東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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対妖狐戦限定で、私って最強かもしれない

「妙な小細工を使う。だが、それならこれはどうだ!」

 

  シャキーンと九尾の両手の爪が獣のそれのように伸びた。

  わーお、私の爪もまあまああるけどあそこまで長くはないよ? まあ私はいくら太古を生きているとはいえ基本は刀を使ってたからね。彼女のように爪をそこまで使ってないのだ。おそらく爪が発達していないのはそういう理由なんだろう。

 

  まあそれは置いといて、戦闘に集中しよう。彼女は接近戦が御志望のようだ。なら見せてやろう。私の土俵に立ったこと、後悔しろや!

 

「せいやっと!」

 

  私は神理刀を召喚し、迫り来る爪を見事にパリィ。中級妖怪という侮りから不意を突かれた彼女は自分の攻撃が弾かれたことを理解できず、一瞬棒立ちになってしまう。

  その刹那が命取り。オープニングヒットもらった!

  私は無防備な彼女の体に神理刀を振り下ろす。

 

「ぐっ……あっ!?」

 

  それは見事に彼女の体を大きく斜めに切り裂いた。その証拠に彼女の体からは大量の血が飛び散っている。

  できればこれで終わらせたかったんだけど、さすがは大妖怪。すぐに大きくバックステップして、距離を取ってしまった。

 

  まあ、それを見逃すほど私は甘くないんだけどね。

  彼女が下がるのと同時に私は前へ急加速し、再度刀を振るう。今度はギリギリで避けられてしまったが、私はまたしつこく後ろに下がる彼女を追っていった。

  ……文字だけ見るとただのストーカーじゃん。

  ま、まあ気づかれなければそれで良し! 私が今そう決めた!

 

「ぐぅっ、しつこい!」

「遅いんだよ!」

 

  それから先は彼女が距離を取ろうとし、それを追いかけるだけになった。もちろん彼女は途中で術式を。私は刀を振るっているけど未だに有効打はないって感じ。あの傷で私から距離ギリギリ取れるからすごいもんだよ。

 

  ただ、今回は相手が悪かった。

  数50。全方位からの狐火、か……。

  私は同じ数だけヒャドを発動すると、やはり狐火が完成する前にそれらを打ち消した。

 

「なぜだ! なぜ私の術が座標ごとバレる!?」

 

  これだ。相手が悪いという理由は。

  彼女は妖狐。私も妖狐。

  彼女が生き抜くために本能で覚えた術式を、私が知らないわけないだろうが!

 

  刀を持ってない左手を相手に向け、火球を放つ。

  ーー【メラ】。

  彼女の狐火と比べたらちっぽけな炎。だけどそれがーー

 

「数百単位だったらどうかな? ーー【メラマータ】」

 

  下級魔法の雨が、弾丸のように降り注いでいく。それは彼女に防御行動をとらせるには十分な脅威となった。

  雨が終わったあと、そこにあったのは結界の中で無傷な彼女の姿だった。

  ……マジっすかー。いやまあ予想はしてたけどさ……マジっすかー。

 

「今度は私の番のようだ」

 

  結界の中で彼女は術式を組み始める。狐火とは比べ物にならないほど複雑だ。解読しようとしても召喚系の術式ということ以外わからなかった。

  そして完成したそれを、彼女は解き放つ。

 

「来い。ーー【十二神将】!」

 

  藍の周りに幾何学模様の陣が12個出現した。そしてそこから現れたのは、鎧をまとった12体の鬼のような顔をした式神。手にはそれぞれ太刀や弓矢、斧など、様々な武器を手にしており、その姿は将と呼ぶにふさわしいものだった。

 

  ……サーと血の気が引いていく。

  わーお。マジかよ。十二神将ってメチャ強そうじゃん。おまけに本体合わせて13人ですよコンチクショウ。

  あ、でも一体一体来てくれるかもしれないし。

  そんな淡い期待は、神将たちが放つ弾幕の壁によってかき消された。

 

  うおっ!? マズイマズイ死ぬ死ぬゥ!

  高速で飛び回ることで私は弾幕の穴という穴をくぐり抜け回避。髪やらにチリチリ当たってヒリヒリするが、そんなの気にしてる場合じゃない。

  というか武器使えよ! 汚い、さすが神将汚い!

  というか12人もいたら将も何もないだろ! 12神隊に改名しやがれ!

 

「……速い。ブン屋の天狗レベルか? ならば圧し潰すのみ」

 

  弾幕壁の隙間を通る私へ、別方向から十二神将とはまた違う弾幕が飛んできた。

  げっ、本体も攻撃してきたぞ。というか避けきれん!

 

「【森羅万象斬】!」

 

  青白い巨大斬撃で避けきれない弾幕をなぎ払い、なんとか私は回避に成功する。

  しかし、このままじゃジリ貧だ。いずれやられる。

  どうする……どうすれば……?

  うーむ、わからん!

  だったら特攻あるのみよ!

 

  気合を入れて私は十二神将が放つ弾幕の壁へ突っ込んでいった。

  穴を抜けながらまっすぐ。途中で避けきれず弾幕が何個も当たって痛かったが、歯を食いしばってそれに耐えた。

  前進、直線へ。そしてとうとう十二神将の一体の前までもう少しになった。

 

  その一体が手に持つ太刀を両手で構え、私を迎え撃つためにそれをなぎ払う。

  前進しながら前かがみになることでそれを避け、一瞬反撃のチャンスが生まれる。しかし正直言ってこの神将たちに私の斬撃が通るかわからない。なぜなら十二神将たちは全員が一目見て鎧だと思うような筋肉を持っているのだ。最悪鋼鉄のように弾かれても不思議ではない。

  ーーそう思っていた時期がありました。

 

「【雷光一閃】! ……って、ええ……?」

 

  私は戦闘中にも関わらず困惑の表情を浮かべてしまった。

  私の斬撃が通らなかったわけじゃない。逆だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  十二神将は上半身と下半身が分かれたことで姿を保てなくなり消滅していく。その時に十二神将の体からばら撒かれたもので十二神将の防御力が異常に低い理由がわかった。

 

「……まさか、あれら全ての体の材質がお札だったなんてね。誰が思いつくんだよこれ」

 

  そう、十二神将の体は全てお札でできていたのだ。つまり十二神将の体は紙同然なのである。

  いやまあ、コスパは確かにいいだろうけど紙はないだろ……。

  色々工夫されていたようだけど紙は紙。私の軽めの斬撃が通った時点で十分な雑魚だ。

 

  一体がやられたことで残りが焦るように私に弾幕を放つ。が、それはもう効かん!

  どうやら十二神将が放つ弾幕壁は十二体が計算された組織的な動きをすることによって生まれるらしい。だけど、その一体が消えたことで弾幕の壁に大きな穴が空いた。

  難なく壁をすり抜け一体へ接近。そしてそのまま刀を一閃。そして返す刀でもう一閃。

  それだけで近くにいた二体は両断され消滅していった。

  ハハハ! 貧弱貧弱ゥ!

 

「くっ【飯綱権現ーー」

「させるか! 【マホトーン】!」

 

  九尾の子から凄まじい妖力の集中を感じたのですぐさま左手を突き出し魔法発動。するとバチンと火花が散る音とともに彼女の術式が解除された。

 

「な、にがっ!?」

「【ライデイン】!」

 

  困惑する九尾へすかさず必殺の雷を叩き込んだ。

  しかし、これでも無傷。直前で張られた結界には大きなヒビが入っているけど、貫通には至らなかったみたい。

 

  私のマホトーンは元ネタとは違って構築中の術式を崩壊させる力しか持っていない。というか術を封印するってただのチートじゃんか。あのゲームでこの技が大抵のボスに通用しない理由がわかったわ。

 

  と、脳内で解説しているところで弾幕が私に向かって飛んできた。振り向かずにそれらを切り裂き、ゆっくりと顔を向ける。

  ああ、あの紙くず人形まだ残ってたんだ。九尾の子が次何出してくるかわからないし、この際出し惜しみせずに全力で倒すべきかな。

 

  私は何もない空間に左手を突き出し、柄を握るような仕草を取る。それだけで神秘的な光が集まっていき、刀を形作った。

  見よ、これが私の切り札、神理刀での二刀流だ!

  そして回転しながら刀を数回素振りする。ここから出る技はーー

 

「ーー【百花繚乱】」

 

  一瞬。そして百閃。

  バラバラに散らばっていた神将たちは攻撃に反応できないまま、塵になるまで切り刻まれた。

  それを見て呆然とする九尾の子。

  これで終わりだ。

  私は神理刀を消し、両手にメラとヒャドを発動させる。そしてそれらを合体させ、右手に集中させた。

 

  本能的に危険を感じ取ったのだろう。九尾の子が逃走しようとした。が、逃げれるわけないでしょ?

  音速で動ける私は例外として、妖狐は基本的に妖術を得意とする。その代わりに他の身体能力はさほど高くないのだ。

  九尾の子へすぐに追いつき、その腹へと手の平を当て、一言。

 

「ーー合体魔法【メヒャド】!」

 

  右手から光の閃光が放たれ、九尾の体をたやすく貫き爆発した。

  火炎と氷結がぶつかり合うことで生まれる消滅エネルギー。それが直撃したのだから、彼女が無事なわけがない。

  反撃が何も来なかったので探してみると、気絶しながら倒れている九尾の子がいた。

  ……あっ、腹部をやったから服が破れて胸がちょっと見える。むむ、なんとけしからん大きさだ。思わず揉みたい……じゃなくて!

  どうやら幼児退行してるせいで欲望に忠実になってるみたい。狂夢がなってたらもっと酷かったかも。ロリッ子をよだれを垂らしながら追いかけるあいつの絵面が簡単に想像できる。

 

  ともともかくかく。

  これで紫の屋敷へ進めるぜ!

  さすがに放置はかわいそうなので九尾の子は木の陰に寝かせておいたけど、それ以上は知らん。ぶっちゃけ言うと下手に油断したら殺されかねないのでこれ以上近づきたくない。

  まあ、それもこれも紫がなんとかしてくれるでしょう。

  他人への押し付け? いえいえ、適材適所ってやつですよ。

 

 

 

  ♦︎

 

 

  八雲紫はまどろみの中にいた。

  眠い。ひたすら眠い。

  起きようと思えば起きれる。しかし、それを体が拒否しているのだ。とはいえ、最悪の場合は彼女の従者である藍が起こしてくれるはず。だからこそ、紫は毎回グッスリと安心して冬眠できるのだ。

 

(ちょっと暖かくなったかしら? ……もう春かしら?)

 

  かすかに残る思考でそんなことを考える。泡のようにそんな疑問も浮かんでは消えていった。

  しかし、消えない疑問もあるようだ。

 

(柔らかい……ふさふさ。藍ったらいつの間にこんな毛並みが良くなったのかしら? いつもの数段上のレベルよ)

 

  紫は自分の肌に触れるもふもふにそんな感想を抱いた。あまりにも気持ちよかったので抱きしめてしまったほどだ。

  やはり、このもふもふの正体は妖狐の尻尾で違いない。だって尻尾が一本、二本、三本、四本、五本、六本、七本、八本、九本、十本、十一本もあるのだもの。

  しかしここで紫は一つの疑問を抱いた。

 

(あれ? 藍って十一本も尻尾あったかしら?)

 

  もちろんすぐにそんなはずはないと気づき、急いで飛び起き周囲を確認した。

  そこにいたのは桃色の髪を持った非常に美しい少女。

  紫は力が入らない体を無理やり動かし、その手の平を少女へ突きつけた。

 

「何者かしら? 返答次第では殺すわ」

「わーちょっと待ってタンマ! 紫なんかと今やったら一瞬で死んじゃうって!」

 

  少女はそう叫びながら両手を上にあげ無抵抗のポーズを取る。しかし紫は突きつけた手を降ろすことはなかった。

  代わりに彼女の手の平から紫色の妖力が集中していく。

 

「初対面のくせに気安く呼ばないでもらえるかしら」

「しょっ、初対面……いやまだだ! 紫、私のことをよく見るんだ! 誰だかわかるはずだよ!」

 

  言われて紫は少女をマジマジと観察してみる。

  まず髪は腰どころか尻にまで届くほど長い。大きなアホ毛も非常に目立っている。

  次に特徴的なのは彼女が着ている黒い巫女服。脇の部分が分離しており、博麗の巫女装束にかなり似ている。

  そして一番特徴的なのはその尻尾だ。耳と合わせて黄金の色をしている。藍も同じような色だが、彼女の方がツヤというか輝きは上だった。だが重要なのはそこじゃない。尻尾の本数だ。

  全部で十一本。おまけに尻尾は二メートルほどあり、140の少女にはあまりにも釣り合っていなかった。

 

  そこまで考えたところで、紫は一人の妖怪を思い浮かべた。かつて自分を犠牲にして死んでいった最強の妖怪を。

  まさか。いや、ありえない。だがもしかしたら……。

  そんな思いがグルグル回る中、絞り出すように紫は一つの質問を少女に問いかけた。

 

「一つ、聞きたいわ。私と貴方はどうやって出会ったのかしら?」

「どうやってって……。紫から来たじゃない。私を式にする気満々だったから軽くボコったのはいい思い出ね」

 

  合っている。このことは紫が有名になる前の話だから誰も知らないはず。それを知っているということはまさかーー

 

「楼、夢っ、なの……?」

「正解! やっぱ紫はわかってくれたか。って、うおっ!」

「楼夢ッ!! 楼夢ぅッ!!」

 

  気がつけば紫は楼夢に抱きついていた。小さい体なので必然的に人形を抱きしめるような図になるのだが、そんなのはどうでもよかった。

 

(暖かい……彼の、楼夢の温度だ……)

 

  泣き顔を晒すのが恥ずかしいのか、紫は楼夢の服へと顔をうずめる。そこには妖怪の賢者としての姿はなく、ただ想い人が帰ってきたことに涙して喜ぶ少女の姿があった。

 

  楼夢もなんとなくそれを感じ取り、優しく紫の頭を撫でる。

  そしてしばらくの間、屋敷では少女のすすり泣く声だけが木霊した。

 

 

 


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