東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:日差丸

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魔法が使えれば魔法使い

どんなにちっぽけでも

誇りをその身に宿せる


by白咲清音


ヴワル魔法図書館での決闘

 

「うひゃぁ!?」

 

  水銀が壁に衝突して、その液体が周りに飛び散る。そしてシューシューという何かを溶かす音とともに、あちこちで煙が発生した。

 

「……いったい何と化合してるの、あれ? 壁や地面が蒸気とともに溶けるとか、危険ってレベルじゃないよ……」

「偶然できあがった液体xよ。私もよくわからないわ」

「そんなの使用しないでよ……」

 

  とはいえ、まずいことになった。

  先ほど水銀が辺りのものを溶かしていたが、それと反比例するように蒸気、つまり毒ガスが辺りに発生し始めているのだ。

  ここは地下。窓もない。相手が対策をしてないとは思えないし、何より清音はこういった状態異常に対する手段をほぼ持っていないのだ。

  できるのは攻撃魔法と補助魔法のみ。回復は舞花が専門であった。

 

「せめてなんの毒かわかれば対処はできるんだけど……明らかに私が知らない物質だね。水銀がものをあんな風に溶かすのは始めて見たし」

 

 そう言っていると、再び水銀が集まり、こちらに向かって飛んできた。

  やはり術者を倒すのが手っ取り早いか? いや、あの少女が何も手を加えていないとは考えにくい。

 

「【メラゾーマ】!」

 

  とりあえず、目の前のものをどうにかしなければ。このまま毒ガスが発生し続ければ、不利なのはこちらだ。

  なんとなくで巨大火球をぶつけて燃やしてみたものの、物質自体は消滅したが、それが大量に気体化して大変なことになっている。

 

「もう、めんどくさいなー!【バギ】」

 

  真空属性の初級魔法を発動して、発生した毒煙を散らしていく。ここで清音はいいことを思いついた。

  さっそく嫌がらせに毒ガスを少女の方へ向けて、風を発生させてみる。

  当たり前だが、少女の周りには薄い結界が張ってあったので意味はなかった。だが、少女自身も煙による二次被害は想像できなかったようだ。そう、煙に覆われたせいで清音が見えなくなったのだ。

 

「なっ、しまった!」

 

  急いで少女は風を発生させようとするが、もう遅い。

  清音は極小の魔力弾を最高速度で結界に向けて放った。それはやはり石ころサイズの穴しか開けることはできなかったが、それでも気体が入り込むには十分な大きさだ。強度が低かったのは、元々これで攻撃を防ぐことを考えていなかったのだと思う。

 

「うっ、ゲホッ、ケホッ……!」

 

  毒ガスを直に吸ってしまったのであろう。少女は苦しそうに咳をしながら結界を消滅させ、指を弾く。それだけであちこちの壁から風が吹き出て、図書館内を換気した。

 

「やっぱりそういうの用意してたねー……ていうか大丈夫? すごい苦しそうなんだけど……」

「ゲホッゲホッ、カハッ……ゼェー、ゼェー……平気よ」

「いや明らかに大丈夫じゃないよね!? 毒ガス私の方が吸ってるぐらいなのに、なんでそこまで咳するの!」

 

  少女はゼェーハァーと苦しそうに呼吸すると、魔法陣を展開しながらこちらを睨んできた。

  ……大丈夫かな、この人。清音はそう思わずにはいられなかった。予想はつくが、体が少々……? 弱いのであろう。しかも察したけど喘息持ちだ。

 

「今日は体の調子がいいわ。まだ発作も起きてないし」

 

  頼むから帰って寝てなさい、と清音は思う。

  なんかもうさっさと終わらせてあげた方が彼女のためになりそう。

 

「いくわよ……木&火符【フォレストブレイズ】!」

「【フォレストブレイズ】……つまり山火事ってことぉ!?」

 

  言葉にした瞬間に、燃え盛る丸太が眼前を通り過ぎた。それだけじゃない。木や葉など、様々な森に関するものが炎をまといながら、清音に襲いかかってきた。

 

「【羽衣水鏡】……へっ? あがッ!?」

 

  清音を覆うように水と妖力で作られた透明な結界が張られる。が、飛んできた炎の木材はそれをやすやすと打ち砕き、清音の腹に激突した。

 

「一ヒットってとこかしら」

「くっ……【ヒャド】」

 

  冷気属性の初級魔法で被弾した部分を冷やしながら、少女を睨む。

  忘れていた。【羽衣水鏡】は弾幕などのエネルギー系統の遠距離攻撃にはめっぽう強いが、質量のあるものには簡単に壊されてしまうということを。

  清音は燃え盛る木々を炎弾として見ていたが、それが仇になったようだ。それに、その魔法を操る少女自体も強い。

 

「……そろそろ、本気でいこっかなー」

「まだ奥があるのならさっさと出しなさい。それは魔女として最大の侮辱よ」

 

  少女は清音が本気でなかったことに気づいていたらしい。それが気に入らないらしく、先ほどから奥の手を出させようと激しい攻撃を繰り出してくる。

 

  さて、今までの戦いでわかったことがある。それは彼女が東洋の五行に加えて日と月を足した属性魔法を操る、ということだ。

  日と月はどこでわかったのかって? 彼女が展開する魔法陣の属性を見ればわかる。彼女はそれらを組み合わせて一つの魔法としているのだ。

 

  さて、ここで質問。清音は何種類の属性が使えるだろうか? とは言っても、少女の五行と清音の使う魔法は点で違うので、同じ火を扱う魔法でも全然同じではないのだが。

  とりあえず、答えを言うと基本的には火炎、閃光、爆発、冷気、真空の五種類の属性とその他多くを扱うことができる。

  そんな清音が彼女の真似ごと、いや同じことができないわけがない。

 

「右手に【マヒャド】、左手に【バギクロス】……」

「なっ、まさか!」

 

  清音の右手に巨大な冷気が、左手に巨大な風の力が集う。そして両手を合わせると、突き出すようにして叫んだ。

 

「合体! 氷刃嵐舞【マヒアロス】!」

 

  無数の氷柱が、閃光のように突き進み、少女の炎を破っていく。そしてそのまま、氷の閃光が少女を張られた結界ごと貫いた。

 

「かっ…! このぉ……日符【ロイヤルフレア】ァァ!!」

「閃熱大炎ーー【メゾラゴン】!!」

 

  二人の叫びで出現した太陽と爆炎がぶつかり合う。その余波は飛び散ったエネルギーで壁や床が溶けるほどのものだった。

  そして勝ったのはーー

 

「ーー【メゾラゴン×2】ィィィィィィ!!」

 

  そう清音が叫んだ瞬間、爆炎が急激に膨れ上がり、太陽と少女を飲み込みそのまま爆発した。

  そのあまりの熱量と爆風に清音自身も吹き飛び、地面に体を打ち付ける。

 

  閃光と爆発が収まった時、清音の目には図書館が見るも無残な姿で朽ち果てていた。本棚に収まっていた本だけは全て無事なようだが、それらを守った本棚自身は役目を果たし終え、灰となっていた。

  そして一番目についたのが、壁に開けられた大穴だ。十中八九、清音のメゾラゴンが少女ごと飲み込んだ跡であろう。

 

( ……? そういえば、あの魔女はどこにいったの?)

 

  清音はそれに気づいた後、キョロキョロと周りを見渡しながら彼女を探す。すると、ちょうど大穴の下に積まれたガレキの中から、真っ白な手が伸びてきた。

 

「ゼェー……ゼェー……死ぬっ、死ぬかと思った……!」

「あれで生きてるの……? どうやったのかなー?」

「結界がなかったら蒸発してたわ……! すぐに逃げられるよう準備しておいてよかった」

 

  なるほど、辛うじて結界を張り、その間に逃げたということか。しかし完全には避けきれてないようで、少女の服はところどころが焦げていた。

 

「……あなた、名前は?」

「……? 白咲清音だけどー?」

「認めるわ。あなたは強い魔法使いよ。それに敬意を表して名乗るわ。パチュリー・ノーレッジよ」

 

  魔導書を宙に浮かばせ、魔法陣を描きながらも、目だけはまっすぐこちらを向いたまま、パチュリーはそう言った。

  なんとなく言いたいことは察せた。彼女は清音に『魔法を使う者の誇り』をかけて戦えと言っているのだ。

 

  両手を広げながら、二つの魔法を展開する。一つは火炎系上位魔法【メラゾーマ】。もうひとつは冷気系上位魔法【マヒャド】。

  これから使うのは、清音の複合魔法の中でも極大消滅魔法と称される究極の魔法だ。

 

  パチュリーも魔導書を手の中に浮かばせ、七つの魔法陣を展開しながら魔力を高めていく。

  それを見て、清音は口を開いた。

 

「……言いたいことは察せたよー。それで、どこまで出せばいいのー?」

「……全力よ。それで死んでも覚悟はしているわ」

「……どうやらわかって言っているようね。ならーー死んでも文句はなしよ!」

 

  清音は知っている。彼女は魔女として悔しいのだ。

  世界は広い。自分より優れた魔法使いがいることは知っている。ただ実際にそれに出会ったとして、認められるわけがない。

 

  パチュリー・ノーレッジは魔女だ。生まれながらにして力を持っていた彼女はそれを誇りにしている。

 

  清音は魔法使いだ。正確的に言えば陰陽師でもあるが、彼女はそれを誇りにしている。

 

  だからこそ、互いはぶつかり合う。自分の中のルーツを守るため、プライドを守るために。

 

「いくわよ……火水木金土日月符【ロイヤルストレートフラッシュ】ッ!!!」

「極大消滅魔法ーー【メドローア】ァッ!!!」

 

  辺りが、眩しい光に包まれた。

  七色の閃光と白の閃光がぶつかり、せめぎ合う。

  ジリジリと、徐々に清音の体が後方に下げられていく。パチュリーの閃光が【メドローア】を上回っているのだ。

 

  確かに、七曜全てとたったのニ属性では分が悪い。しかし、清音にも秘策があった。

  清音は九尾の狐である。自慢の、父と同じ黄金の尻尾は九本ある。

  そして、それら全てから魔法を放てるとしたら?

  答えはこうだ。

 

「【メラゾーマ】、【マヒャド】ーー【メドローア】。【メラゾーマ】、【マヒャド】ーー【メドローア】。【メラゾーマ】、【マヒャド】ーー【メドローア】。【メラゾーマ】、【マヒャド】ーー【メドローア】」

 

  八本の尻尾にそれぞれの魔法を発動させ、残った尾でそれらを融合する。結果、尻尾で作られた【メドローア】は四つ。今発動させているのを合わせてーー五つだ。

 

「【メドローア×5】ッ!!!」

「……どうやら私の負けのようね」

 

  パチュリーがそう呟くと同時に、閃光が押し返され、パチュリーを呑み込みながらーー

 

 

  ーードゴォォォォォン!!!

 

  あらゆるものを消し飛ばした。

  壁も地面も、豪華に結界が張られた本棚も。

  あれだけ立派に見えた図書館が、今ではボロボロの廃墟のようだった。

 

  しばらくすると光が収まり、清音は光から守るために閉じていた目をゆっくり開く。そしてここら一帯の魔力を感知した後、一言

 

「何が覚悟はしてるんだか……即死級の攻撃を受けた瞬間、転移する魔導具か……生きる気満々じゃん」

 

  おそらく生きているであろう紫の魔女に向けて、最後の憎まれ口を叩いた。

  よく見れば本にも転移の魔法がかけられていて、彼女の魔導書は全て無事であることが判明する。

  まんまとしてやられた、といったところか。清音にとって最後に良いことは、おそらくパチュリーは魔力枯渇でしばらく寝込むことになるぐらいか……。

 

「まっ、それでいっか。私は魔導書が借りれればそれでいいしー」

 

  そう言って、残った本棚に収められている中から気になる本を取り出して、運んでいく。

 

  白咲清音。最後までマイペースな少女であった。

  変わったことと言えば、彼女が本を借りるとき、『盗む』から『借りる』に変わっていたことぐらい。

  しかし、今もマイペースに本を漁る彼女がそのことに気づくことはなかった。

 

 

 





「三姉妹の戦闘がいよいよ終わりました。残るはメイン戦のみです。この章もそろそろ終わりだなぁ……。作者です」

「次章はいよいよ楼夢の出番か……俺はしばらく出ないみたいだし、退屈だぜ。狂夢だ」


「今回は原作キャラ初のオリジナル技が出ましたね」

「火水木金土日月符【ロイヤルストレートフラッシュ】か。名前は普及点として、どうしてこれを作ったんだ?」

「実はパッチェさんは火水木金土【賢者の石】っていうスペカがあるんですが、全ての属性を合わせた技がなかったんですよ。それはちょっとやだなぁと思い、用意させていただきました」

「結局【メドローア】のゴリ押しで破られたけどな」

「それは……まあ、清音さんは九尾の狐ですから。仮にも大妖怪最上位に位置するので、基本スペックの差があるんですよ」

「ちなみに楼夢は十種類の属性を扱えるぜ。正直言うとチートだな」

「チートの塊のお前が言うな!」
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