね」

「なら私が勝った場合はここの魔道書いくつかもらうよー?」

「……借りるんじゃなく、もらうのね」

「強盗ですから。【イオラ】!」

 

  一通り話し終えると、目くらましのために爆発を起こして、その隙に距離をとった。

  同時に紫の少女も魔法陣を空中にいくつも展開した。

  両者の魔力が急速に高まっていくのがわかる。

 

「先手必勝!【マヒャド】!」

 

  最初に魔法を唱えたのは清音。巨大な氷柱がいくつも空中でできあがると、紫少女を串刺しにせんと飛んでいく。

  しかし少女は驚かない。どころか冷静に術式を魔法陣に展開し、そこから炎と土の混合的な魔法を放ってきた。

 

「火&土符【ラーヴァクロムレク】」

 

  広範囲に向けてドロドロと溶けた岩ーーつまりマグマが放たれた。それらは氷柱とぶつかると破裂し、次々とマヒャドを打ち消していく。

  しかし、その中の一つだけがマグマを突破し、少女に迫った。それは避けられたが、床にぶつかり突き刺さると、その辺りを瞬時に凍りつかせた。

 

「危ないわね……試しに触れてみなくてよかったわ」

「惜しい! 触れたら氷漬けだったのにー」

「遠慮なくお断りさせてもらおうわーー金&水符【マーキュリーポイズン】」

 

  今度は紫少女から魔法を唱えてきた。魔法陣から出てきたのは大量の銀色の液体ーー水銀の水流である。

  舞花が日頃よく使うため、清音にはそれの正体がすぐにわかった。

 

「こんなところで有害物質ばら撒かないでよ!」

「安心なさい。私は対策してるから」

「私はそういうのしてないの!」

 

  クイ、と少女が指を振ると同時に、大量の水銀が水流のように清音に向かってきた。

 

  地下図書館での戦いは続く……。

 






「どーも更新遅れました! インフルエンザってキツイんですね。今年生まれて初めてかかったので、驚きました。作者です」

「久しぶりに小説書き始めて『あれ、こういうときどうすんだっけ……?』と頭を抱えてうずくまっている作者を見ていた狂夢だ」


「今回で咲夜戦は終了です。彼女は能力に少し制約がかかっていますが、それはまあ時止められてなんでもできると書く方も困るんですよ。正直楼夢さんが光の速度で瞬殺するぐらいしか倒す方法なくなりますし……」

「ちなみに制約の内容は

・一秒のクールタイムが発生する

・自分が触れている物以外に干渉することはできない

だったはずだな」

「咲夜さんの場合、時を止めたときに触れているものにナイフがあるため、投げつけることができます。しかし敵の場合は時止めしたときに触れていないので、触れることはできません。触れた瞬間に解除されます」

「それでも十分に強いだろ。正直この小説の主人公以上に強い能力だな」

「ちなみにあなたも時止めできることをお忘れでなく(詳しくは月面戦争編)」

「ちなみに俺の場合はそんな制約ないぜ。さらに時を早めたり遅くしたりすることもできるぜ」

「要するに咲夜さんは狂夢さんの劣化型ってことです」

「俺の劣化ってだけで充分強いけどな」

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